現代でも和室や床の間の壁に飾られている掛軸。
家の様式の変化とともに掛軸を飾る文化も落ち着いてしまっていますが、日本の伝統文化として古くから親しまれています。また、お茶の文化とともに発展してきた掛軸文化は茶席でも活躍する芸術品です。
普段掛けや季節掛けなど特徴をもった掛軸の種類を知ることで、より掛軸鑑賞の楽しみ方が増えるでしょう。
目次
掛軸はいつから床の間に飾られているのか
何気なく床の間に飾ってある掛軸が、いつの時代から飾られるようになったのか知らない人も多いでしょう。
掛軸文化は日本で古くから親しまれてきた伝統的文化です。掛軸の起源は中国であるとされており、飛鳥時代に初めて日本に入ってきたといわれています。
当時は仏教を広めるための道具として仏画の掛軸が伝わってきました。当時は、僧侶や貴族が掛けて拝するのが主な用途でした。その後、時代の変化とともに、掛軸のもつ目的も変化していきます。
床の間に掛軸を掛けだしたのは鎌倉時代から
鎌倉時代になると掛軸は仏画だけではなく、頂相や詩画軸も描かれるようになりました。頂相とは宗派の祖師の肖像画のことです。詩画軸は描かれた絵の上部に漢詩を書く画を指します。また、同時代に宋朝の表具形式が日本に伝わってきました。その後、日本独自の変化を遂げ日本掛軸の基本的な形式が確立するきっかけとされています。
鎌倉時代後期から室町時代にかけては、書斎を主室とする書院造りが流行り、書院には押板と呼ばれる奥行きの浅い横長の厚い板を敷いた部分があります。
もともと押板には礼拝用の花瓶・香炉・燭台の3点セットが置かれていました。慣習化されていった礼拝をしっかり行うために造り付けの床である押板床が発展していきます。
さらに室町時代に入ると、武家屋敷内で主君を迎える場所をほかよりも一段高くするために、押板が取り付けられました。
背景の障壁画にあわせて主君の権威や格式を表すために、掛軸を掛けるようになったのが現在の床の間の始まりとされています。
室町時代には「観賞用」「茶道具」として愉しまれるように
室町時代後期ごろからは、これまでの仏画掛軸を掛けて拝する文化から、絵画芸術としての文化が広まっていきました。
当時、中国画人が描いた書画を上中下の3段階に分類するようになり、のちにやまと表装と呼ばれる「真・行・草」と呼ばれる格式を表現する表装形態が確立されていきます。
また安土桃山時代には武人の間で茶の湯が盛んに行われました。
お茶の文化を大成させたといわれる千利休の影響もあり、茶の湯の席に掛軸を飾る文化が主流になっていきました。
掛軸には禅の心をあらわす禅語が書かれた書が一般的に用いられ、茶席は僧侶の精神性に触れて敬意を払う場として利用されるようになっていきます。また、茶道の心に通ずる禅語が書かれた掛軸は、茶道のなかで最も格式の高い大切な道具とされています。
現代では、床の間のない家も増えたが…
現代では、洋式の一軒家やマンションが増えたことで和室や床の間のない家庭も増えてきています。それと同時に掛軸を飾る文化も減少してきました。伝統工芸の一つ掛軸に接する機会が減ってきている現状があります。
しかし、掛軸は美しい自然や禅の心を感じられるかけがえのない日本の伝統です。
現代では洋装のリビングや玄関にあうような表装を施してくれる業者もあります。掛軸に関する知識や楽しみ方を知る機会が減ってしまったなか、掛軸がまた身近なものとなるためにはその選び方を大切にしたいものです。
床の間の掛軸のサイズは?
掛軸のサイズは一つではなく複数あります。
そのため自宅の床の間の大きさにあったサイズの掛軸を選ぶことが大切です。
標準的な掛軸のサイズは横幅が54.5cm、縦幅が190cmで、「尺五」と呼ばれています。この尺五を基準として、尺五より小さいサイズを「尺三」、大きいサイズを「尺八」と表します。おおよそのサイズは、尺三は横幅53cm、縦幅188cm、尺八は横幅64.5cm、縦幅190cmです。
床の間にあう掛軸のサイズは、掛軸の横幅が床の間の横幅の3分の1といわれています。掛軸を購入する際は、自宅の床の間のサイズを測ってから、横幅のサイズがあう掛軸を選ぶとよいでしょう。バランスが整い、より掛軸や空間を魅力的なものにしてくれるでしょう。
床の間の掛軸にはどんな書画がいい?
床の間に飾る掛軸はサイズをチェックすることも大切ですが、せっかく鑑賞して楽しむため、描いている絵や書にも着目したいものです。掛軸は主に年中掛けられる普段掛けと、季節の景色や情景を楽しむ季節掛けの2つに分けられます。どちらも違った楽しみ方や魅力があります。
床の間にあう普段掛け掛軸
普段掛け掛軸とは、季節問わず一年中掛けられる掛軸を指します。
年中掛けとも呼ばれています。普段掛け掛軸の定番は、山水画や四季の花が描かれた四季花などです。また魔除けの虎や吉祥の龍、幸運を表現するフクロウなども普段掛け掛軸として用いられています。そのほか、年中掛けられる掛軸としては赤富士や四神図、翁、寿老人、瓢箪などがあります。
掛軸は年中掛けっぱなしにしていると傷みが早くなってしまうため、定期的な掛け替えが必要です。そのため、普段掛け掛軸は2本以上もっておくとよいでしょう。最低でも2本もっておけば、交互に掛け替えられるためお勧めです。
普段掛け掛軸として利用しやすい定番の絵はありますが、必ず定番の絵でなければいけないわけではありません。掛軸には自分の好きな絵を飾ることも大切です。本来の掛軸は季節や用途にあわせて掛け替えるものですが、あまりハードルを上げすぎず普段からお気に入りの掛軸を掛けて鑑賞するのもよいでしょう。
床の間にあう季節掛け掛軸
季節掛け掛軸とは、季節にかかわる絵や書が書かれた掛軸を指します。
たとえば、季節を象徴する花や草木、景色、生き物などが描かれます。季節掛け掛軸は日本特有の美しい四季を楽しめる芸術品の一つです。
日本の四季は春夏秋冬の4つですが、季節掛け掛軸は、季節の移り変わりにあわせてさらに細かく分けられる場合もあります。
春の季節掛け掛軸の代表としては桜があります。
桜は誰もが知る日本を象徴する花です。春掛けの代表的な画題で、床の間に飾れば自宅でもお花見気分を味わえるでしょう。
ほかには木蓮があります。大きな紫色の花が見事に咲き誇る姿は気品を感じられる掛軸です。
夏の季節掛け掛軸の代表としては朝顔があります。
夏の花といわれて真っ先に思いつく花の一つが朝顔ではないでしょうか。夏の風物詩として知られる朝顔は、朝露が立ち込める夏の朝に次々と花開く姿が、情緒豊かで印象に残ります。古くから日本人に親しまれている花で、江戸時代には2度の朝顔ブームがあったとされています。
そのほか夏の掛軸の題材としてよく描かれているのが、カワセミです。
鮮やかな青色の羽をもち、動く宝石ともいわれています。実は季節を限定する生き物ではありませんが、青い羽根をもつカワセミが水辺にたたずむ姿は、さわやかで涼しげな印象を与えるため、夏の季節掛け掛軸として親しまれています。
秋の季節掛け掛軸としては紅葉が人気です。
夏は桜、秋は紅葉といわれるほど、日本の秋を美しく彩っている植物といえます。鮮やかな赤や黄色の葉は、掛軸に描いても映える画題です。鳥を一緒に描いて花鳥画とする場合もあれば、引きで描いて風景画とする場合もあります。さまざまな表情を見せてくれる紅葉は作家にとっても腕がなる画題といえるでしょう。
冬の季節掛け掛軸として人気が高いのは雪景が題材の画です。
雪景といってもさまざまな風景を題材にした掛軸があります。雪景色の山水画を描いた作品もあれば、日本の名所が雪に覆われている様子を描いた風景画の作品もあります。とくに神社仏閣の雪景は非常に美しく、古くから好んで描かれてきました。
仏事や慶事にも掛軸を選ぼう
仏事とは、法事や弔事、お盆、お彼岸などの仏教に関連する行事全般を指します。
また仏事で掛けられる掛軸を仏事掛けと呼びます。仏事掛けは主に字像と絵像の2種類です。字像とは文字が書かれた掛軸で、絵像は絵が描かれた掛軸を指します。字像の掛軸としてよく書かれている文字は「南無阿弥陀仏」です。絵像の場合は、「十三佛」や「観音菩薩」、「阿弥陀来」などが描かれた作品があります。
床の間の掛軸選びで、日本の心を愉しもう
古くから日本で親しまれてきた掛軸は、床の間に飾る鑑賞用としても親しまれてきましたが、茶席で茶の精神を表す大切な道具としても扱われてきました。
現代では床の間が減り、家庭で飾られることも少なくなりましたが、自宅に飾りたいと考えている方はぜひ掛軸の種類や特徴をみて自分好みの掛軸を見つけてみてください。
また、掛軸は長期間掛け続けてしまうと傷みが早くなるため2作品以上購入して、一定期間で取り替えると長く楽しめるかつ、さまざまな題材を楽しめるでしょう。