自分でつくる掛軸の愉しみ
日本の伝統的な芸術作品で古くから愛され続けている掛軸。
有名作家の書画や絵画を飾って楽しむだけではなく、自分で掛軸を書いて飾るのもまた魅力の一つです。
自分で掛軸を書く場合、どのような言葉を選べばよいか迷う人も多いでしょう。掛軸によく書かれている言葉には、禅語や季節の言葉、仏事の言葉などがあります。
掛軸作品をより楽しむために、文字の雰囲気と言葉の意味を理解して、気に入った言葉を掛軸に書いて飾ってみましょう。
どんな言葉を掛軸にする?
掛軸を自分で書くとき、どのような言葉を書けばよいか迷うものです。
見た目のバランスだけではなく、一言一言に込められている意味に耳を傾けてみるのも良いでしょう。
掛軸にはよく禅語が用いられます。
禅語は禅の教えを説いた言葉で、心の動きを知るための大切な言葉です。
そのため、掛軸として飾ることでその意味を自分の中に落とし込み、人生に生かすというのも良いでしょう。
また、禅語には客人をおもてなしする言葉もあるため、シーンに合わせて言葉を選んでみてください。
掛軸にしたい「禅語」
日日是好日(にちにちこれこうにち)
日日是好日とは、毎日が大切な日であるという意味と、その日に起こったことの良し悪しにかかわらずその日をありのままのいい日として受け入れるという意味があります。
どちらも1日1日が大切な時間であることを教えてくれる言葉です。
また、一喜一憂せずひたむきに頑張ることの大切さも説いています。
一期一会(いちごいちえ)
一期一会とは、一生に一度きりの機会という意味です。
一期一会は普段からよく使われる言葉の一つですが、実は茶道が発祥といわれています。
今この瞬間を流れる時間は一生に一度きりであるから、しっかりとおもてなしをするという茶室の主人の心遣いを表す言葉です。
和敬清寂(わけいせいじゃく)
和敬清寂は茶道の心得を示す言葉で、千利休が唱えたお茶の精神としても知られています。
和敬清寂とは、主人と客人がお互いの心を和らげて謹み敬い、茶の湯の席を清浄にするという意味です。
「和」は主人と客人がお互いに心を開いて相対すること、「敬」はお互いを敬うこと、「清」は心の清らかな状態を、「寂」はどのようなときも動じない心を表しています。
清坐一味友(せいざいちみのとも)
清坐一味友とは、小さな茶室に数人の仲間が集まり、1つの釜の茶を通じてともに味わい、心も一つになったすがすがしさを表す言葉です。
且坐喫茶(しゃざきっさ)
且坐喫茶とは「まあ座ってお茶でも飲んでいってください」と相手の緊張をほぐす意味があります。
掛軸にしたい「季節の言葉」
花知一様春(はなはしるいちようのはる)
花知一様春とは、花が咲いて春になり、やがて月がでて明月の秋となる様子を表す言葉です。
自分自身がそこに無心でいることで、本来の自分になれるという意味合いがあります。
雲悠々水潺々(くもゆうゆうみずせんせん)
雲悠々は雲が空をゆったりと漂い悠然としている様子を表しています。
水潺々は川の水がさらさらとひとときも休まず流れ続けている様子を表現している言葉です。
空には大きな雲が浮かび、小川がさらさらと流れる情景が目に浮かぶ涼しげな禅語で、夏に飾る掛軸としてお勧めの言葉といえます。
山是山水是水(やまはこれやまみずはこれみず)
山是山水是水とは、山は山、水は水とお互い別のものですが、自然を一緒に形成しているという意味があります。
山是山水是水も7月や8月など夏の暑い時期に掛けたい掛軸の言葉です。
山や水の文字から涼しさを感じられるでしょう。
自分は自分で他人にはなれませんが、誰もがありのままの自分で他人と接することでバランスが取れるのだと気づかせてくれる言葉です。
山高月上遅(やまたかくしてつきののぼることおそし)
山高月上遅とは、山が高いと月が昇るのも遅いが、高い山を昇りきった月はすでに光り輝いているという意味があり、大器晩成を表現した言葉です。
月が高い山に遮られてなかなか姿を現さないのと同じように、何かを達成するためにはそれに見合った労力や時間がかかります。
しかし、すぐに結果はでなくても諦めずにコツコツと続ければ努力が報われるという考えを表しています。
歳月不待人(さいげつひとをまたず)
歳月不待人とは、その名の通り歳月は人を待ってくれないという意味があります。
日常的にも良く使う言葉の一つで、掛軸としては12月によく飾られます。
歳月は人を待ってくれないため、今を楽しみましょうという意味も込められている言葉です。
12月にこの言葉の掛軸を飾り、今年が終わりに近づいて何かやり残していることはないかと振り返ってみるのも良いでしょう。
「仏事」にふさわしい掛軸の言葉
南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)
南無阿弥陀仏は浄土宗、浄土真宗、天台宗などで唱えられている念仏です。
南無阿弥陀仏と唱えると死後に阿弥陀如来が自分のもとを訪れ救いに導いてくれ、極楽浄土を連れて行ってくれるといわれています。
南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ)
南無釈迦牟尼仏は曹洞宗、臨済宗、黄檗宗などの禅宗で唱えられている念仏です。
南無は仏様の御心のまま教えに帰依しますという意味があり、釈迦牟尼仏はお釈迦さまを意味します。
つまり、私はお釈迦さまの教えに帰依します、すべてお釈迦さまの御心にお任せしますという意味のお経です。
南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)
南無大師遍照金剛は真言宗で唱えられている念仏です。
大師とは真言宗を開いた空海を表しています。遍照金剛は真言宗の本尊佛である大日如来を表現する言葉です。つまり、私は空海や大日如来の教えに帰依しますといった意味が込められています。
南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)
南無妙法蓮華経は日蓮宗で唱えられているお経です。
妙法を蓮華によってたとえたお経に心の底から帰依するという意味があります。法事では、南無妙法蓮華経が書かれた掛軸を飾ることもあります。
大切にしたい言葉を掛軸にしよう
絵や書の一つひとつに意味が込められている掛軸は、単なるインテリアではなく、見る人へ気持ちを伝えるための手段でもあります。
茶席で飾られる掛軸には、来客へのおもてなしの心が込められています。
見た目の良さも大切ですが、自分にあった言葉や大切にしたい言葉を選んで飾ることで、より掛軸作品が魅力的なものになるでしょう。
せっかく掛軸を自分で書くなら、言葉の意味を調べてお気に入りの一文を見つけてみてください。