皆さんは、現代美術といわれてどのような作品を思い浮かべますか?
絵画作品や彫刻作品を思い浮かべる人もいれば、さまざまな素材で作られたアート、映像作品などを想像する人もいるでしょう。
簡単にイメージを挙げただけでも多彩なアート作品が出てくるように、現代美術は一つのジャンルに捉われないアートなのです。
アーティスト一人ひとりが内に秘めていたメッセージを放出する方法は、人それぞれ。
枠にとらわれず自由な発想で作品を制作されているのが現代美術の醍醐味でもあります。
今回は、東京都現代美術館で開催されている「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」に行ってきました。
精神科医・高橋龍太郎が収集した100人以上の作家による作品を、広大な敷地を誇る東京都現代美術館にて堪能しましょう。
目次
「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」は東京都現代美術館にて開催中
東京都現代美術館で開催されている「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」は、日本の現代美術の質と量ともに最高峰のコレクションで形成された企画展です。
この膨大な数の現代美術コレクションを収集したのが、精神科医の高橋龍太郎。
団塊世代の始まりに生まれた龍太郎は、1990年代半ば以降、3500点を超えるコレクションを一人で収集してきました。
今回の企画展では、その高橋龍太郎コレクションの中から選りすぐりの作品が紹介されています。
さっそく東京都現代美術館に入ると、正面左手側にチケットカウンターがあるため、まずは企画展のチケットを購入します。
館内にはロッカーが配置されているため、チケット購入後、不要な荷物がある方はロッカーを利用しましょう。
展示について
企画展では、総勢115組の作品が館内の1FとB2Fに分かれて展示されています。
また、展示は以下6つの章で構成されています。
1.胎内記憶
2.戦後の終わりとはじまり
3.新しい人類たち
4.崩壊と再生
5.「私」の再定義
6.路上に還る
1章の胎内記憶では、龍太郎が本格的に収集を開始する以前の1990年代半ばまで、いわゆる戦後50年間のコレクションを、龍太郎の「胎内記憶」として展示しています。
龍太郎はのちに、この時代のできごとや美術に思いを馳せながら現代美術を収集します。
1章では、龍太郎が若き日に影響を受けた芸術家たちの作品を辿っていきましょう。
2章の戦後の終わりとはじまりでは、1990年代半ばから本格的にコレクションを開始したあとの作品がメインです。
バブル崩壊や阪神大震災、オウム真理教事件など、社会全体を揺るがすような事件が起こったこの時代、日本の現代美術はグローバル化していきました。
会田誠や村上隆など、多くの新しい才能が世界に羽ばたいていきました。
3章の新しい人類たちでは、企画展全体を貫く最も重要なテーマとして、人間をメインに制作された作品に焦点があてられています。
芸術を通して人間の諸相に触れ、創造性の根源を探りたいという欲求は、精神科医でもある龍太郎のコレクションの真相に流れ続けているのです。
4章の崩壊と再生では、東北地方にルーツをもっている龍太郎は、東日本大震災や福島第一原発の事故により、大きな感覚の変化が起こりました。
この章では、一連のできごとがきっかけとなり生み出された作品群も多く展示しています。
5章の「私」の再定義では、自分自身を見つめなおしたり、問い直したりする作品が多く展示されています。
東日本大震災以降、強い主張にリアリティが感じられなくなり、不完全・未完成のもの、
自身の外側で起こる現象や環境そのものの流れにゆだねるような作品が多くなっていったのです。
6章の路上に還るでは、ストリートから世界を見る若きアーティストたちに焦点をあてた作品が多く展示されています。
ゼロから生み出すというよりは、環境が与えている現象やシステムなど、すでに存在している条件を編集して作品が生成されています。
高橋龍太郎コレクションは巨大で迫力のある作品も盛りだくさん
今回の企画展では、絵画や彫像などのジャンルに捉われることなく、自由な発想で制作された現代美術作品が多数展示されています。
全体的に大きな作品が多く迫力があり、現代美術が表すメッセージや芸術性に圧倒されながらの鑑賞となりました。
展示室には、必要に応じて注意書きの案内板が設置されています。
撮影のできない展示室では、撮影禁止の案内板が設置されているため、思い出として写真に収めたいと考えている方は、案内板を確認してから撮影をしましょう。
また、撮影可能となっている展示室内でも、作品の近くに禁止マークのある作品の撮影は禁止されています。
間違って写真を撮らないよう注意が必要です。
ここからは、気になった作品の一部を紹介していきます!
1章では、草間彌生が制作した有名な『かぼちゃ』の絵画が展示されていました。
黄色に黒の斑点模様が描かれたかぼちゃの絵やオブジェは、美術に興味あるなし関係なく、見かけたことがある人も多いでしょう。
正面より斜めから見ると立体的に見えるような感覚があるため、ぜひさまざまな角度から鑑賞してみてください。
そのほかにも、オブジェや映像作品など、さまざまな草間彌生コレクションが展示されており、草間彌生好きの方にもお勧めの企画展です。
2章の作品で気になったものをいくつか紹介します。
『當世おばか合戦』山口昇
1999年/油彩・キャンバス
油彩、やまと絵、浮世絵などの伝統美術を、過去・現在・未来、西洋・東洋、現実・空想などと融合させた独自の世界観が魅力の山口昇が描いた作品です。
この作品には、数多くのユーモアが隠されており、何度もじっくり鑑賞し、何が融合しているか探したくなってしまいます。
作品の中央より少し左側に巨大な骸骨が描かれており、合戦を迫力あるものにしています。
巨大な骸骨を見ると、歌川国芳の描いた『相馬の古内裏』の巨大骸骨を思い出す人もいるのではないでしょうか。
迫力ある合戦の後方では、洋式トイレで用を足しながらハンバーガーをむさぼる武士の姿が!
なんとも滑稽ですが、それよりも違和感なく洋式トイレやハンバーガーが登場していることに、くすっと笑えてしまいます。
こちらには、馬にまたがった武士たちがすぐにでも突撃しそうな様子が描かれていますが、よく目を凝らしてみると右側の武士たちが乗っている馬に車輪がついています。
現在と過去を自然と融合させた構成に感動し、隅から隅までじっくりと作品を堪能しました。
このほかにも、まだまださまざまな融合やユーモアが描かれているため、ぜひ自分の目で新しい融合を発見してみてください。
『Crash セイラ・マス』西尾康之
2005年/陰刻鋳造・ファイバープラスター・鉄
展示会場を進んでいくと、突然巨大な彫刻が目の前に現れました。
西尾康之は、肉感的でスケールの大きな人物表現が注目を集めている作家で、陰刻鋳造を得意としています。
この作品は、機動戦士ガンダムの男性を鼓舞する登場人物をモチーフにしており、ヒロイズムに対する批判や戦闘に繰り出される者の脅迫的な心理状態が投影されています。
規模が大きくリアルな造形に圧倒されるとともに、ぐるっと360°回って鑑賞できる点も印象に残った作品です。
さまざまな角度から見て表情の違いや、細部まで作り込まれた様子を鑑賞できるのはうれしいポイントです。
作品の下に鏡が設置されており、覗いてみると作品の内部まで鑑賞できるようになっています!
細かく作り込まれた作品の内部まで見たり、また全体から見てみたりと、好きな視点を見つけて鑑賞を楽しみましょう。
『ネオ千手観音』天明屋尚
2002年-2003年/は、アクリル絵具・ブラックジェッソ・木
天明屋尚は、日本の伝統的な絵画を現代に転生させる「ネオ日本画」をテーマに作品を制作しています。
この作品では、描かれた人物がみな銃を持っています。
千手観音がすべての手に銃やナイフなどの武器を構える様子は、迫力がありました。
また、銃の色合いとそのほかの構成の色合いがマッチしているため、違和感なく日本画風の絵の中に銃が溶け込んでいます。
千手観音に銃を持たせたのは、信仰と暴力は対極に見えて紙一重であると考えているためだそうです。
3章でも、また大きな彫刻作品が展示されていました!
『Jamboree-EP』森靖
2014年/楠
この作品のモデルになっているのは、アメリカを代表するポップスターのエルビス・プレスリーです。
巨大な作品で、パーツごとにつぎはぎで組み合わされているのが印象的でした。
また、感情を込めて歌っていることが分かるような目をぎゅっとつむった表情が、リアルで魅入ってしまいました。
また、エルビスをモデルにしていますが、この作品の胸には膨らんだ乳房がついています。
これは、モニュメントのはらむ男性性からエルビスを解き放ち、記号性に捉われているわたしたちの潜在意識に問いを投げかけているそうです。
展示室は、1FとB2Fに分かれているため、エスカレーターを使ってB2Fに移動します。
すでに巨大な作品たちに圧倒されていましたが、地下にはさらに大規模な作品が待っていました!
絵画の企画展では味わえない、現代美術ならではの展示方法に感動しつつ、地下の作品も見て回っていきます。
大規模な作品が展示されている部屋の隅に、別の小部屋に入れる場所があり、そこを覗いてみると、真っ暗な部屋でスピーカーがキューブ状になったオブジェがライトで照らされていました。
また、この作品からは常に音が発せられていました。
『GHOST CUBE』KOMAKUS
2019年/音声・スピーカー
この作品から発せられているのは、詩人である吉増剛造による詩の朗読音声や、日記のように録音してきた日々の呟きです。
大量生産された使用済みのスピーカー54台を組み立て、まるで一つの生命体から声が発せられているように感じられます。
ほかにも大きく奇抜な作品が多く展示されており、すべての展示室が見どころ満載でした。
B2Fの別の部屋では、映像を活用した作品が多く展示されているスペースもありました。
現代美術の形は常に進化し、新たな創造が生まれているのだなと感じさせられます。
ミュージアムショップには多彩なグッズも
ボリューム満点の企画展を鑑賞し終わったら、ミュージアムショップを覗いてみましょう。
こちらでは、現代アートに関連する書籍や、多彩なアーティスト、クリエイターなどによるユニークなグッズを販売しています。
今回の企画展「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」の図録は、まだ販売されておらず、9月中旬刊行予定と案内が出ていました。
会場限定オリジナルしおり付きで先行予約も受付けているため、企画展を鑑賞してもっと魅力を知りたいと感じた方は、予約しておくのもよいでしょう。
有名作家から新たに頭角を見せる若手画家の作品まで楽しめる企画展
高橋龍太郎が集めた個人では世界最大級の現代美術コレクション。
今回の企画展では、膨大な現代美術作品から選りすぐりの作品を楽しめる魅力があります!
絵画の企画展とは異なり、規格外の大規模な作品も数多く存在し、迫力のある展示会を体験できます。
東京都現代美術館には、美術図書室があり、展示会を鑑賞した後は、気になった作家の作品を調べてみたり、作家自身について調べてみたりするのもお勧めです!
膨大なコレクションを鑑賞しながら、現代美術の移り変わりも楽しみましょう。
開催情報
『日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション』
場所:東京都江東区三好4丁目1−1
期間:2024/8/3~2024/11/10
公式ページ:https://www.mot-art-museum.jp/
チケット:一般2100円 大学生・専門学校生・65歳以上1350円 中高生840円 小学生以下無料
※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください