目次
神出鬼没で謎の多いグラフィティアーティスト「バンクシー」とは
バンクシーは、正体を明かすことなく、世界中の壁やストリート、橋などさまざまな場所にメッセージ性の強いグラフィックを描き話題を集めました。
神出鬼没で、本名や年齢、性別など多くの情報が謎に包まれており、初期の活動場所がイギリス中心であったことから、イギリス人ではないかと推察されています。
バンクシーの作品は、いつどこで描かれているのか分からず、夜が明けてみるといつの間にか壁に作品が描かれていたというものがほとんどです。
中学を退学になりグラフィティ活動を開始する
バンクシーがグラフィティ活動を始めたのは、中学校を退学したことがきっかけであったといわれています。
中学生のころ、大けがを負ったクラスメイトの事故の犯人であると疑われ、濡れ衣を着せられて地元ブリストルの中学校を退学になってしまったそうです。
そして、14歳ごろからグラフィティ活動をスタートさせました。
当初は、フリーハンドで作品を描いていましたが、街中の壁やストリートに絵を描く行為は違法であるため、スピーディに作品を完成させ警察に捕まらないよう、途中からステンシルを使うようになったそうです。
社会を風刺した鋭いメッセージ性のある作品
バンクシーは、消費社会や戦争など、政治や資本主義的な社会を痛烈に風刺する作品を多く残しています。
人々に議論を促し、社会問題に目を向けさせることがアートの役割であると、バンクシーは語っており、グラフィティアートを通じて、現代社会の在り方に問題提起をし続けているのです。
バンクシーは、積極的にチャリティ活動を行っており、地元のブリストルでは展覧会を開催して現地経済を活性化させたり、多くの慈善団体や施設に寄付や作品の寄贈を行ったりしています。
『The Son of a Migrant from Syria』は、フランスの難民キャンプがあるカレー地区にある作品で、古いパソコンと大きな袋を手に持つスティーブ・ジョブズが描かれています。この作品は、難民支援を訴えかけているといわれており、難民の受け入れをしなければ、未来のスティーブ・ジョブズの可能性を奪うかもしれないというメッセージが込められているのです。
実は、スティーブ・ジョブズは、シリア移民の息子であったのです。
移民の受け入れは自国の負担を大きくし、資源を枯渇させてしまうと不安視されていますが、シリア移民の息子であったジョブズが創設したアップルは、世界で最も高い利益を上げている企業であり、年70億ドル以上もの税金を国に納めています。
アップルがこれほどまでに大きな企業になったのは、シリアの移民を受け入れたからだと、訴えかけています。
『Shop Until You Drop』は、ロンドンの高級ショッピング街のビルの高層部分に描かれた作品です。
ショッピングカートを押す女性が落下する様子が描かれており、消費社会への風刺を描いているといわれています。
買い物に夢中で足元を見ずに踏み外してしまったのか、高価な買い物をし続け人生から転落してしまったのか、どちらにせよ消費することで経済を回す資本主義に対する痛烈な批判ともとれる作品です。
バンクシーの作風:3つの特徴
バンクシーが制作される作品の主な特徴は、グラフィティアート・ステンシルアート・ネズミのモチーフです。
グラフィティアートを多く手がける
グラフィティは、落書きの意味を持ち、グラフィティアートとは、1960年代末から1970年代のニューヨークの街や地下鉄、高架下などの壁面に描かれるようになった絵を指しており、ストリートアートとも呼ばれています。
バンクシーは、公共の壁面にスプレーで作品を描いていることから、グラフィティアートの一つといえるでしょう。
ステンシルアートを用いている
バンクシーのグラフィティアートには、ステンシルアートが用いられています。
ステンシルアートとは、ステンシル(切り抜き版)を利用して描くアートのことで、あらかじめ描きたい絵の形にくり抜いた型に、ペイントやスプレーをかけ作品を制作していく手法です。
型を準備しておけば、壁面に設置してスプレーを吹きかけるだけで描けるため、神出鬼没で誰にも見つからないように描かなければいけなかったバンクシーにぴったりの手法といえます。
このステンシルアートは、バンクシーが開発したものではなく、パリのグラフィティアーティストであるブレック・ル・ラットによって、1980年代にはすでに取り入れられていました。
ブレックは、ステンシルアートの父とも呼ばれており、ラットをはじめとした動物をモチーフにしていたこともあり、バンクシーは彼に影響を受けていたとも考えられています。
ネズミのモチーフをよく描いている
バンクシーは、世界中のあらゆる場所にネズミをモチーフにした絵を描いています。
ネズミはさまざまなパターンで描かれており、例えば、落書きのための筆やスプレー缶をもったネズミ、ローラーやペンキ缶をもったネズミ、メッセージが書かれたプラカードを掲げるネズミ、傘をさすネズミ、ラジカセで音楽をかけるネズミなどがあちこちに描かれています。
街中に潜むネズミは、ゴミにまみれ、地下を走り回って病原菌をまき散らす厄介な存在でもあり、そのネズミを文明開化された都市から切り離された人々、いわゆるマイノリティな存在と重ね合わせて社会へ訴えかけていると考えられるでしょう。
また、ネズミはバンクシー自身を表しているともいわれています。
グラフィティアートは、本来禁止されている場所に作品を制作するため、都市の中に身を潜め、人目を忍んで描きます。夜の街に突如として現れて作品をこっそりと制作する自分自身を、ネズミに重ね合わせているともいえるでしょう。
そのため、街中に描かれているネズミの多くは、グラフィティを描くための道具を持っているとも考えられます。
バンクシーが起こした4つの大事件
謎の多いバンクシーは、グラフィティアートを使った前代未聞の事件をいくつも起こしています。
複数の有名美術館で作品を勝手に展示
バンクシーは、有名美術館に自分の作品を勝手に展示するという、異例の大事件を起こしています。
世界中の美術ファンが訪れるロンドンのテート・ブリテン美術館。
2003年、第七展示室を映し出す監視カメラには、つばの広い帽子とオーバーコート身につけた一人の男の姿が映っていました。男性は、ある壁面の前で立ち止まり、紙袋から額装と絵を取り出すと、なんと美術館の壁面に絵を勝手に飾り始めたのです。
そして、壁に絵を飾り終わると、何食わぬ顔で美術館を後にしました。
この飾られた作品がバンクシーのものであると判明したのは、絵の横に貼られた作品解説ラベルにバンクシーと書かれていたからでした。
勝手に飾り付けられた作品は、2時間半後に絵が自然に落ちるまで、誰も展示に気付かなかったそうです。
バンクシーは、大英博物館、ロンドン自然史博物館、ルーヴル美術館、ニューヨーク近代美術館、ブルックリン美術館など世界規模のミュージアムでも同じように自分の作品を勝手に展示しています。
美術品を盗難するのではなく、自分の作品を展示品として飾る行為は、前代未聞の事件として話題を集めました。
動物園の檻の中に侵入し作品を描く
美術品の展示事件を起こしたころと同じ時期に、バンクシーは動物園にも侵入して作品を制作しています。
バンクシーは、バルセロナの動物園の象が入っている檻に侵入し、壁一面に縦に棒を4つ並べ、横線を1本引いた記号を壁一面に描きました。
まるで遭難者が、遭難してから何日が経過しているかを記録しているようなこの作品は、動物園の存在意義を問いかけているようです。
ブリストルやロンドン、メルボルンなどの動物園の檻にも不法侵入し、作品を制作しています。
檻の中のサルが「おいらはセレブだってば。ここから出せよ」と手書きされた段ボールを手にしていたり、ペンギンの暮らす囲いの壁面には「魚ばっかりで飽きちゃったわ」というセリフがペイントされていたり、まるで動物園の囚われた動物たちの声を代弁しているようなアートを残していったのでした。
期間限定「ディズマランド」を開園
バンクシーが「悪魔のテーマパーク」というコンセプトで開園させたのが、ディズマランドです。
2015年8月から5週間の期間限定でオープンしたディズマランドは、ロンドンから電車で2時間ほどの距離にあるウェストン・スーパー・メアという地域に作られました。
この場所はバンクシーの出身地とされているブリストルからもほど近い場所にあります。
ディズマとは「陰鬱」「不愉快」などの意味をもっており、「Amusement Park」ではなく、「Bemusement(困惑) Park」と銘打っています。
17か国、約50人の現代アーティストによる作品があちこちに飾られているのが見どころです。
また、入口のセキュリティからユーモアが溢れており、入管・税関、保安検査場のように見せている入場ゲートは、すべて段ボールで作られています。
テーマパーク内には、風刺を利かせたさまざまな作品が展示されていて、子どもが楽しむというよりも大人が考えさせられるパークであったといえるでしょう。
世界中を驚愕させたサザビーズのシュレッダー事件
世界を驚愕させた有名な大事件といえば、シュレッダー事件を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
2018年10月5日のロンドンで開かれたサザビーズオークションで、バンクシーの『風船と少女』の落札が行われました。
100万ポンドの値がつき、落札された直後、額縁の下部に隠されていたシュレッダーによって作品が裁断されてしまったのです。
作品の半分ほどが切り刻まれたところでシュレッダーは止まり、作品はスタッフによって運び出され会場を後にしました。
バンクシー本人のSNSでも切り刻まれる瞬間の様子が動画で投稿されており、衝撃を受けた人も多いでしょう。
シュレッダーにかけられたのち、『風船と少女』は『愛はごみ箱の中に』とタイトルが変更されました。
『風船と少女』を落札した人物は大変驚いたそうですが、このできごとにより価値が高まったとし、そのまま『愛はごみ箱の中に』を購入したそうです。作品は、落札者のもとへ送られる前に、サザビーズのギャラリーで2日間展示されたのち、ドイツのフリーダー・ブルダ美術館にて1か月間展示されました。
年表:バンクシー
バンクシーはその正体が分からず、年齢なども不明のため、主なできごとを中心に年表にまとめました。
西暦 | できごと |
2001 | メキシコ・チアパス州で壁画を描く。 |
2003 | ゲリラ個展『ターフ・ウォー』をロンドンで開催。バンクシーの名前がイギリス中に広まる。 |
2005 | 大英博物館に『ペッカム・ロック』を無断で陳列。ヨルダン川西岸地区の分離壁に9つの絵を残す。 |
2006 | ブリストルで裸の男がバスルームの窓からぶら下がる壁画を描く。パリス・ヒルトンのデビューアルバムのフェイクを制作し、レコードショップに無断で陳列。 |
2007 | ヨルダン川西岸地区ベツレヘムで分離壁にステンシル画を描く。 |
2009 | 『Banksy versus Bristol Museum』を開催し、注目を集める。 |
2010 | 『ザ・シンプソンズ』のオープニングアニメーションを演出。 |
2013 | ニューヨークでアーティスト・イン・レジデンス『ベター・アウト・ザン・イン』を開催。 |
2015 | ガザ地区にて破壊された家の残骸にグラフィティを描く。『ディズマランド』をオープン。 |
2017 | ベツレヘムに『ザ・ウォールド・オフ・ホテル』を開業。 |
2018 | サザビーズオークションにて『赤い風船に手を伸ばす少女』がシュレッダーで切断される。 |
2019 | 兵庫県洲本市でバンクシー作とみられるネズミの絵が発見される。 |
2020 | 新型コロナウイルスと戦う医療従事者をテーマに『Game Changer』を発表。 |
2021 | 『愛はごみ箱の中に』が再び競売にかけられ、過去最高額で落札される。 |
2022 | ウクライナにてロシア軍によって破壊された都市で7点の作品を発表。 |
2023 | スコットランド・グラスゴーで14年ぶりの公式個展『CUT&RUN』を開催。 |
2024 | イギリス・フィンズベリー・パークで新たな作品を発表。 |