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ヤノベケンジの妄想が爆発した「太郎と猫と太陽と」展に行ってみた!
皆さんは、現代アートシーンの風雲児「ヤノベケンジ」を知っていますか? オレンジの宇宙服のような潜水服のようなものを着た白い猫のオブジェを見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。 猫が宇宙服を着るという摩訶不思議なオブジェを制作したのがヤノベケンジなのです! 今回は、岡本太郎記念館で開催されている「ヤノベケンジ:太郎と猫と太陽と」に行ってきました。 ヤノベケンジは、なぜ宇宙猫という不思議な生き物を生み出したのか、太陽の塔からどのような着想を得て制作にあたったのか。 岡本太郎記念館の中を縦横無尽に飛び回る『宇宙猫』を眺めながら、ヤノベケンジの原点となる岡本太郎の『太陽の塔』をオマージュした作品制作の背景に触れていきましょう。 岡本太郎の自宅兼アトリエだった岡本太郎記念館にて開催中 「ヤノベケンジ:太郎と猫と太陽と」は、南青山にあるかつて岡本太郎が自宅兼アトリエとして実際に使っていた岡本太郎記念館にて開催されています。ここは岡本太郎記念館ということもあり、岡本太郎が制作した作品もあらゆる場所に展示されており、建物内に入る前の庭スペースにもオブジェがところ狭しと飾ってありました! 2階のベランダには、ミニ太陽の塔が手すりに手をかけて外をのんびり眺めています。 2階から庭を眺めているのか、記念館に訪れる人を観察しているのか、そんなミニ太陽の塔に軽く会釈をして記念館に入っていきます! 入口入ってすぐ左の小さなカウンターにてチケットを購入します。スタッフの方に確認したところ、館内は写真撮影OKでミュージアムショップのグッズも撮影OKとのことでした。 また、館内は、もともと自宅兼アトリエであったからなのか土足厳禁。チケットを購入したら靴を脱いでスリッパに履き替え、作品を観ていきましょう! 「太郎と猫と太陽と」展の展示について 展示は、岡本太郎のサロン・アトリエスペースと2階上がってすぐの展示スペース、2階の奥にある部屋での映像上映スペース、庭スペースの4つに分かれていました。 展示のメインとなるのは『BIG CAT BANG』。 ヤノベケンジの壮大な妄想ストーリーである『BIG CAT BANG』は、初めタイトルを聞いただけでは「大きい猫が爆発する展示…?」とピンときていませんでしたが、オブジェたちやヤノベケンジが描いたスケッチ、さらにはヤノベケンジと岡本太郎、太陽の塔らの関係性の分かる映像上映を見ていくうちに、どんどんとストーリーに引き込まれていってしまいました! 『BIG CAT BANG』にピンときていない方、すでに理解していて展示を楽しめている方も、まずは映像上映を鑑賞すると、よりヤノベケンジや太陽の塔に対する知識を深められ展示を楽しめるかもしれません。 岡本太郎のサロン・アトリエに散らばる宇宙猫 1階入口入って右手側には、岡本太郎のサロン・アトリエがそのまま残されています。 岡本太郎が実際に制作をしていた空間を眺めていると、宇宙服を着た猫があちこちを飛び交っているのが目に入ってきます! 岡本太郎が制作したオブジェの上で、泳ぐような姿勢をみせる宇宙猫。 さらに、岡本太郎本人がシリコンに埋まって作ったといわれているマネキンの上にもちょこんと宇宙猫が! 腕をだらんと下げてくつろいでおり、岡本太郎になついているようにも見えますね。 サロンから奥に進むと、かつて岡本太郎が制作に没頭していたであろうアトリエがあります。 棚にはキャンバスが大量に置かれており、デスクの上には筆などの画材が大量に置かれていました。 そして、もちろん机の上にも宇宙猫が飛び交っていました! アトリエに残されているピアノの鍵盤の上にも宇宙猫が。 岡本太郎が残した芸術性にあわせて音楽を奏でてくれているのでしょうか。 サロンやアトリエを飛び交う宇宙猫はまだまだたくさんいます! ぜひ、企画展中に訪れて、岡本太郎の作品と宇宙猫がどのような配置で置かれて、どのような意味を持たせているのか、自分の目で見て妄想してみてください。 2階展示室の宇宙猫オブジェたち 2階の展示室に上がると、ヤノベケンジが制作した宇宙猫をメインに作品が展示されています。 まず目に飛び込んできたのは、黒い壁一面に描かれた宇宙船『LUCA号』と宇宙猫たちです! 太陽の塔をオマージュした宇宙船を中心に、周囲には宇宙猫が地球に生命の種をまき、人類の誕生をも守るシーンなどが描かれています。壁画の下側には、猫化した岡本太郎の姿もあります。 「始まりは爆発だ!」と叫んでいる岡本太郎あらため猫本太郎。 岡本太郎の名言「芸術は爆発だ!」をオマージュしたセリフと思われますが、芸術の衝動に突き動かされて創作を続けた天才芸術家岡本太郎と、地球の誕生を見届け衝動に突き動かされるまま地球に降り立ち、そこで生命を爆発的に繁殖・進化させていった宇宙猫を重ね合わせてこのセリフを使用したのかなと感じました。 また、今回は宇宙船『LUCA号』の内部が初公開となり、赤い内壁はよく見ると猫の顔の形をしています。 おびただしい数の真っ赤な猫の顔はどこか不気味さも感じられ、宇宙船の中心には金色の生命の種が! そのほかにも宇宙船『LUCA号』の一部分のオブジェや、『BIG CAT BANG』の絵をつなぎあわせた映像作品などさまざまな展示物があるため、ぜひ一つひとつのストーリーを妄想しながら鑑賞を楽しみましょう! 2階の映像上映と構想スケッチたち 2階展示室の奥の小部屋では、ヤノベケンジのプロジェクト映像が放映されていました。 内容は『太陽の塔、乗っ取り計画』『太陽の子、太郎の子』『インタビュー』の3本立てとなっており、ヤノベケンジをよく知らない方は、初めにこの映像を見てから作品を鑑賞すると、より理解が深まるのではと思います! ヤノベケンジと岡本太郎の関係性についても深く知ることができるでしょう。 また、プロジェクト映像を上映している部屋の壁一面には、これまでヤノベケンジが考えてきたアイデアのドローイングや作品がびっしり貼られています! 青い壁面が、地球や宇宙の神秘性を表しているようにも感じられ、わくわくするようなドローイングに不思議さが加わり、一つひとつの作品に魅了されてしまいました。 こちらの部屋には小さなイスがいくつか用意されており、座って鑑賞を楽しめます。映像も写真や動画撮影がOKで、多くの人が映像でヤノベケンジという人物像に触れながら、貴重な映像の撮影をしていました。 「インタビュー」の映像では、岡本太郎の「芸術は爆発だ」からインスピレーションを受けて、『猫大爆発』の展示作品を制作したことや、パンデミック後の憂いを払拭し、未来ある若い世代の人たちが、新しい未来を見つめるきっかけになればという気持ちをもって作品を制作していることなどが語られており、ヤノベケンジがどのような思いで作品を制作しているか、何をきっかけにプロジェクトを企画しているかなどが分かる映像になっています。 また、今回のメインテーマになっている宇宙猫と宇宙船『LUCA号』についても語られており、宇宙人である宇宙猫が地球に生命の種をまき、生命を育てていく過程のストーリーは、太陽の塔の生命の樹の前日譚として制作したそうです。 また、太陽の塔は燃料が切れて帰れなくなった宇宙船『LUCA号』の耳が落ちた残骸の姿であるとしています。 ストーリーについて知識を深めてからもう一度展示室の作品をみてみると、これまでとは異なる見方ができ2度楽しめるのではないでしょうか! 庭に君臨した迫力のある巨大宇宙猫 岡本太郎記念館の庭には、岡本太郎のオブジェがいくつも展示されていますが、今回庭の奥にはこれまでのシリーズで最も大きい『SHIP’S CAT』が展示されていました! 妖しく緑色に光る眼は、夜になるとその輝きがさらに妖しさを増し、宇宙猫が地球外生命体であることを思い知らせてくれるでしょう。 庭にももちろんミニ宇宙猫が飛び交っています。 巨大『SHIP’S CAT』にばかり目が行きがちですが、小さな宇宙猫たちもしっかり探してみてくださいね。 https://daruma3.jp/kaiga/332 ミュージアムショップにてヤノベケンジグッズも販売中 館内のミュージアムショップでは、ヤノベケンジのグッズもいくつか販売されていました。 今回の展示のメインである宇宙猫を正面にプリントしたTシャツも販売されており、キャラクター性がありながらもちょっとリアルな宇宙猫のデザインは、個性を出すのにぴったりですね! ほかにもサコッシュや絵本、フィギュアマスコットなども販売されていました。 岡本太郎グッズもあわせて販売されているので、セットで購入するのもおすすめです。 また、宇宙猫のミニフィギュアが手に入るガチャガチャも用意されていました! 1回500円と、グッズとしてはお手頃価格のため、何か一つ記念に持ち帰りたい…!という方は、記念にガチャガチャをするのもおすすめです。 ヤノベケンジの壮大なストーリー作品と岡本太郎との関係性が分かる企画展! 「太郎と猫と太陽と」展は、ヤノベケンジの壮大な妄想ストーリーである『BIG CAT BANG』の世界観が存分に楽しめる展示となっています! また、ヤノベケンジを創作の世界に駆り立てた岡本太郎の存在や、関係性などに触れる映像作品も鑑賞できるため、ヤノベケンジ本人はもちろん岡本太郎の人物像についても知識を深められるでしょう。 岡本太郎記念館で開催されたこの企画展は、奇想天外な発想が面白いと岡本太郎も喜んで天から見守っているのではないでしょうか。 もしかしたら、自分も一緒に参加して新しい芸術を爆発させたかったなんて思っているかもしれませんね。 キャッチーなオブジェたちがわくわくを生み出してくれるとともに、これからを生きるわたしたちに夢や希望を与えてくれる壮大な作品を鑑賞した後は、近くの南青山骨董通りにあるスターバックスで余韻に浸るのもおすすめです! 岡本太郎記念館を出て右に進むとある骨董通りにあるこちらのお店は、店内も広くカウンター席やテラス席もあるため、その日の気分にあわせて場所を変え、楽しむのもよいでしょう。 店舗情報 スターバックス 南青山骨董通り店 https://store.starbucks.co.jp/detail-410/ 「ヤノベケンジ:太郎と猫と太陽と」開催情報(岡本太郎美術館) 「ヤノベケンジ:太郎と猫と太陽と」 場所:岡本太郎記念館 住所: 東京都港区南青山6-1-19 Google map:https://maps.app.goo.gl/NMectzn7pHhERYqr9 期間:2024/7/12~2024/11/10 公式ページ:https://taro-okamoto.or.jp/ チケット:一般 650円(550円)、小学生300円(200円)※()内は15人以上の団体料金 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.26
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ひんやり涼しくなれる太田記念美術館開催の「浮世絵お化け屋敷」展!
皆さんは、浮世絵がどのような作品か知っていますか? 浮世絵とは、江戸時代から大正時代にかけて描かれていた風俗を題材にした絵画作品です。 憂き世に浮かれて楽しく暮らそうという意味を込めて、「浮世」の字が使われています。 浮世絵に描かれるジャンルはさまざまです! 武将を題材とした「武将絵」、美女をメインに描く「美人画」、風景に焦点を当てた「風景画」、歌舞伎役者を描く「歌舞伎絵」など、多彩な種類があります。 そして、今回、太田記念美術館で開催される企画展で展示される浮世絵の題材となっているのは、暑い夏にぴったりの「妖怪・お化け・幽霊」です! 今回は、太田記念美術館で開催されている暑い夏を涼しくする企画展「浮世絵お化け屋敷」に行ってきました! 暑い夏を涼しくしてくれる「浮世絵お化け屋敷」は太田記念美術館にて開催中 妖怪や幽霊などのお化けを描いた浮世絵は、近年人気を集めています。 荒れ果てた屋敷に棲みついた妖怪、無念を晴らすべく人を襲う幽霊、ユーモアたっぷりの憎めない妖怪など、浮世絵にはさまざまなお化けが登場します。 「浮世絵お化け屋敷」でも恐ろしい姿で人を怖がらせる妖怪や、ユーモラスな姿でくすっと笑わせてくれる妖怪まで、前後期あわせて174点が展示される、みどころ満載の展示会です! 初日の夕方16時ごろ訪れてみると、次々に美術館に入っていく人が! 17時に受付終了、17時半の閉館ですが、館内もまだまだ人がたくさんいました。 壁面に飾られた浮世絵たちを、順路に沿って見ていく形式ですが、どの展示室でも壁沿いにお客さんの列ができていました。 太田記念美術館は、原宿駅から近い場所にあるアクセスのよい美術館であるため、夏休み中は平日でも混雑が予想されます! 17時になり受付が終了した後は、徐々に人も減っていき、自由に見て回れるようになりました。 全体を鑑賞して、さらに気に入った作品をじっくり鑑賞したいと考えている方は、閉館30分前や開館直後など、人の少ない時間帯を狙いましょう! また、浮世絵は海外からの人気も高い日本伝統の絵画ジャンルだけあって、海外からのお客さんもたくさん来館していました。 「浮世絵お化け屋敷」のみどころ 太田記念美術館で開催されている「浮世絵お化け屋敷」では、さまざまな浮世絵師のお化けを描いた絵が展示されています。 歌川国芳や歌川国貞、月岡芳年など人気浮世絵師が描いた不気味で恐ろしい妖怪や幽霊の代表作も大集合します! ネットやポスターなどで見かけていた有名な作品を、生で鑑賞できるチャンスです! また、お化け屋敷ということで、恐ろしい妖怪や幽霊も描かれていますが、浮世絵によってはユーモラスで可愛らしい妖怪たちもたくさん登場します。 踊る猫又やゆるキャラのような姿の妖怪など、恐ろしいはずなのにどこか憎めない愛嬌のあるお化けに目を惹かれます。 「浮世絵お化け屋敷」では、怖カワな浮世絵を楽しみましょう! また、今回展示される作品の約2割が新収蔵品の浮世絵です。 これまで、太田記念美術館では何度か妖怪や幽霊をテーマにした浮世絵企画展を開催していますが、今までの企画展を見てきた人でも新たな作品に出会えます! 新たに収蔵された初公開作品は38点ありますので、繰り返し訪れたことがある人も足を運んでみましょう。 全11ジャンル!さまざまな妖怪・お化けたちが… 「浮世絵お化け屋敷」は、展示室内全体、全作品の撮影が禁止されていますので、間違って写真を撮らないよう注意しましょう。 1階展示室の始まりには、浮世絵とは何かを説明するポスターが掲載されているため、浮世絵を詳しく知らない方は、よく読んでから作品を鑑賞すると、より楽しみ方の幅が広がります! 展示は、以下11のジャンルに分けられ展示されていました。 ・不気味な屋敷 ・祟る怨霊たち ・怒れる亡霊たち ・哀しむ幽霊たち ・鬼 ・河童 ・天狗 ・土蜘蛛 ・狐 ・さまざまな妖怪たち ・慌てふためく人間たち 『和漢百物語 大宅太郎光國』月岡芳年/1865年 この作品は、大宅太郎光國が相馬の古内裏に潜入した際に、骸骨と遭遇したシーンを描いています。 相馬の古内裏と聞くと、歌川国芳の有名な『相馬の古内裏』を思い浮かべる人も多いでしょう。 この作品は、その『相馬の古内裏』と同じ物語のワンシーンを描いているのです! 国芳の浮世絵では巨大な骸骨が登場しますが、芳年の浮世絵では巨大な骸骨は登場しません。 その代わり、人よりも少し小さな骸骨が複数登場しており、大宅太郎光國を襲うわけでもなく、互いに戦いを繰り広げ、しばらくすると霧のように消えてしまったと作品紹介がされています。 「浮世絵お化け屋敷」展では、同じ物語を描いた作品が複数登場します。 一つひとつの作品の描き方や雰囲気、内容を見て楽しむのはもちろん、浮世絵師によってどのような描き方の違いがあるかを比較してみると、新たな発見ができるかもしれません! 前期の展示では、相馬の内裏をテーマにした作品が3つほど展示されていました。 骸骨のほかに、がまがえるや妖怪が登場する作品もあるため、見比べてみるのがお勧めです! 『東駅いろは日記』歌川国貞(三代目豊国)/1861年 この作品は、市村座で公演された「東駅いろは日記」に取材して制作された浮世絵です。 画面の中央には、大きな黒い影のような化け猫が墨で描かれ、闇の中で光る黄色い鋭い目が怪しげで恐ろしい雰囲気を醸し出しています。 中央にいる十三代目市村羽左衛門が演じる女性は、化け猫に身体を乗っ取られており、手足をくねらせるような姿勢が猫を連想させます。 この作品で、注目したいのが大きな化け猫ではなく、画面の手前で踊っている小さな猫又です。 手ぬぐいを被り軽快な踊りのポーズを決めている猫又がなんとも可愛らしく、恐ろしいワンシーンであるにもかかわらず、小さな猫又の姿を見て笑顔になってしまいました! 祟る怨霊たちをテーマにした浮世絵群では、四ッ谷怪談の絵が4つ、皿屋敷の絵が2つ(前期展示)と、同じ物語の作品が複数展示されているため、こちらも比較して見てみるとよいでしょう。 『新形三十六怪撰 四ッ谷怪談』月岡芳年/1892年 この作品では、毒を飲まされる前のお岩が、赤子と仲良く横になっている暖かなシーンが描かれています。 しかし、天井からは帯が垂れ下がり、蛇のようにうねっている様子も描かれており、この後の不穏な展開を予期させるような構成になっています。 『木曽街道六十九次之内 追分 おいは 宅悦』歌川国芳/1852年 この作品では、毒を飲まされ顔がただれて醜くなったお岩が描かれています。 一つ前の『新形三十六怪撰 四ッ谷怪談』と連続して展示されていて、別々の浮世絵師が手がけた四ツ谷階段の話がつながるよう展示に工夫がされていました。 作品の雰囲気を比較するとともに、つながったストーリーを楽しみながら鑑賞するのもよいですね。 怒れる亡霊たちをテーマにした浮世絵では、亡霊が雷を落としたり、大波を起こしたり、大蛇になったりと、さまざまな形で恨みを晴らす姿が浮世絵の中で表現されていました。 また、平知盛の亡霊がさまざまな作品に登場しているのが印象に残っています。 源義経に壇ノ浦まで追い詰められ、平家を率いていた平知盛は、最期を覚悟し入水。 平家は滅び無念の死を遂げた知盛の怨念がすさまじく、江戸時代でもインパクトのあるエピソードとなり、浮世絵の題材として用いられていたのではないでしょうか。 さまざまな妖怪たちをテーマにした浮世絵作品では、ワニやタコ、コウモリ、海坊主、古狸、真っ青な山姥、蛇など多彩な妖怪やお化けが描かれており、江戸時代の人たちがどのようなものに恐れを抱いていたかが分かります。 水の中や山の中を背景にした作品も多く、自然に対する脅威の感情を、潜在的に持ち合わせていたのではとも感じさせられました。 『越中立山の地獄谷に肉芝道人蛙合戦の奇をあらはし良門伊賀寿の両雄に妖術を授く』歌川芳虎/1852年 中央背景には、巨大なかえるを描き、それを従える、がまがえるの精霊・肉芝道人が妖術でたくさんのかえるを召喚させ、戦わせる様子が描かれています。 かえるたちは真剣に戦っているのですが、蒲の穂や蓮の葉を槍のように構えて戦う姿が可愛らしく見えてしまいました。 描かれた人物の真剣さに迫力を覚える一方で、背後に描かれた妖怪たちもキャラクター性が強く、ポップな印象を受けました。 『髪切の奇談』歌川芳藤/1868年 この作品で登場するのは、髪を切る妖怪「髪切」です。 夜中に突然出現し、女性の髪の毛を食いちぎる恐ろしい妖怪ですが、絵に描かれた髪切の姿は、二足歩行のずんぐりむっくりなまっくろい生物。 恐ろしくはありますが、どこか現代のゆるキャラのようなデザインにも感じられますね。 慌てふためく人間たちをテーマにした浮世絵では、妖怪のいたずらに慌てる人間たちの様子をユーモアたっぷりに描いている作品が多く、愉快な気持ちで楽しめました! 狸に化かされる人、真っ黒な獣に驚き悲鳴をあげて尻もちをつく女性、籠にいれた魚を幽霊にとられる人など、妖怪たちがどのようなドッキリを行っているか楽しみながら鑑賞しましょう。 『新形三十六怪撰 おもゐつつら』月岡芳年/1892年 舌切り雀の結末を描いたこちらの浮世絵では、葛籠から飛び出してきた妖怪たちの姿に驚いたお婆さんが尻もちをつく様子が描かれています。 ろくろ首や河童やかえるを思わせる緑色の妖怪とともに、宇宙人としても出てきそうなデザイン性の妖怪も登場しているのがみどころです! お土産にも!浮世絵モチーフのユニークなグッズたち 太田記念美術館は館内受付にて、「浮世絵お化け屋敷」展の作品全174点を掲載した展覧会ブックレットを販売しています。 A4サイズでカラーの全64ページとボリューム満載です! 今回の企画展の作品を気に入り、自宅でもう一度見返したいという方にお勧めです。 また館内の地下1階には、手ぬぐい専門店が併設されています。 伝統的な文様からモダンなデザインの手ぬぐいまで多彩なグッズを取り扱っているため、あわせて見てみるのもよいでしょう。 涼しげな空気を感じたいなら「浮世絵お化け屋敷」展を見に行こう 総勢174点の作品が大集合し、妖怪やお化けの恐ろしい姿で、暑い夏に涼し気な空気を送り込んでくれる「浮世絵お化け屋敷」展。 恐ろしいだけではなく、ユーモラスな妖怪やお化けもたくさん描かれているため、子どもと一緒に楽しめる夏休みにぴったりな企画展です! 前期と後期ですべての作品を入れ替えるため、同じ企画展で2度楽しめるのも魅力的ですね。 ぜひ、夏休みの思い出の一つとして、太田記念美術館で開催されている「浮世絵お化け屋敷」展を訪れてみてください。 開催情報 『浮世絵お化け屋敷展』 場所:東京都渋谷区神宮前1-10-10 期間:前期2024/8/3~2024/9/1、後期2024/9/6~2024/9/29 公式ページ:http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/ チケット:一般1200円・大高生800円・中学生(15歳)以下無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.25
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リトグラフの魅力に触れる「西洋版画を視る」に行ってみた!<国立西洋美術館(東京都台東区)>
国立西洋美術館で開催されている「西洋版画を視る」シリーズは、今回で3回目。これまで西洋版画の主な技法に着目し、制作方法や特徴的な表現を紹介してきました。そして現在開催されている「西洋版画を視る」では、石版画と呼ばれるリトグラフをメインに取り上げています。 リトグラフという言葉を聞いたことがあっても、どのように作品が制作されているのか知らない人も多いのではないでしょうか。 今回は、国立西洋美術館で開催されている「西洋版画を視る」に行ってきました! 「西洋版画を視る」は国立西洋美術館にて開催中 国立西洋美術館で開催されている今回の「西洋版画を視る」シリーズでは、リトグラフ作品がおよそ40点集結しています。 リトグラフ発祥の地といわれているドイツから各国への広がっていた初期作品から、リトグラフが大衆から人気を集めていたころの作品、多色刷りによりポスター作品で多くの人から高い評価を得ていたころの作品まで、時代の移り変わりによって変化していったリトグラフ作品を楽しめるのが見どころです! また、「リトグラフ作品ってどのように作られているの?」と思っている方も安心です。 制作工程の一例を映像と展示で解説されているため、リトグラフそのものの知識を身に付けてから作品を楽しめる工夫がされています。 リトグラフならではの描写と魅力に意識を向け、歴史を辿りながら作品をじっくり「視て」楽しみましょう! 「西洋版画を視る」は、常設展のチケットにて鑑賞できます。 チケット売り場は国立西洋美術館の入口手前の右側にありますので、購入してから館内に入りましょう。 なお、国立西洋美術館内には、ロッカーが用意されていますので、荷物が多い方は、こちらで預けてから鑑賞するのがおすすめです。 リトグラフとは リトグラフの「リト(litho)」は、ギリシャ語で「石」という意味の「lithos」が語源。 リトグラフでは、水と油が反発しあう特性を利用して制作が行われます。木版画やエングレーヴィング、エッチングなどのように版に凹凸をつけるのではなく、石版の上に絵を描き、化学処理を施すことで平らな状態でも作品を印刷できるのが大きな特徴です。 「西洋版画を視る」の展示について 「西洋版画を視る」の展示は、常設展スペースの一角(新館2階 版画素描展示室)で行われており、常設展のチケットを購入すれば鑑賞できます。 常設展内のスタッフさんに確認したところ、基本的に写真撮影OKとのことでした! NGの作品には、カメラに✕マークの印がありますが、「西洋版画を視る」の展示作品は、すべて撮影ができましたので、直接目で楽しむとともに、写真に撮って自宅に帰ってから改めてじっくり見てみるのもおすすめです。 常設展を進んでいくと、版画素描展示室前に「西洋版画を視る」のポスターがあるため、迷わずたどり着けるかと思います! 展示室前では、リトグラフが完成するまでの流れを放映していました! リトグラフがどのように作られているかを確認できる映像のため、リトグラフについてのイメージを膨らませておきたい人は、映像を見てから作品鑑賞に移りましょう!上映時間は約5分で、手軽に見ることができるのも嬉しいポイントです。 版画ができあがるまでの流れを把握してから展示を鑑賞すると、これまでとは違った視点で作品を楽しめますね! 映像を見ていて、作品を制作し始める前に、石同士を削って前に描いた作品の絵を消す作業が印象的でした。一つの石で何枚もの版画を刷れるとともに、別の絵にも再利用しているからこそ、安価で制作でき、大衆にも広まったのではと考えさせられますね。また、石を削ってしまえば、同じ作品はもう制作できなくなるため、少しもったいないなという気持ちにもなりました! いよいよ、展示室に入っていくと、壁面はすべて濃い青色で統一されており、作品の額縁もやわらかな印象のある明るい木材で統一されており、シンプルでリトグラフ作品を引き立たせる工夫が印象的でした。 1.リトグラフの誕生と伝播 リトグラフは、1798年ごろのミュンヘンにて、俳優で劇作家であったアロイス・ゼネフェルダーによって考案されました。瞬く間にヨーロッパ中に広まっていったリトグラフの技術は、多くのロマン主義の画家たちに取り入れられました。 ここでは、リトグラフが伝わっていった初期のころの作品が紹介されています! 『プルチネッラ』エドゥアール・マネ(1874年) 『プルチネッラ』 作家名:エドゥアール・マネ 制作年:1874年 カラー・リトグラフ、ウォーヴ紙 展示室に入ってすぐにある作品です。 マネによる唯一の多色刷り作品であり、カラー・リトグラフが流行するより前に先駆的に制作された作品といわれています。 カラフルな軍服が、真っ白で立派な髭を際立たせているように感じられました。 軍服なのに、多彩な色を使っており、道化師プルチネッラのつぶらな瞳も相まってポップで可愛らしい印象があります!細かく見ていくと、洋服のシワや光のあたり具合によってできる明暗まで繊細に表現されており、リトグラフも直接描くように細かな表現ができることに驚きました。 『ザルツブルクとベルヒテスガーデンの7つの地方 一週間の7日に合わせて』より『月曜:ザルツブルク手前のローゼネッカーガルテン』(1818/23年) 『月曜:ザルツブルク手前のローゼネッカーガルテン』 作家名:フェルディナント・オリヴィエ 制作年:1823年 この作品は、白黒のリトグラフで、まるで鉛筆でデッサンしたかのような繊細さが感じられました。 リトグラフは、クレヨンや鉛筆タッチの自由な線や風合いを表現できる技法といわれていますが、この作品をみると、鉛筆で直接描いたといわれたら信じてしまうほど、細かなタッチで人物や風景が描かれていました。 のどかな自然と町の風景が描かれており、手前の人物は濃く、背景の山々は薄くなっていて遠近感が表現されているのも印象的です。 モノクロのリトグラフでも、色の濃さを細かく変え、遠近感を表現できるんですね! 『ボルドーの闘牛』より『二分された闘牛場』フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス(1825年) 『二分された闘牛場』 作家名:フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス 制作年:1825年 こちらは、クレヨンによるスケッチ風の大胆なタッチが特徴的な作品です。 先ほどの作品と比較すると、インクの色合いが濃く感じられますね。 芯の太い鉛筆で塗ったような表現が印象的で、絵ではありますが走り書きのような表現方法が作品の躍動感を生んでいるように感じられ、作品から闘技場の熱が伝わってくるようでした! 2.リトグラフの大衆化 ドーミエと『カリカチュール』 リトグラフによる制作が広まっていく中で、政治や社会を風刺する作品が発展していきました。 写実主義の画家で知られているオノレ・ドーミエは、鋭い洞察力とユーモアに加え、卓越したデッサン力をもっており、権力を痛烈に批判したリトグラフ作品を制作し、多くの民衆に支持されました。 『誘惑』オノレ・ドーミエ(1835年) 『誘惑』 作家名:オノレ・ドーミエ 制作年:1835年 画面上部の作品が『誘惑』です。風刺新聞「カリカチュール」に掲載された作品の一つで、『聖アントニウスの誘惑』の主題をパロディ化した作品です。 描かれている悪魔たちは、閣僚を表現しており、誘惑される聖人は豚の顔をしているのが印象的でした。 悪魔といえど恐ろしすぎず、キャラクター性の強いデザインから、ドーミエのユーモアが感じられますね。 3.リトグラフ芸術の再燃 ―ブレダン、マネ、ルドン リトグラフは、1820年代に最盛期を迎え、商業的に盛り上がっていく一方、芸術作品としては衰退の一途を辿っていきました。 しかし、1860年代になると芸術家の関心は再びリトグラフに向けられるようになり、独創的な作品も数多く誕生したのでした。 『善きサマリア人 』ロドルフ・ブレダン(1822年-1885年) 『善きサマリア人 』 作家名:ロドルフ・ブレダン 制作年:1822年-1855年 リトグラフ、チャイナ紙 新約聖書の中で、イエスが語った「善きサマリア人」のたとえ話がモチーフとなっている作品です。 この作品を見たとき、繊細な描写に圧倒されました!作品の隅から隅まで自然の風景を細かく描いており、ブレダンの卓越した技術を堪能できる作品ではないでしょうか。木の枝1本1本や葉の葉脈も生き生きと描かれており、近くでじっくりゆっくり鑑賞したくなる作品です。 森の奥に小さく見える一つひとつの建築物も細かく表現されており、空には何羽も鳥が飛び、鑑賞するほど気付きが生まれ、一つの作品でいくつもの作品を鑑賞したかのような充実感を味わえます! 緻密に描かれた森の中をよく観察してみてください。 よくよく見ると、森のさまざまな場所に動物が隠れるように描かれています。遠くから鑑賞していると木々の模様に見えていた場所も、よく見てみると動物が!さるやふくろう、犬、とかげのようなものも描かれており、「ウォーリーを探せ」のような楽しみ方もできます。 ぜひこの作品を鑑賞するときは、どんな動物が描かれているか探してみると、さらに楽しめること間違いなしです。 『キリスト』オディロン・ルドン(1887年) 『キリスト』 作家名:オディロン・ルドン 制作年:1887年 先ほどの『善きサマリア人』とは異なり、シンプルな作りが印象的な作品です。 象徴主義を代表する画家オディロン・ルドンが描く作品は、無意識化を投影した幻想的な世界観が特徴です。 この作品は、全体的に薄暗く、顔がこけているようにも見え、退廃的な印象に感じられますが、大きく描かれた目に少し可愛らしさもあり、暗さの中にユーモアも感じられる作品でした。 4.カラー・リトグラフの流行とポスター芸術の開花 『ノートルダム・ド・ラ・クラルテ』マキシム・モーフラ(1861年-1918年) 『ノートルダム・ド・ラ・クラルテ』 作家名:マキシム・モーフラ 制作年:1861年-1918年 この作品は、何人もの画家たちによるオリジナル版画を集めた版画集『レスタンプ・オリジナル』に掲載された一作品です。この展示では、4枚の絵が横並びに飾られており、色が塗り重ねられていく様子がわかるよう、展示方法が工夫されていました。 1枚目は、まだ下書きのような印象がありますね。 2枚目では、輪郭がはっきりとしてきますが、まだまだ完成形には遠いような印象を受けます。 3枚目で、雲の模様が浮かび上がってきて、建物の影も表現されていますが、まだぼんやりした色合いのように感じられます。 4枚目では、輪郭がくっきりとして、それぞれのモチーフが独立しているのがわかりますね。 重ね刷りによって作品が作り上げられていく様子を楽しめる展示でした。 『フォリー・ベルジェールのポスター:ロイ・フラー』ジュール・シェレ(1893年) 『フォリー・ベルジェールのポスター:ロイ・フラー』 作家名:ジュール・シェレ 制作年:1893年 カラー・リトグラフ この作品を制作したシェレは、ロンドンでカラー・リトグラフの技術を学び、1866年にパリで印刷所を開設した人物でもあります。アメリカ出身のダンサーであるロイ・フラーを描いたこのポスターは、彼女のパリ・デビュー公演で飾られたもので、ドレスの色合いが鮮やかかつポップで、真っ黒な背景が明るいイエローのドレスを引き立たせている印象でした! また、ドレスの影は黒ではなく、薄いブルーで表現しているのも印象的です。 顔の影も薄いブルーで表現しており、独特な雰囲気に惹きつけられました。 背景と影の薄暗い色が、鮮やかなドレスとオレンジのヘアーをより際立たせているようにも感じられました。 5.「画家にして版画家」 ―ボナール〈パリの生活情景〉 ピエール・ボナールは、ポスター作品により人気を高めたカラー・リトグラフをさらに発展させた人物といわれています。 ボナールは、日本の浮世絵からインスピレーションを受け、大胆な構図や平坦な色彩を特徴とした作品を制作しました。 この最後の章では、リトグラフが100年の時を経て辿り着いた芸術性を楽しめます。 『パリの生活情景』より『夕べ、雨の街』ピエール・ボナール(1899年) 『パリの生活情景』より『夕べ、雨の街』 作家名:ピエール・ボナール 制作年:1899年 カラー・リトグラフ この作品は、パリの日常的な生活情景に着目して描かれた表紙と12点のカラー・リトグラフ作品からなる連作の一つ。4年もの制作期間を経ているため、少しずつ作風が変化していっており、ぜひ展示会では作品を順に鑑賞していき、違いを楽しんでみてください。 『夕べ、雨の街』では、雨上がりのパリの街並みが描かれています。濡れた地面に街の灯りが反射している様子を描くことで、雨上がりの街を表現している点に魅力を感じました。画面のほとんどが黒で描かれている分、灯りを表現している黄色のカラーが映えていますね。雨や水を表現する色は一切使われていないにもかかわらず、雨上がりを表現している点に感動しました! 国立西洋美術館では西洋美術に関連するグッズが販売されている 「西洋版画を視る」の展示に特化したグッズ販売はされていませんが、国立西洋美術館のミュージアムショップでは、西洋美術に関連するさまざまな商品が販売されていました。また、グッズだけではなく西洋美術に関する本や、特定の画家に特化した本、子ども向けの美術本なども販売されており、展示を鑑賞したあと、西洋美術についての知識を付けたいと感じた人は、ぜひ書籍もチェックしてみてください! そのほかにも、西洋絵画が描かれた絵はがきや、クリアファイル、ネクタイ、ポスター、額絵専用フレームなどさまざまなグッズが販売されていました。 西洋美術の中でもリトグラフ作品を深く知りたい人はぜひ「西洋版画を視る」の展示会へ! 今回、「西洋版画を視る」シリーズのリトグラフ作品に着目した展示会を鑑賞してきました! リトグラフ作品が何か知らない人も、展示室前の映像や展示室内の説明書きをみればどのような作品であるかが掴めます。 平日の午前中に鑑賞しましたが、比較的人が少なく、じっくり作品を見て回ることができました。私は11時過ぎごろ美術館を後にしたのですが、そのときにはチケット売り場に列ができていました。 今回の展示は写真撮影ができるため、ゆっくり作品を見て回りつつ写真撮影も行いたい方は、人の少ない平日午前に行くことをおすすめします! 描いたままの線が版画になるリトグラフは、画家が描いた絵の雰囲気を忠実に再現できる魅力があります。 リトグラフに興味がある方は、リトグラフの制作工程から、時代に移り変わりによって発展していったリトグラフ作品を鑑賞できる「西洋版画を視る」にぜひ訪れてみてください。 「西洋版画を視る」開催情報(国立西洋美術館) 「西洋版画を視る」 場所:国立西洋美術館 住所:東京都台東区上野公園7-7 Google map:https://g.co/kgs/PPhLcrw 期間:2024/06/11~2024/09/01 公式ページ:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2024lithography.html チケット:一般500円、大学生250円、高校生以下及び18歳未満・65歳以上は無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.19
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デジタルとアートを融合させた新しい美術展「バンクシー展」でバンクシーの魅力を堪能してきた!<GMOデジタル美術館(東京都渋谷区)>
皆さんは、正体不明の現代グラフィティアーティストのバンクシーを知っていますか? 世界中の壁にスプレーで絵を描くゲリラ的なスタイルで作品を制作しており、メッセージ性の強い数々の作品に共感する人も多く、世界中に熱狂的なファンがいます。バンクシーが描くグラフィティの多くは、反戦や難民問題、弱者への無関心、大量消費主義などに対する批評の意味が込められているのです。 公共の壁にスプレーで絵を描く行為は、違法でありバンクシーの活動は逮捕されてもおかしくないものといえるでしょう。 一方で、世界に問題を提起し訴えかけるバンクシーの作品は魅力あるものとして、バンクシーのグラフィティを保存する動きがみられたり、オークションでは高値で取引されたりと、グラフィックアーティストとしても高く評価されるようになりました。 そんな話題のバンクシーの作品を生で鑑賞できるのが、GMOデジタル美術館で開催されているバンクシー展です! 今回は、GMOデジタル美術館で開催されているデジタルとアートを融合させた「バンクシー展」に行ってきました。 「バンクシー展」は新しいアートの楽しみ方を実現するGMOデジタル美術館にて開催中 希少なバンクシーの作品を鑑賞できるGMOデジタル美術館の「バンクシー展」。 美術館は、渋谷駅南改札西口から徒歩約1分の東急プラザ内2階にあります。最初に美術館をみたとき、「これが美術館?」と不思議な気持ちになりました! 美術館の入口はスクリーンのようなものでふさがれており入ることができません。スタッフの方に確認してみると、上映時間が決まっていて、時間になるとスクリーンが上がり、入場となるそうです。 チケットは、ネットもしくは美術館の右隣にあるグッズショップで購入できます。今回はグッズショップにてチケット(一般・学生300円)を購入しました。 グッズショップ内の壁際に腰をかけられるスペースがあり、開演時間になるまではグッズをゆっくり見ながら待つのもおすすめです。 グッズショップには大きなディスプレイが設置されており、今回開催されている「バンクシー展」の概要を紹介していますので、バンクシー展の予告のような感覚で見て、気持ちを高めるのもよいですね! デジタルとアートを融合させた新感覚の「バンクシー展」 上映時間にならないと入場ができない「バンクシー展」。 「上映ってなに?」「美術館じゃなくて映画館なの?」とさまざまな疑問が生まれるでしょう。 実は、GMOデジタル美術館で開催されているバンクシー展は、映像でバンクシーの紹介を見た後に実物の作品を鑑賞する流れになっているのです! バンクシーを詳しく知らない人でも、ストーリーや作品に込められたメッセージ性などに関する映像で理解を深めてから、実際に作品を鑑賞できるため、より作品の魅力を楽しめる仕組みになっています。 1公演20分の入れ替え制で、毎時00分・20分・40分から開演となります。時間になったらスタッフの方にチケットをみせていざ入場しましょう! 映像と音響でバンクシーのアートの世界を体験できるスペシャルムービー 開演時間になり入場すると、正面と左右に大きなスクリーンが! 「バンクシー展」では、まずこのスクリーンでバンクシーに関するスペシャルムービーを見た後に、実際の作品を鑑賞します。 時間になると入口がスクリーンで閉められ、前後左右すべてにスクリーンが設置されます。 スペシャルムービーが始まる前からどこを見ればよいのか悩んでしまいました…! また、会場内にはビーズクッションがいくつか用意されており、クッションに座って映像鑑賞を楽しんでくださいとのことでした。立ち見やイスではない点にも、新しさを感じさせられますね。 また、スペシャルムービーは、動画撮影は禁止されていますが、写真撮影はOKということで、バンクシーの世界観を楽しみながら美しい映像を写真におさめて、後から余韻に浸るのもおすすめです! 上映時間になると、スクリーン内にバンクシーが現れ、スプレーで「WELCOME」と描いて映像がスタートするおしゃれな構成になっていて、開始直後からとてもワクワクさせられました! 映像と音響が一体になった新しいアート体験が、7.1chのサウンドと5面の大型映像により表現の幅を広げられ、より私たちを引き込んでいくような感覚の映像作品です。 ドキュメント映画を見ているというよりは、ドキュメント映画の中に入り込んでしまったような感覚です。 前後左右のスクリーンだけではなく、床面にも映像を投影させており、映像がスクリーンから飛び出てくるような、アートの世界に飛び込んだかのような没入感を味わえます! 全方位に投影された映像と指向性をコントロールできるスピーカーシステムにより、アートをより近くに感じられました。 美術館鑑賞や芸術鑑賞に慣れていない方でも、まったく異なる方向性からアートを楽しめます! スペシャルムービー中に、床面の映像がスピーディに動くシーンがあり、まるで自分が移動しているような、落下していくような、不思議な浮遊感を味わえたのも印象に残っています。 これまでにない芸術の楽しみ方を教えてくれる新鮮な演出でした。 スペシャルムービー鑑賞後はバンクシーの代表作と対面! スペシャルムービーを見終わると、正面のスクリーンが上がっていき、バンクシーの代表作である『風船と少女』・『Bomb Love Over Radar』・『花束を投げる暴徒』が現れます。 壁面の真ん中に展示されている『風船と少女』は、2018年、サザビーズにて104万2000ポンドで落札された瞬間、額縁の下部に隠されていたシュレッダーによって切り刻まれ、その後『愛はごみ箱の中に』と改名されたことでも話題を集めましたね。 GMOデジタル美術館で見られる『風船と少女』は、額縁の細部までサザビーズのオークション当時のものを再現しているそうです。 作品の左下には、ハートマークとともにバンクシーのサインが書かれています。 この作品は、2004年に制作された150点のうちの一つで、ハートマーク付きのサインは、関係者への販売でのみ書かれたものであり、希少性の高い作品であるそうです! また、作品の右下には42/150の数字も書かれており、こちらは150点のうちの42番目に制作された作品であることを示しています。 『風船と少女』の右隣に飾られている『Bomb Love Over Radar』は、『Bomb Love』という作品に赤いレーダーマークが描かれているもので、バンクシーの手によってスプレーでキャンバスに描かれた世界に一つしかない貴重な作品です。 この作品は、世界初公開・初展示ということで、よく目に焼き付けておきましょう! 『花束を投げる暴徒』は、もともとイギリスのマンチェスター市立美術館で10年以上にわたって公開展示されてきた作品で、バンクシーが自ら木製の板にスプレーでペイントした、世界に一つしかない希少性の高い作品です。 『花束を投げる暴徒』ときくと、パレスチナのベツレヘムに描かれた巨大壁画を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。 しかし、この木製板に描かれた作品の方が制作年代が早いのです!花束を投げる暴徒のモチーフの起源となる最初期の作品といわれています。 作品を近くでよく見てみると、板の木目が浮かび上がっているのが分かります。 木目の溝の色が薄くなっており、独特な色合いや質感を演出しているのもぜひチェックしてみてください! 作品鑑賞後もスクリーンを使った楽しみ方がたくさん待ち受けている! 作品を楽しんだ後は、左右と後方のスクリーンに投影されている映像を使った楽しみも待っています! 『風船と少女』の少女になりきれるフォトスポットとなっており、光るパネルに映像が映し出されているため、この前に立って写真撮影すると自分の姿が黒くシルエットのようになります! こちらのフォトスポットで撮影した写真をInstagramにのせると、バンクシーオリジナルグッズが当たるキャンペーンも開催されているため、SNS映えする写真を撮影したらぜひInstagramに投稿して、Tシャツをゲットしましょう! さらに、後方スクリーンには、風船と少女に描かれている赤いハート型の風船がいくつも漂う映像が流れています。 こちらはセンシング技術により、映像上の赤い風船に触れてみると割れて中からカラフルなハートや紙吹雪が飛び出す仕組みになっていました! バンクシーのアートに触れ、一体となる体験を味わえる楽しさがあります。 友人同士でバンクシー展に訪れたら、作品鑑賞を楽しんだ後に映像を使って存分に楽しむのもよいですね!SNS映えする写真もたくさん撮れるのではないでしょうか。 公演時間が終了する直前に、オリジナルステッカーと風船がもらえる引換券をスタッフから渡されます。美術館を出た後は、隣のグッズショップで忘れずに交換しましょう。 バンクシーの映像と作品を楽しんだ後に赤いハート型の風船を受け取ったら、思わず何度も写真を撮りたくなってしまいますね。 「バンクシー展」はグッズもたくさん!お気に入りがきっと見つかる 美術館の隣にあるグッズショップの商品は撮影禁止のため、鑑賞の延長で撮影をしないよう注意しましょう。 ショップ内では、バンクシーの作品がデザインされたさまざまなグッズが販売されていました。 ・クリアファイル ・Tシャツ ・トートバッグ ・ポーチ ・ピンバッジ ・ステッカー ・ボールペン ・フェイスタオル ・ハンドタオル ・ポストカード 当日チケットをレジで提示すると、全商品100円引きになるため、気に入ったグッズがあれば利用してお得に購入しましょう! グッズショップは、白を基調として青色がところどころに使用され、GMOカラーで構成されているのが印象的でした。 視覚と聴覚に訴えかける新感覚の「バンクシー展」! GMOデジタル美術館の「バンクシー展」は、2021年9月5日から開催されており、現在終了日は設けられていません。 2021年から開催されていますが、2023年7月23日にリニューアルされているため、1度訪れたことがある人も、リニューアル後の新しいバンクシー展を体験してみるのもよいでしょう。 映像と音響によりバンクシーの世界観を肌で感じ、アートの世界に入り込むとともに、希少価値の高いバンクシー作品を間近で見られる「バンクシー展」。 バンクシーが好きな人も、あまり知らない人も、誰もがバンクシーの魅力に惹きつけられる、そんな展示になっています! 「バンクシー展」開催情報(GMOデジタル美術館) 『バンクシー展』 場所:GMOデジタル美術館 住所:東京都渋谷区道玄坂1-2-3 東急プラザ渋谷 2F(渋谷フクラス内) Google map:https://maps.app.goo.gl/iFmahHHiR3dqVNAE6 期間:2022年4月13日~ ※終了日未定 公式ページ:https://banksy.tokyo/ チケット:一般・大学生:300円、小中高校生:100円、未就学のお子様:無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.17
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没入感たっぷりの「モネ&フレンズ・アライブ」を体験してきた!<日本橋三井ホール(東京)>
皆さんは、クロード・モネ(1840年-1926年)を知っていますか? 印象派の名前の由来にもなった『印象・日の出』を描いた人物でもあり、印象派の特徴である筆触分割法の生みの親でもあります。色を混ぜたり重ねたりせず、隣り合わせにおくことで、遠くからみると光による色の移ろいが表現されている画期的な方法で、印象派画家の描いた作品の光の表現には思わず見とれてしまいます。 今回は、日本橋三井ホールで開催されている没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ」に行ってきました!映像と光と音と香りで、印象派を知っている人も知らない人も印象派画家たちが作り出した世界観を楽しめる展示となっています。 モネ&フレンズ・アライブは日本橋三井ホールにて開催中 没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ」の東京展は、2024/7/12から日本橋三井ホールにて開催中です! 近年、映像や音を利用した没入型のイベントが増えてきていますが、今回紹介するのは、印象派の面々と作品に焦点をあてた展覧会です。世界的に権威のある展覧会「サロン・ド・パリ」の会場を皮切りにスタートした新しい形の展覧会が、ついに日本にも初上陸しました! 企画・プロデュース・制作を務めるのは、オーストラリアのメルボルンに本社を置く企画制作会社「GRANDE EXPERIENCES」。 「GRANDE EXPERIENCES」は、これまで言葉や国の壁を越えて、33の言語、世界6大陸180都市以上で250回の展示会を開催してきました。 今回の没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ」でも、巨大スクリーンに映し出された印象派画家の作品たちを音や光が演出し、より魅力的にみせてくれて、私たちを印象派の世界に引き込んでくれること間違いなしです! 展示について 会場内はすべて撮影OKで、SNSへの投稿もOKとのことなので、スクリーンに映し出される印象派画家の作品の撮影や、フォトスポットでのおしゃれな写真の撮影をどんどん楽しみ、SNSにアップして展覧会を盛り上げましょう。 初日、当日券の販売もありましたが、販売開始時間が午前11時からでした。その日の混雑状況によって当日券の販売時間が異なったり、中止になったりするようなので、当日券を購入しての鑑賞を予定している方は、事前に公式サイトでチェックしておきましょう。 さっそくチケットを購入して入場すると、エスカレーターで昇ってくださいとスタッフの方に案内されます。 エスカレーターへの道には、印象派画家たちの肖像画が壁一面にどーんと描かれていました! 印象派を代表する面々の肖像画を横目にさっそく会場内に入っていきましょう!エスカレーターで昇っていくと会場順路の案内板があるので、それに従って展示を見ながら進んでいきます。 なお「モネ&フレンズ・アライブ」では、印象派画家が実際に描いた作品の展示はありませんのでご注意ください!映像による演出でたくさんの作品を鑑賞できますが、実際の絵画作品は展示されていません。 印象派を代表する画家たちの紹介 展覧会のはじめには、印象派画家たちの一人ひとりの生い立ちや、作風などの背景を紹介するパネルが並んだ通路があります。 印象派を知っている人も知らない人も、この通路で知識を深めてからメインとなるスクリーン映像をみれば、より楽しめること間違いなしです! 「モネについては知っているけど、スーラのことはあまり知らないかも…」など印象派といってもさまざまな画家がおり、全員について詳しく理解している人は少ないでしょう。 映像を楽しむためにも、ゆっくりじっくり解説をみながら進むのもおすすめです! 通路の途中にも楽しい仕掛けがまっています! QRコードを読み取りアクセスすると、代表作である睡蓮の上で踊るモネのキャラクターのARが出現します!小さなお子さんも一緒に楽しめる魅力的な演出ですね。 さらに通路を進んでいくと、西洋絵画の歴史が時系列ごとに並んだ展示が登場します。 新古典主義から始まり、ロマン主義、写実主義、印象派、アールヌーボー、フォーヴィスム、表現主義と、大まかな歴史を知ることができます。 西洋絵画のスタイルがどのように変化していったのかを知り、印象派がどの時代に盛り上がっていたのかを知ることで、より作品の鑑賞が楽しめるようになります。 印象派画家や西洋絵画の知識を深めたところで、いよいよメインとなる会場に入っていきます! 映像と光と音と香りで楽しむ没入型展覧会 ドキドキとわくわくを抑えながら会場内に入ると…巨大なスクリーンがいくつも設置されていて、入った瞬間からその迫力に圧倒されました! また、会場内では映像に合わせてクラシックが流れており、作品の魅力をより引き立てるとともに、ほんのりとさわやかな香りも漂っているように感じられました。 植物や果実のような香りは、まるで自分たちも印象派画家と一緒に戸外に出て制作風景を間近でみているような感覚を味わせてくれます。 たくさんの巨大スクリーンに次々と映し出されていく印象派画家の作品たち。 一つひとつのスクリーンに別の作品が映し出されているため、どこをみればよいか迷ってしまいました…! 映像と演出は40~50分で1クールとなっていますが、場所やスクリーンを変えて何度も見たくなってしまう魅力があります。 メインとなる横長のスクリーンの前では、多くの人が座って鑑賞を楽しんでいました。 写真からもわかるように、映像が映し出されているのはスクリーンだけではありません! 床にも映像が投影される演出があり、座ってみているお客さんたちの服にも印象派の美しい筆致が映り込み、そこにいる人もあわせて一つの芸術作品をみているような感覚を覚えました!会場内に白い服を着ていけば、洋服にも映像が投影されて幻想的な世界により入り込めるかもしれませんね。 また、スクリーンに映し出される映像には、傷や汚れ、ゴミなどの映り込みがわざと取り入れられており、古い映写機で投影したような映像を楽しめる点も魅力です! また、作品たちが映し出されているスクリーンを横から見てみると厚みがあり、白い布が貼られたような作りになっています。印象派画家たちが使っていたキャンバスをそのまま大きくしたような演出にも感動しました! 作品によって、背景と人物の映像が立体的になっていたり、絵の中の水面が揺らいだりと、絵画の特徴を生かすさまざまな演出が施されていました! 床の映像もスクリーンの映像と連動しており、カイユボットの『ヨーロッパ橋』では、床一面にタイルの映像が映し出されており、まるでパリに瞬間移動したような気分でした。大迫力のスクリーンと絵画にあわせた演出は、何度繰り返しみても飽きないボリュームです。 なお、展示会場は冷房が効いていて少し肌寒く感じられたため、スクリーンの映像をじっくり楽しむなら羽織を1枚もっておくと安心です。 「モネ&フレンズ・アライブ」のみどころ フランス印象派の誕生から150年を迎える特別な年 第一回印象派展が開催されてから150周年を迎える今年、世界中で愛されてきた「フランス印象派」の世界を冒険する没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ」を開催。本展では、社会的にも政治的にも混とんとした時代に生まれた印象派の歴史を紐解きます。 19世紀半ばから20世紀初頭にかけて活躍したクロード・モネや印象派の作品の数々に、力強いクラシック音楽と最新のイマーシブ技術を組み合わせることで、芸術性とエンターテインメント性を兼ね備えた没入体験をお届けします。 光、色、音、香りのなかで、クロード・モネ、カミーユ・ピサロ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、ポール・セザンヌ、エドガード・ドガらの大胆な筆遣いを巨大なスクリーンに映し出し、次々に流れるサウンドに身を委ねることで、印象派の世界の激しさと美しさに心を奪われる体験をお楽しみください。 Snow Manの阿部亮平さんからのスペシャルメッセージ モネ&フレンズ・アライブでは、公式アンバサダーを務めるSnow Manの阿部亮平さんのスペシャルメッセージも楽しめます! 展示会場内の紹介パネルに掲載されているQRコードを読み取り、位置情報をONにすると会場内限定でメッセージを聞けます。 素敵なメッセージを聞きながら印象派の絵画を楽しみたい方は、イヤホンを持参しましょう。 クロード・モネの作品をイメージしたフォトスポット 印象派画家の紹介パネルが並ぶ通路の奥には、フランス・ジヴェルニーにある「モネの庭園」をイメージしたフォトスポットがあります。 鏡張りになっているため、鏡越しに自撮りもできる仕組みになっていました。 SNS映えも狙えるフォトスポットですが、多くの人が写真を撮ろうと並んでいたため、平日の午前など空いている時間を狙っていくと、ゆっくり撮影を楽しめるでしょう。 印象派画家の代表作を香りとともに楽しむ 上映会場を抜けてエスカレーターを下ると、最初のチケットを購入した会場に戻っていきます。 ここでは、今回開催されているモネ&フレンズ・アライブ限定グッズが販売されています。 シャツやソックス、スカーフ、トートバッグなどのファッショングッズも販売されており、さわやかで涼し気な青色をメインカラーにしたデザインが魅力的でした! グッズ販売会場では、手軽に回せるガチャガチャも用意されていました。 印象派の絵画がデザインされたアクリルプレートやミニポーチがもらえるもので、好きな画家や気に入った絵画があれば挑戦してみるのもよいかもしれませんね。 視覚・聴覚・嗅覚を刺激する没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ」 「モネ&フレンズ・アライブ」は、映像と音と光と香りで私たちの感覚を刺激し、感情を揺さぶる大迫力の展覧会でした! 本物の絵画は展示されていませんが、巨大スクリーンならではの魅力がたくさん詰まっています。 巨大スクリーンに映し出されるため、印象派画家それぞれがもつ特有の筆使いが感じられ、たくさんの絵画を紹介してくれるため、それぞれの絵画を比較できる点も魅力に感じました! 個人的には、ロートレック作品の人物の特徴を強調して描くスタイルが、巨大スクリーンによって確認でき、特徴をとらえた表情をはっきりと鑑賞できたのがうれしかったです。 「モネ&フレンズ・アライブ」が開催されているコレド室町では、各店舗でコラボメニューが発売されています。 ボリューム満点の展覧会を鑑賞したあとに一息つきたい人や、友人と感想を伝えあいたい人は、さらに「モネ&フレンズ・アライブ」の雰囲気を味わえるコラボ店で食事をしながら余韻に浸るのもよいでしょう。 「モネ&フレンズ・アライブ」開催情報 『モネ&フレンズ・アライブ』 場所:日本橋三井ホール 期間:2024/7/12~2024/9/29 公式ページ:https://monetalivejp.com/tokyo/ チケット:一般 3000円、高大生 2000円、小中生1500円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.17
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パリに行きたくなる「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」レポ!<SOMPO美術館(東京)>
皆さんは、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864年-1901年)と呼ばれる画家を知っていますか? フランスの画家であり版画家のロートレックは、17歳ごろに画家になると決心し、その後はパリでポスター作家として名を広めていきました。 ロートレックは、パリのモンマルトルにアトリエを構え、その街で生きる歌手や芸人、娼婦などを多く描き、素早い描線と大胆な構図により、多くの人を魅了してきました。 また、ロートレックの作品はパリのモンマルトルで生きる人々を中心に描いているものが多いため、鑑賞しているとまるで自分が19世紀末の世界に入り込んだように感じてしまいます! 作品から当時のパリの様子が鮮明にイメージされ、あのころのパリに行ってみたいと思わせてくれます。 今回は、そんな19世紀末のパリ・モンマルトルのにぎわいを体感できる「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」に行ってきました! 新宿駅西口から徒歩5分ほどのSOMPO美術館にて開催中 「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」は、2024年06月22日(土)~09月23日(月)の期間で開催されています。 ロートレック作品の中でも、特に個人コレクションの紙作品に焦点をあてた展示会で、世界最大級のフィロス・コレクションから、約240点が展示されている大ボリュームの展示会です! SOMPO美術館近くの交差点には、ロートレック展のポスターと美術館への案内が表記された看板が。 もともとポスターとして制作されていた作品であるため、展示会の宣伝用ポスターとして利用されていても違和感なく、ぴったりマッチしていますね。 こちらの看板が見えたら美術館はすぐそこです! SOMPO美術館入口横にも同じ作品を採用したポスターが貼られています。 先ほどのポスターとは微妙に違っており、展示会に入る前からロートレック作品の汎用性の高さに驚かされました! また、入口の少し手前にはゴッホのひまわりも飾られています。 ロートレックとゴッホの関係性については後述していきます! 入口入ってすぐ左側には鍵付きのロッカーが用意されており、無料で利用できるのがこの美術館のポイントです! ロートレック展は3~5階フロアをまたいで展示が行われているため、荷物が多い人はロッカーに預けて軽装で鑑賞するのがおすすめです。 チケットを購入したら、エレベーターを使って5階まで上がるよう案内されます。ロートレック展の順路は、5階・4階・3階と下っていくパターンのため、ご注意ください。 大充実の「ロートレック展」。100年以上前の作品も新しく感じる、インパクト大な作品ばかり ロートレック展は、画家としての初期の作品から晩年の友人や家族とのやりとりの様子まで、5つの章に分かれて展示が行われていました! ロートレックが活躍した時代とテーマを順番に鑑賞でき、まるでロートレックの人生に入り込み、辿るかのように楽しめます。 なお、ロートレック展では、写真撮影OKの作品とNGの作品がそれぞれ存在します。 写真撮影がOKな作品には、飾られている場所にカメラアイコンのプレートがかかっているため、その場所のみで撮影を行いましょう! また各フロアの入口には撮影に関するルールが記載された立て看板が設置されているため、よく内容をチェックしてから撮影を行ってくださいね。 第1章:素描 ロートレックは、ポスター作品が有名ですが「線の画家」とも呼ばれています。印象派で、騎手やバレエ・ダンサーの動きを明確な線でとらえた画家エドガー・ドガに影響を受けており、2人とも生きた時代をありのままに描くスタイルを持っていました。 素描は、鉛筆、ペン、木炭などモノクロの描線でシンプルな構成が特徴。 ロートレック展では、線の画家のありのままの視線で作品を鑑賞し、ロートレックが何を見てどのように感じたかがわかるのではないでしょうか。 入り口を入ってすぐ左には、少年時代のロートレックや家族、過ごした城などの写真も展示されており、ロートレックという人物と人生を除き見ながら作品を楽しめます。 素描の展示会場では、白い壁に横長の赤いタイルを貼り付け、そこに鉛筆で描かれた作品が額縁に入れられ飾られていました。 赤い壁とモノクロの作品のコントラストにより、鉛筆で描かれた作品がより引き立って見えます。 ロートレックは、初期のころ馬や犬などの動物を多く描いており、素描でありながら躍動感のある動物や、騎手と馬の一体感などに目を奪われました。 展示の流れが動物から人物に変化していく様子も楽しめるのではないでしょうか。 第2章:ロートレックの世界 かつて、パリのモンマルトルは田園風景の広がる街でしたが、1880年以降は、カフェやコンセール、ダンスホールなどが立ち並ぶ大歓楽街に。 ロートレックもキャバレーやダンスホールに通いつめ、歓楽街とそこで生きる人を繰り返し描きました。 キャバレーのムーラン・ルージュや自由劇場、制作座など、モンマルトルを代表する劇場にて活躍していた女優や芸人の様子を描いたロートレック。彼の作品を通して、当時ロートレックを取り囲んでいた華やかな世紀末のパリに入り込んでいきましょう。 『メアリー・ハミルトン』 『メアリー・ハミルトン』 リトグラフ/44.0×32.0cm メアリー・ハミルトンは、男装で知られたイギリス出身の芸人です。 当時、表向きは女性の男装が禁じられていた時代ですが、演劇や興行の世界では女優が男性役を演じることが多々ありました。金色・黄土色のような色合いで描かれているのが特徴的で、男装であり本当の男性ではないため、体つきは女性らしく描かれているように感じられました。 作品を鑑賞しながら、この女性はどのような役を演じ、どのような作品を作り上げていたのか想像し、劇を観てみたいなと思わせてくれる作品です。 『ジュディック』 『ジュディック』(1894年) ペン・インク/紙/38.0×28.0cm この作品では、歌手で役者のジュディックが楽屋でコルセットをつけてもらっている場面が描かれています。 背景の上部が黒く塗り重ねられており、薄暗い影のような雰囲気が、普段は見られない舞台裏の様子を除き見ているような表現に感じられました。 作品そのものだけではなく、描かれた人物のストーリーにまで想像を膨らませられるのがロートレック作品の魅力といえるのではないでしょうか。また、普通だったら、このような舞台の裏側を描かれるのを嫌がる演者も多いのでは?と思いました…! しかし、そこはロートレックの人柄によって、さまざまな人々の普段は知ることができない貴重な姿を描けていたのかなと感じられますね。 『イヴェット・ギルベール』 『イヴェット・ギルベール』(1893年) 水彩/紙/23.0×12.6cm イヴェット・ギルベールは、当時一世風靡した歌手で、大胆な歌詞を語るように歌う歌唱法から「語り手(ディズーズ)」とも呼ばれました。 ロートレックは繰り返し彼女を描いており、薄い唇や隆々とした鼻を強調して描き、ときにはギルベールの不興を買うこともあったそうです。 ロートレックは、1894年に出版された版画集の挿絵を担当し、その下絵としてさまざまなポーズのギルベールを描いていますが、この作品のギルベールは、堂々とした佇まいで、自信に満ち溢れた表情が印象的でした。 顔は特徴を強調して描かれていますが、あまり違和感などはなく、その立ち姿や自信を感じさせる雰囲気に思わず見惚れてしまいました。 『キャバレのアリスティド・ブリュアン(文字のせ前)』 『キャバレのアリスティド・ブリュアン(文字のせ前)』(1894年) リトグラフ/127.3×95.0cm この作品は、ブリュアンのキャバレー「ミルリトン」の宣伝用ポスターとして制作されたもの。本来は、宣伝ポスターのため文字が載せられていますが、こちらは文字情報を入れる前の貴重な刷りです。 後ろ姿で少し振り向き加減の姿勢と、余裕のある笑みが男前なかっこよさを感じさせてくれますね。手に持っている木の棒が何か分からず調べたところ、ブリュアンがシャンソンを歌う際にリズムを取るための道具だそうです! 5階から4階へ下る際に階段を利用する方は、階段の壁面に貼られたロートレック作品のステッカーにも注目してみてください! 作品の展示だけではなく、移動中もロートレックの世界観から抜け出さないよう工夫が凝らされていました。 こちらの自動ドアの向こうには、またロートレックの作品が展示されています。 第3章:出版 ロートレックが版画を提供した出版メディアの層は幅広く、風刺週刊誌『ラ・リール』、書籍『博物誌』、版画雑誌『レスタンプ・オリジナル』、美術批評雑誌『ラ・ルヴュ・ブランシュ』など多岐にわたります。また、愛好家向けの出版では、自ら描いたオリジナル版を利用して、少ない数の部数を出版していたそうです。 第3章では、出版物に関連した作品をまとめて展示しています。 『ラ・ルヴュ・ブランシュ』誌のためのポスター 『ラ・ルヴュ・ブランシュ』誌のためのポスター (1895年) リトグラフ/125.5×91.2cm 先ほどのフロア入口ポスターに採用されていた作品です。 1889年にリエージュで創刊された『ラ・ルヴュ・ブランシュ』は、1893年以降から芸術家による描きおろしの版画が掲載されるようになり、ロートレックも参加するようになりました。宣伝ポスターであるこの作品には、編集長タデ・ナタンソンの妻ミシアがスケートをする様子が描かれています。 解説にスケートする姿と書かれていますが、肝心の足元が描かれていないのが印象的で、もともとは全身が描かれていたのですが、モデルを強調するためにトリミングされたためだそうです。 作品を近くでよく観賞してみると、顔周りにドットが見受けられ、透明なベールを被っている高貴な夫人の印象をもたせてくれているように感じられました。ダチョウの羽で飾られた帽子や、黒の水玉模様のドレス、毛皮のストールなど、夫人の豪華な装いから、当時の暮らしぶりなどもうかがえますね。 第4章:ポスター 第4章では、ロートレックの代名詞ともいえるポスターの作品をまとめて展示しています。本来、ポスターは屋外に掲示される作品のため、多くが破損したり変色したりしてしまい、オリジナルの状態を維持するのが難しいといわれています。今回のロートレック展では、フィロス・コレクションの中からより状態のよいものを厳選し、第三者が文字入れを行う前の貴重なポスターを展示。ロートレックが制作したオリジナル作品に近い状態のポスターを鑑賞できる貴重な機会ですね! 3階フロアへ下る階段にも、ロートレック作品のステッカーが貼られており、ボリュームたっぷりな展示会で歩き疲れてしまった人の心を癒してくれます。 3階フロアの入口にはロートレック展の大きなポスターが飾られています。こちらも写真撮影は可能なため、ぜひ休憩がてら撮影してみてください! 『ジャヌ・アヴリル『ポスター傑作集』』 『ジャヌ・アヴリル『ポスター傑作集』』(1895年) リトグラフ/34.5×27.0cm こちらの作品は、ジャヌ・アヴリルがシャンゼリゼの「ジャルダン・ド・パリ」に出演した際のポスターです。 足を手で大きく持ち上げた大胆なポーズが印象的で、手前に大きく描かれた演奏家の楽器がポスターを縁取っているのがおしゃれで印象に残りました! 手前の演奏家は大きく描かれていますがモノクロで、アヴリルのオレンジのドレスと黄色のヘアカラーがより際立って魅力的に見えました。 舞台上のアヴリルに惹かれたロートレックは、彼女をモチーフにした作品をいくつも手がけています。2人は親友であり、熱い信頼関係があったといわれています。 『エグランティーヌ嬢一座』 『エグランティーヌ嬢一座』(1896年) リトグラフ/61.7×80.4cm この作品は、ロンドンのパレス劇場出演にあたって、エグランティーヌ嬢一座の一人、ジャヌ・アヴリルがロートレックに依頼したポスターです。 シャユ踊りの様子を描いた作品で、左からアヴリル・クレオパトル・エグランティーヌ・ガゼルが横並びで踊っている様子が描かれています。一番奥のアヴリルだけ足の角度が異なるようにも見えるのが印象に残りました。 また、一番手前のガゼルにほかの3人が視線を向けているようにも見え、ショーの中で観客を盛り上げながらも、しっかりと踊りを合わせているようにも感じられますね! 華やかな舞台上の姿だけではなく、努力の瞬間を捉えているのも、ロートレック作品の魅力といえるのではないかと思いました。 『アルティザン・モデルヌ(文字のせ前)』 『アルティザン・モデルヌ(文字のせ前)』(1896年) リトグラフ/93.0×65.0cm パリ市内に10店舗を構えている室内装飾会社の宣伝用ポスターで、病床の婦人の往診にやってきた医師の手には道具箱とハンマーが握られています。 メイドさんが医師の手元を見て戸惑っているような表情をしており、そのメイドに対して睨みのような視線を送る医師の構成が、ユーモアがあって思わず笑みがこぼれました! 少しクスっと笑えてしまう作品も展示されており、ロートレック作品に詳しくなくとも、飽きずに展示を楽しめるのではないでしょうか。 第5章:私的生活と晩年 伝統ある貴族の家系に生まれたロートレックは、パリのモンマルトルにアトリエを構え、多くの仲間とともに画家人生を送りました。 第5章では、ロートレックがプロデュースした食事会のメニューカードや展覧会の招待状、家族や友人に宛てた手紙など、芸術家ロートレックではなく、人間ロートレックに焦点をあわせて作品を展示しています。 また、晩年は初期のころによく描いていた馬や動物を主題にした絵も再び描いています。 展示場のラストには、フィンセント・ファン・ゴッホの『ひまわり』が展示されていました。 ロートレックとゴッホは、どちらも後期印象派の画家かつ早描きという共通点を持っています。 ゴッホの方が11歳年上でしたが、2人とも浮世絵をはじめとした日本文化に関心を持ち影響を受けていることもあり、すぐに意気投合したそうです。そして、ゴッホに南フランスのアルルへ移住するよう勧めたのもロートレックであるといわれています。 「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」のみどころ 約240点の作品が展示されているボリューム満点なロートレック展をより楽しむために、展示会の見どころを紹介していきます! 世界最大級の紙作品コレクションが日本初上陸 フィロス・コレクションは、ロートレックの紙作品コレクションとしては、パリの国立美術館であるルーヴル美術館、フランス南部のアルビにあるロートレック美術館に次ぐ規模を誇る作品群です。 そのフィロス・コレクションが日本に初上陸。 ポスター制作で有名なロートレックは、生涯で約30点のポスターを制作しており、そのうちの21点が、このロートレック展に出品されています! 素描とポスター作品がメインのため、油彩画が好きな方にとっては少し物足りなさを感じるかもしれません…。 しかし、ロートレックのポスター作品を一目見ておきたいと思っている方は、ぜひ展示会に足を運んでみてください!一部のポスターは写真撮影がOKのため、自宅に帰ってからも余韻に浸りたい方は、撮影スポットを逃さないようにしましょう。 簡易的なスケッチから完成品までさまざまな作品を展示 SOMPO美術館で開催中のロートレック展では、完成した作品だけではなく、何気ない簡単なスケッチまでも展示しています。 シンプルな素描を約45点も展示しており、仕事として制作を行う一面だけではなく、ロートレックが普段から絵や芸術にどのように向き合っているかを素描から想像してみるのもよいのではないでしょうか。 素描作品からは、ロートレックの素早い描線を間近に感じられ、線の魅力をより深く味わえます!素描は、版画とは異なり1点物の作品であり、そのような肉筆作品からロートレックがどのような光景を見ていたのかが感じ取れるのではないでしょうか。 また、作品だけではなくロートレックとその家族の写真や、晩年、知人や母親に宛てた手紙も公開されており、ロートレックという人物についてより理解を深めていける展示になっています。ロートレック展では、一つひとつの作品の魅力を堪能するだけではなく、ロートレックの真の姿を追求してみてください。 19世紀パリの歓楽街の雰囲気を堪能できる 1880年以降、パリのモンマルトル周辺には、カフェやコンセール、ダンスホールなどが立ち並び、大歓楽街として賑わいを見せていました。ロートレックはモンマルトルに住み、キャバレーやダンスホールに通いつめ、歓楽街の様子やそこで生きる人々を多く描いています。 劇場で活躍する歌手や芸人、歓楽街で働く娼婦たちの姿を描いたロートレックの作品を通して、当時の華やかなパリの雰囲気を味わえるのではないでしょうか? 有名なポスターだけではなく、豊富な関連資料も展示されており、かつてパリの街を彩ってきたさまざまな人々の姿が思い浮かぶだけではなく、展示物を通して人々がどのような時代でどのように過ごしていたのかが体感できます! 日本美術に影響を受けたであろう作品も鑑賞できる 立体感を重視するこれまでの西洋画とは正反対に、日本の伝統的な絵画「浮世絵」は、平塗りで立体感がない手法であるにもかかわらず絵そのものには、大きなインパクトがありました。 ポスター制作をしていたロートレックは、作品を際立たせる浮世絵の手法に強い衝撃を受け、技法や構図を参考にしたといわれています。ロートレック展で展示されている作品からも、浮世絵の影響を垣間見れるものがいくつかあります。 『エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて』 『エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて』(1892年) リトグラフ/138.0×96.0cm こちらの作品は、アリスティド・ブリュアンが舞台『エルドラド』に出演する際にロートレックへ制作を依頼したポスターです。 この作品のブリュアンの表情には、浮世絵師「写楽」の描く歌舞伎役者の面影が見え隠れしているように見えないでしょうか?曲がった口元や誇張された表情などが、写楽の描く浮世絵に似ているように感じられます。 浮世絵の影響を受けていると想像して改めて見てみると、右手に持っている木の棒が刀にも見えてきますね! 『ディヴァン・ジャポネ』 『ディヴァン・ジャポネ』(1893年) リトグラフ/80.8×60.8cm この作品は、日本風の装飾が施された「ディヴァン・ジャポネ」の宣伝用ポスターで、ディヴァン・ジャポネとは「日本の長椅子」を意味しています。 大胆な構図や平面的な色彩は、日本の浮世絵から影響を受けているのではと感じさせてくれますね。 ポスターからお菓子までさまざまなジャンルのグッズを販売 展示会場を出るとグッズ売り場に移動します。 なお、展示会場を出てグッズ売り場に入ると、展示会場への再入場はできませんので「あの作品をもう一度見たい!」と思っている方は、うっかりグッズ売り場に移動しないようご注意ください。 上記のポスターがある通路の、グッズ売り場に入る手前のドアにも注意書きがありますので、見逃さないようにしましょう。 グッズ売り場では、さまざまなジャンルのロートレックグッズが販売されていました。お菓子、クリアファイル、グラス、マグネット、ブックマーカータオル、ポストカード、など。 ロートレック作品がデザインされた数々のグッズはどれも魅力的で、お気に入りのデザインが採用されているものを見つけるのも楽しみの一つですね!缶バッジやキーホルダーのガチャガチャも置いてありました。 また、複製技法の一つ、ジクレーにより制作された商品も販売されています。額縁に入れられ壁面に飾られており、展示会を見終わった人なら改めて鑑賞して見たくなってしまいます! 1点数万円以上と、ほかのグッズよりも少し高めの価格設定ですが、本物のポスター作品を飾っているような感覚が味わえるため、「印象に残り頭から離れない…!」という作品に出会った方は、購入を検討するのもよいですね。 関連企画:新宿のムーラン・ルージュー大衆劇場と美術 関連企画として「新宿のムーラン・ルージュー大衆劇場と美術」も開催されており、グッズ売り場奥にて、映像を上映しています。 日本におけるレビューなどの劇場文化と近代美術の交流、また新宿での展開について紹介されていますので、興味がある方は館内を後にする前に観賞してみましょう。 19世紀末のパリの劇場をイメージさせてくれる展示会 素描からロートレックの代名詞であるポスター作品、晩年の手紙まで、作品の素晴らしさだけではなく、芸術家ロートレックがどのような人物であるのかをイメージさせてくれる展示会でした! また、パリ・モンマルトルでのできごとを中心にたくさんの作品を鑑賞し、19世紀末に存在したパリの繁華街の情景をイメージさせてくれます。 素描作品が多いため、油彩画の展示会よりは落ち着いた雰囲気ですが、ロートレックという人物を深く理解したい方にはおすすめの展示会ではないでしょうか。ロートレック展は、9月23日(月)まで開催中です。 「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」開催情報(SOMPO美術館) 「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」 場所:SOMPO美術館 期間:2024年06月22日(土)~09月23日(月) 公式ページ:https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2023/lautrec/ チケット:当日券 一般 1800円 大学生 1200円 小中高校生 無料 障がい者手帳をお持ちの方 無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.16
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100点以上の作品が集結した大迫力のデ・キリコ展レポ!<東京都美術館(東京)>
形而上絵画「デ・キリコ展」 皆さんは、ジョルジョ・デ・キリコという画家を知っていますか? イタリアの画家・彫刻家であるデ・キリコは、形而上絵画を創始した人物でもあります。 画家の名前は知らなくてもこのポスターの絵を見たことがある人も多いのではないでしょうか。 また、デ・キリコの絵画は、なぜか胸がざわざわと不安になるような印象を受けるのは私だけでしょうか? インパクトの強い色合いでありながらどこか薄暗く、人気のない広場、長く伸びる影、表情のない無機質なマヌカン(マネキン)などは目を離せなくなるような不安を煽ってくる気がします。 今回は、そんな“どこかありえない”“何かが違う”違和感がざわざわと押し寄せるデ・キリコの世界観を体感できる「デ・キリコ展」に行ってきました! デ・キリコ展は、1926年、日本初の公立美術館として開館した東京都美術館にて開催中です! 2024年4月27日(土)〜8月29日(木)まで東京都美術館で開催したのち、9月14日(土)〜12月8日までは神戸市立博物館で開催しているため、関西地方お住まいで、都内まで観に行けるタイミングがない…と思っている方も安心です。 神戸で開催されるタイミングで、ぜひ鑑賞しに行きましょう! 東京都美術館がある上野公園周辺は、海外観光客で賑わっていました。 公園内で 絵を書いたり、見たこともない楽器で音楽を奏でていたり、さまざまなアーティストがパフォーマンスを行っていて、これから芸術に触れる人々の気持ちを高めてくれます! チケットは入り口を入って右側のチケットカウンターで販売されています。窓口でのチケット販売は、JCBカートが使えないため注意してください。 100点以上の作品が展示されているということで、気合を入れていざ入場します! なお、入口では音声ガイド機のレンタルを行っていました。 貸出料金は1台650円で、役者・ムロツヨシさんのナレーションによりデ・キリコの世界観により没入して楽しめますので、気になる方はぜひレンタルしてみましょう! 「デ・キリコ展」は5つのSectionで様式の異なる作品を展示 デ・キリコ展では、彼が生涯で制作した作品を、5つのSectionに分けて紹介していました。 入口すぐには、作家紹介や駐日イタリア大使ジャンルイジ・ベネデッティ、ジョルジョ・イーザ・デ・キリコ財団理事長パオロ・ピコッツァからのメッセージなどが展示されています。 デ・キリコ展では、代表作から個人のコレクター、諸財団、イタリア国内や他国の美術館から貸し出された作品を複数の時代に区分して展示しており、国境も世代も越える不朽の美しさがあると紹介されており、日伊の交流を深めるものになる作品展であるとしています。 section1:自画像・肖像画 デ・キリコといえば、形而上絵画を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか? しかし、制作数は少ないですが、自画像や肖像画も描いています。 展示会では9点の自画像・肖像画が展示されていました。その中でも、印象に残ったいくつかの作品を紹介していきます! 『自画像』(1922年頃) 『自画像』(1922年頃) 油彩/キャンバス/38.4×51.1cm/トレド美術館(アメリカ) デ・キリコが古典絵画に傾倒していたころに描かれた作品で、古典彫刻風なタッチが特徴的です。 自分自身を理想化した作品で、古代彫刻を学んだ過去の巨匠たちのように、歴史と対話して制作する画家としての自分を描いています。 この作品ともう2枚の肖像画が同じ壁面に等間隔で横並びに飾られていたのですが、どの角度から見ても、3つの自画像に見つめられているような、不思議な感覚がありました。 まるで絵画の中のキリコたちが、自分の展示会を見にきた私たちを見定めているみたいですね。 『17世紀の衣装をまとった公園での自画像』(1959年) 『17世紀の衣装をまとった公園での自画像』(1959年) 油彩/キャンバス/154×100cm/ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団(ローマ) この作品では、当時の前衛芸術家が排除した、衣装をまとったバロック的な肖像画が描かれています。 いびつな遠近法で、遠くの背景を極端に小さく描き、真ん中に描かれた自身を大きく強調しており、これは、形而上絵画から古典回帰したデ・キリコを批判してきたシュルレアリストをはじめとした 芸術家や批評家への挑戦状とも受け取れました。 この作品から、デ・キリコは、流行に飲み込まれず自分自身の感性と表現を大切にしていた画家であると感じられました。 上記の作品の隣には、1968年、ローマの自宅サロンで自画像の前に座るキリコの大きな写真も展示されています。芸術家や批評家に対する挑戦的な絵画の前に座るキリコは堂々たるもので、自画像のキリコと本人のその鋭い視線が、批判に負けず自分の信じる絵を描き続けた強さを物語っているように感じられました。 Section2:形而上絵画 Section2は、デ・キリコの代名詞「形而上絵画」の作品を存分に楽しめる空間になっていました。 初期の形而上絵画は、イタリアの広場に着想を得ている作品が多く、デ・キリコがミラノでみた大きな塔がいくつもの作品に登場しています。 『大きな塔』(1915年頃) 『大きな塔』(1915年頃) 油彩/キャンバス/81.5×36cm/個人蔵 この作品は、デ・キリコがパリに行く途中に訪れたトリノのモーレ・アントネッリアーナと呼ばれる巨大な塔に着想を得ています。 まっすぐにそびえたつその塔は、迫力があるのに影の差し方により、夕方や朝方の静けさを感じさせ、どこか哀愁のようなものがありました。 キリコの多くの作品は、人類が滅びさまざまな建築物だけが世界に取り残されてしまったかのような、近未来的なイメージと寂しさが混在したような雰囲気を感じさせてくれます。 この作品に描かれている塔は、ほかの作品にもたびたび登場しているので、展示会に行く際はチェックしてみてくださいね! 『バラ色の塔のあるイタリア広場』(1934年頃) 『バラ色の塔のあるイタリア広場』(1934年頃) 油彩/キャンバス/46.5×55cm/トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館 この作品は、初めて売れた『赤い塔のあるイタリア広場』を20年経ってデ・キリコ自身が再制作した作品です。 なぜ昔の作品をもう一度描いたのか気になりますよね。 この作品は、友人に頼まれて描いた作品とされています。構成は昔の作品と同じですが、技法は1930年代の色調や軽妙な筆さばきが用いられており、昔の作品を一度鑑賞してから見てみるのも良さそうですね。 『沈黙の像(アリアドネ)』(1913年) 『沈黙の像(アリアドネ)』(1913年) 油彩/キャンバス/99.5×125.5cm/ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館(デュッセルドルフ) アリアドネは、デ・キリコが好きな哲学者ニーチェの詩から着想を得たモチーフ。 手前に描かれているアリアドネが圧倒的な大きさで描かれており、後ろの塔がとても小さく描かれています。このころから、形而上的室内構図がより目立ってきたことが分かります。 Section2-2では、形而上的室内の作品が展示されています。 これまでイタリアの広場をモチーフにした作品を多く描いてきたデ・キリコですが、1914年、第一次世界大戦勃発後からは、モチーフが広場から室内に変化していきました。 2-2のはじめの方の壁に穴があり、ふと穴の向こうを覗いてみると2-1の『バラ色の塔のあるイタリア広場』が見え、まるで室内の窓からイタリアの広場を眺めているような感覚になれます。 展示会の空間全体を楽しみつつ、ここからは形而上的室内作品で印象に残ったものを紹介していきます。 『運命の神殿』(1914年) 『運命の神殿』(1914年) 油彩/キャンバス/フィラデルフィア美術館 このころのデ・キリコ作品は、遠近法が極端に破綻しており、空間の認識が難しい作品が多く制作されています。 この作品では、古文書から着想を得た古代文字と現代の速記符号が同じ絵の中に描かれており、古代性と現代性の融合を感じさせてくれます。 さまざまなモチーフが混在して描かれている作品が多く、まるでドラえもんの四次元ポケットに入り込んでしまったような感覚になります。 『「ダヴィデ」の手がある形而上的室内』(1966年) 『「ダヴィデ」の手がある形而上的室内』(1966年) 油彩/キャンバス/ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団(ローマ) 過去のモチーフを融合させた新形而上絵画作品です。 室内画のモチーフと、窓の外にはイタリア広場の建物や塔が見えます。 ほかの作品を一通り鑑賞した後にもう一度見てみると、デ・キリコがこれまで描いてきたモチーフがたくさん盛り込まれていることに気付けてより楽しめます! この作品で印象的な引用・複製・差し込みは、当時流行ったポップアートを取り入れているのです。 そして続くSection2-3では、マヌカン(マネキン)をモチーフにした作品が展示されています。 古典的な彫像とは違い、マヌカンには何もなく戸惑いや無力感のような印象をもちます。 『予言者』(1914年) 『予言者』(1914年) 油彩/キャンバス/ニューヨーク近代美術館 この作品は、マヌカンを描いた最初期の代表作です。 これまでの形而上絵画でモチーフとなった神殿やレンガ塀、彫像の影なども描かれ、イーゼル前で熟考するマヌカンは、自身と世界の観察者・予言者を重ねているそうです。 このマヌカンモチーフの作品は、よく目に焼き付けておきましょう! この作品を覚えておくと、展示会場を出てからもキリコの世界観をより楽しめます。 『南の歌』(1930年) 『南の歌』(1930年) 1925年以降、デ・キリコはシュルレアリスムと交流を深めるようになり、再び形而上絵画を描くようになりました。 この作品は、柔らかい質感や細かい筆致からルノワールの影響が見え隠れしています。 ほかの代表的なデ・キリコ作品と見比べてみると、筆致が大きく異なっているため、人から受ける影響がこんなにも絵画作品に反映されるのかと感心してしまいました。 さらに、デ・キリコ展では、絵画作品だけではなく彫刻作品も展示されています。 デ・キリコは、美しい彫刻は常に絵画的であると語っていたそうです。 彫刻の展示スペースでは、照明が上から当たっており、影も作品の一つとして鑑賞できる楽しさがありました。デ・キリコ展を見に行く際は、ぜひ作品のシルエットも鑑賞してみてください! Section3:1920年代の展開 Section3では、1920年代に制作された作品に焦点を当てて展示が行われていました。 『神秘的な考古学者たち(マヌカンあるいは昼と夜)』(1926年) 『神秘的な考古学者たち(マヌカンあるいは昼と夜)』(1926年) マヌカンの胴に、古代建築の要素が描かれているのが印象的な作品。また、座像の上半身を大きく描き、下半身を小さく描く手法で、荘厳さや威厳を表現しているそうです。 逆三角形の筋肉質な体型ですが、描かれているマヌカンには温かみがなく無機質で、不穏な空気を感じさせてくれます。 『谷間の家具』(1927年) 『谷間の家具』(1927年) デ・キリコが幼いころ過ごしたアテネでは、地震があると家具を外に持ち出していました。 この作品は、そのときの様子から着想を得ている作品。 通常とは異なる空間にモチーフを配置し違和感を与えるデ・キリコ特有のスタイルが前面に表れており、受け取る側に不安感を抱かせ、途方に暮れさせようとしているかのようで、胸をざわつかせてくれるこの感覚に魅力的を感じました。 Section4:伝統的な絵画への回帰 ボルゲーゼ美術館でみたティツィアーノの絵に感化されたデ・キリコは、伝統的な絵画へ回帰した作品も多く制作しています。 『鎧とスイカ』(1924年) 『鎧とスイカ』(1924年) 武具と果物と、同じ空間にあることに違和感のある2つのモチーフを組み合わせた作品です。 バロック絵画を彷彿とさせるスタイルで、無時間性を見いだしています。 武具とスイカが転がっている様子は退廃的ですが、その一方で、空の色が優しく温かみのある印象も受けました。 夕焼けのような朝焼けのような雰囲気があり、戦いが終わったあとの静けさがより一層際立って感じられました。 割れて転がっているスイカは、背景に描かれた首のない彫像の頭部なのかな?とも想像させられてしまいます。 デ・キリコは、舞台美術も手がけており、この経験が絵画の舞台構成にも影響を与えました。 ロシアのバレエ団、バレエ・リュスのバレエ作品『プルチネッラ』の衣装を手がけています。 衣装の展示スペースでは、バレエの舞台をイメージした空間が組み立てられており、展示スペースに段差をつけて舞台に見立てて、壇上にはデ・キリコが手がけた衣装を着たマネキンが飾られていました。 舞台の両脇には赤色のカーテンが架けられており、バレエの舞台を彷彿させるような工夫が凝らされていて、バレエ大国ロシアの力強い動きの中に華やかさのあるバレエの舞台を想像させてくれる演出が印象的でした。 Section5:新形而上絵画 Section5では、記憶の中にあるモチーフを解体し組み立て再構成していく新形而上絵画作品が展示されています。 『城への帰還』(1969年) 『城への帰還』(1969年) 過去作品の要素を再発見し、生き生きと作り替えていった作品です。 ジグザグな騎士の黒い影が印象的で、その姿はまるで勝ち目のない戦いへ赴くようでした。黒く塗りつぶす表現方法により、まるで影絵を鑑賞しているような感覚も味わえました。騎士が黒いだけではなく、全体的に色彩を使わずモノトーンで描かれているため、木炭画のような印象も受けます。 黄色く輝く三日月の明かりがより一層、影の騎士の寂しさを強調しているように感じられました。 『闘技場の剣闘士』(1975年) ラストを飾るこの作品は、壁面がアーチ状にくり抜かれ、大きな額縁に見立てて飾られているのが印象的でした。 キリコがよく描いていたアーチ状のモチーフと剣闘士の絵をラストに持ってきたのは、生涯自分の芸術を貫き、批判をものともせず戦い、描き続けてきたキリコ自身を表現しているかのようでした。 「デ・キリコ展」のみどころ 東京都美術館で開催されているデ・キリコ展はみどころが満載です! 作品数が多く満足感があるのはもちろん、展示方法にも工夫が凝らされているため、デ・キリコの世界観に入り込んで鑑賞を楽しめます。 デ・キリコが見ていた景色を楽しめる デ・キリコ展は、美術史家のファビオ・ベンツィが監修しています。 展示会場は、デ・キリコのもつ世界観と作品をより一層引き立たせる空間になっており、まるで自分自身がデ・キリコになったかのような目線で作品を楽しめます。 入口を入ってすぐからキリコがよく描いているアーチ状に開いている空間があり、そこから奥の絵画が鑑賞できるようになっており、窓の外からデ・キリコのアトリエを覗き込んでいるような気分を味わえました! 彼が描き続けたアーチ状のアーケードから、デ・キリコが数々の作品を生み出したこの部屋を覗き見できる不思議な体験は、彼の創作意欲を垣間見ることができると同時に、私自身もデ・キリコの絵画の世界へ迷いこんでしまうような錯覚を覚えるほどです。 それぞれのSectionごとに壁紙の色や額縁のデザインが異なっていたり、壁の高さが異なっていたりと、形而上絵画を思わせるいびつな空間が展示場全体に広がっていました! 形而上絵画スペースでは、展示室の後ろにベンチがおいてあり、遠くから見るとより絵画が歪んで見え、デ・キリコが制作するときにイメージしていた世界観をより体感できるのではないでしょうか。 デ・キリコ展はボリューム満点のため、休憩がてらベンチに座り、違う角度から作品を鑑賞してみるのもおすすめです! 初期から晩年まで100点以上の作品が展示 デ・キリコ展では、初期から描き続けた自画像や肖像画、デ・キリコを有名にした形而上絵画、西洋絵画の伝統的なスタイルに回帰した作品、そして晩年再度描き始めた新形而上絵画など、デ・キリコの生涯を辿るかのように作品を楽しめるのが醍醐味です! 世界各国の美術館や博物館、財団、個人のコレクションまで、あらゆる場所から集まった100点以上の作品を鑑賞できる大迫力の大回顧展です。 デ・キリコの代名詞「形而上絵画」が充実 デ・キリコ展では、初期の形而上絵画も多く展示されています。 サルバドール・ダリやルネ・マグリットなどをはじめとした、のちに活躍をおさめた多くの画家に衝撃を与えた1910年代の形而上絵画もじっくり鑑賞できます。 作品数が多いため、時代の移り変わりによって形而上絵画がどのように変化していったのかも楽しめますね! 普段は、世界各国で所蔵されている初期作品が一堂に集結する機会はなかなかありません。初期作品をまとめて間近に鑑賞できる貴重な機会をぜひ逃さず、デ・キリコ展に訪れてみてください。 彫刻や舞台芸術など絵画以外の作品も充実 形而上絵画で名を広めたデ・キリコは、絵画以外にも彫刻や舞台芸術など、さまざまな創作活動を行っていました。 デ・キリコ展では、デ・キリコが手がけた希少な彫刻作品や挿絵、さらには舞台衣装のデザインなども展示しています。 有名な形而上絵画作品を多数鑑賞できる貴重な機会であるとともに、デ・キリコのあらゆる創作活動を通して、新たな魅力に気づける機会になるかもしれません! 豊富に取り揃えられた数々のグッズもチェック 100点以上のボリュームある作品をすべて見終わった後は、デ・キリコにちなんだグッズ販売所も楽しみましょう! 今回のデ・キリコ展で展示されていた油彩や版画、彫刻、舞台衣装など100点以上の作品をフルカラーで掲載した「デ・キリコ展公式図録」が税込3000円で販売されています。 デ・キリコ展をじっくり鑑賞し、魅力に惹きつけられた人は思わず購入したくなるでしょう。 表紙は、オレンジベースの『形而上的なミューズたち』、ブラックベースの『予言者』の2パターンがあるため、今回の展示で気に入ったほうのデザインを選ぶのも良いですね。 そのほかにも、グラスやトートバッグ、イタリア菓子専門店のラトリエ モトゾーのパティシエが作るお菓子など、展覧会オリジナルのグッズが販売されています。 展示されていた絵画のポストカードやポスターも販売されており、写真フレームや額縁にいれて飾ってあるのが印象的でした。 自宅に飾る際も、写真フレームがあると飾りやすく、いつでも作品に触れることができます。 LINE登録とアンケートへの回答でミニチュアキャンバスが当たるかも? グッズ販売所を出ると、LINE登録&アンケートへの回答で展示会オリジナルミニチュアキャンバスが抽選で当たるイベントを行っていました。 筆者も余韻が残る中、アンケートに回答して、ミニチュアキャンバスが当たらないかとワクワクしています! グッズ販売所の出口にある看板のQRコードを読み取ってLINE登録し、アンケートに回答するだけなので、デ・キリコ展を楽しんだあとはぜひ回答しましょう。 観賞の思い出に…フォトスポットで記念の1枚を 企画展を出る前、長い廊下の先にはデ・キリコ展のフォトスポットが! デ・キリコの代表作『予言者』の大きなポスターチックのフォトスポットがあり、最後まで入館者を楽しませてくれます。 このフォトスポット、正面からだと平面に見えますが、角度を変えてみてみると、実はモチーフのマヌカンが立体的に! 細部まで工夫が凝らされているデ・キリコ展。 デ・キリコの初期から晩年までの作品がこうして見られるのは、実はかなり貴重な機会なのだとか。 有名な作品はもちろん、それ以外にもさまざまなテイストの作品を順にみていくと、彼もまた何かを模索し追い求め続けていたように感じます。 宗教画など美しいものを描いてきた中世までの絵画とは一線を画す、個性的で何かを訴えかけてきているような彼の作品の数々。伝統的な手法を学びながらも、独自のスタイルや新しい可能性を模索してきたような変化と進化が、彼の絵が多くの人を惹きつけている理由の一つなのかもしれません。 アンバランスな体と足、生きているようなそうでないようなマヌカン、妙にリアルなのに現実感のない構図…。 最初に感じた胸のざわざわの原因がうっすら見えてきた気はしますが、間近で作品を見たことで、深淵にはまってしまったかのような気もしています。 目のないはずのマヌカンに、何かを見透かされているような、あるいは何かを訴えかけられているような、そんな気配を感じながら、謎や疑問を残しつつも会場をあとにしたのでした。 没入感のある展示会を楽しんだら公園内で余韻に浸ろう 東京都美術館は、上野公園内に位置しているため、展示会鑑賞後は上野公園を散歩しながら印象に残った作品を振り返ってみるのもよし、公園内のカフェで展示会を見て感じた気持ちをメモに残しておくのも良いですね! 東京都美術館の近くには、スターバックスがあります。 広々とした公園内にあるこのスターバックスは店内もスペースが広く、天気の良い日はパラソルのあるテラス席で外の空気を浴びながらくつろぐのも気持ちがよいですね。 店舗情報 スターバックス 上野恩賜公園店 https://store.starbucks.co.jp/detail-1087/ 「デ・キリコ展」開催情報(東京都美術館) 「デ・キリコ展」 場所:東京都美術館 期間:2024/04/27〜2024/08/29 公式ページ:https://dechirico.exhibit.jp/ チケット:一般 2200円 、大学生・専門学校生 1300円、65歳以上 1500円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.09
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