浮世絵と聞くと、小・中学校の社会の教科書に載っているものをイメージする人も多いでしょう。
しかし、実際に実物を鑑賞する機会というのは、なかなか少ないかもしれません。
貴重な文化財というイメージがあるため、美術館や博物館でしか鑑賞できない印象を持っている人も多いでしょう。
今では貴重な文化財である浮世絵ですが、江戸時代では大衆に親しまれていた風俗画で、当時、多くの絵師を生み、数多くの作品が制作されています。
江戸時代当時、浮世絵は庶民の身近にあり、今でいうポスターのような役割を担っていました。
浮世絵とはどのようなものだったのか、またどのようなジャンルがあるのか、それぞれのジャンルの特徴について理解を深めましょう。
目次
浮世絵とは
浮世絵とは、江戸時代初期から後期までの300年近くを通して栄え、当時の壮大な風景や歌舞伎役者の姿などが描かれた絵画です。
当時の流行や風俗、人々の生活の様子などを題材に、さまざまな表現技法を用いて作成されました。
多くの浮世絵師が、さまざまな技法やスタイルを用いて描き、今でも代表的な作品として葛飾北斎の『富嶽三十六景』や歌川豊国の『市川團十郎』などがあります。
これらの作品は、非常に有名で歴史の教科書や資料集などにも掲載されており、美術品としてだけでなく歴史を知る上で貴重な資料となっています。
浮世絵にはどんなジャンルがある?
江戸時代の大衆から人気を集めていた浮世絵は、現在、芸術的価値が高まっている作品や、歴史的価値の高い作品などさまざまあります。
浮世絵には、当時の人々の暮らしなど身近なものから、江戸時代の雄大な景色を描いた風景画、当時のスターである歌舞伎役者の表情や演技を描いた役者絵など、江戸時代の様子が繊細に描かれた作品が多く存在しているのです。
浮世絵にはさまざまなジャンルがあり、美人画・相撲画・武者絵・風景画・花鳥画・役者絵・大首絵・春画などがあります。
それぞれの浮世絵の特徴と代表的な作品、作家をあげていきます。
美人画
美人画は、その名の通り、美しい女性を描いたジャンルです。
江戸時代を通して大変人気のあるジャンルでした。女性の美しさや優雅さを表現し、風流な情景を描いた美人画は、当時の人々に憧れを感じさせるようなものでした。
美人画の代表的な作者に、喜多川歌麿がいます。
喜多川歌麿は、18世紀から19世紀の初めにかけて活躍した浮世絵作家です。
喜多川歌麿の描く浮世絵は、やわらかな色彩と繊細な筆遣いで、女性の美しさを顕著に表現しており、大変高く評価されています。
喜多川歌麿の代表的な作品の一つに、『江戸高名美人』があります。
当時評判だった水茶屋美人を名前入りで描いた作品で、モデルは吉野おぎん・ひら野屋おせよ・菊もとお半・木挽町新やしき 小伊勢屋おちゑです。
ほかにも葛飾北斎・歌川広重らも美人画を描いています。
美人画は、その時代の女性の美しさや流行をとらえた作品が多く、日本の美意識や風俗を伝える貴重なものとなっているでしょう。
相撲絵
相撲絵は、江戸時代でも盛んだった相撲の文化を浮世絵の技法で美しく繊細に表現した作品です。
江戸時代の民衆に人気のあるスポーツであった相撲をテーマとし、広く描かれた作品です。相撲の試合の様子のほか、力士の日常生活や、観客の様子なども描かれています。
相撲絵の代表的な作品の一つは、勝川春英の『梶浜と陣巻』です。
そのほか、東洲斎写楽の『大童山土俵入』なども有名な作品で、個性ある力士の顔の特徴をうまくとらえて描かれています。
歌川広重の『名所江戸百景』の作品の中には、相撲に関係する描写が残っています。
武者絵
武者絵は、日本の武士や戦場などを描いたものです。
江戸時代の18世紀後半から19世紀初めに盛んに制作されました。武士の勇ましさを称え、武士道の精神や武家文化を表現したものです。
武士絵は、当時の戦国時代を生き生きと描き、武士の印象を後世に伝える作品となっています。
代表的な作品に、歌川国芳の『宮本武蔵と巨鯨』があります。
これは、剣豪として有名な宮本武蔵が大きな鯨と激しい戦いを繰り広げる様子が描かれている作品です。
ほかには、歌川貞秀の『川中嶋大合戦越後方之図』も有名で、大判3枚続の木版に迫力ある合戦の様子が描かれています。
武者絵は、浮世絵の特徴でもある多彩な色使いや大胆な構図によって、迫力のある武士の姿が描かれている魅力的な作品といえるでしょう。
風景画
風景画は、自然や都市の景観などを描いたものです。
美しい景色や風景などを表現し、観察力や表現力を通じて自然の美しさや神秘さを表現しています。
風景画で有名な作品は、葛飾北斎の『富嶽三十六景』ではないでしょうか。富嶽三十六景の風景の表現力や色彩感覚は、ほかの作家にも大きな影響を与えました。
ほかにも歌川広重は、江戸時代の街並みや名所を美しく表現した作家です。
花鳥画
花鳥画は、その名の通り、花や鳥を題材にした日本の伝統的なジャンルです。
日本の美しさに対する意識や自然観を反映した作品が多く、花や鳥の美しさや生き生きとした生命力を描写し、観る人を惹き込むような作品といえます。
花鳥画は日本の自然、季節の移り変わりを感じさせる作品が多く、その美しさと心情は日本だけでなく、世界中の人々に愛される作品です。
代表的な作品に、葛飾北斎の『菊に虻』があります。
葛飾北斎は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師で、風景画がが有名ですが、花鳥画も多く描いています。
『菊に虻』は、ボリュームのある華やかな花の花びら一枚一枚や葉脈を繊細に描いているのが特徴です。
また、歌川広重の『桜に四十雀』や『やまぶきに鶯』も有名で、鳥や草花が自然の中で優雅に描かれており、躍動感あるその美しい描写が人々を楽しませてくれます。
役者絵
役者絵とは、歌舞伎や能など演劇で活躍する役者や舞台の様子を描いた作品です。
役者絵は、江戸時代に盛んとなり、主に歌舞伎興行や広告などとして利用され、一般の人にも親しまれました。
ほかの浮世絵とは少し異なり、役者絵は当時の歌舞伎の興行や役者の人気を反映させたものでした。
また、見て楽しむ絵としての役割だけでなく、歌舞伎広告や宣伝の役割を担っていました。
現代では、役者絵は当時の伝統文化や歴史を伝えるための貴重な資料といえるでしょう。
代表的な作品に歌川豊国の『歓進帳』があります。
この作品では、能の演目『安宅』をもとに作られた歌舞伎の演目が描かれており、歌舞伎の舞台に登場する役者たちの姿が生き生きと描かれています。
また、歌川国貞の『曾我物語圖會』も有名で、同じく歌舞伎役者の姿や名場面などが描かれ、当時の歌舞伎の様子が伝わる作品です。
大首絵
大首絵とは、歌舞伎役者の肖像を描いた絵画です。
浮世絵といえばこのジャンルを思い浮かべる人も多いでしょう。
大首絵は、役者の個性や演技の特徴をとらえ、風貌や魅力を美しく描いた作品で、浮世絵の中でも歌舞伎文化を象徴する作品の一つ。
歌舞伎役者は当時のスターであり、民衆の憧れであったため、役者の姿が描かれた浮世絵は、民衆の娯楽として親しまれました。また、役者たちは、民衆の流行にも影響を与えたため、その絵画のファッションや装飾は、当時の人たちの流行に影響を与えました。
大首絵は、当時の歌舞伎役者の魅力や時代の特徴を記す貴重な資料として扱われています。
代表的な作品には、歌川豊国の『市川團十郎』や東洲斎写楽の『三世大谷鬼次の奴江戸兵衛』などがあります。これらは、歌舞伎役者の姿を大胆に描写した作品として有名です。
役者の風貌や衣装など、細部まで描写され、芸術性とリアリティの高い作品となっています。
春画
春画とは、性的な行為を描いた作品で、今でいうポルノ作品にあたり、江戸時代の人々に広く親しまれ、受け入れられてきました。
春画は、性的な興奮や快楽の楽しみだけでなく、江戸時代の風俗や性文化を伝える資料でもあり、日本の伝統的な美術作品として評価されています。
絵画の性質上、一般的に公開されることは少ないですが、日本の文化や歴史を知るための貴重な資料です。
春画を描いた絵師の中にも専門的に手がけた作家もおり、その描写は、鮮烈な色彩で情熱的な表現が伝わる作品になっています。
性質上タブー視されがちなジャンルではありますが、その美しく繊細な作品の技法は、芸術性も高く、日本の伝統的な美術品として評価されています。
代表的な作品は、喜多川歌麿の『歌満くら』です。
春画の最高傑作ともいわれているこの作品は、露出が少ないものの男女の風情ある空気感が多くの人々を魅了しました。
また、葛飾北斎の『蛸と海女』は、春画本である『喜能会之故真通』に掲載されていたもので、絵の背景を文字が埋め尽くしており、現代でいう官能小説のような役割を持っている作品です。
人気ジャンルだった「役者絵」と歌舞伎
江戸時代の娯楽として人々の憧れであった歌舞伎は、今でいうアイドルのような存在でした。そのため、役者絵は今でいうブロマイドのような存在で、人々の人気を集めていました。
今では美術品としてのイメージの強い浮世絵ですが、江戸時代は庶民にとって身近な存在でした。
役者絵に描かれるファッションや装飾は、流行の最先端であり、今でいうインフルエンサーのような存在だったでしょう。
東洲斎写楽は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師で、特に役者絵のジャンルで有名です。
写楽は、本当の名前が隠されており、通称である『写楽』の名で知られています。その正体は謎に包まれていて、短期間の間に多くの作品を残したにもかかわらず、その姿や経歴などは知られていません。
写楽は役者絵を得意とし、独特な表現で多くの名作を生み出しました。
写楽の作品は、役者の個性や演技の特徴をとらえ、鮮やかで繊細に、かつ表情も生き生きと描写されています。写楽は、役者絵のほかにも春画や美人画などの作品も残していますが、役者絵の分野では特に秀でていました。
江戸時代の歌舞伎は、一般の人々に人気のあるエンターテイメントであり、歌舞伎役者はスターとして人々に愛され、親しまれてきました。
役者絵では、そのような歌舞伎役者の姿や演技の様子が描かれ、歌舞伎を観劇できる人もできない人も楽しませる身近な娯楽でした。
浮世絵にはさまざまなジャンルがあった
これまでにあげた以外にも、歴史を題材にした歴史絵や、戦国時代の合戦を描いた戦国絵巻などさまざまなジャンルが存在し、時代によって変化してきました。
流行が変化すると、浮世絵もさまざまな変化を遂げながらも、庶民の身近に存在しました。
当時は、庶民にとって身近な浮世絵ですが、現代では日本の歴史や文化、風俗や当時の生活の様子などを伝える貴重な芸術作品として親しまれています。
多くの人に愛され、日本だけではなく世界中に多くの浮世絵ファンがいるといえるでしょう。