日本でもほとんどの人がバンクシーの名を聞いたことがあったり、代表的な作品を目にしたことがあったりするのではないでしょうか。
バンクシーはそれほどまでに、現在名を広めているグラフィティアーティストの一人です。
資本主義社会や戦争など、現在の社会に対する強いメッセージを込めた作品を多く制作しており、『風船と少女』もその一つです。
目次
社会を風刺する神出鬼没のグラフィティアーティスト・バンクシーが制作した『風船と少女』
バンクシーとは、イギリスを拠点に活動するグラフィティアーティストで、彼についての情報はほとんど明らかになっていません。
正体不明・神出鬼没と謎めいた人物で、街中にメッセージ性の強いグラフィティアートを描き、話題を集めていきました。
今回取り上げる『風船と少女』は、バンクシーの代表作の一つで、サザビーズのシュレッダー事件でも知名度を大きく上げた作品。少女が赤い風船に向かって手を伸ばしている様子が描かれたこの作品は、イギリス国内で最も人気のある作品に選ばれています。
実は、作品は一つではない。『風船と少女』シリーズ
作品名:『風船と少女』
作者:バンクシー
制作年:作品によって異なる
技法・材質:作品によって異なる
寸法:作品によって異なる
所蔵: 作品によって異なる
最初の『風船と少女』は、2022年にロンドンのサウス・バンクにあるウォータールー橋へのぼる階段に描かれました。
ほかにも『風船と少女』は、ロンドンの各地の壁に描かれましたが、現在それらはすべて塗りつぶされており、残されていません。
壁面に描かれた当時、バンクシーは今ほどの知名度や人気を誇っていなかったため、単なる落書きとして市の職員によって塗りつぶされてしまったのです。
この作品は、突風が吹き、少女の手から赤い風船が離れていくようにも、少女が赤い風船をつかもうとするようにも見え、捉え方によって意味合いが変わってくる点が魅力の一つといえます。
『風船と少女』には平和や希望を願う気持ちが込められている
少女が風船に手を伸ばしている様子を描いたこの作品は、ポップで明るく親しみやすさがあります。この作品を通じてバンクシーは、パレスチナやシリアなどで巻き起こる戦争に対する反対表明や、難民に寄り添う姿勢を発信してきました。
また、バンクシーは『風船と少女』をベースにさまざまなパターンの作品を制作しています。
パレスチナとイスラエルを隔てている分離壁に描かれた『Balloon Debate』は、2005年に制作されたもので、少女が複数の風船をつかみ壁の上に昇っていく様子が表現されています。
バンクシーは作品とともに、分離壁は、国際法上では違法であり、パレスチナを世界一大きな刑務所に変えてしまったとメッセージを送り、分離壁の設置に批判の姿勢をみせました。
また、『風船と少女』の少女の風貌をシリア難民の少女に描き変えた作品も制作しています。
この作品は、SNSで「#withsyria」のハッシュタグとともに、シリア内戦の犠牲者への支援を募るキャンペーンにて拡散されました。
サザビーズのシュレッダー事件によってさらに話題を集めた『風船と少女』
平和を願うメッセージが込められた『風船と少女』の認知度をさらに高めたのが、2018年に世界を驚愕させたシュレッダー事件。
2018年10月5日のロンドン・サザビーズオークションに出品された『風船と少女』は、104万2000ポンドで落札されました。そして、落札終了を告げる木づちの音が鳴り響いた数秒後、『風船と少女』は額縁に下部に仕込まれていたシュレッダーによって裁断されてしまったのです。
裁断は途中でストップし、少女の頭部と赤い風船だけが切り刻まれずに残った状態となりました。
バンクシーが仕掛けたこの事件は、アートは一部の富裕層が所有したり、金融商品のように売買したりするものではないという、現在のアートシーンの在り方を痛烈に批判する意味合いがあったといえるでしょう。
バンクシーの作品には、現代社会に向けられたメッセージが込められている
今回ご紹介した『風船と少女』をはじめとしたバンクシー作品の多くには、政治的なメッセージ性が込められています。
『風船と少女』は、比較的明るくストレートな愛や平和を象徴する作品として知られていますが、なかには現在の資本主義や戦争を痛烈に批判する作品も多く制作しています。
芸術やアートに詳しくない人でも、バンクシーの名を知っている人は多いのではないでしょうか。
彼は、さまざまなパフォーマンスを通して認知度を上げ、数々の作品によって社会や政治に問題提起することで、多くの人の心を動かそうとしているともいえます。
ポップでユーモアがありながら、今の社会に対して物申すバンクシーの作品を通して、アートや社会について考えるのもよいでしょう。