2025年4月5日(土)から6月22日(日)まで、あべのハルカス美術館で開催されている、ジャン=ミッシェル・フォロン展。この展覧会は、フォロンの没後20年と、彼が生前に設立したフォロン財団の25周年を記念するもので、日本ではなんと30年ぶりとなる大規模な回顧展だそう。
「空想旅行エージェンシー(AGENCE DE VOYAGES IMAGINAIRES)」と自らの名刺にも記したフォロンの作品に囲まれて、想像力を膨らませる旅に出かけませんか。
目次
かわいいイラストレーター?実はそうじゃない、フォロンの魅力

あべのハルカス美術館のポスターでこの展示の予告を目にしたとき、「かわいい作品を展示するんだな」と思ったのが、私の第一印象。
淡い色使いと美しいグラデーション、そこに描かれた丸いフォルムの人物。
しかしチラシにあったある人物の名前に、私の興味がむくむくと沸き上がります。その人物が「ルネ・マグリット」。
ルネ・マグリット(1898-1967)はベルギー出身のシュルレアリスム(超現実主義)を代表する画家です。日常的なものを独特な発想で組み合わせ、現実と非現実の境界を曖昧にする作品が特徴。《人の子》《大家族》《イメージの裏切り》などの作品を一度は目にしたことのある人も多いのでは。
あのルネ・マグリットの絵に魅了されたアーティスト、ジャン=ミッシェル・フォロンがいったいどんな作品を生み出したのか……
実は、フォロンの魅力は、その淡い色合い・優しいタッチだけではなく、作品に込められたメッセージ性にあるといえるでしょう。
矢印、都市、環境、戦争、宇宙、平和への願い……
アメリカの有名雑誌「TIMES」や、アムネスティ・インターナショナルの「人権パスポート」(世界人権宣言の書籍)などで彼のイラストが採用されたのは、こういった作品に込められたメッセージとそれが見る者に与える影響が理由といえます。
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矢印(と私)はいったいどこへ向かうのか?
フォロンの作品には、多くの矢印が登場します。
矢印――
私たちは矢印を見ると、その先端が指す方向へ自然と向かいますよね。
ただ、世界にはあまりに多くの矢印があふれていて、同時にいくつもの方向を指しています。
会場にはこんなフォロンの言葉が紹介されていました。
矢は身を守るために人類が最初に発明したものだ。
いまや私たちはその矢から身を守らなければならない。
第1章「あっち・こっち・どっち?」は、そんな矢印がテーマの作品たちがずらり。
私たちが向かうべきはどこなのか?この目の前の矢印の先には何があるのか?矢印は正しい方へ導いているのか?
多くの情報や多くの正義があふれている現代に生きる私たちへ何かを問いかけてきています。
旅の案内人、リトル・ハット・マン
フォロンの作品にたびたび登場する、帽子をかぶった人物。
この、リトル・ハット・マンは、時に可愛らしく、時に増殖し、さらには大きくなったり、小さくなったり…変幻自在に姿を変え、都市や自然、情報の海をさまよいながら、現代社会の不安や孤独、そして、希望を静かに映し出しています。

ところで、このリトル・ハット・マン、どこかで見たことがありませんか?
実は、フォロンが影響を受けたルネ・マグリットの作品にも同じような人物が登場しています。マグリットの描く、帽子をかぶった人物や謎めいたシルエット…。
フォロンのリトル・ハット・マンは、このマグリットの影響を受けつつも、よりユーモラスに作品に登場し、私たちを想像の渦へ案内してくれているようです。
戦争と、平和への願いについて考える
フォロンの作品には、戦争、環境、人権、平和をテーマにしたものも数多くあります。
《グリーンピース 深い深い問題》《ごちそう》など、戦争に対する明確な非難の意思をしめしているものも多く、これらの作品を眼前にした私たちは必然的に「戦争」と「戦争によって失うもの」について考えさせられるのです。

また、「人権パスポート」(世界人権宣言の書籍)にはフォロンの挿絵が採用されています。
1988年、政界人権宣言の採択から40年を迎えたこの年に、アムネスティ・インターナショナルはフォロンに世界人権宣言の条文にあわせた挿絵の制作を依頼します。フォロンが挿絵を描いたのは30の条文のうち19項目。これらの挿絵のほとんどは、いまだ達成されていない世界の問題について描かれています。フォロンは「今なおある大きな課題」を突き付けることで、この宣言を決してきれいごとではなく、未来に向けて達成すべきものであることに私たちの意識を向けるのでした。

ちなみに、この「人権パスポート」は日本語版も発行されており、谷川俊太郎さんが解説文を添えています。小さな子どもにも分かる丁寧で優しい言葉だからこそ、私たち大人にも深く刺さるものとなっています。
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鳥に憧れたフォロン
旅が好きで日本にも訪れたことのあるフォロンは、空を自由に飛ぶ鳥に憧れを抱いていました。実際に、彼の作品には多くの鳥や青く広がる空・宇宙が登場します。
自由への憧れや、想像力の象徴として描かれた、フォロンの鳥たち。
それは、フォロンの作品を鑑賞する私たちにも、どこまでも広がる想像の翼を与えてくれるようです。
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目をそらしてはいけない問題と、立ち止まり自己と向き合うべき課題にまで、フォロンに導かれていく
フォロン展、かわいらしい・癒される展示かと思ったら、全く違った……というのが私の正直な感想です。
シンプルで可愛らしい彼の作品に引き込まれたら、それが想像の旅の始まり。
画面の向こうの問題として目を背けていた世界の問題や、流れに身を任せていた自分の甘さ、心の隅にあった闇や希望……そういったものを考えざるを得ないような状況に。
「空想旅行エージェンシー」と名乗ったフォロンは、時に厳しく、時に包み込むように見守りながらも、私たちの想像力をかき立て、新たな視点を与えてくれるのかもしれません。
開催情報
「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」
場所:あべのハルカス美術館
住所:〒545-6016 大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1丁目1−43 あべのハルカス 16階
Google Map:https://maps.app.goo.gl/DaiG1QXZgpctLkmt5
期間:2025/04/05~06/22
公式ページ:https://www.aham.jp/exhibition/future/folon/
チケット:一般1,900円、高・大生1,500円、中・小学生500円
※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください

