仏様や仏教に関することを描かれた仏画は、掛軸として仏間に飾られるなどしてきました。崇拝や礼拝の対象として長い歴史のある仏間掛軸は、著名な作家による作品や歴史的に価値の高い作品も。昔から実家の仏壇横に飾ってあった仏画掛軸を査定に出してみたところ、非常に貴重なもので予想もしない価格での買取となることも少なくないようです。仏画掛軸にはどんなものがあるのか、その特徴や歴史を紐解いていきましょう。
目次
仏画とは
仏画とは仏教をテーマとした絵画を指しており、仏様の絵はもちろん、前世の物語を描いたものや、浄土や地獄の様子を描いたもの、禅宗僧の肖像画なども含まれます。掛軸、版画、曼荼羅は仏画に該当します。仏像では表しきれない複雑な仏教の教えを多くの人に広めるために利用されているのが特徴の一つです。礼拝の際に使用する目的だけではなく、仏教を広く伝えるためにも用いられています。例えば、礼拝に用いられる独尊で描かれた仏様や、菩薩様の尊像画、浄土図などです。
仏画はお寺の壁や掛軸に描かれるもので、仏画師には日本の伝統絵画に関する深い知識や高い技術が必要です。仏画師を目指す人は、内弟子を受け入れている現役の仏画師のもとで修業に励み、技術を習得する必要があります。現代では、弔事や年忌法要、お彼岸、お盆など先祖供養の場で仏画を飾ることが多い傾向です。また、お寺だけではなく骨董品として美術館や博物館でも仏画を鑑賞できます。
仏画掛軸の種類や特徴とは
仏画は描かれている対象によって複数に分類されます。
礼拝や崇拝の対象が描かれている仏画
描かれている主な仏様は以下のとおりです。
釈迦如来 (しゃかにょらい)
釈迦如来は、仏教の始祖です。インドの釈迦族の王子として実在していました。王位継承者の地位を28歳で捨て、生・老・病・死の四苦から解放される道を探し、6年にわたる苦行の末、大悟を得て仏陀となりました。釈迦如来は45年間インドの諸国を説法して巡り、教えを広めていきます。80歳を過ぎた釈迦如来は死期を悟り、弟子たちに囲まれながら最後の説法を行い、涅槃に入りました。
阿弥陀如来 (あみだにょらい)
阿弥陀如来は、無量寿如来や無量光如来とも呼ばれています。日本では極楽浄土の思想が広まり、西方極楽浄土の教主「阿弥陀」として広く信仰された仏です。阿弥陀如来には、説法相、定印相、来迎相の3種類の手の組み方があります。さらに往生者の機根の高低、信仰の深浅に応じて9種類の来迎があるとされており、3種の印相を基本として9つの手の種類による阿弥陀の姿が考え出されています。
大日如来 (だいにちにょらい)
大日如来は、真言密教において一切諸仏諸尊の根本仏として帰依し観想されている本尊です。大日の智恵の光が昼夜で状態変化する太陽光とは比べ物にならないほど大きく、この世のすべてを智恵の光で照らし出すとともに慈悲の活動が活発で不滅永遠のため、太陽の象徴である「日」に「大」を付けて大日と名付けられました。
薬師如来 (やくしにょらい)
薬師如来には、瑠璃光如来や医王如来の別名が付けられています。薬師や医王の名からわかるように、病を治癒する徳を表現する仏様です。古来より大衆から人気のある仏様で、人々の救済のため十二の大誓願をたてています。薬師如来は死後の世界ではなく、この世に生を受けている人々を護り、病などの苦痛から救済する特徴があります。
弥勒菩薩 (みろくぼさつ)
仏陀が入滅されたあと、将来的に仏となりこの世に降りて法を説き、人々を救うと約束がなされているのが弥勒菩薩です。将来仏になることが約束されているため、弥勒仏とも呼ばれています。ただし、弥勒菩薩が救世仏としてこの世に現れるのは、釈迦の入滅後から56億7000万年後であるとされているため、現在生を受けている人々は残念ながら会えないでしょう。
観音菩薩 (かんのんぼさつ)
観音菩薩は、観音の力を念ずれば水難、火難などの七難や貪欲、瞋恚、愚痴の心から生じる3つの苦しみから人々を解放し、救いと喜びを与えるとされています。観音菩薩は、補陀落山と呼ばれる浄土にあり、人間界のどこにでも姿を表し、三十三応現身として場所や時、状態に合わせてふさわしい姿に変化して人々を苦悩から救うことが特徴の一つです。
密教の世界観を表現した曼荼羅
曼荼羅とは、密教の経典に基づく主尊を中心に諸仏諸尊が集まる様子を模式的に描いた図です。仏様のいる世界や悟りの境地が描かれている特徴があります。曼荼羅の起源は古代インドです。曼荼羅の種類は時代や宗派によってわかれています。修行を続けることで仏様と一体化できるという教えで、身、口、意の三密業を通して仏様と一体化するといわれています。
たとえば、日本でよく見られる四種曼荼羅は以下のとおりです。
1.大曼荼羅
仏様の姿をそのまま描き、仏の世界を表した曼荼羅です。すべての曼陀羅の基本といわれています。
2.法曼荼羅
すべての仏様が悟りに入った禅定の状態で描かれた曼荼羅です。文字をメインとして抽象的な描かれ方をする傾向があり、仏教の真理や仏の智慧を表現しています。
3.三昧耶曼荼羅
仏様をシンボルに置き換えて描かれた曼荼羅です。たとえば、阿弥陀如来は蓮華、宝生如来は宝などに置き換えられます。衆生救済、慈愛に焦点を当てていることが特徴的です。
4.羯磨曼荼羅
大日如来以外の仏様をすべて女尊で描いた曼荼羅です。羯磨は業(カルマ)や行為を表しており、実際に行われる供養に特化した曼荼羅といえます。
変相図
変相図とは、地獄や極楽、その他の相状を描いた絵画です。曼荼羅に似た雰囲気を持つため浄土曼荼羅とも呼ばれます。しかし、密教との関係はありません。
浄土図
浄土図は、仏教の浄土信仰による絵画です。浄土図は死後に向かう浄土のありさまを描いています。平安時代後期に盛んに描かれました。
六道輪廻図
仏教によると、世の中のすべての生き物は六道と呼ばれる世界で生死を繰り返しているとされています。六道は死後の世界で、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上の6つからなります。生きている時の行いによって世界が決まり、何度も生まれ変わるという考え方です。六道の考え方を画で示したのが六道輪廻図です。
垂迹画
垂迹とは仏様のことで、民衆を救うために仮の姿で人前に現れることです。垂迹画は本地垂迹説に基づいた絵画で、仏様や菩薩が垂迹という神に姿を変えて人々を救いに現れたとされています。
仏事や仏間で使用される、仏画掛軸
仏画掛軸とは、仏画や名号・経文などの書や、蓮や蝶など仏教に関係ある絵画など、仏様を祀るためや教義するための掛軸です。中国から伝えられた当初は、掛軸の題材はほとんど道教や仏教を取り扱う道釈画でした。
仏間で使用される掛軸に描かれる仏画は宗派によって異なります。代表的な宗派とそれぞれの仏画の特徴は以下のとおりです。
・浄土宗
浄土宗の御本尊は舟型の光背が付いた阿弥陀如来です。真ん中に阿弥陀如来を祀り、両脇に掛軸を飾ります。正面から見て左側に法然聖人、右側に善導大師を祀るのが基本です。また、場合によっては正面から見て左側に勢至菩薩、右側に観音菩薩を祀ります。
・浄土真宗本願寺派
浄土真宗本願寺派の御本尊は阿弥陀如来です。御本尊が仏像である場合は西立弥陀を祀ります。掛軸を御本尊に祀る場合は、8本の後光が差す阿弥陀如来の掛け軸を祀ります。また、両脇には正面から見て左側に蓮如聖人、右側に親鸞聖人を祀ります。
・天台宗
天台宗の御本尊は本来釈迦如来です。しかし、阿弥陀如来や観音菩薩を祀る場合もあります。釈迦如来や阿弥陀如来を本尊に祀る場合、正面から見たときの左側に伝教大師、右側に天台大師を配置するのが基本です。
・真宗大谷派
真宗大谷派の御本尊は阿弥陀如来です。御本尊が仏像の場合は東立弥陀を祀ります。掛軸を御本尊に祀る場合は、6本の後光が差す掛軸を祀るのが基本です。正面から見て左側に九字名号(南無不可思議光如来)、右側に十字名号(帰命盡十方無碍光如来)を配置します。
・曹洞宗
曹洞宗の御本尊は釈迦如来です。しかし、寺院によっては阿弥陀如来や観音菩薩、地蔵菩薩などが祀られます。一般家庭の仏壇での祀り方は一般的に一仏両祖の三尊仏です。正面真ん中に釈迦牟尼仏を祀り、左側に常済大師、右側に承陽大師の掛軸を祀るのが多い傾向です。
仏間で使用される仏画は宗派によって異なるうえに、宗派の中でも寺院や地域によって違いが生じるケースがあります。そのため、利用する際はあらかじめ寺院や仏具店に相談することが大切です。
仏画掛軸の歴史とは
仏画掛軸は中国で誕生したとされています。中国の晋王朝(265年~420年)の時代には、仏教を布教する際の教義として仏画が利用されていました。仏画は礼拝で持ち運ぶ際に破損しやすく、それを防ぐために掛軸の原型となる巻物型の仏画が作成されたといわれています。現在広く知られている掛軸の様式は、唐(618年~907年)の時代に確立されたと考えられています。日本へは飛鳥時代に仏教とともに掛軸が伝わったという考え方が一般的です。
ここからは、時代ごとの仏画の特徴と有名な仏画作品を紹介します。
奈良と平安時代の仏画
奈良時代の仏教美術品は唐(当時の中国)の仏師からの影響が強い特徴があります。奈良時代の有名な仏画は「国宝薬師寺吉祥天像」「釈迦霊鷲山説法図」などです。
平安時代は、唐へ留学した空海や最澄などが系統的な密教や密教図像などを日本へ伝え、仏教絵画に大きな影響を与えたとされています。曼荼羅は密教の世界観を象徴的に描いたもので、平安時代に多く制作されました。
平安時代の後期になると阿弥陀如来の住む西方極楽浄土への再生を願う浄土信仰が流行。末法思想が広がり、浄土真宗では來迎図と呼ばれる仏画も描かれるようになりました。來迎図とは、人が亡くなった後に阿弥陀如来が迎えに来る浄土真宗の考えを表現しています。
平安時代の有名な仏画には「普賢菩薩像」「釈迦金棺出現図」「伝船中湧現観音像」「両界曼荼羅図」「来釈迦図」「善女龍王像」などが挙げられます。
鎌倉時代の仏画
鎌倉時代は貴族社会から武家社会への変化が起こりました。その影響もあり力強い作風の垂迹画や六道輪廻図が多く描かれています。この時代では、似せ絵と呼ばれる肖像画も流行りを見せ、仏画においては開祖の姿が描かれるようになりました。平安時代までは、仏教の教えを表現した作品が多数作成されていましたが、これまでの表現とは異なり鎌倉時代ではありのままの現実を描く作風の仏画が多く作成されています。
鎌倉時代の有名な仏画は「閻魔天像」「垂迹画」「阿弥陀二十五菩薩来迎図」「六道輪廻思想画」「地蔵菩薩像」などです。
室町時代~現代の仏画
室町時代の仏画は、幕府の保護を受けていた禅宗の影響を強く受けています。水墨画の仏教絵画が多く描かれたのも室町時代からです。江戸時代に狩野派の絵師が登場したことで、掛軸ではなく襖や壁、障子に仏画を描く手法が発展しました。その後は大きな特徴の変化は起きず、現在の仏画の形に収まっています。
室町時代の有名な仏画は『仏涅槃図』『賢劫千仏図』『不動明王二童子像』 『胎蔵界曼荼羅図』などです。
仏画掛軸を売るなら、実績のある査定士へ相談を
長い歴史の中でさまざまな種類に分かれていった仏画。仏画掛軸には高価買取の対象となっている作品もあります。高価買取を狙うのであれば、実績のある査定士に相談してみるのがお勧めです。倉庫で長い間放置されていた仏画掛軸は損傷がひどい場合もあるでしょう。修復を行い、きれいな状態で査定に出したいと考えがちですが、補修の質によっては価値を下げてしまうこともあるため注意しましょう。また、仏画掛軸の箱や落款、署名などがあればさらに価値が上がる可能性もあります。家族の遺品整理で仏画が発見されて価値が気になることもあるでしょう。そのような場合は専門家へ査定に出してみてはいかがでしょうか。