目次
日本画と西洋画とは
伝統的なやまと絵や浮世絵などの日本画と、西洋技術を用いて描かれた西洋画。
なんとなく違いがあるものだと知っていても、具体的にどのような特徴があるのか知らない人も多いでしょう。
それぞれの絵の特徴や違いを知っておくと、絵画鑑賞の楽しみ方が増します。
日本画と西洋画を比較して、違いを発見しながら鑑賞を楽しむのもよいでしょう。
日本の伝統絵画である「日本画」とは
日本画とは、日本の伝統的な絵画の総称で、名前自体は、明治以降に西洋から伝わってきた油彩画と区別するために生まれました。
やまと絵や浮世絵などの日本伝統の技法を使って描かれた絵が該当します。
日本画は、西洋画とは異なり油彩絵具をほとんど使わず、墨や胡粉、岩絵具など日本特有の画材を使用しているのが特徴です。
また、陰影を使用した立体的な描き方や写実性の高い描写は、あまり使われていないのも違いの一つです。
日本画というと、日本人が描いた作品を指しているイメージを持つ人もいるでしょう。
しかし、日本人以外が描いた作品も、日本の伝統的な技法を用いて描いていれば日本画といいます。
基本的に、日本画とは描いた人物で判断するのではなく、用いられた画材や技法によって判断されます。
日本画と真逆な「西洋画」とは
西洋画とは、その名の通り西洋技術を用いて描かれた絵の総称です。
日本画とは正反対な特徴を持つ絵画で、写実表現が重要視されるため、光のコントラストやはっきりした明暗、遠近法、立体表現などを積極的に取り入れています。
画家が見た景色や思い描いた風景を、そのまま写真のようにキャンバスに写実的に描くのが特徴です。
また、西洋画では油彩や水彩が用いられており、使用している画材にも違いがあります。
モチーフも、風景や宗教に関係する内容が多いのが特徴です。
日本画同様に、作者が誰であっても、西洋画の画材や技法を用いて描かれた作品は、西洋画といいます。
日本画の歴史
日本画と一口にいっても、やまと絵や浮世絵などように、特徴の異なる絵画が存在します。
また、時代によっても特徴や技法が異なり、違った表情を見せてくれます。
日本画の歴史と、各時代で描かれていた日本画の特徴を知ることで、より日本画鑑賞が楽しくなるでしょう。
日本画の始まり
日本画の始まりは、飛鳥時代や奈良時代ごろといわれており、仏教が日本に伝わってきたのと同時に仏教画がもたらされました。
平安時代に入るまでは、仏教画をはじめとする中国の絵画を見本に制作されていたそうです。
平安時代に入ると、空海や最澄によって密教が日本に伝わり、その影響により曼荼羅がよく描かれるようになりました。
このころもまだ、中国や朝鮮半島の影響を大きく受けていたと考えられます。
次第に、影響を受けるだけではなく文化を取り込んでいき、日本独自の絵画が確立されていきました。
『源氏物語』や『鳥獣戯画』など、物語を楽しむための絵巻物も数多く制作されるようになり、中国をテーマにしたものを唐絵、日本をテーマにしたものをやまと絵と、区別するようになりました。
平安時代後半から鎌倉時代にかけては、絵巻物や仏画だけではなく、写実的な似顔絵の似絵が盛んに描かれるようになっていきます。
その後、貴族から武士へ主役が移り変わっていくのにあわせて、芸術分野でも合戦の絵巻物が多く描かれるようになっていきました。
水墨画の流行
室町時代に入ると、茶道や書道などの文化に興味関心が高かった8代将軍足利義政の影響により、文化が花開いていきました。
絵画の分野では、水墨画が人気となり、狩野派の始祖となる狩野正信や土佐派の始祖となる土佐光信などが活躍し、多くの流派が誕生していきました。
桃山時代になると、日本美術は大きく発展を遂げていき、豪華絢爛な障壁画の制作や立派な城郭の建築が盛んに行われるようになっていきます。
日本最大流派と呼ばれていた狩野派が、目覚ましい活躍をみせた時代でもあり、茶の文化では、千利休によって茶の湯が芸術として確立されていきました。
庶民の娯楽となる
江戸時代に入ると、貴族や武士など身分の高い人々の娯楽であった芸術が、庶民の間にも広がり始めます。
庶民の間に絵画が広がるきっかけを作ったのが、浮世絵の登場です。
初期の肉筆画による浮世絵は、貴族や武士の間で親しまれていましたが、菱川師宣の版画技術によって大量生産が可能になると、浮世絵版画は安価で手に入る絵画として人気を集め、庶民の間でも広く親しまれました。
一方で、幕府や大名に仕える御用絵師も活躍を広げており、豪華絢爛な絵画も多く制作されていました。
また、中国の文人から影響を受けた文人画や、円山応挙や伊藤若冲などが極めた写生画など、多彩な特徴を持つ絵画が誕生していったのです。
西洋画の歴史
西洋の技術を用いて制作される西洋画は、日本画とは異なる歴史やルーツがあります。
西洋画の歴史を振り返るとともに、時代によってどのような絵画が描かれてきたのかを知ると、より絵画鑑賞を楽しめるでしょう。
西洋画の始まりは「キリスト教美術」
西洋画の始まりは、紀元前2世紀末から6世紀ごろに発展した、初期キリスト教美術であるといわれています。
初期キリスト教美術は、動きの少ない身体表現が特徴で、文字の読めない信徒のために、モザイク壁画で聖書の物語が描かれたのが始まりのきっかけです。
シンプルな描写で人物像に動きはなく、分かりやすさに焦点を当てて描かれています。
モチーフは、象徴的な十字架やイエス・キリストなどで、祈る人や羊飼いなどの人物もあわせて描かれました。
キリスト教美術を鑑賞する際は、前提としてキリスト教の知識が必要となるでしょう。
革新的な美術様式「初期ルネサンス」
初期ルネサンスは、14世紀から16世紀ごろのヨーロッパ全域で流行した、革新的な美術様式です。
遠近法が活用されるようになり、人物や空間により立体感が生まれ、写実的な表現が行われるようになりました。
人物の表情も自然に描かれ、現実的な絵画となっていきます。
初期ルネサンスの絵画では、キリスト教以外のテーマを扱っていたのも特徴の一つです。
富裕層からの依頼を受けて、やわらかい色彩と優雅な感受性を用いた絵画が描かれるようになっていきました。
ルネサンス期の絵画技法として有名なのが、一点透視図法です。
この技法により、遠近法が初めて確立され、立体的な構図を2次元に落とし込むことに成功したといわれています。
日本でも人気の高い「印象派」
印象派とは、19世紀の半ばごろから後半にかけて、フランスで生まれた美術様式を指します。
印象派作品の特徴は、筆触分割と呼ばれる技法で、色をパレットの上で作るのではなく、原色を計算してそのままキャンバス上に配置し、遠くから鑑賞するとさまざまな色があわさって見えるという技術です。
作品を見る角度によって色が変化し、一つの作品でもさまざまな楽しみ方ができるでしょう。
後期印象派は、19世紀後半ごろからフランスで登場した絵画様式です。
印象派から影響を受けた様式で、有名な画家には、セザンヌやゴッホ、ゴーギャンなどがいます。
これまでとは大きく異なる絵画様式を模索し続け、現実に存在しないものと融合させたり、内面の感情を表現したりなど追求していきました。
現代の西洋画
1905年のサロン・ドートンヌに出品された作品たちがきっかけで始まった絵画様式をフォービズムといいます。
伝統に縛られず自由な色彩表現をよしとする絵画様式で、20世紀最初の絵画革命ともいわれていました。
フォービズムの特徴は、色彩で感情を表現することです。
20世紀初頭には、キュビズムと呼ばれる画法も誕生しています。
一つの対象をさまざまな角度から観察して解釈し、一枚のキャンバスに再構築する考え方です。
3次元のものを2次元に落とし込む特徴があり、絵が立体の集合体に見えることから、立体(キューブ)から名前を取り、キュビズムとなりました。