ヤノベケンジが制作してきた作品には、多くの動物が登場します。
初期作品の『イエロー・スーツ』は、当時飼っていた犬の放射能防護服として制作しており、その後もネズミやゾウ、マンモス、龍などさまざまな動物が登場しています。
中でもインスタレーションによく用いられる動物が猫です。
目次
日本の漫画・アニメ・特撮映画などを現代美術に取り入れた芸術家「ヤノベケンジ」
ヤノベケンジは、大阪府出身の現代美術作家で、京都造形芸術大学の教授も務めています。
1990年代初頭から「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマにさまざまな機械彫刻作品を制作してきました。
ユーモラスのある造形作品には、社会的なメッセージが込められていたり、実際に乗って動かしたりできる機械彫刻や巨大彫刻などがあります。
ヤノベケンジの代表作である『SHIP’S CAT』は、シリーズものとして各地に設置されています。
宇宙服を着た不思議で巨大な白猫のオブジェ『SHIP’S CAT』とは
作品名:SHIP’S CAT
作者:ヤノベケンジ
『SHIP’S CAT』は、古代エジプトから船に乗り、大航海時代にネズミから貨物や船を守ったり、疫病を防いだりしながら世界中を旅してきた猫です。
ときには船員の心を癒す友にもなり、猫のもつ愛らしさによってマスコットのように扱われたり守り神として扱われたりしてきました。
『SHIP’S CAT』の第1号は博多に
『SHIP’S CAT』の第1号となる作品は、福岡県の博多にあるホステル「WeBase」のために制作されました。
博多は、日本で初めての人工港である「袖の湊」があった場所で、船旅の拠点であったことにも着想を得ているといわれています。
巨大な白い猫からは、建物の中から今にも飛び出していきそうな力強さを感じます。
ヘルメットはランプの役割ももっており、宇宙服のような衣装は、宇宙を旅する未来の希望を予兆しているそうです。
この白い猫が安全や出会いを手助けする守り神になって、迷いの中にいる人々や若者の旅を導いてほしいという願いが込められています。
『SHIP’S CAT』シリーズとして全国各地に展開していく
『SHIP’S CAT』シリーズは、博多の作品を皮切りに全国各地に展開されていきました。
2017年に福島で開催された「重陽の芸術祭」では、二本松城本丸跡に黒猫タイプの『SHIP’S CAT(Black)』が展示されました。
黒猫は、日本古来より幸福の証として崇められており、厄災を払い幸福を呼び込むことを願って制作されたそうです。
そのほかにも、WeBase 鎌倉に『SHIP’S CAT (Harbor)』、中国の長風大悦城に『SHIP’S CAT (Sailor) 』、京都に『SHIP’S CAT (Totem) 』、高松に『SHIP’S CAT (Returns)』、広島に『SHIP’S CAT (Fortune) 』、大阪中之島美術館に『SHIP’S CAT (Muse)』と、さまざまな場所に『SHIP’S CAT』シリーズが登場していきました。
そして2024年、岡本太郎記念館の庭の一角に新たに『SHIP’S CAT』が設置されました。
鮮やかなオレンジ色の宇宙服にシルバーの装飾と羽が、より宇宙服を感じさせてくれます。
首元には、小さなゴールドの鈴がついており、猫らしい可愛らしさがあります。
眼の中は、明るい緑色に妖しく光っており、夜茂みの中にこの眼をみたら驚いてしまいそうです。
旅の守り神『SHIP’S CAT』が地球の生命を生み出した
今回ご紹介した『SHIP’S CAT』シリーズは、旅の守り神という意味を込めて制作されています。
中でも、岡本太郎記念館に展示されている『SHIP’S CAT/宇宙猫』は、無機質で何もなかった地球に生命の種をまき、生命を誕生させたというヤノベケンジの壮大な妄想ストーリーに登場する猫として生み出されました。
岡本太郎が制作した『太陽の塔』からインスピレーションを受け、『SHIP’S CAT』が乗ってきた宇宙船『LUCA号』の残骸が『太陽の塔』であるというストーリーを組み立てています。
ヤノベケンジが制作する作品は、ワクワクするようなものが多くあり、子どもから大人まで見て楽しめるでしょう。
また、作品には未来に対する希望の意味が込められているなど、社会的なメッセージも託されており、楽しみながらも考えさせられる作品となっています。
ヤノベケンジが繰り広げる妄想ストーリーと巨大な作品たちを、ぜひ一度間近で鑑賞してみてください。