掛軸の魅力を引き立てる役割がある表装。
実は何種類もの仕立て方法があり、掛軸の絵の種類や画風、題材などにより表装の雰囲気を替えて仕立てるのが一般的です。
そのため、掛軸作品を鑑賞する際は表装にも目を向けてみると良いでしょう。作品によって表装の違いがあることを確認できれば、これまでとは違った楽しみ方ができます。
目次
掛軸の表装とは
表装は掛軸を飾るために欠かせない仕立て方法です。
掛軸を補強するために布や和紙で裏打ちして、シワが寄らないようにする役割があります。
表装を施すことで掛軸の色艶の維持が可能です。
作家が丁寧に描いた掛軸でも、時間が経てば少しずつ劣化してしまいます。墨の水分により紙が寄れてシワができてしまうのです。
表装によりシワが寄るのを防ぐことで、掛軸の美しさを保ったまま長く鑑賞を楽しめます。
日本の伝統技術である表装は、掛軸の価値を維持するための大切な役割をもった仕立てなのです。
また、表装の目的は補強だけではなく、掛軸作品をより魅力的に見せるためにも施されます。
掛軸に描かれたモチーフやテーマ、画風などにあわせて表装を変えることで、作品の魅力がより引き立ちます。表装にも種類がさまざまあり、シンプルなもので作品を引き立たせることもあれば、豪華な装飾を施すことで芸術性を高めることもあり、楽しみ方は多種多様です。
たとえば、華やかで明るいイメージのある花鳥画は、鮮やかで豪華な表装との相性が良いと考えられます。
その反対に、素朴な仏画や水墨画は、落ち着いた表装を選ぶことでより雰囲気を味わえます。
掛軸作品は書や絵そのものを鑑賞して楽しむだけではなく、表装にも目を向けてみると違った表情が見えてきて、より掛軸の世界に入り込めるでしょう。
掛軸の表装は、何度も修理することも
掛軸は大切にお手入れをしていても、経年劣化により汚れや傷が発生してしまうものです。
古い掛軸を倉庫に保管したままにしているとシミやカビなどが発生してしまうことも。
しかし、表装修復を行えば描かれた当初の本来の作品に近い状態まで戻すことが可能です。
表装修復は、経年劣化で傷んでしまった場合に行うだけではなく、掛軸の雰囲気を一新するために行われる場合もあります。
たとえば、最近ではマンションや新築の住宅などに和室や床の間を設計しないことも多く、洋風のリビングや玄関の壁などにもあうように修復が行われます。
現在は伝統的な掛軸形式に凝り固まらない創作表具も多く取り扱われており、自宅の雰囲気にあわせて表装の変更が可能です。
劣化の修復だけではなく、掛軸の雰囲気を変えるためにも表装の修理は行われるため、同じ掛軸を何度も仕立て直すこともあります。
価値のある掛軸を本来の状態のまま長く楽しむためにも、表装修理は欠かせません。
表装を自分で修理できる?
掛軸が劣化してシミやシワなどが発生してくると、修復を施して元の状態に戻したいと考えることもあるでしょう。
表装を修復する方法としては、自分で行う方法と専門業者に依頼する方法の2つがあります。また具体的な修復方法は次のとおりです。
・シミ抜き
掛軸は湿気に弱くシミができやすい美術品です。また、経年劣化により変色しやすい特徴があります。表装のシミは水による洗浄と薬品によるシミ抜きで落としていきます。湿気や混じりけのない水分で発生したシミは、水洗浄でも落ちる可能性があるでしょう。しかし、経年劣化による変色や茶褐色のシミは薬品を使用しないと落ちない可能性があります。
・表装の破れの修復
掛軸は和紙や絹などで作られているため、取り扱いを誤ると簡単に敗れてしまう恐れがあります。破れの修復は裏側から紙をあてて補修が必要です。破れの範囲が広い場合や損傷が激しい場合は作品を分解して修理することも。古い掛軸は素材自体が弱くなっている可能性もあるため、慎重に修復を行う必要があります。
・表装のひび割れの修復
経年劣化によって発生したひび割れは漉きはめ修復と呼ばれる方法で修理を行います。修復方法の中でもより専門的な技術が必要な修理方法といえるでしょう。
・掛軸の仕立て直し
掛軸は和紙や絹でできている上に何層にも重ねられているため、掛けっぱなしにしたり強くまいたりすると折れやシワが発生してしまいます。そのためシワや折れが気になる場合はゆがみを仕立て直す必要があります。仕立て直しは掛軸を解体して行われることがほとんどです。
自分で表装を修理するときの注意点
掛軸の表装を自分で修復する場合、修復内容と方法を自分で判断する必要があります。
自分で寸法や材質を調査して最適な修復方法を見極めなければいけません。修復方法を見極めるためには、専門知識や技術が必要です。
掛軸は和紙や絹などの素材が何層にも重なって制作されているため、修復作業を誤ってしまうと汚れや傷みを悪化させてしまうおそれがあります。
自分で誤った修復を行い、損傷を悪化させてしまうと、元の状態に戻せなくなる危険もあります。そのため、安易に自分で修復を行うのは避けたほうが良いでしょう。
自分で修復をした後に、結局専門業者に依頼しなければならないという状況にもなりかねません。
表装修理はやっぱりプロに任せた方がいい?
表装修理は専門的な知識と高い技術力が必要な作業です。
そのため、知識や経験のない人が行うのはリスクが高いといえます。
所有している掛軸が古くなり劣化が目立ってきたときは専門業者への修理依頼がお勧めです。それなりに費用は掛かりますが、技術や経験のあるプロが修復を行ってくれるため、自分で行うよりもクオリティの高い修復作業が期待できるでしょう。
また、自宅で飾っていたものをきれいにしてまた飾りたいという場合は、修復をお勧めします。しかし、掛軸買取に出すためにきれいな状態へ戻したいという場合は、修復をしないほうが良い場合もあります。
掛軸は繊細な美術品です。古い掛軸であればより慎重に取り扱う必要があります。
そのため、専門の修復業者へ依頼しても必ず修繕されるとは限りません。かえって損傷を広げてしまう可能性もゼロではありません。
買取を考えている場合、買取費用より修理費用のほうがかかってしまう場合もあるため、修理は行わずにそのまま査定に出したほうが良いといえるでしょう。
掛軸の寿命を延ばすためにも表装修理は欠かせない
掛軸の表装修理は、掛軸を美しい状態に保つために欠かせない作業です。
シワやシミ、破れなどを改善するために行われるだけではなく、表装の雰囲気を一新したい場合にも行われます。掛軸を解体して表装を取り替える必要があるため、高い技術力のある専門業者へ依頼することになるでしょう。
掛軸や表装の修理は自分で行う方法もありますが、リスクが高いといえます。
技術や経験がない状態で見よう見まねで修理を行っても、かえって損傷を大きくしてしまう可能性があります。
そのため、修復を行いたい場合は専門業者への依頼がお勧めです。
ただし、買取を考えている掛軸の場合は一度修理を考え直しましょう。
掛軸の価値によっては修理費のほうが高くなる恐れがあります。
また、修理によって傷を広げ価値を下げてしまうリスクもあります。掛軸の価値を調査して買取を検討したいと考えている場合は、そのままの状態でプロの査定士へ査定を依頼しましょう。