江戸時代に庶民から人気を集めていた浮世絵。
その中でも続絵は、迫力のある表現が可能な技法で、スケールの大きな絵が楽しめるとして、注目を浴びていました。
続絵の特徴や魅力、有名な作品を知ることで、より浮世絵鑑賞が楽しくなるのではないでしょうか。
続絵についての理解を深め、自分の中にある浮世絵の世界をさらに広げていきましょう。
目次
ストーリーを楽しみたい、浮世絵の続絵
続絵とは、複数の版画を並べて一つのモチーフを構成するように描かれた作品です。
続絵には、2枚続から3枚続、多いものだと10枚以上の版画を横に並べて巨大な構図を描いた作品もあります。また、横だけではなく、縦に複数枚並べて描かれている浮世絵もあります。
続絵は、1枚1枚個別にも鑑賞が可能です。しかし、つなげて飾ることで、よりスケールの大きな作品として楽しめます。
続絵は、1781年ごろに流行り始めた技法で、役者絵や武者絵、錦絵など多くの浮世絵で活用されました。
なぜ1枚の大判で制作がされなかったのか、それには技術的な問題があったといわれています。
当時の技術では、大きな紙を作るのが難しかったことと、彫師や摺師の作業は、絵が大きくなるほどに難易度が増すことが考えられます。
そのため、分割して作業を行えるよう大きな作品は、2枚、3枚と複数の紙に分けて描かれたと推察できるでしょう。
大迫力の浮世絵、続絵
複数の大判を連ねて描かれる続絵。
大きな構図を描けるため、迫力も満点です。
役者絵の続絵では、1枚につき1人の役者が描かれている作品が多くありました。
そのため、続絵は必ずまとめて購入する必要がなく、自分が気に入っている役者が描かれている部分だけを購入するケースもあったそうです。
1枚ずつでも鑑賞は楽しめますが、続絵を揃えて鑑賞すると、舞台の広がりや物語が見えてきます。
単に横や縦に並べる作品もあれば、4枚を2×2で並べる構図や凸型に3枚並べる構図、L字型に3枚並べる作品もあり、さまざまな組み合わせで浮世絵を表現できるのも、続絵の特徴です。
有名な続絵を知り、浮世絵の新たな楽しみ方を見つけていきましょう。
歌川国芳『川中嶋信玄謙信旗本大合戦之図』
歌川国芳(うたがわくによし)が描いた合戦絵『川中嶋信玄謙信旗本大合戦之図』は、3枚の紙で構成された続絵。
『川中嶋信玄謙信旗本大合戦之図』は、武田信玄と上杉謙信が激闘を繰り広げた川中島の戦いの4戦目が描かれています。左の大判に武田信玄、右の大判に上杉謙信が描かれている構図です。
武田側の軍記『甲陽軍鑑』に基づいて、信玄と謙信の一騎打ちの様子が描かれています。
月毛の白馬に乗った若武者が、信玄が腰掛けている場所まで突き進み、日本刀で切りかかりますが、信玄はそれを軍配団扇でかわすのです。
原大隅守がとっさに若者を突こうとして馬を突いたため、馬は驚き走り去っていきます。この白馬にまたがっていた男が上杉謙信だったのです。
歌川国芳は、このエピソードを気に入り、この作品以外にも上杉側の軍記に基づく絵も複数残しています。
大将同士の一騎打ちという大きなスケールの話が、歌川国芳の絵心を沸かせたといえるでしょう。
鳥文斎栄之『鷁首船』
鳥文斎栄之(ちょうぶんさいえいし)が描いた『鷁首船』も、続絵として有名な作品です。
この作品は、古代に行われていた龍頭鷁首船上の管弦遊びを、江戸時代の当世風にアレンジしたものです。
7人の遊女が鞨鼓、笙、龍笛、箏、火焔太鼓、篳篥などの雅楽器を奏でている様子が描かれています。船上の7人の遊女は、宝船の七福人をイメージしているといわれています。
鳥文斎栄之は、美人画を多く手掛けた浮世絵師です。
鳥文斎栄之が描く美人には、すらっとした細身と小顔、極端ななで肩などの特徴があります。
手首や指先は、白くほっそりとしており、優雅な仕草を表現しているといえるでしょう。鳥文斎栄之の初期の作品には、健康的な八頭身の美人を描いて一世を風靡していた鳥居清長(とりいきよなが)の影響を大きく受けているであろう画風が多く見られます。
楊洲周延『世上各国写画帝王鏡』
楊洲周延(ようしゅうちかのぶ)も続絵の浮世絵を多く手掛けています。
『世上各国写画帝王鏡』も有名な続絵作品の一つです。
晩年にかけては大判3枚の続絵である『皇后宮還幸宮御渡海図』、『皇子御降誕之図』、『今様振園の遊』などを描いています。
明治維新後、華族や新政府の高官の夫人や令嬢は、外国と対等に付き合っていくためには洋服を着用しなければならないとして、公の場で華やかなドレスを身にまとうようになりました。楊洲周延は、女性の新しいファッションを取り上げた錦絵を数多く描いています。
楊洲周延が最も力を注いだのが、宮廷官女や大奥風俗などの美人風俗で、時代を反映させた作品が多くの人の心を惹きつけました。
続絵の登場で、より広がった浮世絵の表現
複数の大判を連ねて描かれる続絵は、浮世絵の表現の世界を広げた技法のひとつといえるでしょう。
1枚1枚でも楽しめるうえに、連ねて鑑賞すればその迫力と物語の奥深さに心を揺さぶられるでしょう。
続絵は、横や縦に並べるだけではなく2×2のように四角い構図で描かれたり、凸型やL字型のように並べられたりと絵師や作品によって個性が出る技法です。
浮世絵鑑賞を楽しむときは、ぜひ続絵の構図や物語もチェックして、描かれた当初の想いを創造してみてはいかがでしょうか。