浮世絵には浮世絵版画のほか、肉筆浮世絵と呼ばれるものがあります。
肉筆浮世絵は浮世絵版画よりも希少性が高く、高価買取してもらえる可能性があります。
価値の分かる専門家へ相談してみましょう。
目次
肉筆浮世絵を高価買取してもらおう
浮世絵といえば一般的に木版画を指します。
一方で、同様の題材を肉筆で描いたものが肉筆浮世絵です。
作家や状態によっては肉筆浮世絵も高価買取してもらえる可能性があります。
肉筆浮世絵とは
肉筆浮世絵とは、名前の通り筆を使って(肉筆で)紙や布に直接描かれた浮世絵のことです。
そもそも浮世絵とは、18世紀の江戸時代の風俗などを題材とした絵画のことです。
ただし、画家によって一点ずつ描かれる従来の絵画と違い、浮世絵は木版画でした。
そのため、安価に複製ができ、大衆文化として広く普及したのです。
一方で、浮世絵が誕生した後も、画家が風俗や有名な人物などを題材として肉筆で絵を描くこともありました。
それを木版画の浮世絵と区別するための呼び方が肉筆浮世絵です。
木版画の下絵や原画ではない、オリジナルの作品です。
浮世絵版画は買取してもらえる?
浮世絵版画とは木版画の浮世絵のことです。
版画のため同じ図柄が複数存在することが肉筆浮世絵との大きな違いの一つです。
また、大衆向けの作品が多いため、芸術的価値が高くないものもあります。
とくに江戸時代から明治時代にかけて作られた復刻版や、無名作家の作品は買取を断られてしまったり、買取価格が低くなったりするかもしれません。
ただし、浮世絵版画でも有名作家の作品であれば高く買取してもらえる可能性があります。
たとえば、葛飾北斎(かつしかほくさい)、歌川広重(うたがわひろしげ)などが代表的な浮世絵師です。
査定の結果、有名作家の作品だと分かるケースもあります。
作家名が不明の作品も専門家に一度見てもらうとよいでしょう。
一方、浮世絵版画よりも高価買取してもらえる傾向にあるのが肉筆浮世絵です。
肉筆浮世絵は作家が直接制作しているため、希少価値があります。
また、肉筆浮世絵の多くは依頼主から注文を受けて描かれています。
大量生産を前提に売れやすさを狙った作品が多い浮世絵版画に比べて、絵師による創作の自由度が高いのが特徴です。
肉筆浮世絵はそもそも一点物で希少性が高い上、人気作家のものであれば100万円を超える価格で取引されることもあるでしょう。
葛飾北斎や菱川師宣(ひしかわもろのぶ)といった人気作家も肉筆浮世絵を手掛けています。
ただし、肉筆浮世絵は贋作が多いことでも知られています。
真贋の査定が難しいため、買取していない業者や低価格で買取しようとする業者もいるかもしれません。
肉筆浮世絵を売る際は、複数の業者への査定依頼をお勧めします。
肉筆浮世絵はいつからあった?
浮世絵の祖とも呼ばれる菱川師宣以降、浮世絵とは主に版画を指す言葉として使われています。
しかし、成立当初の浮世絵は、紙や絹に直接描かれるのが一般的でした。
たとえば床の間に飾って鑑賞するための掛け軸や、屏風、扇などに描かれた作品が多く残っています。
浮世絵の歴史については明確になっていない部分が多く、研究者によって意見が分かれています。
中でも浮世絵の誕生に大きく貢献したと多くの研究者に考えられているのが、岩佐又兵衛(いわさまたべえ)です。
武家に生まれた岩佐又兵衛は一族が没落した後、江戸時代初期に絵師として活躍しました。
大胆でパワフルな表現が特徴で、代表作として『洛中洛外図屏風』、肉筆の『職人尽』、『三十六歌仙図額』などが挙げられます。
なお、版画の技術が発展した後も、肉筆浮世絵を制作した浮世絵師は少なくありません。
そのため、岩佐又兵衛の頃の浮世絵を「初期肉筆浮世絵」と呼び、後世のものと区別することもあります。
版画と比べて一点物のためより高い価格で販売できたことや、肉筆画を描く浮世絵師のほうが地位が高いと当時考えられていたことが理由です。
中には版画に興味を示さず、生涯にわたって肉筆画の制作に専念した宮川長春(みやがわちょうしゅん)のような浮世絵師もいます。
世界的に有名な『見返り美人図』は肉筆浮世絵の代表作
作家名:菱川師宣(ひしかわもろのぶ)
代表作:『見返り美人図』『歌舞伎図屏風』『北楼及び演劇図巻』
『見返り美人図』は1693年頃、晩年を迎えた菱川師宣によって描かれた肉筆浮世絵です。
切手の題材になったり、教科書に掲載されたりしたため見たことがある方も多いでしょう。
現在は東京・上野の国立博物館に収蔵されています。
大胆な構図や鮮やかな色彩が、ゴッホやゴーギャンのような海外の芸術家にも影響を与えた作品として、世界的にも有名になりました。
赤い振袖を着た女性が、ふと立ち止まってこちらを振り返っている構図が印象的な作品です。
美しい女性を描いた「美人画」は、浮世絵の人気ジャンルの一つです。
美人画では、遊女や看板娘など実在する女性を複数名描くのが一般的でした。
しかし、『見返り美人図』は、一人の女性だけを描いている点や、実在の女性ではない菱川師宣の考える理想の女性が描かれている点が特徴です。
また、この作品に描かれた女性の衣装や髪型などに表現された江戸時代のファッションも見どころです。
絞りや金糸による刺繍が入った着物や、「吉弥結び」で結ばれた緑色の帯、玉結びという髪型などは当時の流行の最先端でした。
当時の美人画は今でいうファッション誌のような役割も果たしていたことがわかります。
肉筆浮世絵を描いた有名作家たち
版画による浮世絵が一般的になった後も、多くの作家が肉筆浮世絵を描いていました。
肉筆浮世絵の制作で知られる作家には菱川師宣のほか、葛飾北斎や喜多川歌麿(きたがわうたまろ)、歌川豊春(うたがわとよはる)などの作家が挙げられます。
中でも葛飾北斎は晩年、肉筆浮世絵に傾倒し、多くの作品を残したことで知られています。
『神奈川県沖浪裏』がとくに有名な『富嶽三十六景』を描いた葛飾北斎は、ありとあらゆるものをテーマに生涯で34,000点以上の作品を制作しました。
作品は海外でも高く評価されており、世界で最も有名な浮世絵師といえます。
そんな葛飾北斎は肉筆浮世絵も大量に描いており、特に魚や花、鳥などを題材とした『肉筆画帖』が代表的な作品として挙げられます。
中でも『塩鮭と鼠』、『福寿草と扇』などが有名です。
美人画で有名な喜多川歌麿も多くの肉筆浮世絵を発表しました。代表作として『美人夏姿図』、『納涼美人図』などがあります。
肉筆浮世絵専門絵師、宮川長春
18世紀前半に活動した宮川長春は、版画を一切手掛けず、肉筆浮世絵だけを描いた絵師です。
日本画の主流である狩野派や土佐派に学んだ後、菱川師宣に師事して浮世絵師となりました。
師匠である菱川師宣は版画によって浮世絵を発展させた人物ですが、長春は肉筆画のほうが優れているという信念を貫きました。
多くの弟子を取り、宮川長亀、宮川一笑、宮川春水をはじめとする宮川派は肉筆浮世絵に専念した一門として知られています。
現存する作品は約200点といわれています。
国内に限らず海外の美術館にも多く収蔵されているように宮川長春の作品は海外でも人気がありました。
浮世絵をあまり好まなかったといわれる東洋美術史家のアーネスト・フェノロサも、宮川長春だけは評価していたという逸話も伝わっています。
宮川長春が得意としたのは、優美で気品のある美人画です。
依頼者は裕福な町人や武家が多かったとされ、高級な絵絹に質の良い絵の具を使って丁寧に彩色された作品が、多数残されています。
代表作は『立姿美人図』、重要文化財に指定されている『風俗図巻』など。
一人で立つ女性や蚊帳から顔を出す女性など、似た構図の作品を繰り返し制作したことも特徴です。
宮川長春は春画作品も多く描いた
庶民の風俗、遊女、遊郭の風景などを好んで題材とした宮川長春は、春画にも多くの優れた作品を残しました。
なお、春画とは性行為の様子、性的なものなどを描いた風俗画のことです。
枕絵、あぶな絵などと呼ばれることもあります。
平安時代からあったとされ、江戸時代以前には武士が魔除けのお守りとしたり、嫁入り道具として持たされたりすることもありました。
江戸時代には、春画は浮世絵のジャンルの一つとして発展し、葛飾北斎や歌川広重といった有名作家も多くの作品を制作しました。
一般市民には、春画をまとめた「好色本」が広く流通していたといわれています。
幕府から禁止令が出されても庶民から愛され続けた春画は、最近では美術品として再評価される傾向にあります。
肉筆浮世絵買取は実績ある査定士へ依頼を
絵師が直接描いた肉筆浮世絵は、木版画と異なり同じものが存在しないため、希少性があります。
浮世絵版画よりも買取価格が高くなる可能性があるでしょう。
とくに有名作家の作品であれば高額査定が期待できます。
ただし、肉筆浮世絵には贋作が混じることもあるため査定が難しいとされているため、実績のある査定士がいる業者へ査定を依頼するのがお勧めです。
また、査定によって有名作家の作品だと分かるケースもあります。
遺品整理や相続のタイミングで出てきた浮世絵は、作家名や価値が分からなくても査定してもらうとよいでしょう。