浮世絵のジャンルの一つに擬人化があります。
主に、天保の改革による浮世絵への厳しい規制がかけられていた時代に描かれていました。
擬人化の浮世絵で有名なのが歌川国芳です。
ユーモアあふれるデザインと、幕府への風刺が入り混じった浮世絵は、一般的な浮世絵とはまたひと味違う魅力があるといえます。
目次
動物から植物まで…擬人化作品といえば歌川国芳
浮世絵には、擬人化された作品も多く存在します。
その中でも擬人化で人気を集めていたのが歌川国芳です。
個性あふれる歌川国芳の擬人化作品は、動物から植物までさまざまな生き物を題材にしており、その背景に隠された想いを想像しながら鑑賞してみてはいかがでしょうか。
歌川国芳
作家名:歌川国芳(うたがわくによし)
生没年:1798年-1861年
代表作:『相馬の古内裏』『其のまま地口猫飼好五十三疋』
歌川国芳は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師です。
日本美術史上では、奇想の絵師の一人に挙げられています。
日本橋の紺屋で生まれた歌川国芳は、12歳と早くにその画才を認められ、当時人気絵師だった歌川豊国のもとで師事を受けました。しかし、その後十数年間、歌川国芳の絵は人気が出ず、脚光を浴び始めたのは30歳を過ぎてからでした。
『通俗水滸伝豪傑百八人之一個(壱人)』が大ヒットし、一躍人気浮世絵師となります。色彩鮮やかに描かれ躍動する英雄は、江戸の人々の心を惹きつけました。その後、武者絵の国芳と呼ばれるようになり、古今東西の歴史や物語に登場するさまざまな英雄を描いていきます。
歌川国芳が描く浮世絵の魅力は、クールに描かれた英雄たちだけではありません。
画想の豊かさや斬新なデザイン力、奇想天外なアイディア、確実なデッサンスキルなどが組み合わさり、浮世絵の枠にはとどまらない広範な魅力を持つ作品を多数生み出しています。
戯画(浮世絵戯画)とは
太平の世が続いていた江戸時代には、多くの浮世絵戯画が描かれていました。
戯画とは、戯れに描いたり、誇張や風刺を交えたりして描かれたユーモラスあふれる絵を指しています。
江戸時代では、浮世絵の題材として用いられることも多く、多くの庶民を楽しませていました。
題材は人間だけではなく、動物や植物も含まれます。
歌川国芳の描いた、ゆかいな戯画の数々
歌川国芳が描く浮世絵の大きな魅力は、独特のユーモアや発想の奇抜さにあります。
天保の改革により、浮世絵をはじめとした娯楽産業に厳しい制限がかけられた際、遊女や歌舞伎役者を浮世絵に描くことが禁じられてしまいました。そこで歌川国芳は、見立て絵を描き規制をかわしていくのです。
『金魚づくし・百ものがたり』
歌川国芳が描いた浮世絵『金魚づくし・百ものがたり』は、戯画の一つ。
金魚や水中の生き物を擬人化し、ユーモアあふれる作品に仕上がっています。
百ものがたりは、当時江戸で流行していた怪談会を指しており、百本のろうそくを火に灯し、怪談話が一つ終わるごとにろうそくの明かりを一本ずつ消していくというもの。最後の一本を消すと幽霊が現れるという肝試しの一つでもありました。
『金魚づくし・百ものがたり』は、金魚たちが怪談話を披露していき、最後の話が終わり猫の化け物が現れた瞬間を描いています。
猫・猫・猫…歌川国芳は無類の猫好き
歌川国芳は、無類の猫好きであったとも伝えられています。
明治期の浮世絵研究者である飯島虚心が書いた『浮世絵師歌川列伝』によると、常に5・6匹の猫を飼い、さらには1・2匹の猫を懐に入れておくほどの猫好きだったようで、猫が亡くなると供養を行うだけではなく、猫専用の仏壇も置かれていました。
猫好きであったこともあってか、猫を題材にして擬人化した作品も多く残しています。
『其のまま地口猫飼好五十三疋』は、歌川広重の有名作品『東海道五捨三次之内』を猫バージョンで描いた作品です。
ユーモアあふれる作品で、『東海道五捨三次之内』と見比べてみても楽しめるでしょう。
出版規制の残る時代に擬人化アイディアで楽しませた歌川国芳
歌川国芳は、浮世絵師界の中で戯画や狂画の第一人者ともいえる存在です。
天保の改革による出版規制をかいくぐるため、独創的なアイディアで日本を風刺していきました。
擬人化による独自のセンスが光る歌川国芳の浮世絵。
そのポップで奇抜なデザインだけではなく、時代背景を考え、どのような思想が描かれているのかを想像して鑑賞するのも楽しみ方の一つです。