イラン国内で作られた手織りの絨毯をペルシャ絨毯と呼びますが、その産地は数多く、それぞれの地域で異なる特徴を持ったペルシャ絨毯が作られています。なかでも、日本の住宅にもなじみやすいのがギャッベです。ペルシャ絨毯を自宅で利用してみたいと考えている方は、ギャッベの特徴や魅力、ほかのペルシャ絨毯との違いを知り、好みの絨毯を選ぶための参考にしてください。
ギャッベはペルシャ絨毯?
ギャッベと呼ばれる絨毯は、ペルシャ絨毯の一種です。もともとは、イラン南西部のザグロス山脈に住む遊牧民であるカシュガイ族がルーツといわれています。カシュガイ族が暑さや寒さをしのいで快適に生活するために、テントの下に敷く絨毯として作られました。砂利や土の上に敷くため、地面の凹凸や石でお尻が痛くならないよう、厚みのある作りをしています。遊牧民女性が植物や風景などの自然を題材にして、感性で文様を描いていきます。すべて手織りで作られるため、どれもが世界に一つだけのギャッベです。
ペルシャ絨毯の一種であるギャッベには、ザグロス山脈に生息する羊の毛が利用されます。標高2,500mの高地で、朝晩の寒暖差が30度以上もある過酷な地域で育った羊の毛には、油分がたっぷりと含まれています。繊維が温かい空気を閉じ込め、湿気は外に放出する機能に優れているため、冬は温かく、夏は涼しくと、1年中ギャッベを敷きっぱなししても快適に過ごせるでしょう。また、通気性がよいため床暖房やホットカーペットなどの暖房器具とも相性がよく、自宅の快適性をあげてくれる絨毯です。
ギャッベを織るのに使われる糸は、すべて人の手により紡がれています。原始的な回転工具を回し、手元から少しずつ毛を押し出しながら紡いで糸にしていきます。手作業で糸を紡ぐのには繊細な手先の感覚が必要です。そのため、熟練の職人でも1日に約500gの糸を紡ぐのがようやくというくらい根気のいる作業です。
また、ギャッベは下絵を使用せず、感性で糸を織りこんでいくことで独創的な文様が生まれます。ギャッベの伝統的な手法は、数千年前から変わることなく受け継がれており、2012年にはユネスコの無形世界遺産にも登録されました。
ギャッベはほかのペルシャ絨毯と何が違う?
ペルシャ絨毯とは、イラン国内で作られた手織りの絨毯全体を指しています。そのため、イランの山岳地域で作られてきたギャッベも、ペルシャ絨毯の一種です。ペルシャ絨毯とひと口にいっても、産地や工房によって特徴の違いがあります。ギャッベとほかのペルシャ絨毯の違いを知ることで、よりギャッベへの興味を深めていきましょう。
まずは作り方の違いです。ペルシャ絨毯全般はペルシャ結び(一重結び)と呼ばれる方法で織られていきますが、ギャッベはペルシャ結びとトルコ結び(二重結び)の2種類の方法で織られています。ギャッベを作るカシュガイ族は、トルコ系民族のためトルコ結びを採用しているケースがあります。
またペルシャ絨毯の文様は、作られる産地や工房で大きな違いがみられるのも特徴の一つです。それぞれの地域の伝統の柄を引き継いで、アレンジしながら製作が進められていくため、さまざまな文様が楽しめます。ギャッベは素朴で親しみやすいデザインが特徴です。遊牧民生活をおくる女性が中心となって織りあげられているギャッベは、下絵を使用せず織られていくため、カジュアルで味わい深い特徴を持ちます。
ペルシャ絨毯といえば、高級で芸術的価値が高く、鑑賞用として用いられるなど、格式の高い織物製品のイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。しかし、ギャッベは実用性のある普段使い用の絨毯として作られています。テントの下に敷いて寒暖差から身を守るために作り始められたもののため、厚みがありふかふかな質感の特徴があります。
ペルシャ絨毯は豪華で高級なイメージが強い傾向ですが、ギャッベはカジュアルで素朴な文様も多いため、日本の住宅にも合わせやすいペルシャ絨毯です。
ペルシャ絨毯には、ザグロス山脈地域で作られたギャッベ以外にも、さまざまな地域で作られているものがあります。たとえば、イスファハン、タブリーズ、クム、ナイン、カシャーンなどの地域です。
歴史ある産地として知られているイスファハンのペルシャ絨毯は、縦糸にシルクを利用し、赤系のウールを使用する特徴があります。
紀元前にさかのぼるほど歴史のあるタブリーズは、イラン最大のペルシャ絨毯産地です。シルクも使用されますがウールの割合が最も多く、赤や白、茶色、黒などの色味が多い特徴を持ちます。
日本への輸出量が最も多いクム。古くからウール中心の生産でしたが、60年前にシルクを使用し始めてからは、シルク中心のペルシャ絨毯に変わっていきました。比較的歴史が浅いため、アンティークのペルシャ絨毯はあまり見かけません。
ナインのペルシャ絨毯には、品質を表す3つのランクが割り振られています。品質のよいものから「チャハール(4)ラー」「シシ(6)ラー」「ノー(9)ラー」とつけられており、数字は縦糸の撚りの数です。
カシャーンはサファヴィー朝時代から織物業が盛んだったとされています。20世紀初頭には高級絨毯の産地として広く知られるようになりました。当時はメリノ・ウールを使用した絨毯や、シルクと金銀糸による絨毯など、多彩な製品が多く作られていました。しかし、現在では実用品に近いペルシャ絨毯を中心に作られています。
日本でもギャッベは人気
ギャッベはその素朴で親しみのある文様が日本の住宅にもなじみやすいとして、日本でもよく見かけるようになりました。しかし、日本で販売されているギャッベの中には、本物のギャッベではない絨毯もあります。ギャッベは、イランの南西部のカシュガイ族という遊牧民族が手織りで作ってきたペルシャ絨毯を指していますが、近年イラン以外の国で作られたり、機械織りで作られたりした絨毯もギャッベとして販売されているのです。
よくギャッベとして販売されているのを見かけるのが、インドで作られたギャッベです。インドでは手織りと機械織りのどちらの手法も取り入れられています。インドギャッベはイランの影響を受けて作られていると考えられますが、本物のギャッベと比較すると糸が太く、デザインもシンプルなものが多いのが特徴です。
また、インドギャッベには、はた織り機で作られた製品もあります。手織りインドギャッベと比べると、さらに見た目の違いを感じられるでしょう。手織りの場合は、縦糸に1本1本糸を結んでは切る作業を繰り返していくため、細かな文様の表情を織りこめる特徴があります。また、毛が一定方向を向いていることも関係し、見る角度によって異なる表情を楽しめる魅力もあります。しかし、はた織り機で作られたギャッベは毛が真っすぐに立っており、手織りほど繊細な表現はできない構造です。そのため、手織りのギャッベと比較するとはっきりとした表情が印象的です。
生活に根付いたペルシャ絨毯、ギャッベ
遊牧民の暮らしから生まれたギャッベは質もよく、実用性の高いペルシャ絨毯です。素朴で温かみのあるデザインは、日本の暮らしにもなじむため、人気のペルシャ絨毯の一種であるといえます。ほかの地域で作られる豪華で華やかな印象のペルシャ絨毯とは異なる印象を持つギャッベ。遊牧民が完成で織る文様は、自由度が高く親しみやすい印象を受けます。
ギャッベもペルシャ絨毯同様に耐久性が高い特徴もあるため、自宅で活用しながらも親から子へ、子から孫へと代々受け継いでいける絨毯といえます。人々の生活に根付いたペルシャ絨毯ギャッベを一度手に取ってじっくり眺めてみてください。