誰しも一度は耳にしたことのある超有名浮世絵師・葛飾北斎(1760年-1849年)。
江戸時代後期に活躍した絵師で、日本のみならず海外からも高い評価を得ている人物です。
大きな波の後ろに富士山が描かれた絵を見たことがある人も多いでしょう。
あの有名な『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』を描いたのが北斎なのです!
富士山をテーマにした連作を手がけ、大変有名になったため、風景画を得意とする浮世絵師のイメージをもっている人も多いのではないでしょうか。
しかし、実は風景画だけではなく、美人画や花鳥画、妖怪画など、さまざまなジャンルの浮世絵を残しているのです。
そして、北斎とその門人は平安時代に活躍した人物や都の暮らしをイメージした浮世絵も多く描いています。
今回は、すみだ北斎美術館で開催されている「北斎が紡ぐ平安のみやびー江戸に息づく王朝文学」に行ってきました!
目次
「北斎が紡ぐ平安のみやびー江戸に息づく王朝文学」はすみだ北斎美術館にて開催中
江戸時代の日本では、平安時代の宮廷文化や古典文学が再び注目を集めていました。
多くの芸術家たちがその風雅な世界観に魅了され、画で表現することに力を注いだのです。
北斎と門人たちも、平安の雅に魅了された人々のうちの一人で、平安時代の貴族生活や文学をテーマに、王朝の優雅さを映し出す作品を数多く制作しています。
北斎は『源氏物語』や『伊勢物語』などの名場面を描き、登場人物や風景から平安の美意識を感じさせてくれます。
また単に物語のワンシーンや歌意を画にするだけにはとどまらず、着物の模様や調度品など王朝文学の雅も表現されているのです。
今回の企画展「北斎が紡ぐ平安のみやび―江戸に息づく王朝文学」では、北斎と門人たちが手がけた、平安時代や王朝文学に関する作品が一堂に集められています。
北斎たちが思い描いていた平安時代の雅やかなイメージや物語の魅力を楽しめる企画展です!
江戸時代に生きた彼らが抱いた平安時代への憧れや、文学に対する深い理解を想像するとともに、北斎たちが再構築して描き出した平安の世界観を楽しみましょう。
すみだ北斎美術館を利用するにあたっての注意事項
すみだ北斎美術館では、貴重な作品を保護するためのいくつかのルールが設けられています。
まず、展示室内では鉛筆以外の筆記具の使用は控えるよう案内されています。
シャープペンシルやボールペンの芯やインクが万が一作品に触れてしまうと、汚損のリスクがあるため、鉛筆のみ使用可となっているのです。
また、館内は撮影禁止のエリアがあり、撮影可能エリアが限られています。
撮影可能な場所は、地下1階ホワイエ、1階エントランス(ミュージアムショップを除く)、3階・4階の展望ラウンジ、4階常設展示室「AURORA」です。
展示作品の保存上の理由から、他のエリアでは撮影が禁止されているため注意しましょう。
地下1階にはロッカーが完備されていますが、サイズが小さいため大きな荷物をお持ちの方は、受付に預けるのがおすすめです。
見たことない・知らなかった北斎の視点や作品が堪能できる展示
今回の企画展「北斎が紡ぐ平安のみやびー江戸に息づく王朝文学」は、江戸時代の人々が抱いた「平安」の美意識を、北斎とその門人が作品として描き堪能できる内容となっています。
江戸時代における平安時代の文学や文化に対する関心の高まりを背景に、優雅な「みやび」の世界を多彩な角度から紹介しています。
企画展を構成する4つの章は、それぞれ以下の通りです。
序章:江戸時代の「平安」像
第一章:「みやび」なイメージの形成
一節:都の暮らし
二節:怪異への恐れ
第二章:描かれた王朝文学
第三章:王朝文学ゆかりの意匠
一節:文学にまつわる文様
二節:一場面が意匠に
企画展入ってすぐの場所には「浮世絵豆知識」が掲示されており、北斎と浮世絵の基礎知識を得ることで、作品の背景が一層理解しやすくなっています。
序章:江戸時代の「平安」像
江戸時代に入ると、民衆の『源氏物語』や『伊勢物語』などの古典文学への関心が高まり、写本や解説書などが広がっていきました。
また、学問や教育の発展に伴い、和歌の代表作である『古今和歌集』が親しまれるようになり歌仙絵が流行り、王朝文学が江戸の人々の生活や文化に深い影響を与えていったのです。
序章では、こうした背景を通じて江戸時代に形成された「平安」への憧憬が感じられる作品が展示されています。
葛飾北斎『枕草子を読む娘』
江戸時代の遊女文化と文学への関心を感じさせる魅力的な一枚です。
描かれている女性は、振袖新造と呼ばれる遊女としての地位が高まりつつある若い女性で、本を読む知的な姿が印象的です。
美しい着物に身を包みながら『枕草子』を読む姿からは、当時の遊女たちがただ美しいだけでなく、文学や教養も求められていた様子が見て取れますね。
第一章:「みやび」なイメージの形成
王朝風の作品では、宮廷行事や都の華やかな日常がテーマとして描かれています。
またこの時代、大陸から伝わった思想や信仰が、日本に古くからある信仰や伝説と結びつき、怪異の存在が身近になっていました。
この章では、江戸時代以降に想像された平安朝の生活や文化、妖怪や怪異などの伝説が近い存在であったことを感じられる作品が展示されています。
一節:都の暮らし
葛飾北斎『五十三次江都の往かい 京』
東海道の宿駅を舞台にした作品で、江戸時代の都の生活を鮮やかに映し出しています。
二人の童子が舞っている舞楽「胡蝶」は、平安時代から続く伝統的な舞いであり、作品の中でのその表現は、まさに江戸時代の人々が抱いた「平安」のイメージを象徴しているかのようでした。
二節:怪異への恐れ
葛飾北斎『北斎漫画 五編 柿本貴僧正』
この作品は、平安時代に活躍したとされる歌人・柿本人麻呂の伝説をもとに描かれたとされています。
真済が恋い焦がれた藤原明子に取り憑く様子は、愛情が生み出す悲劇的な側面を浮き彫りにしています。
手前に恐ろしい紺青鬼姿の真済が描かれていますが、その表情はどこか悲しげなような苦しげなような、異界の存在となってしまったことへの苦悩が見え隠れしているようにも感じられますね。
本の形で展示されている作品も多くあり、現代の漫画を思わせる構造で枠内に絵が描かれているのが特徴的でした。
本は視覚的にストーリーを伝えるだけではなく、自分で冊子をめくり読み進めていくことで、より作品に対する興味を引き立ててくれるものだと感じられました。
第二章:描かれた王朝文学
江戸時代、王朝文学は絵画で盛んに表現され、多くの作品が描かれました。
北斎やその門人も『源氏物語』や『伊勢物語』などの古典的な作品をテーマにして、それぞれ独自の支店や表現で描いています。
また、王朝文学に登場する人物に、江戸時代の髪型や服装などのアレンジを当てはめ、歴史と現代を融合させた作品も生み出しているのです。
第二章は、過去の文化がどのように江戸時代に受け継がれていたのかが感じられる展示となっています。
葛飾北斎『風流源氏うたがるた』
『風流源氏うたがるた』は、華やかな『源氏物語』の中の和歌が使われた歌がるたです。
ただ遊びに使われるかるたではなく、文学と美術が融合した一つの作品として、とても惹きつけられました。
青い縁の札に上の句、黄色い縁の札に下の句が書かれ、各巻にまつわる絵がそえられており、視覚的にも楽しませてくれます。
古典文学が江戸時代から多くの人に愛されてきたことが分かる作品ですね。
葛飾北斎『諸国名橋奇覧 三河の八つ橋の古図』
この作品からは、単なる風景画ではなく古典文学の豊かな歴史を感じられます。
八ツ橋は、昔から歌枕として親しまれており、『伊勢物語』の主人公である在原業平が和歌を詠んだ地としても伝わっています。
北斎が描いたこの作品では、八ツ橋を題材に江戸時代の風俗を取り入れながら、湿原に咲く杜若を楽しむ旅人たちの姿が描かれており、オレンジと青色のコントラストが印象的です。
古図という表現が示す通り、すでに失われた風景を思い起こさせ、見る者にノスタルジーを感じさせてくれますね。
葛飾北斎『百人一首乳母か絵説 在原業平』1835年/大判錦絵
竜田川の流れの中に散る紅葉が、秋の深まりを感じさせてくれる魅力的な作品で、印象に残っています。
勢いのある川の流れで水が白く波立つ様子が表現されており、その上に鮮やかなオレンジの紅葉が描かれていることで、自然の美しさをより一層感じられました。
また、北斎の繊細な描写の技術を垣間見えたともいえます。
第三章:王朝文学ゆかりの意匠
平安時代の文学にまつわる文様や物語から着想を得たデザインは、江戸時代の調度品や衣服の意匠に取り入れられるなど、当時の生活文化にも深く影響を与えていました。
北斎たちの作品においても、『源氏物語』をはじめとした古典文学の要素が多く取り入れられ、着物や調度品にゆかりある文様や物語の場面が表現されています。
歌がるたのような和歌の句や場面をモチーフにしたデザインが織り込まれた着物は、見る者に雅やかな王朝文化の空気を感じさせてくれますね。
また、調度品や着物にさりげなく描かれる物語の場面は、日常に文学的な雰囲気を漂わせ、観る者に豊かな想像を提供してくれます。
一節:文学にまつわる文様
葛飾北斎『美人カルタ』
『美人カルタ』には、かるた取りに興じる美人たちの優雅な姿が描かれており、頬杖をつく女性の着物には、源氏車の文様があしらわれています。
源氏車は、平安貴族が使用していた御所車の車輪を図案化したもので、平安時代から文様として広く使用されるとともに、家紋としても利用されていたのです。
『源氏物語』第九帖「葵」に登場する車争いの場面が強く思い起こされ、源氏物語を連想させてくれます。
二節:一場面が意匠に
葛飾北斎『今様櫛きん雛形』櫛之部 上 源氏うきふね
この作品は、櫛のデザインを描いた絵手本です。
「浮舟」は、光源氏の息子である薫と孫の匂宮を中心に展開されていく物語で、この作品では匂宮が宇治へ赴き、浮舟を隠れ家に連れ出すシーンが取り入れられています。
櫛のデザインに王朝文学のワンシーンを取り入れることで、単なる髪を梳かす櫛ではなく芸術品としての価値も高まるだろうと感じられました。
オリジナルグッズや「雅」なグッズまで
1階エントランスにあるミュージアムショップでは、今回の企画展「北斎が紡ぐ平安のみやびー江戸に息づく王朝文学」にちなんだ多彩なグッズが並んでいます。
図録やリーフレットに加え、所蔵品から着想を得たオリジナルアイテムや北斎の浮世絵をデザインした商品、さらには地元・墨田の技術を駆使した「メイドインすみだ」シリーズもそろっており、訪れた人々を楽しませてくれています。
さらに、ミニ書道セットやミニ屏風、和を感じられる折り紙や箸、御朱印帳などのアイテムは、持ち帰って使用することで日常生活にも雅な雰囲気を取り入れられるでしょう。
観覧券がなくてもミュージアムショップだけの利用も可能なため、美術館を訪れた際にはぜひ立ち寄ってみてください。
世界から注目される北斎作品のいつもと違う切り口が楽しい
「北斎が紡ぐ平安のみやび―江戸に息づく王朝文学」展は、平安時代の優美な文学の世界が北斎とその門人たちの手によってどのように再解釈されたのかを堪能できる貴重な機会です。
海外でも人気の高い北斎作品が並び、海外からの観光客の姿も多く見受けられました。
展示解説は日本語だけでなく英語も併記されており、海外から訪れた方々も作品の背景や意図を深く理解しながら楽しめる内容となっています。
美術展の余韻を楽しんだあとは、ぜひ最寄り駅である両国駅近くの「カフェ・ベローチェ」でひと息つきましょう。
心落ち着く空間で、展示で鑑賞した作品たちをゆっくりと振り返りながら、コーヒーやスイーツでほっとひと息つくのもよいですね。
豊かな香りのコーヒーや軽食もそろい、展示の感想を語り合うひとときにもぴったりです。
企画展鑑賞後のひとときを、ベローチェで過ごしてみてはいかがでしょうか。
店舗情報
カフェ・ベローチェ 両国店
https://c-united.co.jp/store/detail/000404/
開催情報
『北斎が紡ぐ平安のみやびー江戸に息づく王朝文学』
場所:〒130-0014 東京都墨田区亀沢2丁目7番2号
期間:2024/9/18~2024/11/24
公式ページ:https://hokusai-museum.jp/
チケット:一般 1,000円、高校生・大学生 700円、65歳以上 700円、中学生300円、小学生以下 無料
※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください