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平安時代の合戦を描いた『平治物語絵巻』の魅力
『平治物語絵巻』とは、平安時代である1159年に起こった「平治の乱」をもとに書かれた軍記物語『平治物語』の内容を描いた絵巻物です。 『平治物語絵巻』の作者は明らかになっていない 平安時代に描かれた『平治物語絵巻』の作者は、今なお謎に包まれています。 住吉派の住吉内記が描いたとする説もありますが、確かな証拠はなく、真実は明らかになっていません。 絵巻は3巻と断簡から構成されており、どの巻も震えるような独特の書風が特徴です。 統一された書体は、一連の作品として共通していることから、少なくとも文章は一貫性を持って書かれていると考えられています。 しかし、絵の部分については、各巻の画風には共通性があるものの、描き方に微妙な違いが見られることから、複数の描き手がいたのではと推察されています。 平治物語をもとに描かれた『平治物語絵巻』とは 作品名:平治物語絵巻 作者:住吉内記ほか 制作年:1789年-1801年ごろ 技法・材質:ー 寸法:40.2×43.3cm 『平治物語絵巻』は、平安時代末期に実際に起こった平治の乱を描いた軍記物語『平治物語』をテーマにした絵巻物です。 平治の乱は、武士の源義朝と藤原信頼が手を組み、権力者の平清盛と側近である藤原通憲に対して挙兵した歴史的な戦いです。 平治の乱では結果的に源義朝・藤原信頼の敗北に終わり、この合戦をきっかけに平氏政権が誕生しました。 『平治物語絵巻』は、平治の乱から約100年後、鎌倉時代の13世紀後半に当時の戦記物語の伝統にもとづいて描かれました。 現存する『平治物語絵巻』は3つ 『平治物語絵巻』は、平治の乱にもとづく重要な絵巻物ですが、現存するものは3巻のみです。 「看聞御記」によると、1436年には比叡山に15巻の『平治物語絵巻』が保存されていたと記録が残っています。 しかし、現在確認されているのは、『三条殿夜討巻』『信西巻』『六波羅行幸巻』の3巻のみです。 現存する3巻は、それぞれ以下の場所に所蔵されています。 『三条殿夜討巻』:ボストン美術館(アメリカ合衆国マサチューセッツ州) 『信西巻』:静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内) 『六波羅行幸巻』:東京国立博物館(東京都台東区) なお、『六波羅行幸巻』は国宝に指定されており、国内においてその価値が認められているのです。 また、絵巻の他にも「断簡」として14図が存在し、さまざまな所蔵先に分蔵されています。 三条殿夜討巻の見どころ 『三条殿夜討巻』のあらすじは、源義朝と藤原信頼軍が後白河上皇の御所である三条殿を襲撃し、上皇と二条天皇を幽閉するという内容です。 平清盛が熊野参詣で京にいない隙を突いて、源義朝と藤原信頼軍は御所三条殿に夜襲を仕掛けました。 彼らは屋敷に火を放ち、残虐の限りを尽くし、その様子が描かれています。 『三条殿夜討巻』の見どころは、炎上する三条殿の圧巻の描写です。 藤原信頼側の兵士が上皇方の兵士に襲いかかる姿や、身分の高い人たちが逃げ惑う中を馬で襲いかかるシーンが描かれています。 また、武士の姿は「つくり絵」と呼ばれる平安時代の技法を用いて描かれており、墨線で描かれた下絵にそって彩色を行うことで、細部にわたって丁寧に表現されています。 さらに、絵巻をよく観察すると描き直しや加筆の痕跡が見られ、初発的に描かれたことが伺えるでしょう。 信西巻の見どころ 『信西巻』は、信西の最期が描かれている絵巻です。 信西は平清盛のパートナー的存在であった学者・僧侶で、三条殿の夜襲の際には一時逃げ延びましたが、藤原信頼が主導する公卿会議で一族追補の決定が下され、最終的には見つかり自害に追い込まれます。 信西の首は切り落とされ、京都へ戻った源義朝・藤原信頼軍によって獄門にかけられました。 絵巻には、獄門にかけられた信西の首を見上げる人々の姿が描かれています。 『信西巻』では、群青色を用いた風景表現が特徴的です。 戦いの躍動感や武具甲冑の精緻な描写が印象的で、戦場の緊迫感を見事に伝えています。 六波羅行幸巻の見どころ 『六波羅行幸巻』では、源義朝・藤原信頼軍のクーデターを察知した平清盛が反撃を試みる様子が描かれています。 熊野参詣から帰還した平清盛は、二条天皇を自宅の六波羅邸へ脱出させようとしました。 二条天皇は、源義朝の軍に囲まれた中、女装して脱出に成功し、六波羅邸へ逃げ込みます。 絵巻には、二条天皇が六波羅邸に逃げ込む様子が躍動的に描かれています。 脱出成功の結果、源義朝・藤原信頼軍の攻撃は失敗し、断簡として分蔵されている六波羅合戦の巻には、源氏が敗退し、源義朝が東国へ落ちる様子が描かれていました。 詞書には波打つ文字が見られ、鎌倉時代前期の書家である弘誓院教家の晩年の書風が反映されているとされています。 これら3つの巻は、平安時代の武士社会や歴史的背景を知る上での貴重な資料にもなっています。 『平治物語絵巻』は歴史的な合戦の様子を細やかに表現した絵巻 今回ご紹介した『平治物語絵巻』は、平安時代の合戦をテーマにした絵巻であり、細やかな描写や豊かな色合いが特徴的です。 平治の乱における合戦の様子を、戦士たちの群像や精緻な甲冑の描写を通じて、観る者に強い印象を与えます。 特に、整然とした構図と色彩の美しさから、合戦絵巻の最高峰ともいわれているのです。 戦いの緊迫感や情景が生き生きと描かれ、当時の武士の姿や戦闘の様子が詳細に表現されている『平治物語絵巻』は、平安時代の文化や社会を理解するための貴重な資料でもあり、直接目にすることで、その迫力をよりいっそう感じられるでしょう。 興味のある方は、ぜひ間近でご覧いただき、その魅力を体感してみてください。
2024.11.26
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技法を知るともっと楽しい、源氏物語絵巻
平安時代の有名な物語といえば、源氏物語。 古くから日本人に親しまれている物語で、現代でも源氏物語を原作として、アニメやマンガ、ドラマなどさまざまな作品が作られ、多くの人を楽しませています。 源氏物語絵巻の技法に見る、ストーリーの表現 源氏物語を絵で表現した源氏物語絵巻。 巻物に描かれた絢爛豪華な風景や美しい衣装が、物語の情緒を見事に表現しています。 源氏物語絵巻とは 『源氏物語絵巻』とは、平安時代中期に紫式部によって描かれた源氏物語を絵で表現した巻物で、国宝にも指定されています。 『源氏物語絵巻』は原作に近い時代の雰囲気を感じられる素晴らしい作品で、『伴大納言絵巻』『鳥獣人物戯画』『信貴山縁起』と並んで日本四大絵巻の一つに数えられています。 実は、過去には、この源氏物語絵巻は、12世紀中期に活躍した宮廷画家の藤原隆能によって描かれたといわれていました。 しかし、現在は宮廷を中心として制作されたといわれており、一流の画家や書道家が分担して絵画化されたと考えられるでしょう。 絵巻物では、源氏物語の中でも趣深く絵画化に適しているシーンを選び出して、描かれていると考えられます。 源氏物語が成立してから約150年後の12世紀ごろに描かれています。 現存する日本の絵巻物の中では、もっとも古い作品です。 源氏物語とは 源氏物語とは、11世紀のはじめごろ平安時代の中期に描かれた物語。 作者は紫式部で、夫である藤原宣孝が病死した悲しみを紛らわすために書いたといわれています。 主人公である光源氏の一生と恋模様を書いた物語で、全54帖(巻)です。 大きくは、3部構成に分けられている長編作品であり、光源氏とその一族の人生を70年にわたって書き綴っています。 第1部では、桐壷帝の子としてこの世に生を受けた光源氏が、多くの恋を経験しながら成長していく様子が描かれています。光源氏が宮廷内でも栄華を極めていく様子が見どころです。 第1部は1~33帖までが該当します。 第2部は、第1部が好評であったことから続編として執筆されました。 34~41帖までが該当します。 光源氏は宮廷で栄華を極めたものの、その後の人生には数多くの苦難が待ち受けていました。 最愛の妻を亡くし、光源氏が52歳でその生涯に幕を閉じるまでが書かれています。 第3部は、42~54帖まで書かれています。 光源氏が亡くなって以降の物語で、光源氏の息子である薫の人生や恋模様を書いた源氏物語の完結編です。 源氏物語絵巻に用いられた技法 源氏物語絵巻では、源氏物語の優美な世界を再現するべく、さまざまな技法を用いて描かれています。 引目鉤鼻(ひきめかぎばな) 引目鉤鼻とは、人物の顔の輪郭をふっくらと下膨れさせて描き、一直線の目、短く鉤型(くの字形)の鼻などを特徴とする技法です。 特に、身分の高い貴族の男女の顔を描くために使われていました。一直線の目やくの字の鼻といっても、ただ1本の線が引かれているわけではありません。 よくよく見ると分かるのですが、細い線を何重にも描き、微妙な心情を表現しているのです。 吹抜屋台(ふきぬきやたい) 吹抜屋台とは、屋内の様子を絵で表現するために、屋根や壁を描かずに部屋を描く技法。斜め上から屋内を見下ろす俯瞰的な構図が特徴です。 源氏物語は、室内を中心に話が進んでいくため、吹抜屋台の技法があらゆる場面で用いられています。 異時同図法(いじどうずほう) 時間の経過を表現するために、1つの場面に対して、同じ人物を何度も登場させる技法です。 現代のマンガ的表現である、コマ割りに通じる表現とされています。 絵巻物では、右から左に辿っていくと、時間の流れとともに人物の行動が変化していく様子が見て取れます。 平安貴族の優美さを表現した、源氏物語絵巻の技法 源氏物語を絵で表現した源氏物語絵巻。 源氏物語そのものや、登場する人物の繊細な表情や心情などの魅力を、さまざまな技法によって引き立たせています。 源氏物語絵巻は、日本の美意識と文学への興味を湧かせてくれる、奥深さのある作品といえるでしょう。
2024.10.12
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