大阪・中之島美術館で開催されている「生誕150年記念 上村松園」展へ行ってきました。
女性が職業を持つことが今よりも難しかった時代、女性画家という生き方を切り拓いた上村松園。彼女だからこそ描けた、女性の美しさを堪能することができる、大満足の展示について、ご紹介していきます。
目次
女性の美しさとは?上村松園の美人画にある、日常と暮らし
![「生誕150年記念 上村松園」大阪中之島美術館 [引用元:大阪中之島美術館 公式HP]](https://nakka-art.jp/wp10/wp-content/uploads/2024/09/960_480px.jpg)
美人画といえば、どんなものを想像しますか?
あまりに有名な美人画《見返り美人図》(菱川師宣)はもちろん、これまで多くの美人画が描かれてきました。顔立ちの整った女性、美しい着物をまとった女性、ポーズを決めこちらに目線を送る女性――しかし、上村松園の描く美人画は、それらとは違い、日常を生きる女性の内面の美しさを数多くの作品に描いています。
幼いころから父はなく女手一つで育てられた松園が、彼女の母に感じた女性の美しさが、その女性観の根幹になっているのかもしれません。
柔らかなタッチと細部まで描きこまれた繊細な美しさにうっとりと引き込まれる作品が、なんと100件以上。生誕150年を迎える、日本女性画家の先駆者・上村松園の世界をこの展示では堪能できます。
まさにこの人以外ありえない!木村多江さんの音声ガイダンス
美術展鑑賞をより充実したものにするために欠かせない、音声ガイダンス。
作品の観賞ポイントや作家のエピソード、時代背景などが紹介されるため、私はぜひ音声ガイダンスをお供にしていただくことをいつもオススメしていますが、今回の「上村松園」展では、いつもより声を大にしてオススメしたい!
上村松園の世界感にはこの人以外ありえない…という満足度の高かった音声ガイダンス、俳優・木村多江さんの案内。
-1024x768.jpeg)
作品解説の充実度はもちろんのこと、彼女の優しくも芯のある語りが、まさに上村松園の描いた女性像・美人像を表しているようで、実にひびきがよく心地の良い時間を過ごすことができますよ。
母を描いた《青眉》に、女性の強さと優しさを感じる
青眉(せいび)とは、結婚して子どものいる女性がしていた眉をそり落としたさまのこと。上村松園の描いたこの作品《青眉》のモデルは、彼女の母。
女手ひとつで彼女を育て、好きなことを仕事にしろと松園の背中を押した彼女の母の姿が描かれています。
この「生誕150年記念 上村松園」展は、年代順ではなく、テーマ別に作品が展示してあり、この《青眉》は展示の冒頭で私たちを迎え入れてくれていました。
上村松園は生涯独身だったのですが、この《青眉》をはじめとした彼女の作品には、母としての女性の姿が多く描かれています。強く、そして優しい母親の姿こそが、松園の描く「美人」であったといえるでしょう。
このほかにも重要文化財である《母子》の展示もあり、松園の描く母親としての女性の美しい姿を鑑賞することができます。
-1024x768.jpeg)
月を描かずして月を描く――松園の描いた、季節
テーマのひとつにある「季節を描く」では、松園が描いた季節とそこに暮らす女性たちの姿を多くみることができます。
足元に散る桜の花びら、赤く染まる紅葉など、“定番”ともいえる季節や風景はもちろんですが、松園の作品の見どころはそれだけではありません。
![《待月》上村松園 [引用元:大阪中之島美術館 公式HP]](https://nakka-art.jp/wp10/wp-content/uploads/2024/12/uemura-machi.png)
《待月》は、月を待ちわびる女性の後ろ姿が描かれており、少し前かがみに伸びた首筋やうちわを持つ手の指先から、このあと女性が目にするであろう月の明かりを想像させてしまう作品。月を描かずして、鑑賞者に月を見せてしまう――今まさに夜を迎えた空気と風を運んできそうな作品でした。
また、上村松園の作品には、傘を持つ女性も多く描かれていますので、その所作にも注目してみてください。
あぁ、強い風が吹いているのだな、とか、雨足が強く足元が濡れないように着物の裾を気にしているのかしら、とか、そういった画面には描かれていない、あるいは、画面の外にある風景まで見えてきます。
「真・善・美」松園の求めた女性像とは
上村松園の美人画は、女性の内面の美しさや品格を追求したもので、「真・善・美」を基盤とした理想的な女性像を描きました。
では、この「真・善・美」とはどういったものでしょうか。
「真」:真実であること
「真」は物事の本質や真理を指し、偽りのない純粋な姿を追求することを意味します。松園は女性の外見だけでなく、その内面性や精神性を描くことにこだわりました。
例えば、代表作《序の舞》では、舞を踊る女性の気高さや精神的な集中が描かれています。これは単なる外見的な美しさではなく、真実味ある人間性を表現したものです。
「善」:善良であること
「善」は道徳的な美しさや品格を指します。松園は女性像において品位や優しさ、誠実さといった人間としての善性を強調しました。また、「卑俗なもの」を嫌い、絵画においても不道徳なテーマや低俗な表現を避けたとされています。例えば、《母子図》などでは母親と子供の愛情や絆が描かれ、女性の善良さや慈愛が表現されています。
「美」:美しさそのもの
「美」は視覚的な美しさだけでなく、精神性や感情から滲み出る美しさも含みます。松園は日本画独特の繊細な技法で女性像を描き、その姿に高貴な美しさを宿らせました。
松園の美人画には、優雅で洗練された着物の模様や色彩、細部まで丁寧に描かれた髪型などが見られます。これらは日本文化特有の美意識を反映したものであり、作品全体に調和と品格を与えているといえるでしょう。
松園のこういった考え・視点は、彼女の作品の細部にまで宿っています。
単に若く見た目の美しい女性を描くのではなく、内面や生き方にその美しさを感じ描き続けたからこそ、今も私たちは彼女の描いた女性に、親しみや懐かしさ、敬意を感じざるを得ません。
豊かな着物の柄もグッズに!
上村松園の作品には、美しい柄の着物や帯が多く描かれています。
暮らしの中でちょっとしたオシャレを楽しんだり、季節をまとったりする女性たちの心情が、その色や柄に表れているよう。
会場にはそんな絵柄をモチーフにした、ヘアアクセサリーやバッジなどのグッズも多くありました。
美術館鑑賞の思い出に、ぜひお気に入りを見つけてみてくださいね。
-300x225.jpeg)
女性とは?松園の作品からその強さと優しさを知る
女性画家がまだ珍しかった時代。
上村松園はまさにその後の時代を切り拓いた女性画家のパイオニア的存在だったと言えるでしょう。
彼女の描く女性は、彼女自身あるいは彼女が理想とした彼女だったのかもしれません。
ジェンダーの課題など、性や生について考えさせられることの多い、昨今。
しかしながら、誤解を恐れずに書くのではれば、やはり、女性という性だからこそある強さや優しさ、そして生き方があるのではないでしょうか。
私自身、そういったことを考えさせられ、そして勇気づけられた気がする展示となりました。
開催情報
「生誕150年記念 上村松園」
場所:大阪中之島美術館
住所:〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島4-3-1
Google Map:https://maps.app.goo.gl/zmTacpQMHzqPdseg9
期間:2025/03/29~06/01
公式ページ:https://nakka-art.jp/exhibition-post/shoen-2025/
チケット:一般1,800円、高・大生1,500円、中・小学生500円
※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
-769x1024.jpeg)

