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平安貴族の遊び、薫物合(たきものあわせ)
平安時代、貴族にとって香りは日々の生活に欠かせないものでした。 薫物(たきもの)と呼ばれる練香を作ることが広まると、その優劣を競う薫物合(たきものあわせ)という遊びも流行しました。 薫物合は、香道のルーツでもあります。 平安貴族の遊び、薫物合(たきものあわせ)とは 仏教とともに日本にもたらされた香りは、奈良時代まではあくまでも宗教儀礼で用いられるものとされていました。 しかし、平安時代には、貴族の間で日常的に香りを楽しむ文化が発達します。 平安貴族の趣味・嗜み、お香 平安時代には、仏事に限らず趣味や嗜みとして香りが用いられるようになりました。 香りを部屋で楽しむほかに、主に衣服や手紙に焚きしめるといった使われ方をしていたといわれています。 その背景には、当時の貴族女性は髪が長い上に頻繁に洗髪するのが難しかったという事情もあったのでしょう。 しかし、それ以上に平安時代の貴族にとっての香りは、自己表現の方法の一つとして大切なものだったと考えられます。 当時の貴族は、男性も女性もそれぞれが独自に調合した、自分だけの香りを持っていました。使用する原料や製法に工夫を凝らして、自分らしい香りを作っていたといわれています。 香りは、自分の美意識や知性をさりげなくアピールする手段だったのです。 特に女性は、家族などを除いて人前に姿を見せないことがマナーとされていました。顔が見えない中で、衣服の残り香や受け取った手紙から漂う香りは、女性の個性を相手に伝える方法として用いられたのでした。 平安時代に流行した「薫物合」 薫物とは、沈香や白檀のような香木に香料の粉末、蜂蜜などを混ぜて練り固めた練香のことです。 伏籠や香炉を使って、部屋や衣服に焚きしめるために使われます。 また、薫物から発展した遊びである薫物合も流行しました。 薫物合では、それぞれが調合した薫物を持ち寄って、どれが優れているかを比べます。貴族たちが自分の知性や感性、珍しい香料を入手できる身分などを披露できる場でもありました。 薫物合は、香道における香りの楽しみ方の一つである「組香」につながっています。 薫物の登場する平安時代の物語 貴族の生活の一部であった薫物は、平安時代の文学作品にも描かれています。 薫物合は源氏物語「梅枝」にも登場 紫式部(むらさきしきぶ)による世界最古の女性文学といわれる『源氏物語』。 『源氏物語』の「梅枝」巻では、主人公の光源氏が薫物合のための薫物作りを女性たちに依頼する場面、ならびに完成した薫物の優劣を判定する場面が描かれています。この場面では、光源氏が愛する妻、紫の上と別居してまで薫物作りに没頭している様子が描写されています。 遊びとはいえ、当時の貴族にとって薫物合わせは軽視できないイベントであったことが分かるでしょう。 また、光源氏は天皇秘伝の調合法、紫の上も皇子から伝授された調合法を使用しています。薫物作りにおいて、それぞれが秘伝の製法を持っていたことと、お互いに製法が漏れないようにして、張り合っている様子が伝わります。 枕草子では「心ときめきするもの」 清少納言(せいしょうなごん)の随筆『枕草子』では、心をときめかせるものの一つとして薫物に触れています。 恋人を待つ時間などと並んで、「高級な薫物を焚きながら一人で横になっているとき」と「洗髪、化粧を済ませた後によい香りを焚きしめた着物を着るとき」に心がときめくと書いた清少納言。 平安時代から人々がよい香りに癒やされていたことが分かるでしょう。 平安貴族の楽しんだ薫物合は、やがて香道の原点に 貴族が文化の中心を担った平安時代に対し、その後の鎌倉・室町時代に権力を持ったのは武士でした。 華やかなものよりも質素なものを好むように価値観が変化する中で、香りを楽しむ対象も薫物から香木へ移り変わります。 香木を基本として、香りを鑑賞する香道は室町時代に確立したとされています。 形が変わっても香りを楽しみ、感じる心は、平安時代も今も変わりません。 平安貴族の楽しんだ薫物合は香道の原点です。
2024.10.12
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お香とインセンスの違いと楽しみ方
香りを楽しむお香は、バミール高原を起源としインドに広まり、その後中国や日本にも伝わっていきました。 日本では、仏教とともに伝わってきたため、お線香としてのイメージが強い人も多いでしょう。 しかし、現在ではお香の種類も多様化しており、自宅でリラックスするためにお香を焚く人も多くいます。また、お香には心身を清める効果があるとされているため、瞑想などとあわせて利用している人も。 お香は、ときどきインセンスと呼ばれているのを耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。 お香とひと口にいっても、さまざまな種類があり、形状や利用方法によって呼び名が変わる場合もあります。そのため、その名がどのような種類を指しているのか詳しくはわからない人も多いでしょう。 インセンスとの違いやお香の使い方などを知ると、お香をより自由に堪能できます。 お香とインセンスの違い 香りを楽しむお香は、ときにインセンスと呼ばれることもあります。 呼び名が違うため、別物であるか気になっている人も多いのではないでしょうか。 実は、お香とインセンスに明確な違いがありません。ほとんどの場合、お香=インセンスとして記載されています。 ただし、人によっては、さまざまな条件によってお香とは分けて呼んでいる場合があります。 たとえば、インセンスは合成香料を用いて製造されている趣味のお香を指しているとするケースもあるのです。また、煙を出して焚く場合は仏様への供香であり、煙を出さずに薫く場合は、趣味としてのお香であるインセンスに分類することも。 そのため、あえてお香とインセンスを区別するのであれば、お香の中でも趣味として利用する煙の出ないものをインセンスと呼ぶと覚えておきましょう。 仏事用の線香は普段使ってはいけない? お香の中には、仏壇や仏事で利用される線香があります。 仏壇の前で焚いたり、お葬式で線香をあげたりすることから、日常生活では使ってはいけない印象を持っている人も多いでしょう。 線香を普段使いしてはいけないというルールはありません。 そのため、日常的に香りを楽しむために、線香を利用してもよいのです。 線香や焼香、香木、匂袋、練香などは、お香の一種であり、実は材料や製造方法は同じなのです。 そのため、これらに明確な違いはありません。 つまり、仏壇用の線香も趣味のお香も、すべて同じ「お香」とされています。 現在、お香は多彩な形状で販売されており、その香りも多種多様です。 暮らしの中でお香を焚き、気分を落ち着かせたり、癒されたりする人も多いでしょう。 お香の楽しみ方は、人それぞれです。 「日常的に使っていいのかな?」と不安に思わず、自由に楽しみましょう。 時代とともにお香の楽しみ方も多様になった お香は、古くから日本でも親しまれており、貴族や武士の間で流行を見せたあと、時代の流れとともに町人の間でも利用されるようになっていきました。 お香というと線香のイメージが強いですが、現在では、日常使いできるお香も多く販売されています。もちろん、線香も仏事のみではなく普段使いしても問題のないお香です。 現代でも多くの人々に愛されているお香は、精神的な安らぎや落ち着きを提供してくれます。使うタイミングなどを気にせず、自分の好きな香りを好きなときに焚いてみましょう。
2024.10.12
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インドのお香と宗教
お香大国と呼ばれるインド。 アジアン系の雑貨屋に行くと、よくインドのお香を見かけるのではないでしょうか。 インドでも多彩なお香が販売されており、多くの人々が日常的にお香を焚いているのです。 インドでお香が日常的に親しまれている理由には、歴史や宗教が関係しています。なぜお香が日常的に使われているのか、インド人にとってお香とはどのような存在なのかを知ると、お香の魅力がより理解できるでしょう。 インドのお香と宗教 お香の起源は、タジキスタン・アフガニスタン・中国にまたがるバミール高原にあるといわれています。 その後、インドにお香が伝わっていったのです。 インドには、乾季・暑季・雨季の3つの季節があります。 暑季になると、気温が40℃を超える日が続き、50℃近くになる日もあるほど、気温が高くなります。 この酷暑による悪臭を防ぐ方法としてお香が活用されるようになりました。 気温が高いインドでは、亡くなった人がすぐに腐敗し、悪臭を放つことが問題となっていました。お香は、その腐敗臭を消すためとして用いられていたのです。 また、バラモン教の聖典『ヴェーダ』によると、古代インドでは王侯貴族が香膏を身体に塗り、漂う香りを楽しんでいたと記されています。古代インドでは、白檀や沈香、スパイスなどを焚いて、死者を来世に送り届ける風習もありました。 紀元前5世紀後半には、仏陀による仏教が広められ、修行の中で焼香としての香が良く利用されるようになります。仏教においては、お香は不浄を払い心身を清める効果があるとされていました。 仏壇を前で手を合わせる際に線香をあげるのは、俗世でけがれた心や身体を香りで清める意味が込められています。 仏教の影響もあり、インドでは古代よりお香には、浄化と保護の効果があると信じられています。7世紀に作成された医学書『Kasyapa Samhita』には、約40種類ものお香の作り方が掲載されているのです。 また、インドの愛の聖典である『カーマ・スートラ』には、お香の香りは興奮を高めるものであるとの記述もあります。 お香大国インドでは、古くからインド人の宗教や精神性とお香が結びついており、長く親しまれてきていると分かるでしょう。 インドにはどんなお香がある? インド東部を原産地とする香木として、白檀があります。 白檀は、紀元前5世紀ごろから栽培されているといわれています。 白檀は、甘みのあるウッディな香りが特徴。落ち着いた香りで、お線香の香りとしても親しまれています。 白檀は、ビャクダン科ビャクダン属が原木で、この木の幹から白檀独特の香りを漂わせているのです。 一般的に香木の原木そのものには香りがなく、熱を加えると樹脂が蒸発して香りを発しますが、白檀は加熱せずとも香りを放っています。 近年、白檀はインド政府による伐採制限や、輸出規制により世界的に出回らなくなってきています。 日本には、彫刻美術品といった加工品や香料として利用するために粉末状にしたもの以外は輸出されていません。そのため、白檀は日本でも大変希少価値の高い香木なのです。 香りの国インドでは、多種多様なお香が作られています。 インド産のお香は、インド香と呼ばれ、日本でもインド香と呼ばれるインド産の香りが多くの人に親しまれているでしょう。 インド香にはスティック型やコーン型などがあります。 インド香として有名なものは、チャンダン・ナグチャンパ・ムーン香などです。インド香では、異国情緒あふれるオリエンタルな香りが楽しめます。 世界一のお香の国といわれるインド インドでは古くからお香が活用されており、日々の生活の中で当たり前に存在しています。 また、お香は仏教との関係性が深く、不浄を払い心身を清めてくれると信じられています。 インド香は、インド国内だけではなく日本でも親しまれている香り。 インド香独特のオリエンタルでエキゾチックな香りを自宅でも楽しんでみてはいかがでしょうか。
2024.10.12
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日本で独自の文化となった、お香・香道
日本の和の文化を表現する伝統でもあるお香。現代では、生活の中に安らぎを与える癒しの道具として親しまれています。古くは貴族や武士の楽しみとして広がり、のちに町人まで広まっていきました。日本における香りの文化を知ることは、お香の楽しみ方を広げるきっかけになるでしょう。 日本で独自の文化となった、香 日本に古くから伝わり、伝統的な文化となっているお香。仏教とともに伝来したお香は、日本独自の発展を遂げ、現代まで多くの人に親しまれています。 飛鳥時代に伝来し、貴族や武士、庶民に広がったお香 お香は、日本において仏教が伝わった際に、同時に伝わってきたとされています。『日本書紀』では、淡路島に沈水香木が漂着し、島民は単なる流木と思いかまどの薪として焚いたところ、良い香りが漂ってきたため、かまどから外し朝廷に献上したとの記載も。また、献上された流木を、聖徳太子は香木であると一目で見抜いたそうです。 奈良時代に入ると、遣唐使の鑑真和上により、仏教の戒律や美術、建築、医学、薬草などこれまで日本になかったものが多く伝えられました。その中には、お香の調香技術もあったそうです。唐から持ち込んだ薬草や香原料を調合し、効能の高い薬を作る技術により、お香も複数の香りをあわせて用いられるようになりました。当時は、魔除けや厄除け、防虫などの役目としても利用されていました。 平安時代には、複数の香料を練り合わせて香りを楽しむ薫物が、貴族の生活の中に取り入れられていきます。仏教の供香から香りを楽しむ文化が生まれはじめたのは、平安時代ごろからといえるでしょう。その中で、丸薬状のお香や線香が発展し定着していきました。 安土桃山から鎌倉時代では、貴族が力を持っていた平安の世から打って変わって、武士が権力を持つようになります。武士の間では、沈香一木のみを焚き、香りの聞き比べをする聞香が誕生しました。また、細かく刻んだ香料をつまんで仏前の香炉にいれる焼香は、この時代に禅宗をとおして広まったといわれています。 戦乱の世が終わり江戸時代に入ると、お香は貴族や武士だけのものではなく、町人の間にも広がっていきます。源氏香をはじめとした、いくつかのお香を焚いて香りを当てる組香と呼ばれる遊びも生まれました。また、このころから線香も多く製作されるようになり、町人の間に線香が普及していきました。 現代のお香は、さまざまな形に変わりながら人々の間で親しまれています。技術の発展や多彩な香料により、新しいお香が作られ続けています。 日本の芸道・香道 香道とは、日本人の四季に対する感性や文学詩歌と香りを結びつけ、体系化した日本の芸道です。平安時代から貴族の文化や習俗として洗練されていったお香。香道として確立されたのは、室町時代の8代将軍足利義政のころです。足利義政は香を好み、公家の三條西実隆や志野宗信に命じて、一定の作法やルールを定め、芸道としての体系作りを行いました。その後、階級にかかわらず多くの人々に親しまれていったお香は、日本独自の文化として発展していきました。 和歌や物語の中にある、香 香や香りの文化は、昔の和歌や物語の中にも登場しています。有名なものとしては、『源氏物語』と『古今和歌集』があります。『源氏物語』とは、平安時代中期に紫式部によって創作された長編物語です。源氏の一生とその一族たちの人生が描かれており、その中に香りを楽しむ薫物合せが登場します。『古今和歌集』とは、紀貫之によって作成された日本で初めての勅撰和歌集です。日本の美意識の原型を創造した歌集として高い評価を受けています 源氏物語に登場する「薫物合せ」 薫物合せとは、平安時代に貴族たちが家伝の秘法を用いて練香を作成し、披露して優劣を競う遊びのことです。この貴族の遊びの中で次第に香りが洗練されていき、6種の香りに集約されたのが六種薫物。 6つの香りの種類は、以下のとおりです。 ・梅花(ばいか):春を表現。梅の花の香りをイメージしています。 ・荷葉(かよう):夏を表現。蓮をイメージしており、清涼感のある香りが特徴です。 ・侍従(じじゅう):秋を表現。秋風をイメージしています。 ・菊花(きっか):秋から冬を表現。菊の香りをイメージしています。 ・落葉(らくよう):秋から冬を表現。木の葉が落ちていく様子をイメージしています。 ・黒方(くろぼう):冬を表現。祝儀用に用いられることの多い香りです。 古今和歌集の中の「香」 古今和歌集に「色よりも香こそあはれと思ほゆれ 誰が袖ふれし宿の梅ぞも」という和歌があります。梅はその花の色彩よりも香りが趣深いものであり、誰かの袖が梅に触れた移り香が宿に香っているのだろうか、といった情景を詠んだ和歌です。誰が袖とは、香料を刻んで調合したものを詰めた匂い袋を指しています。誰が袖は、室町時代に流行したお香で、香りを外へ持ち運ぶために重宝されていたそうです。 日本文化に根付く「香」と「香りの文化」 日本で長く愛され続けてきた香と香りの文化は、今日でも多くの人々に楽しまれています。現代では、匂い袋や薫衣香、練り香、印香などさまざまな形で香りを感じられます。リラックスしたいときや瞑想のお供など、多彩な場面でお香が活躍するでしょう。日本には香と香りを楽しむ文化が今も根付いているといえます。
2024.10.12
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お香と仏教の深い関係…お寺のお香は何の香り?
お寺に出向くと、お香の良い香りが漂ってきます。 お香と仏教には深いかかわりがあり、お寺ではお香がよく用いられているのです。 お香と仏教の歴史をさかのぼってみると、日本に伝わるよりも古くから、多くの場で利用されてきたとわかります。 お香と仏教の深い関係 お寺に入ると、「なんだかほっと心が落ち着いた気分になる」という経験をお持ちの人は、多いのではないでしょうか。 心が穏やかになる理由はさまざまですが、その一つにお香による香りがあります。お香の香りには、癒しの効果があると科学的にも認められているそうです。 お香は仏教と深い関係性があり、お香を焚くという行動は、仏式の作法のひとつとされています。お寺で香るお香の種類や、仏教における役割を知り、お香の楽しみ方を増やしていきましょう。 線香や焼香…お寺にはさまざまなお香が お寺から漂う良い香りの多くは、沈香によるものです。 そのほかにも、お寺では伽羅・白檀などのお香が用いられています。 お葬式でお線香をあげる、お焼香を経験したことがある人も多いのではないでしょうか。 焼香には、抹香と呼ばれる香木をはじめとした香料を細かくしたものを使う場合もあれば、棒状の線香を利用する場合も。 抹香には、一般的に樒(しきみ)や白檀が使われています。 一方、線香は香木や香料を練ったもので作られています。 仏教におけるお香の役割とは 仏教では、仏様やご先祖様に香りを楽しんでもらうためにお香を焚きます。 また、同時に日々の生活のなかでけがれた自分の心身を浄めるためのものでもあります。 私たちに身近なお寺でのお香とのかかわりの一つは、焼香です。 仏式の通夜や葬儀では、僧侶による読経とあわせて儀式の中心となる焼香。霊前を浄め亡くなった人の冥福を祈る意味が込められています。 お香のもう一つ身近な存在として、お墓参りや仏前で手をあわせる際に用いる線香があります。線香は、その空間と心身を浄めるものとしてや、天上と現世をつなぐものとして考えられているのです。また、線香の香りは故人の食べ物になるともいわれています。故人の食べ物になると考えれば、生前好んでいた食事や飲み物などに似た香りのする線香をあげるのも良いかもしれません。 線香はいつからある? 香料の始まりは古く、紀元前3000年ごろのメソポタミアでは、神事に香りの強い木を焚いていたといわれています。 線香の起源となる香木が日本に伝わってきたのは、595年の聖徳太子の時代です。 淡路島に香木である沈香が漂着したのが始まりでした。 その後、仏事や神事に香木が利用されるようになり、現在の線香の形に変化したのは、16世紀ごろといわれています。当時高価だった香料を、樹皮の粉や糊と練り合わせて線状に成形し扱いやすくしたために、普及が進んだといえます。 しかし、室町時代ごろの線香はまだ高価であったため、公家や上流貴族しか入手できませんでした。庶民の間にも広く利用されるようになったのは、江戸時代の初めごろとされています。 当時、線香の製造は、現在の大阪府堺市で盛んにおこなわれており、現在は淡路島がお線香の全国シェア約70%を占めています。 日本だけじゃない!海外でのお寺でもお香は重要 焼香のルーツは、仏教が生まれたインドにあります。 インドはお香の原料となる木の産地であり、古くから匂いけしとしてお香が使われてきた歴史があります。 インドは気温の高い国だったため、亡くなった人がすぐに腐敗し、その匂いが問題となっていました。 お香は、腐敗臭を消すために用いられていたのでした。インドで重宝されていたお香は、仏教の伝わりと同時に日本へ伝えられています。 また、線香は仏教だけではなく、キリスト教でも正教会が振り香炉などで頻繁に用いています。 時代が変化しても大切にされる、仏教と香の心 近年、線香は仏事や神事に用いられるだけではなく、普段の暮らしでも利用されるようになってきました。そのため、生活スタイルの変化にあわせた線香も、数多く製造されています。たとえば、香りの種類が豊富であったり、煙が少なかったりなどの特徴を持ち合わせています。 線香のスタイルが変わっても、故人への気持ちや仏教の心は変わらず持ち続けていくことが大切です。
2024.10.12
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お香にはどんな種類がある?
香道で使用する香はもちろん、私たちの身近にも「香」はたくさんあります。 自宅でリラックスしたいときや、ストレスを緩和したいときなどにも役立つでしょう。 お香の種類 お香と一口にいっても、さまざまな種類があります。 そのままで香りを楽しめるものや、加熱して香りを楽しむものまで多種多様なため、自分にあった香りの楽しみ方を見つけられるのも魅力です。 多彩なお香の種類から自分の好みにあったものを見つけるためにも、特徴に対する理解を深めましょう。 線香 線香とは、粉末にした複数の香材を練り合わせ線状に押し出した後、じっくり乾燥・熟成させたものです。燃焼時間が長く香りが長続きする特徴があります。 線香にも、仏壇用の匂い線香や煙の少ない微煙線香、お墓参りで利用される杉線香などの種類があります。 室内香 室内香とは、暮らしの中で気軽に楽しむために作られたお香です。 一般的に、スティック状やコーンタイプ、うずまきタイプなどがあります。また、湿った丸薬状の練り香や香木なども室内香の一種です。 自分がお香をどのように楽しみたいかでタイプを選ぶとよいでしょう。 焼香 焼香とは、沈香・白檀などの香木や生薬を細かく刻み、調合したものです。 使われる香木や香料の数によって三種香・五種香・七種香・九種香・十種香などとも呼ばれます。 なかでも五種香は、代表的な焼香で使用されている香料は、沈香・白檀・丁香・欝金・竜脳の5種類です。 塗香 塗香とは、香木・漢薬などの香料をパウダー状にして調合したものです。 お香の中で最も粒子が細かく、心身を浄めるために手や身体に塗って使用されます。 かつては、身だしなみとして、体臭を消すために用いられていました。 抹香 抹香とは、塗香よりも粗いパウダー状のお香です。 かつては、寺院を浄めるために、仏塔や仏像などに散布する目的で使用されていました。また、散華とともに空中に撒いて、香りを演出するためにも使われていました。 現在では、焼香と同じように香炉で用いられています。 匂い袋 匂い袋とは、香木をはじめとした香材を美しい袋で包んだお香です。 8世紀ごろから貴族の腰飾りとして使用されており、多くの人々に広く普及したのは、江戸時代ごろといわれています。 袂や襟元にしのばせるだけではなく、たんすに入れて移り香を楽しむ方法もあります。 掛香 掛香とは、室内の柱などにかけて使用する香り袋です。 香木・漢薬香料を調合し、絹の小袋に入れたものが一般的で、室内の柱にかけたり、女性が懐に入れたり、首からかけたりして用いられます。 主に臭気や邪気を払う目的があります。 お香の原料 お香は、さまざまな素材を調合して作られています。 原料となる天然香料は数十種類にもおよび、天然であるために入手が難しい素材も多くあります。 香木 香木とは、自然が作り出した香りのする木を指します。 香木の中にも沈香や伽羅、白檀などさまざまな種類があります。 自然環境や社会情勢などの問題から安定した供給が難しく、お香の原料の中でも希少価値の高いものです。 植物性香料(生薬) 植物性香料(生薬)とは、植物の葉や茎、根などを加工したもので、代表的なものには、大茴香や桂皮、丁子などがあります。 お香だけではなく、香辛料や漢方薬としても広く用いられます。 動物性香料 動物性香料とは、動物の分泌腺から生じた素材を指します。 麝香や竜涎香、貝香などがあります。 そのほか 香木や植物性・動物性香料以外に、ラベンダーもお香の原料として利用できます。 エリザベス1世朝以降のイギリスでは、衣服に香りを付けるためや頭痛・風邪などを治療する目的でも利用されていました。また、ラベンダーには、安眠をもたらす効果が期待できます。 お香は、これらの原料を調合して作られています。 種類豊富でさまざまなシーンで使用される、お香 お香にはさまざまな種類があり、仏事や香道などの伝統的な用途だけではなく、普段の生活の中でも楽しめるものです。 多彩なお香の特徴を知り、自分にあったスタイルで香りを楽しんでみてはいかがでしょうか。
2024.10.12
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香道で用いられる香木。どんな香りを嗜んでいるの?
香道は、茶道や華道と比べると触れる機会が少ないものの、かつては貴族や武士を中心に広く嗜まれていた芸道。 現代でも、さまざまな形のお香が販売されており、人それぞれ好みのスタイルで香りを楽しむ習慣があります。 香道の概要や、香木の香りを「聞く」と表現する理由など知り、香道に対する興味を深めましょう。 香道ではどのような香りを聞いているのか 香道は、茶道、華道と並ぶ日本の三大芸道の一つです。 香道では、香りを嗅ぐのではなく、「聞く」と呼びます。 香道は香りを聞くことを通して自分と向き合う香道は、特に武士に好まれたと言われています。 香道とは 香道とは、香木の香りを楽しむ日本の芸道です。 禅の精神を大切にする香道は、武士が支配階級となった室町時代に確立したとされています。 戦乱が続く中、武将たちに特に愛されたのが香と茶でした。 現代も残る香道のルールは、室町幕府の第8代将軍である足利義政の命のもと、公家の三條西実隆や志野宗信によって整備されたと伝えられています。 なお、2人は現在にも続く御家流、志野流という香道の流派の祖です。 香道に必要な道具は、香道具と呼ばれます。 主な香道具には、香を焚くために使われる香炉、香を掻き出すための各種の火道具、道具を収納するための箱などがあります。ピンセットのような形状の銀葉鋏、香木をすくう香匙などが火道具の例です。収納道具には香袋や長盆などがあります。 また、香道で香りを分類するために大切な考え方が「六国五味」です。 六国とは、伽羅・羅国・真那賀・真南蛮・寸門陀羅・佐曽羅という香木の6つの主要産地を指します。また、五味とは、甘(甘い)・酸(すっぱい)・辛(からい)・苦(にがい)・鹹(塩辛い)の5つの味覚のことです。香道では、香りをできる限り客観的に表現する助けとして、六国五味が用いられます。 聞香(もんこう) 聞香とは、文字通り香りを聞き、味わうことです。 聞香炉と呼ばれる専用の香炉で香木を温めて、参加者全員で香りを聞きます。 香の香りは部屋に広がるほど強いものではありません。 そのため、聞香では作法に従い、一人ひとりが順番に香炉を持ち、顔に近づけて香りを聞くのが主なルールです。 組香(くみこう) 組香とは、ルールに則り複数の香りを聞き分ける楽しみ方のことです。 聞香に比べるとゲーム性が高いものの、優劣をつけるのが目的ではありません。 あくまでも香りを味わうことを主眼としています。 組香には、季節や題材の異なる複数のルールがあります。 以下が組香の種類の例です。 ・菖蒲香 ・菊合香 ・源氏香 ・競馬香 香道で用いられる香木 香道に欠かせない道具の一つが、よい香りを持つ樹木である香木です。 中でも、特に高級で香り高い沈香・伽羅・白檀がよく使用されます。 沈香とは、木の樹脂が年月を経て変化したものです。 甘みやコクのある奥深い香りを特徴とします。 ベトナムの限られた地域で産出される、沈香の中でも特に品質の高いものは、伽羅と呼ばれます。 香りは、ウッディ調の甘く華やかな香りが特徴です。 仏具などにもよく使用される白檀は、独特の上品な香りで知られています。 香りを聞くとはどのようなことか 香道では、香りを楽しむことを「聞く」と言い、「嗅ぐ」という言い方は不粋だとされています。 鼻から香りを知覚することではなく、心で味わうことに重きを置いているため、あえて「聞く」と表現しているのです。 香道において香木は、長い時間をかけて生み出される自然の恵みだと考えられています。 したがって香木の香りを聞くことは、自然や地球を思うことにつながります。 また、香りによって心が穏やかになるため、いつもより深く自分と向き合うことが可能になるでしょう。 香道では、香りを通じて精神性を高めることも目的の一つです。 そのために、香道では香りを「嗅ぐ」のではなく、心で「聞く」ことが必要だとされているのでしょう。 香道はいつからはじまり、どう広まったのか 香道の歴史は、平安時代に遡ります。 奈良時代に仏教とともに伝来した香は、平安時代には宗教に関係なく貴族によって日常的に使われるようになったのです。 平安時代の貴族にとって、香りは身だしなみや自己アピールの手段の一つでした。 部屋や衣服に焚きしめて使われることが多かったものの、手紙に香木のかけらを添えることもあったと言われています。 また、薫物と呼ばれる練香を独自に調合することも広まりました。 各自が制作した薫物を持ち寄って比べる薫物合は、香道における組香の源流だとする説もあります。 鎌倉時代以降には、茶の湯とともに香は芸道として主に武士に愛好されるようになりました。特に室町時代に広まった東山文化の中心である足利義政は、香道の確立に大きく貢献した人物です。足利義政の命を受けて、志野宗信らが取りまとめた各種のルールは、江戸時代にさらに発展し、現代の香道につながっています。 日本の精神文化に欠かせない香道と香木の香り 三大芸道の一つである香道は、香木の香りを通じて自分の精神性を高めることを目的としています。 室町時代以降、特に武士の間に広まった香道は、日本の精神文化に欠かせないものでした。 自分と向き合う時間をもたらしてくれる香道は、忙しい現代人にとっても大切なものだと言えるでしょう。
2024.10.12
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香木が高い理由とは?「金より高い」ともいわれる理由
香木は香りを楽しむ嗜好品でありながら、価値の高いものとしても知られています。 香木は、心を落ち着けたいときにお勧めです。 香木にはさまざまな種類があり、中でも沈香は高級品として知られています。 今後、香木を購入したり売却したりしながら楽しむためにも、価値が高い理由を知っておくとよいでしょう。 香木はなぜ高い?その理由とは 香木は、その上品な香りで人々の心に安らぎを与えてくれますが、高値でのやり取りも多く、なかなか気軽に楽しめないと感じている方もいるでしょう。 香木の香りを楽しみたい方だけではなく、売却を考えている方も、香木になぜ高値が付くのか、種類によってどのくらいの価値が付くのかを知っていると、より利用しやすくなるでしょう。 香木の価格はどのくらいか 香木とは、広い意味では良い香りのする樹木を指しています。しかし、実は、ジンチョウゲ科の沈香の原木には香気がありません。 老木や倒木、枯れ木などの樹木内に生成された樹脂が凝結し、酸素に触れない状態で長年熟成されると香りを発するようになるのです。つまり、香木が生成されるまでには、数十年から数百年の年月がかかります。 そのため、大量生産ができず、希少価値が高くなるといえるでしょう。 人工的に栽培された栽培香木や、白檀・低品質な沈香については、1gあたり100円程度から入手できます。 しかし、沈香の中でも品質の良いものになると1g数万円の価値が付くことも。 品質によっては、さらに高額な価値が付くケースもあります。 なぜ香木の価格は高いのか 香木は生成されるまで数十年と長い年月がかかるため、希少価値の高いものです。 また、天然沈香と栽培沈香でも価格に違いがあります。 天然沈香は、雨風や病気、害虫などから受けたダメージを治癒しようと分泌する樹脂によって作られます。 一方、栽培沈香は、植林した沈香樹に小さな穴を開けバクテリアを増殖させて作られる人工の香木です。 天然沈香のほうが数は少なく希少価値が高い上に、香りの品質が良いため高値でやり取りされます。 また、香木はワシントン条約で附属書IIに該当する植物で、国際的な取引が規制されているのです。もともと希少価値の高い香木ですが、近年さらに価格高騰が続いています。 最高級品の香木には、金の数倍にあたる1g5万円の価値が付くケースも。これには、円安により日本円の価値が下落してしまったことも関係しています。さらには、産出国の物価や採掘コスト、人件費の上昇が相まって、より価値を引き上げる結果となりました。 高級香木・沈香の中でも価格に違いがある 沈香は、香木の中でも高級品に分類されます。 ベトナム産とインドネシア産があり、産地によって香りが異なるのも特徴です。 ベトナムでは100年以上前から沈香の採取が行われてきた歴史があります。 一方、インドネシアで採取が始まったのは、20年ほど前からとされています。 高級香木と呼ばれる沈香ですが、ものによって価格に違いがあることを理解しましょう。 沈香の価格を決める「香り」「重さ」「黒さ」 沈香と一口にいっても、ものによって価格は大きく異なります。 価値を決めるのは、香り・重さ・黒さの3点です。 沈香には、独特でほかのものでは表現できないすがすがしい香味があります。品質の良い沈香は、火を付けずともその上品な香りが漂ってきます。火を付けると、強い香りが漂いその上品な香りで人々を魅了するのです。 沈香は、油脂分が多いほど比重が大きく重厚感があります。 重くて水に沈むものほど、量が少なく希少価値が高いといえるでしょう。また、沈香は黒味が強いほど油脂の量が豊富であることを表しています。 その中でも烏黒色の脂光沢を見せるものは、極上品といわれています。次に価値が高いものの特徴は、灰黒色や褐色のものです。 より高価で希少な「黒沈香」 沈香の中でも黒沈香は、さらに希少で価値の高い香木です。 ベトナムでは、沈香樹の自然成長環境が原因で、現在黒沈香はほとんど採集できていません。インドネシアでは、少量ではあるものの黒沈香の塊を採集できます。 しかし、その生産量は全体のわずか0.1%以下。 採集量が少なく限られた量の黒沈香しか流通しないため、より高価が高いといわれています。 最高級の沈香「伽羅(きゃら)」 伽羅とは、沈香の中でも最高級といわれる香木。 伽羅は、ベトナムのごく限られた地域でしか採集できません。 高品質な伽羅は、奥深く濃厚な香りが特徴で、火を付けていない状態でも香りが漂ってきます。 また、火を付けてみると温かみのある香りで、ほんのり甘みも感じさせてくれ、リラックスできる空間を作り上げてくれるでしょう。 高品質な香木は入手しづらいため、高価格になる 数十年、数百年という長い歴史を経て生成される香木。 中でも品質の優れた天然沈香は、希少価値が高いため、購入価格が高騰しています。また、さらに採集量の少ない黒沈香は、高額で取引がされている香木です。 香木の価値の付き方を知り、購入する際や売却する際に知識を役立てましょう。
2024.10.12
- 香木とは
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香木の産地はどこ?
日本では、聖徳太子の時代から伝わり、時代を経て貴族や武士、町人など多くの人々に親しまれてきた香木。現代でも自宅でリラックスするために、手軽に利用できるお香もあります。香木の産地情報を知り、より香木の魅力を堪能しましょう。 香木の産地はどこ? 香木は、かぎられた地域でしか採取できない希少価値の高さがあります。香木の産地を知り、香りの特徴や違いに対する知識を深めましょう。 主な香木の産地 世の中には香りを持っている木が多くあります。香木は主に、白檀・沈香・伽羅の3種類です。種類ごとの主な産地は以下のとおりです。 白檀 インド・インドネシア・オーストラリア・ミャンマー・台湾・アフリカ・ハワイ・トンガ・チモール 沈香 ベトナム・インド・インドネシア・カンボジア・ミャンマー・マレーシア・中国・タイ・ラオス・西イリアン 伽羅 ベトナムのかぎられた地域のみ 香木と一口にいっても、種類によって多少産地が異なります。しかし、産地であってもその多くが山奥にしか生育していないため、大変希少な香りものなのです。特に伽羅は、産地自体がベトナムにかぎられています。そのうえ、狭い範囲の地域でしか採取できないため、希少かつ高価な香木なのです。 香木は日本でも採取できる? 香木は、熱帯や亜熱帯地域を中心に自生しており、日本では採取できません。香木の原木となる木が日本では自生できないためです。そのため、香木を楽しみたい場合は海外から輸入する必要があります。ただし、例外として小石川植物園では白檀が育てられています。生きている香木の原木を見てみたい方は、ぜひ小石川植物園を訪れてみてください。 産地ごとに香木の違いはある? 香木にはさまざまな産地がありますが、地域によって香木の種類や香りに違いがあるのか気になる人も多いでしょう。香木の香りは、産地によって違いがあります。香木の香りは、甘い・酸っぱい・辛い・苦い・塩辛いなどで表現されます。香木の香りは非常に複雑で、さまざまな味が絡み合って深みを出している点が魅力です。 白檀 白檀は、芯材部分から香りを放ちます。数ある産地の中でも、インド・マイソール産の白檀は特に品質が高く最高級品といわれており、老山白檀とも呼ばれています。扇子や数珠、仏像などの工芸品の素材としても活用されているのが特徴です。日本にもなじみ深い製品に使われています。香りは、爽やかであっさりとした甘みを感じられる、落ち着きのある香りが特徴です。 沈香 沈香は、日本に初めて伝わった香木とされています。長い年月をかけて形成された樹脂は、熟成され品質の高い香材となるのです。鎮静効果があるため、戦国時代では戦前に興奮した精神を落ち着けるためにも利用されていたといわれています。産地によって違いのある香木の香り。たとえば、インドネシア産の沈香は、辛みの中に酸っぱさが含まれた香りがあります。 また、沈香は苦みのある香りが特徴のタニ沈香、甘い香りが特徴のシャム沈香の2種類に分類されているのも特徴です。 伽羅 伽羅は、希少価値の高い沈香の中でもさらに貴重で、沈香の最高級品といわれています。沈香との違いは香りと樹脂の成分です。伽羅の香りは、五味に通じる香りと表現されており、複雑で深く濃厚な香りが楽しめます。その高貴な香りと希少価値の高さから、まぼろしの香木ともいわれています。 産地と気候と長い年月が育てる、香木 香木は、熱帯や亜熱帯の気候と産地の自然が長い年月をかけて育て上げる希少価値の高い香りものです。産地は複数ありますが、実際に生育している場所はごくかぎられた場所のみ。香木は産地によっても香りが異なるため、自分の好みの香りがする産地を探す楽しみもあります。産地による違いを感じながら、複雑で香り高い香木をぜひ堪能してみてください。
2024.10.12
- 香木とは
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香木はどうやってできる?
香道には欠かせない香木は、ベトナムやインドネシアなどの東南アジア原産のものが一般的です。 しかし、現地で香木がどうやってできるのかを知っている方は意外に少ないのではないでしょうか。 香木はどうやってできるのか 香木ができるまでには、長い年月がかかります。 植物である白檀も、よい香りがするようになるまでには、80年以上かかるとも言われています。 一方、木の樹脂からできる沈香がつくられるまでには、さらに膨大な時間が必要です。 香木:沈香(じんこう)ができるまで 香木の一種である沈香は、木から分泌された樹脂が長い時間をかけて変化し、匂いを放つようになったものです。 沈香の原木は、東南アジア原産のジンチョウゲ科ジンコウ属の常緑樹です。 自然災害や虫害などによってダメージを受けると、木は防御作用として樹液を出して傷を防ぎます。 やがて樹液のついた木が倒れたり枯れたりして土に埋まると、微生物などが木を分解します。 しかし、樹液のついた部分は分解できないため土や沼の中に残り、沈香になるのです。 沈香ができるまでには、木が成長するまでに数十年、倒木して腐敗し、樹液が沈香となるまでにさらに数十年の年月が必要だと言われています。なお、沈香には木質部が消失した後に採取される「死沈」と、生きている株を切って取り出される「活沈」の2種類があります。 「死沈」は表面が外気にさらされているため乾いており、形もそろっていません。しかし、沈香は油脂分が多いほど良質とされているため、油脂分だけを残した「死沈」のほうが一般的にグレードは高いと言えます。 一方、「活沈」は塊が大きく、整っているため彫刻などに向いています。 また、焚く前からほのかな香りがすることが「活沈」の特徴です。 香木が取れる国・地域 香木の産地は、東南アジアやインドなどに分布しており、日本では採取できません。 特に沈香については、ベトナムやインドネシアが産地として有名です。 ベトナムでは、中西部で100年以上前から沈香が採取されてきた歴史があります。 中でも一部地域で産出される高品質の沈香は、伽羅と呼ばれて珍重されてきました。 一方、インドネシアで沈香の採取が始まったのは、20年ほど前からです。 カリマンタン島とイリアン島が主な産地として知られています。 なお、爽やかな香りがするベトナム産に対して、インドネシア産の沈香の香りは、コクがあると言われています。 沈香ができるのは、樹木の生い茂るジャングルの土や沼の中です。 木の幹の中から見つかることもあります。 油脂分を多く含む沈香は、水に沈むため海岸では採取できません。 日本では、595年に淡路島に沈香が漂着したという記録が残されています。 しかし、水に沈む沈香の性質を考えれば、海岸で採取されたという記録は不自然です。 そのため、このとき見つかったものは香木ではなく、クジラから取れる竜涎香だとする説もあります。 香木はどうやって採取されるのか 沈香が見つかるのは、人が足を踏み入れるのが難しいジャングルの奥地です。 そのため、ベトナムやインドネシアでは、天然の沈香が取れそうな場所にあたりをつけた上で、数人がパーティーを組み、ジャングルに分け入って採取する方法が取られています。 1回の採取で、3週間から2〜3か月程度かかることも珍しくありません。 もちろん、ジャングルは野生の動物や虫なども生息する過酷な環境です。 その上、必ずしも質のよい香木が見つかるとは限りません。 香木は希少性が高く貴重なだけでなく、大変な苦労の末に採取されていることも高価な理由だと言えるでしょう。 近年栽培されている「栽培沈香」 天然の沈香は、いくつもの偶然が重なった上に長い年月をかけてつくられるため、入手困難です。 そのため近年、天然沈香の代替品として流通しているのが栽培沈香です。 栽培沈香はどうやってつくられる 沈香は、木が自らの傷を修復するために分泌する樹脂がもとになってできます。そのため、以前から木に故意に傷をつけて沈香を作り出そうとする試みが続けられてきました。 現在では、タイやベトナム、ミャンマーなどでアクイラリア樹にドリルや釘で穴を開ける方法を使い、栽培沈香がつくられています。 栽培沈香は、樹脂部分が多い部位を香木として販売するほか、粉末状にして香油だけを取り出す場合もあります。 天然沈香と栽培沈香の違い 栽培沈香は安価である一方、製造過程で薬品臭がついてしまうこともあり、品質は天然沈香におよびません。言うまでもなく、貴重で価値が高いのは天然沈香のほうです。 ただし、天然沈香は希少性が高く、入手が難しいため、沈香は低価格な原材料として多く流通しています。 また、栽培沈香の中にも質の違いがあり、上質なものは品質の悪い天然沈香に近づいているとも言われています。 長い年月を経て香木は香りを育てている 香木は、世界の中のごく一部の地域で、長い年月をかけて産出されます。また、ジャングルの奥地という過酷な環境で採取される沈香や伽羅は、非常に希少価値の高いものです。 最近では、安価な栽培沈香もつくられているものの、香りの質は天然沈香には敵いません。 長い年月を経て香木は香りを育てています。 ときには香木がどうやってできるかに思いを馳せてみると、いつもと違う楽しみ方ができるかもしれません。
2024.10.12
- 香木とは