日本では床の間や茶室に掛軸を飾る文化が古くからあります。
掛軸に描かれるモチーフはさまざまありますが、なかでも人気なのが龍の姿です。
特に天まで昇っていく様子が描かれた龍の掛軸は、縁起の良い掛軸として人気を集めています。
昇り龍の掛軸には前向きな意味が込められているため、意味や由来を知ることで適切なタイミングで飾れるでしょう。
龍の迫力のある掛軸が気になっている方は、ぜひ昇り龍の掛軸に込められた意味を探ってみてください。
昇り龍とは
龍は掛軸のモチーフとしてよく描かれています。
龍は神聖なものの象徴として古くから崇拝の対象となっている生き物で、水神の一種ともいわれています。
また、古代中国では四方四神という思想に出てくる守り神とされており、日本でも古来から天候を司る神として雨乞い祈願をすることもあり、農耕の神として広く浸透しています。
龍の発祥は中国とされており、現代にいたるまで中国文化を象徴する信仰の対象です。
中国では、石器時代に陶器の文様や像に龍らしきものが発見されています。
青銅器時代には、祭礼用の青銅器にも龍の姿が描かれるようになりました。
当時の人々は、自然が持つ巨大なエネルギーを人間にはない神秘的な能力を持つ動物によるものと考えていました。そこから空想的な生き物が生まれ、龍が誕生したといわれています。
日本では、弥生土器に龍のような図案が描かれており、弥生時代にはすでに中国の龍のイメージが伝わっていたと考えられています。
また、仏教で仏法の守護神とされている龍はインド神話に登場する「ナーガ」です。
ナーガは蛇の精霊の一種とされており、コブラが神格化され聖獣となった姿とされています。半人半蛇で四肢や髭、角などはなく、7つの頭を持った姿で描かれることも。
中国の龍とは異なるデザインですが、どちらも蛇をモチーフにしている共通点があります。
また、どちらも雨をもたらす水の神であったことも共通点の一つです。
現代の日本の龍神信仰は、中国とインドの龍のイメージが組み合わさって誕生したといえるでしょう。
中国とインドの龍と、日本にもともとあった水神や蛇神などの自然信仰が結びつき、独自の龍神信仰へと発展していきました。
やがて、日本の龍神は、雨を降らす神から稲作の豊穣神や天候を司る神に変化し、信仰されていきます。
また、龍神は水中に棲み天に昇る姿から、運気を上げる縁起の良い生き物のイメージが出来上がっていきました。
縁起の良い龍の掛軸でよくみられるのが、昇り龍の絵です。
龍が天に昇っていく姿を描いた掛軸には、勝負運上昇、立身出世など、上昇志向を後押しする意味合いが込められています。
掛軸に描かれる昇り龍の絵は、地上に降りてきた龍が人々に願いを叶える如意宝珠を授けた後に、再び天に昇っていく様子を描いています。そのため、降り龍には宝珠が描かれますが、多くの昇り龍には宝珠が描かれていません。
また、昇り龍は子どもの人生の大願成就を願うモチーフでもあります。
急流を登りきり登龍門を通過した鯉が、天まで昇ると龍神に変化するという言い伝えがあり、それが由来で大願成就の願いが込められるようになりました。
また、上野東照宮には、左甚五郎が制作した降り龍と昇り龍の彫刻が彫られていますが、頭が下を向いているほうが昇り龍と呼ばれています。偉大な人ほど頭を垂れることから、下を向いているほうを昇り龍と呼ぶそうです。
昇り龍の持っている玉…「如意宝珠」
掛軸に描かれる昇り龍や降り龍の絵には、如意宝珠と呼ばれる玉が一緒に描かれる場合があります。
描かれ方は作家によってさまざまで、手に持つ姿や口に加えている姿などがよく描かれています。
如意宝珠とは、あらゆる願いを叶える力を持った玉のこと。完全な球体で描かれることもあれば、玉ねぎのように先がとがった形で描かれることも。
如意宝珠の「如意」は意のままにという意味を持ち「宝珠」は宝物の意味を持っています。
如意は仏教発祥の言葉であることから、如意宝珠は仏教における宝物です。
また、サンスクリット語では、思考を意味する「チンタ」と、珠を意味する「マニ」を組み合わせて「チンターマニ」と呼ばれています。
仏教では、感情や感覚を苦と取るか楽と取るかを左右するのは思考であると考えられており、思考を変えることで苦から楽に変えられるとされています。そのため、思考の珠であるチンターマニは世界を変える力を持つ宝といわれるようになりました。
如意宝珠は龍王の脳からとれる珠で、龍の神通力の源とされています。
思考が存在するとさまざまな煩悩が生まれてしまうため、龍は如意宝珠を手元に置いている限り悟りを開けないのです。仏教では成仏を願う龍女が釈迦に如意宝珠を奉納して悟りを得たという話もあります。
昇り龍の掛軸はいつ掛ける?
昇り龍の掛軸は古くから日本で描かれてきた作品です。
力強く天まで昇っていく龍の姿には大願成就の願いが込められ、縁起物として人気を集めています。
登龍門の話とあわせて、子どもの健やかな成長や将来立身出世できるようにと願いを込めて、端午の節句に掛けられることもあります。
こうした前向きな意味が込められている昇り龍の掛軸は、季節を問わず飾れるため、お気に入りの昇り龍の掛軸を見つけたら年中掛けとして利用するのも良いでしょう。また、お祝い事や縁起物としてもお勧めです。
毎日見る掛軸なら、昇り龍のパワーをもらえる
龍は水神の一種とされており、起源は中国で日本では弥生時代にすでに伝わっていたと考えられています。
その後日本に入ってきた仏教は、インド神話に登場する蛇の精霊ナーガを守護神としていたことから、現代における日本の龍神は、中国の龍とインドの龍のイメージが混ざり合ったものと考えられるでしょう。
神様として崇められている神聖な龍を描いた作品は多く存在します。
その一つが昇り龍の掛軸。昇り龍の掛軸には、勝負運の上昇や立身出世、大願成就など縁起の良い意味が込められています。
龍がモチーフの絵は季節問わず飾れるため、年中掛けとしても利用しやすいといえるでしょう。お気に入りの昇り龍の掛軸を見つけたら、普段飾っておく掛軸の1つとして手元に置いておくとよいでしょう。
また、勝負事やお祝い事の際にも飾っておける掛軸なので、慶事掛けとしても飾ることができます。
このように飾って楽しむ機会の多い昇り龍の掛軸は、掛軸文化にあまり触れてこなかった方でも親しみやすい作品。
毎日目にする掛軸だからこそ、自身の思いや願いのこもったものを飾りたいですね。