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迫力ある作品で見ごたえのある「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」レポ
皆さんは、現代美術といわれてどのような作品を思い浮かべますか? 絵画作品や彫刻作品を思い浮かべる人もいれば、さまざまな素材で作られたアート、映像作品などを想像する人もいるでしょう。 簡単にイメージを挙げただけでも多彩なアート作品が出てくるように、現代美術は一つのジャンルに捉われないアートなのです。 アーティスト一人ひとりが内に秘めていたメッセージを放出する方法は、人それぞれ。 枠にとらわれず自由な発想で作品を制作されているのが現代美術の醍醐味でもあります。 今回は、東京都現代美術館で開催されている「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」に行ってきました。 精神科医・高橋龍太郎が収集した100人以上の作家による作品を、広大な敷地を誇る東京都現代美術館にて堪能しましょう。 「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」は東京都現代美術館にて開催中 東京都現代美術館で開催されている「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」は、日本の現代美術の質と量ともに最高峰のコレクションで形成された企画展です。 この膨大な数の現代美術コレクションを収集したのが、精神科医の高橋龍太郎。 団塊世代の始まりに生まれた龍太郎は、1990年代半ば以降、3500点を超えるコレクションを一人で収集してきました。 今回の企画展では、その高橋龍太郎コレクションの中から選りすぐりの作品が紹介されています。 さっそく東京都現代美術館に入ると、正面左手側にチケットカウンターがあるため、まずは企画展のチケットを購入します。 館内にはロッカーが配置されているため、チケット購入後、不要な荷物がある方はロッカーを利用しましょう。 展示について 企画展では、総勢115組の作品が館内の1FとB2Fに分かれて展示されています。 また、展示は以下6つの章で構成されています。 1.胎内記憶 2.戦後の終わりとはじまり 3.新しい人類たち 4.崩壊と再生 5.「私」の再定義 6.路上に還る 1章の胎内記憶では、龍太郎が本格的に収集を開始する以前の1990年代半ばまで、いわゆる戦後50年間のコレクションを、龍太郎の「胎内記憶」として展示しています。 龍太郎はのちに、この時代のできごとや美術に思いを馳せながら現代美術を収集します。 1章では、龍太郎が若き日に影響を受けた芸術家たちの作品を辿っていきましょう。 2章の戦後の終わりとはじまりでは、1990年代半ばから本格的にコレクションを開始したあとの作品がメインです。 バブル崩壊や阪神大震災、オウム真理教事件など、社会全体を揺るがすような事件が起こったこの時代、日本の現代美術はグローバル化していきました。 会田誠や村上隆など、多くの新しい才能が世界に羽ばたいていきました。 3章の新しい人類たちでは、企画展全体を貫く最も重要なテーマとして、人間をメインに制作された作品に焦点があてられています。 芸術を通して人間の諸相に触れ、創造性の根源を探りたいという欲求は、精神科医でもある龍太郎のコレクションの真相に流れ続けているのです。 4章の崩壊と再生では、東北地方にルーツをもっている龍太郎は、東日本大震災や福島第一原発の事故により、大きな感覚の変化が起こりました。 この章では、一連のできごとがきっかけとなり生み出された作品群も多く展示しています。 5章の「私」の再定義では、自分自身を見つめなおしたり、問い直したりする作品が多く展示されています。 東日本大震災以降、強い主張にリアリティが感じられなくなり、不完全・未完成のもの、 自身の外側で起こる現象や環境そのものの流れにゆだねるような作品が多くなっていったのです。 6章の路上に還るでは、ストリートから世界を見る若きアーティストたちに焦点をあてた作品が多く展示されています。 ゼロから生み出すというよりは、環境が与えている現象やシステムなど、すでに存在している条件を編集して作品が生成されています。 高橋龍太郎コレクションは巨大で迫力のある作品も盛りだくさん 今回の企画展では、絵画や彫像などのジャンルに捉われることなく、自由な発想で制作された現代美術作品が多数展示されています。 全体的に大きな作品が多く迫力があり、現代美術が表すメッセージや芸術性に圧倒されながらの鑑賞となりました。 展示室には、必要に応じて注意書きの案内板が設置されています。 撮影のできない展示室では、撮影禁止の案内板が設置されているため、思い出として写真に収めたいと考えている方は、案内板を確認してから撮影をしましょう。 また、撮影可能となっている展示室内でも、作品の近くに禁止マークのある作品の撮影は禁止されています。 間違って写真を撮らないよう注意が必要です。 ここからは、気になった作品の一部を紹介していきます! 1章では、草間彌生が制作した有名な『かぼちゃ』の絵画が展示されていました。 黄色に黒の斑点模様が描かれたかぼちゃの絵やオブジェは、美術に興味あるなし関係なく、見かけたことがある人も多いでしょう。 正面より斜めから見ると立体的に見えるような感覚があるため、ぜひさまざまな角度から鑑賞してみてください。 そのほかにも、オブジェや映像作品など、さまざまな草間彌生コレクションが展示されており、草間彌生好きの方にもお勧めの企画展です。 2章の作品で気になったものをいくつか紹介します。 『當世おばか合戦』山口昇 1999年/油彩・キャンバス 油彩、やまと絵、浮世絵などの伝統美術を、過去・現在・未来、西洋・東洋、現実・空想などと融合させた独自の世界観が魅力の山口昇が描いた作品です。 この作品には、数多くのユーモアが隠されており、何度もじっくり鑑賞し、何が融合しているか探したくなってしまいます。 作品の中央より少し左側に巨大な骸骨が描かれており、合戦を迫力あるものにしています。 巨大な骸骨を見ると、歌川国芳の描いた『相馬の古内裏』の巨大骸骨を思い出す人もいるのではないでしょうか。 迫力ある合戦の後方では、洋式トイレで用を足しながらハンバーガーをむさぼる武士の姿が! なんとも滑稽ですが、それよりも違和感なく洋式トイレやハンバーガーが登場していることに、くすっと笑えてしまいます。 こちらには、馬にまたがった武士たちがすぐにでも突撃しそうな様子が描かれていますが、よく目を凝らしてみると右側の武士たちが乗っている馬に車輪がついています。 現在と過去を自然と融合させた構成に感動し、隅から隅までじっくりと作品を堪能しました。 このほかにも、まだまださまざまな融合やユーモアが描かれているため、ぜひ自分の目で新しい融合を発見してみてください。 『Crash セイラ・マス』西尾康之 2005年/陰刻鋳造・ファイバープラスター・鉄 展示会場を進んでいくと、突然巨大な彫刻が目の前に現れました。 西尾康之は、肉感的でスケールの大きな人物表現が注目を集めている作家で、陰刻鋳造を得意としています。 この作品は、機動戦士ガンダムの男性を鼓舞する登場人物をモチーフにしており、ヒロイズムに対する批判や戦闘に繰り出される者の脅迫的な心理状態が投影されています。 規模が大きくリアルな造形に圧倒されるとともに、ぐるっと360°回って鑑賞できる点も印象に残った作品です。 さまざまな角度から見て表情の違いや、細部まで作り込まれた様子を鑑賞できるのはうれしいポイントです。 作品の下に鏡が設置されており、覗いてみると作品の内部まで鑑賞できるようになっています! 細かく作り込まれた作品の内部まで見たり、また全体から見てみたりと、好きな視点を見つけて鑑賞を楽しみましょう。 『ネオ千手観音』天明屋尚 2002年-2003年/は、アクリル絵具・ブラックジェッソ・木 天明屋尚は、日本の伝統的な絵画を現代に転生させる「ネオ日本画」をテーマに作品を制作しています。 この作品では、描かれた人物がみな銃を持っています。 千手観音がすべての手に銃やナイフなどの武器を構える様子は、迫力がありました。 また、銃の色合いとそのほかの構成の色合いがマッチしているため、違和感なく日本画風の絵の中に銃が溶け込んでいます。 千手観音に銃を持たせたのは、信仰と暴力は対極に見えて紙一重であると考えているためだそうです。 3章でも、また大きな彫刻作品が展示されていました! 『Jamboree-EP』森靖 2014年/楠 この作品のモデルになっているのは、アメリカを代表するポップスターのエルビス・プレスリーです。 巨大な作品で、パーツごとにつぎはぎで組み合わされているのが印象的でした。 また、感情を込めて歌っていることが分かるような目をぎゅっとつむった表情が、リアルで魅入ってしまいました。 また、エルビスをモデルにしていますが、この作品の胸には膨らんだ乳房がついています。 これは、モニュメントのはらむ男性性からエルビスを解き放ち、記号性に捉われているわたしたちの潜在意識に問いを投げかけているそうです。 展示室は、1FとB2Fに分かれているため、エスカレーターを使ってB2Fに移動します。 すでに巨大な作品たちに圧倒されていましたが、地下にはさらに大規模な作品が待っていました! 絵画の企画展では味わえない、現代美術ならではの展示方法に感動しつつ、地下の作品も見て回っていきます。 大規模な作品が展示されている部屋の隅に、別の小部屋に入れる場所があり、そこを覗いてみると、真っ暗な部屋でスピーカーがキューブ状になったオブジェがライトで照らされていました。 また、この作品からは常に音が発せられていました。 『GHOST CUBE』KOMAKUS 2019年/音声・スピーカー この作品から発せられているのは、詩人である吉増剛造による詩の朗読音声や、日記のように録音してきた日々の呟きです。 大量生産された使用済みのスピーカー54台を組み立て、まるで一つの生命体から声が発せられているように感じられます。 ほかにも大きく奇抜な作品が多く展示されており、すべての展示室が見どころ満載でした。 B2Fの別の部屋では、映像を活用した作品が多く展示されているスペースもありました。 現代美術の形は常に進化し、新たな創造が生まれているのだなと感じさせられます。 ミュージアムショップには多彩なグッズも ボリューム満点の企画展を鑑賞し終わったら、ミュージアムショップを覗いてみましょう。 こちらでは、現代アートに関連する書籍や、多彩なアーティスト、クリエイターなどによるユニークなグッズを販売しています。 今回の企画展「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」の図録は、まだ販売されておらず、9月中旬刊行予定と案内が出ていました。 会場限定オリジナルしおり付きで先行予約も受付けているため、企画展を鑑賞してもっと魅力を知りたいと感じた方は、予約しておくのもよいでしょう。 有名作家から新たに頭角を見せる若手画家の作品まで楽しめる企画展 高橋龍太郎が集めた個人では世界最大級の現代美術コレクション。 今回の企画展では、膨大な現代美術作品から選りすぐりの作品を楽しめる魅力があります! 絵画の企画展とは異なり、規格外の大規模な作品も数多く存在し、迫力のある展示会を体験できます。 東京都現代美術館には、美術図書室があり、展示会を鑑賞した後は、気になった作家の作品を調べてみたり、作家自身について調べてみたりするのもお勧めです! 膨大なコレクションを鑑賞しながら、現代美術の移り変わりも楽しみましょう。 開催情報 『日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション』 場所:東京都江東区三好4丁目1−1 期間:2024/8/3~2024/11/10 公式ページ:https://www.mot-art-museum.jp/ チケット:一般2100円 大学生・専門学校生・65歳以上1350円 中高生840円 小学生以下無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.11.09
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国宝や重要文化財の宝庫「東京国立博物館」の常設展を観に行ってみた!
東京の上野公園内にある大規模な博物館「東京国立博物館」を知っていますか? 東京国立博物館には、150年以上にわたり受け継がれてきた約12万点の収蔵品があります。 そのうち、国宝が89点、重要文化財が648点と、質と量ともに日本を代表するコレクションといえるでしょう。 総合文化展では、常に3000件以上の収蔵品や寄託品を展示しており、見どころがたくさんです! 今回は、国宝や重要文化財などの貴重な品を収蔵・展示している東京国立博物館の総合文化展を観に行ってきました。 東京国立博物館は5つの展示館からなる博物館 東京国立博物館は、上野駅からすぐの場所にある上野公園内に建設されている博物館です。 上野公園内の中でも開放感があり、噴水が涼しげな空気を作り出してくれている広場の奥に博物館があります。 平日の11時ごろに訪れましたが、すでにチケット売り場には行列ができていました。 また、上野公園内を歩いているときから感じていましたが、外国人観光客も多くチケット売り場に並んでいます。 体感では、日本人よりも外国人観光客のほうが多かったように感じます…! そのため、平日でもある程度の混雑が予想されます。 東京国立博物館自体、広く展示数も多いため、ゆっくりと見て回りたい方は、朝一の開館と同時に入館するのがおすすめです。 チケットを購入してさっそく敷地内に入ると、建物がいくつも建ち並んでいます。 どこから行けばよいか迷ってしまう方は、まずは本館の展示から鑑賞するのがおすすめです。 本館と平成館は建物内でつながっているため、本館の作品を鑑賞した後に外に出なくともそのまま平成館の鑑賞も楽しめます。 東京国立博物館の総合文化展では国宝・重要文化財がいくつも展示されている 東京国立博物館の特徴といえば、収蔵・展示されている国宝・重要文化財の数が多いこと! 現在は、国宝が89点、重要文化財が648点収蔵されています。 美術品の中でも、歴史的・文化的価値が高く大変貴重なものが指定される国宝と重要文化財。 国民的財産を一目見てみたいという方も多いでしょう。 東京国立博物館では、一つや二つだけでなく、数十点、数百点の国宝と重要文化財が展示されており、国の宝を一目見てみたい!という方にもおすすめの博物館です。 東京国立博物館には、本館・平成館・東洋館・法隆寺宝物館・黒田記念館・表慶館の6つの展示館があります。 黒田記念館では、洋画家の黒田清輝の作品が展示されており、表慶館は基本的に特別展やイベントが開催される建物です。 今回は、それ以外の4館に展示されている作品について紹介していきます。 本館:日本の美術 日本美術を取り扱っている本館の展示は、1階と2階に分かれています。 2階では、日本美術の移り変わりが分かるよう時代別に展示が行われており、日本美術のもつ独特で豊かな魅力を堪能できる展示になっています。 1階の展示は、彫刻や近代美術、刀剣などジャンル別に深堀していけるような展示になっていました。 アイヌ文化や琉球文化に関連した歴史資料も多く展示しており、美術品の鑑賞を楽しむとともに歴史の勉強もできるため、子どもの学びにもぴったりです! 本館1階から2階に上がる大階段は、ドラマやミュージックビデオなどでもたびたび使われており、博物館に行ったことがない人でも見覚えがあるかもしれません。どこから見ればよいか迷ったら案内図に表示されている番号順にみていくとスムーズに進めます。 本館に設置されている案内板には、写真撮影禁止のマークがある作品のみ撮影ができないと案内が書かれています。 撮影OK作品と同じように間違えて撮影しないよう、作品の近くにマークが設置されていないか必ず確認してから写真を撮るようにしましょう。 十六羅漢像(第三尊者) 平安時代・11世紀 国宝(1952年指定) この作品は、滋賀の聖衆来迎寺に伝来した現存する最古の十六羅漢像の一幅です。 お堂の前に経机をおいてイスに座っているのが羅漢です。 羅漢とは仏教を開いた釈迦の教えを守り伝える聖者であるといわれています。 本館の国宝室に飾られていたこの作品は、鮮やかな色合いが今でも残っており、描かれた平安時代のころには、さらに色彩豊かな掛軸であったのだろうと感じられました。 服やものの輪郭ははっきりと描かれていますが、顔の輪郭は薄く柔らかな線で描かれているような印象を受けました。 この作品は、絹の裏側から絵具を塗って絹目を通して柔らかな彩色効果を生み出す裏彩式と呼ばれる技法が用いられています。 裏彩式と柔らかな輪郭線により、800年以上経った今でも温かみのある絵に見えるのでしょう。 康円作 鎌倉時代・1273年 木造/彩色/玉眼 重要文化財 真ん中の獅子に乗っているのが文殊菩薩、左端から大聖老人、于闐王、善財童子、仏陀波利三蔵です。 文殊菩薩と4人の従者が海を渡る「渡海文殊」の群像を表現した像です。 光背の細かなデザインや衣服のシワやヨレなども巧みに表現されている点に感心しました。 また、黒い床と背景に置かれた立像は、照明によって光り輝き、神々しさを演出している点も印象に残っています。 照明により背景に映し出されているシルエットの光背もとてもきれいでした! 平成館:日本の考古 平成館の1階にある考古展示室では、旧石器時代から江戸時代までの歴史をたどりながら考古資料を鑑賞できます。 縄文時代の土偶や弥生時代の銅鐸、古墳時代のはにわなど、教科書で見たことがある作品もたくさん見かけるかもしれません! 現在タイムリーで勉強中のお子さんとも一緒に学びながら楽しめる展示ですね! 扁平鈕式銅鐸 弥生時代(中期)・前2~前1世紀 伝香川県出土 青銅製 国宝 銅鐸とは、弥生時代に作られた釣鐘の形をした青銅器のことで、当時祭りに用いられていたといわれています。 扁平鈕式銅鐸は、弥生時代の中期に作られたとされており、描かれている模様をよく見てみると、魚をついばむ鳥や、イノシシ猟などが表現されています。 また、杵で臼をつく人や梯子がかけられた高床建物も描かれていることから、銅鐸が農耕祭祀と深いかかわりがあるのではと考えられるようになったそうです。 この銅鐸は、弥生時代に作られたものでかなり古い出土品ですが、照明の光があたり表面が輝いており、こんなにも状態のよいものが発掘されるのだと感動しました! 模様も細かい線で描かれていますが、はっきりと絵が残っており、タイムマシンで過去から現代に運んできたかのような印象を受けました。 東洋館:東洋の美術 東洋館では「東洋美術をめぐる旅」のコンセプトのもと、朝鮮半島や中国、東南アジア、インド、エジプトなどアジア各地の文化を展示しています。 各国で独自に発展していった東洋の美を堪能できる展示館です。 勢至菩薩立像 中国 隋時代・6世紀 重要文化財 国宝や重要文化財に指定されているのは、日本の美術品だけではありません。 こちらの勢至菩薩立像は中国で作られたものです。 丸顔でスラッとした細身の長身、繊細なデザインの装身具などは、隋時代に流行していた典型的な表現方法。 小さな立像ですが、装身具の模様が細かく表現されており、顔を近づけて何度もまじまじと眺めてしまいました。 法隆寺宝物館:法隆寺献納宝物 法隆寺宝物館には、1878年に奈良の法隆寺から皇室に献納され、戦後になって国に移管された宝物300点が収蔵・展示されています。 大変貴重な宝物の数々を間近で鑑賞できる機会はなかなかありません! 法隆寺宝物館には、金銅仏、伎楽面、押出仏、仏画、経典、仏具などが所蔵されており、そのうち国宝が11点、重要文化財が182点と価値のある美術品が数多く所蔵・展示されているのも見どころの一つです。 正倉院宝物は8世紀の作品がメインですが、法隆寺宝物館はそれよりも古い7世紀の宝物も含まれており、より歴史の古い宝物を拝めるかもしれません。 灌頂幡 飛鳥時代・7世紀 国宝 灌頂とは、頭に水を注いで仏の弟子として高位に昇ったことを照明する儀式のことです。 灌頂幡は、その儀式で使用する旗を指しています。 灌頂幡の全体には、透彫による仏や天人、雲、唐草などの模様があります。 最上部は、天蓋とその中央に吊り下げられた6枚の大幡からなっており、天蓋は4枚の金銅板を傘の形に組み合わせ、周囲に蛇舌と呼ばれる飾金具を設置し、その下に垂飾を垂らしているのが特徴です。 蛇舌の細かい模様に心惹かれ、飛鳥時代に使われていたころはさらに輝きを放ち、儀式の雰囲気を高めていてくれたのだろうなと感じました。 また、法隆寺宝物館では、ガラスのケースに入れられた立像が規則正しく並んでいる展示室があり、神々しさや厳かな雰囲気を感じられました。 神聖な空気感を味わいたい方は、ぜひ訪れてみてください。 デジタル法隆寺宝物館では法隆寺ゆかりの名宝を鑑賞できる 法隆寺宝物館内には、常時展示できない法隆寺ゆかりの名宝をデジタル技術を用いて鑑賞できる展示室があります! デジタル法隆寺宝物館では、国宝の「聖徳太子絵伝」「法隆寺金堂壁画」の2つのテーマを主軸に、グラフィックパネルと大型8Kモニターを使って絵の詳細まで自由に鑑賞できるデジタルコンテンツを展示しています。 国宝の中には、傷みがひどく展示ができないものや、肉眼で細部まで鑑賞できないものもたくさんあります。 そんな作品でも、高精細画像として大型8Kモニターに映し出すことで衣類の細部から人物の表情まで、見たい部分を大きく拡大して存分に鑑賞を楽しめます! 法隆寺宝物館に展示されている数々の名宝とあわせて、肉眼では拝むことのできない国宝や名宝もデジタル技術を駆使してあわせて鑑賞してみましょう。 数々の日本の宝を鑑賞できる貴重な博物館 東京国立博物館では、保護の観点から国宝や重要文化財などの美術工芸品の長期間の公開が難しいため、定期的に展示入れ替えを行っています。 そのため、展示の名称も常設展ではなく、総合文化展としているのです。 収蔵品と寄託品で構成されている約3000件の展示は、ほぼ毎週どこかの展示室で展示替えが行われており、その数はなんと年間300回以上といわれています! そのため、特別展やイベントではなくとも何度も訪れて新しい名宝を鑑賞したくなってしまいます。 いつ見ても必ず新しい美術工芸品と出会える東京国立博物館。 特別展やイベントも頻繁に開催されているため、あわせて鑑賞を楽しみましょう。 また、東京国立博物館近くには、EVERYONEs CAFEがあり、東京都を産地とする江戸前食材や、東京野菜および江戸野菜などを取り入れた料理が楽しめます。 開放感のあるオープンテラスもあるため、博物館鑑賞のあとに上野公園の自然を感じながら美味しい料理を味わいましょう! 店舗情報 EVERYONEs CAFE https://shop.create-restaurants.co.jp/0941/ 開催情報 『総合文化展』 場所:東京都台東区上野公園13-9 期間:常時 公式ページ:https://www.tnm.jp/ チケット:総合文化展(平常展)は一般1000円、大学生500円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.11.09
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新たな発見が生まれる「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション展」レポ
東京国立近代美術館では、パリ市立近代美術館、東京国立近代美術館、大阪中之島美術館のコレクションを、テーマごとにトリオに分けて展示するユニークな企画展を開催しています。 トリオで並べて鑑賞することで、共通点を発見したり、意外な組み合わせに驚かされたりと、多彩な楽しみ方のある企画展です。 今回は、東京国立近代美術館で開催されている「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション展」に行ってきました! トリオ作品をじっくりと鑑賞して新たな共通点や発見を楽しみましょう。 これまでにない組み合わせで作品を展示する「TRIO展」は東京国立近代美術館にて開催中 TRIO展は、独自の文化を育んできたパリ・東京・大阪の3都市にある美術館のコレクションが集結し、共通する特徴ごとにトリオで分けた珍しい企画展です! 展示会場となる東京国立近代美術館の前庭には、TRIOのオブジェが設置されており、訪れた人を歓迎しています。 また、企画展に入ると撮影についての注意書きの看板が設置されているため、写真を撮りながら鑑賞を楽しみたいと考えている方は必ず確認しましょう。 「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション展」のみどころ TRIO展の内容を紹介していく前に、みどころを簡単に紹介していきます! テーマやコンセプトに沿って7つの章に分け、3つセットで比較しながら鑑賞していくTRIO展。 どのような点に着目して作品を鑑賞してみるとよいかの参考にしてください。 3つの美術館の作品が一堂に集結 TRIO展は、パリ市立近代美術館、東京国立近代美術館、大阪中之島美術館の作品が一堂に集結する夢の企画展です! 3つの美術館による共同企画であり、34のテーマに沿ってそれぞれの美術館が作品を提供しています。 「モデルたちのパワー」、「空想の庭」、「現実と非現実のあわい」など独特なテーマに沿って組み合わされた作品たちを比較しながら鑑賞すると、これまでとは違った新たな発見ができるかもしれません。 ジャンルの垣根を越えて110人約150作品が集結する豪華な展示会 TRIO展は、パブロ・ピカソ、岸田劉生、萬鉄五郎、ジャン=ミシェル・バスキア、草間彌生など、時代やジャンルを超えて全110人、約150作品が集結する豪華でにぎやかな展示会です! 20世紀から現代にかけて活躍した日本と西洋のアーティストの作品が集まり、トリオ展示ならではの魅力を見せてくれるでしょう。 モダンアートを代表する巨匠から、現代で活躍し続けているアーティストまで、時代やジャンルに捉われることなく、自由な視点で鑑賞を楽しむのがおすすめです。 意外なトリオの組み合わせを楽しもう TRIO展では、共通するテーマに沿ってトリオで作品が展示されています。 たとえば、アンリ・マティス、萬鉄五郎、アメデオ・モディリアーニがTRIOになり展示されている作品があります。 アーティスト名を並べただけでは、何がテーマになっているか分かりませんよね。 作品を見てみると、3人の作家はみな女性が横たわる構図の絵を描いています。 3つの作品に描かれた女性たちからは、堂々とした女性の強い美を感じさせられます。 このようにTRIO展は、いままで比較して見たことがなかった作品たちを、テーマにあわせて比較しながら鑑賞できる貴重な企画展です! バスキアと佐伯祐三の作品が、都市のグラフィティとして並んで展示されていたり、女神を描いた作品としてマリー・ローランサンと藤田嗣治が並べられていたりと、普段の美術館では見られない組み合わせを楽しみましょう。 音声ガイドは女優の「有村架純」さん TRIO展では、女優の有村架純さんがナビゲーションを務める音声ガイドを楽しめます。 会場レンタル版とアプリ配信版があり、会場レンタル版はチケットで入場した後、展示会場前で受付を行っています。 貸出料金は1台650円(税込)です。 また、アプリ配信版は自分のスマホやタブレットが音声ガイドになり、展示会場内だけではなくどこでも自由に音声を楽しめます。 アプリ配信版は700円(税込)で、事前にダウンロードしておくと、当日はスムーズに鑑賞を進められるでしょう。 7つの章と34のテーマに分けられたTRIO展 TRIO展では、7つの章と34のテーマによって分けられた作品がトリオで展示されており、テーマに沿った共通点を発見しながら鑑賞を楽しめます。 ロベール・ドローネー『鏡台の前の裸婦(読書する女性)』 1915年 パリ市立近代美術館 安井曽太郎『金蓉』 1934年 東京国立近代美術館 佐伯祐三『郵便配達夫』 1928年 大阪中之島美術館 展示会場に入ってすぐに展示されているのがこの3つの作品です。 パッと見て分かる共通点は、モデルがみなイスに座っていることではないでしょうか。 そして、実はほかにも共通点があるのです! 『鏡台の前の裸婦(読書する女性)』は、パリ市立近代美術館の開館の契機を作ったジラルダン博士の遺贈品、『金蓉』は、東京国立近代美術館が最初に購入した作品の一つ、『郵便配達夫』は、大阪中之島美術館構想のきっかけとなった実業家の山本發次郎の急増品なのです。 つまり、3作品とも今回コラボした3つの美術館のはじまりに関連した作品です! そのため、今回のTRIO展では「コレクションのはじまり」というテーマでトリオになっているんですね。 はじまりのきっかけとなった作品が、すべてイスに座った絵なのも新たな発見になりました。テーマになっている共通点だけではなく、自分だけの共通点も発見しながら楽しめます。 第1章の「3つの都市:パリ、東京、大阪」では、3都市をテーマにした作品が展示されています。 モーリス・ユトリロ『セヴェスト通り』 1923年 パリ市立近代美術館 長谷川利行『新宿風景』 1937年 東京国立近代美術館 河合新蔵『道頓堀』 1914年 大阪中之島美術館 この3作品は、それぞれ3都市での生活や風景を切り取って描いた作品です。 ユトリロが描いたのは、モンマルトルの丘近くにある石造りの建物が建ち並んでいる通りと、その道を歩く女性。 利行は、昭和初期の新宿のビル街と行き交う人々の賑わいを描いています。 新蔵は、水の都と呼ばれる大阪の道頓堀川に沿って建ち並ぶ建物と船を漕いで移動する人々を描きました。 別々の土地、異なるタッチで描かれたこの作品たちは、都市と人々を描いた作品という共通点のもとトリオで展示されています。 第2章の「近代化する都市」では、伝統的なテーマから脱却し、現代社会を表現することに挑んだ作品をメインに展示しています。 フランソワ・デュフレーヌ『4点1組』 1965年 パリ市立近代美術館 佐伯祐三『ガス灯と広告』 1927年 東京国立近代美術館 ジャン=ミシェル・バスキア『無題』 1984年 大阪中之島美術館 この3作品は、路上アートをテーマにしている点で共通しています。 パリの詩人であったデュフレーヌは、重なり合った複数のポスターをはがしてキャンバスに貼り、作品を制作しています。 佐伯は、いくつものポスターが重ね貼りされているパリの街角を、素早い筆さばきで描きました。 バスキアは、ストリートアーティストとして活躍していた芸術家で、ニューヨークと東京にインスピレーションを受けて描いた作品を展示しています。 路上アートという共通するテーマでありながら、ポスターそのものを使った作品、ポスターが貼られている風景を描いた作品、ストリートアーティストとしての作品と、異なる手法で制作された作品を並べて見比べるのは新鮮な気持ちでした。 東京からもインスピレーションを受けているというバスキアの作品の中には、漢字も描かれています。 3作品を比較しながら全体を鑑賞した後は、気に入った作品の細部をじっくり鑑賞し、新たな気付きを得られるのもTRIO展ならではの楽しみ方ですね。 第3章の「夢と無意識」では、シュルレアリスムをはじめとした幻想、空想、夢、無意識、非現実、メタファーなどを表現した作家の作品が展示されています。 ジョルジョ・デ・キリコ『慰めのアンティゴネ』 1973年 パリ市立近代美術館 イケムラレイコ『樹の愛』 2007年 東京国立近代美術館 コンスタンティン・ブランクーシ『眠れるミューズ』 1910-1911年ごろ 大阪中之島美術館 この3つの作品は、すべて頭部に大きな印象を受ける作品です。 絵画と彫刻作品がトリオになる新しい組み合わせが印象に残りました! 『慰めのアンティゴネ』は、ギリシャ悲劇の王女アンティゴネが盲目の父王オイディプスを腕に抱く様子を描いていますが、頭部はマヌカンで表情が見えず無気力な印象を与えます。 ブランクーシの彫刻も表情のないマネキンのような作品ですが、目鼻立ちを際立たせており、上品な顔立ちに見えますね! タイトルになっているミューズとは、知的活動をつかさどる女神を指しており、作品には表情がないにもかかわらず、くっきりとした目鼻立ちから神秘性を生み出しているように感じられました。 『樹の愛』は、比較的新しい作品で、瞼を閉じた人の頭部を樹の愛という概念として表現しています。 第4章の「生まれ変わる人物表現」では、伝統的な人物表現から新たな表現を生むために、理想美の解体や新たな美の創造を追求していった作品が展示されています。 ジャン・メッツァンジェ『青い鳥』 1912-1923年 パリ市立近代美術館 藤田嗣治『五人の裸婦』 1923年 東京国立近代美術館 マリー・ローランサン『プリンセス達』 1928年 大阪中之島美術館 西洋絵画では、三美神と呼ばれる伝統的なテーマがありますが、20世紀に活躍していた画家たちは、この伝統に捉われず、さまざまな技法や人数によって女神たちを描いています。 『青い鳥』は、キュビスムの画家メッツァンジェが描いた作品で、メーテルリンクの童話創「青い鳥」をモチーフに描いています。 キュビスム特有の多視点から3人の女性を捉え、分割・統合しながら大画面に大胆に描いています。 ぱっと見ただけでは、どこに女神が描かれているのか分からない人も多いのではないでしょうか…。 じっくり鑑賞してみると、黄色い扇子で顔を隠している女性と、青い鳥をつかんでいる女性、横たわっている女性の3人が描かれています! 『五人の裸婦』は、藤田が初めて群像に挑戦した作品です。 藤田特有の乳白色の下地の色合いが表現された女性たちの肌の色が美しく、思わず見とれてしまいました。 それぞれの女性が独特なポーズをとっているのも印象的でした。 ローランサンの『プリンセス達』は、やはり淡い色彩表現が可愛い! 真っ白な肌と華やかな装いがマッチしていて女性の華麗さが際立っているように感じられました。 女性が抱いている犬のつぶらな瞳にも心惹かれてしまいました。 第5章の「人間の新しい形」では、都市化や工業化、世界大戦によって変化していく人間性や表現を追求した作品が展示されています。 カレル・アペル『村の上の動物たち』 1951年 パリ市立近代美術館 パウル・クレー『黄色の中の思考』 1937年 東京国立近代美術館 菅井汲『風の神』 1954年ごろ 大阪中之島美術館 この3作品は、自由奔放に引かれたかのような線を描いているのが共通する特徴です。 3人とも、子どもの絵や先史民族の象形文字、日本古来の神話などに注目して作品を制作しており、よく見ると人の形や動物の姿が認識できますが、一見落書きのような絵にも見えてしまいますね。 しかし、これらの作品は規範的で機械的な線からの解放を表現しているのです。 人々が古来より持ち合わせていた原始的な創造エネルギーが感じられるこれらの作品は、絵そのものを見るのではなく、描かれた創造のパワーを感じ取ることが大切かもしれません! 第6章の「響きあう色とフォルム」では、人物や風景を主題とするのではなく色や形そのものが作品のメインとなっていった20世紀の美術作品を展示しています。 セルジュ・ポリアコフ『抽象のコンポジション』 1968年 パリ市立近代美術館 辰野登恵子『UNTITLED 95-9』 1995年 東京国立近代美術館 マーク・ロスコ『ボトル・グリーンと深い赤』 1958年 大阪中之島美術館 この3作品は、どれも抽象的な要素で構成されており、色彩に目が惹かれます。 絵画や彫刻を構成する基本的な要素である色と形に焦点があてられた作品たちで、20世紀に入ってからの人物や風景などの主題をもたず、色や形が作品の主題になっていった作品の代表ともいえるでしょう。 第7章の「越境するアート」では、これまで生み出されてきた絵画や彫刻などの基本的な美術ジャンルには当てはまらない表現を用いた作品を展示しています。 使われている素材は、既製品や日用品、廃材など多種多様で、映像表現の作品も数多く展示されていました。 アートは時代を映す鏡ともいわれています。 現代社会で多様性のある働き方が広がっているように、美術界でも多様な表現方法が生み出されていっていると感じました。 TORIO展はオリジナルグッズも大充実 今回展示されていた作品をプリントアウトしたポストカードやピンバッジ、マグネットセット、丸皿などさまざまなオリジナルグッズが販売されています! 眠れるミューズクッションやオダリスクの椅子のクッションなど、癖の強いグッズも販売されていて、グッズショップも見どころ満載です。 また、東京国立近代美術館限定の複製画の予約販売も行われていました。 会場で販売されていたのは、ジクレーと呼ばれる複製技法を用いて制作される複製画です。 複製画は、4原色の掛け合わせにより印刷されるのが一般的ですが、ジクレーによって制作されるTRIO展の複製画は、10色を掛け合わせて制作されており、これまで以上に細かな色彩やタッチの強弱、作品の繊細なニュアンスなどが表現できるようになりました。 販売価格が数万円とほかのグッズと比べると高価ですが、精密に再現された複製画は、自宅に飾っておくと雰囲気をがらっと変えてくれるでしょう。 気に入った作品があれば、ぜひ予約複製画を検討してみてはいかがでしょうか。 ちょっとしたお土産を買いたいという方は、缶バッジやアクリルキーホルダーのガチャガチャがおすすめです。 グッズショップの出口付近にありますので、見逃さないよう注意しましょう! 奇想な展示で新たな発見を生み出す「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション展」 TRIO展は、これまで見たことがある作品も見たことがない作品も、新たな視点から楽しめる企画展です。 もともと知っている作品、気に入っている作品とトリオになって展示されている知らない作品にも興味をもつきっかけになりますね。 また、同じテーマの作品を比較して鑑賞することで、それぞれの特徴やよさなどの発見にもつながるかもしれません。 知らなかった作品に興味を抱き、知っている作品の魅力はさらに増し、美術鑑賞の方法や知識などを広げる素敵な企画展でした! 美術に詳しい人も詳しくない人も、それぞれの視点から自由に比較し共通点を探し出し、感性を豊かにしてくれるTRIO展。 「見て、比べて、話したくなる。」のキャッチコピーのように、鑑賞後は友人とカフェに入って感想を伝え合うのもよいですね。 東京国立近代美術館には、フレンチとイタリアンが融合したアートなレストラン「L'ART ET MIKUNI ラー・エ・ミクニ」が併設されています。 本格的なクリエイティブ料理を提供してくれるレストランで、店内からは皇居を眺められる点もポイントです。 東京国立近代美術館でアートを鑑賞した後は、皇居の自然を眺めながら優雅に食事をとり、展示会の余韻に浸りましょう。 店舗情報 L'ART ET MIKUNI ラー・エ・ミクニ https://lart-et-mikuni.jp/ TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクションは、2024年5月21日(火)~8月25日(日)まで開催中です。 2024年9月14日(土)~12月8日(日)までは、大阪中之島美術館 4階展示室にて開催予定のため、東京で見逃してしまった人は、ぜひ大阪中之島美術館で開催される際に訪れてみてください。 開催情報 『TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション展』 場所:東京国立近代美術館 期間:2024/5/21~2024/8/25 公式ページ:https://www.momat.go.jp/ チケット:一般 2200円、大学生 1200円、高校生700円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.11.09
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大規模回顧展「田名網敬一 記憶の冒険」を見に行ってみた!
皆さんは、田名網敬一(1936年-2024年)という日本人アーティストを知っていますか? 彼の作品は、色鮮やかな独特の世界観と、戦争体験やアメリカ大衆文化からの影響が色濃く反映されていることが特徴です。 そんな田名網の60年以上にわたる創作活動をまとめた初の大規模回顧展「田名網敬一 記憶の冒険」が、現在、国立新美術館で開催されています。 今回、実際に国立新美術館へと足を運び、田名網敬一の膨大な作品群を堪能してきました! 「田名網敬一 記憶の冒険」は国立新美術館にて開催 「田名網敬一 記憶の冒険」では、田名網が武蔵野美術大学でキャリアをスタートさせたころから、1975年に日本版『PLAYBOY』の初代アートディレクターを務めた時代、そして現在に至るまでの多岐にわたる作品群が展示されています。 彼はデザイナーとして培った技術をもとに、絵画、コラージュ、アニメーション、立体作品、実験映像、インスタレーションなど、ジャンルやルールに縛られることなく活動を続け、美術史に重要な足跡を残してきました。 今回の企画展で注目すべきポイントは、初公開の最新作を含む膨大な作品の数々です! 「記憶」をテーマに掲げた今回の展示は、戦争の記憶とその後の文化的影響を追体験するような構成になっており、これまで包括的に触れられることのなかった田名網の創作の全貌が明らかにされています。 展示について 国立新美術館の敷地に入り、室内に入っていく手前のスペースに、さっそく田名網敬一の作品『金魚の大冒険』が展示されています! 巨大なバルーンで作られた金魚は、金・土曜日の夜になるとライトアップされ、ミュージアムナイトを照らしてくれるそうです。 昼間とは違った印象の『金魚の大冒険』を鑑賞したい方は、ぜひ金・土曜日の夜にも訪れてみてください。 国立新美術館内に入ると広々とした空間が広がっています。 ロッカールームが充実しているため、荷物が多い方はチケットを購入したあとにロッカーに荷物をしまって、身軽な格好で回るのがお勧めです! 大規模な企画展で展示会場も広いため、ストレスなく見て回るなら荷物は少ないほうがよいでしょう。 展示会場では、田名網の作品をより深く理解し、楽しむためのオーディオガイドが無料で提供されていました。 スマートフォンでQRコードを読み取るだけで、アーティストの背景や作品の解説を耳で聞きながら鑑賞できます! 作品を目で見て鑑賞しながら、オーディオガイドでその背景に迫ることで、創作意図やメッセージがより鮮明に伝わってくるため、彼の生み出した膨大な作品の世界観をより深く味わいたいなら、オーディオガイドを聞くことをお勧めします。 特に、戦争やアメリカ大衆文化の影響を受けた作品は、彼の記憶や経験が作品にどのように反映されているのかを再認識させてくれました。 田名網敬一の広大なアートの世界を体感し、耳でも楽しんでみましょう! 全11章で構成された膨大な創作変遷を堪能できる「田名網敬一 記憶の冒険」 展覧会の入り口では、田名網の幼少期のエピソードと、最新作のインスタレーション『百橋図』で構成された「プロローグ」から始まります。 戦争の記憶やアメリカ文化の影響を受けた色鮮やかな作品群に引き込まれつつ、11章にわたって彼の創作の変遷をたどります。 企画展会場に入ってすぐ目に飛び込んでくるのが、圧倒的な存在感を放つ『百橋図』の絵画とインスタレーションです。 絵画は、屏風のような形で展示されており、その背後にインスタレーションが展示されています。 いくつもの太鼓橋が重なりあってジャングルジムのようにそびえたつこの作品には、プロジェクションマッピングにより魚たちが橋をわたっていく様子が表現され、幻想的な光景を生み出していました。 田名網は、「橋」は俗世と聖なる世界をつなぐものであり、また死とも密接に結びついた象徴的なモチーフであると語っています。 このモチーフは、まさに展覧会全体に流れる死生観を象徴するテーマでもありますね。 展覧会のプロローグにふさわしい作品であると感じさせられました! 企画展示室内を進んでいくと、次に飛び込んできたのが天井から地上まで壁一面に飾られた数々の絵画です。 広い空間を埋め尽くす数と鮮やかさに圧倒されました! 壁一面に並べられた極彩色の絵画が目を引き、そのポップな色使いや力強い輪郭が特徴的であり、幼少期に経験した戦争の記憶が色濃く反映された作品の数々は、見る者に強烈な印象を残します。 フリーのグラフィックデザイナーとしても活躍していた田名網は、個人的な趣味としてコラージュ作品を多数制作していました。 国内外で活躍する著名人やキャラクターに加え、日本の歌舞伎役者も取り入れられた和洋折衷な作品たち。 今にもアニメーションのように動きだしそうなコラージュ作品に、思わず魅入ってしまいました。 田名網は、1980年に中国を旅行したときに見た自然の景観や、1981年に多忙な生活がたたり結核で4か月ほど入院した際に薬の副作用により見た幻覚を作品に取り入れていきました。 鮮やかな色使いはそのままに、病院から見た松の木がぐにゃぐにゃと曲がって見えた様子も作品に取り入れており、入院中の幻覚体験が彼に新しい創造を与えたともいえそうです。 企画展では、横幅3メートルを超える巨大な作品や、アニメーション、コラージュ、インスタレーションなど多彩なジャンルの作品が展示されています。 デザイナーからスタートし、多彩なアプローチで作品を生み出してきた田名網は、どの手法を用いても一貫してポップでおどろおどろしい世界観を展開しているのが印象的です。 まるで絵画や立体作品が今にも動き出しそうな感覚に襲われ、何度も田名網の世界観に入り込む感覚を味わえました! 終盤では、田名網が手がけたアーティストやブランドとのコラボレーション作品が並び、特に赤塚不二夫とのコラボ作品が印象的でした! 「シェー」のポーズでおなじみのイヤミやバカボンのパパ、ひみつのアッコちゃんなど、さまざまなキャラクターと田名網の独特な世界観が交じり合っていました。 赤塚不二夫が手がけた愛らしいキャラクターたちが、田名網の手によってモンスターに変貌し、キャンバスいっぱいに広がっているのが印象的ですね。 企画展の最後には、田名網のインタビュー映像が展示された「エピローグ」で締めくくられ、田名網敬一という人物の多面性を感じさせてくれる企画展でした。 「田名網敬一 記憶の冒険」のみどころ 「田名網敬一 記憶の冒険」では、田名網敬一の60年以上にわたる多彩な創作活動を余すところなく紹介しているのが魅力の一つです! その作品は、戦後の日本文化や個人の記憶、夢、死生観など、様々なテーマが絡み合い、ジャンルを超えた豊かな表現が展開されています。 彼の過去の重要な作品から最新作まで、田名網がこれまで追求してきたアートの世界にどっぷりと浸ることができるでしょう。 日本の戦後文化史と密接に結びついた作品 田名網が生み出してきた作品は、日本の戦後文化史と深い結びつきがあります。 企画展では、1960年代から1970年代にかけて制作された、日本最初期のポップアートの一つともいえる『ORDER MADE!!』シリーズや、アメリカの『Avant Garde』誌が主催したベトナム反戦ポスターコンテストで注目された『NO MORE WAR』シリーズが展示されています。 アンディ・ウォーホルの影響を受けつつも、田名網独自の視点で表現されたこれらの作品は、当時の社会的・政治的な動きに敏感に反応したものばかりです。 これらの作品は、企画展に訪れる人々を、日本の戦後アートシーンの中心へと引き込んでくれるでしょう。 増幅を続ける「記憶」 田名網は、ここ数年「記憶」というテーマを深く掘り下げた作品を数多く手がけていました。 幼少期に体験した戦争や、病による生死を彷徨った経験が、彼の創作活動に大きな影響を与えていたといいます。 人間が記憶を無意識に作り変えながら生きているという考えに基づき、増幅される記憶をモチーフに制作された作品が本展でも多く展示されています。 展示には未発表の新作に加え、彼が長年にわたって記録してきた夢日記やドローイングも並び、田名網の記憶と創造力の深淵に迫ることができます! これらの作品を通じて、彼がどのように自身の内面と向き合い、それをアートへと昇華させてきたのか、その過程が垣間見える展示内容となっています。 変幻自在なコラボレーション 田名網は、その長いキャリアの中で、多くのファッションブランドやミュージシャンとコラボレーションを行ってきました。 特に注目すべきは、adidasやJUNYA WATANABEとの協働や、EXILE TRIBEや八代亜紀、RADWIMPSとの音楽コラボレーションです。 また、ウルトラマンや赤塚不二夫とのコラボレーション作品も展示され、彼の幅広いクリエイティブな交流が紹介されています。 田名網の作品は、常に新たな視点や化学反応を生み出してきたため、こうしたコラボレーションの背景を知ることで、彼の多面的な魅力をより深く理解できることでしょう。 個性あふれる魅力的なグッズたち 展覧会を訪れた後は、ぜひ特設ショップにも立ち寄ってみましょう! グッズショップでは、田名網敬一の世界観が詰まったオリジナルグッズが勢揃いしています。 定番のポストカードやポスターだけでなく、Tシャツ、トートバッグ、マグカップ、刺繡ワッペンなどの商品も販売。 どのアイテムも田名網の奇想天外なモチーフと極彩色のデザインが施され、ファンならずとも手に取りたくなるような魅力的なグッズばかりです! 企画展の思い出として、また田名網アートの一部を自分の生活に取り入れるアイテムとして、ぜひお気に入りのグッズを見つけてください。 濃密な色彩と膨大な作品数に圧倒される展示 「田名網敬一 記憶の冒険」では、鮮やかで濃密な色彩と膨大な作品の数に圧倒されました! 大胆なモチーフやユニークなコラージュ技法が織り成す独特の世界観は、観る者の感覚を刺激し、思わず見入ってしまう魅力がありますね。 彼の作品は、見た瞬間に心に残る強烈なビジュアルでありながら、その背後には戦争や文化、個人の記憶という深いテーマが潜んでいます。 「田名網敬一 記憶の冒険」は、田名網敬一というアーティストの全貌を知る絶好の機会ではないでしょうか。 60年を超える彼の創作活動を通して、私たちが普段意識しない「記憶」の力や文化的影響を感じ取ることができるでしょう。 ぜひ、皆さんも「記憶の冒険」に足を運んで、田名網敬一の世界を体感してみてください! 国立新美術館内には、カフェやレストランがいくつか併設されています。 しっかりと食事をとりたいなら3Fのブラッスリーポールボキューズミュゼやカフェテリアカレがお勧めです! 軽食とドリンクを飲みながら、企画展の余韻に浸るならカフェコキーユもお勧めです。 図録を購入してお気に入りの作品を振り返ってみたり、友人と印象に残った作品について話したりするのもよいですね。 開催情報 『田名網敬一 記憶の冒険』 場所:国立新美術館 期間:2024/8/7 ~ 2024/11/11 ※休館日:毎週火曜日 公式ページ:https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/keiichitanaami/ チケット:2000円(一般)、1400円(大学生)、1000円(高校生) ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.10.27
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幼少期から最晩年までの作品を公開した「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」レポ
皆さんは、田中一村(1908年-1977年)という画家を知っていますか? 幼いころから卓越した画才を発揮していた人物で、神童とも称されていました。 しかし、東京美術学校に入学しながらも、わずか2か月で退学し、公募展も落選続きと、現役時代に才能を見出されていたわけではなかったのです。 今回は、東京都美術館で開催される「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」に行ってきました! 一村がまだ10歳にも満たない子ども時代に描いた作品から、奄美で過ごした最晩年の作品までを一堂に集めた大規模な回顧展。 神童と称された幼いころの才能あふれる作品から、終焉の地・奄美大島で描かれた生命力に満ちた絵画まで、一村の人生と芸術を追体験できる内容の企画展です! 「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」は東京都美術館にて開催中 東京都美術館では、2024/9/19~2024/12/1まで「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」が開催されています。 企画展示室のLBF・1F・2Fと3つのフロアを使った大規模な企画展です! 作品をじっくり・ゆっくり見て回りたいと考えている方は、チケットを購入後にロッカーに荷物を預けておきましょう。 300点以上の作品が3フロアにわたって展示されていて、ボリューム満点のため身軽な格好で鑑賞するのがお勧めです! また、「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」は展示室内の写真撮影が禁止されています。 展示室を抜けた後にフォトスポットがあり、そちらのみ撮影が可能となっていました! 「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」の入口では、音声ガイド機器の貸し出しが行われています。 俳優の小泉孝太郎さんがアンバサダー・音声ガイドナビゲーターに就任、声優・中村悠一さんも一村の言葉を力強い声で表現しています。 一村が描いた作品と、一村という人物を深く知りながら鑑賞を楽しみたいと考えている方は、音声ガイドを利用してみましょう! 企画展入口での貸出価格は650円(税込)です。 アプリ版の配信もあり、こちらは一度購入すれば展覧会開催期間中は、何度でも視聴が可能です。 展示について 「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」は、一村の幼少期から最晩年までの作品を一堂に集め、その芸術的な軌跡をたどる大回顧展です。 会場は、「第1章 若き南画家の活躍 東京時代」「第2章 千葉時代」「第3章 己の道 奄美へ」という3つのテーマに分かれており、それぞれの時代における一村の進化と、彼が生きた風景や思想が豊かに表現されています。 第1章の東京時代では、神童と称された彼の幼きころからの作品が展示され、南画の伝統的な技法に基づきながらも、独自の視点で自然を描き出した若き一村の姿が浮かび上がります。 その筆使いは繊細で、南画の技法に洗練された感性を加え、すでに一村ならではの感覚がうかがえるものばかりです。 第2章の千葉時代は、一村が27歳で父を亡くし、30歳のときに親戚を頼り千葉に移住した後の作品を追うセクションです。 この時期は、千葉の風景を描いた丁寧な絵画や、季節を感じさせる掛け軸、デザイン的な仕事が多く、一村の誠実な芸術への姿勢が伝わってきます。 そして、展示の最終章である「己の道 奄美へ」では、奄美大島に渡り見つけた新たな芸術の可能性が展開されています。 奄美の光や自然、生き物たちが一村の筆によって生き生きと描かれ、その明るく鮮烈な色彩は彼の集大成と呼ぶにふさわしいものでした。 「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」は、一村が「己の道」を見つけ、芸術にすべてを捧げたその魂の深さに触れることができる、感動的な展示です! また、真っ白な壁に一村の掛軸や絵画作品が飾ってあるというシンプルな造りの展示会場で、一村の作品そのものの魅力を存分に味わえます。 第1章:若き南画家の活躍 東京時代 第1章では、7~8歳の幼いころから20代にかけての制作活動が紹介されています。 10歳にも満たない年齢で描いた作品からも、力強い筆使いや卓越した色彩感覚がにじみ出ていました。 このころに描かれた作品をじっくり鑑賞していると、一村が神童と称されていた理由にすぐ納得がいきます。 『池亭聞蛙』紙本墨画淡彩/掛軸(仮巻)/1幅(1922年7月/個人蔵) 中学校に入学した翌年、14歳のころに描いた作品で、今回の展覧会が初公開です。 中国製の紙を用いて描かれたこの作品には、柳が枝垂れる池の情景や人々の営みが描かれています。 このころの一村は、南画や漢詩だけではなく山水画もしっかりと学んでいたことが、作品からうかがえます。 鑑賞する中で印象に残ったのが、葉や枝の細かい描写です。 木の枝先は葉が少ないため、墨の色も薄く表現されていますが、枝の中心にいくにつれて葉が密集し、濃い墨で力強く描かれています。 濃淡のコントラストが、木々に生命力を宿らせ、作品全体に深みを与えているように感じられました。 また、水面には点描のように小さなきらめきが巧みに描かれているのが特徴です。 まるで人々の営みの中で静かにゆっくりと広がる音の波のように感じられ、幻想的な雰囲気も体験できます。 『蘭竹図/富貴図 衝立』絹本金地墨画/絹本金地着色/衝立(両面)/1基(表裏)(1929年2月・3月/個人蔵) 一村が20歳のころに依頼を受けて描いた作品で、その圧倒的な存在感と技術の高さが際立っています。 衝立は両面に異なる画風で描かれており、表裏で対照的な世界を楽しめるのが魅力です。 墨画で描かれた『蘭竹図』は、幽玄さを感じられる作品でした。 金箔を貼り、薄墨を重ねた地に、竹の葉や蘭の花が生い茂る様子が力強い筆のタッチで描かれ、墨の濃淡が作り出す空気感に引き込まれます。 一方、裏面に描かれた『富貴図』は、鮮やかな色彩が目を引きます。 金の地に青い太湖石や赤、白、黄色の牡丹が咲き誇り、蝶や蜂が軽やかに飛ぶ様子が描かれていました。 蝶や蜂の模様が細かく表現されており、明るくカラフルで大胆さがあるように見えて、繊細な筆使いも感じられる素敵な作品です。 『椿図屏風』絹本金地着色/屏風/2曲1双(1931年/千葉市美術館蔵) この作品は、一村の創作活動における空白期とされていた20代半ばの時期に描かれた作品で、2013年に新たに発見されました。 また、この時期の彼のイメージを一新させる作品でもあります。 絢爛たる金屏風に広がる紅白の椿は、まるで生き生きとした生命力を宿しているかのようです。 濃密な絵具が幾重にも重ねられ、その厚みと質感が枝葉にリアルな存在感を与えています。 枝の重なりや葉の一枚一枚が細部まで緻密に描かれており、一村の自然への深い敬愛が感じられますね。 屏風の左側には白梅の枝が描かれ、屏風の右下に目をやると、梅と椿の幹が異なる質感で入念に描き分けられており、自然観察の鋭さと表現力の高さが感じられます。 第2章:千葉時代 第2章では、掛軸だけではなく小さな色紙に描かれた作品が多く展示されているのが印象的でした。 色紙だけではなく、色紙大に切り取られた画用紙に描かれている作品もあります。 発表の場が限られていた一村にとって、色紙という小さなキャンバスは、気軽に描ける大切な表現の場だったのでしょう。 また、千葉時代の一村は、江戸時代の文人画や古典的な山水画を学び、作品に昇華していきました。 このころの一村は、羅漢像や観音像など宗教的なテーマをモチーフにした作品も多く描いています。 作品によってさまざまなタッチで描かれており、筆を走らせるように大胆に描かれた絵から、観音像の装飾品を繊細に表現した作品まで、幅広い表現技法が印象に残っています。 また、公募展で唯一入選を果たした作品も展示されていました。 『白い花』紙本金砂子地着色/屏風/2曲1双(1947年9月/田中一村記念美術館蔵) 第19回青龍展で初入選を果たしており、画号を柳一村にあらためて挑戦した際の作品です。 ヤマボウシの白い花とその緑の葉で画面が覆いつくされており、花々の間に伸びる竹の枝には、ひときわ目を引くトラツグミがとまっています。 この作品は、多くの下書き線が残されているのが特徴です。 村が自らの構図の癖を少し整理し、新たな画面構成と描写に挑戦した姿勢がうかがえます。 『黄昏』紙本着色/額装/1面(1948年/株式会社ジャパンヘルスサミット蔵) 画面に夕陽は描かれていませんが、モチーフの後方に沈みゆく太陽があることを予感させるように、モチーフの縁が薄く輝いているのが印象的でした。 淡い色合いのグラデーションにより描かれた空は、黄昏時の儚さや静けさを繊細に表現しているように感じられます。 夕日の光を受けたモチーフの繊細な輝きが、画面に流れる時間の儚さと、瞬間の美を見事に捉えており、彼の芸術的な深さと感受性が感じられる作品でした。 ほかにも、鶏を描いた作品も多く見受けられました。 一村は、繊細な表現を実現するために、死んだ鳥を横たわらせ、その姿をさまざまな方向からスケッチしたとも伝えられています。 特に驚いたのが、鶏の足の表現です! 固い皮膚の模様が非常に細かく描かれており、そのディテールはまるで鶏が古代の恐竜から進化してきたことを思い起こさせてくれるほどでした。 第3章:己の道 奄美へ 第3章では、一村が50歳で単身奄美大島へと移住し、自然を題材にして独自の絵画世界を築き上げた時期の作品が展示されています。 奄美の自然に魅了され、生涯奄美の風景を描き続けたこの時代の作品は、彼の芸術の頂点ともいえるでしょう。 『奄美の海に蘇鉄とアダン』絹本墨画着色/額装/1面(1961年/田中一村記念美術館蔵) この作品は、一村が奄美から一度千葉に戻ったときに描いた作品です。 横長の画面に広がるのは、一村が奄美で目にした自然の光景が、まるで眼前に広がっているかのように描かれています。 奄美特有の珍しい植物が生き生きと描かれており、左上には木立朝鮮朝顔が、下には蘇鉄の雌花、右にはアダンが墨彩で描かれています。 画面に生い茂る葉の間からは、奄美の青い海と沖にそびえる立神の岩が。 立神は、遠くのネリヤカナヤから神が渡ってくるとされる神聖な島で、地元の信仰の対象となっています。 単なる奄美の自然だけではなく、神聖なモチーフを構成に盛り込んでいることから、奄美についてより深く理解しようとする一村の心が感じられます。 一村が奄美に強く惹かれていたことがうかがえますね。 ほかにも、一村が制作した晩年の作品が企画展のハイライトを飾っています。 今回の企画展のポスターにもなっている『アダンの海辺』や、代表作『不喰芋と蘇鐵』は、一村が奄美の植物や風景に寄せた深い愛情と洞察を感じさせる作品です。 一村が奄美の自然をどれほど深く見つめ、理解しようと努めたかが鮮明に表現されています。 さらに、未完の大作『白花と瑠璃懸巣』や『枇榔樹の森に赤翡翠』も展示されており、一村の芸術家としての情熱と意欲がいかに強かったかを物語っていますね。 また、企画展の締めくくりとして、約5分の映像が上映されており、一村が実際に目にした奄美の風景が映し出され、彼の作品の源となった美しい自然の姿がリアルに感じられます。 「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」のグッズについて 「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」を見終わったあとはオリジナルグッズもチェックしましょう! ショップには、一村の芸術を日常に取り入れられる素敵なグッズが揃っていました。 定番のポストカードやスマホショルダー、ミニ屏風などとともに、泥染めTシャツといったグッズも販売されています。 また、奄美に移住した一村が頻繁にモチーフとして取り上げた植物「アダン」をテーマにしたオリジナル商品が豊富で、どれも個性的かつ魅力的です。 本展会場でしか手に入らないオリジナルグッズもあり、どれも一村の芸術的な世界観を身近に感じさせてくれるアイテムばかりです。 ぜひ、「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」鑑賞後は、展覧会の余韻を楽しむためにお立ち寄りください。 グッズショップを出てすぐ左手側には、一村の作品が印刷された缶バッジとアクリルキーホルダーのガチャガチャが設置されていました。 1回300円と手ごろな価格のため、ちょっとしたお土産が欲しい方にお勧めです! 「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」のフォトスポット 企画展示室内は、すべて撮影禁止となっていますが、グッズショップを出た後の廊下に、フォトスポットが2ヶ所設置されています! 1つ目は、ポスターにもなっている『アダンの海辺』のフォトスポットです。 2つ目は、代表作の『不喰芋と蘇鉄』です。 展示室内は撮影ができませんが、2つもフォトスポットが用意されているため、企画展を楽しんだ後は、写真を撮って帰宅後も余韻に浸りましょう。 作品を通して田中一村の人生を辿る「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」 「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」は、一村が全身全霊をかけて描き続けた作品群を通じて、彼の生涯と情熱の軌跡をたどることのできる企画展です。 彼の描いた風景や植物は、澄んだ光にあふれ、彼の内なる情熱と魂の輝きを静かに伝えているかのようです。 今回の企画展を通じて、一つひとつの作品だけではなく、幼いころから卓越した画才をもっていた一村が奄美に魅了され、晩年を奄美の豊かな自然をモチーフにした作品に全力を注ぐまでの物語を楽しめました! 東京都美術館は、上野駅から近い場所に位置しており、企画展鑑賞後は上野公園内をゆっくり散歩しながら、展示会や作品を振り返ってみるのもお勧めです。 また、上野公園内にはいくつかカフェがあります。 スターバックスにはテラス席があり、天気のよい日には外の席でコーヒーを飲みながら友人と企画展の感想を言い合うのもよいですね。 店舗情報 スターバックス 上野恩賜公園店 https://store.starbucks.co.jp/detail-1087/ 開催情報 『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』 場所:東京都美術館 東京都台東区上野公園8-36 期間:前期展示2024/9/19~2024/10/24 後期展示2024/10/25~2024/12/1 公式ページ:https://www.tobikan.jp/ チケット:一般2,000円、大学生・専門学校生1,300円、65歳以上1,500円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.10.27
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月岡芳年の多彩な作品から明治時代を視る「明治時代の歴史物語―月岡芳年を中心に」に行ってみた!
皆さんは、月岡芳年(1839年-1892年)という画家を知っていますか? もし、江戸時代の浮世絵を代表するのが「葛飾北斎」や「歌川広重」なら、明治を代表する浮世絵師としては、間違いなく「月岡芳年」の名が挙がるでしょう。 芳年は、残酷な戦場や戊辰戦争をテーマにした浮世絵を多く残しており、時には「血まみれ芳年」と呼ばれることも。 一方で、幅広いテーマで絵を描いており、幕末から明治期の浮世絵界をけん引した人物でもあるのです。 今回は、町田市立国際版画美術館で開催中の「明治時代の歴史物語―月岡芳年を中心に」を訪れ、芳年の作品世界と彼の生涯に迫ります。 「明治時代の歴史物語―月岡芳年を中心に」は町田市立国際版画美術館にて開催中 「明治時代の歴史物語―月岡芳年を中心に」は、町田市立国際版画美術館で開催されている展示会です。 町田市立幕末から明治期にかけて活動した浮世絵師・月岡芳年の作品に焦点を当て、彼の描いた「歴史」にまつわる浮世絵の世界を紹介しています。 この企画展では、明治政府の国家観や古事記に登場する神話の人物、忠義を尽くす賢臣たちを題材にした芳年の作品が多く見られます。 また、晩年の作品には、幽玄な雰囲気が漂う講談や謡曲を基にした描写が含まれ、静と動の表現を駆使し、多くの人々を魅了する芳年の画風が存分に堪能できるでしょう。 展示には芳年の弟子である水野年方や右田年英、また芳年に私淑した小林清親などの作品も展示され、芳年が後進に与えた影響も垣間見える内容となっています。 この展示は、2024/9/13~2024/12/1まで開催されており、明治時代の芸術と歴史の奥深さを堪能できる貴重な機会です。 今回の、企画展は町田市立国際版画美術館の2階「常設展示室」で行われているものになります。 なんと入場無料のため、どなたでも気軽に月岡芳年の作品を楽しめます! 普段、浮世絵を観る機会がないという方も、ぜひ気軽に足を運び、浮世絵のそして歴史絵画の魅力を味わってみましょう。 大充実の展示で、明治時代の作品を堪能 今回訪れた「明治時代の歴史物語―月岡芳年を中心に」は、なんといっても入場無料で鑑賞できるのが大きな魅力です。 また、展示室内の撮影も可能となっており、写真を撮影してあとから振り返りもできます。 鑑賞中のマナーについて書かれた案内をよく読み、大きなシャッター音やフラッシュ撮影、三脚を使用した撮影などは、ほかのお客さまの迷惑にもなるため控えましょう。 常設展示室は正方形の部屋で、壁一面に月岡芳年の作品がずらりと並ぶシンプルな作りの企画展でした。 シンプルであるからこそ、一つひとつの作品をじっくりと鑑賞できますね。 展示室内入ってすぐの壁面には、月岡芳年と今回の企画展を紹介する文章が展示されています。 こちらをしっかりと読み、一つひとつの作品を堪能していきましょう。 作品数は前期・後期それぞれ35点あり、すべて入れ替えとなるため時期をずらして2度訪れれば、70点もの作品を鑑賞できます。 無料の展示会でありながらもボリュームがあり、月岡芳年好きには堪らない展示会ですね。 テーマに沿って描かれた作品が勢ぞろい 今回の展示では、月岡芳年の代表的シリーズ「大日本名将鑑」「新形三十六怪撰」「月百姿」など、彼の多彩なテーマ作品がそろい、まさに芳年の創作の幅広さを実感させるものでした。 芳年は、生涯で約1万点の作品を手がけ、同じテーマでも多くの作品を生み出したことから、各テーマごとに描かれた絵を比較しながらの鑑賞も楽しめ、一つひとつの作品だけで見るときとはまた違った発見ができる魅力もあります。 芳年の作品テーマは500ほどあり、同じテーマ内において複数の作品を制作しており、中には同じテーマで100点の作品を描いているものもあるそうです。 江戸時代から続く浮世絵の美しさとともに、複数のテーマで繰り返し制作する芳年の姿勢から、歴史や物語に対する芳年の深い愛着と探究心がうかがえますね。 大日本名将鑑:武者絵シリーズ 大日本名将鑑は、1877年ごろに制作された全51図におよぶ通史的な武者絵シリーズです。天照大神から徳川家光まで、神話や歴史上の偉人たちが描かれ、源頼朝や足利尊氏などの中世武将、また織田信長や徳川家康といった近世の名将もテーマとなっています。 また、神武天皇や日本武尊といった古代皇族も含まれており、1872年に明治政府が尊皇愛国思想の教化を促進していたことが関係しているといわれています。 芳年は、天皇の正統性を視覚的に示す作品を通して教育的意図も込めたと考えられているのです。 また、画風においては写実性や陰影を生かした西洋画の影響が随所に表れています。 構図にも工夫が凝らされており、人物の斜めや背後からの姿勢を巧みに表現し、彼のデッサン力が光る作品に仕上がっています。 また、かつて「血みどろ絵」で知られた芳年ですが、このシリーズでは残酷表現が見られず、武将たちの壮麗さを前面に出している点が、また違った魅力です。 『天照皇大神』1882年/大判錦絵 『天照皇大神』は、1882年に制作された作品で、有名な天岩戸伝説をテーマにした大判錦絵です。 この作品では、太陽神である天照大神が弟の素戔嗚尊の横暴に怒り、天岩戸に隠れてしまった様子が描かれています。 天照大神が隠れたことで、世界は暗闇に包まれ、神々は困り果てます。 そこで、彼らは岩戸の前で宴を開き、天宇受売命が舞を踊って天照大神の興味を引きつけ、岩戸から顔を出した瞬間を見逃さず、天手力雄神は岩を動かして天照大神を外に出すのです。 この作品では、まさに天手力雄神が岩を動かして、天照大神の姿が外に出る瞬間を描いています。 岩戸の内側と外側のコントラストが強調されている点が目を引きます。 古代の神々の話ではありますが、感情やドラマがリアルに感じられるとともに、明暗のコントラストから天照大神の存在がいかに重要であるかが分かる作品ですね。 新形三十六怪撰:妖怪画シリーズ 新形三十六怪撰は、幕末から明治初期にかけて活躍した芳年による妖怪画の連作で、1889年に刊行が開始され、1892年に完結しました。 全36点から構成されるこの作品は、古来の妖怪を新しい感覚で描写した点が特徴です。「新形」という題名には、妖怪の新たな表現を意味するほか、「神経」に掛けているとも考えられています。 画面の枠が虫食い状にデザインされているのは、劣化を示すものではなく、芳年の神経異常を反映した幻覚を表しているという説が。 妖怪画であるにもかかわらず、多くの作品では妖怪そのものよりも、それらを見る人間の姿を中心に描いています。 たとえば、『仁田忠常洞中に奇異を見る図』や『業平』では、妖怪を見る人間だけが描かれていますね。 また、『清盛福原に数百の人頭を見るの図』では、襖の取っ手と月が重なり、髑髏のように見えるように描いており、隠し絵のような楽しみ方も。 妖怪や怪異を隠し絵のように表現することで、人間の妄想であるかのような解釈ができるよう意図されているのです。 『小早川隆景彦山ノ天狗問答之図』1892年/大判錦絵 『小早川隆景彦山ノ天狗問答之図』は、1892年に制作された作品で、天狗と対峙する小早川隆景を描いた大判錦絵です。 画面の左側には、緑の直垂姿で立つ隆景が描かれており、右側には山伏の姿をした天狗が堂々と立つ様子が描かれています。 作品全体に引かれた筋は、天狗が起こした突風を象徴しており、自然の力が表現されています。 この作品は、神木を伐採しようとする隆景と、それを戒める天狗との対話の様子を描写しています。 突風のすき間からしか姿は見えませんが、聡明であった隆景が一歩も引かず、天狗と対峙している姿勢は非常に印象的です。 彼の毅然とした態度は、無謀とも勇気とも捉えられる心情の狭間で揺れ動く人間の姿を象徴しているように感じられます。 この作品からは、自然との共存や神々の力の強大さについても深く考えさせられますね。 芳年の独特な画風が、天狗の堂々たる姿を強調しており、観る者に強いメッセージを与えてくれます。 月百姿:歴史画シリーズ 月百姿は、1885年から1891年にかけて発表された浮世絵の揃い物作品です。 このシリーズは、日本や中国の物語、伝承、歌舞伎をテーマにした「月」に関連する100の歴史的な絵です。 月岡芳年は、武将や美人、幽霊、怪物、動物など、さまざまな主題を描き出し、その多様性が大きな魅力となっています。 月百姿では、月の表現も満月や三日月、半月に加え、戦国武将の甲冑の前立としての三日月など、主題に応じて多彩に変化します。 写生に強いこだわりを持つ月岡芳年の作品は、写実性とともに幻想的な雰囲気を醸し出し、観る者を惹きつけているのです。 背景に関しても、シンプルな構図から月を主題と同じサイズで描く斬新な手法まで、さまざまなアプローチが見られ、100図それぞれが独特の個性を持っているのが見どころです。 月百姿は、月岡芳年の人生の集大成ともいえる作品であり、彼の浮世絵師としての技術が余すところなく表現されています。 『貞観殿月』1888年/大判錦絵 1888年に制作された『貞観殿月』は、弓の名手である源経基が一矢で鹿を仕留める瞬間を描いた大判錦絵です。 芳年の他の作品『大日本名将鑑』の六孫王経基と同様、経基の鹿退治をテーマにしています。 こちらの作品では、経基が後ろ姿で描かれ、彼が弓を放った一瞬を捉えることに重きを置いています。 後ろ姿ではありますが、弓を放った瞬間の躍動感ある佇まいから、経基の力強さや集中力の高さを感じさせてくれますね。 弓を引く瞬間の緊張感が際立っており、大きな絵ではありませんが迫力を感じました。 また、同じテーマを扱った『大日本名将鑑』の六孫王経基と見比べると、月岡芳年の異なる視点や技術の変化を楽しめます。 https://daruma3.jp/ukiyoe/433 門下の水野年方・右田年英・尾形月耕・小林清親らの作品も展示されている 「明治時代の歴史物語―月岡芳年を中心に」では、月岡芳年の作品だけではなく、明治時代に活躍した水野年方・右田年英・尾形月餅・小林清親らの作品も展示されています。 水野年方の作品は、前期に『楠正行弁の内侍を救ふ図』、後期に『本多忠勝小牧山軍功図』が展示され、右田年英は英雄三十六撰シリーズ、尾形月耕は月耕随筆、小林清親は小学日本略史などの作品が展示されています。 月岡芳年の作品とともに鑑賞して、日本の歴史を眺めるとともに、浮世絵師ごとの特徴の違いに目を向けてみるのもよいですね。 共通点を見つけてみたり、違いを発見してみたりと、さまざまな楽しみ方ができます。 充実のグッズを見るのも楽しみの1つ:企画展限定のものも! 町田市立国際版画美術館のミュージアムショップでは、図録や美術関連書籍に加え、和雑貨や缶バッジ、町田のお菓子、創作絵本など、さまざまなアイテムを取り揃えています。 特に企画展に合わせた期間限定グッズも見逃せません。 おすすめは、ここでしか手に入らないオリジナルの絵葉書やメモ帳などのグッズです。 アートや文化に触れながら、特別なアイテムを見つけてください。 明治時代を盛り上げた浮世絵師・月岡芳年の作品を鑑賞できる「明治時代の歴史物語―月岡芳年を中心に」 今回、町田市立国際版画美術館で開催中の「明治時代の歴史物語―月岡芳年を中心に」を訪れた感想を紹介しました。 本企画展では、歌川国芳の弟子であり、血みどろ絵で有名な月岡芳年の浮世絵作品が楽しめます。 無残絵が有名な芳年ですが、実は妖怪画や歴史画、武者絵などもたくさん描いているのです! 今回の企画展では、無残絵の印象を強く持っている人たちにとっては、芳年の新たな一面を発見できるのではないでしょうか。 今回の展示を通して、芳年の多彩な才能に触れてみるのもよいでしょう。 また、町田市立国際版画美術館にはドリンクと軽食が楽しめる「喫茶けやき」があります。 日本橋に本店を持つ「ミカド」のコーヒーやケーキを楽しめるとともに、人気のグリルサンドや、季節ごとの旬の食材を使用したパフェ、企画展に合わせた期間限定メニューなど、手作りの豊富なメニューがそろっています。 店内から見える芹ヶ谷公園の緑は、季節ごとに変化し、訪れる人々に癒しを与えてくれるでしょう。 企画展鑑賞後は、月岡芳年が描いた作品の余韻を味わうとともに、おいしいコーヒーやケーキを楽しむのもおすすめです。 開催情報 『明治時代の歴史物語―月岡芳年を中心に』 場所:〒194-0013 東京都町田市原町田4-28-1 期間:2024/9/4~2024/12/1 公式ページ:https://hanga-museum.jp/ チケット:入場無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください https://daruma3.jp/kottouhin/708
2024.10.26
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絵巻の魅力を無料で体験!「ひろげて、まいて、あらわれる 絵巻の世界」を見に行ってみた
皆さんは、絵巻を鑑賞したり触れたりした経験はありますか? 絵巻物とは、古来より描かれてきた日本美術の一つで、紙や絹を横方向につないで端に巻軸をつけたものです。 くるくると広げながら展開していくストーリーを楽しむ独特なスタイルに惹かれる人も多くいます。 そんな日本独特の美術である絵巻物を無料で鑑賞できる企画展が、国立国会図書館で開催されています! 今回は、国立国会図書館の新館で開催されている、「ひろげてまいてあらわれる絵巻の世界」に行ってきました! 横長の巻物形式を活かし、時間の経過や物語の進行を絵で連続的に表現した独特の美術を楽しみたい方は、ぜひ訪れてみてください。 「ひろげて、まいて、あらわれる 絵巻の世界」は国立国会図書館 新館にて開催中 絵巻物の魅力に触れられる「ひろげて、まいて、あらわれる 絵巻の世界」は、国立国会図書館の新館で開催されています。 国会議事堂のすぐそばにある国立国会図書館は、本館と新館に分かれており、企画展が開催されているのは「新館」のため、間違えないよう注意しましょう。 また、国立国会図書館へ入場するためには、利用カードの発行が必要ですが、企画展への入場に利用カードは必要ありません。 どなたでも無料で鑑賞できるため、気軽に楽しめます。 雅な王朝貴族の世界や異界の物語などが描かれた絵巻物の世界を体感しましょう! なお、展示室内の撮影は許可されていますが、国立国会図書館内の撮影はできないため、展示室の外での撮影は控えてください。 いざ、時代を超えて、絵巻の世界へ! 「ひろげて、まいて、あらわれる 絵巻の世界」の展示は、大きく第1章と第2章に分かれています。 それぞれが絵巻物の異なる側面を紹介している点にも注目してみましょう。 第1章の「絵巻で楽しむ物語」では、平安時代から続く物語絵の世界が楽しめます。 右から左へと続く長い絵を広げると、貴族たちの優雅な日常や、異界との接触が描かれた幻想的なシーンが次々に現れます。 絵巻物の醍醐味は、時間の流れや場面の変化を一連の画面で体験できることです。 貴族社会で広がった物語絵の楽しみ方を、展示を通じて追体験していきましょう! 第2章の「模写された絵巻のみどころ」では、絵巻物が模写され伝わってきた歴史や、その複写から得られる新たな視点に焦点を当てています! 長い年月の中、原本が焼失や欠損により失われたものでも、模本(複製)に残る情報や、オリジナルとは異なる部分を持つ模写作品の魅力が紹介されています。 さらに、妖怪の行列や異界との接触を描いた「異界・異類」をテーマにした作品群も展示されており、絵巻物が持つ独特の空間表現を存分に楽しめる企画展です。 「ひろげて、まいて、あらわれる 絵巻の世界」の展示会を通して、時空を超えて受け継がれてきた絵巻物の魅力に、ぜひ触れてみましょう! なお、東京の国立国会図書館で開催される企画展は、3期に分かれており、10/1~10/12・10/15~10/26・10/28~11/9で展示品の入れ替えが行われるため、たくさんの絵巻物をみたい方は、ぜひ時期をずらして何度も訪れてみてください。 第1章:絵巻で楽しむ物語 第1節の「王朝を舞台とした絵巻」では、平安貴族たちの日常や心の動きを美しい詞書や和歌とともに描かいた絵巻を楽しめます。 注目すべき技法は、引目鉤鼻や吹抜屋台です! 引目鉤鼻は、目を細い線で描き、鼻を鉤のように「く」の字に描く独特な技法のことで、吹抜屋台は、斜め上の視点から見た室内の模様を描く技法のことです。 絵巻物には、感情のこもった一瞬が込められており、一つひとつのシーンのストーリーと登場人物の心情を思い浮かべながら鑑賞してみるのもよいでしょう。 代表的な作品には、『源氏物語絵巻』や『寝覚物語絵巻』などがあります。 第2節「説話を題材とした絵巻」では、民話や伝説など口承で伝わってきた物語を描いた作品が楽しめます。 第1節の絵巻とは少し雰囲気が異なり、登場人物たちの表情が豊かで、まるで彼らの喜怒哀楽が画面から飛び出してくるような印象があります。 また、異時同図法という技法により、一つの画面に複数の時間軸が描かれ、連続画面で展開されるストーリーは、まるでアニメーションのように動きを感じさせます! 民話や伝説が伝えられてきた「説話」の世界では、日常を超えた奇想天外な物語に触れ、臨場感のある物語を楽しめました。 第3節「合戦・寺社縁起絵巻」では、平安時代後期から鎌倉時代、南北朝時代にかけて長く続いた戦乱の時代に誕生した合戦絵巻が展示されています。 横長の絵巻の中で繰り広げられる合戦は、戦場の緊迫感が見事に描かれていて迫力がありました! 武将たちの勇ましい姿や、緻密に描かれた武器、甲冑の描写は、歴史の貴重な資料にもなっています。 一方で、動乱の中で、仏教が人々を救済する存在として描かれる寺社縁起絵巻も見逃せません。 戦乱の中で生きた人々が救いを求めた仏教の教えが、どのように絵巻に表現されているのか、ぜひ間近でご覧ください。 そしてここで、たくさんの絵巻を鑑賞していて一つ気になったことが。 絵巻に登場する人物や動物にメモ書きのような単語がいくつも書き込まれているのです。 鑑賞を進めていくとその答えが分かりました! 実は、人や動物に描かれている文字は、色指定のメモのようです。 よく見ると文字が書かれている人や動物には色が入っていませんね。 文字が書かれた絵巻は、鑑賞用ではなく手控えとして作成された模本ではないかと考えられています。 第4節「御伽草子を描いた絵巻」では、室町時代に生み出された「御伽草子」と呼ばれる短編物語が展示されています。 鳥や獣、さらには器物までもが主人公になるユーモアたっぷりの物語が描かれているのが印象的です。 時にコミカルでありながら、時に涙を誘うストーリーは、室町時代の庶民たちの生活や希望を映し出しています。 第2章:模写された絵巻のみどころ 第1節「模写のいろいろ」では、オリジナルの絵巻を忠実に写した「現状模写」や、欠損部分を復元して描き直す「復元模写」など、多様な模写の世界を楽しめます。 「模写」と聞くと、ただの複製と思うかもしれませんが、実はその過程には奥深い意味が込められているのです。 時代を超えた絵巻の保存と伝承は、模写の技術と情熱によって支えられてきました。 職人たちが時をかけて、消えゆく芸術を未来に繋ぐような作業が続けられているのです。 第2節「異界・異類の描かれ方」では、異界や異類を描いた絵巻が展示されています。 人間の言葉を話す動物や妖怪たちが登場する絵巻は、現実世界とは違った幻想的な風景を私たちに見せてくれます。 特に「境界」というテーマでは、橋や峠、水辺など、現実と異界を結ぶ曖昧な場所が舞台となり、不思議な出来事が起こる様子が描かれています。 これらの絵巻を見ていると、日常の風景の中に隠された異世界が存在するように感じ、想像力を掻き立てられますね。 第3節「奥書でわかること・わからないこと」では、絵巻の末尾に記された「奥書」に関する知識を学べます。 絵巻の末尾に記された「奥書」は、その絵巻が辿ってきた歴史を教えてくれる貴重な手がかりです。 作者や模写者、所有者の情報が記されていることが多いのですが、時には誤った情報が書かれていることも。 例えば『結城合戦絵巻』には、複数の模写が存在し、奥書に書かれた内容と実際の絵が一致しないこともあるのです。 第4節「絵巻の周辺1 資料としての絵巻」では、日本の歴史をたどる貴重な資料としての絵巻が展示されています。 絵巻は単なる芸術作品としてだけでなく、資料としても重要な役割を果たしているのです。 絵巻はときに、日本の医学史を知る上で貴重な資料となっています。 第5節「絵巻の周辺2 絵巻の印刷」では、印刷技術を用いて作られた絵巻を鑑賞できます。 印刷技術の進化に伴い、多くの人々が絵巻を手に取れるようになった歴史も紹介され、絵巻がどのように広まり、人々の生活に根付いてきたかが理解できる展示です。 絵巻の世界は、私たちに歴史、物語、そして人間の想像力の力を感じさせてくれます。 この展示を通して、日本の絵巻文化に対する理解を深め、かつての人々が描いた世界に思いを馳せることができるでしょう。 ぜひ、ひろげて、まいて、あらわれる絵巻の魅力に浸ってみてください! 企画展の最後には、絵巻のレプリカを使ってひろげてまく体験ができるスペースが用意されていました! 説明書きに沿って絵巻を実際に広げていくと、絵巻が描かれた平安時代に戻って物語を楽しんでいるような感覚を味わえました。 いつか本物の絵巻に触れて鑑賞する日が来るかもしれません。 そのときにスムーズに絵巻を広げて鑑賞できるよう、こちらで練習しておくのもよいですね。 「ひろげてまいてあらわれる絵巻の世界」展で絵巻の世界に入り込もう 今回、国立国会図書館で日本の絵巻物鑑賞を楽しみました! 絵巻物は、巻物を少しずつ広げていく独特な鑑賞スタイルが特徴で、読んでいると別世界へと誘われているような感覚になります。 横長の絵巻物を広げていくと絵と物語が進んでいき、貴族の優雅な日常や、風変わりな姫君、空を飛ぶ米俵世界など、さまざまな物語の中に引き込まれてしまいます。 気がつけば、鬼や化け物が現れる異界へと引き込まれていることも。 絵巻物は、時代や場所を超えた幻想的な世界を私たちに見せてくれ、見る者を夢中にさせてくれる美術作品です。 不思議で魅力的な空間が、手元の巻物を通じて繰り広げられる瞬間は、まさに魔法のようでした! なお、図書館で開催されている企画展のため、特別グッズ販売などは行われていませんでした。 また、企画展を鑑賞してお腹がすいたら、国立国会図書館内にある喫茶や食堂を利用しましょう。 本館6階に食堂、4本館3階と新館1階に喫茶があります。 利用カードがないと入れませんが、この機会に作成して利用するとともに、気になった絵巻に関する情報を図書館内で調べてみるのもよいでしょう。 「ひろげてまいてあらわれる絵巻の世界」は、2024/10/1~2024/11/9の期間、国立国会図書館が所蔵する絵巻物の展示が無料で行われています。 また、2024/11/15~2024/11/29までは関西館でも開催されます。 どちらも入場無料で鑑賞できるため、この機会にぜひ絵巻物の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。 開催情報 『ひろげてまいてあらわれる絵巻の世界』 場所:〒100-8924 千代田区永田町1-10-1 期間:2024/10/1~2024/11/9 公式ページ:https://ndlsearch.ndl.go.jp/gallery/emaki チケット:入場無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.10.26
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刀剣博物館で開催されている「現代刀職展」で刀剣を鑑賞してきた!
皆さんは、刀職人とは何か知っていますか? 刀職とは、日本刀の製作や手入れに関連する技術や職業を総称する言葉です。 刀職に就く職人は、日本刀の製作工程のそれぞれを専門的に担い、その技術を代々受け継いでいます。 現代においても、日本刀の製作・研磨・鞘作りなどの技術を専門とする職人がいます。 今回は、刀剣博物館で開催されている「現代刀職展」に行ってきました! この展示会では、日本の伝統的な刀剣製作技術を現在に伝える現代の刀職人たちの作品が展示されています。 刀剣製作にかかわるさまざまな専門技術を持つ職人たちの技と美が結集したものとなっています! 日本の伝統的な刀職の魅力を感じられる「現代刀職展」は刀剣博物館にて開催 両国にある刀剣博物館では、現代刀職展が開催されています。 歴史の授業やテレビ、映画などで刀を目にする機会はあっても、直接見る機会は現代においてなかなかないのではないでしょうか。 刀剣博物館では、刀職人たちの技術と美が詰まった本物の刀を間近に見ることができます! 現代刀職展では、現代技術を駆使して作られた数々の日本刀を比較しながら鑑賞できるのが特徴です。 日本刀は日本国内だけでなく、世界中で高い評価を受けています。 その美しさと技術の高さから、多くの外国人が日本刀を収集したり、研究したりしているのです。 実際に、展示会を訪れた際、海外観光客も半数ほどいたのが印象的でした。 現代に作られた刀の展示「現代刀職展」について 現代刀職展が開催されている展示室は3階にあります。 展示室に入る前の左手には、ロッカーも完備されているため、荷物が多い方はこちらで預けてから展示室に入りましょう。 展示室内は1室のみで、天井の高い部屋には、ガラスケースに入った刀剣が並んでいます。 展示されている刀剣は、以下の部門に分けて制作されたものです。 ・作刀の部 刀剣そのものの制作を担う工程で、たたら製鉄で作られた玉鋼を材料に、鍛錬、素延べ、火造り、焼入れの作業を経て一振りの刀剣が完成します。 鉄を鍛えて刀剣の姿へ成形し、地鉄や刃文を表現する作業が芸術といえるでしょう。 鉄を何度も加熱し鍛え上げ、刃文と呼ばれる美しい波模様を生み出しながら、刀の形状と刃の鋭さを追求します。 作刀の最大の魅力は、その緻密な技術と芸術性にあります。 日本刀は単なる武器ではなく、長い歴史と文化が込められた工芸品としての価値が高いものです。 各刀には個性があり、それは刃文、形状、バランス、鋼の色合いなどに現れます。 刃文には、直刃、乱刃、丁子刃などさまざまな種類があり、それぞれに美しさがあります。 刃の表面に浮かび上がる模様の種類を知り、現代刀職展で展示されている刀剣たちの模様がどれにあたるか鑑賞しながら確認してみましょう。 ・研磨の部 玉鋼を材料にして作られた刀剣は、最終的に研いで磨く工程を経て美術品として完成します。 研磨には、大きく分けて下地研ぎと仕上げ研ぎの2工程があります。 研ぎは、研ぎ師の刀剣への理解度や、刀文や地鉄を活かす研磨技術が問われる工程です。 この研ぎの工程によって作品の良し悪しが大きく左右され、名刀になるかが決まるともいわれています。 研磨の過程では、刀の形状や刃文を崩さずに鋭さを追求しながら、刀身全体に均一で滑らかな表面を作り出す必要があります。 刀剣の刃文は、研磨によって鮮やかに浮かび上がります。 研磨の技術を鑑賞する際は、刃文の細部までが明確に見えるかどうか、またその美しさや均整が取れているかを確認しましょう。 ・刀身彫の部 刀身に彫を施して芸術性を高める工程を指し、彫のモチーフは、信仰心に基づいた神仏の姿や各号、植物などが多い傾向です。 刀身彫は、刀身の潜在的力量を引き出し、荘厳さを高めるために行われます。 刀身彫の魅力は、その彫刻が施された刀身に、装飾的でありながらも深い精神性や文化的背景を感じられる点にあります。 刀身に施されるこれらの彫刻は、技術的な難度が高く、熟練した彫刻師の手によって一つひとつ丁寧に彫られているのです! そのため、刀身彫は日本刀の美しさとともに、その精神的な重みをも感じさせてくれます。 刀剣を鑑賞する際、刀身彫が刀全体のデザインや形状と調和しているかを鑑賞してみると、お気に入りの一振りが見つかるかもしれませんね。 ・彫金の部 刀装具の中でも、主に鍔をはじめとした金具の技量を審査する部門で、作家たちはほぼ1年かけてさまざまな意匠を取り入れ、制作しています。 小さな金具の中には、作家の生命が宿っているのです。 彫金に使われているモチーフが何を意味するのか、その背景にある歴史や文化、宗教的な意味を理解することで、彫金のデザインの深さを感じられます! また、特定の時代や地域で好まれたモチーフを知ることで、刀剣が作られた時代背景や職人の意図も読み取れるでしょう。 展示会でも、動物や植物、風景などさまざまなものをモチーフにした彫金が展示されていました。 デザイン性だけではなく、モチーフを選んだ意図も想像しながら鑑賞してみると、また異なる魅力に気づけることでしょう。 ・白鞘の部 白鞘とは、刀身を保存するための鞘を指し、古くや休め鞘ともいわれていました。 朴の木から白鞘を作る工程を競う部で、表面には出ない掻き入れと呼ばれる工程は、職人たちが人一倍神経を注ぐ作業です。 装飾が少なくシンプルなデザインが特徴で、自然な風合いが際立つため、日本刀の本来の美しさや精緻さを引き立たせてくれる印象を受けました。 ・刀装の部 拵とも呼ばれ、鞘に漆を塗り、柄を鮫皮で装飾し、鍔や目貫などの金具をつけて刀身と同じように美術品として仕上げる工程を指します。 江戸時代に制作されていたものは、身分に応じた装飾がされていたといわれています。 刀装は職人によって手作りされるため、その製作には高度な技術と経験が求められます。 細かい装飾や精密な彫刻、独自のデザインなど、職人の技術が凝縮されており、その技術の高さが魅力です。 刀装を鑑賞する際は、装飾やデザインに注目しましょう。 細かい彫刻や金属細工、装飾のスタイルがどれほど美しく、独自性があるかを観察します。特に職人の技術や創造力が発揮された部分に注目すると、その美しさがより際立って見えるでしょう。 ・板前の部 刀装の柄を制作する工程で、朴の木で作られた柄木の上に鮫皮を巻いて、さらに上から組紐を菱形などに巻いて滑り止め効果をあげ、手持ちをよくする工程です。 昔は、献上鮫として、大名や将軍への贈答用とされていました。 板前を鑑賞する際は、組紐の模様や配置に注目しましょう。 特に菱形などの装飾がどれだけ美しく、均等に施されているかがポイントです。 装飾は単なる美しさだけでなく、柄の使用感にも影響します。 ・白銀の部 刀装具のうち、刀を鞘に固定する鎺(はばき)と呼ばれる金具の完成度を審査する部門です。 白銀は、刀装具全般の下地を主に制作する工程で、その中でも白銀師は鎺を作成する職人を指します。 白銀は単なる機能的な部品だけでなく、装飾的な美しさも持ち合わせています。 鎺のデザインや彫刻には職人の技術が反映され、美しい装飾が施されることで刀の外観をより引き立ててくれると感じました。 美しい鎺は、刀全体の美的価値を高める要素となります。 「現代刀職展」を開催している刀剣博物館のみどころ 刀剣博物館の1階にある展示室では、刀剣の制作工程の説明や国宝が展示されています。 刀剣について詳しく知らない方でも、まずは1階展示室の説明を確認してから展示品を鑑賞することで、新たな魅力に気付けるかもしれません。 実際の刀を持って重さを体感できる展示も行われています。 縦に長い刀は、実際の重さよりも重く感じられました。 また、展示室内では刀剣博物館が所蔵している刀剣の国宝も展示されています。 現代の職人が制作した刀剣を鑑賞しつつ、国宝の刀剣も鑑賞してみて、どのような違いがあるか比較してみるのもよいでしょう。 刀剣博物館にはここだけの魅力的なグッズがたくさん 刀剣博物館の1階に位置するミュージアムショップでは、刀剣や日本刀に関するさまざまな書籍が取り揃えられています。 毎年開催される新作発表会の図録を含む豊富な書籍が並んでいます。 また、刀剣の材料となる玉鋼や、刀剣をテーマにしたキーホルダーなど、多彩なグッズも販売されているのが魅力です。 さらに、刀剣・日本刀鑑賞の上級者向けには拡大鏡も取り扱っており、実際に鑑賞時に活用する方も見受けられます。 今に伝わるいにしえの技を展示する「現代刀職展」 現代刀職展は、日本刀文化を今に伝える大切な展示会です。 刀剣博物館内には、刀剣の制作方法や刀剣の種類などに関する説明も展示されているため、刀剣の詳しくない方でも知識を深めながら楽しめるのではないでしょうか。 現代刀職展を楽しんだあとは、3階の屋上庭園で一息つくのもおすすめです! 屋上庭園からは隣接する旧安田庭園の景色が一望でき、都会にいながら美しい緑を堪能できます。 旧安田庭園は無料で入れるため、刀剣博物館で展示会を鑑賞し歴史や文化に触れたあとに、庭園の静かな空気を感じながら、体験を振り返ってみるのもよいでしょう。 旧安田庭園は歴史ある場所であり、江戸時代からの庭園文化に触れることができます。 博物館での学びを庭園の歴史と重ね合わせることで、日本の伝統文化に対する理解がより深まるのではないでしょうか。 開催情報 『現代刀職展』 場所:東京都墨田区横網1-12-9 期間:2024年8月10日~2024年10月14日 公式ページ:https://www.touken.or.jp/museum/ チケット:大人1000円、会員700円、学生(高校・大学・専門学校)500円、中学生以下無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.10.09
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「北川民次展―メキシコから日本へ」を訪れてその歩みを知る
皆さんは、北川民次(1894年-1989年)という画家を知っていますか? 彼は、メキシコで画家・美術教育者として活動した人物で、生誕130年となる今年「生誕130年記念 北川民次展 ―メキシコから日本へ」が開催されています。 晩年まで精力的に制作活動を行っていた北川民次は、メキシコから日本という特異な歩みの中で、何を見出し、何を探求していたのか。 その答えを探るべく、今回は世田谷美術館で開催されている「北川民次展―メキシコから日本へ」に行ってきました! 「北川民次展―メキシコから日本へ」は世田谷美術館にて開催中 「北川民次展―メキシコから日本へ」は、緑豊かな世田谷区の砧公園内にある世田谷美術館にて開催しています。 最寄り駅はいくつかあり、用賀駅からは歩いて17分ほどのため、のんびり歩いて向かうのもよいですね! 各最寄駅からは、世田谷美術館行きのバスが出ているため、事前に時間をチェックして利用するのがおすすめです。 世田谷美術館の館内には、ロッカーが完備されています。 チケット窓口近くには、大きな荷物は預けて美術鑑賞するよう促す案内もあるため、チケット購入後に大きな荷物はロッカーにしまってから展示室に向かいましょう。 ロッカーは100円が必要ですが、返却されるタイプのため無料で利用できます。 今回訪れた「北川民次展―メキシコから日本へ」は、1階展示室にて開催中。 館内の撮影は基本的に禁止されているようでしたが、本企画展については写真撮影OKの案内がありました。 企画展では、油彩約60点、水彩・素描・版画など約50点に加え、1920~1930年代メキシコの多様な芸術活動の動きが分かる資料、当時北川が親睦を深めていた芸術家たちの作品も展示しており、合計約180点を鑑賞できます。 北川民次が生涯を通して何を見つめ表現をしていたのかを考えさせてくれる約30年ぶりの回顧展です。 たくさんの作品とメキシコ芸術の歴史的な資料に触れ、北川が何を思い絵を描いていたのかを想像してみましょう。 テーマごとに違う側面を見せる、北川民次の作品たち 「北川民次展―メキシコから日本へ」は、5つのテーマから構成されており、異なる魅力をもった作品が数多く展示されています。 1.民衆へのまなざし 2.壁画と社会 3.幻想と象徴 4.都市と機械文明 5.美術教育と絵本の仕事 各テーマにおいて、作品を通して北川が多くの人に何を語りかけていたのかを想像しながら、企画展を見ていきましょう。 第1章:民衆へのまなざし 北川民次の作品には、常に市井の人々への深いまなざしが感じられます。 社会情勢に翻弄されながらも力強く生きる民衆の姿がテーマとなった数多くの作品からは、時代を超えた人間の普遍的な強さや美しさを感じられるでしょう。 『トラルパム霊園のお祭り』1930年/油彩/キャンパス 一つの絵に、生と死の2つを主題として取り入れた作品で、単なる描写により描かれたのではなく、北川の見方や考えを取り入れている点が新しい試みです。 北川は、1914年ごろから渡米してニューヨークの劇場で働きながら美術学校で絵を学んでいました。 そのころに社会派の画家ジョン・スローンのもとで学んだのが、民衆を描くことと、物事をリアリスティックに捉える意識でした。 リアリスティックとは、見たままを描くのではなく、モチーフの本質を見極め絵に表現する姿勢です。 生の象徴である「赤子」と死を連想させる葬列を一つの画面に収めた『トラルパム霊園のお祭り』では、リアリスティックの姿勢が分かりやすく表現されていますね。 他にも、先住民の伝統と西欧的な白人社会との関係性を表現した作品や、日本の軍国主義に踊らされる民衆を描いた作品なども展示されており、北川が社会の暗部や矛盾を鋭く見つめ、批判的な作品として反映してきたことが分かります。 第2章:壁画と社会 1920年代メキシコで盛んになっていた「壁画運動」に影響を受けた北川は、日本へ帰国後に壁画を思わせるような壮大かつメッセージ性の強い作品を多く残しています。 視覚的な美しさだけではなく、社会や人間に対する深い洞察が反映された作品を観ていると、多様な社会を生き抜く人々の個々の存在を強く感じられます。 『タスコの祭』1937年/テンペラ/キャンバス 『タスコの祭』は、『メキシコ三童女』とともに、第24回二科展に出品された作品です。 作品を鑑賞して気になったのが、『タスコの祭』とおめでたいイベントをイメージさせるタイトルであるのに対して、登場人物たちの表情がどこか沈んでいるように感じられる点です。 一般的にお祭りというと、楽しげで賑やかな雰囲気を思い浮かべますが、この作品では薄暗い背景が広がり、人物たちの表情は喜びや歓声とは呼べないもののように感じられます。 画面の右上には楽器を演奏する人々が集まっているものの、表情が明るいとはいえません。 特に、しゃがんでお祭りの様子をじっと見つめるおじさんの視線が印象に残りました。 また、右奥の背景に小さく描かれた人物の中には、手を上げて楽しそうに走っている人の姿も見えます。 大きく描かれた喜びの表情が乏しい人々と、遠くではしゃぐ人の姿が作品全体に不思議な空気を与えていると感じられました。 独特な雰囲気の背景には、タスコという街がかつて銀鉱山で栄え、メキシコ革命という激動の時代を経験した歴史が影響しているのかもしれません。 表面的には賑やかな祭りの光景であっても、歴史の暗い影や社会の複雑な現実が北川の視点を通して描き出されているように思えます。 と、さまざまな想像を掻き立てられる作品で、とても印象に残りました。 第3章:幻想と象徴 北川は、時に幻想的で象徴的な要素を含んだ作品も作成していました。 時代の流れに抗うかのような力強さを感じさせてくれる作品や、現実の枠組みを超えた世界へと誘うような作品など、現実描写にとどまらず、より深い哲学を観る者に問いかけてくるようです。 『メキシコ静物』1938年/テンペラ/キャンバス 『メキシコ静物』を鑑賞した際、その独特で異様な雰囲気が目を引きました。 単なる静物画の枠を超え、シュルレアリスムやダダの影響を感じさせる、夢幻的で不思議な世界観を持っているようでした。 特に、ジョルジョ・デ・キリコの作品に見られるような、時間や空間の感覚が歪んだような感覚が漂っており、現実と幻想の境界が曖昧に感じられるのが印象的です。 静物画のモチーフとしては、一見日常的なものが描かれているのですが、その配置や色彩、影の使い方が非常に異質で、どこか不気味さを感じさせます。 北川の『メキシコ静物』は、静物画でありながらも、シュルレアリスムの影響を受けた独特の世界観を持ち、鑑賞者を非日常へと誘う作品だと感じられました。 『岩山に茂る』1940年/テンペラ/キャンバス 『岩山に茂る』を鑑賞した際、まず目に飛び込んできたのは、うねる植物の異様な姿でした。 植物とはいいますが、一般的にイメージするような緑色ではなく、薄茶色や肌色に近い色調で描かれており、まるで苦悩し、悶える痩せ細った人間の姿を連想させます。 細かく描かれた木の幹や枝のシワが、痩せた人間のあばら骨のように見えるため、生命力に満ちた植物というよりも、飢えた人間の身体を象徴しているかのようです。 さらに、細く垂れ下がるつるが髪の毛を思わせ、全体的に人間的な要素を感じさせる描写が多いように感じられました。 また、左下に描かれた緑の植物と小さく咲く花が、この暗い世界の中における一筋の希望を象徴しているかのようです。 痩せ細った植物の中で唯一、命の力強さを感じさせる部分があり、作品全体の中で儚くも確かな光として存在感を表していました。 貧困や飢え、戦争などあらゆる困難にも希望があることを、この小さな花が語りかけているように感じました。 第4章:都市と機械文明 北川は、急速に近代化する社会の中で、機械文明に対しても鋭い視点を持っていました。 産業化が進む風景や機械化する都市を描いた作品には、機械と人間の共存やその影響を考察する姿勢が見て取れます。 『赤いオイルタンク』1960年/油彩/キャンバス 工業化された風景と存在感を放つ赤いオイルタンクが印象的な作品です。 瀬戸の陶磁器産業が時代の変化とともに登り窯から石炭窯、そして重油窯へと移行するなかで、北川はその風景の変貌を鋭い視点で捉えているように感じられます。 煙突から立ちのぼる黒い煙と、重く垂れこめる灰色の雲は、工業化がもたらす公害や環境問題に対する北川の批判的な視点を感じさせます。 産業化によって変わりゆく瀬戸の景色は、かつての自然との調和から、より無機質で冷たさを感じさせるものへと変わっていったのかもしれません。 また、この作品には人や動物が一切描かれていません。 北川の他の風景画では、よく人物が描かれていることが多いのに対し、この作品では完全に無機質な工業の風景のみが描かれています。 「無人」の風景は、時代の変遷と共に変わりゆく瀬戸と、その中で失われていく自然や人間との繋がりなどへの北川の静かな怒りや哀愁を感じさせていました。 第5章:美術教育と絵本の仕事 北川はメキシコ時代に、現地の大人や子どもたちに表現の機会を提供する「野外美術学校」で教師として活動していました。 戦時中には絵本の制作にも熱心に取り組み、戦後は日本でも美術教育に力を入れます。 『老人』1932年/油彩/キャンバス この作品に描かれているのは、トラルパンの野外美術学校の生徒であったドン・ペドロ・ラミレスです。 北川が「信心深く、人の良い老人」と評したペドロの人物像とは対照的に、この絵の中の老人は寂しげで、どこか悲しみを内に秘めているように感じられます。 北川が語る「子どものような純粋さ」を持つペドロの印象と、絵の中で表現されたペドロの表情の違いは、彼の内面的な葛藤や、これまでの人生の苦労を反映しているのかもしれません。 彼の眼差しにはその純粋さだけでなく、人生の重みや、長い年月を経て抱え込んだ深い感情が映し出されているのではないでしょうか。 『老人』は、北川の観察を通じて、人間の多面的な姿を描き出すとともに、内面に潜む葛藤や苦労を静かに表現した作品という印象を受けました。 https://daruma3.jp/kaiga/239 メキシコにちなんだグッズも! グッズショップでは、定番のポストカードはもちろんのこと、今回の企画展のテーマにちなんだメキシコ雑貨や工芸品も販売されています。 メキシコのオトミー族による手織物や手刺繍も販売されており、独特なデザインと鮮やかな色彩が魅力的です! メキシコの魅力が盛り込まれており、色鮮やかな雑貨や、美味しいコーヒーや紅茶、そしてチョコレートなども販売されています。 ぜひ、北川民次が愛したメキシコの風土や文化に触れてみてはいかがでしょうか。 企画展とあわせてオリジナルグッズのチェックも楽しみましょう! 展示にちなんだイベントチェックも欠かせません 世田谷美術館で開催されている「北川民次展―メキシコから日本へ」に関連して、企画展とコラボした魅力的な期間限定メニューを楽しめます! 美術館に併設されたカフェや近隣のお店が、北川民次が過ごしたメキシコをテーマにした特別な料理を提供しています。 美術館の併設レストラン「セタビカフェ」では、メキシコ風の軽食として「トルティーヤチップスとディップソース」を提供。 サクサクとしたトルティーヤチップスにお好みのディップソースを合わせ、お酒のおつまみや小腹がすいたときの軽食にぴったりです。 美術館の併設レストラン「ル・ジャルダン」では、メキシコの代表的な料理「ブリトー」や「ケサディーヤ」が期間限定で登場します。 これらは、北川民次がメキシコで実際に味わっていたかもしれない料理。 たっぷりの具材を包んだブリトーや、チーズとトルティーヤの絶妙なコンビネーションが楽しめるケサディーヤで、北川が過ごした時代のメキシコに思いを馳せてみては。 「北川民次展―メキシコから日本へ」で作品制作の思いを知ろう 世田谷美術館で開催されている「北川民次展―メキシコから日本へ」は、民衆を見つめ続けた芸術家、北川民次の作品を通じて、彼の人生と芸術に触れる貴重な機会です。 北川はメキシコと日本という異なる文化を舞台に、社会の変化や民衆の姿を鮮やかに描き続けました。 彼の多様な作品群は、時代を超えて見る者の心に訴えかける力を持っています。 この機会に、ぜひ世田谷美術館を訪れて、北川民次の世界を体感してみてください。 開催情報 『北川民次展―メキシコから日本へ』 場所:〒157-0075 東京都世田谷区砧公園1-2 期間:2024/9/21〜2024/11/17 公式ページ:https://www.setagayaartmuseum.or.jp/ チケット:一般1,400円、65歳以上1,200円、大高生800円、中小生500円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください https://daruma3.jp/kottouhin/682
2024.09.26
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移ろいゆく季節を楽しめる根津美術館の「夏と秋の美学」展に行ってみた
皆さんは、江戸琳派の異才・鈴木其一(1795年-1858年)を知っていますか? 彼は、江戸時代後期に活躍した琳派の絵師で、独自のスタイルを確立させ近代日本画に大きな影響を与えたといわれています。 今回は、そんな鈴木其一と琳派の作品を展示する根津美術館の「夏と秋の美学展」に行ってきました! 「夏と秋の美学展」は根津美術館にて開催 日本の夏から秋にかけて移ろいゆく季節の美しさを堪能できる「夏と秋の美学展」は、表参道駅から徒歩8分の都会にある根津美術館で開催されています。 根津美術館は、美術品鑑賞だけではなく、広い庭園を散策できる美術館でもあります。 庭園については、のちほどあらためて紹介します! 根津美術館は、入り口から館内に入るまでの廊下に竹がズラリと生えており、外観から日本の趣深さがあるすてきな美術館です。 開館10分前に到着しましたが、すでに入り口前には十数人の人が並んでいました! 美術品だけではなく、日本らしい外観や庭園があるためか、海外観光客と思われる人たちもたくさん待っていたのが印象的でした。 「夏と秋の美学展」のチケットは、日時指定の事前予約が可能です。 当日、予約をしている人としていない人で列が分けられ、予約している人たちが優先的に案内されるため、待つのが苦手な人は事前予約がおすすめです! 開館時間となり、さっそく館内に足を踏み入れてみると、目の前がガラス張りになった開放的な空間が広がっています。 展示室は1階と2階であわせて6つあり、「夏と秋の美学」展は、展示室1・2で行われています。 なお、展示の写真撮影は禁止されています。 写真撮影は根津美術館の庭園で楽しむのがお勧めです! 琳派作品を中心とした「夏と秋の美学」展の展示について 日本では、古くから春と秋の季節が好まれ、『古今和歌集』でもその偏愛が表れています。 しかし、江戸時代になると、夏と秋の組み合わせも目立ち始めたそうです。 暑い夏に力強く生きる生命と静けさが訪れる秋を対比する感性が、高まっていったといわれています。 「夏と秋の美学」展では、そんな季節感を表現した美術作品を通して、日本の伝統的な美意識がどのようなものだったのかに迫っていきます! 展示されている作品には、初夏から晩秋までの季節の移り変わりを描いたものが多くあります。 メインともなる鈴木其一の大胆な色使いや独特の筆致が光る作品も公開されています! また、琳派の祖・俵屋宗達の工房の優品も合わせて展示されており、夏から秋に移り変わる季節を美術の中でどのように表現してきたかを堪能できる企画展です。 作品は、以下5つのテーマに分けられ展示されていました。 ・夏のおとずれ ・真夏の情趣 ・夏から秋へ ・涼秋の候 ・秋の叢 また、この企画展では琳派作品だけではなく、歌川広重や冷泉為恭、上村松園、住吉広定など名だたる画家が描いた作品も展示されています。 季節の移り変わりをどのように表現しているのか、一つひとつの作品を鑑賞していくのもよいですが、琳派はとそれ以外で比較してみたり、制作された時代でどのように変わるか比較してみたりと、いろいろな楽しみ方ができますね。 冷泉為恭の『納涼図』では、親子と思われる3人が屋敷の一角で涼を取る姿が描かれており、はだけた着物が夏の暑さを象徴しているように感じられます。 また、着物のゆるさと、身をくつろがせる姿からは、現代にも通じる夏の過ごし方を思わせてくれますね。 「夏から秋へ」をテーマにした展示では、夏の花として白い百合がさまざまな作品に登場しているのが印象的でした。 暑い季節に咲く優雅で美しい白百合は、古くから多くの人々を魅了していたようですね。 白い百合が描かれている作品で、印象に残ったのが鈴木其一の『夏秋渓流図屏風』です。 くっきりとした色使いと大胆な構図で異彩を放っていました! 川の流れが鮮やかな群青で描かれ、植物は鮮やかな緑で表現されており、そのコントラストがとても強烈でした。 また、金色の線を用いて川の流れを表現しており、琳派ならではのデザイン的な要素が強く感じられる一方で、他の作品とは一線を画す独特の画風が印象に残っています。 濃い青や緑の背景に浮き上がるように描かれている真っ白な百合は、とても素敵に見えました。 また、右から左に視線を移すにつれて、枝に垂れ下がる枯れ葉が目に入ります。 枯れ葉はグラデーションで描かれ、ほかの植物や川の描写とは異なる繊細さが感じられました。 淡い黄色や橙色で表現された枯れ葉は、夏の終わりから冬の訪れまでの静かな自然の移ろいを表現しており、その繊細な色の変化は、季節の微妙な移り変わりを見事に捉えているようでした。 住吉広定の『舟遊・紅葉狩図』は、作品全体が「漢と和」「夏と秋」「男性と女性」といった対比で構成されている点が印象的です。 画面右側では、鮮やかな緑と青を背景に、日本らしい松の木と白い州浜が描かれ、女性たちが優雅に舟遊びを楽しんでいる姿が和の風情を漂わせていますね。 公家の女性たちが着物をまとい、静かに舟を漕ぐ様子は、穏やかな夏のひとときを象徴しているかのようです。 一方で、画面左側には、険しい崖を背に滝のように流れる川が描かれ、その荒々しい風景が中国の山水画を思わせます。 男性貴族たちが紅葉狩りを楽しむ様子が描かれており、秋の深まりを感じさせる紅葉と、滝の力強い水流が対照的に表現されています。 左右に配置された異なる季節と風景の対比が巧みに描かれており、色彩の鮮やかさやモチーフの違いが視覚的な楽しさを引き立てていると感じられました。 秋の叢というテーマで展示されていた2つの『武蔵野図屏風』も印象に残っています。 それぞれが秋の風景を象徴する美しさを異なる視点で描いていました。 No.27の『武蔵野図屏風』は、その独特な構図と表現がとても記憶に焼き付いています。 風景画では、よく山や川、海などが描かれるイメージがありますが、この作品ではそれらの要素が一切描かれていません。 屏風の下半分に、背の高い草が密集して生い茂っており、その中に風景の広がりを感じさせるものが一切なく、草むらが全体を覆っています。 さらに、よく目を凝らしてみると、濃密な草の間にぽっかりと浮かぶ丸い月が描かれています。 この月の描かれ方は特に不思議で、草の中に月が沈んでいくのではなく、草の上を転がっているかのように見えるのです。 月が空ではなく、草の中に「落ちている」ように見えるこの表現が、この屏風の独自性を際立たせています。 自然の中にある静けさと、奇妙な月の存在感が融合し、見る者に秋の深まりを感じさせるとともに、少し異世界に迷い込んだような感覚を味わわせてくれる作品でした! 一方、No.28の『武蔵野図屏風』は、屏風の右側には太陽、左側には月が描かれています。 の対比は、昼と夜、あるいは時の移ろいを表しており、自然のリズムを感じさせてくれますね。 太陽は叢の奥にゆっくりと沈み、月は奥からゆっくりと昇っていくような描かれ方をしており、これによって見る者は昼から夜へ、夏から秋への移り変わりを視覚的に体験できるのではないでしょうか。 根津美術館のみどころは美術作品だけではなく庭園にもある! 根津美術館の魅力は、貴重な美術作品だけではありません! 根津美術館の敷地内に広がる大きな庭園も魅力の一つです。 庭園内には順路がなく、自由に散策できるため、訪れるたびにルートを変えて異なる景色を楽しめます。 庭園内には、鎌倉時代の石仏や灯籠、中国の明時代のブロンズ像、韓国・調整時代の石塔や灯籠といった、初代根津嘉一郎が集めたコレクションが点在しており、精巧な美術品が散策中に突然目の前に現れる瞬間は、まるで異世界に迷い込んだかのような感覚を与えてくれます。 この異世界感には心を打たれるものがあり、まるで物語の一端に立っているかのような独特の景観は、ほかの日本庭園では味わえない特別な体験ではないでしょうか。 特に印象的だったのは「天神の飛梅祠」。 学問の神様である菅原道真にちなんだ「飛梅伝説」に基づいて名づけられたものだそうです。 飛梅伝説とは、左遷された道真を慕い、一夜にして太宰府まで飛んでいった梅の木の伝説です。 歴史的な背景を知ると、庭園の一つひとつのスポットにもより深い感慨を抱くことができますね。 また、根津美術館の庭園は、東京都内でも有数の紅葉の名所としても知られており、秋には美術展鑑賞とともに、色鮮やかな紅葉の庭園を楽しむために多くの人が訪れます。 庭園と美術が調和するこの場所は、まさに季節の美しさを五感で味わえる贅沢な空間です。 根津美術館の企画展に訪れた際は、ぜひ庭園散策もしてみてくださいね。 ミュージアムショップでは作品をデザインしたオリジナルグッズが販売されている 根津美術館のミュージアムショップでは、展示作品に関連した魅力的なグッズが数多く取り揃えられていました。 企画展の作品を印刷したポストカードやミニ屏風、折り畳み傘、オリジナルスカーフ、香り箱、扇子、クリアファイルなど、オリジナル商品が充実しており、ここでしか手に入らないアイテムが並んでいます。 特に注目したいのが、色鮮やかな染め布「更紗(さらさ)」をモチーフにしたグッズです。 更紗は、4000年以上前にインドで発祥し、大航海時代に世界中に広まった布で、ペルシャやエジプト、ヨーロッパ、東洋などで人気を集めました。 日本でも大名や茶人が愛した美しい更紗が、根津美術館で丁寧に再現され、スカーフやポーチなどのアイテムとして展開されています。 ミュージアムショップで販売されているグッズには、東洋古美術を中心に展示する根津美術館ならではのこだわりが詰まっており、お気に入りのグッズを購入することで展覧会の余韻を日常でも楽しめます。 「夏と秋の美学」は季節の移り変わりの美しさを思い出させてくれる企画展 「夏と秋の美学」展は、数百年も前に描かれた琳派や有名画家の作品たちが、今なお私たちに季節の移り変わりの美しさを感じさせてくれる素敵な企画展でした! 夏の爽やかな情景や秋の深まる風情が繊細に描かれた作品たちは、時を越えて夏から秋への季節の移り変わりの美しさを私たちに感じさせてくれます。 今回の企画展を通じて、絵画の中に息づく自然の美しさと季節の儚さをあらためて感じました。 また、日本の伝統美術の豊かさを再認識する貴重な機会となり、充実した美術鑑賞となりました。 根津美術館には、庭園を望めるNEZUCAFEが併設されています。 季節によって異なる表情をみせてくれる庭園の景色をガラス越しに眺めながら、おいしいフードとドリンクを楽しめます。 企画展を鑑賞した後は、庭園の景観を堪能しつつ、展示会の余韻に浸るのもおすすめです。 なお、NEZUCAFEの利用は美術館入館者のみとなっているため、美術鑑賞とあわせて楽しみましょう! 店舗情報 NEZUCAFÉ 根津美術館 https://www.nezu-muse.or.jp/sp/guide/cafe.html 開催情報 『夏と秋の美学展』 場所:〒107-0062 東京都港区南青山6-5-1 期間:2024/9/14~2024/10/20 公式ページ:https://www.nezu-muse.or.jp/ チケット: オンライン日時指定予約:一般1,300円、学生(高校生以上)1,000円 当日券(窓口販売):一般1,400円、学生(高校生以上)1,100円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.27
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