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はがき一枚に宿る歴史と心情を探る「111枚のはがきの世界―伝えた思い、伝わる魅力」に行ってみた!
皆さんは、森鴎外(1862年-1922年)を知っていますか? 鴎外は、明治から大正時代にかけて活躍した小説家、翻訳家、評論家です。 たくさんの肩書を持っており、大変多彩な人物であったことが分かります。 また、幼少期から優れた才能を発揮しており、軍医としても活躍していました。 今回は、そんな鴎外が活躍する時代に社会へ広がっていったはがきのやり取りを展示している「111枚のはがきの世界―伝えた思い、伝わる魅力」展に行ってきました! この企画展は、森鴎外記念館で開催されています。 森鴎外記念館で開催中の特別展示「111枚のはがきの世界―伝えた思い、伝わる魅力」では、明治・大正・昭和という異なる時代を通じて、日本人の交流や文化がどのように変遷してきたのかを感じられます。 企画展では、それぞれの時代ごとに選りすぐりのはがきが展示され、背景にある人々の思いや文化的な特徴が見えてくるでしょう。 「111枚のはがきの世界―伝えた思い、伝わる魅力」は森鴎外記念館にて開催中 文京区立森鴎外記念館では2023年、江戸千家家元・川上宗雪氏から、明治から昭和にわたり文学者や美術家、ジャーナリストらが交わした貴重なはがきコレクション111点が寄贈されました。 今回の企画展では、季節の挨拶や礼状、私信ならではの本音まで、手書きでつづられたはがきに込められた書き手の個性や人間関係、社会背景が紹介されています。 著名な差出人たちが紡いだ一枚一枚の小さな物語を通じて、当時の文化や交流のあり方を体感しましょう。 森鴎外記念館内に入るための巨大な扉にも、企画展の広告が表現されていました。 また館内に入ると森鴎外の等身大パネルが出迎えてくれます。 企画展示室は地下1階にあり、ロッカーは1階にあるため、チケットを購入したら大きな荷物はコインロッカーにしまってから地下に向かいましょう。 館内は、打ち放しコンクリートを基調としたデザインで、静謐でありながらどこか温かみのある空間が広がります。 企画展示室へと続く細長く深い階段は、静かで穏やかな雰囲気をまとい、吸い込まれるような感覚を呼び起こします。 階段を降りると、そこには心を落ち着けて展示を鑑賞できる空間が広がっていました。 展示について 企画展示室では、明治時代と大正時代、昭和時代に分けて各著名人のはがきが展示されています。 日常の一部として書かれたはがきから、当時の人々の生活や文化、交流が垣間見える内容で、どの時代のものも興味深く感じられる展示です。 また、壁際には常設展示として森鴎外の生涯が紹介されており、こちらも見逃せないポイントです。 なお、企画展では展示室前にある展覧会バナーのみ写真撮影が許可されていました。 展示されているはがきや作品は撮影できませんので注意しましょう。 展示されている明治時代のはがきは27枚。 それぞれのはがきからは、青年期の夢や希望、壮年期の実直な思い、晩年の穏やかな気持ちなど、差出人や受取人の人生においてどの段階でどのような気持ちで送られたものかがうかがえます。 手紙ではなく、短文で気軽に送れるはがきだからこそ、垣間見える人々の日常や心情が味わい深いです。 いまではスマートフォンで撮影した写真を手軽に送れる時代ですが、大正時代は違いました。 はがきに描かれた風景や物事は、当時の人々にとって大切な情報や想いを共有する手段であったといえるでしょう。 旅先で見た景色や感動を誰かに伝えたい、その気持ちが丁寧に綴られたはがきから伝わってきます。 当時の人々がどのような思いで送ったのかを想像しながら眺めると、さらに楽しめますね。 昭和の時代のはがきは69枚と、全体の中でも多くを占めます。 この時代のはがきには、戦時中や終戦後の影響が色濃く反映されていました。 藤田嗣治や恩地孝四郎、永井荷風らが送ったはがきには、時代の厳しさや変化がにじみ出ています。 一方で、堀辰雄や前田青邨が友人に送った軽いメッセージは、現代と変わらない気軽な友情の一面を垣間見せてくれます。 昭和時代のはがきは全体の中で最も多い69枚。 筆書きの美しい文字が目立つものや、手描きの絵が添えられた特別な一枚など、アートのような要素が光ります。 藤田嗣治や永井荷風といった著名な文化人が送ったはがきには、戦時中や終戦後の影響が色濃く映し出されているのが印象的です。 一方で、堀辰雄や前田青邨による友人への何気ないメッセージからは、時代が変わっても人と人のつながりが変わらないことを感じさせてくれます。 なかでも印象的だったのは、肉筆の絵入りはがき。 色数は限られていてシンプルですが、その分、線描の丁寧さや差出人の思いが伝わります。 「受け取る人のためだけに描かれた」という特別感が伝わり、思わず見入ってしまいました。 展示室の壁際には、常設コーナーとして森鴎外の生涯が丁寧に解説されています。 彼の生い立ちや文学、医師としての活動、さらには軍医総監としての功績まで、幅広い人生がわかりやすくまとめられていました。 展示された写真や資料を通して、文豪・森鴎外がどのような人だったのかに触れられるのも、記念館ならではの魅力です。 絵はがきに込められた画家の思い 文章だけでなく、絵も一緒に送れる「絵はがき」は、当時の画家たちにとって表現の場でもあったといえます。 それぞれの作品には、書き手の感情や思いが溢れています。 シンプルな線描きから鮮やかな色彩で描かれたものまで、どれも受取人に特別な印象を与える一枚です。 特に、差出人が直接手を加えた肉筆画は、唯一無二の特別感があり、まさに「小さな贈り物」と呼べるでしょう。 交流の手段としての絵はがき 現代のように気軽に連絡手段が多様でなかった時代に、はがきは貴重なコミュニケーションツールでした。 著名人たちは、単にメッセージを伝えるだけではなく、自分の感性や創造性を添えることで、はがきを通じて交流を深めていました。 旅先の景色や身近な出来事を絵で伝えることで、手紙とはまた違った温もりやリアリティが生まれます。 受取人がはがきを手にした瞬間の驚きや喜びを想像するだけで、当時の温かい交流が目に浮かぶようです。 森鴎外に関連した上映 特別展示「111枚のはがきの世界―伝えた思い、伝わる魅力」では、鴎外に関連した映像プログラムも上映されていました。 上映されていたプログラムは以下の4つです。 ・よみがえる観潮楼 ・鴎外を語る ・鴎外の町 千駄木 ・舞姫を読む 映像プログラムは、鴎外の作品や生涯を視覚的に楽しめる貴重な体験です。 「111枚のはがきの世界」を鑑賞したあと、ぜひ上映プログラムも見てみましょう。 ハガキやTシャツなど多彩なグッズも 文京区立森鷗外記念館では、特別展の魅力をさらに楽しめるオリジナルグッズが多数そろっています。 展示をじっくり堪能した後には、ぜひグッズコーナーもチェックしたいものです。 展示テーマにちなんだポストカードは、はがき文化を感じるにはぴったりのグッズです。 ほかにも、クリアファイルや東京方眼図、一筆箋、鴎外Tシャツなど、さまざまな関連グッズが販売されています。 鴎外や展示内容に関連する書籍も豊富にそろっています。 歴史や文学に触れる新たな視点を得られること間違いなしといえます。 記念館グッズは、自分用はもちろん、文学や歴史好きな方へのギフトとしても喜ばれるでしょう。 展示の余韻を日常生活で楽しむためのアイテムをぜひ見つけてください。 その他ミニイベント 展示をもっと深く楽しみたい方には、学芸員によるギャラリートークもおすすめです。 会期中に複数回開催され、次回は2025年1月8日(水)に予定されています(14時~、30分程度)。 申込不要で、当日の展示観覧券があれば気軽に参加できます。 さらに、展示解説をYouTubeでも配信予定なので、遠方の方や復習したい方にも嬉しい内容です。 まとめ 文京区立森鷗外記念館で開催されている特別展「111枚のはがきの世界―伝えた思い、伝わる魅力」は、明治・大正・昭和の三時代にわたる文学者たちの息遣いを感じられる展示でした。 はがきという小さな紙片に込められた「書く」という行為の意味と、その中に息づく作家たちの感情や生活。 電子メールやSNSでは味わえない、温かみのある交流がここにはあります。 ちょっとした挨拶の言葉や、仕事の報告、友人への感謝の一言。 その一枚一枚から、書き手や受け取り手の生活や心情が感じられるのが不思議で、なんとも魅力的でした。 展示を堪能した後は、館内1階にある喫茶室でひと休みするのもおすすめ。 庭園にある沙羅の木や「三人冗語」の石といった鷗外ゆかりの風景を眺めながら、コーヒーや紅茶、軽食を楽しむ時間は、文学の余韻に浸れる贅沢なひとときです。 運が良ければ、庭園の向こうにそびえるスカイツリーを眺められます。 ただ文学を知るだけでなく、人々が言葉を通してどうつながり、思いを伝えたのかを教えてくれる貴重な企画展。 美しい庭園と共に、その世界をぜひ味わってみてください。 開催情報 『111枚のはがきの世界―伝えた思い、伝わる魅力』展 場所:〒113-0022 東京都文京区千駄木1-23-4 期間:2024/10/12~2025/1/13 公式ページ:https://moriogai-kinenkan.jp/ チケット:一般600円、中学生以下無料、障害者手帳ご提示の方と介護者1名まで無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.12.26
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モネが晩年に描いた壮大な装飾画と彼の芸術への情熱に触れる『モネ 睡蓮のとき』展
フランス・パリで生まれ、「印象派」という美術運動の創始者としてあまりに有名な画家・クロード・モネ(1840年-1926年)。 自然の光と色彩を描くことに情熱を注ぎ、同じモチーフを異なる時間帯や天候で繰り返し描く「連作」という手法を用いた作品を多く残しています。 今回は、国立西洋美術館で開催中の「モネ 睡蓮のとき」展に行ってきました! この企画展では、晩年のモネが情熱を注いだ大装飾画『睡蓮』をメインに、印象派として活躍した彼の世界に浸れる贅沢な内容が詰まっています。 パリのマルモッタン・モネ美術館の全面協力により、国内外から選りすぐりの名品が集結している点も見どころです! さらに、楕円形の地下展示室では壁面に配置された『睡蓮』の大作に囲まれる体験ができ、まるでモネの庭に足を踏み入れたような感覚を味わえます。 「モネ 睡蓮のとき」展は国立西洋美術館にて開催 国立西洋美術館で開催中の「モネ 睡蓮のとき」展は、その注目度の高さから平日でも多くの来場者で賑わっていました。 平日に訪れましたが、お昼過ぎであったこともあり、チケット売場には長い列ができていました。 モネの「睡蓮」という普遍的な人気を持つテーマが多くの人々を惹きつけているともいえますね。 午後の時間帯は、観覧チケットの購入だけでなく、ミュージアムショップのグッズ購入でも列ができ混雑しているため、空いている時間を狙うならなるべく午前中の早い時間がよさそうです。 「モネ 睡蓮のとき」展では、アンバサダーを務める石田ゆり子さんが音声ガイドを担当しています。 音声ガイドでは、モネの人生や作品にまつわるストーリーを彼女の温かな声で解説してくれます。 まるで彼女の案内でモネの世界を散策するような、特別な時間を楽しめるでしょう。 当日貸出価格:650円(税込) およそ50点!日本初公開も含めた、モネの名品がずらり 今回のモネ展では、世界最大級のモネ・コレクションを誇るパリのマルモッタン・モネ美術館から、日本初公開となる作品を含む約50点のクロード・モネの作品が展示されています。 さらに、日本国内の美術館が所蔵するモネの名品も加わり、晩年におけるモネの創作活動を多角的に掘り下げる試みがなされています。 モネの人生後期に焦点を当てたこの展示は、彼が追い求めた光と色彩の世界を存分に味わえる内容です! なお、企画展は基本的に撮影が禁止されています。 ただし、地下展示室に展示されている3章の作品は写真撮影が可能です。 第1章:セーヌ河から睡蓮の池へ 1890年代後半、モネが繰り返し描いた主要なモチーフは、3年連続で訪れたロンドンの風景、そして彼の画業を通じて最も身近な存在であったセーヌ河の風景でした。 この時期に描かれたセーヌ河沿いの水辺の風景は、水面に映り込む鏡像が重要なテーマとなっています。 鏡のように穏やかな水面に映る光や景色を巧みに捉えたこれらの作品には、のちの代表作『睡蓮』を予見させる要素が随所に見られます。 反映された像が揺らぎながらも形を成すその表現には、彼の「見る」という鋭い観察眼と、自然の一瞬の美を捉えたいという情熱が感じられますね。 第1章では、そんなロンドンやセーヌ河を描いた名作が展示されており、モネがどのようにして『睡蓮』の世界観を築き上げていったのかを、時間を追いながら楽しめます! セーヌ川の支流であるエプト川を舞台にした作品『舟遊び』。 モネは、この川辺の風景を繰り返し描きながら、水面に映る光とその反映像の美しさを探求し続けました。 晩年に手がけた「睡蓮」のような、画面全体を水で覆う大胆な構図の片鱗がこの作品からも感じられますね。 らに、このセーヌ川を描いた他の作品も多く展示されており、それぞれ異なる「表情」を楽しめます。 寒色を基調とした作品は、空気の冷たさや透明感を巧みに表現し、暖色が差し込むものは陽光の温かさを感じさせてくれます。 同じセーヌ川を題材にしながらも、瞬間ごとに移ろいゆく光と空気を見事に捉えたモネの視点に驚かされるばかりです! また、モネはロンドンを訪れた際、テムズ川に架かるチャーリング・クロス橋を何度も描いていたようです。 この橋を題材とした一連の作品は、時間や天候、光の変化による風景の多様性を鮮やかに捉えています。 たとえば、朝日が昇りきり、川や空気が柔らかな黄色の光に包まれる情景。 モネは、光が水面をどのように照らすか、そして川辺の空気がその光をどのように拡散するかを細やかに表現しています。 一方、朝焼けや夕焼けのころ、川と煙が赤みを帯びた光に染まる作品も。 モネの、一瞬の移り変わりを見逃さない観察眼と光をどれほど巧みに操っていたかを間近で感じられる作品たちでした。 モネは、日本の美学に深く共感し、その影によって物の存在を暗示し、断片によって全体を感じさせる表現方法に強く影響を受けました。 その象徴的な作品が『睡蓮』であり、彼の作品の中ではしばしば、影や反射が重要な役割を果たしています。 『睡蓮』というと淡い色合いで幻想的な風景のイメージをもつ人も多いでしょう。 今回の展示では、赤をメインとした睡蓮の作品もいくつか鑑賞しました。 なかには、水平方向に広がる水面をあえて縦型のキャンバスに収めることで、黄昏時の赤く染まる空気と、その光の反射が水面に広がる様子を強調した作品も。 モネが追い求めた光や色の奥深さの新たな一面を見れたように感じます。 第2章:水と花々の装飾 大の園芸愛好家として知られるモネ。 彼の庭は、まるでキャンバスに絵具を載せるように、色鮮やかな花々で彩られていました。 その美しい庭は、彼の創作活動に大きなインスピレーションを与えた場所でもあります。 モネが構想しながらも実現することのなかった幻の装飾画に登場する植物たち。 池に架けられた太鼓橋を覆うように這う藤棚と、岸辺に咲くアガパンサスの花々が、この計画で重要な役割を担っていました。 紫や白の藤が揺れる橋と、青紫のアガパンサスが並ぶ風景は、モネが愛した自然そのものであり、彼が追い求めた色彩の世界を象徴する存在です。 また、モネが「睡蓮」に次いで多く描いた植物、それがアイリスです。 そのなかでも、作品番号25の『黄色いアイリス』はユニークな視点で描かれており、解説をみて驚きました。 この作品では、アイリスの花が真横から描かれ、その背後に広がる空と雲が水面に映り込んでいます。 一見すると、アイリスの花を下から見上げ、空と雲を同時に捉えているように感じられます。 しかし、解説を見ると、この作品は真横からアイリスを見た視点と、水面に反射する空と雲を上からみた視点の2つで構成されているとのことでした! まるで、モネが寝転がりながら花を見上げて描いたかのような自然な構図の中に、計算された構図の妙がありますね。 モネの庭に咲く植物たちは、彼の作品の重要なモチーフとなり、「アイリス」以外にも「アガパンサス」や「藤」なども題材にされています。 それぞれが異なる視点や光の演出で描かれており、植物を通して自然の豊かさや多様性を感じ取れます。 モネの作品は、単なる植物画を超え、その花々がある場所や時間の空気感までも描き出している点に、何度も引き込まれてしまいますね。 第3章:大装飾画への道 第3章では、まるでパリのオランジュリー美術館にある楕円形の部屋を彷彿とさせるような特別な空間が広がっています。 白を基調としたシンプルな楕円形の展示空間では、鑑賞者が睡蓮の池に囲まれるような感覚を味わえます。 水面に映り込む木々や空の柔らかな表現が、まるでその一部になったかのような没入感を与え、ただ「見る」だけでなく、「感じる」絵画体験を楽しめるでしょう。 また、旧松方コレクションの『睡蓮、柳の反映』も今回の企画展で注目したい作品の一つです。 モネが生前に唯一売却を認めた4メートルを超える巨大な装飾パネルであり、そのスケール感と芸術性に圧倒されます。 しかし、2016年に再発見された際には、上部の大半が欠損している状態だったとのこと。 今回の企画展では、この作品とともに、欠損前の姿を想像させる類似の作品も並べて展示されています。 これにより、かつての『睡蓮、柳の反映』がどのような壮麗な姿をしていたのかに思いを馳せることができますね。 失われた部分を想像しながら鑑賞する体験は、モネの創作の背景や彼が求めた芸術の理想に触れる貴重な機会となりました。 なお、企画展のなかで第3章は唯一写真撮影が可能な空間です。 ぜひ、モネが描いた『睡蓮』を写真に収め、後から余韻に浸るのもまたよいでしょう。 また、地下展示室を抜けるとサシャ・ギトリによるドキュメンタリーも放映されていました。 モネをはじめ、同時代に活躍したオーギュスト・ロダンやピエール=オーギュスト・ルノワール、エドガー・ドガといった著名な芸術家たちを記録した貴重な無声の映像作品です。 また、当時の舞台女優サラ・ベルナールや作曲家カミーユ・サン=サーンスなども登場し、19世紀末から20世紀初頭にかけての文化的な空気感がリアルに伝わってきます。 中でも印象的なのは、立派な白ひげを蓄えた貫禄あるモネの姿。 タバコのようなものをくわえながら、パレットから色を取り、力強くキャンバスに向かうその姿は、まさに芸術家そのものでした。 モネがどのような思いで自然と向き合い、色を重ねていったのか、その一端を垣間見ることができる貴重な映像作品です。 第4章:交響する色彩 第4章では、モネが晩年に大装飾画の制作と並行して描いた小型の連作群が展示されています。 彼の庭に架けられた日本風の太鼓橋や、バラが咲き誇るジヴェルニーの庭が描かれ、モネが愛した自然の一部が色鮮やかに表現されているのが特徴的でした。 モネの晩年の作品には、白内障の影響が色濃く反映されています。 そのころの色彩は以前に比べて濃く、原色に近い鮮やかな色合いが多く見られ、暖色系が頻繁に使われるようになったと感じられました。 たとえば、作品番号49の『日本の橋』では寒色が中心でありながらも、そのトーンは深く、濃密な色彩が印象的です。 白内障という視覚障害を抱えながら、モネが何を思い絵筆を握っていたのか。 これまでのような繊細な色使いができなくなったことに対する失望や、描きたいものを思うように表現できない無念さがあったのかもしれません。 それでもなお、彼は新たな作品を生み出し続けました。 その中で、過去の自分とは異なる表現を模索し、新たな芸術の境地に挑戦していたのではないかとも考えられます。 作品番号65の「ばらの庭から見た家」では、白内障を患う中で描かれたとは思えないほど淡い色調とともに、ピンクや紫が幻想的に溶け合い、まるで夜の夢の中の風景を切り取ったかのようです。 視覚の制限を超えて、モネが自らの心に映る情景を描き続けたことが伝わってきます。 そして、実はこの作品は、モネが白内障の手術を受けた後に描かれたものだそうです。 白内障の手術を受けた後、モネの視界は片目は寒色系を認識できるようになったものの、もう片目はこれまで通り白内障の影響で暖色系に見えるという状態だったのです。 このような複雑な視覚の条件下で生まれた作品だからこそ、現実とモネ自身の内面が交錯した独特の色彩が生まれたのかもしれません。 白内障という逆境の中で、モネは新たな視点と色彩を見出しました。 それは、彼の芸術家としての情熱が尽きることなく、むしろハンデを乗り越えて新しい芸術の可能性を切り開いた証といえるのではないでしょうか。 モネが追い求めたものは、変わりゆく自然の美しさだけではなく、自らの限界を超えた先にある新たな表現の世界だったのかもしれません。 彼の晩年の作品を通じて、私たちは「見ること」「描くこと」の深い意味をあらためて考えさせられます。 エピローグ:さかさまの世界 1914年、モネは〈睡蓮〉を含む大装飾画の制作に着手しました。 同年、第一次世界大戦が始まり、人々が未曽有の悲劇に直面していた最中のことです。 そんな時期に彼はこう綴っています。 「大勢の人々が苦しみ、命を落としている中で、形や色の些細なことを考えるのは恥ずべきかもしれません。しかし、私にとってそうすることがこの悲しみから逃れる唯一の方法なのです。」 モネが筆を取り続ける理由、それは単なる絵画制作を超えた、生きるための行為であり、苦難の中にあって自身を保つための術だったのかもしれません。 モネが目指したのは、鑑賞者が無限の水の広がりに包まれ、静かに瞑想できる空間。 その発想は、西洋絵画の伝統である遠近法を否定し、人間中心主義的な視点から脱却しようとする挑戦ともいえるものでした。 これを「森羅万象が凝縮されたさかさまの世界」と称したクレマンソーは、モネの死後も彼の志を支え続け、1927年に大装飾画がオランジュリー美術館に設置される運びとなったそうです。 うっとりするようなデザインのグッズがあるのは、モネ展ならでは 「モネ 睡蓮のとき」展では、モネの世界観を五感で体験できるユニークなグッズが充実しています。 企画展の記念やお土産としてぴったりなアイテムをいくつかご紹介します。 食べてひたるモネ:ヴォヤージュサブレ Sablé MICHELLEが手がける焼き菓子「ヴォヤージュサブレ」。 美味しいだけでなく、缶には大人気の《睡蓮》がプリントされています。 この特製缶は食べ終わった後も使えるので、展覧会の思い出として長く楽しめます。 触れてひたるモネ:シュニール織ハンカチ 歴史と伝統あるFEILER(フェイラー)がデザインしたシュニール織ハンカチは、グリーンとピンクの2色展開。 柔らかな手触りと上品なデザインが特徴で、今回の企画展だけの特別なアイテムです。 普段使いはもちろん、ギフトとしてもおすすめ。 歩いてひたるモネ:オールスター スニーカー 「White atelier BY CONVERSE」が手がけたオールスターは、左右の外側とタン部分に『睡蓮』をプリントしたデザインが特徴的。 鮮やかな色彩で描かれたこのスニーカーは、履くたびにモネの世界を感じられる特別な一足です。 展覧会限定のこれらのグッズは、モネの名画をさまざまな形で楽しめる貴重なアイテムばかりです。 この機会に、ぜひお気に入りを見つけてみてください。 モネの『睡蓮』と彼が紡ぎ出した芸術の世界を体感できる「モネ 睡蓮のとき」展 同じ場所でも、一秒たりとも同じ景色は存在しない。 それを感じさせてくれたのが、今回の企画展で展示されていたモネが描き続けたセーヌ川や睡蓮の風景です。 水面に映る光と影、風の動きや空の色。 絵画を通じて、時間の流れを感じつつも、その一瞬の尊さを教えてくれるモネの作品は、日常の何気ない景色すら特別に思えるきっかけを与えてくれるでしょう。 ぜひ、企画展に足を運んで、モネの『睡蓮』を間近で感じてみてください。 水面に映る美しい風景とともに、あなた自身もその絵画の一部となったような感覚を楽しめるはずです。 開催情報 『モネ 睡蓮のとき展』 場所:国立西洋美術館 住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園7番7号 期間:2024年10月5日~2025年2月11日 公式ページ:https://www.nmwa.go.jp/jp/ チケット:一般2,300円、大学生1,400円、高校生1,000円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.12.11
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草間彌生の死生観を辿る「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」展
皆さんは、草間彌生(1929年-)を知っていますか? 1957年に渡米した彼女は、自己消滅をテーマにした網目模様の絵画で注目を集めました。1960年代には水玉模様を人体に描くパフォーマンスで生命の美を反戦と絡めて表現。 1970年代に帰国後、死をテーマにした暗い作品が中心となりますが、80年代後半には輪廻転生や永劫回帰を描き始めます。 2000年代以降は、迫り来る死への意識を創作のエネルギーに変え、生きる喜びをカラフルに描き続けています。 今回は、草間彌生美術館で開催中の「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」展に足を運びました! この展覧会では、1940~50年代の戦争の影響が反映された絵画から、近年の最新作に至るまで、多様な作品を通して草間彌生の死生観の変化を感じ取れる内容となっています。 「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」展は草間彌生美術館にて開催中 新宿区弁天町に位置する草間彌生美術館。 外観は縦長で、白を基調としたシンプルかつ洗練されたデザインが特徴的です。 カラフルで独創的な草間作品とは正反対の印象を受けました。 今回の企画展「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」は、日時指定の完全予約制(各回90分)でゆっくり鑑賞できるのがうれしいポイントです。 入口でQRコードを提示すればスムーズに入館できます。 今回、訪れた際は海外からの観光客が多く、国際的な人気を感じる空間でした。 館内1階には荷物を預けるロッカーがありますが、その数が少ないため混雑時には利用できない可能性があります。 大きな荷物は避け、身軽な状態で訪れると安心です。 また、展示会場は1~5階の全5フロアに分かれています。 一つの階ごとにテーマが分かれており、スムーズに鑑賞が進められる工夫がされています。 1~3階では写真撮影が禁止されているため、作品を心でしっかり楽しむことに集中しましょう。 一方、4階の映像作品と5階屋上の「かぼちゃ」の作品は撮影OKです。 屋上のかぼちゃは、草間ワールドの象徴ともいえる作品で、多くの人が記念撮影を楽しんでいました。 生命力あふれる作品に圧倒される展示が… 草間彌生美術館で開催中の「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」展に足を踏み入れると、まず1階のエントランスから大きな作品が私たちを迎えてくれました。 生命力を感じさせる立体作品『生命(REPETITIVE VISION)』(1998)と、草間が生と死をテーマにした絵画シリーズ「わが永遠の魂」からの2点、『永遠に生きていきたい』(2017)と『自殺の儀式』(2013)が展示されています。 『生命(REPETITIVE VISION)』は、黒地に黄色の水玉模様が描かれ、植物のように上へ上へと伸びようとする姿が印象的です。 この作品は、草間が60年代に性的な強迫観念を表現したソフト・スカルプチュアの延長ともいえる作品です。 しかし、強迫観念からくる抑圧的な印象を超えて、生命が力強く伸びようとする力強さを感じさせます。 どこか生命のエネルギーを感じるこの作品に、思わず息を呑んでしまいました。 また、後方に展示された2点の絵画『永遠に生きていきたい』と『自殺の儀式』も印象的です。 この2つの作品は、生と死という相反する感情を常に持ち合わせながら創作に向かった草間の姿勢を感じさせ、彼女がどれほど内面的な葛藤を抱えながら作品を生み出してきたのかを想像させてくれるような作品です。 2階では、1950年代から80年代にかけて、さまざまな方法で死に向き合いながら生まれた草間の作品が並び、彼女の創作における真摯な探求心が感じられます。 まず、注目すべきは初期の代表作『残夢』(1949)。 赤く荒れ果てた大地に枯れたひまわりが描かれており、戦争の死の記憶が生々しく残る当時の空気を感じさせます。 この作品には、草間が生きた時代背景と、戦争がもたらした深い影響が色濃く反映されているのでしょう。 続いて、草間が1957年に渡米し、60年代に「自己消滅」というテーマのもとで創作した作品やヌード・パフォーマンスにも注目したいところです。 ベトナム戦争を背景にした反戦運動と呼応する形で生み出された草間のパフォーマンス作品は、死と向き合わせることで生まれた芸術的表現の一端を垣間見ることができます。 そして、70年代に恋人や父などの身近な人の死や心身の不調に直面して帰国した草間は、より直接的に死をテーマにした作品に取り組むように。 フロアの中央に展示された『希死』(1975-76)は、生命力に満ち溢れた1階の作品『生命(REPETITIVE VISION)』とは正反対の印象を与えるソフト・スカルプチュアです。 冷たく輝く銀色のファルスが死のイメージを強く印象付けます。 無機的な表現が、草間が直面した深い絶望と向き合う姿勢を象徴しているかのように思えました。 また、草間自身の言葉による詩も強く印象に残っています。 帰国後の彼女の作品には、死への強い意識が表れたものが多くあります。 詩とともに展示されている作品が、草間の内面的な葛藤や創作への情熱をより一層深く感じさせてくれるでしょう。 3階では、最新作のインスタレーション『再生の瞬間』(2024)が展示されています。 この作品は、天井まで伸びる樹木のような巨大な構造で、生命の力強さを感じさせてくれます。 筒状に縫い合わせた水玉模様の布に綿を詰めたその形は、まるで枝を四方に伸ばしているようで、周囲に広がる生命のエネルギーをイメージさせるものです。 インスタレーションとセットで展示されているのが、1988年の平面作品『命の炎―杜甫に捧ぐ』です。 背景の赤いキャンバスに描かれた白い無数の水玉模様にはしっぽのようなものが生えており、まるで精子のようにも見え、生命の根源的な存在を象徴しているようにも感じられます。 ほかの平面作品からも生命の動的な力が感じられ、2階の展示とは対照的に、展示室全体にあふれる生の躍動感が伝わってきました。 4階に展示されている、2010年制作のヴィデオ・インスタレーション『マンハッタン自殺未遂常習犯の歌』は、視覚的にも感覚的にも非常に強い印象を残す作品です。 こちらは草間彌生自身が出演する映像作品で、詩を歌う姿が強く印象に残っています。 映像が合わせ鏡によって無限に増殖していくという構造も特徴的でした。 詩の内容は、死というテーマに深く根ざしており、「去ってしまう」「天国への階段」「自殺(は)てる 現在は」といった言葉が散りばめられています。 これらのフレーズには、草間自身の内面の葛藤や死への衝動がにじみ出ているように感じられます。 一方で、「花の煩悶(もだえ)のなかいまは果てなく」「呼んでいるきっと孤空(そら)の碧さ透けて」といった清涼さがあり、どこか永遠を感じさせる言葉も見受けられました。 草間は死と向き合いながらも、それを単なる終わりとして捉えることなく、むしろ新たな何かを生み出す力として表現しているのだと感じられました。 この映像作品で詠われている詩の両義的な言葉は、見る者の心に強く訴えかけ、死というテーマの深さを改めて考えさせられます。 5階にある屋外ギャラリーでは、最新作の「かぼちゃ」をモチーフにした作品『大いなる巨大な南瓜』(2024)が展示されています。 草間の代名詞ともいえるアイコニックな作品で、美術や芸術に詳しくない人も見たことがあるのではないでしょうか。 展示全体を通じて、草間の死生観を感じたあとに最新作の「かぼちゃ」を鑑賞すると、生命の象徴としての力強さが伝わってきます。 屋外ギャラリーでの作品鑑賞後、観賞者はエレベーターで1階のロビーに戻る順路になっていますが、この動線自体が、生と死の輪廻を思わせるようでした。 美術館限定のグッズやあの水玉模様のグッズまで 草間彌生美術館のショップスペースでは、草間彌生の作品を象徴する水玉模様や網目模様のグッズがずらりと並んでいます。 例えば、アイコニックな水玉デザインの缶が目を引く「プティ・ゴーフル」は、上野風月堂とのコラボレーションで、サクサクの生地にバニラ風味のクリームがサンドされています。 さらに、「かぼちゃ缶」のプティ・シガールは、ヨックモックとのコラボ商品で、美術館限定アイテムとして大人気です。 どちらも美術館限定の商品なので、アート鑑賞を楽しんだ後はぜひお土産として手に入れてください。 また、企画展の図録も販売されているため、草間彌生の世界観にいつでも触れていたいという方は、購入を検討するのもよいでしょう。 死と生を見つめる『私は死を乗り越えて生きてゆきたい』展 草間彌生美術館で開催されている「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」展は、草間彌生がどのように創作によって「死を乗り越えてきたのか」というテーマに迫る展覧会です。 草間の作品は、死を意識させるものもあれば、逆に色彩豊かでエネルギッシュな作品が並び、命の力強さを感じさせます。 その両面を見つめることで、彼女がどのように内面的な葛藤を創造的なエネルギーに変えてきたのか、少しだけその答えに触れることができるかもしれません。 展示空間自体も非常に魅力的で、外観と内観、そして作品の大胆さと繊細さが見事に融合しています。 アートに包まれるような感覚を味わえるだけでなく、美術館そのものが一つのアート作品のような印象を与えてくれます。 草間の作品を観賞するだけでなく、美術館全体の雰囲気を楽しむことができるので、ぜひ一度足を運んでみてください。 開催情報 「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」展 場所:草間彌生美術館 住所:〒162-0851 東京都新宿区弁天町107 期間:2024/10/17~2025/03/09 公式ページ:https://yayoikusamamuseum.jp/ チケット:一般 1,100円、小中高生 600円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.12.11
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竹久夢二のスタート地点を鑑賞する「竹久夢二と読売新聞 ~記者・夢二の仕事とそれから~」に行ってみた!
皆さんは、「大正ロマンの画家」と呼ばれる竹久夢二(1884年-1934年)という画家を知っていますか? 夢二は、その独特な画風と美人画で広く知られていますが、彼のキャリアは画家だけにとどまりません。 実は、1907年の4月に読売新聞に入社し、記者としての道を歩んでいたのです。 22歳の彼が手掛けた瑞々しい時事スケッチや紀行文の連載は、紙面を彩り、読者を魅了しました。 今回は、竹久夢二美術館で開催されている「竹久夢二と読売新聞 ~記者・夢二の仕事とそれから~」展に行ってきました! 企画展では、記者としての夢二の仕事や、当時の読売新聞の記事も紹介されています。 夢二がいかにして社会に影響を与えたか、その軌跡をたどっていきましょう。 「竹久夢二と読売新聞 ~記者・夢二の仕事とそれから~」は竹久夢二美術館にて開催 竹久夢二美術館は、大正ロマンの画家として知られる竹久夢二の作品を中心に展示する美術館で、東京都文京区弥生に位置しています。 夢二の描いた女性像「夢二式美人」をはじめ、挿絵やデザイン、詩作など多岐にわたる彼の活動を紹介しています。 また、美術館の隣には明治・大正・昭和の挿絵画家に関連する展示を行う弥生美術館もあり、入場券が共通のため1枚で両方の美術館を楽しめるのが魅力です。 開催中の展覧会「竹久夢二と読売新聞 ~記者・夢二の仕事とそれから~」は、竹久夢二の生誕140年と読売新聞の創刊150周年を記念して開催されています。 なお、竹久夢二美術館内は、写真撮影が禁止されています。 展示会場の出口にあるフォトスポットのみ撮影が可能です。 竹久夢二展の見どころ 竹久夢二美術館で開催中の「竹久夢二と読売新聞 ~記者・夢二の仕事とそれから~」展は、夢二が記者として活動していた時代に焦点を当てた、これまでにない新たな取り組みによる展覧会です。 若き日の夢二が描いた新聞記事や挿絵、スケッチを通じて、アーティストとしての彼の初期の足跡をたどれます。 夢二展史上初めての試みで、彼の多才ぶりと成長の過程を深く知れる貴重な機会となるでしょう。 夢二は読売新聞を退社後、画家や詩人、デザイナーとして活躍し、文化界で広く注目される存在となりました。 今回の企画展では、夢二が新聞記者から取材対象となり、紙面にたびたび登場するようになった様子も紹介されています。 夢二が文化人として時代を彩った軌跡が、読売新聞との関係を通して鮮やかに浮かび上がります。 さらに、夢二が活躍した当時の銀座に関連する展示も見どころの一つです。 当時、読売新聞社は銀座に本社を構えており、夢二が手掛けた銀座千疋屋や資生堂ギャラリーのデザイン仕事を通じて、彼と銀座の関わりを再発見できるでしょう。 戦前の銀座を中心とした夢二の活動を知ることで、彼の芸術が時代の商業デザインや文化にどのように影響を与えたのかがわかります。 新聞記者としても活躍した竹久夢二 竹久夢二の記者時代の足跡をたどる貴重な作品が展示された企画展のスタート地点ともいえるのが、劇作家・島村抱月が読売新聞の社会部長である小剣に宛てた手紙です。 手紙の中で、抱月は夢二の才能を高く評価し、特に「小さい写生画が得意で文も書ける」という点が新聞記者として適していると推薦していました。 抱月の後押しがあって夢二が新聞記者としてのキャリアを歩み始めることになったのです。 入社後に夢二が初めて掲載した作品「江戸川のさくら」は、彼の記者活動の象徴ともいえる一枚です。 また、入社時期が4月ということもあり、花の名所を巡って描いたスケッチも多数並んでいます。 春の息吹を感じさせる作品群は、夢二の新たな挑戦に対する情熱が伝わってくるようです。 また、夢二が東京勧業博覧会を取材した際のスケッチも展示されています。 この一連の作品は、当時の人々の様子を風刺を交えつつユーモラスに描いており、彼の観察力と表現力が光ります。 シンプルな線で描かれていながらも、一目で情景が分かる巧みさは、夢二の特徴ともいえるでしょう。 夢二は大人向けの記事だけでなく、子ども向け新聞にも多くの挿絵を提供していました。 動物や少年少女を描いたこれらの作品は、親しみやすさと温かみを持ち、子どもたちの心を掴む魅力に溢れています。 これらの挿絵は、夢二が記者としてだけでなく、画家としても多才であったことをあらためて感じさせてくれますね。 展示室内には、竹久夢二が読売新聞社での記者活動と並行して手掛けていた雑誌のイラストも展示されています。 これらのイラストは、彼の画家としての出発点を示す大切な作品群です。 夢二は美術学校に進学していないにもかかわらず、その独自の感性とタッチで雑誌に寄稿したイラストが読者の間で人気を博しました。 夢二独特の柔らかい線や淡い色彩で描かれた人物や情景は、多くの人々の心を掴み、画家としての名声を築くきっかけとなったのです。 雑誌イラストの人気が高まる中で、夢二の活躍の場は次第に広がり、やがて彼の画風は「夢二式美人」として多くの人々に認知されるようになりました。 このように、雑誌というメディアが彼のキャリアを大きく後押ししたことが、今回の展示からもはっきりと伝わります。 今回の企画展では、竹久夢二が描き続けた「夢二式美人」の魅力も存分に堪能できます。 彼の妻である岸他万喜らをモデルにした作品が多数展示されており、夢二が抱く理想の女性像が感じられる内容となっていました。 彼が描く女性たちは、優しそうなまなざしやもの憂いげな表情が特徴的で、その繊細な表現は見る人を惹きつけます。 空想から生まれた美しい娘たちを表現することに注力した夢二の女性像が、どのように発展していったのかをたどれる魅力的な展示でした。 夢二の才能が発揮されたのは女性像をメインにした絵だけにとどまりません。 彼は松井須磨子や浅草オペラの関連作品を手掛け、楽譜や歌劇の絵を担当するなど、多岐にわたる芸術分野に携わりました。 また、大正時代に注目された「モダンガール」のイメージを描いた夢二の作品群も展示されています。 婦人グラフの表紙や少女世界の口絵などの商業作品では、当時の女性たちの新しい生き方や価値観を表現しており、夢二のアーティストとしての柔軟さと時代感覚が光ります。 夢二が読売新聞社を退社してからの活動には、日本画やデザイン、詩作など幅広い分野があります。 新聞時代の延長線上にある寄稿活動も行っており、読売新聞の文芸欄や婦人欄では、彼の絵画論や女性美への考察、さらには生活を豊かにする趣味についてのエッセイが展開されました。 これらの寄稿から、夢二がどれほど多才で視野が広かったかがうかがえますね。 また、今回の特別展示として油彩画「モントレーの丘から」も展示されていました。夢二が海外旅行中に描いた風景画で、彼の色彩感覚や異国への憧れが感じられる一枚です。 普段はあまり見られない油彩技法による作品は、彼の新たな一面を知る絶好の機会といえるでしょう。 夢二のデザインセンスは、商業広告にも顕著に現れていました。 なかでも千疋屋の広告は、シンプルでモダンなデザインが目を引きます。 夢二のデザインは洗練された都会的なセンスを持ち合わせており、その新しさが際立ちます。 また、今回の展覧会で初公開となる日本画『白桃や』と『南枝王春』は、見どころの一つです。 友人への贈答品として描かれた日本画で、どちらも大変丁寧に描かれたことが分かる色使いや仕上げが目を引きます。 レトロモダンでかわいいグッズも見逃せない 「竹久夢二と読売新聞 ~記者・夢二の仕事とそれから~」展を楽しんだ後は、ぜひミュージアムショップにも立ち寄ってみてください。 ショップでは、夢二をはじめ、大正ロマンを象徴する中原淳一や竹久夢二の商品が多数揃っています。 商品ラインナップ ・ポスター(B3サイズ・カラー):展示作品を自宅で楽しむのにぴったりです。 ・絵はがき:夢二の繊細なタッチが手軽に楽しめるアイテム。 ・ぽち袋やクリアファイル:日常使いに便利で、実用性も高いアイテムが揃っています。 ・マグネットやタオル:夢二のデザインが生活に彩りを添えてくれる雑貨も人気です。 ・メモ帳やレターセット:夢二の世界観を手紙やメモに活かせます。 ミュージアムショップの受付時間は、10:30~16:30です。 展示を楽しんだ後の余韻に浸りながら、ぜひお気に入りの商品を手に入れてください。 夢二の功績とその道筋を堪能しよう 「竹久夢二と読売新聞 ~記者・夢二の仕事とそれから~」展では、新聞記者としての夢二がどのようにして文化の旗手へと成長していったのか、その道筋を堪能できる貴重な機会が提供されています。 新聞記事や取材スケッチを通じて、夢二の行動力や好奇心に満ちた姿が浮かび上がり、歴史とアートの交差点に立つような知的なひとときを楽しめます。 新聞記者としての夢二がどのようにして文化の旗手へと成長していったのか、その道筋を楽しむことができる展示となっています。歴史とアートの交差点に立つような、知的好奇心を満たすひとときが待っています! 展覧会を満喫した後は、美術館併設のカフェ「港や」でひと休みするのもおすすめです。 このカフェの名前は、竹久夢二が大正3年に開店した「港屋絵草紙店」にちなんで名づけられました。 コーヒーや紅茶、ケーキセットやカレーなど、アート鑑賞の余韻に浸りながら楽しめるメニューがそろっています。 竹久夢二の新しい一面に触れ、彼の作品世界に深く浸れる本展。 アートファンや歴史好きな方だけでなく、夢二を知らなかった方にとっても、新たな発見が待っていることでしょう。 開催情報 『竹久夢二と読売新聞 ~記者・夢二の仕事とそれから~』 場所:竹久夢二美術館 住所:〒113-0032 東京都文京区弥生2-4-2 期間:2024/09/28~2025/01/26 公式ページ:https://www.yayoi-yumeji-museum.jp/yumeji/outline.html チケット:一般1,000円、高校生900円、中・小学生500円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.12.11
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「オタケ・インパクト―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―」展:時を越えて鬼才たちの日本画の革新に迫る
皆さんは、「尾竹三兄弟」という名前を耳にしたことがありますか? 彼らは明治から昭和初期にかけて活躍した日本画家、尾竹越堂(おたけ・えつどう)、竹坡(ちくは)、国観(こっかん)の三兄弟のことです。 新潟県出身の彼らは、かつて文展(文部省美術展覧会)など数々の舞台で脚光を浴び、「展覧会芸術の申し子」とも呼ばれる存在でした。 しかし、その反骨精神と大胆な挑戦は、時に議論を巻き起こし、次第に画壇の主流から外れてしまうことに。 世間の興味が彼らの型破りな生き様ばかりに注がれたことで、肝心の画業は長い間、見過ごされてきたのです。 そんな尾竹三兄弟の「革新」と「情熱」にスポットを当てたのが、現在泉屋博古館東京で開催中の「オタケ・インパクト」展。 この展覧会では、三兄弟の作品が再評価され、彼らの真の魅力が日本画の歴史の中で再び輝きを取り戻しています。 一風変わった兄弟の絵画世界、そのインパクトを肌で感じるべく、展覧会を訪れた体験をお届けします! 「オタケ・インパクト―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―」は泉屋博古館東京にて開催中 泉屋博古館東京は、六本木のビジネスエリアにありながら、緑に囲まれた静かな環境に位置しており、訪れる人々に落ち着いた雰囲気を提供しています。 都市の喧騒から離れた隠れ家的な美術館であり、アートを楽しむための静かな空間です。 そんな泉屋博古館東京で開催されている「オタケ・インパクト ―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム」は、尾竹三兄弟の個性が詰まった作品が一堂に会する、見逃せない内容となっています。 尾竹三兄弟のアナーキーな創作魂を、ぜひ会場で体感してみてはいかがでしょうか? 日本画好きなら必見!尾竹三兄弟の作品を一挙に鑑賞 泉屋博古館東京で開催中の「オタケ・インパクト ―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム」は、革新性にあふれた尾竹三兄弟の作品と生涯に迫る、日本画好き必見の企画展です。 見どころの一つは、三兄弟それぞれの代表作が一堂に集結し、彼らの独特な画風や創作の背景を深く知れること。 越堂の大胆で力強い輪郭線、竹坡の洋画風の挑戦、国観の繊細な筆致など、どれも一見の価値ありといえます。 彼らがどのように「展覧会芸術の申し子」として名を馳せたのかが、作品から感じ取れます。 特に注目なのが、明治43年に国画玉成会へ出品されながらすぐに撤去されてしまった伝説の作品『絵踏』。 今回の展示が、初公開となるそうです! また、新たに発見された作品や東京初公開のものも多く、彼らの画業を再評価する貴重な資料がそろっています。 三兄弟は、美術界の重鎮だった岡倉覚三(天心)との対立を経て、従来の枠組みにとらわれないアナーキーな創作活動を展開しました。 今回の企画展では、そのエキセントリックな作品や活動を通じて、既存の美術史では語られなかった多様な視点を浮き彫りにしてくれます。 新旧の作品が織りなす多彩な表現を通じて、彼らが日本画に残した影響や革新性をぜひ感じてみましょう。 第1章:「タツキの為めの仕事に専念したのです」 ―はじまりは応用美術 尾竹三兄弟の画家としての歩みは、幼少期から始まりました。 彼らの父・倉松は文筆や絵画に親しみ、兄弟たちに創作の楽しさを教えた人物。 竹坡と国観は、幼少期に尾竹家に滞在していた南画家・笹田雲石から基礎を学び、雅号まで授かるという早熟ぶりを見せます。 しかし、家業の経営悪化により、兄弟は絵を「家計を助ける手段」として本格的に取り組むことに。 まず越堂が富山に移住し、続いて竹坡と国観が合流し、売薬版画の下絵や新聞挿絵の制作に携わるようになります。 この経験は、単なる生活費を稼ぐためのものにとどまらず、物語を的確に絵画化する技術や、注文主の意図を汲む力を育む貴重な経験の場となっていたことが、展示されている作品からも感じ取れます。 越堂の作品には、対角線を活用した大胆な構図が早くも見られ、竹坡・国観の作品には幼い頃からの絵画への卓越した才能が表現されており、後の活躍の礎となった確かな技術と情熱が垣間見えるでしょう。 当時の社会背景とともに、三兄弟の若き日の努力と成長を感じられる展示でした。 第2章:「文展は広告場」―展覧会という乗り物にのって 尾竹三兄弟の画業が本格的に花開いたのは、展覧会という「舞台」に立ったときからでした。 三兄弟はそれぞれ異なる流派で研鑽を積み、国観は歴史画の巨匠・小堀鞆音に、竹坡は円山派の名手・川端玉章に師事して腕を磨きます。 そして、明治30年代には展覧会で次々と入選を果たし、若くして名を馳せることになるのです。 国観が歴史画『油断』で、竹坡が『おとづれ』で二等賞を受賞し、刺激を受けた越堂も、43歳という遅咲きながら文展デビューを飾り、見事三兄弟そろっての快挙を達成しました! 展覧会という「広告場」をフルに活用し、画壇での地位を確立していった三兄弟でしたが、大正2年(1913)の第7回文展がターニングポイントとなりました。 このとき、三兄弟そろってのまさかの落選。 明確な理由は分かっていませんが、画壇における評価基準や、人間関係の複雑さが影響したのではないかといわれています。 当時、竹坡は国画玉成会の審査員をめぐって岡倉覚三と衝突しており、文展批判が結果に影響した可能性もあるようです。 展覧会に祝福される一方で呪詛される、そんな画壇の過酷な一面が浮き彫りになったできごとといえます。 第2章では、屏風や掛軸など壮麗な展示を通じて、三兄弟が展覧会という舞台で生み出した数々の名作を鑑賞できます。 国観の歴史画は、緻密な構図や人物表現の臨場感が圧巻です。 竹坡の作品には、写実と独創が見事に融合した美しさが宿ります。 また、華やかな弟たちに隠れがちですが、静かに画壇の中心に挑んだ意志が感じられる越堂の大胆な構想力にも注目です。 さらに見逃せないのが、幻の作品『絵踏』。 岡倉覚三との対立の末、わずか数日で撤去され、長らく秘蔵されていた本作が、修復を経て初公開されています。 緊張感あふれる構図と、個性豊かに描き分けられた人物像が語る物語を間近で体感できます。 第3章:「捲土重来の勢を以て爆発している」 ―三兄弟の日本画アナキズム 尾竹三兄弟が文展やその他の公式展覧会から離れ、独自の道を模索する中で活動の中心となったのが、門下生たちとの共同展覧会「八火社展」でした。 この試みは、既存の画壇の枠を超え、自らの美術理念を存分に表現する場として重要な役割を果たしたのです。 もともと1912年に竹坡が設立した「八火会」は、越堂や国観が加わり、「八華会」そして「八火社」と名前を変えながら、展覧会を開催し続けました。 1920年から始まった八火社展は、帝展(文展の後身)と開催時期や会場をぶつけるという挑発的な手法を採り、三兄弟の反骨精神が存分に現れたものとなっています。 なかでも注目すべきは竹坡の作品群です。 彼は総出品数79点のうち50点以上を一人で制作し、未来派やキュビスムといった西洋の最先端の影響を受けた挑戦的なスタイルを展開しました。 大胆な色面構成を主体とした抽象表現や、従来の日本画の枠組みから大きく逸脱した新感覚の作品は、当時の観衆に大きな衝撃を与えたそうです。 ナビ派や素朴派を思わせる装飾性豊かな描法や彩色、そして自由奔放な創造力が爆発するような迫力は、現代の目で見ても新鮮で驚きに満ちています。 実際に、西洋画風に描かれた作品が掛軸という日本の伝統的な形式に飾られている様子は、非常に新鮮で印象的でした。 西洋画のように遠近法や明るい色彩を強調する作品は、キャンバスや額縁に飾られることが一般的ですが、竹坡はあえてその西洋画的な要素を掛軸という日本の伝統的な形式に持ち込むことで、まったく異なる感覚を生み出しているようでした。 竹坡が伝統と革新をどのように融合させ、独自の美を作り上げてきたかを感じさせてくれます。 八火社展自体はわずか3回で終了してしまいますが、その短い活動期間に三兄弟が放ったインパクトは絶大なものであったと展示作品からも感じ取れました。 「数年来の忍黙不平がここに捲土重来の勢を以て爆発している」という当時の評は、彼らのエネルギーや画壇への挑戦を見事に言い表していますね。 三兄弟の描く世界は、単なる日本画の枠を超えて、画壇そのものへの挑戦状だったともいえるでしょう。 第4章:「何処までも惑星」―キリンジの光芒 尾竹三兄弟は一時期画壇の寵児として脚光を浴びたものの、その後の型破りな活動や言動によって次第に周縁へと追いやられました。 中央の舞台から姿を消し、美術史の語りからも次第に忘れ去られていった彼らの晩年。 その軌跡を振り返ると、なおも彼らの芸術家としての揺るぎない情熱と進化が浮かび上がります。 昭和時代に入ると、長兄・越堂は展覧会から距離を置くようになりましたが、竹坡と国観は再び官展への返り咲きを目指して作品制作を続けました。 竹坡は「何処までも惑星」と評されるように、その多才ぶりを最後まで示し続けました。 彫刻や洋画の分野に挑戦する一方、晩年の作品ではその奔放なエネルギーが次第に抑えられ、写実性と精緻な構成を追求した日本画へと向かいます。 華やかさの裏に垣間見える静かな深みは、竹坡の芸術家としての熟成を感じさせます。 国観は一貫して歴史画を探求し続け、生来の卓越した構図力や人物描写のスキルをさらに研ぎ澄ませていきました。 その作品には、壮麗な物語性だけでなく、歴史の中に生きる人々の息遣いまで感じられるようなリアルさがあります。 国観の歴史画は、彼の探求心と美術への情熱が結晶した成果といえるでしょう。 三兄弟の晩年の作品は、それぞれの道を歩んだ結果として結実した個性の結晶ともいえるものです。 越堂の静謐な視点、竹坡の溢れる創造性、国観の丹念な探求。 それぞれが異なる輝きを放ちながらも、どこかで互いに響き合っています。 第4章を通じて、彼らの「光芒」に再び目を向けてみると、その輝きはいまもなお美術の世界に新たなインスピレーションを与え続けているのであろうと感じさせてくれました。 特集展示:清く遊ぶ―尾竹三兄弟と住 特集展示では、明治末から大正にかけて尾竹三兄弟と深い交流を持った住友吉左衛門友純(号春翠)が収集した作品が展示されています。 三兄弟と春翠の関係は、単なる画家と注文主を超えた文雅の交わりが特徴。 彼らの絵画作品を通して、芸術と親交が織り成す世界が垣間見えます。 春翠は、岡倉天心との対立や文展落選など三兄弟にまつわる騒動に動じることなく、自らの審美眼に基づいて作品を購入し続けた人物です。 その姿勢は、どんな風潮にも左右されない強い信念を感じさせます。 今回展示されている作品群には、春翠が見抜いた三兄弟の芸術的価値が表現されており、当時の作品購入が単なる商業的行為ではなかったことがよく分かります。 展示には、雅会で三兄弟が即興で描いた作品も。 即興の場で軽やかに筆を走らせた三兄弟の腕前は、参加者にくじ引きで分けられるほど人気だったそうです。 席画における彼らの達筆ぶりは、単なる技術の披露ではなく、その場を楽しませるための芸術的サービス精神が感じられます。 春翠との交流のエピソードとして印象的なのが、1927年、春翠の死去後に越堂が贈った『白衣観音図』です。 これは仏前に届けられたもので、三兄弟と春翠の絆が、単なる購入者と画家の関係ではなく、深い文雅の友情にもとづくものであったことを物語っていますね。 インパクト大な尾竹グッズも見逃せない 泉屋博古館東京で開催中の「オタケ・インパクト―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―」展、見応えのある展示だけでなく、お土産コーナーも充実しています。 尾竹三兄弟の作品がデザインされたグッズは、どれも展覧会のテーマ「インパクト」を感じられる仕上がりです。 グッズの王道ともいえるクリアファイルは、三兄弟の代表作が細部にまで再現されており、絵画そのものを手元で楽しめる魅力があります。 デスクワークに取り入れると、なんだか作業もアーティスティックな気分になりますね。 絵はがきは、展覧会で気に入った作品を気軽に持ち帰れるアイテムとして大人気です。 今回の展示では、通常サイズに加えて、長形サイズもラインナップされています。 独特な構図や色彩を活かしたデザインは、尾竹三兄弟ならではの魅力。 大切な人への手紙にも、自分のインテリアとして飾るのにもぴったりです。 展示を楽しんだ後、もっと深く知りたいと思った方には公式図録がお勧めです。 三兄弟それぞれの個性や画業、波乱に満ちた人生をじっくり振り返れるでしょう。 図録を片手に展示を振り返れば、彼らのアナキズム精神がより一層心に響くはずです。 伝統を超えていく、尾竹三兄弟 泉屋博古館東京で開催されている「オタケ・インパクト―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―」展は、約80年の時を超えて、尾竹三兄弟による革新的な日本画の魅力を伝えてくれる貴重な企画展です。 越堂、竹坡、国観という個性豊かな画家たちがどのようにして日本画の伝統を超え、新たな表現の道を切り開いていったのか、その鬼才ぶりが感じられました。 彼らが残した作品には、日本画の枠にとらわれない自由な発想とアナキズム的なエネルギーが込められており、観る者に強い印象を与えてくれます。 この展覧会を通じて、80年の時を経ても色褪せることなく輝く独特な世界観に触れられました。 泉屋博古館東京で開催されている「オタケ・インパクト―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―」展は、約80年の時を超えて、尾竹三兄弟による革新的な日本画の魅力を伝えてくれる貴重な企画展です。 越堂、竹坡、国観という個性豊かな画家たちがどのようにして日本画の伝統を超え、新たな表現の道を切り開いていったのか、その鬼才ぶりが感じられました。 彼らが残した作品には、日本画の枠にとらわれない自由な発想とアナキズム的なエネルギーが込められており、観る者に強い印象を与えてくれます。 この展覧会を通じて、80年の時を経ても色褪せることなく輝く独特な世界観に触れられました。 また、展示をじっくり楽しんだ後には、美術館内にある「HARIO」の直営カフェで一息つくのもおすすめです。 このカフェでは、美術館の落ち着いた雰囲気の中で、こだわりのコーヒーやスイーツを楽しめます。 展覧会の感想を胸に、香り高い一杯とともにゆったりとした時間を過ごせる贅沢な空間です。 企画展とともに、泉屋博古館東京でのひとときをぜひお楽しみください。 80年の時を経ても色褪せない尾竹三兄弟の世界観と、美味しいコーヒーのひとときが心に深く響く時間を演出してくれるでしょう。 開催情報 『特別展 オタケ・インパクト 越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム展』 場所:泉屋博古館東京 住所:〒106-0032 東京都港区六本木1丁目5-1 期間:2024/10/19~2024/12/15 公式ページ:https://sen-oku.or.jp/tokyo/ チケット:一般1,200円、高大生800円、中学生以下無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.12.01
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葛飾北斎と門人が描いた平安の美を味わえる「北斎が紡ぐ平安のみやびー江戸に息づく王朝文学」に行ってみた!
誰しも一度は耳にしたことのある超有名浮世絵師・葛飾北斎(1760年-1849年)。 江戸時代後期に活躍した絵師で、日本のみならず海外からも高い評価を得ている人物です。 大きな波の後ろに富士山が描かれた絵を見たことがある人も多いでしょう。 あの有名な『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』を描いたのが北斎なのです! 富士山をテーマにした連作を手がけ、大変有名になったため、風景画を得意とする浮世絵師のイメージをもっている人も多いのではないでしょうか。 しかし、実は風景画だけではなく、美人画や花鳥画、妖怪画など、さまざまなジャンルの浮世絵を残しているのです。 そして、北斎とその門人は平安時代に活躍した人物や都の暮らしをイメージした浮世絵も多く描いています。 今回は、すみだ北斎美術館で開催されている「北斎が紡ぐ平安のみやびー江戸に息づく王朝文学」に行ってきました! 「北斎が紡ぐ平安のみやびー江戸に息づく王朝文学」はすみだ北斎美術館にて開催中 江戸時代の日本では、平安時代の宮廷文化や古典文学が再び注目を集めていました。 多くの芸術家たちがその風雅な世界観に魅了され、画で表現することに力を注いだのです。 北斎と門人たちも、平安の雅に魅了された人々のうちの一人で、平安時代の貴族生活や文学をテーマに、王朝の優雅さを映し出す作品を数多く制作しています。 北斎は『源氏物語』や『伊勢物語』などの名場面を描き、登場人物や風景から平安の美意識を感じさせてくれます。 また単に物語のワンシーンや歌意を画にするだけにはとどまらず、着物の模様や調度品など王朝文学の雅も表現されているのです。 今回の企画展「北斎が紡ぐ平安のみやび―江戸に息づく王朝文学」では、北斎と門人たちが手がけた、平安時代や王朝文学に関する作品が一堂に集められています。 北斎たちが思い描いていた平安時代の雅やかなイメージや物語の魅力を楽しめる企画展です! 江戸時代に生きた彼らが抱いた平安時代への憧れや、文学に対する深い理解を想像するとともに、北斎たちが再構築して描き出した平安の世界観を楽しみましょう。 すみだ北斎美術館を利用するにあたっての注意事項 すみだ北斎美術館では、貴重な作品を保護するためのいくつかのルールが設けられています。 まず、展示室内では鉛筆以外の筆記具の使用は控えるよう案内されています。 シャープペンシルやボールペンの芯やインクが万が一作品に触れてしまうと、汚損のリスクがあるため、鉛筆のみ使用可となっているのです。 また、館内は撮影禁止のエリアがあり、撮影可能エリアが限られています。 撮影可能な場所は、地下1階ホワイエ、1階エントランス(ミュージアムショップを除く)、3階・4階の展望ラウンジ、4階常設展示室「AURORA」です。 展示作品の保存上の理由から、他のエリアでは撮影が禁止されているため注意しましょう。 地下1階にはロッカーが完備されていますが、サイズが小さいため大きな荷物をお持ちの方は、受付に預けるのがおすすめです。 見たことない・知らなかった北斎の視点や作品が堪能できる展示 今回の企画展「北斎が紡ぐ平安のみやびー江戸に息づく王朝文学」は、江戸時代の人々が抱いた「平安」の美意識を、北斎とその門人が作品として描き堪能できる内容となっています。 江戸時代における平安時代の文学や文化に対する関心の高まりを背景に、優雅な「みやび」の世界を多彩な角度から紹介しています。 企画展を構成する4つの章は、それぞれ以下の通りです。 序章:江戸時代の「平安」像 第一章:「みやび」なイメージの形成 一節:都の暮らし 二節:怪異への恐れ 第二章:描かれた王朝文学 第三章:王朝文学ゆかりの意匠 一節:文学にまつわる文様 二節:一場面が意匠に 企画展入ってすぐの場所には「浮世絵豆知識」が掲示されており、北斎と浮世絵の基礎知識を得ることで、作品の背景が一層理解しやすくなっています。 序章:江戸時代の「平安」像 江戸時代に入ると、民衆の『源氏物語』や『伊勢物語』などの古典文学への関心が高まり、写本や解説書などが広がっていきました。 また、学問や教育の発展に伴い、和歌の代表作である『古今和歌集』が親しまれるようになり歌仙絵が流行り、王朝文学が江戸の人々の生活や文化に深い影響を与えていったのです。 序章では、こうした背景を通じて江戸時代に形成された「平安」への憧憬が感じられる作品が展示されています。 葛飾北斎『枕草子を読む娘』 江戸時代の遊女文化と文学への関心を感じさせる魅力的な一枚です。 描かれている女性は、振袖新造と呼ばれる遊女としての地位が高まりつつある若い女性で、本を読む知的な姿が印象的です。 美しい着物に身を包みながら『枕草子』を読む姿からは、当時の遊女たちがただ美しいだけでなく、文学や教養も求められていた様子が見て取れますね。 第一章:「みやび」なイメージの形成 王朝風の作品では、宮廷行事や都の華やかな日常がテーマとして描かれています。 またこの時代、大陸から伝わった思想や信仰が、日本に古くからある信仰や伝説と結びつき、怪異の存在が身近になっていました。 この章では、江戸時代以降に想像された平安朝の生活や文化、妖怪や怪異などの伝説が近い存在であったことを感じられる作品が展示されています。 一節:都の暮らし 葛飾北斎『五十三次江都の往かい 京』 東海道の宿駅を舞台にした作品で、江戸時代の都の生活を鮮やかに映し出しています。 二人の童子が舞っている舞楽「胡蝶」は、平安時代から続く伝統的な舞いであり、作品の中でのその表現は、まさに江戸時代の人々が抱いた「平安」のイメージを象徴しているかのようでした。 二節:怪異への恐れ 葛飾北斎『北斎漫画 五編 柿本貴僧正』 この作品は、平安時代に活躍したとされる歌人・柿本人麻呂の伝説をもとに描かれたとされています。 真済が恋い焦がれた藤原明子に取り憑く様子は、愛情が生み出す悲劇的な側面を浮き彫りにしています。 手前に恐ろしい紺青鬼姿の真済が描かれていますが、その表情はどこか悲しげなような苦しげなような、異界の存在となってしまったことへの苦悩が見え隠れしているようにも感じられますね。 本の形で展示されている作品も多くあり、現代の漫画を思わせる構造で枠内に絵が描かれているのが特徴的でした。 本は視覚的にストーリーを伝えるだけではなく、自分で冊子をめくり読み進めていくことで、より作品に対する興味を引き立ててくれるものだと感じられました。 第二章:描かれた王朝文学 江戸時代、王朝文学は絵画で盛んに表現され、多くの作品が描かれました。 北斎やその門人も『源氏物語』や『伊勢物語』などの古典的な作品をテーマにして、それぞれ独自の支店や表現で描いています。 また、王朝文学に登場する人物に、江戸時代の髪型や服装などのアレンジを当てはめ、歴史と現代を融合させた作品も生み出しているのです。 第二章は、過去の文化がどのように江戸時代に受け継がれていたのかが感じられる展示となっています。 葛飾北斎『風流源氏うたがるた』 『風流源氏うたがるた』は、華やかな『源氏物語』の中の和歌が使われた歌がるたです。 ただ遊びに使われるかるたではなく、文学と美術が融合した一つの作品として、とても惹きつけられました。 青い縁の札に上の句、黄色い縁の札に下の句が書かれ、各巻にまつわる絵がそえられており、視覚的にも楽しませてくれます。 古典文学が江戸時代から多くの人に愛されてきたことが分かる作品ですね。 葛飾北斎『諸国名橋奇覧 三河の八つ橋の古図』 この作品からは、単なる風景画ではなく古典文学の豊かな歴史を感じられます。 八ツ橋は、昔から歌枕として親しまれており、『伊勢物語』の主人公である在原業平が和歌を詠んだ地としても伝わっています。 北斎が描いたこの作品では、八ツ橋を題材に江戸時代の風俗を取り入れながら、湿原に咲く杜若を楽しむ旅人たちの姿が描かれており、オレンジと青色のコントラストが印象的です。 古図という表現が示す通り、すでに失われた風景を思い起こさせ、見る者にノスタルジーを感じさせてくれますね。 葛飾北斎『百人一首乳母か絵説 在原業平』1835年/大判錦絵 竜田川の流れの中に散る紅葉が、秋の深まりを感じさせてくれる魅力的な作品で、印象に残っています。 勢いのある川の流れで水が白く波立つ様子が表現されており、その上に鮮やかなオレンジの紅葉が描かれていることで、自然の美しさをより一層感じられました。 また、北斎の繊細な描写の技術を垣間見えたともいえます。 第三章:王朝文学ゆかりの意匠 平安時代の文学にまつわる文様や物語から着想を得たデザインは、江戸時代の調度品や衣服の意匠に取り入れられるなど、当時の生活文化にも深く影響を与えていました。 北斎たちの作品においても、『源氏物語』をはじめとした古典文学の要素が多く取り入れられ、着物や調度品にゆかりある文様や物語の場面が表現されています。 歌がるたのような和歌の句や場面をモチーフにしたデザインが織り込まれた着物は、見る者に雅やかな王朝文化の空気を感じさせてくれますね。 また、調度品や着物にさりげなく描かれる物語の場面は、日常に文学的な雰囲気を漂わせ、観る者に豊かな想像を提供してくれます。 一節:文学にまつわる文様 葛飾北斎『美人カルタ』 『美人カルタ』には、かるた取りに興じる美人たちの優雅な姿が描かれており、頬杖をつく女性の着物には、源氏車の文様があしらわれています。 源氏車は、平安貴族が使用していた御所車の車輪を図案化したもので、平安時代から文様として広く使用されるとともに、家紋としても利用されていたのです。 『源氏物語』第九帖「葵」に登場する車争いの場面が強く思い起こされ、源氏物語を連想させてくれます。 二節:一場面が意匠に 葛飾北斎『今様櫛きん雛形』櫛之部 上 源氏うきふね この作品は、櫛のデザインを描いた絵手本です。 「浮舟」は、光源氏の息子である薫と孫の匂宮を中心に展開されていく物語で、この作品では匂宮が宇治へ赴き、浮舟を隠れ家に連れ出すシーンが取り入れられています。 櫛のデザインに王朝文学のワンシーンを取り入れることで、単なる髪を梳かす櫛ではなく芸術品としての価値も高まるだろうと感じられました。 オリジナルグッズや「雅」なグッズまで 1階エントランスにあるミュージアムショップでは、今回の企画展「北斎が紡ぐ平安のみやびー江戸に息づく王朝文学」にちなんだ多彩なグッズが並んでいます。 図録やリーフレットに加え、所蔵品から着想を得たオリジナルアイテムや北斎の浮世絵をデザインした商品、さらには地元・墨田の技術を駆使した「メイドインすみだ」シリーズもそろっており、訪れた人々を楽しませてくれています。 さらに、ミニ書道セットやミニ屏風、和を感じられる折り紙や箸、御朱印帳などのアイテムは、持ち帰って使用することで日常生活にも雅な雰囲気を取り入れられるでしょう。 観覧券がなくてもミュージアムショップだけの利用も可能なため、美術館を訪れた際にはぜひ立ち寄ってみてください。 世界から注目される北斎作品のいつもと違う切り口が楽しい 「北斎が紡ぐ平安のみやび―江戸に息づく王朝文学」展は、平安時代の優美な文学の世界が北斎とその門人たちの手によってどのように再解釈されたのかを堪能できる貴重な機会です。 海外でも人気の高い北斎作品が並び、海外からの観光客の姿も多く見受けられました。 展示解説は日本語だけでなく英語も併記されており、海外から訪れた方々も作品の背景や意図を深く理解しながら楽しめる内容となっています。 美術展の余韻を楽しんだあとは、ぜひ最寄り駅である両国駅近くの「カフェ・ベローチェ」でひと息つきましょう。 心落ち着く空間で、展示で鑑賞した作品たちをゆっくりと振り返りながら、コーヒーやスイーツでほっとひと息つくのもよいですね。 豊かな香りのコーヒーや軽食もそろい、展示の感想を語り合うひとときにもぴったりです。 企画展鑑賞後のひとときを、ベローチェで過ごしてみてはいかがでしょうか。 店舗情報 カフェ・ベローチェ 両国店 https://c-united.co.jp/store/detail/000404/ 開催情報 『北斎が紡ぐ平安のみやびー江戸に息づく王朝文学』 場所:〒130-0014 東京都墨田区亀沢2丁目7番2号 期間:2024/9/18~2024/11/24 公式ページ:https://hokusai-museum.jp/ チケット:一般 1,000円、高校生・大学生 700円、65歳以上 700円、中学生300円、小学生以下 無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.11.26
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ポスターと油彩画に追求する「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」展を観てきた!
皆さんは、アルフォンス・ミュシャ(1860年-1939年)という画家を知っていますか? ミュシャは、「アール・ヌーヴォーの旗手」として世紀末に多大な影響を与えた芸術家です。 彼の作品は、優美な女性像、風になびく豊かな髪、流れるような衣装、装飾的なモチーフが特徴であり、その独創的なデザインは当時の芸術界に新しい美意識をもたらしました。 ミュシャのスタイルは華やかで繊細であり、時代の寵児として愛され、その後多くの芸術家が彼を模範としました。 今回は、府中市美術館で開催されている「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」に行ってきました! ミュシャの魅力を深く味わえる貴重な機会のため、ぜひ興味のある方は訪れてみてください。 「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」は府中市美術館にて開催中 府中市美術館で開催中の「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」展では、ポスターで世紀末パリを彩ったデザイナーとしてのミュシャと、重厚な油彩で壮大なテーマを描いた画家としての二面性が見どころです! ミュシャが描く華やかなポスター作品だけでなく、力強い油彩画や貴重な下絵も一堂に展示されており、ミュシャ独自の美的世界を存分に堪能できます。 世紀末のパリを彩ったアール・ヌーヴォーの魅力と、壮大なテーマを持つ作品を同時に味わえる貴重な機会です。 ミュシャの創造力が溢れるこの展覧会をじっくり鑑賞していきましょう。 都立府中の森公園内の府中市美術館には、ミュシャの企画展を宣伝する案内板が設置されていました。 ポスターと油彩画が対になった案内板から、すでに企画展を訪れる人をわくわくさせてくれますね。 ポスターと油彩画を比較しながら楽しめる企画展 「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」展では、ミュシャが手がけたポスターと油彩画の両方を同時に鑑賞できます。 パリ時代の華やかな版画と、パリを離れた後半生に打ち込んだ油彩画。 両者を一つの視点から眺め渡す機会が、これまでほとんどなかったために、まるで別世界のもののように語られてきました。 しかしながら、固定観念を取り払って各々の作品に向き合えば、色やかたち、構図の作り方など、絵作りの要素には、共通点が多いことに気づきます。 また、時代の流行り廃りに振り回され、なかなか日の目をみなかったミュシャの油彩画をじっくりと鑑賞できる企画展ともいえます。 まったく異なるスタイルで描かれている版画と油彩画ですが、どちらもミュシャの強い想いが込められています。 本展では、ミュシャが制作活動を行っていた時代の背景にも目を向けながら、ミュシャがどのような想いをもってポスターを描き、油彩画に注力するようになったのかを想像してみましょう。 なお、「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」展は、展示室内の写真撮影ができません。 美術館スタッフに確認したところ、ロビーや企画展示室前の垂れ幕や入口のロゴまでは撮影ができるとのことでした。 展示室内では、スマホの操作を注意されている方もいたため、メモを取るならメモ帳と鉛筆を持参するのがおすすめです。 なお、鉛筆は美術館内で貸出を行っていたため、メモ帳だけはもっておくとよいでしょう。 展示室内には、ミュシャの世界観を体感できる作品が多く展示されています。 代表作の版画や素描が並び、彼の魅力を存分に楽しめる内容です。 また、下絵と完成作品を見比べることで、ミュシャの創作過程に迫る楽しさも味わえます。作品のディテールから、ミュシャの「造形力」の奥深さを感じられるでしょう。 入口の前の壁面には、白地に金の装飾が施された企画展のタイトルがデザインされています。 また、ミュシャの絵がデザインされた垂れ幕が出迎えてくれ、まさにここからミュシャの世界へと誘われるようでした。 『ジスモンダ』1894年/紙・リトグラフ/サントリーポスターコレクション 『ジスモンダ』は、主演のサラ・ベルナール自身がプロデュースした舞台のために制作されたポスターです。 舞台美術や衣装の細部までが忠実に再現されている点から、ミュシャの高い観察力と表現力がうかがえますね。 初期の作品ならではの人間味あふれる表現が魅力的で、装飾や衣装の模様が特に美しく描かれており、心を打たれました。 『サラ・ベルナール』1903年/紙・リトグラフ/OGATAコレクション こちらも今回の企画展で印象に残った作品の一つです。 この作品は、一般的に知られているミュシャのポスターとは異なり、初期のためか水彩画や油彩画のような柔らかなタッチが感じられ、独特の魅力を放っていました。 よく見るポスターのイメージとは異なる作品に触れてみて、ミュシャの多様な表現方法の奥深さや、彼の作品が持つ深さを改めて実感しました。 企画展内では、ミュシャの作品のデザインが施されたお菓子の缶も展示されています。 アールヌーヴォーを代表する優美なデザインが施されたお菓子の缶は、中身を食べた後も捨てたくないと思わせる魅力がありますね。 缶の形状に合わせたデザインが工夫されており、視覚的な楽しさだけでなく、実用性も兼ね備えた作品として、さまざまな側面から楽しめます。 ミュシャのアートが日常に溶け込む瞬間を体感できるのは、新しい発見でした! また、いくつかの作品では、額縁から飛び出すような立体感のある絵もあり、印象に残っています。 身体の一部や衣服が枠を越えて描かれていることで、観る者を引き込む力を感じます。 また、四季をテーマにした作品群は、色彩豊かで魅力的。ミュシャ作品では、太い輪郭線や四季など、日本や日本美術を思わせるような特徴があると感じました。 準備段階の習作と完成画を見比べる展示は興味深く、習作では表情がぼんやりとして表情は分からなかったのが、完成作で細部が明らかになる様子を比較して見れたのが印象に残っています。 ミュシャの創作過程を垣間見ることができ、深い感銘を受けました。 『メディア』1898年/紙・リトグラフ/株式会社インテック 『メディア』では、描かれているサラ・ベルナールの見開かれた目の鋭さに圧倒されました。 この作品は、サラ・ベルナールの舞台のためにミュシャが手掛けたもので、彼が宝飾品やアクセサリーに力を入れるきっかけとなった作品としても知られています。 画面には、メディアが血のついた短剣を握り、狂気的な視線で観る者を見つめる姿が描かれています。 足元には自らの手で刺殺した息子が倒れ、不吉な朝日が背後に昇っている様子が印象的です。 この強烈なシーンは、ミュシャの描写力によって一層深みを増しているように感じられます。 『宝石』シリーズ 1900年/紙・リトグラフ/株式会社インテック 今回の企画展では、4つの絵の連作である『宝石』シリーズも印象に残っています。 ルビー、アメジスト、トパーズ、エメラルドの作品が並び、タイトルに反して宝石自体は描かれていませんが、それぞれ異なる色調や雰囲気を持つ女性たちが、独自の魅力を放っています。 さらに、額縁のデザインもほかにはない独特な特徴があり、上部にはポスターの女性のモチーフが施されており、額縁を含めて一つの作品であると感じさせてくれるものでした。 このシリーズを通じて、ミュシャの繊細な感性を楽しむことができました。 展示の終盤には、ミュシャの代表的なポスター作品に加えて、展覧会の目玉である大型の油彩画も登場します。 特に、堺市以外での公開がほとんどない貴重な2点は見逃せません。 この特別な機会に、ミュシャの圧巻のスケール感と細部に込められた情熱を体感してみてはいかがでしょうか。 また、ミュシャがデザインしたうちわの図案や、モエ・エ・シャンドンのポスターをうちわに仕立てた紙工作も展示されています。 これらはミュシャの独創的なデザインと日本文化が融合した作品であり、遊び心のある一面を楽しめるのも今回の企画展の魅力です。 「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」展の見どころ 近年、ミュシャの油彩画は注目を集めており、その作品に込められた神秘性や荘厳さが、画家としての深みを強く印象付けます。 本展「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」では、ミュシャの多才な魅力に迫り、デザインの枠を超えた芸術家としての真髄を感じられるでしょう。 版画や油彩に加え、貴重な下絵も展示され、ミュシャが描いた心の奥深さと表現力を堪能でき、見どころが満載です。 心の世界を見つめる瞑想 世紀末のヨーロッパで広まった象徴主義は、文学や美術、音楽など幅広い芸術に影響を与え、表現の革新性を追求しました。 ミュシャもまた、この流れの中で内面的な深みを追求し、神秘的な油彩画や奥行きある版画を生み出しました。 彼の作品には、心の世界を探求する姿勢が貫かれています。 クラシックな絵画と最新のデザイン感覚 ミュシャのポスターは、クラシカルな表現に最新のデザインを融合させた新鮮さが特徴です。 人物の立体感を強調しつつ、背景をシンプルにデザイン化することで、調和のとれた美しさを実現しました。 日本の浮世絵にもみられるような太い輪郭線を用いることで、作品全体に独自のバランスが生まれています。 創作の過程に迫る ミュシャのデザインの秘密を探る鍵は、貴重な下絵にあります。 彼のデッサンや試行錯誤のプロセスを通じて、完成作との比較を楽しめるとともに、ミュシャの創作過程に近づける企画展です。 ミュシャの原点 物語の挿絵 貴重な下絵も公開! ミュシャが芸術家としてのキャリアを歩み始めたのは、本の挿絵からでした。 画学生時代に生活のために始めた挿絵の仕事は、彼にとって大切な原点であり、その経験は生涯にわたり影響を与えました。 今回の展示では、この初期作品を貴重な下絵とともに紹介しています。 世界的コレクションの名品 ミュシャ人気の高い日本には、質の高い作品が数多く収蔵されています。 特に堺市に寄贈されたドイ・コレクションは世界的にも評価が高く、大型油彩画《ハーモニー》や《クオ・ヴァディス》といった名作が含まれています。 普段は公開機会の少ないこれらの名品も、この展覧会で間近に鑑賞できる点が魅力です。 ミュシャと日本の近代洋画 ミュシャが影響を受けたローランスやコランは、明治期の日本洋画家にとっても師であり、日本人の兄弟弟子が多く存在しました。 さらには、ミュシャから直接学んだ日本人画家もおり、同時開催のコレクション展ではこの意外なつながりにも焦点を当てています。 全部ほしくなる…洗練されたデザインのグッズたち 府中市美術館で開催中の「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」展を堪能した後は、1階ロビーに設置された特設ブースでミュシャグッズをチェックしましょう。 定番のポストカードやペンケース缶、図録、クリアファイル、マスキングテープなど、他にも多彩な商品がそろっていて、どれもミュシャの世界観を楽しめるアイテムばかり。 美しいミュシャの作品がデザインされたアイテムが豊富に並んでいて、どれを選ぶか迷ってしまいます。 各アイテムごとにデザインも複数用意されているものが多いため、企画展でお気に入りの作品を見つけ、グッズでも選んでみるのがおすすめです。 ミュシャの新たな一面を発見できるかもしれない「アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界」 今回の企画展を通して、版画にも油彩画にも、一目でミュシャと分かる強い個性があふれていることを感じられました。 ミュシャはポスター作品が注目を浴びることも多いですが、今回のように油彩画にも焦点を当て、比較して鑑賞することで、ミュシャの新しい一面を発見できました。 企画展では、作品が制作された時代背景やミュシャの想いなどを紹介する展示もあるため、詳しく知らなかった人でもミュシャに興味津々になること間違いなしではないでしょうか。 府中市美術館内には、カフェ「府中乃森珈琲店」があります。 こちらは、美術館を利用しなくても利用できるので、誰でも気軽に立ち寄れます。 店内は落ち着いた雰囲気で、テラス席もあり、特に晴れた日にはテラスでの食事がおすすめです。 席数は少なめのため、週末に訪れる際は早めに行くのがよいでしょう。 さらに、テラス席はワンちゃんも同伴可能なため、愛犬と一緒に過ごしてみてはいかがでしょうか。 開催情報 『アルフォンス・ミュシャ ふたつの世界』 場所:〒183-0001 東京都府中市浅間町1丁目3番地(都立府中の森公園内) 期間:2024/9/21~2024/12/1 公式ページ:https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/ チケット:一般 1000円、高校生・大学生 500円、小・中学生 250円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.11.26
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パリの華やかな時代の芸術と文化を辿る「ベル・エポック 美しき時代パリに集った芸術家たち」を鑑賞!
「ベル・エポック」と呼ばれる時代を知っていますか? 今回の企画展では、19世紀末から1914年の「ベル・エポック」と呼ばれる華やかな時代をテーマに、当時の美術、工芸、舞台、音楽、文学、モード、科学技術など多岐にわたる文化が紹介されています。 今回は、パナソニック汐留美術館で開催されている「ベル・エポック 美しき時代パリに集った芸術家たち」展に行ってきました! 西暦1900年前後、パリが世界で最も輝いていた「ベル・エポック」時代の空気を、ロートレックやキャバレーのポスターなどで味わいましょう。 「ベル・エポック 美しき時代パリに集った芸術家たち」展はパナソニック汐留美術館にて開催 「ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち」展は、19世紀末から20世紀初頭にかけてのパリの華やかな文化を存分に味わえる企画展です。 フランスのワイズマン&マイケルコレクションから初来日した絵画やグラフィック作品。 当時のパリの賑やかな情景や人々の暮らしを鮮明に描いたこれらの作品が、華やかな時代の空気感を伝えます。 美術、ファッション、日用品など、多彩な展示内容が見どころとなっています。 展示について 展示会場では、油彩画だけでなく、クレヨンやパステル、コラージュ、リトグラフ、水彩、鉛筆といったさまざまな技法を用いた作品が展示されており、芸術の幅広さを感じさせてくれます。 さらに、小説や当時のドレス、子ども服、ガラス製品、アクセサリー、帽子など、当時のパリの日常や華やかさを象徴する品々もそろっているのが見どころの一つです! 企画展を鑑賞していると、まるでベル・エポック時代のパリにタイムスリップしたかのような感覚を味わえます。 また、会場そのものも特別な演出が。 暖色を基調とした壁紙やレースカーテン、舞踏会を彷彿とさせる壁紙の模様など、当時のパリの雰囲気を感じさせる工夫が随所に見られます。 また、会場全体に広がる柔らかな照明や展示空間の演出が、100年前のパリの文化空間へと来場者を誘います。 細やかな配慮が、展示品の魅力をさらに引き立てていますね。 第1章:古き良き時代のパリ – 街と人々 第1章「古き良き時代のパリ – 街と人々」では、当時の暮らしや社会を感じさせる作品が多数展示されています。 特に目を引くのが、ブルジョワ階級の女性や子どもの服飾作品です。 華やかなドレスやアクセサリーはアール・ヌーヴォーの影響を強く受けており、花や植物をモチーフにした装飾が印象的です。 展示されている帽子にはたくさんの羽が使われており、まるで鳥そのものが帽子の上にとまっているかのような大胆なデザインに驚きました。 19世紀末から20世紀初頭にかけてのファッションは、体のラインを強調するようなデザインのドレスが多いように感じられます。 また、子ども服も大人の衣装のミニチュア版のようなデザインが多く見られますが、やがて「締め付けのある服は健康に悪影響を及ぼす」という考えが広まり、現在のようなゆったりとしたデザインの洋服へと進化していったそうです。 絵画は、当時のブルジョワ女性を描いた作品が並びます。 画家によって女性の表情が異なり、堂々とした気品ある姿や、少し意地悪そうに見える顔つきなど、社会的地位や個性が垣間見える作品群を比較しながら楽しめます。 当時のファッション誌も展示されており、緻密に描かれた服装の図版から当時の流行を読み取ることができるのも魅力的です。 当時の流行を今に伝える貴重な資料ともいえますね。 また、工芸品としてマイセン磁器の展示もあり、花や植物をふんだんに表現した燭台の装飾は目を見張るものがあり、翼の生えたプットー(天使)の存在が豪華さを一層引き立てています。 このような装飾美術からも、当時の豊かな社会を感じることができます。 第2章:総合芸術が開花するパリ 第2章「総合芸術が開花するパリ」では、当時の芸術家たちがどのように互いに影響し合い、新しい文化を創造していったかを感じられる展示が行われています。 ベルエポック時代の夜のパリが持つ華やかさがテーマとなり、舞踏会や演劇鑑賞、ブルジョワ階級の集いなど、賑やかで洗練された社会の一端を垣間見ることができます。 特に印象的だったのが、当時のパリの部屋を再現したであろう展示スペースです。 ルイ・マジョレルによる木製の椅子と小さなテーブルが手前に配置され、エミール・ガレのランプが部屋全体に温かみを与えていました。 家具や装飾品が、アール・ヌーヴォーのデザイン美学を体現しており、芸術がどのように日常生活に浸透していたかを実感できます。 背景の壁にはクロード・モネが印象派として活躍する直前の作品が展示され、時代の移り変わりを象徴しています。 また、水瓶やペン軸、ペーパーナイフといった小物の展示も充実しており、日用品が持つ芸術性が、当時の生活そのものがアートであるというような気分になりました。 絵画や家具、装飾品が融合する様子が当時の文化的豊かさを鮮やかに物語っており、芸術と生活が一体となった空間を体験できます。 第3章:華麗なるエンターテイメント 劇場の誘惑 第3章、「華麗なるエンターテイメント 劇場の誘惑」は、当時のパリの劇場文化や芸術家たちのコラボレーションの魅力に迫ります。 キャバレーや劇場が織りなすエンターテインメントの世界を、絵画やポスター作品を通じて楽しめます。 特に注目したいのは、キャバレー「ル・シャ・ノワール」に実際に飾られていたジュール・シェレのリトグラフ作品『パントマイム』『コメディー』『ダンス』『音楽』の4枚です。 鮮やかで軽やかな色彩が特徴で、見る人の心をときめかせるようなデザインが魅力的でした。 ベルエポック時代の劇場やキャバレーの華やかな雰囲気を感じさせるこれらのポスターは、当時のエンターテイメント文化の象徴ともいえるでしょう。 また、ベルエポック時代の劇場やキャバレーが、どれほど多くの芸術家にとってインスピレーションの源となり、互いに影響し合う場であったかを感じられます。 また、第3章は唯一写真撮影が許可されている展示スペースです。 特別な空間で、当時のパリの活気あふれる夜の世界をカメラに収め、鑑賞後もお気に入りの作品を眺め余韻に浸りましょう。 第4章:ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち 第4章「女性たちが活躍する時代へ」では、時代の中で自らの才能を発揮し、道を切り開いた女性たちに焦点を当てた作品群が展示されています。 この章では、アール・ヌーヴォーの巨匠アルフォンス・ミュシャによる華やかなポスターが一際目を引きます。 当時の人気舞台女優サラ・ベルナールを描いたもので、彼女が身につけていた冠や招待客用の記念メダルも併せて展示されていました。 その豪華な装飾品は、ベルエポックの華麗さを象徴しているといえるでしょう。 一方、注目すべきもう一人の女性、シュザンヌ・ヴァラドン。 彼女は洗濯婦として働きながら画家たちのモデルとして活動していましたが、自身でも絵を描き始め、画家ロートレックやドガによってその才能を評価されました。 彼女の描いた作品は、彼女の生活と芸術的な視点を反映し、観る者に力強い印象を与えます。 また、20世紀に入ってからのファッションも印象的です。 展示されているドレスや子ども服は、第1章で紹介されたものとは対照的に、シンプルでエレガントなデザインが特徴。 体の線を強調しないスタイルでありながら、アールデコの影響を受けた上品さが際立っています。 当時の服飾が、社会の変化や女性たちの新しい役割に適応していく過程を感じられる展示といえます。 芸術や文化の中で輝いた女性たちの物語が描き出され、ベルエポックの華やかさと変革の時代を象徴する展示を楽しめました。 https://daruma3.jp/kaiga/322 美術館外の映像作品 「ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち」展は、館内の展示だけでなく、美術館の外でも楽しみが広がっていました! 美術館入口前のスペースでは、当時のパリの様子を伝える映像作品が放映されており、こちらはなんと無料で観ることができます。 企画展に入場しなくても気軽に立ち寄れるため、ベルエポック時代の華やかな文化を少しだけ体験したい方にもおすすめです。 映像では、当時のパリの雰囲気や、舞台で活躍した歌手や舞台女優たちと画家との関係性が紹介されています。 特に感動的だったのは、歌手アリスティード・ブリュアンの肉声や、画家ロートレックの作品で有名なジャンヌ・ギルベールの動く姿を見れたことです! 絵画の中でおなじみとなっている彼らが動き、声を発することで、まるで当時のパリにタイムスリップしたかのような気分になりました。 さらに、第3章の展示室で鑑賞できるジュール・シェレの4枚の作品『パントマイム』『コメディー』『ダンス』『音楽』がキャバレー「ル・シャ・ノワール」に飾られている様子の写真も映像で紹介されています。 実際にカフェに飾られていた様子を知ると、展示室での鑑賞がより特別なものに感じられますね。 美術館外での映像上映は、展覧会をより深く楽しむためのプレリュードのような役割を果たしており、訪問者に新しい発見をもたらしてくれます。 ベルエポック時代の文化にどっぷり浸りたい方にとって、映像コーナーも見逃せないポイントです! グッズ 企画展を堪能した後は、グッズショップにも立ち寄りたいところです。 企画展会場から出たすぐの場所がグッズショップになっています。 ショップでは、展示されている作品を取り入れた多彩なアイテムが販売されており、訪れた記念として手に入れたいアイテムがそろっています。 展示作品のデザインを再現したポストカードやクリアファイル、しおり、マグネット、そしてリングノートなどが販売されていました。 ベル・エポック時代の華やかな芸術と文化を日常に取り入れられるアイテムで、観覧後の余韻に浸りながらその魅力を持ち帰ることができます。 また、ベル・エポックに関する知識を深めることができる書籍も豊富に取り揃えられています。 ベル・エポックの時代背景や芸術家たちの活動についてさらに学びたい方におすすめです。 展示の内容をより深く理解し、パリの「美しき時代」を心から感じられるようになること間違いなしでしょう。 まとめ 華やかな時代の美術や文化が集結したこの企画展は、ベル・エポック時代のパリを楽しむ絶好の機会です。 パリの優雅さや活気を感じたい方には特におすすめです。 ぜひ足を運んで、タイムスリップ気分を味わってみてはいかがでしょうか。 パナソニック汐留美術館では、2024年10月5日から12月15日まで、「ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち」展が開催されています。 開催情報 『ベル・エポック 美しき時代パリに集った芸術家たち展』 場所:〒105-8301 東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階 期間:2024/10/05~2024/12/15 公式ページ:https://panasonic.co.jp/ew/museum/ チケット:一般:1,200円、65歳以上:1,100円、大学生・高校生:700円、中学生以下:無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.11.26
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信長の新たな一面や性格が垣間見れる「信長の手紙 ―珠玉の60通大公開―」
戦国時代を駆け抜けた武将「織田信長」。 信長は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した日本の武将であり、天下統一を目指した人物です。 信長の性格は、一般的に冷酷とされることが多いですが、実際には複雑な側面を持っていました。 永青文庫で開催中の「信長の手紙 ―珠玉の60通大公開―」では、そんな信長の意外な一面を感じ取れるかもしれません。 今回は、永青文庫で開催中の「信長の手紙 ―珠玉の60通大公開―」展に行ってきたので、その魅力をお伝えします! 歴史好きの方だけではなく、ちょっと信長に興味がある人でも心をぐっと掴まれる内容でした。 「信長の手紙 ―珠玉の60通大公開―」展は永青文庫にて開催中 「信長の手紙 ―珠玉の60通大公開―」は永青文庫にて開催されています。 今回は、江戸川橋駅から15分ほど歩いて、会場まで向かいました。 永青文庫につく手前、胸突坂と呼ばれる傾斜が急な坂があるため、体力に自信がない方はバスで向かうとよいかもしれません。 バスはJR山手線の目白駅や東京メトロ副都心線の雑司ヶ谷駅などから出ています。 胸突坂をのぼると永青文庫に到着します。 外観は白い壁とシンプルなデザインが印象的です。 周囲の閑静な住宅街に溶け込むように建てられており、一見すると美術館とは気づきにくい造りになっています。 また、館内全体は、展示されている貴重な美術品や歴史資料の保護を目的として撮影禁止となっています。 さっそく、歴史を読み解くヒントにもなるであろう信長の手紙を鑑賞していきましょう。 「信長の手紙 ―珠玉の60通大公開―」の概要 戦国乱世を駆け抜けた織田信長、その名を聞いて思い浮かぶのは「革新者」「破天荒な戦国武将」など、さまざまなイメージでしょう。 そんな信長の知られざる一面に触れられる特別な企画展が永青文庫で開催中の「信長の手紙 ―珠玉の60通大公開―」です。 永青文庫が所蔵する細川家伝来の信長の手紙は、重要文化財に指定されている貴重なコレクションで、その数なんと59通! さらに2022年に新たに発見された1通を加え、合計60通が今回の企画展で公開されています。 一人の武将に関するこれだけの書状がまとまって残っている例は他になく、質・量ともに圧巻の内容です! この企画展では、長の手紙を通じて、室町幕府滅亡や一向一揆との戦い、長篠合戦、荒木村重の謀反、そして本能寺の変に至るまでの激動の10年間を、配下の細川藤孝らとのやり取りを交えてじっくり紐解いていきます。 革新的で残虐、時に超人的とも評される信長像は果たして事実なのでしょうか。 本展は、信長自身の言葉から、その真実に迫る絶好の機会です。 これまで漠然と抱いていた信長のイメージが覆されるかもしれません。 当時の武将たちが書いた手紙…その姿を想像するだけですごい! 会場は4階から2階までと広く、まさに信長の人生の一部を辿る旅のような企画展でした。 4階では、新発見の手紙や、今回の展示の目玉となる文書が並び、まさに「信長ファン必見」の空間ともいえるのではないでしょうか。 3階には、戦国時代の重要な出来事が歴史順に展示されており、歴史の流れを感じながら鑑賞を楽しめます。 展示されている手紙たちには、詳細な解説と現代語訳が添えられていました。 戦国時代の言葉に疎い私でも意味が伝わり、手紙の重要性や歴史的背景が理解でき、より感動が深まりました! 永青文庫に信長からの手紙が集結している理由 企画展に訪れてみて気になったのが、どうして永青文庫にこんなにも多くの信長の手紙が伝わっているのかということです。 実は、そのカギを握っているのが細川家の当主たちなのです。 まず注目したいのが初代当主・細川藤孝。 信長からの手紙の多くは藤孝宛てで、内容もさまざまあります。 戦功を称える感状(戦功を報いる書状)や日常的な贈答の礼状、さらには戦況報告などがあり、信長と藤孝の信頼関係が感じられます。 その後、2代当主・細川忠興宛ての手紙もあり、現存する唯一の信長直筆の手紙も忠興へのもの。 藤孝と息子の忠興が信長から大変大きな信頼を受けていたことが、これほど多くの信長の手紙が細川家に伝わる一因だといえます。 また、信長からの手紙たちが現代まで細川家に伝わる背景には、3代当主・細川忠利の努力も大きく関わっています。 忠利は、祖父である藤孝の功績を証明するため、手紙の保護に尽力したそうです。 信長の書状は一時、細川孝之(藤孝と正妻・麝香の末子)の元に渡ってしまっていたのですが、忠利はなんとその書状を自分の手元に戻すため、父・忠興を通じて回収を試み、成功しています。 忠利の熱い思いがあったからこそ、信長の貴重な手紙が現在もこうして残り、私たちが触れることができるのです。 新発見となった信長の手紙から読み取れる歴史的背景 今回新たに発見されたのは、元亀3年(1572年)の信長から藤孝宛ての書状。 この年は室町幕府が滅亡する前年で、信長の政治的な動きが激しく変わっていく時期にあたります。 永青文庫が所蔵する手紙の中でも最も古い年代のものとなり、その貴重さもひとしおです。 信長が藤孝に宛てたこの手紙では、信長は、足利義昭を将軍として擁立していたものの、その関係が崩壊し始めていたことに言及しています。 「元亀3年の年頭から、将軍の側近たちは誰も手紙や贈り物を寄こさず、絶交状態になっているが、そんな中で藤孝、あなただけは毎年のように音信をくれる。本当に嬉しい」と手紙の中で感謝の気持ちを表現。 そして、「大事な時期になった今、あなたの働きかけにかかっている」と、藤孝に対して信長派への支持を拡大するよう頼んでいるのです。 これは信長がその時期、いかに藤孝を信頼していたかを示すエピソードであり、当時の政治的な緊張感をひしひしと感じさせます。 新発見の手紙をはじめ、手紙の内容からは、信長の周囲との細やかなコミュニケーションが垣間見えます。 信長のイメージはしばしば攻撃的で冷徹なものとして語られますが、これらの手紙からは、周囲の武将たちとの協力や信頼関係の構築に積極的に努めていた様子がうかがえます。 信長の人間性や政治的な手腕を深く掘り下げる貴重な資料が揃っており、展示を見ていると、これまでの信長のイメージが少しずつ変わっていくかもしれませんね。 織田信長自筆の手紙は60通中たった1通のみ 「信長の手紙 ―珠玉の60通大公開―」展では、信長が藤孝らに宛てた数多くの手紙を見られますが、実際には信長がすべて自ら筆を執っていたわけではありません。 当時の武将たちの多くは、右筆(書記官)が内容を口頭で聞き取って文書を作成し、武将はそれを確認して最後に花押(署名)を押す形でした。 それでも、信長が用いた「天下布武」印や、豪快な花押は、彼の力強い個性を感じさせてくれますね。 そんな中、特に目を引いたのは、15歳ごろの忠興(細川忠興)に宛てた信長自筆の感状です。 松永久秀追討のための軍に参加し、軍功を挙げた際に信長が忠興に送った手紙で、その筆跡はまさに「天下を治める者」の風格を感じさせる堂々としたものでした! 45歳の信長の自筆の字は、力強く、筆圧が強く、右筆(書記官)が書いたものと比べると、その豪快さに圧倒されました。 意外な関係性が垣間見える石田三成が細川忠興に宛てた自筆書状 2021年に紙背文書として新たに発見された、石田三成が細川忠興に宛てた自筆の書状も、歴史を知っている人からすると貴重な手紙なのではないでしょうか。 この書状は、関ヶ原の戦い(1600年)で二人が敵対する関係となる前、1586年ごろのものです。 まだ20代の若き武将である三成と忠興が「茶会」を巡って気軽にやり取りをしている内容が綴られています。 書状の中で、27歳の石田三成が24歳の忠興に対し、「いいことがあったから金を貸し付ける。忠興もいくらか金子を出資しないか?」と提案しています。 三成らしい鋭い金銭感覚が垣間見えるもので、当時の彼の性格や考え方をうかがわせますね。 一般的に、石田三成と細川忠興は関ヶ原で敵対関係にあったとされ、その後の歴史で不仲だったことはよく知られています。 しかし、この文書からは、まだ両者が若かったころに、冗談を交えた気楽なやり取りをしていたことがわかります。 のちの展開を知っている人たちにとっては、少し切なさが感じられる一通です。 また、この書状は細川忠興が記した「風姿花伝」の裏紙に書かれていたことが発覚し、その発見エピソードもとても興味深いものでした。 藤孝・忠興父子に協力を仰いだ明智光秀の直筆書状 本展では、明智光秀の直筆書状も展示されていました。 この手紙は、本能寺の変からわずか7日後に書かれたもので、信長を討った理由が書かれた貴重な史料です。 光秀の心情が率直に綴られており、藤孝・忠興父子が信長の死を受けて剃髪し弔意を示したことに対して「当初は立腹したが思い直した」という言葉を残しています。 そして、この手紙では信長を殺した光秀が藤孝と忠興父子に対して、「自分に味方してほしい」と切実に訴えているのです。 実際、藤孝と光秀は非常に密接な関係にあり、光秀の娘・玉(後のガラシャ)を忠興が妻に迎えるなど、家族ぐるみでの繋がりがありました。 しかし、光秀がこの手紙を送ったときには、藤孝・忠興父子はすでに豊臣秀吉側についており、光秀の申し出には応じませんでした。 このことが光秀にとってどれほど大きな痛手となったかは言うまでもなく、その後、光秀は秀吉に敗れることとなります。 本展では、秀吉と細川家が通じていたことを示す資料も紹介されています。 「杉若藤七書状写」では、秀吉の家臣である杉若藤七が藤孝の家臣である松井康之に宛てた手紙の写しで、細川家が謀反に関与していないことを秀吉が理解していると記されています。 この手紙は光秀の書状が書かれる前日に送られたものです。 これらの書状を通して、本能寺の変という戦国時代最大の事件における人物たちの複雑な思惑や微妙な立場が浮かび上がります。 光秀、秀吉、そして細川家の三者がどのように絡み合っていたのかを知ることができ、歴史の渦中で繰り広げられたドラマを感じることができました。 歴史のリアルを感じる、「信長の手紙」展 「信長の手紙 ―珠玉の60通大公開―」展を訪れた後、感じたのは、書状が持つ力強いリアルさでした。 信長が部下に宛てた戦功を称える言葉や、細川家と信長の両者がどれだけ互いの絆を大切にしていたか、光秀が本能寺の変の後に書いた心情など、どれも一瞬一瞬の感情が切り取られた貴重な資料です。 文字の背後には、織田信長や細川家、そして時代を生きた武将たちの生々しい感情が宿っているのだと感じられる企画展でした。 また、展示を通して、ただの歴史の一部を学んだのではなく、信長の時代を生きた人々の心の動きに触れたような気がしました。 「信長の手紙 ―珠玉の60通大公開―」は、歴史的な出来事を俯瞰するだけでなく、その時代を生きた人々の思いに寄り添うことができる貴重な企画展です。 永青文庫で開催されている「信長の手紙」展をじっくり鑑賞した後は、ぜひ徒歩1分の場所にある「肥後細川庭園」へ足を運んでみてはいかがでしょうか。 熊本藩主・細川家の下屋敷跡として整備されたこの庭園は、池泉回遊式庭園の美しさが楽しめる癒しのスポットです。 歴史と自然が融合したこの空間で、展覧会で感じた時代の息吹を静かに振り返りながら、のんびりとしたひとときを楽しんでみてください。 織田信長や戦国時代に興味のある方には、企画展へぜひ一度足を運んで、この書状に込められた歴史の重みを直接感じてほしいと思います。 開催情報 『信長の手紙 ―珠玉の60通大公開―』 場所:永青文庫 住所:〒112-0015 東京都文京区目白台1-1-1 期間:2024年10月5日~2024年12月1日 公式ページ:https://www.eiseibunko.com/ チケット:一般1,000円、シニア(70歳以上)800円、大学・高校生500円、中学生以下は無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.11.11
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現代日本美術の息吹を感じられる「日展」へ訪れてみた
皆さんは、日展を知っていますか? 正式名称は、「日本美術展覧会」といいます! 明治に開催されて以降、文展・帝展・新文展・日展と名称を変えながら開催が続いている伝統的な展覧会なのです。 毎年秋に東京の上野公園にある東京都美術館で開催されていましたが、現在は六本木の国立新美術館で開催されています。 日展では、日本画・洋画・彫刻・工芸美術・書の5つの部門の作品が勢ぞろいしており、国立新美術館の1階から3階までのフロアを使用して、毎年約3000点の新作が並びます。 今回は、そんな国立新美術館で開催されている「日本美術展覧会」に行ってきました! 公募展の入選・特選作品と会員作品が集まる日展は国立新美術館にて開催中 日展は110年以上続く歴史ある展覧会で、伝統的な作品から現代的な作品まで、幅広い分野の作品が並ぶのが特徴です。 部門は、日本画・洋画・彫刻・工芸美術・書の5つあり、国立新美術館の1・2・3階のフロアを使って膨大な量の作品を展示しています。 作品の数は、入選者と会員あわせて約3000点以上と見ごたえがあります。 「日展」は三部構成の見ごたえ抜群な展示 日展は、1階が日本画と工芸美術、2階が洋画と彫刻、3階が書の構成で展示されています。 膨大な量の作品が展示されていますが、会場内はスペースが大きく空いていて広々としているので、ゆっくり・じっくりと鑑賞を楽しめます。 また、複数の分野をまとめて鑑賞できるため、ふだん日本画は鑑賞するけどほかの分野はあまり見たことがなかった、という方でも興味を広げられる場であると感じられました! 展示されている作品の横にQRコードが示されているものもあり、スマートフォンで読み取ってみると、作家からのコメントや想いを読むことが可能です。 目に留まった作品にQRコードが示されていれば、ぜひ作家の作品に対する想いをみてみましょう。 また、彫刻作品の中には手で触れてよいマークが示されたものもあります。 ふだんの美術鑑賞では、なかなか作品に触れる機会がないかもしれません。 実際の作品に触れてみることで、いつもとは異なる新鮮な気持ちで作品と向き合えるでしょう。 日展は伝統ある展覧会でありながら、作家と鑑賞者の距離が近くなる展示の工夫がされており、子どもから大人まで楽しめる展覧会であると感じられました! それでは、さっそく1階の日本画の展示会場から見ていきます。 日本画というと、歴史や古典をベースにした、古き良き日本を思わせるような作品が多いのかなという印象をもっていました。 しかし、実際にはカラフルで鮮やかな絵や、現代の人物や風景を描いた新しい表現やユニークなモチーフの作品も多く、新鮮な気持ちで鑑賞を楽しめました。 日本画の作品は、額縁もシンプルなものが多い印象でしたが、中にはオリジナルの画を描いた額縁に飾っている作品も。 ゆるっとした可愛い猫たちが描かれていて、暖かい気持ちになりました。 みなさんは、フィナーレと聞くとどのような光景をイメージしますか? もともとは、オペラや交響曲などの楽曲の最終楽章を指す言葉で、終幕のような意味合いがあります。 フィナーレと聞くと、最後の盛り上がりをみせるシーンを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。 例えば、花火大会の最後に大量の花火が一斉に打ちあがり、夜空を鮮やかな色で埋め尽くす瞬間を思い浮かべます。 また、映画やドラマのストーリーが終息し、感動的なシーンとともに美しい音楽が流れる時間など。 希望的、感動的な印象を創造する人が多いでしょう。 しかし、この作品では、フィナーレというタイトルでたくさんのひまわりが枯れてうなだれている様子が描かれています。 夏の終わり、生命の終わりを想像させ、美しさと儚さの両方を感じさせてくれます。 また、多くの人が想像するフィナーレよりも寂しげな印象がありますが、枯れた生命がもう一度夏に咲き誇るという自然のサイクルを思わせ、新たな始まりや希望が含まれているようにも感じられますね。 この作品にはQRコードはありませんでしたが、気になる作品が描かれた意図や込められた気持ちを想像するとともに、QRコードで作家のコメントを確認してみるのも新しい美術鑑賞の楽しみ方といえます。 続いては、日本画部門に隣接している工芸美術部門を見ていきます。 工芸美術部門では、多彩なジャンルの作品が展示されていました。 陶芸から磁器、漆、染め、織り、彫金、ガラスなど、素材も形態も多種多様で、自由を感じさせる展示でした。 ジャンルが豊富なため、何をどこからどのように見たらよいのかと迷ってしまいます。 しかし、バラエティに富んでいるからこそ、自分の直感に従って目に留まった作品をじっくり鑑賞してみるのもよいでしょう。 たくさんの出会いにより、自分がどのようなものが好きなのかが見えてくるかもしれませんね。 真っ黒なオブジェに描かれた繊細でありながらも色鮮やかな羽に目を惹かれて足を留めました。 漆で絵や文様を描き、金や銀の蒔絵粉で装飾する蒔絵の技法によって制作されたオブジェで、漆黒のような黒色に金色と細く鮮やかな羽が儚げに表現されていて、幻想的な雰囲気が印象的でした。 次に2階へ移動して、洋画の会場を見ていきます。 大きなサイズの作品が多いように感じられ、会場内の四方の壁を埋め尽くすように配置されており、見ごたえのある会場でした。 また、洋画を鑑賞していく際に、日本画とは異なる豪華な印象の額縁が多く使用されているように感じました。 細部まで装飾が施された額縁は、作品そのものの存在感も引き立てており、絵画がもつ魅力を最大限に引き出しているような印象を受けます。 洋画部門では、ボールペンで描かれた作品も展示されていました! ボールペンというシンプルな道具でありながらも、顔の凹凸や祈るように組まれた手の影までリアルに表現されている点が印象的です。 背景には星座と細かい字がたくさん描かれており、ボールペンならではの表現に魅了されました。 彫刻の会場内では、さまざまな作品が目を引きます。 人をモデルにしたものが多いのですが、その表現は多種多様! 裸のものもあれば、服を着ているもの、さらには布を一枚羽織っただけのスタイルまで。 中には、ジーンズを履いた現代的な彫刻もあって、思わず「今っぽい!」と感じてしまいます。 また、人だけではなく動物たちの彫刻も展示されていました。 熊やワニなど、リアルなフォルムで作られた彫刻が目の前に現れると、その迫力に思わず圧倒されます。 素材やスタイルの幅広さが魅力の彫刻たちは、見るたびに新しい発見があってとても楽しめます。 数多くの彫刻からお気に入りの一体を見つけるのも、この展示の楽しみ方かもしれませんね。 彫刻を見るとき、「なぜこのポーズを選んだのか」「何をみてポーズを決めたのだろうか」など、さまざまな想像が膨らみます。 想像力を働かせると、作品が一気に生き生きと感じられて、鑑賞がもっと楽しくなります! さらに、素材やモチーフからも作者の個性が伝わってきます。 同じ「人」や「動物」を描いていても、作品ごとにまったく違う雰囲気やメッセージが込められているのが面白いところです!。 最後に3階の書を鑑賞していきます。 書の展覧会と聞くと、いわゆる「縦長の掛け軸風の書」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、ここではそんなイメージを覆すような作品がたくさんありました。 縦長の作品だけではなく、冊子くらいの小ぶりな書や、横長のダイナミックな書もあって、サイズも形もいろいろ。 さらに、字体も作品ごとに違っていて、力強い筆遣いが印象的なものもあれば、繊細で美しいラインを描いたものもあります。 実は、日展で最も応募作品数が多いのがこの書部門だそうです。 楷書や草書など、さまざまな書体が並ぶと、そのバリエーションの豊富さに圧倒されます。 大小のサイズや独自の表現が感じられる作品が目を引き、どれもが一つの芸術として見応えたっぷりです! 筆の運びや文字の形に込められた感情や技術の違いを見ると、書道がただの文字を書く作業ではなく、深い表現の世界であることを改めて実感します。 毎回見るたびに新たな発見があり、書体の持つ力強さや優雅さに魅了されること間違いなしです。 お気に入りの作品のグッズが見つかるかも 展示作品をモチーフにした絵はがきやポスターをはじめ、多彩なアイテムが並んでいます。 お気に入りの作品を手元に置いておきたいという気持ちを、叶えてくれるラインナップです。 友人へのちょっとした贈り物にもぴったりであり、自分の部屋をギャラリーのように彩るアクセントになります。 展示の余韻をそのまま持ち帰り、日展の世界を日常でも楽しむのも、アート鑑賞の醍醐味です。 アートを楽しむすべての人に日展はオススメ! 国立新美術館で開催中の日展では、期待以上に充実した時間を過ごすことができました。 広々とした展示会場で作品の前に立ち、細部を間近で眺めたり、少し距離を取って全体の構成をじっくり楽しんだりと、さまざまな視点から鑑賞できるのが魅力です。 また、会場内ではスーツ姿の関係者と思われる方々も多く見かけ、日展がいかに多くの人々にとって重要な場であるかを実感しました。 展示されている作品の美しさだけでなく、アートを愛する人々との交流の場としての雰囲気も楽しめるのが、この展覧会の素敵なところです。 「アートの世界に浸る」とはまさにこのことでしょう。 また、国立新美術館内には、1つのレストランと3つのカフェがあり、待ち合わせや軽食、くつろぎの時間、さらには特別なご会食まで、さまざまなシーンに合わせた食の空間が充実しています。 展示を鑑賞した後は、カフェで美味しい飲み物を片手に余韻を楽しむのもおすすめです。 次回開催が楽しみになるほど、心に残る体験を提供してくれる日展。 また訪れる機会があれば、さらに深くその魅力を味わいたいと思います。 開催情報 『日展』 場所:国立新美術館 住所:〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2 期間:2024/11/1~2024/11/24 公式ページ:https://www.nact.jp/ チケット:一般1,400円、高・大学生 無料、中学生以下 無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.11.11
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