仏教とともに中国から日本へ伝わってきた掛軸文化。
その後、水墨画が伝わり徐々に芸術作品としての楽しみ方も増えていきました。室町時代ごろから、茶室や床の間に掛軸を飾り鑑賞する文化も始まっていきました。掛軸作品に描かれるジャンルも多様化していき、年中飾れる掛軸から、季節によって掛け替える掛軸なども作られています。季節掛け掛軸の種類を知り、掛軸の世界をより楽しみましょう。
秋の掛軸を楽しもう!季節掛け掛軸とは
季節掛け掛軸とは、四季折々の自然の移り変わりに合わせて掛け替える掛軸のことです。大きく分けると、春夏秋冬の4つの季節に合わせた掛軸の画題が存在します。また、月ごとに画題を分けることも可能です。
季節掛け掛軸の大きな魅力は、それぞれの季節の美しい風景や花などの自然の姿を自宅で楽しめることです。都心で緑の少ない地域に住んでいても、自宅に季節掛け掛軸を飾れば季節感を満喫できるでしょう。季節掛け掛軸が、都会に住み忘れかけていた自然の美しさを思い出させてくれるのではないでしょうか。
特に、秋の季節掛けは、実り豊かな季節ということもあり、色鮮やかで美しい題材が数多くあります。
秋の季節掛けに人気の絵柄
秋の掛軸には、鮮やかな色に染まり始める植物や実り始める食物などがよく用いられています。たとえば、残暑がありながらも秋の始まりを感じさせてくれる9月には、栗や葡萄、松茸、萩などの掛軸がお勧めです。
10月に入り緑が鮮やかな赤や黄色に染まり始める時期には、紅葉や柿、竜胆、芒などを飾り、秋の風物詩を掛軸でも楽しみましょう。秋から冬へ移っていく季節の11月は、季節の移ろいを感じられる銀杏並木や枯木の風景、初冬の山水などの風景画がお勧めです。季節に合わせた好みの掛軸を見つけて、四季折々の空気感を掛軸で味わいましょう。
「紅葉」の掛け軸
紅葉の季節掛け掛軸は9~11月にかけて飾られます。
葉が赤に色づくことを紅葉、黄色になることを黄葉、褐色に変わるのを褐葉と呼ぶこともありますが、一般的にはすべてまとめて紅葉と呼ばれています。紅葉は「春は桜、秋は紅葉」といわれるように日本の季節を象徴する風物詩です。桜と比較すると、見ごろの時期が長いため楽しめる機会が多いのも魅力といえます。
掛軸としては紅葉と一緒に鳥を描き花鳥画とする場合もあれば、遠くからのアングルで風景画として描かれることもあり、掛軸作家からするとさまざまな表情を描けるため、描きがいのあるテーマともいえるでしょう。
秋の訪れを気づかせてくれる紅葉の景色は、その美しい黄金色や橙色、赤色などの多彩な色を用いていることが特徴です。掛軸に描かれた紅葉は、鮮やかな色合いが見るものの目を引き、秋の風情を感じさせてくれるでしょう。
「稲穂」の掛け軸
9、10月に飾るお勧めの季節掛け掛軸として、稲穂の画題があります。
秋は農家の人にとって収穫の時期であり、食べ物の収穫ができることを神さまへ感謝する時期でもあるでしょう。そのため、秋の収穫を象徴する稲穂の絵は古くからよく描かれてきました。
また、稲穂はよく雀とあわせて描かれています。雀は子をたくさん生むことから子孫繁栄や、害虫を食べてくれることから厄をついばむものとして、昔から縁起が良いとされてきた鳥です。雀単体では年中掛けとしてよく用いられています。10月頃になると稲穂と雀をあわせた掛軸を多く見かけます。
豊作の願掛けとしても用いられる掛軸ですが、豊かさも象徴しています。稲穂と雀を描いた掛軸は縁起がよいとされているうえに、鑑賞用として楽しむ場合も秋としての風情を感じられる人気の高い季節掛け掛軸です。
「柿」の掛け軸
柿の掛軸も秋を代表する季節掛け掛軸の一つです。
9~12月頃まで長い期間楽しめる画題です。「嘉来」と読めることから縁起の良い画題として親しまれています。柿の語源は諸説あり、暁を略したものといわれていたり、輝きが転じたものともいわれています。
柿は初夏に可愛らしい黄色や白の花を咲かせ、秋には鮮やかな橙色の実をつけるのが特徴。昔から「柿が赤くなると医者が青くなる」ということわざがあるように、柿の収穫の季節は、柿の実を食べて病気にならず医者が必要なくなるといわれるほど、栄養価の高い果物として知られています。そのため、古くから料理で柿の実を砂糖の代わりに使ったり、刻んで柿の茶葉を作ったりして食されていました。
掛軸においては、その木の立ち姿に風情があり多くの作品に描かれ愛されてきました。来年もまた柿が実るようにと柿の木に1つ2つ柿を残しておく木守りと呼ばれる習慣があります。この習慣をモチーフにして、柿の木に1つ2つ実を残した絵が描かれている掛軸作品も多くあります。
秋にお勧めの季節掛け掛軸は、そのほかにも葡萄や栗、菊、松茸、竜胆などがあります。画題の意味だけではなく、描かれ方にも意味が込められている季節掛け掛軸。代表的な画題を把握して、好みの季節掛け掛軸を自宅に飾りましょう。
季節掛け掛軸で日本の秋を感じよう
季節ごとに違った表情を楽しめる季節掛け掛軸。
主に春夏秋冬4つの季節に分けられさまざまな自然や花、鳥などが題材として用いられています。秋の季節掛け掛軸では、紅葉はもちろん、秋に実る果物や植物などが題材になることが多い傾向です。自宅に鮮やかに色づいた秋の自然を描いた季節掛け掛軸を飾って、秋らしい季節感を味わってみてはいかがでしょうか。