掛軸に欠かせない表装とは?書画を引き立てる美しい脇役!
書画を飾るために欠かせない表装。
書画の状態を保つだけではなく、書画の魅力を活かすための役割もあります。書画の特徴に合わせて施された表装は、注目してみてみると作品によって様相が大きく異なることも。書画自体を楽しむのもよいですが、表装にも注目してみると違った魅力を発見できるかもしれません。
目次
掛軸を彩る、表装とは
掛軸を飾るために欠かせない表装とは、掛軸を和紙や布で裏打ちして補強し、シワが寄らず色艶を維持する目的だけではなく、書画を美しく見せるための役割もあります。
丁寧に描かれた書画でもそのまま放置してしまえば、墨の水分により紙が寄り、シワができてしまうのです。そのため、シワが寄らないよう表装を施すことで、書画を長く美しい状態で楽しめます。表装は書画の価値を損なわないようにする優れた伝統産業です。
また、表装は書画の魅力を引き立てる役割があります。
描かれた書画のテーマに合わせて色彩豊かな装飾を行うことで芸術性を高める効果も期待できるでしょう。
たとえば、華やかな印象のある花鳥画には、上品で豪華な表装がマッチすると考えられます。一方で、仏画や水墨画はシンプルでありながらも迫力のある絵もあり、落ち着いた表装が好まれるでしょう。
また表装は掛軸だけに利用される言葉ではなく、額や屏風を仕立てる際にも使用されます。
表装の大きな役割は書画をきれいに保存することと、美しく装飾することの2つです。
表装は古くから専門の職人が一つひとつ丁寧に作業し、書画を引き立たせてきた伝統技術でもあります。現在では機械による表装も普及していますが、職人が施す伝統表装は精度が高いため、大切な書画を保管する際に利用するのも良いでしょう。
表装・表具の名称や種類について
作家が丹精込めて描いた書画を先の未来まで美しく保つために欠かせない表装。
また表装を施すものを表具といいます。どちらもさまざまな種類があり特徴も異なります。書画の種類やテーマ、画風などに合わせて使用する表装を替えることで、より書画を引き立たせられるでしょう。
表装の種類
表装は主に6種類あります。
丸表装
丸表装は表装の中で最も一般的な様式です。
呼び方はさまざまで、見切り表装や文人表装、袋表装等とも呼ばれています。
表装の中では比較的安い価格で施せることも特徴です。
丸表装では、書画の周りを1種類の裂地と呼ばれる布で覆います。
シンプルなデザインですが、書画そのものを引き立たせる効果があるといえるでしょう。
筋割表装
筋割表装は丸表装に細い筋が入った様式の表装です。
風帯の代わりに裂地には細い筋が貼られています。
筋割表装の中でもさらに、筋が1本のみのものを筋風帯、2本のものを筋割風帯と呼びます。
二段表装
二段表装は一文字がないタイプの表装です。
軸の上から垂れ下がる風帯を用いないため、書画をシンプルに飾りたいときにお勧めの表装といえます。裂地は外側に無地、内側に柄物を用いるのが一般的です。
三段表装
三段表装は人気の高い様式で、豪華な見た目になる表装です。
丸表装の上下を無地の裂地で分けて上から風帯を垂らすデザインをしています。
風帯の様子で名前が異なり、垂れさがっているものを垂れ風帯、貼り付けているものを貼り風帯と呼びます。本式は垂れ風帯であり、貼り風帯は略式です。
仏表装
仏表装は表装の中で最も格式高い様式です。
表装を施される書画も限られており、御朱印譜や仏画などに用いられます。
様式自体は丸表装に似た部分がありますが、金襴緞子と呼ばれる高価な織物を使用し、非常に豪華な見た目が特徴的です。書画を天地と柱、内廻の二重で覆う構造をしています。
茶掛け
茶掛けは、もともと茶席で利用することを目的にした表装。書画の両脇の柱部分は3cm未満と、ほかの表装よりも細い作りになっています。
デザインの特性上、主に寺院僧侶の一行書を表装するために用いられます。また、小さい作品や横長の作品をまとめて茶掛けと呼ぶ場合もあるようです。
表装・表具の名称
表具とは、表装を構成する部材を指します。
表具は適切な表装を施し、書画の価値を高めたり、品質を維持したりするために欠かせない部材です。
表具には、本紙・天地・柱・筋・一文字・風帯・掛け緒・巻き緒・軸木・表木などがあります。書画に施す表装の種類によって、特徴の異なる表具が用いられます。
表装の美しい掛軸
書画そのものの美しさもさることながら、表装のデザインによってより書画の魅力が増している作品も多く存在します。
また、もともとは絵巻物として描かれた作品を切断して掛軸として飾る場合に、表装にこだわっている作品も多くみられます。
『佐竹本三十六歌仙絵切』 源信明
佐竹本三十六歌仙絵切は鎌倉時代に作られた絵巻物の一部のことです。
もともとは絵巻物であった『三十六歌仙』を切断されたものの一つが『佐竹本三十六歌仙絵切 源信明』で、美しい表装で仕立てられています。
凝った表装を施すことを「おべべを着せる」と表現することもあり、表装は掛軸を愉しむために欠かせないものであったことをうかがい知ることができます。
『牛図』長沢芦雪
長沢芦雪(ながさわろせつ)は江戸時代中期に活躍した画家で、奇想の画家とも呼ばれていました。
大胆な構図で描かれた牛図は、長沢芦雪らしさが出ている作品の一つといえます。
ユーモアあふれる表情の『牛図』には、梅が描かれた表装が。これは長沢芦雪の弟子が描いたものといわれていますが、牛と梅にゆかりの深い菅原道真を彷彿とさせる興味深い仕上がりとなっています。
書画とともに愉しみたい、掛軸の表装
書画を経年劣化によるシワから守ったり、魅力を引き立たせたりするために欠かせない表装。
表装にはいくつかの種類があり、書画の種類や画風などにより異なる表装を施し、書画の魅力を最大限に引き出します。
美術品を鑑賞する際、書画そのものの歴史や背景とともに絵を楽しむのもいいですが、書画を引き立てる表装にも注目して見てみると、また違った魅力を発見できるでしょう。