掛軸作品には、書や風景、人物以外にも、さまざまな生き物が描かれた作品も多く存在します。
なかでも、虎や龍が睨みをきかせた迫力のある掛軸が、印象に残っている人もいるでしょう。
それぞれの生き物自体にも意味がありますが、睨みをきかせているシチュエーションにも意味が込められているのです。
虎や龍がギロリと見つめる…八方睨みの掛軸
虎や龍が強い目つきでこちらを睨んでいるような掛軸を、目にしたことがある人もいるでしょう。
迫力のある絵のため、少し怖いと感じることもあるのではないでしょうか。
しかし、八方睨みをきかせた掛軸の作品は、いわゆる魔除けの意味があるため、自宅に飾っておきたいものです。
睨みによって家を守護してくれていると考えると、「怖い」というイメージから見方が変わるかもしれません。
厄除け・魔除けの八方睨み
八方睨みとは、四方八方へ目をやり、睨みをきかせることを意味しています。
また、絵や画像において、どの角度から見ても目がこちらを睨んでいるように見える様子を表した言葉です。
八方睨みをきかせた虎や龍の掛軸作品は、災いが近づかないように外敵を睨んで追い払うとして、厄除けや魔除けの意味があるとされています。
虎は「一日にして千里を行き、千里を帰る」といわれるほど、強い生命力を保持しており、あらゆる厄災を追い払い、家運隆盛を導くとされる生き物です。
また、龍は地球の守り神のような存在で、天地を飛び回り流れを起こしているとされています。
龍が天に昇る姿が成功と象徴を表しているとして、仕事運や金運アップ、勝負ごとに勝つなどのご利益の意味が込められています。
虎も龍も大きなご利益をもたらしてくれる生き物とされており、その絵に八方睨みをさせることで、厄払いまでもできると期待されているのです。
八方睨みの虎や龍の作品
八方睨みをきかせた虎や龍の掛軸は、さまざまな有名絵師によって描かれています。
円山応挙や三尾呉石らは虎の絵を、狩野探幽は、龍の絵を描いています。
『遊虎図』(円山応挙)
円山応挙は、円山派の祖であり、江戸時代後期に活躍した天才絵師です。
掛軸作家としても有名ですが、香川県にある金毘羅宮の襖絵である『遊虎図』も有名作品の一つ。
当時の日本には虎がいなかったため、輸入された虎の毛皮から姿や形を想像して描かれたといわれています。顔が小さく、目がぎょろっと大きく描かれているのが特徴です。
円山応挙は、八方睨みの虎の絵以外にも、多くの虎や動物たちの絵を描いていて、特に、かわいらしい犬の絵を描くことでも有名です。
『水辺猛虎』『獣王』(三尾呉石)
狩野探幽とは、江戸時代初期に活躍した江戸狩野派の絵師です。
狩野派は、日本絵画史上最大の流派といわれており、室町時代後期から江戸時代末期までの約400年間にわたって権力者の御用絵師として活躍しました。
狩野探幽は、やまと絵や写生、古画などさまざまなジャンルの絵を研究し、画力を高めていました。
京都の妙心寺法堂の天井には、狩野探幽が描いた龍が、睨みをきかせています。
天井一面に描かれ迫力のあるこの『雲龍図』は、狩野探幽が55歳のときに描き、スケールや迫力が大きく京都随一の天井龍との呼び声が高い作品です。
僧侶たちの修行の様子を見守る仏法の守護神として、天井から様子を見ているとされています。
八方睨みの掛軸は、災難を遠ざけ開運を導く
八方睨みをきかせた虎や龍などの迫力ある掛軸は、災難を遠ざけ良い運気を導くとして古くから重宝されています。
さまざまな有名作家が描いた虎や龍の作品は、現地での鑑賞が可能です。
また、開運のために床の間へ掛軸として掛けられることも多くあります。
自宅に虎や龍の掛軸を飾り、家に運気が流れるようにしてみてはいかがでしょうか。