掛軸作品というと、風景や人物の絵が描かれている絵画や、名言や思想が書かれた書画などを思い浮かべる人も多いでしょう。
さまざまな背景をもって描かれる掛軸作品。
なかには、記号の○△□だけが描かれた作品もあります。
掛軸の『○△□(まるさんかくしかく)』に込められた、深い意味
絵でも書でもない記号が描かれた『○△□』には、どのような意味が込められているのか気になるでしょう。
『○△□』に込められた意味を知り、掛軸作品や禅についての理解を深めていくと、より芸術作品の楽しみ方が増えていきます。
『○△□』は仙厓義梵のミステリアスな作品
『○△□』とは、仙厓義梵(せんがい ぎぼん)が描いた禅画作品。
仙厓義梵は、独特なゆるい画風で禅画をメインに描いていた江戸時代の絵師です。
禅画とは、禅僧が禅の教えを説くために、教えを絵で表した絵画を指します。
『○△□』はシンプルな禅画で、紙の上に左から丸・三角・四角が少しずつ重なるように描かれています。英語圏では、この作品のタイトルを『The Universe』と呼ぶことも。
描かれた正確な時期はわかっていませんが、仙厓義梵が70代のころに使っていた達磨型印が記されているため、1819年から1828年ごろの作品と推測されています。
現在、この『○△□』は、出光美術館に所蔵されています。
『○△□』にはどんな意味がある?
記号だけが描かれた『○△□』には、どのような意味が込められているのでしょうか。
『○△□』の意味は、一つだけではなく、さまざまな考え方があります。
人によって解釈の分かれるこの作品は、仙厓義梵の最も難解な作品といわれています。
深みのある作品に込められた思想を紐解き、もう一度鑑賞し直してみると、これまでとは違った感動が待ち受けているかもしれません。
宇宙
○は満月で、円満な悟道の境地に至るための修行の階梯を図示しているといわれており、この世のすべての存在を3つの図形に代表させ、大宇宙を書として表しているという説があります。
三密
『○△□』は、密教における三密を表しているとの見解もあります。
三密とは、密教の用語で身密・口密・意密の総称です。
3つの密を整えると即身成仏ができるという密教の教えがあり、『○△□』は丸を三密を全うした状況に見立てて、三角は悟りに達せない仙厓自身を表しているといわれています。
五大あるいは六大
大日経では、地、水、火、風、空を五大と呼び、空海がここに識を加えて、この6つを宇宙の要素である六大として考えました。
五大は、四角・丸・三角・半円・宝珠形の5つを図形化して組み合わせ五輪塔として表し、下三段には四角・丸・三角が入ります。
仙厓は、六大の思想に影響を受け、『○△□』でこの考え方を表現したのではないかともいわれています。
解釈の分かれる『○△□』に思いをはせる
仙厓義梵が描いた『○△□』は、現代までにさまざまな解釈がされてきており、実に難解な作品といえます。
いくつもの考え方を受け、もう一度『○△□』を鑑賞すると、また違った自分だけの解釈が生まれるかもしれません。
解釈の分かれる『○△□』を、宇宙や禅の心に思いをはせながら、掛軸鑑賞をゆっくり楽しんでみてはいかがでしょうか。