茶の湯の心を知ると茶碗・茶道具の鑑賞がもっと趣あるものに
茶碗を鑑賞するなら茶の湯の心を知ろう
茶碗を鑑賞するなら、茶の湯の心を知る必要があるとよくいわれます。
茶の湯の心を知らずに茶碗鑑賞をしても、もちろん楽しめますが、茶の湯の心を知っておくことで、茶碗の形状や模様、背景などに深く関心を寄せることができ、より鑑賞を楽しめると考えられるでしょう。
しかし、茶碗鑑賞をハードルの高いものごととは捉えず、自分なりに楽しむことが大切です。
昔は、茶碗を所有している人や、お茶会に招待された人しか茶碗を鑑賞する機会がありませんでしたが、現在はお茶会の場ではなくとも、美術館や展覧会で貴重な茶碗を鑑賞する機会も多くあります。
イベントに参加すれば、貴重なお茶碗でお抹茶をいただける機会も持てるでしょう。
茶碗に関する基礎知識は、必ず身に付けなければいけないわけではありませんが、少しでも知っておくと、今までとは異なる視点で茶碗鑑賞を楽しめるようになり、さらに興味や関心が深まっていきます。
鑑賞前に茶碗の名称をチェック
茶碗の鑑賞をより楽しむために、各部位の名称を知っておくことも大切です。
見込み
茶碗内側の覗き込んで見える中央部分を指します。お茶を飲んだ後に残るお茶が茶溜に残ることも景色の一つとなります。目跡と呼ばれる重ね焼きしたときの付着を防ぐ砂粒の跡や、茶巾刷りと呼ばれる茶巾で口縁を拭くときに茶巾が当たる部分、茶筅刷りと呼ばれる茶筅で抹茶を点てるときにあたる部分などの曲線や深さなども鑑賞ポイントの一つです。
口造り
茶碗の口辺部分を指します。飲み口を付ける部分で、縁の厚みや開き具合で茶碗全体の雰囲気や、お茶の味が変わるといわれています。水平なものから高低差が付いているものまで種類はさまざまです。
胴
茶碗の外側の口造りから腰までの範囲を胴といいます。
筒茶碗、平茶碗など茶碗の形を決める部分であり、ろくろ目やへら削り、釉薬の表情や絵付けなどが鑑賞のポイントです。
腰
胴の下から高台脇までの張り出している部分を指します。
茶碗の持ちやすさや、手にしっくりと馴染むかどうかのポイントになります。
高台
茶碗を支えている底の台座部分を指します。
器好きは、裏を見るといわれるほど、高台は茶碗の見どころの一つです。
高台の削り具合によって大胆な・勢いのある・繊細な、などの表情が見られます。
高台には、さまざまな種類があり、スタンダードな高台は、輪高台と呼ばれます。
輪高台の一か所を削った切り高台、縦横十字に削り取る割り高台、高台の外側を竹の節のような突起が出るよう削る竹の節高台など、異なる特徴を持つ高台を楽しめるのも、茶碗鑑賞の魅力の一つです。
茶碗の鑑賞方法
お茶会では、お抹茶をいただいた後に、茶碗を拝見します。
茶碗の種類は、季節や行事ごとに変化し、亭主が何かしらの意図をもって用意しているため、その心をくみ取ることも大切です。
はじめに全体を拝見する
茶碗を拝見する際は、まず全体を眺めてみましょう。
茶碗にはさまざまな種類があり、無地のものや柄が描かれているものもあります。
一般的に、柄がなく無地のもののほうが、格が高いといわれています。
一つの茶碗でも、視点を変えて全体から見てみると、場所によって模様の出方や色合いが異なっていることに気づけるでしょう。
また、茶碗の外側や内側をさまざまな視点から鑑賞し、全体の景色を楽しむことが大切です。
両手で持って拝見する
全体を拝見したら、両手で持って拝見しましょう。
茶碗を誤って落として割らないよう、低い位置で持つのがポイントです。
床から数センチ持ち上げた位置で、茶碗を回しながらじっくり鑑賞し、手の感覚で茶碗の肌触りも感じてみましょう。
茶碗によってザラザラしていたり、ツルツルしていたり、感触はさまざまです。
模様や色合いだけではなく、肌触りや持ちやすさなども茶碗の見どころの一つです。
茶碗の裏側を拝見する
茶碗の裏側には、作り手の烙印が押されていることもあるため、全体を鑑賞したら裏側も拝見してみましょう。
また、高台の形も茶碗によって異なるため、鑑賞の見どころの一つでもあります。
高台は、茶碗の良し悪しを決める重要なポイントともいわれており、切り口の表情から、作り手が茶碗を形作り最後に土台から切り離す作業の質を感じられるのです。
迷いのない鋭い切り口、丁寧に削られている切り口など、茶碗の形状に合わせて作られているかで、職人の技術やセンスが問われるポイントです。
自分の前に茶碗を置きなおす
手に持って拝見した後は、自分に向けられていた正面を亭主に向けて置きます。
回しながら鑑賞しているときに、正面がどこか分からなくならないよう注意しましょう。
茶碗を置いたら両手をつきながら全体を眺めると同時に、割ってしまったり欠けてしまったりなどがないかを確認します。
茶道で使う茶碗の種類
日本には、伝統的な焼き物の産地が多くあり、国の伝統的工芸品に指定されているものだけでも32種類あります。
また、茶碗には一楽二萩三唐津と呼ばれる格付けがあり、茶道で使われる茶碗の種類や特徴を知っておくとより鑑賞を楽しめるでしょう。
楽焼・萩焼・唐津焼・志野焼・織部焼・京焼などが代表的な産地の焼き物です。
楽焼
楽焼は、わび茶を大成させたことで知られている千利休が京都の楽家に作らせたのが始まりとされる茶碗です。
てごねで作られているため、わずかなゆがみが生まれ、それによりあたたかみや深い味わいが感じられます。
楽焼は、茶道のために作られた茶碗で、茶筌摺りと呼ばれる底が広く茶筌が回しやすい形になっており、お茶を点てやすいのが特徴です。
また、飲み口がやや内向きになっており、飲むときにお茶が茶碗の外に垂れず、美しく飲めるようにもなっています。
萩焼
萩焼は、山口県萩市を中心に作られている茶碗で、窯のある土地を統治していた毛利一族が茶道と深い関わりがあったことから、茶道で利用する茶碗作りが発展したといわれています。
地元でとれる3種類の陶土を混ぜて作られており、あたたかみのある色合いや、窯で焼く過程で生じる貫入と呼ばれる細かいヒビ模様が特徴です。
このヒビからお茶が染み込み、使い込むほどに色合いが変化していくともいわれており、「萩の七化け」とも呼ばれています。
唐津焼
唐津焼は、佐賀県唐津市を中心に作られている茶碗で、土の味わいを感じられる素朴で渋さのある見た目が特徴で、茶人に愛されてきた焼き物です。
装飾方法のバリエーションが豊かな点も魅力の一つで、草花や鳥を描いた「絵唐津」や、釉薬の表面に黒や青のまだら模様を描く「斑唐津」、2種類の釉薬で黒白のグラデーションを描く「朝鮮唐津」などがあります。
志野焼
志野焼は、桃山時代に作られ始めた岐阜県の美濃焼の一作風で、長石釉を利用した陶器の総称です。
耐火温度が高く焼き締まりが少ない五斗蒔粘土や、鉄分が少なく紫やピンク色がかったもぐさ土などが使われています。
織部焼
美濃窯で焼かれた陶器の一種を織部焼といいます。
自由で斬新なスタイルが特徴の茶碗で、乱世を生きる武将たちが心惹かれ愛されてきた焼き物です。
色合いや模様のバリエーションが豊富で、青織部や黒織部、鳴海織部、赤織部などがあります。
京焼
京焼とは、京都で作られた陶磁器の総称で、もともとは野々村人清が完成したといわれています。
白釉地に鮮やかな色絵や金彩を描くのが特徴です。
茶碗の形状別の種類
茶道で使われる茶碗には、さまざまな形状のものがあります。
形の違いは目で見て楽しむだけではなく、お茶を点てる際の使いやすさや保温性にも影響を与えます。
井戸茶碗
井戸茶碗は、飲み口に向かって広がっていくすり鉢型の茶碗です。
丸みがゆるやかで、お茶を点てやすい形状をしており、一井戸二楽三唐津といわれるほど、茶道でも重宝されています。
もともとは朝鮮で作られていた茶碗ですが、のちに日本へ伝わり多くの作品が日本でも作られるようになりました。
平茶碗
平茶碗は、平たく底が浅い形状の茶碗で、口が広いためお茶が冷めやすく、夏の茶席に向いている茶碗です。
また、抹茶の表面に広がる泡の面積も大きくなるため、涼しげな表情が夏に適しているといわれています。
平茶碗は見込みが広く、茶筅を振りやすい特徴がありますが、底が浅いためお茶がこぼれないよう注意が必要です。
平茶碗の中にも、馬盥型と呼ばれる種類があり、こちらは飲み口の縁が立ち上がっており、平茶碗の中では深さがあるタイプのため、初心者でも扱いやすいといわれています。
筒茶碗
筒茶碗は、円筒状で深さのある茶碗で、底から中間までの空間の深さによって、半筒茶碗・深筒茶碗の2種類に分けられます。
深筒茶碗は、高さと厚みのある茶碗のため、お茶が冷めにくく、12月から2月の冬の茶席でよく利用される茶碗です。
一方、半筒茶碗は年間を通して利用しやすい茶碗です。
筒茶碗は、形状が細長く見込みが狭いため、茶筅をしっかり振るのに技術が必要といわれています。
飲み口よりも底側のほうが広い形状の茶碗を選ぶと、初心者でも混ぜやすいでしょう。