掛軸には季節を問わず年中掛けられる作品と、四季によって掛け替える作品があります。
基本的には季節掛け掛軸としてはその季節に咲く花が用いられます。たとえば、冬から春にかけての花である梅は、12月から2月、椿なら11月から4月、あじさいなら5月から7月といったように、掛け替えを行います。
季節の移ろいにあわせて掛軸を掛け替え、時期にあった画を楽しみましょう。こちらでは、春を楽しむ季節掛け掛軸を紹介します。
春の掛軸を楽しもう!季節掛け掛軸とは
季節掛け掛軸にはその季節ごとの魅力を存分に楽しめる魅力があります。
春の桜、夏の風情、秋の紅葉、冬の雪景色など自然の美しさや季節によって異なる風物詩を描いた作品が、より一層季節掛け掛軸を魅力的なものにします。繊細な筆使いや色彩、独特な構図などで季節の趣を表現し、見る者の心に季節感や情緒を呼び起こしてくれるでしょう。
春の季節掛けに人気の絵柄
季節によって掛軸を変える季節掛けは、日本の四季折々の美しさを表現し、季節の移り変わりや自然の豊かさを感じさせてくれる魅力があります。春といえば日本を象徴する花である「桜」が代表的な画題です。夜の桜を描いた掛軸は、「中国の古い詩」にある「春宵一刻値千金(しゅんしょういっこくあたいせんきん)」と表されるようにとても美しい掛軸です。
春の掛軸としては桜以外にも木蓮が有名です。また、4月から6月頃までは牡丹をお勧めします。牡丹は正月や慶事などのめでたい日や、季節を問わず掛けることも可能です。2月であれば立春に合わせて梅の掛軸を飾ることも多いでしょう。そのほかにも季節掛け掛軸では、山吹、木瓜、うぐいす、桃、福寿草、雪割草、芥子、菜の花も描かれます。
また、春の掛軸としては花鳥画掛軸も人気があります。ものごとの始まりにあたる4月は、咲きはじめの花や爛漫の花、花蜜を好んで集まる鳥を描いた花鳥画がお勧めです。
「梅の花」の掛軸
梅は冬が明ける前にいち早く春を告げる花として日本文化になじみ深い人気の作品の一つです。
春告草(はるつげぐさ)、匂草(においぐさ)などの別名を持っています。掛軸で用いられる梅の花の意味は、忍耐強さと大願成就。年始一番に花を咲かせ、真冬の極寒にも耐え美しく見事な花を咲かせることから忍耐強さと大願成就の意味が付けられました。
松竹梅の一つでもあり、松や竹と同じように縁起がよいとされています。
松と竹は寒中にも色褪せず、梅は寒い冬に花を咲かせることから、中国では清廉潔白、節操など文人の理想を表現した花とされていました。掛軸として楽しむ際は梅だけが描かれた作品以外にも、新春には鶴と亀を一緒に描いた松竹梅鶴亀や紅白梅などもお勧めです。梅の花の掛軸は立春ごろから掛け始め、4月くらいまで楽しめるでしょう。
「桜の花」の掛軸
桜の花の掛軸は2月下旬から4月頃まで楽しめます。
日本の国花として名高い桜。夢見草(ゆめみぐさ)、徒名草(あだなぐさ)などの別名を持っています。
華やかに花を咲かせたと思えばあっという間に儚く散りゆく姿は日本の「侘び・寂び」の心をしみじみと感じさせてくれます。
また、季節の風物詩を楽しむ日本の心、言い換えれば「和」の心を思い出させてくれるでしょう。春掛けの代表的な花である桜は日本の心ともいえます。伝統や文化を重んじる侘び・寂びの茶道にも掛軸がよく飾られますが、茶室においても桜の花の掛軸は欠かせない作品です。
白や淡紅、濃紅色の花の色、一重や八重の桜が咲く姿はまさに桜花爛漫。桜の花の掛軸の中でも小鳥と桜を組み合わせた桜花小禽図はとても可愛らしく魅力的です。また、樹齢千年を超える大木の桜が描かれた掛軸も迫力があり、多くの人の印象に残るでしょう。新しい始まりを予期させる桜は、祝賀や記念の式典の折に飾られることもしばしばあります。
「桃の花」の掛け軸
桃の節句に良く用いられるのが桃の花の掛軸です。
桃には昔から邪気を払う力があるとされてきました。陰陽師で有名な安倍晴明を祀る晴明神社には大きな厄落としの桃があり、邪気を払うといわれています。桃の節句は、女の子が美しく健やかに成長し、素敵なご縁に恵まれるようにと成長を祝う伝統文化です。魔よけの力があるともいわれる桃の花の掛軸を雛人形の後ろに飾り、厄を落とし邪気を払うことで、どのような困難に直面しても周囲の人々と乗り越え幸せな人生を歩んでいけるようにと願掛けを行います。
季節掛け掛軸で日本の春を感じよう
季節掛け掛軸は、四季折々の表情と日本文化の美しさを堪能できる美術作品です。春の季節掛け掛軸には、梅の花や桜の花、桃の花が描かれた作品が多く存在します。どれもが日本の眩い春の景色を描いた作品で、春の訪れや生気溢れる美しい自然を楽しませてくれることでしょう。
季節の掛け軸は作品や作家によって高価買取が可能な場合もあります。
一般の方が自分で価値を調べることが難しいため、知識の豊富な専門の査定士へ調査を依頼するのがお勧めです。春夏秋冬違った表情の掛軸を楽しめる季節掛け。倉庫からいくつも掛軸が出てきた際は、飾る前にまずは価値を知っておきたいこともあるでしょう。修復などを行うとかえって損傷を広げてしまう恐れがあるため、まずはそのままの状態で査定に出してみましょう。