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香道で用いられる香木。どんな香りを嗜んでいるの?
香道は、茶道や華道と比べると触れる機会が少ないものの、かつては貴族や武士を中心に広く嗜まれていた芸道。 現代でも、さまざまな形のお香が販売されており、人それぞれ好みのスタイルで香りを楽しむ習慣があります。 香道の概要や、香木の香りを「聞く」と表現する理由など知り、香道に対する興味を深めましょう。 香道ではどのような香りを聞いているのか 香道は、茶道、華道と並ぶ日本の三大芸道の一つです。 香道では、香りを嗅ぐのではなく、「聞く」と呼びます。 香道は香りを聞くことを通して自分と向き合う香道は、特に武士に好まれたと言われています。 香道とは 香道とは、香木の香りを楽しむ日本の芸道です。 禅の精神を大切にする香道は、武士が支配階級となった室町時代に確立したとされています。 戦乱が続く中、武将たちに特に愛されたのが香と茶でした。 現代も残る香道のルールは、室町幕府の第8代将軍である足利義政の命のもと、公家の三條西実隆や志野宗信によって整備されたと伝えられています。 なお、2人は現在にも続く御家流、志野流という香道の流派の祖です。 香道に必要な道具は、香道具と呼ばれます。 主な香道具には、香を焚くために使われる香炉、香を掻き出すための各種の火道具、道具を収納するための箱などがあります。ピンセットのような形状の銀葉鋏、香木をすくう香匙などが火道具の例です。収納道具には香袋や長盆などがあります。 また、香道で香りを分類するために大切な考え方が「六国五味」です。 六国とは、伽羅・羅国・真那賀・真南蛮・寸門陀羅・佐曽羅という香木の6つの主要産地を指します。また、五味とは、甘(甘い)・酸(すっぱい)・辛(からい)・苦(にがい)・鹹(塩辛い)の5つの味覚のことです。香道では、香りをできる限り客観的に表現する助けとして、六国五味が用いられます。 聞香(もんこう) 聞香とは、文字通り香りを聞き、味わうことです。 聞香炉と呼ばれる専用の香炉で香木を温めて、参加者全員で香りを聞きます。 香の香りは部屋に広がるほど強いものではありません。 そのため、聞香では作法に従い、一人ひとりが順番に香炉を持ち、顔に近づけて香りを聞くのが主なルールです。 組香(くみこう) 組香とは、ルールに則り複数の香りを聞き分ける楽しみ方のことです。 聞香に比べるとゲーム性が高いものの、優劣をつけるのが目的ではありません。 あくまでも香りを味わうことを主眼としています。 組香には、季節や題材の異なる複数のルールがあります。 以下が組香の種類の例です。 ・菖蒲香 ・菊合香 ・源氏香 ・競馬香 香道で用いられる香木 香道に欠かせない道具の一つが、よい香りを持つ樹木である香木です。 中でも、特に高級で香り高い沈香・伽羅・白檀がよく使用されます。 沈香とは、木の樹脂が年月を経て変化したものです。 甘みやコクのある奥深い香りを特徴とします。 ベトナムの限られた地域で産出される、沈香の中でも特に品質の高いものは、伽羅と呼ばれます。 香りは、ウッディ調の甘く華やかな香りが特徴です。 仏具などにもよく使用される白檀は、独特の上品な香りで知られています。 香りを聞くとはどのようなことか 香道では、香りを楽しむことを「聞く」と言い、「嗅ぐ」という言い方は不粋だとされています。 鼻から香りを知覚することではなく、心で味わうことに重きを置いているため、あえて「聞く」と表現しているのです。 香道において香木は、長い時間をかけて生み出される自然の恵みだと考えられています。 したがって香木の香りを聞くことは、自然や地球を思うことにつながります。 また、香りによって心が穏やかになるため、いつもより深く自分と向き合うことが可能になるでしょう。 香道では、香りを通じて精神性を高めることも目的の一つです。 そのために、香道では香りを「嗅ぐ」のではなく、心で「聞く」ことが必要だとされているのでしょう。 香道はいつからはじまり、どう広まったのか 香道の歴史は、平安時代に遡ります。 奈良時代に仏教とともに伝来した香は、平安時代には宗教に関係なく貴族によって日常的に使われるようになったのです。 平安時代の貴族にとって、香りは身だしなみや自己アピールの手段の一つでした。 部屋や衣服に焚きしめて使われることが多かったものの、手紙に香木のかけらを添えることもあったと言われています。 また、薫物と呼ばれる練香を独自に調合することも広まりました。 各自が制作した薫物を持ち寄って比べる薫物合は、香道における組香の源流だとする説もあります。 鎌倉時代以降には、茶の湯とともに香は芸道として主に武士に愛好されるようになりました。特に室町時代に広まった東山文化の中心である足利義政は、香道の確立に大きく貢献した人物です。足利義政の命を受けて、志野宗信らが取りまとめた各種のルールは、江戸時代にさらに発展し、現代の香道につながっています。 日本の精神文化に欠かせない香道と香木の香り 三大芸道の一つである香道は、香木の香りを通じて自分の精神性を高めることを目的としています。 室町時代以降、特に武士の間に広まった香道は、日本の精神文化に欠かせないものでした。 自分と向き合う時間をもたらしてくれる香道は、忙しい現代人にとっても大切なものだと言えるでしょう。
2024.10.12
- 香木とは
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香木が高い理由とは?「金より高い」ともいわれる理由
香木は香りを楽しむ嗜好品でありながら、価値の高いものとしても知られています。 香木は、心を落ち着けたいときにお勧めです。 香木にはさまざまな種類があり、中でも沈香は高級品として知られています。 今後、香木を購入したり売却したりしながら楽しむためにも、価値が高い理由を知っておくとよいでしょう。 香木はなぜ高い?その理由とは 香木は、その上品な香りで人々の心に安らぎを与えてくれますが、高値でのやり取りも多く、なかなか気軽に楽しめないと感じている方もいるでしょう。 香木の香りを楽しみたい方だけではなく、売却を考えている方も、香木になぜ高値が付くのか、種類によってどのくらいの価値が付くのかを知っていると、より利用しやすくなるでしょう。 香木の価格はどのくらいか 香木とは、広い意味では良い香りのする樹木を指しています。しかし、実は、ジンチョウゲ科の沈香の原木には香気がありません。 老木や倒木、枯れ木などの樹木内に生成された樹脂が凝結し、酸素に触れない状態で長年熟成されると香りを発するようになるのです。つまり、香木が生成されるまでには、数十年から数百年の年月がかかります。 そのため、大量生産ができず、希少価値が高くなるといえるでしょう。 人工的に栽培された栽培香木や、白檀・低品質な沈香については、1gあたり100円程度から入手できます。 しかし、沈香の中でも品質の良いものになると1g数万円の価値が付くことも。 品質によっては、さらに高額な価値が付くケースもあります。 なぜ香木の価格は高いのか 香木は生成されるまで数十年と長い年月がかかるため、希少価値の高いものです。 また、天然沈香と栽培沈香でも価格に違いがあります。 天然沈香は、雨風や病気、害虫などから受けたダメージを治癒しようと分泌する樹脂によって作られます。 一方、栽培沈香は、植林した沈香樹に小さな穴を開けバクテリアを増殖させて作られる人工の香木です。 天然沈香のほうが数は少なく希少価値が高い上に、香りの品質が良いため高値でやり取りされます。 また、香木はワシントン条約で附属書IIに該当する植物で、国際的な取引が規制されているのです。もともと希少価値の高い香木ですが、近年さらに価格高騰が続いています。 最高級品の香木には、金の数倍にあたる1g5万円の価値が付くケースも。これには、円安により日本円の価値が下落してしまったことも関係しています。さらには、産出国の物価や採掘コスト、人件費の上昇が相まって、より価値を引き上げる結果となりました。 高級香木・沈香の中でも価格に違いがある 沈香は、香木の中でも高級品に分類されます。 ベトナム産とインドネシア産があり、産地によって香りが異なるのも特徴です。 ベトナムでは100年以上前から沈香の採取が行われてきた歴史があります。 一方、インドネシアで採取が始まったのは、20年ほど前からとされています。 高級香木と呼ばれる沈香ですが、ものによって価格に違いがあることを理解しましょう。 沈香の価格を決める「香り」「重さ」「黒さ」 沈香と一口にいっても、ものによって価格は大きく異なります。 価値を決めるのは、香り・重さ・黒さの3点です。 沈香には、独特でほかのものでは表現できないすがすがしい香味があります。品質の良い沈香は、火を付けずともその上品な香りが漂ってきます。火を付けると、強い香りが漂いその上品な香りで人々を魅了するのです。 沈香は、油脂分が多いほど比重が大きく重厚感があります。 重くて水に沈むものほど、量が少なく希少価値が高いといえるでしょう。また、沈香は黒味が強いほど油脂の量が豊富であることを表しています。 その中でも烏黒色の脂光沢を見せるものは、極上品といわれています。次に価値が高いものの特徴は、灰黒色や褐色のものです。 より高価で希少な「黒沈香」 沈香の中でも黒沈香は、さらに希少で価値の高い香木です。 ベトナムでは、沈香樹の自然成長環境が原因で、現在黒沈香はほとんど採集できていません。インドネシアでは、少量ではあるものの黒沈香の塊を採集できます。 しかし、その生産量は全体のわずか0.1%以下。 採集量が少なく限られた量の黒沈香しか流通しないため、より高価が高いといわれています。 最高級の沈香「伽羅(きゃら)」 伽羅とは、沈香の中でも最高級といわれる香木。 伽羅は、ベトナムのごく限られた地域でしか採集できません。 高品質な伽羅は、奥深く濃厚な香りが特徴で、火を付けていない状態でも香りが漂ってきます。 また、火を付けてみると温かみのある香りで、ほんのり甘みも感じさせてくれ、リラックスできる空間を作り上げてくれるでしょう。 高品質な香木は入手しづらいため、高価格になる 数十年、数百年という長い歴史を経て生成される香木。 中でも品質の優れた天然沈香は、希少価値が高いため、購入価格が高騰しています。また、さらに採集量の少ない黒沈香は、高額で取引がされている香木です。 香木の価値の付き方を知り、購入する際や売却する際に知識を役立てましょう。
2024.10.12
- 香木とは
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香木の産地はどこ?
日本では、聖徳太子の時代から伝わり、時代を経て貴族や武士、町人など多くの人々に親しまれてきた香木。現代でも自宅でリラックスするために、手軽に利用できるお香もあります。香木の産地情報を知り、より香木の魅力を堪能しましょう。 香木の産地はどこ? 香木は、かぎられた地域でしか採取できない希少価値の高さがあります。香木の産地を知り、香りの特徴や違いに対する知識を深めましょう。 主な香木の産地 世の中には香りを持っている木が多くあります。香木は主に、白檀・沈香・伽羅の3種類です。種類ごとの主な産地は以下のとおりです。 白檀 インド・インドネシア・オーストラリア・ミャンマー・台湾・アフリカ・ハワイ・トンガ・チモール 沈香 ベトナム・インド・インドネシア・カンボジア・ミャンマー・マレーシア・中国・タイ・ラオス・西イリアン 伽羅 ベトナムのかぎられた地域のみ 香木と一口にいっても、種類によって多少産地が異なります。しかし、産地であってもその多くが山奥にしか生育していないため、大変希少な香りものなのです。特に伽羅は、産地自体がベトナムにかぎられています。そのうえ、狭い範囲の地域でしか採取できないため、希少かつ高価な香木なのです。 香木は日本でも採取できる? 香木は、熱帯や亜熱帯地域を中心に自生しており、日本では採取できません。香木の原木となる木が日本では自生できないためです。そのため、香木を楽しみたい場合は海外から輸入する必要があります。ただし、例外として小石川植物園では白檀が育てられています。生きている香木の原木を見てみたい方は、ぜひ小石川植物園を訪れてみてください。 産地ごとに香木の違いはある? 香木にはさまざまな産地がありますが、地域によって香木の種類や香りに違いがあるのか気になる人も多いでしょう。香木の香りは、産地によって違いがあります。香木の香りは、甘い・酸っぱい・辛い・苦い・塩辛いなどで表現されます。香木の香りは非常に複雑で、さまざまな味が絡み合って深みを出している点が魅力です。 白檀 白檀は、芯材部分から香りを放ちます。数ある産地の中でも、インド・マイソール産の白檀は特に品質が高く最高級品といわれており、老山白檀とも呼ばれています。扇子や数珠、仏像などの工芸品の素材としても活用されているのが特徴です。日本にもなじみ深い製品に使われています。香りは、爽やかであっさりとした甘みを感じられる、落ち着きのある香りが特徴です。 沈香 沈香は、日本に初めて伝わった香木とされています。長い年月をかけて形成された樹脂は、熟成され品質の高い香材となるのです。鎮静効果があるため、戦国時代では戦前に興奮した精神を落ち着けるためにも利用されていたといわれています。産地によって違いのある香木の香り。たとえば、インドネシア産の沈香は、辛みの中に酸っぱさが含まれた香りがあります。 また、沈香は苦みのある香りが特徴のタニ沈香、甘い香りが特徴のシャム沈香の2種類に分類されているのも特徴です。 伽羅 伽羅は、希少価値の高い沈香の中でもさらに貴重で、沈香の最高級品といわれています。沈香との違いは香りと樹脂の成分です。伽羅の香りは、五味に通じる香りと表現されており、複雑で深く濃厚な香りが楽しめます。その高貴な香りと希少価値の高さから、まぼろしの香木ともいわれています。 産地と気候と長い年月が育てる、香木 香木は、熱帯や亜熱帯の気候と産地の自然が長い年月をかけて育て上げる希少価値の高い香りものです。産地は複数ありますが、実際に生育している場所はごくかぎられた場所のみ。香木は産地によっても香りが異なるため、自分の好みの香りがする産地を探す楽しみもあります。産地による違いを感じながら、複雑で香り高い香木をぜひ堪能してみてください。
2024.10.12
- 香木とは
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香木はどうやってできる?
香道には欠かせない香木は、ベトナムやインドネシアなどの東南アジア原産のものが一般的です。 しかし、現地で香木がどうやってできるのかを知っている方は意外に少ないのではないでしょうか。 香木はどうやってできるのか 香木ができるまでには、長い年月がかかります。 植物である白檀も、よい香りがするようになるまでには、80年以上かかるとも言われています。 一方、木の樹脂からできる沈香がつくられるまでには、さらに膨大な時間が必要です。 香木:沈香(じんこう)ができるまで 香木の一種である沈香は、木から分泌された樹脂が長い時間をかけて変化し、匂いを放つようになったものです。 沈香の原木は、東南アジア原産のジンチョウゲ科ジンコウ属の常緑樹です。 自然災害や虫害などによってダメージを受けると、木は防御作用として樹液を出して傷を防ぎます。 やがて樹液のついた木が倒れたり枯れたりして土に埋まると、微生物などが木を分解します。 しかし、樹液のついた部分は分解できないため土や沼の中に残り、沈香になるのです。 沈香ができるまでには、木が成長するまでに数十年、倒木して腐敗し、樹液が沈香となるまでにさらに数十年の年月が必要だと言われています。なお、沈香には木質部が消失した後に採取される「死沈」と、生きている株を切って取り出される「活沈」の2種類があります。 「死沈」は表面が外気にさらされているため乾いており、形もそろっていません。しかし、沈香は油脂分が多いほど良質とされているため、油脂分だけを残した「死沈」のほうが一般的にグレードは高いと言えます。 一方、「活沈」は塊が大きく、整っているため彫刻などに向いています。 また、焚く前からほのかな香りがすることが「活沈」の特徴です。 香木が取れる国・地域 香木の産地は、東南アジアやインドなどに分布しており、日本では採取できません。 特に沈香については、ベトナムやインドネシアが産地として有名です。 ベトナムでは、中西部で100年以上前から沈香が採取されてきた歴史があります。 中でも一部地域で産出される高品質の沈香は、伽羅と呼ばれて珍重されてきました。 一方、インドネシアで沈香の採取が始まったのは、20年ほど前からです。 カリマンタン島とイリアン島が主な産地として知られています。 なお、爽やかな香りがするベトナム産に対して、インドネシア産の沈香の香りは、コクがあると言われています。 沈香ができるのは、樹木の生い茂るジャングルの土や沼の中です。 木の幹の中から見つかることもあります。 油脂分を多く含む沈香は、水に沈むため海岸では採取できません。 日本では、595年に淡路島に沈香が漂着したという記録が残されています。 しかし、水に沈む沈香の性質を考えれば、海岸で採取されたという記録は不自然です。 そのため、このとき見つかったものは香木ではなく、クジラから取れる竜涎香だとする説もあります。 香木はどうやって採取されるのか 沈香が見つかるのは、人が足を踏み入れるのが難しいジャングルの奥地です。 そのため、ベトナムやインドネシアでは、天然の沈香が取れそうな場所にあたりをつけた上で、数人がパーティーを組み、ジャングルに分け入って採取する方法が取られています。 1回の採取で、3週間から2〜3か月程度かかることも珍しくありません。 もちろん、ジャングルは野生の動物や虫なども生息する過酷な環境です。 その上、必ずしも質のよい香木が見つかるとは限りません。 香木は希少性が高く貴重なだけでなく、大変な苦労の末に採取されていることも高価な理由だと言えるでしょう。 近年栽培されている「栽培沈香」 天然の沈香は、いくつもの偶然が重なった上に長い年月をかけてつくられるため、入手困難です。 そのため近年、天然沈香の代替品として流通しているのが栽培沈香です。 栽培沈香はどうやってつくられる 沈香は、木が自らの傷を修復するために分泌する樹脂がもとになってできます。そのため、以前から木に故意に傷をつけて沈香を作り出そうとする試みが続けられてきました。 現在では、タイやベトナム、ミャンマーなどでアクイラリア樹にドリルや釘で穴を開ける方法を使い、栽培沈香がつくられています。 栽培沈香は、樹脂部分が多い部位を香木として販売するほか、粉末状にして香油だけを取り出す場合もあります。 天然沈香と栽培沈香の違い 栽培沈香は安価である一方、製造過程で薬品臭がついてしまうこともあり、品質は天然沈香におよびません。言うまでもなく、貴重で価値が高いのは天然沈香のほうです。 ただし、天然沈香は希少性が高く、入手が難しいため、沈香は低価格な原材料として多く流通しています。 また、栽培沈香の中にも質の違いがあり、上質なものは品質の悪い天然沈香に近づいているとも言われています。 長い年月を経て香木は香りを育てている 香木は、世界の中のごく一部の地域で、長い年月をかけて産出されます。また、ジャングルの奥地という過酷な環境で採取される沈香や伽羅は、非常に希少価値の高いものです。 最近では、安価な栽培沈香もつくられているものの、香りの質は天然沈香には敵いません。 長い年月を経て香木は香りを育てています。 ときには香木がどうやってできるかに思いを馳せてみると、いつもと違う楽しみ方ができるかもしれません。
2024.10.12
- 香木とは
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実は香木とゆかりのある、淡路島
心をリラックスさせ、心地よい気分にさせてくれる香木。 日本の歴史を辿ると、香木は1400年も前から親しまれていたことがわかります。 香木の歴史をさかのぼり、まだ知らぬ魅力を探っていきましょう。 香木はいつから日本にある?淡路島との関係とは 香木は、古くから日本で親しまれてきたお香。その名の通り香りのする木を指しています。 日本での始まりや生産が盛んな地域を知り、香木の魅力を深めていきましょう。 香木が流れ着いた、淡路島 日本に香木が伝わったのは、595年(推古3年)ごろ。淡路島(兵庫県)に香木が流れ着いたのが始まりと、『日本書紀』にも記されているのです。 淡路島に漂着した香木を、当時の島民は一般的な流木だと思い込み、かまどで火を起こすために利用しました。 すると大変良い香りがしたため、かまどから持ち出し、朝廷へ献上したとの記述もあります。 また、淡路島の歴史書である『淡国通記』にも、香木が淡路島の南岸に漂着したとの記述が残されています。 そのため、香木は推古天皇の時代からあったとする可能性が高いといえるでしょう。 淡路島の枯木神社は、今でも香木伝来伝承地として伝わっており、人の体ほどある大きさの枯れ木の香木をご神体として祀っています。 また、伊弉諾神宮には香木伝来から1400年経った1995年に、香りの文化のさらなる発展を願い、香木伝来記念碑が建てられています。 聖徳太子と淡路島・枯木神社 淡路島に流れ着き、初めて日本に伝わった香木。 『聖徳太子伝略』によると、当時聖徳太子は、朝廷に献上された流木を一目で香木と見抜き、その木で手箱と観音像を作ったそうです。日本で初めて香木が伝わったとされる淡路島の枯木神社は、パワースポットとしても知られています。 淡路島の地元では別の言い伝えも残されています。 当時の島民が漂着した流木を切ろうとしたところ、祟りが起きたそうです。 島民たちは、祟りを恐れて何度も流木を沖へ流しましたが、毎回海岸へ戻ってきてしまいました。困った島民たちは社を建設して、流木を祀ったとされています。 このような話が残されている枯木神社には、今でも香木の枯れ木がご神体として祀られているのです。 淡路島は現在も「香りの島」だった 日本に香木が伝わった起源とされる淡路島。 現在でもお線香の生産が有名であり、香りの島とも呼ばれています。 全国シェア率70%!淡路島は日本一の線香の町 日本に初めて香木が伝わった地とされる淡路島は、現在お線香の全国シェアが約70%と、一大産地として有名です。 お線香の会社は淡路島だけでも14社あります。企業によっては、仏壇に備えるお線香だけではなく、さまざまな目的に利用できる室内香も販売しています。 淡路島は、かつて香木が流れ着いた歴史から始まり、現在では線香づくりのシェアがトップとなっているのです。 かおり風景100選にも選ばれた、淡路島一宮町 お線香の生産は、淡路島の中でも一宮地区に集中。 地区内には線香事業者や下請け業者が立ち並び、どこからともなくお香の良い香りが漂ってきます。 この地区では、4人に1人が線香にかかわる仕事をしているそうです。 また一宮地区は、環境庁が選ぶ「香り風景100選」にも選ばれています。 線香産業をメインとした総合計画も展開しており、地域には香りをテーマにしたパルシェ香りの館が建設されています。 150種類ものハーブを植栽する香りのテーマパークとして運営しており、香りとともに香草や香木の見た目の美しさも楽しめる観光スポットです。 現代まで続く香りの歴史を淡路島で感じよう 日本での香木の歴史は古く、1400年以上前には伝わっていたとされています。そのきっかけとなった淡路島では、現在もお線香の生産が盛んに行われています。とくに業者が集中している一宮地区は、お香の香りが風に乗って香る街並みが特徴です。 香木を深く知りたい方は、香りだけではなく、その長い歴史にも触れてみると、新たな発見ができるでしょう。 現代まで引き継がれている香木の起源である淡路島で、香りの楽しみを探してみてはいかがでしょうか。
2024.10.12
- 香木とは
- 香木の歴史
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天下第一の名香木、蘭奢待
蘭奢待とは、天下人にも愛されたことでも知られている香木。 蘭奢待の由来や、天下人を魅了した理由について紹介します。 天下第一の名香木、蘭奢待 日本で最も有名な香木と言えば、蘭奢待です。 多くの権力者たちが欲しがったことから、天下第一の名香木とも言われています。 蘭奢待とは 蘭奢待とは、聖武天皇ゆかりの品々を収めたと伝えられている正倉院にある、巨大な香木のことです。 正倉院とは、東大寺に隣接する土地に1300年ほど前に建てられた宝物庫です。 蘭奢待のサイズは全長156cm、最も太い部分の直径は46cm、重さは11.6kgにも達しています。1996年に行われた宮内庁正倉院事務所の科学調査により、伽羅だと確認されています。ただし、その入手経路といった詳しい内容は分かっていません。 蘭奢待の香りについては、一部を切り取って焚いた明治天皇が「古めきしずか」と表現しています。香木の香りは、時間と共に薄れてしまうのが一般的です。しかし、蘭奢待については、産出から1000年以上経過していると考えられるにもかかわらず、まだ香りを残していると言われています。 蘭奢待の名前の由来 正倉院の目録によると蘭奢待の正式名称は、黄熟香。しかし、聖武天皇が名付けたとされる蘭奢待のほうが有名です。 蘭奢待のそれぞれの文字には「東」「大」「寺」の字が一つずつ含まれています。 もともとは、東大寺と名づけられる予定でしたが、火をつけて楽しむ香木に、建物の名前をつけるのはよくないという考えから、蘭奢待と呼ばれるようになったと言われています。 聖武天皇が建立した東大寺への思いを込めた名前です。 蘭奢待の歴史 現在のラオスやベトナム周辺が原産とされる蘭奢待は、中国を経由して日本に伝わったと考えられます。 また、日本に伝来してからは、権力の象徴として人々を魅了してきたと言われています。 蘭奢待はいつからあるのか 蘭奢待がいつからあるのかは、正確には分かっていません。 聖武天皇の在位期間は724年から749年とされているため、もし本当に聖武天皇ゆかりの品物であれば、8世紀には日本に伝来していたことになります。しかし、1350年頃より前の記録が見つかっていないため、現在のところは、鎌倉時代以前に伝わったとしか分かっていません。 なお、香道では、聖武天皇の時代に伝わったという説のほかに、1158年から1165年の二条天皇の在位中に天橋立から献上されたという説もあると伝えられています。 天下人たちが所有した蘭奢待 昔から伽羅は、貴重なものとされていたため、巨大な香木である蘭奢待は、権力の証として多くの人々の関心を集めてきました。 時には歴代の天皇や将軍といった権力者たちが、功績を挙げた家臣などに蘭奢待の一部を切り取って分け与えることもありました。これらが「蘭奢待を所有する=天下人」というイメージが広まる背景になったと考えられます。 実際に蘭奢待を手にした人物には、室町幕府の第3代将軍の足利義満、同じく第8代将軍の足利義政、織田信長、明治天皇などがいます。 特に織田信長は、自分が天下人になったことをアピールするために、蘭奢待を利用したエピソードはあまりにも有名。室町幕府を滅ぼした織田信長は、足利義政以降、何人もの将軍が希望しても叶えられなかった蘭奢待を手にすると、一部を切り取って家臣たちに分け与えました。 また、織田信長は残りのかけらを焚いて茶会を催したとも伝えられています。 織田信長には、蘭奢待を手に入れることで自分こそが天下人であると喧伝する意図があったのでしょう。 あえて足利義政が切り取った場所のすぐ横から、同じくらいの大きさのかけらを切り取っていることからも、織田信長の意図が伺えます。 蘭奢待を切り取ると不幸がある? 蘭奢待は、どの時代も権力者たちを魅了してきました。 一方で、蘭奢待をあえて切り取らなかったのが、江戸幕府を開いた徳川家康です。徳川家康は、正倉院に人を派遣して蘭奢待の調査を行ったものの、切り取ることはしませんでした。 その理由として挙げられるのが「蘭奢待を切り取ると不幸がある」という言い伝えです。 蘭奢待を切り取った織田信長は、家臣である明智光秀に裏切られて本能寺の変で無念の死を遂げました。また、足利義政は、室町幕府が弱体化する原因となった応仁の乱を引き起こすきっかけとなりました。 蘭奢待に関する言い伝えは、こうした事実を指しているのでしょう。 こういった言い伝えを恐れたためか、徳川幕府の将軍は誰も蘭奢待を切り取らなかったと言われています。 蘭奢待を一目見たい! 蘭奢待は原則として一般公開されていないため、東大寺や正倉院を訪れても展示されていません。ただし、「正倉院展」などのイベントが行われる際は、特別に公開される可能性があります。 蘭奢待を一目見たいという方は、展示が開催される際にぜひ足を運んでみてください。 また、名古屋にある徳川美術館には、重さ0.4gとごく小さなかけらではあるものの、蘭奢待の一部が収蔵されています。 徳川美術館は、徳川家ゆかりの品物を収蔵する美術館です。徳川美術館の蘭奢待は、1754年に尾張徳川家に献上されたものだと言われています。 関心のある方は、ご覧になってみてはいかがでしょうか。
2024.10.12
- 香木とは
- 香木の歴史
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香木を分類する「六国五味(りっこくごみ)」とは
良い香りを漂わせて、人々の気持ちを落ち着かせる香木。品種によって香りが異なるため、分類分けがされています。 六国五味は代表的な分類方法で、品種や味によって香木を分類しています。 それぞれの香木の香りや味などの特徴を知ることで、より香木の魅力を感じられるでしょう。 六国五味(りっこくごみ)とは 香木は、それぞれに異なる香りを有しています。 繊細な識別を行うための分類法として確立されたのが六国五味です。 六国(りっこく)とは 六国とは、香木を産出地名や品質から伽羅(きゃら)・羅国(らこく)・真南蛮(まなばん)・真那加(まなか)・寸聞多羅(すもたら)・佐曽羅(さそら)の6つに分けたもので、それぞれ香りの特徴や産地が異なります。 また、同じ産地・種類の香木でも香りが微妙に違っていたり、産地が違っても香りが似ていたりと、6つの分類ですが、さまざまな香りが楽しめるのです。 伽羅(きゃら) 産地:ベトナムなど 伽羅は、火をつけなくとも深みのあるウッディな香りを楽しめます。 火をつけると温かみのある香りが漂い、リラックスした気分になれるでしょう。 ほんのりと甘さを感じる香りで神秘的な部分もあります。 残り香の良い伽羅は、焚き終わったあとのふわりと残る香りで余韻も楽しめます。 一般的な伽羅は、華やかで鋭い「辛」や「苦」香りを持っていますが、円熟していてざらつきがないのが特徴です。 一方、白菊色と呼ばれる伽羅の一種は、艶やかかつ華やかな香りが特徴で、その奥深い香りを五味に当てはめるのは難しいといわれています。 総合的で完成された香りが特徴です。 羅国(らこく) 産地:タイ 羅国には、オレンジ色やネズミ色、黄色などがあります。 多くはオレンジ色をしており、綿飴のような甘さの中に梅の花に似た鋭い香りを持っており、上品な香りといわれています。 ネズミ色のものは、もったりとした蜜のような甘い香りが特徴です。 黄色のものは、澄んだ香りの中に、砂糖を焦がしたような香ばしい甘さが隠れています。 羅国の香木は、武士の香りともいわれています。 真南蛮(まなばん) 産地:マレー半島南西 一般的な真那伽は、羅国の甘さをなくしすがすがしさのある香りが特徴です。無味であり「鹹」ともいわれます。 甘みはないものの、香り全体は柔らかく立っており上品といえるでしょう。 独特な余韻も魅力の一つで、伽羅のような強い香りではなく、柔らかな香りが長く継続する点も特徴といえます。 佐曽羅(さそら) 産地:インドシナ半島 佐曽羅は、「鹹」や「酸」の香りが強い特徴があります。 次第に甘さや華やかさも感じられる香りで、繊細で上品な香りといえるでしょう。また、佐曽羅は流派によって用いられる香木の種類が異なります。 沈香だけを用いたり、白檀・赤栴檀を用いたり、ミックスしたりと、さまざまな流派があるのも特徴の一つです。 五味(ごみ)とは 六国五味では、香りを酸(すっぱい)・苦(にがい)・甘(あまい)・辛(からい)・鹹(しおからい)の5つの味で表します。 基本的には、1つの香木につき1種類の味で香りを表現しますが、香木の中には複数の味を兼ねているものもあります。 酸は、梅干しのような酸っぱさが特徴。 苦は、柑橘類の皮を火にかけたような苦味を表しています。 甘は、蜂蜜のような甘さ、辛は、胡椒といった香辛料の辛さを表現。 鹹は、海藻を火で煮詰めたような塩辛さがあると特徴づけています。 六国五味はいつ確立された? 香道の歴史は古く、はっきりとした始まりは室町時代とされています。 足利義政が公家の御家流の祖である三条西実隆と志野流の祖である武家の志野宗信に命じ、作法や聞香(もんこう)のルールを確立させました。 その後、江戸時代に入りより聞香が盛んになると、香道ではそれぞれの香りを聞くために香りを分類する必要があるとして、六国五味が誕生したのです。 香木の繊細な香りを聞く、六国五味 香木には、それぞれ異なる特徴を持った香りが存在します。 六国五味は、香りの違いを聞き分ける香道において、大変重宝されている分類体系です。 六国五味の分類分けによる特徴をもとに、それぞれの香木の特徴を知ると聞香の奥深さがよりわかるでしょう。
2024.10.12
- 香木とは
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入手困難な香木・白檀、その希少性と価値とは
白檀は、香木の一種です。 最近入手が難しくなった高級品でもあります。しかし、伽羅や沈香と比べると身近な香りで、懐かしいと感じる人も多いでしょう。 白檀(びゃくだん)とはどんな香木? 紀元前5世紀には、白檀はすでに貴重な香木として人々に愛されていたと伝えられています。 長い歴史を持つ白檀について知れば、香りをより楽しめるようになるでしょう。 白檀とは 白檀とは、香木の一種であり、植物の名前でもあります。 同じ香木でも沈香や伽羅は、木の樹脂が変化したものであり、木そのものに香りはありません。 一方、白檀は、香りを持つ植物であるのが違いの一つです。そのため、熱を加えなくても香りを楽しめる点も白檀の特徴として挙げられます。 ただし、白檀らしい香りが生まれるには、数十年かかると言われているため、よい香りがするものは昔から貴重とされてきました。 植物としての白檀は、インドを原産とする常緑樹。高さは3〜5mにもなり、白っぽい幹の色から白檀と名付けられたと言われています。香木としての利用のほか、精油は香料などとしても使われます。 はじめは独立して生育するものの、白檀は成長の途中でほかの植物の根へ寄生する半寄生植物です。 種子で増殖が可能である一方、成長には宿主となるほかの植物を必要とするため、人工的に栽培するのが難しいとされています。 近年では、資源保護のためにインド政府が伐採や輸出に規制をかけており、白檀の入手は年を追うごとに難しくなっています。 最高級の白檀、老山白檀 白檀の中でも最高級と言われるのが、インドのマイソール地方で産出されるものです。 老山白檀と呼ばれるマイソール産の白檀は、他の地域のものよりも香りが強く、置いておくだけでも甘い香りがします。 また、香炉などで焚くとコクや甘み、ほのかな苦みのある上品な香りがするでしょう。 白檀は、インドやインドネシア、オーストラリア、フィジー、ハワイなど太平洋に面した多くの国々で産出されます。 ただし、ニュージーランドやハワイなどの白檀は香りが少ないため、香木として利用されることはあまりありません。 香木としては、主にインドやインドネシア産の白檀がよく知られています。 白檀の香り 白檀は、甘みやコクがある上品な香りと表現されます。 人によっては官能的、神秘的などと言い表すこともあります。華やかさよりは落ち着きのある香りのため、不安やストレスを感じているときや、リラックスしたいときにお勧めの香りです。 白檀は、産地によって香りの傾向に違いがあります。 インドやインドネシアの白檀は、濃厚な香りを特徴とする一方で、フィジーやオーストラリア産のものは、爽やかな香りがします。 気分で使い分けるのもよいでしょう。 白檀の樹齢が長いほど香りが濃いと言われており、香りが出るまでに30年ほど必要。さらに上質な香りが楽しめるようになるまでには、80年以上かかるとも言われています。 白檀の香りの主成分であるサンタロールには、殺菌作用や利尿作用があるとされています。また、気分をすっきりさせる香りであることから、白檀は漢方やアーユルヴェーダにおいて万能薬として位置づけられてきました。 紀元前5世紀頃から香木として使われていた白檀は、世界で最も古い香料と言われています。 ただし、白檀の香りは時間が経つにつれて薄くなるとされており、常温で香りが楽しめるのは2年ほどと言えるでしょう。 白檀とサンダルウッドの違い 実は、白檀とサンダルウッドは、同じもの。白檀は和名で、サンダルウッドは英語名です。 原産地であるインドでは、サンスクリット語でチャンダナと呼ばれていました。英語名のサンダルウッド(sandalwood)は、チャンダナが語源だと言われています。 白檀は、香木として利用される以外に精油を絞って香料やアーユルヴェーダの薬草などとして使われることも。特に精油はサンダルウッド・オイルと呼ばれます。 一般的に白檀と呼ぶ場合は香木を、サンダルウッドと言うときには精油を指すことが多い傾向です。 なお、最近ではインド産の白檀(サンダルウッド)を入手するのが難しくなったため、オーストラリア産の精油が多く流通していると言われています。 仏具としても身近な白檀 古くからインドの寺院などでは、瞑想のときや雑念を払って集中したいときに、落ち着きのある白檀の香りが利用されてきました。インドから中国を通じて日本に伝わった仏教でも、白檀の香りが線香や数珠、仏像などに使用されています。 常温でも香りを楽しめる白檀の特徴が、仏像や仏具を作るのに適していたことも理由だと考えられます。 さまざまな仏具に使われているため、白檀の香りをなんとなく懐かしいと感じる方も多いのではないでしょうか。 身近な香り・白檀は、古くから癒やしの香りだった 香木としての白檀は人工的に栽培することが難しい上、成長にも時間がかかることから希少性の高い高級品です。 特に最高級とされるインド・マイソール産の老山白檀は、甘みや苦みのある濃厚な香りで知られています。 一方で、仏事から香水まで、白檀の香りに触れる機会は意外に多いものです。意識せずに白檀の香りに接していたという方もいるでしょう。 白檀の香りには、リラックス効果があると言われています。古くから多くの人を癒やしてきた白檀の香りを楽しんでみてください。
2024.10.12
- 香木とは
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最高級の香木・伽羅とは
伽羅は、香木の中でも最高級といわれています。 伽羅の特徴や希少性が高い理由、歴史上の人物との関わりを知れば、さらに香りを楽しめるでしょう。 最高級の香木、伽羅(きゃら)とは 伽羅は、「香木の王様」と呼ばれる最高級の香木です。 その希少性の高さや香りの上品さから、主に権力者や上流階級の人々に愛されてきました。 伽羅とは 伽羅とは、ベトナムの一部の地域のみで産出される沈香のうち、最高級の品質を誇るもののことです。 もとの木には香りはなく、倒木や枯れ木についた真菌などが長い時間をかけて作り出した樹脂が沈香や伽羅となります。 沈香は、油脂分多い黒褐色のものほどよいとされており、その中でも高品質のものが伽羅です。 なお、沈香と伽羅は、含まれる成分が異なるという説もあります。 ただし、現在も伽羅については分からないことが少なくありません。 伽羅は、人工的に作れない上、生産できる地域や量が限られています。 沈香は、インドネシアでも産出されるものの、高品質かつベトナム産のもののみが伽羅と呼ばれます。また、特に量については、伽羅ができるまでに100年以上かかると言われているため、今後生産量が減ることはあっても増えることは考えにくいでしょう。 すでに採取され尽くしているため、伽羅を入手するには現存しているものを取引するしか方法はないという説もあります。 品質の高さや生産量の少なさなどから、伽羅は特に希少性が高いためワシントン条約の希少品目第二種にも指定されています。現代では、金をも上回る価格で取引されており、入手するのは簡単ではありません。 伽羅の香り 伽羅の香りは奥深く、言葉では表現できないほどだと言われています。 火をつけていない伽羅からは、爽やかなウッディ調の香りがします。 伽羅は、沈香の一種とされている一方で、常温でも香りが楽しめることが違いです。 伽羅に熱を加えると、香りはさらに濃厚になります。ウッディ調の香りとともにスパイシーさや、ほのかな甘みも感じるでしょう。 香りを表現するには、甘・辛・酸・苦・鹹という5つの味覚(五味)に例える方法がありますが、奥深く上品な伽羅の香りからは、五味の全てを感じ取れると言われています。 伽羅は昔から希少性が高く、貴重なものとされていました。 そのため、かつては実際に伽羅の香りを楽しめたのは、天皇や将軍、貴族、位の高い僧侶など極一部の人に限られました。 現代でも伽羅は高価なため、入手するのが難しいものの、お香などの形で香りを楽しむことは可能です。 歴史上のあの人も好んだ、伽羅 伽羅は、約1000年前の10世紀頃に日本に伝わったと言われています。 当時から貴重なものとされていた伽羅の香りは、天皇や将軍といった時の権力者たちを魅了しました。 歴史上の人物が好んだ香木として、特に有名なのが蘭奢待です。 蘭奢待とは、奈良県奈良市にある東大寺に隣接する正倉院に収蔵されている香木の名称。全長156cmにも及ぶ巨大な蘭奢待は、権力の象徴として為政者たちの憧れの的でした。 蘭奢待を手にした人物として、特に有名なのが室町幕府の8代将軍足利義政、戦国武将の織田信長と明治天皇です。 織田信長は、当時の天皇の許可を得て蘭奢待の一部を5.5cmほど切り取り、家臣たちにも分け与えたと伝えられています。蘭奢待を手にすることが、権力の象徴と考えられていたことを表すエピソードと言えるでしょう。 また、明治天皇は1877年に正倉院を訪れて蘭奢待を一部切り取り、焚いて香りを楽しんだという記録があります。 戦国武将には、合戦前に髪や兜に香を焚く習慣がありました。 気持ちを落ち着かせる効果がある伽羅の香りは、戦国武将にも愛されたと考えられます。 伽羅ができるまで 伽羅ならびに沈香は、木の樹脂が長い時間をかけて変化したものです。 沈香の原木は、ベトナムやインドネシア、タイなどの東南アジア諸国に分布するジンチョウゲ科アキラリア属やゴリスチラス属の常緑高木です。これらの木そのものに香りはありません。 木に何らかの理由で傷がついたり、成長が阻害されたりすると、樹脂が分泌されます。 やがて倒れたり枯れたりした木は、長い年月をかけて微生物などによって分解される一方で、樹脂がついた部分は残ります。残った樹脂が土に埋まり、さらに真菌類が作用することで、独自の香りを持つようになったものが沈香です。 沈香のうち、さらに時間をかけて高品質になったものを伽羅と呼びます。 沈香も伽羅も、さまざまな偶然によって生まれることが分かるでしょう。なお、樹脂が沈香に変わるまでに約50年、品質のよい伽羅ができるには沈香ができてからさらに数百年必要とも言われています。 沈香については、人が介入して作られたものが一部で流通しています。しかし、沈香や伽羅ができる過程には、まだ解明されていない部分が少なくありません。特に数百年の時間をかけてできる伽羅については、人工的に生産することは難しいと言えるでしょう。 伽羅の香りが与えてくれるもの 伽羅の香りは、上品かつ華やかです。 優雅な気持ちになりたいときや、リラックスしたいときに楽しむとよいでしょう。 また、伽羅の元となる沈香は、漢方における生薬の一つです。 鎮静や鎮痛に役立つとされているため、伽羅の香りにも同様の効果が期待できます。不安や悩みがある、イライラするなど、心が落ち着かないときに伽羅の香りを嗅いでみてください。 品のある伽羅の香りは、仏壇へ備えるお線香にもお勧めです。 お線香には、仏さま(故人)へ食べ物の代わりによい香りを味わってもらうという意味と、炎と煙によって周囲を浄化する目的があります。伽羅の香りは、お線香にぴったりと言えるでしょう。 なお、茶の湯では炭の匂いを和らげたり、場を印象付けたりするためにお香が用いられます。奥深い伽羅の香りは、茶の湯での利用にも向いています。 最高級の香木・伽羅に癒されよう 高貴な香りを持つ伽羅は、「香木の王様」と呼ばれる最高級の香木です。 長い年月を経て生成される伽羅は、1000年ほど前に日本に伝わって以来、時の権力者を含む多くの人々を魅了してきました。その香りは奥深く、リラックスしたいときにお勧めです。 産地が限定されており、生産量が少ないことから現代では価格が高騰しているため、本物の伽羅を入手することは簡単ではありません。 しかし、お香などで伽羅の香りを体験することは可能です。機会があればぜひ伽羅の香りを楽しんでみてはいかがでしょうか。
2024.10.12
- 香木とは
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沈香(じんこう)はどんな香木?
織田信長、徳川家康、明治天皇などの偉人たちが嗜んでいた香木。 その名のとおり、香りのする木を香木と呼んでおり、主に白檀、沈香、伽羅を指しますが、その中でも沈香は、入手が困難といわれているほど貴重な香木です。 複雑な香りの中に苦みや甘みが感じられる沈香の知識を深めて、魅力を堪能しましょう。 沈香(じんこう)とはどんな香木? 沈香は、お香の原料として人気の高い香木の一つです。 沈香は、大量に樹脂を含んでおり、その重みによって水に沈むために「沈香香木」の名がつきました。 荘厳な香りを持つ沈香は、戦国武将たちが合戦に出陣する前に甲冑へ香りを薫き染めていたといわれています。沈香は、日本で古くから親しまれてきた香木の一つといえるでしょう。 沈香とは 沈香とは、東南アジアの熱帯地域に生息するジンチョウゲジンコウ属の高い常緑樹から作られます。 害虫や雨、風などの外敵に木部がさらされた際に傷がつくと、ダメージを治癒しようと、内部から香り成分である樹液を分泌します。その分泌された樹液が次第に固まり、樹脂に変化するのです。その後、乾燥が進むと樹脂が変質していき、最終的に乾燥した木部を削り取ったのが香木としての沈香です。 特徴的な香りを放つ香木で、同じ木から採取した沈香であっても香りが異なる面白さがあります。 沈香の香り 沈香の基本的な香りは、甘み、苦み、辛み、酸味、塩辛みが混ざりあったようなものです。 そのため、非常に複雑な香りと表現されます。 沈香の原産国は幅広く、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、カンボジア、ミャンマー、ラオスなどがあり、香りは原産国によって違いがあります。たとえば、インドネシア産の沈香であるタニ沈香は、香りに苦みがあるのが特徴で、インドシア半島産のシャム沈香は香りに甘みがあるのが特徴です。 一般的な沈香は、常温だとあまり香りを感じられません。 150度以上の高温で加熱すると香りのもとになっている樹脂の成分が蒸発し、奥深い香りが感じられます。ただし、上質なインドネシア産沈香は、常温でもほのかに香りを発する場合があります。 基本的には、沈降は色が黒くて紫外線に強いため、常温では揮発しません。そのため、加熱しなければ長期間の保存が可能です。 現在では入手困難になった沈香 上質な香木である沈香は、もともと日本には自生しておらず、海外からの輸入のみが入手方法でした。 沈香の原材料となる木は、成長するまでに約20年かかり、沈香になるには50年かかるとされています。さらに、高品質の沈香となると沈香として利用できるようになるまで100年から150年以上は必要です。 沈香となるメカニズムは現在も明確には判明されていません。沈香の香りは人工的な製作が難しいとされています。そのため、お香の原料の中でも沈香は、特に貴重なものなのです。 大変貴重で価値の高い沈香は、乱獲されるのを防ぐために、現在ワシントン条約の「附属書Ⅱ」(必ずしも絶滅のおそれはないが取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれのある種となりうるもの)に指定されています。 天然沈香と栽培沈香 沈香には、天然沈香と栽培沈香の2種類があります。 天然沈香とは、自然界にある天然の木が雨風や害虫から受けたダメージにより自然と樹脂化したものを指します。 栽培沈香とは、沈香が発生する種類の樹木を人工的に栽培し、その幹に意図的に孔を開けたり傷をつけたりするのです。 そこから特殊なバクテリアや薬品を注入し、樹脂化を促進させる方法です。 栽培沈香は、沈香の採取量減少を受け価格が高騰する中、価格を抑えて沈香を多くの人が手にできるよう、ベトナムやラオスで行われるようになりました。 天然沈香は希少価値が高く、非常に品質も高いとイメージされますが、ばらつきがあります。 とはいえ、多くの天然沈香は上質であり、品質があまり優れない天然沈香と高品質な栽培沈香は、同じくらいの品質といわれています。 日本における香木の歴史 沈香をはじめとする香木は、古くから日本で親しまれてきた香りものです。 日本に初めて香木が伝来したのは、飛鳥時代の595年と考えられており、『日本書紀』によると、推古天皇3年4月に、香木が淡路島に漂着したと書かれています。 流木だと勘違いした島人が香木を焚火にくべたところ、良い香りが漂ってきたためすぐさま火から外し、朝廷に献上したのでした。 朝廷では、献上された流木を聖徳太子が一目見ただけで香木と見抜いたといわれています。この年、聖徳太子によって鑑定された香木が、日本に伝来したとされる最古の記録です。 奈良県の正倉院には、巨大な沈香が納められています。 長さは156.0cm、重さが11.6kg、最大径が43cmと大変大きな沈香で、黄熟香と呼ばれるものです。 黄熟香は、ベトナムからカオスにわたる山岳部が産地。その歴史は古く、鎌倉時代以前に日本へ入ってきたとされています。 足利義政、織田信長、明治天皇などの権力者に名香と重宝され、切り取らせた跡が付箋によって明記されています。 平安時代は薫物の全盛期であり、室内用香り袋の原形となるものも誕生。 香り文化が貴族たちの間で広がりを見せ、自分たちだけの香りを作り出してほかの人へ披露する薫物合わせが流行しました。 当時、上流階級は香木の知識や触れる機会がありましたが、それに比べると庶民にまでは浸透していませんでした。 香木の中でも特に伽羅や沈香は、権力の象徴としての一面を持つようになっていきます。 織田信長は自身の権威を示すために、東大寺秘蔵の蘭奢待を、勅許を得て裁断しました。また、この蘭奢待は足利義政や明治天皇によっても裁断されています。 権力者の中でも、徳川家康は特に香木への収集に熱心でした。 1606年(慶長11年)ごろ、徳川家康は、沈香の中でも特に極上品とされている伽羅の入手を主な目的として、東南アジアへの朱印船貿易を行っています。家康は非常に香木を嗜んでおり、自身で調合を記録した「香之覚」を書き残しているほどです。 江戸時代に入り平和な世が訪れると、武士や貴族などの上流階級の人々だけではなく、町人層にも香道が広く浸透していきました。 全国薫物線香組合協議会は、1992年4月に『日本書紀』の記述に基づき、日本に香木が伝来した4月と「一十八日」と「香」の字を分解した18日の4月18日を「お香の日」としました。 現代でも、香りの文化は多くの人々を癒し、楽しませてくれているとわかるでしょう。 最高級の沈香、「伽羅(きゃら)」 伽羅とは、香木である沈香の一つで、最上級の香木といわれています。 伽羅の産地は範囲が狭く、ベトナムの限られた地域でしか産出されません。また、採取量も極少量のため「香木の王様」といわれるほど貴重な香木なのです。 沈香は加熱をして香りを感じられますが、伽羅は常温でも香りが楽しめます。加熱すると奥深く濃厚で、甘み、苦み、辛み、酸味、塩辛み全てを感じられる「五味に通じる香り」といわれています。伽羅は希少価値の高さと人気の高さから、価格が高騰しているため、沈香の中でも入手が難しい香料です。 長い歴史が生み出した香木・沈香の魅力を堪能しよう 沈香とは、東南アジアの熱帯地域に生息する樹木が、外敵にさらされた際に防御策として分泌した樹液が樹脂に変化し、時間をかけて特徴的な香りを放つのが香木です。 香りは甘み、苦み、辛み、酸味、塩辛みが混ざりあった、非常に複雑な香りの中に甘みや苦みなど産地によって異なる香りが楽しめます。 約1400年の長い歴史がある沈香は、偉人たちにも嗜まれ、今なお貴重で人気があります。 沈香を入手するのは現在でも難しいですが、沈香の香りを楽しむための線香や香袋のお香商品は数多くあり、現在では手軽に香木や沈香の香りを楽しむことが可能です。
2024.10.12
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