世界三大織物といえば「ペルシャ絨毯(イラン)」「ゴブラン織(フランス)」「大島紬(日本)」の3つです。それぞれ異なる魅力があり、楽しみ方もまたさまざまです。繊細で高い技術を持つ織物製品に触れ、芸術的な感性を高めていきましょう。
世界三大織物とは
歴史的かつ伝統的な価値を有する世界三大織物をご存じでしょうか。伝統ある技術と製品の美しさによって世界を魅了している織物は「ペルシャ絨毯(イラン)」「ゴブラン織(フランス)」「大島紬(日本)」の3つです。世界三大織物と呼ばれるこの織物製品について、詳しく知らない方も多いでしょう。どれもが長い歴史と伝統を持っており、歴史的・芸術的価値の高い織物製品といえます。それぞれの歴史や特徴を知ることで織物製品に対する興味を深めていきましょう。
ペルシャ絨毯(イラン)
イラン国内で作られた手織りの絨毯をペルシャ絨毯といいます。耐久性や保温性、吸湿性に優れており、古くから敷物として活用されてきました。実用性が高い点もペルシャ絨毯の特徴です。また、バリエーション豊富な独自の文様や構図も、多くの人々が注目している魅力でもあります。その芸術性の高さから、敷物としてではなくタペストリーにして壁に飾る文化も生まれています。
ペルシャ絨毯はすべて手織りで製作されているため、同じ作品はこの世に一つもありません。手織りでは、下絵に沿って縦糸に横糸とパイル糸を絡めて結び目を作り織っていきます。ペルシャ絨毯の多くは、1本の縦糸にパイル糸を結び付けていくシングルノット式が用いられています。シングルノット式では結び目がシングルで小さいため、より緻密な文様の表現が可能です。
また、ペルシャ絨毯に利用される素材はシルク、ウール、コットンの3つです。横糸とパイル糸には主にシルクとウールが使われます。縦糸にはコットンやシルクが用いられます。ほかの糸の素材に関係なく、パイル糸にシルクが使われていればシルク絨毯、ウールが使われていればウール絨毯と呼ぶのが特徴です。なかには、耐久性と繊細な文様のどちらの品質も高めるために、ウール絨毯の縦糸にシルクを用いるケースもあります。
シルク絨毯はなめらかでツヤのある質感が特徴で、高級感あふれる雰囲気を醸し出してくれます。また、細い糸で織っているため文様が繊細で、芸術性が高い点も魅力の一つです。敷物としてだけではなく鑑賞用のタペストリーとしても利用されています。
ウール絨毯は耐久性に優れており、踏めば踏むほど文様の風合いが増していくといわれています。そのため、古くからウールの絨毯は製作されており、状態のよいオールドやアンティークなどの絨毯も高評価を受けているのです。
明確な起源はわかっていませんが、ペルシャ絨毯の歴史は古く、およそ3000~4000年前には製作されていたといわれています。現存する世界最古の絨毯は『パジリク絨毯』と呼ばれるペルシャ絨毯です。このことからも歴史の長い織物製品であるとわかります。
ペルシャ絨毯は歴史が長く、手織りで一つひとつが唯一無二の作品です。また、使うほどに味わいが増していき、時間が経つとともに異なる表情を見せてくれます。実用性に優れていて長く使い続けられるうえに、芸術性も高い特徴をもち世界中で人気を集めています。
ゴブラン織(フランス)
ゴブラン織とは、主にヨーロッパ圏内で作られている絨毯の織り方の一種です。平織りの仲間で、つづれ織りとも呼ばれています。縦糸は表に現れず、横糸だけでデザインを表現します。そのため、横糸には太めの糸が使われており、重厚感あるデザインが特徴です。一般的に、縦糸には4色以上、横糸には3色以上を使って構成されます。色や模様を繊細に表現するために横糸が数百色におよぶことも。
1本1本の横糸で模様を描いていくため、繊細で自由度の高い表現が可能となり、絵画のようなデザインが魅力の一つです。細かい作業で手間と時間はかかりますが、その分、クオリティの高い繊細な絵画的表現が可能です。
ゴブラン織の歴史は古く、起源とされるエジプトのコプト織りは紀元前15世紀にはすでに製作されていたといわれています。のちに、ヨーロッパやアジアなど世界各地に広がっていきました。つづれ織りがゴブラン織と呼ばれるようになったきっかけは、フランスのゴブラン家の織物工房で作られたつづれ織りのタペストリーを、ゴブラン織としたことから始まりました。
ゴブラン織の最大の魅力は、絵画のように繊細で風格のあるデザインです。何百色もの横糸を用いて描かれた多色多彩なゴブラン織は、美術的価値の高い作品といえます。芸術性の高さからタペストリーや室内装飾品として扱われることも多く、あのベルサイユ宮殿にも飾られています。
また、ゴブラン織は平織りの仲間で、パイルがありません。そのため、絨毯自体が薄く毛足がないためお手入れが簡単な点も、評価が高いポイントです。コロコロを転がすだけで簡単にホコリやごみが取り除けます。平織りの絨毯は薄くて軽いため、持ち運びにも便利です。お手入れとして部屋干しする際も移動が簡単に行えます。
ゴブラン織はほかの織物と比べて縦糸と横糸をしっかり織り込んでいます。そのため、薄くても丈夫な絨毯が出来上がるのです。丈夫なため土足文化の欧州でも好んで利用されており、負担がかかりやすい椅子やソファーの生地に使われることも。ゴブラン織は緻密で豪華なデザインを長く楽しめる織物製品です。
大島紬(日本)
世界三大織物の一つは日本にあります。大島紬は日本を代表する高級着物の一つです。鹿児島県の奄美大島発祥のシルクの織物で、手作業で紡いだシルクに泥染めと呼ばれる技法で染色を行い、手織りで作られていきます。日本の和の雰囲気に合わせた渋い色合いやしなやかな風合いが特徴です。
大島紬については、奈良東大寺の734年の献物帳に記録が残っており、古くから作られていたとされています。明治初期ごろから商品用に生産されるようになり、大正時代にはこれまでの10倍以上の生産が行われるようになりました。1945年に第二次世界大戦の影響を受け生産が一切停止になりましたが、戦後1954年に本場奄美大島紬協同組合が設立され、生産が再開されました。2020年代以降は着物だけではなく財布やバッグ、ネクタイなどにも用いられています。
本物の大島紬と呼べるのは、以下の条件を満たした織物だけです。
・シルク100%で先染手織りである
・平織りである
・締機によって手作業で加工されている
・手機で織られている
大島紬は泥染めが有名ですが、代表的な染め方には「泥大島」「泥藍大島」「色大島」「白大島紬」「草木泥染大島」などがあります。大島紬の柄はさまざまありますが、基本的には奄美大島の自然をモチーフにした作品が多い傾向です。たとえば、奄美大島に自生するソテツをモチーフにした柄や、亀の甲羅をモチーフにした柄などがあります。
宮崎県や韓国などでも大島紬と呼ばれる織物が作られていますが、世界三大織物の大島紬とは別物としてとらえましょう。本場の大島紬は、伝統的な技法かつ奄美大島で作られたものに限ります。
世界に誇る技術が受け継がれる、世界三大織物
世界段大織物はどれも歴史と伝統が受け継がれている素晴らしい織物です。それぞれ違った魅力があるため、興味を持った織物に直接触れて楽しむのもよいでしょう。