浮世絵とは、江戸時代に庶民の間で人気の高かった芸術作品の一つです。
現代では、歴史的価値のある美術品として認識されていますが、当時はファッション誌のような役割を担っていました。
浮世絵のデザインを楽しむとともに、浮世絵に押されている印にも一度目を向けてみましょう。
意味合いを知ることで、浮世絵の奥深さに気づけるかもしれません。
目次
浮世絵にある極印とは
浮世絵には、さまざまな印が押されており、その一つが、極印です。
極印はほかの印同様に、大事な役割を担っています。
浮世絵に押される印の意味を把握して、浮世絵の価値を知るためのきっかけにしましょう。
極印(きわめいん)とは
極印とは、江戸時代に制作された浮世絵版画を刊行する際に、検閲済みの証拠として版画に刷られた印。丸のなかに「極」の字が書かれています。
また、浮世絵だけではなく、金貨や銀貨、器物などの品質保証や偽造防止のためにも用いられていました。
時代を知る手がかりとなる、極印
1790年に行われた改革の一環として、町奉行が出版取締令を出したことで、極印が用いられるようになりました。
地本問屋に関する検閲制度がスタートしたのです。主に政治批判や風紀風俗の乱れ、奢侈の3点が取り締まりの対象でした。
幕府に対する批判と少しでも疑われるものは処罰の対象となっており、徳川家やその時代の事件や出来事をモチーフとすることが禁じられていました。
検閲を受けるタイミングは、版本では作者の稿本が完成したとき、版画では画工の板下絵が完成したときです。
稿本や板下絵が完成すると、地本問屋行事や名主の下へ提出します。
幕府を批判するような内容が書かれていないことを確認して出版許可が下りると、極と記載された改印が押されます。
江戸時代の後期からは、極印のほかにも検閲した年月を表す干支や漢数字の印が押されたため、現代においては作品の制作年月を知る重要な手がかりの一つです。検閲制度は、1875年に廃止されましたが、改印に代わり作者と版元の住所や氏名を明記することが義務付けられました。
浮世絵師だけではない!浮世絵に携わる人たち
浮世絵の制作にかかわっているのは、浮世絵師だけではありません。
浮世絵は、いくつかの手順に分業して、それぞれ専門分野の人たちが担い、作られています。
現代でいう出版社の役割は、版元が行っていました。
浮世絵を販売するお店のことで、商品の企画やプロデュースを行います。
出版全体を担う責任者の役割があり、どのような浮世絵であれば人気が出るかを見極める能力が必要な職種です。
浮世絵の制作には、3種類の職人が携わっています。
1人目は、浮世絵の原画を描く「絵師」です。
原画は、一般的にモノクロで描かれていました。また、描く精度は人それぞれで、髪の毛1本1本丁寧に書き込む絵師もいれば、大まかなデザインを描き、あとは彫師にお願いする絵師もいました。
江戸時代の有名絵師には、葛飾北斎(かつしかほくさい)や歌川国芳(うたがわくによし)などがいます。
多くの絵師は、木版画の原画だけではなく、肉筆画も制作しています。
2人目は、木版画の板を彫る「彫師」です。
絵師が描いたデザインを、木製の板に彫っていきます。1つの作品を複数の彫師が担うケースもあります。
3人目は、彫師が彫った版木に顔料を染み込ませて和紙に摺る「摺師」です。
このように、浮世絵は工程ごとに職人が分かれており、複数の職人の技術が合わさって制作されています。
極印以外にもある、さまざまな印
浮世絵には、さまざまな印が押されています。
一つは、落款印と呼ばれる浮世絵師のサインである判子です。
絵師の雅号が変わると落款印も変わるため、落款印からは絵師を判断するだけではなく、描かれた年代を推察することも可能です。
また、江戸時代の検閲が行われていたころには、幕府がチェックし出版を認めた証として、改印が押されました。極と書かれた字の判子で、出版統制によって押されるようになったものです。
そのほかにも、版元印や彫師の印、摺師の印、名主印、年月印などさまざまな印が押されています。
版元印とは、浮世絵版画の企画やプロデュースを行ったのが誰であるかを表す印です。
浮世絵版画は、絵師が自由に描いて制作されているわけではなく、版元からの依頼によって描かれています。そのため、企画者が誰であるかを記録するために版元印が押されます。
江戸時代の出版を担っていた有名人物といえば、蔦屋重三郎です。蔦屋重三郎は、山形に蔦の葉のマークが描かれた版元を使用していました。
蔦屋重三郎がプロデュースした作品が数多く存在し、東洲斎写楽の『中島和田右衛門のぼうだら長左衛門と中村此蔵の船宿かな川やの権』や、喜多川歌麿の『婦女人相十品 文読む女』にも、版元印が押されています。
浮世絵に押された印は、歴史的価値を知る貴重な手がかり
浮世絵に押されているさまざまな印は、浮世絵の価値や歴史を知るために必要な情報です。
落款印からは、どの絵師が描いた作品なのかがわかります。
極印は、江戸時代の校閲があったタイミングで制作された浮世絵であることを示しています。そのほかにも、年月印からは年代の特定が可能です。
作品のデザインだけではなく、印にも目を向けることで、鑑賞の楽しみが広がるでしょう。