掛軸は、絵画や書道などの美術作品をより魅力的に展示するために装飾された作品を指します。
各時代や国の風景、自然、文学、時代背景などさまざまな環境の影響を受けて描かれた掛軸には、それぞれ違った魅力があります。気に入った掛軸を部屋に飾れば、作品の季節感や情緒と部屋の雰囲気や空間が調和し、見る者に癒しと感動を与える空間づくりが可能です。掛軸には大きく分けて日本掛軸と中国掛軸の2つがあります。こちらではそれぞれの特徴を複数の観点から解説していきます。
掛軸に興味をお持ちの方は、違いを理解することでより掛軸鑑賞を楽しめるでしょう。また、買取を行う際のポイントとしても覚えておきたい知識ですので、ぜひご参考ください。
目次
掛軸はもともと中国から日本へ伝来した
掛軸は、平安時代に中国から日本へ伝わったとされています。空海が遣唐使として平安時代に唐(当時の中国)へ行った際に、曼荼羅を持ち帰ったといわれています。この歴史をきっかけに、仏画の制作とともに掛軸の技術と文化が日本で発展していきました。
掛軸はもともと仏教を広めるための道具として利用されてきました。僧侶や貴族が掛けて拝するための仏画が描かれた礼拝の道具です。仏画をどこへでも持ち運べるよう巻物型になっています。桐箱に収納できるため破損しにくく、良い保存状態を維持できる特徴があります。
掛軸と一口にいっても種類はさまざまで、仏画や書画、花鳥画、山水画、浮世絵、美人画などがあります。骨董品としての価値も作品や作家によって大きく違いがあるのも特徴の一つです。
日本と中国の掛軸の違い
そもそも掛軸とは、絵画を鑑賞したり保管したりしやすいよう表装したものを指します。
日本では、中国から伝わった当初は仏画を持ち運び礼拝するために使用されていましたが、江戸時代ごろからは浮世絵が大衆文化として多くの人々に広まり、掛軸が庶民にとっても身近な娯楽の一つになりました。
日本の掛軸は住宅文化と一体化した芸術作品として捉えられている特徴があります。日本家屋の床の間に飾る芸術品として掛軸は重宝され、一般家庭においても掛軸がよく飾られていました。
現在では、洋風の住宅が増えたことから床の間が減少し、自宅に掛軸を飾る家庭も少なくなってきたように感じますが、茶室や旅館の部屋など日本の古き良き建築美が残る場所では今でも掛軸が飾られているでしょう。また、現在は美術品・芸術品としての価値が高まり、美術館や博物館では多くの歴史的な掛軸を拝観することが可能です。飾られる場所が違えど、日本掛軸は古くから現在まで日本人に愛され続けている芸術品といえるでしょう。
現在の中国では、自国の文化財保護を目的に、文化財の国外への持ち出しが禁止されています。
文化財とは、掛軸を含む、絵画や陶芸品などの骨董品が該当します。2007年に、1911年以前に制作された文化財は一律国外への持ち出しが禁止されました。また、歴史的・芸術的・科学的価値を有すると判断された文化財については、1949年以前に制作された作品は原則国外への持ち出しを禁止する規定も定められています。
掛軸の形状の違い
日本と中国の掛軸の違いとして、形状の違いが挙げられます。日本の掛軸は一般的に表木が半月形です。掛軸の裏面は壁に沿うよう平らに作られており、正面から観察すると丸くなっています。
一方、中国の掛軸は表木が四角い形をしているものがほとんどです。また、中国の掛軸は軸先の大きいデザインが多く採用されています。素材としては、高級素材がよく使われており、柄が彫り込まれている軸先もよく見かけます。
技法の違い
中国の掛軸に描かれている画は、力強い筆使いと線が特徴です。輪郭をはっきり描くため鋭く迫力のある画が印象的です。一方、日本掛軸は墨のにじみ、ぼかし、たらしこみなどによる表現方法をうまく使っています。中国掛軸は「筆重視」、日本掛軸は「墨重視」の傾向が見られます。
表装の違い
日本掛軸の表装様式の基本は、「真」「行」「草」の3形式があります。さらに「真」「行」の中でも「真」「行」「草」に分けられ、「草」では「行」「草」に分けられます。
「真」の表装は佛表装とも呼ばれており、「南無阿弥陀仏」の各号や観音図、曼荼羅、阿弥陀尊像、頂相画など佛事に関係する画を仕立てる場合に用いられる形式です。
「行」の表装は「大和表装」や「幢補(どうほ)」とも呼ばれており、日本では最も一般的とされる仕立ての形式です。禅僧の墨蹟、絵巻物、歌切、色紙、やまと絵、懐紙など幅広く利用されている特徴があります。
「草」の表装は「茶掛表装」や「輪補(りんぽ)」とも呼ばれており、禅僧や茶人によって描かれた書画に用いられるなど茶道に関連する場合に用いられる仕立て形式です。
一方、中国掛軸の表装は、中国明王朝時代に流行した袋表装(丸表装)の形式で仕立てられている作品がほとんどです。また、その他にも明朝仕立(文人表装)や太明朝仕立がよく用いられています。
絵画と詩句の有無の違い
中国には古来から「詩画一如」「書画同源」という考え方があります。「絵画」と「書」は、本来同じ根源から生まれたもののため、「絵画」と「書」は切り離せないものであるという考えです。そのため、中国の掛け軸にはそれぞれが描かれているものよりも、絵画に関する詩句が添えられた掛軸作品が多く残されています。一方で、日本の掛け軸は「絵画のみ」「書のみ」の作品が多い傾向です。
画風やモチーフの違い
掛軸のモチーフは複数あります。たとえば、動物画や花鳥画、山水画、美人画などです。同じモチーフの画でも、中国と日本の作品ではいくつかの違いがみられます。たとえば、両国でよく用いられる山水画は、中国と日本では方向性の違いが感じられます。
中国では、山や川など現実の存在をそのまま描くのではなく、心の中に存在する究極の理想郷を追求し描くことが特徴的です。そのため、自然の風景を幽玄な雰囲気で描いた画風の作品が多く存在します。
日本では、飛鳥時代から山水の風景が描かれており、各時代で中国山水画の影響を受けた作品が多く誕生しています。代表的な山水画家として知られている雪舟は、中国画の模倣から脱した独自の日本的山水画を確立させました。
イメージとして、日本の掛軸は四季を感じられるものとして制作されており、中国の掛軸は山の幽玄さを前面に出しているような感覚があります。
また、書や絵画などの美術作品には必ずといっていいほど落款と署名が施されています。制作した大切な掛軸の作者が誰かを判別する重要な役割を持っています。日本では、単なる人物を特定するための証として扱われていますが、中国ではそれ以上の価値をもっているのも違いの一つです。中国掛軸における落款は、そのもの自体に芸術的価値が付与されています。中国掛軸が落款自体に価値を見出しているのは、文人としての教養や技術の高さを示すものであったからとされているようです。
日本と中国、どちらの掛軸が人気?
日本掛軸と中国掛軸は異なる特徴を持ち合わせており、それぞれに違った魅力があります。どちらも人気の作品が多数存在し、価値が高い作品も多く出回っています。日本掛軸は国内外問わず人気が高い傾向です。
しかし、近年は中国美術の人気も高まっており、中国掛軸も注目を集めています。
日本と中国、それぞれで発展した掛軸文化
中国から日本へ伝わった掛軸文化はそれぞれ独自の発展を遂げていきました。中国掛軸は、詩と絵画を融合させた芸術表現として発展していき、筆の勢いや線の力強さが織りなす作品は見る者に深い感動と鑑賞の楽しさをもたらすでしょう。日本掛軸は繊細な技術を用いた芸術作品で、ぼかしやにじみ、たらしこみなど墨の濃淡をうまく利用して描かれた絵画は深い趣を感じられます。日本ならではの四季をさまざまな構図で美しく描かれた日本掛軸は贈り物としても喜ばれるでしょう。
日本や中国の掛軸を手放そうとお考えの方や遺品整理で出てきた掛軸の価値を知りたい方などは、ぜひ一度専門の査定士に査定を出してみてはいかがでしょうか。