江戸時代は、肉食が禁止されており、今のように食の多様性は見られないため、庶民がどのような食事をとっていたかイメージが湧きづらい人も少なくないでしょう。
江戸時代における庶民の食事がどのようなものだったのか、当時の庶民の生活を色濃く描いていた浮世絵を通じて知れる場合があります。
目次
江戸時代の庶民はどんな食事をとっていた?
肉食が禁止され、食品加工技術が今ほど発達していなかった江戸時代において、庶民はどのような食事をとっていたのでしょうか。
冷蔵庫もなければ冷凍庫もないため、食品の長期保存もできず、現代より食べられるものが限られている印象があります。
ご飯を炊くのは1日1回
江戸時代では、主食であるご飯を炊くタイミングが1日1回だったようです。
江戸時代の食事スタイルは、江戸時代初期においては朝夕の1日2食でした。
江戸時代中期の元禄年間には、この食事スタイルが変化し、現代にも通じる1日3食に定着したようです。
しかし、庶民の居住スペースである長屋は、土間含め6畳程度しかなく、調理スペースがかなり限られていたことは、想像に難くありません。
また、燃料も十分に備蓄できていなかったと考えられます。
薪だけでなく、燃やせるものは、古雑巾でも燃やして燃料にしていたと記録に残っているほどです。
そのため、燃料代の節約やスペースの関係上、炊飯は1日1回に留めていたようです。
食事の基本「一汁一菜」
食事は、基本的に一汁一菜の構成だったようです。
現代でも大体同じようなものと思いがちですが、実際は大きく内容が異なります。
ご飯にお味噌汁、漬物の3点が基本セットで、ときどきおかずが1品追加されていました。
食事のタイミングは、朝食が7時ごろ(明け六つ)、昼食が12時ごろ(昼九つ)、夕食が19時ごろ(暮れ六つ)とされており、食事中に白湯やお茶を飲む習慣はなかったようです。
とはいえ、食事内容は基本的に粗食で構成されており、漬物の種類はたくあん、梅干し、ぬかみそ漬け、なすび漬けなどをルーティンで回すことがほとんどでした。
奉公人に仕える町人でも、基本の3セットにおかずのイワシが一皿あった程度です。
商家の丁稚は、昼にひじきや油揚げの煮つけが着く程度、武家に関しても庶民と大きく内容が変わらなかったことから、現代と比較すると、いかに食事の内容が少ないものだったかがわかります。
醤油や砂糖、出汁…調味料が普及したのもこの頃
江戸初期までは調味料が普及しておらず、味付けの中心は塩や酢、味噌でした。
元禄年間に至ると醤油や砂糖、みりんや鰹節が普及するようになります。
結果として、さまざまな煮物料理が作られるようになりました。
現代では、マヨネーズやケチャップ、ドレッシングなどさまざまな調味料で溢れかえっていることを考えると、調味料の観点からも食生活が大きく異なっているとわかります。
江戸においては、肉体労働者が多く、味付けは、塩辛いものが好んで作られていたようです。
醤油も基本的には、薄口醤油が広く普及しており、濃口醬油は、関西からの下りものとして入手困難でした。
時代が進むと銚子や野田などで地の濃口醬油が製造されるようになったため、一気に庶民に広まったようです。
また、鍋で加熱調理するような調理方法(煮物、茹で物、汁物)が多く、魚のような高級食品は、裕福な家庭であったとしても2週間に1回程度でした。
調味料が普及したとしても、食事の内容は大きく変わらなかった印象を受けます。
飲食店や居酒屋まで!
食生活は、質素であったにもかかわらず、江戸時代にはすでに、飲食店や居酒屋までそろっていたというから驚きです。
江戸時代末期においては、鮨やそば、ウナギなどの屋台とともに、天ぷらの専門屋台が出店され、食文化の多様性が見られます。
また、それまでは屋台が中心でしたが、つまみを食べながら酒を飲むような居酒屋スタイルも増えていき、近代になるにつれて今はなじみのある外食文化が形成されました。
店舗型の飲食店としては、煮物を食べさせる煮売り屋、四文でなんでも食べられる四文屋などバラエティに富んだ店舗が運営されていた記録が残っています。
また、居酒屋の元祖は、神田川沿いで営業が始まった豊島屋とされています。
浮世絵に描かれた食事やその風景
庶民の生活を描いた浮世絵では、食事やその風景はどのように表現されていたのでしょうか。
代表的な作品を通じて当時の状況への理解を深めましょう。
『東海道五拾三次之 鞠子 名物茶店』歌川広重
歌川広重の『東海道五拾三次之 鞠子 名物茶店』は、道中の丸子宿で名物のとろろ汁をおいしそうに楽しんでいる人が描かれています。
酒、さかなの看板も見られることから、当時の外食文化の一面を感じられます。
『春の虹蜺』歌川国芳
歌川国芳は『春の虹蜺』と題して、ウナギを頬張るはつらつとした女性を鮮やかな色彩で表現しています。
土用の丑の日は、江戸時代に始まった文化とされているため、流行り始めたころの女性を捉えた作品であると推察できるでしょう。
『魚づくし』歌川広重
歌川広重が『魚づくし』の中でキンメダイやスズキを躍動感に溢れたタッチで表現しています。
ご飯・汁物・漬物ばかりの食事の中で魚は高級品です。
食材としての魅力に溢れた印象的な作品といえます。
江戸時代の食事の様子は浮世絵でも楽しめる
江戸時代の庶民における食事内容や食事の特徴について紹介してきました。
現代とは異なる食事内容だったため、改めて知ることで驚きがあったのではないでしょうか。
また、絵画を通じて具体的に当時の暮らしぶりを知ることは、江戸時代への興味関心を高めることにもつながります。
当時の生活状況を把握できる浮世絵は、歴史の史料的な価値や芸術的価値に富んだ貴重なもの。浮世絵を鑑賞するときは、こうした浮世絵のなかの登場人物一人ひとりの様子を見てみるのも面白いかもしれませんね。