堂々とした佇まいで、貫禄のある姿が印象的な『エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて』。
舞台の宣伝ポスターを多く手がけていたアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックが制作したこの作品には、日本美術に影響を受けているであろう点がいくつも見受けられます。
また、ロートレックの作風や特徴からも、日本美術とくに浮世絵に強い関心を寄せていたことがわかります。
ロートレックの代表作『エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて』を通して、彼が日本美術からどのような影響を受けていたのかをみていきましょう。
目次
パリ・モンマルトルをポスターで彩ったアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックは、19世紀後半のパリで人気を博したポスター画家です。
パリの夜を彩るモンマルトルの街で働く人々や生きる人々をモチーフにした作品を多く制作しており、中でも人気キャバレ「ムーラン・ルージュ」のポスターを制作したことで、多くの人々にロートレックの名が知れ渡りました。
ロートレックの代表作である『エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて』は、19世紀末に活躍したシャンソン歌手アリスティド・ブリュアンが舞台『エルドラド』に出演する際にロートレックへ制作を依頼したポスターです。
日本美術の影響が垣間見える『エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて』とは
作品名:エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて
作者:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック
制作年:1892年
技法・材質:リトグラフ
寸法:138.0×96.0cm
所蔵:フィロス・コレクション
『エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて』は、シャンソン歌手アリスティド・ブリュアンの舞台『エルドラド』に関連したポスター作品です。
オレンジや赤、黄色、青などの原色が鮮やかに発色しているのが印象的。当時の人気シャンソン歌手であったブリュアンの堂々とした姿とたたずまいが目を引きます。
平面的な描写ではありますが、圧倒的な存在感のある構図で、日本美術の浮世絵を思わせる面もあります。
日本の浮世絵作品から影響を受けているポスター
『エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて』は、日本の浮世絵からもインスピレーションを受けているといわれています。
この作品のブリュアンの表情をよくみてみましょう。曲がった口元や通常よりも誇張された表情などが、日本の浮世絵師「写楽」が描く歌舞伎役者のようにも見えます。
また、ロートレック作品ならではの特徴は、モデルとなる人物を美化させすぎない点です。
特徴を強調するとともに、ときにはユーモアも交えた独特の表現方法は、ほかにはない個性を感じられ、多くの人々を魅了していたともいえるでしょう。この美化せず特徴を誇張する表現方法は、浮世絵師「写楽」にもみられる特徴です。
ロートレックは、舞台で活躍する人々のポスターを制作しており、浮世絵も舞台で活躍する歌舞伎役者を描いた作品であることから、日本の浮世絵に憧れ、パリでは当時商業絵画として人気の低かったポスター作品を制作するようになったのでは、とも想像できますね。
また、ロートレックはパリ・モンマルトルで働く娼婦も描いており、浮世では写楽や歌川豊国などが吉原の絵を描いています。
ロートレックと日本の浮世絵には、多くの共通点があるように思えてきます。
ポスターに描かれている「アリスティド・ブリュアン」とは
アリスティド・ブリュアンは、フランスで人気を集めていたシャンソン歌手で、ロートレックはこの作品以外にも、彼のポスターを制作しています。
もともと歌手を志していたわけではなく、鉄道員から歌手に転身した変わった人物です。歌は自分で作っており、もともと顔見知りで合ったロートレックは、ブリュアンの楽譜シートのためにデザインをしたこともあったそうです。
ロートレックがポスター画家として活躍を見せ始めたころ、ブリュアンも自分のポスターを制作してほしいと考え、制作を依頼。
それがヒットし、その後いくつもブリュアンをモデルにしたポスターを制作することになったのでした。
日本の浮世絵をパリに溶け込ませたロートレック作品
今回ご紹介した『エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて』をはじめとした数々のポスター作品は、当時のパリ・モンマルトルの賑わいを肌で感じさせてくれるものばかりです。
ロートレックが描いた当時多くの人々でにぎわっていたパリ・モンマルトルの魅力を引き立たせているポスターたちをみると、パリ・モンマルトルを訪れたくなりますね。
ロートレックが描くパリ・モンマルトルの賑わいと輝きを、ぜひ一度間近で楽しんでみてください。