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掛軸の数はどうやって数える?知っておきたい掛軸の単位
国内だけではなく海外からの人気も高い日本の掛軸。 どのようが芸術作品であるか、その見た目の想像ができる人は多いでしょう。 しかし、掛軸の数え方を知っている人は少ないのではないでしょうか。掛軸が好きで収集して飾っていたり、美術館や博物館で鑑賞したりする人たちにとっては、掛軸の数え方を知っているのは当たり前かもしれません。 しかし、掛軸に興味を持ち始めたばかりの場合、数え方が分からないこともあるでしょう。 掛軸の数え方は特殊なため、覚えておくことをお勧めします。 掛軸の単位は「幅(ふく)」「軸」 掛軸の基本的な単位は「幅(ふく)」と「軸」です。 掛軸の数え方は、掛けた状態の作品と、巻いてある状態の作品で変わります。掛けてある掛軸は「幅(ふく)」、巻いてある掛軸は「軸」で数えます。 掛けてある掛軸は、一幅(いっぷく)、二幅(にふく)、三幅(さんぷく)と数えていき、数字によって「ふく」と「ぷく」が使い分けられているのが特徴的です。 複数セットの掛軸の数え方は? 掛軸が2本セットの場合は「対巾(ついふく)」または「双巾(そうふく)」と呼びます。2本セットの掛軸の題材は、鶴と亀が多い傾向です。 3本セットの場合は「三対巾(さんぷくつい)」と呼びます。3本セットの掛軸の題材は、真ん中に寿老人、両サイドに鶴と亀の作品や、中央に鶴と亀、両サイドに松竹梅の作品が多い傾向です。 4本セットの場合は「四巾対(よんぷくつい)」と呼びます。4本セットの掛軸の題材は、四季ものがほとんどです。 12本セットの場合は「十二巾対(じゅうにふくつい)」と呼びます。12本セットの掛軸は多くありませんが、題材としては12カ月の季節をかき分けたものや、干支を十二種描き分けたものなどが多い傾向です。 複数セットの掛軸の有名作品 上田耕甫『辺双鶴』『老松図』 双幅の掛軸として有名な作品には『辺双鶴』『老松図』などがあります。 上田耕甫(うえだこうほ)によって描かれた作品です。掛軸に描かれる画にはさまざまな意味や思いが込められています。鶴が描かれた掛軸は、お祝い事で贈られることが多い作品です。古くから鶴は縁起のよい鳥として大切にされてきました。「鶴は千年亀は万年」ということわざからも、鶴は長寿を願う意味合いも込められています。 鶴はよく他の題材とセットで描かれることも多く、特に亀とセットの掛軸は縁起がよい掛軸として人気の高い作品が多い傾向です。上田耕甫が描いた『辺双鶴』『老松図』は鶴と松がセットになっています。 松の絵はよく松竹梅として描かれています。 冬でも緑を絶やさない松、しなやかさがありながらも真っすぐ天に向かって伸びる竹、早春に花を咲かせて薬代わりにもなる実をつける梅。これらは古くからおめでたいものの象徴として多くの掛軸に描かれてきました。 健康長寿や無病息災など幅広い意味が込められており、さまざまな祝い事に利用される掛軸です。 上島鳳山『十二月美人』 十二巾対の掛軸として有名な作品に上島鳳山(うえしまほうざん)が描いた『十二月美人』があります。 『十二月美人』は、1月から12月までそれぞれ特徴の異なる美人が描かれた作品です。 十二巾対の連作はそれぞれの季節や絵の特徴にあわせた表装が施されており、絵の美しさや季節感を引き立てています。十二月美人を鑑賞する際は絵そのものだけではなく、表装もあわせて鑑賞すると、より『十二月美人』の魅力を発見できるかもしれません。 なお、上島鳳山は円山派の人物表現を土台に多くの美人画を制作して人気を博した画家です。 そのほかの掛軸の数え方 実は、掛軸の数え方は先述したものだけではありません。 美術品や芸術品、骨董品を取り扱う業者の間では「本(ほん)」と数えられることがほとんどです。「4本注文したい」「6本ほど見たい」のように一般的な形で使われます。 また「点(てん)」と呼ぶこともあります。 こちらは掛軸に限った数え方ではなく、掛軸を販売する際にお客さまに対して丁寧な言葉使いで数を数えるときに用いられる言葉です。「お買い求めは3点でよろしいでしょうか」「展示会では約1000点以上の掛軸を展示しております」などのように丁寧に伝える際に用いられています。 季節や用途で掛け替える掛軸にはさまざまな呼び方があった 四季折々の季節によって掛け替える季節掛軸や年中掛けられる普段掛け掛軸など、掛軸にはさまざまな種類があります。そして数え方も一つではないのです。 一般的には「幅(ふく)」と「軸」を用いて数えられます。幅は飾ってある状態の掛軸に対して、軸は巻いてある状態の掛軸に対して使われるのも特徴です。 またそれ以外にもセットになった掛軸は「巾」「対」の文字を用いて数えられています。 ちょっとした豆知識のような情報ですが、掛軸について詳しくなるとより掛軸そのものや掛軸の文化を楽しめるのではないでしょうか。 さまざまな知識を身に付けて、今後の掛軸鑑賞をより興味深いものにしてください。
2024.09.17
- 掛軸とは
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大切な掛軸の保存方法とは?
掛軸作品は、見る人の心を感動に誘う日本の伝統文化です。 数百年前の掛軸が現代にもキレイな状態で残っているのは、これまで適切な保存方法が行われてきたからといえるでしょう。掛軸の歴史的な価値や人気作品を未来につなげていくためには適切な保管を心がけることが大切です。 掛軸は保存方法で状態が変わってしまう 大切な掛軸が汚れたりカビがついたりしてしまうと悲しい気持ちになります。 お気に入りの掛軸を美しい状態のまま長く楽しむためには、適切な保存方法を知っておく必要があります。古くからある掛軸が現代でもキレイな状態で残っているのは、丁寧に保存されてきたからこそです。 自宅の掛軸をこれからも長く楽しむためには、掛軸の保存方法に関する正しい知識を身に付けましょう。 掛軸を湿気・カビから守る保存方法 掛軸はとてもデリケートな美術作品。 とくに古い時代に制作されたものは劣化が進み、より傷みやすい状態です。 また掛軸は湿気に弱いため、保管方法にも気を遣う必要があります。 湿度の高い場所で保管してしまうと、掛軸にカビが生えてしまうおそれがあるでしょう。また、掛軸は和紙や絹でできているため水分にも弱い特徴があります。必要以上の湿気を帯びると、乾燥したときに歪みの原因になってしまうことも。大切な掛軸作品をいつまでも美しい状態で鑑賞するためには、湿気やカビから守る保存方法を実践する必要があります。 湿気やカビの予防方法 掛軸の大敵は湿気です。湿気の多い場所で掛軸を保管しているとカビやシミが発生してしまうため、なるべく湿度の低い空間で保管する必要があります。また通気性が悪い場所でもカビやシミの発生が増えてしまうおそれがあるため気を付けましょう。 掛軸の素材は紙です。水分には弱いため、汗をかいた手や濡れた手で触らないよう注意しましょう。掛軸が濡れてしまうとシミの原因になりかねません。 また、湿った掛軸が乾燥したとき歪みが生じることも。 カビに関しては、保管するときだけではなく飾るときにも注意が必要です。 掛軸を掛ける壁にカビや汚れがないか確認しましょう。もしカビや汚れがあると、掛軸に移ってしまう可能性があります。掛軸を飾る壁はアルコール除菌でふき取り、汚れやカビの発生を抑えましょう。 桐箱に入れる保存方法 掛軸を湿気やカビから守るためには、保管方法に気を配ることが大切です。 掛軸は湿気を苦手とするためできるだけ湿気の少ない場所で保管します。また、桐箱にしまうときもなるべく湿気の少ない時期を選びましょう。掛軸の和紙には表装裂地が糊付けされていて、湿気に弱い性質があります。桐箱に保管する際は専用の防虫香を一緒に入れておくとよいでしょう。桐箱は水に強く湿気から守ってくれる働きがあるため、保管場所として適しています。 しかし、桐箱に保管する際に掛軸を濡れた手で扱い湿らせてしまったり、湿気の多い日に収納しようとして掛軸に湿気が溜まってしまったりすると、桐箱に保管していてもカビが発生してしまうおそれがあります。そのため、掛軸を保管する際は湿気の少ない晴れた日に行いましょう。 ときどき虫干しをしよう 湿気の少ない日に収納したり、桐箱を用いて防虫香を一緒に保管したりしても、年中収納したままだとカビが発生してしまう場合があります。 桐箱は湿気を吸収してくれるため、掛軸の保管に適した箱ですが、長期間すべての湿気を取り除くのは難しいでしょう。 そのため、掛軸の湿気を取り除くために虫干しという作業をします。掛軸を桐箱から取り出し床に広げ、エアコンの除湿機能を作動させて湿気を飛ばします。このときエアコンの風が直接あたると乾燥しすぎて掛軸が傷んでしまうおそれがあるため注意しましょう。少なくとも年に1回は虫干しをして掛軸の湿気を取り除くと、長く保管していてもキレイな状態で鑑賞を楽しめます。 また、虫干しをするときは一緒に同封されている札や資料などがあれば一緒に湿気を取り除いておきましょう。 保管しているものすべての湿気を取り除いておけば、桐箱の中も湿気がこもりにくくなるといえます。 掛軸を保存するときに気を付けたい、巻き方 掛軸を適切に保管するためには巻き方が重要です。 長く壁にかけて飾っていた掛軸は、保管しているときとは異なり乾燥している場合があります。乾燥すると掛軸自体が折れやすくなり、適切な方法で巻かないと掛軸が折れてしまうおそれがあるでしょう。そのため、保管するときには慎重に巻いていく必要があります。 まずは片手で掛軸の中心あたりをもち、もう一方の手で矢筈をもって、掛け緒に掛けて金具から掛け緒を外します。掛軸を巻くときは、左右の風帯を表木に沿わせて根元部分から真横に折りたたみましょう。 次に風帯の左側を下、右側を上の状態で重なるようにします。折りたたんでも風帯が掛軸からはみ出してしまう場合は、はみ出ている部分を内側に折り返してください。 収納する桐箱から巻紙を取り出して、重ねた風帯の間に差し込みます。このとき、巻紙が掛軸の中央に来るよう位置を調整しましょう。最後、風帯が緩んでこないよう指で押さえながらゆっくり巻いていってください。 小さな汚れやシミも長年放っておくと大変なことに… あまり気にならない小さな汚れやシミでも、長年そのまま放置しておくとシミが広がったりカビたりと掛軸の価値を下げてしまうおそれがあります。また、長期間飾っていた場合ホコリが付着することもあるでしょう。 一度ついてしまったシミを自分で取り除くのは難しいでしょう。 小さな汚れだからと自分でふき取ろうとすると、かえって汚れを広げてしまったり、掛軸を破いてしまったりすることにつながりかねません。そのため、もし気になる汚れやシミが発生したら、下手に自分で修復しようとせず、プロの業者に依頼するのがお勧めです。 保存方法を知って大切な掛軸を守ろう 日本の伝統文化である掛軸。古くから床の間や茶席で飾られ、楽しまれてきました。 しかし、掛軸は非常にデリケートな芸術作品です。 紙でできているため湿気に弱くカビが発生しやすい性質があります。 また、水分や汚れによりシミが発生することも。大切な掛軸をなるべくキレイな状態に保つためには、適切な保管方法の実践が必要です。湿気の少ない日に湿気から守ってくれる桐箱にしまい、湿気の少ない場所で保管するとよいでしょう。 古くから愛されてきた掛軸文化。ご自宅で掛軸を飾っている方やこれから飾りたいと考えている方は、掛軸の繊細さを理解し、適切な方法で保管することで、長く美しい状態を保てるでしょう。
2024.09.16
- 掛軸とは
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床の間にかける掛軸の選び方
現代でも和室や床の間の壁に飾られている掛軸。 家の様式の変化とともに掛軸を飾る文化も落ち着いてしまっていますが、日本の伝統文化として古くから親しまれています。また、お茶の文化とともに発展してきた掛軸文化は茶席でも活躍する芸術品です。 普段掛けや季節掛けなど特徴をもった掛軸の種類を知ることで、より掛軸鑑賞の楽しみ方が増えるでしょう。 掛軸はいつから床の間に飾られているのか 何気なく床の間に飾ってある掛軸が、いつの時代から飾られるようになったのか知らない人も多いでしょう。 掛軸文化は日本で古くから親しまれてきた伝統的文化です。掛軸の起源は中国であるとされており、飛鳥時代に初めて日本に入ってきたといわれています。 当時は仏教を広めるための道具として仏画の掛軸が伝わってきました。当時は、僧侶や貴族が掛けて拝するのが主な用途でした。その後、時代の変化とともに、掛軸のもつ目的も変化していきます。 床の間に掛軸を掛けだしたのは鎌倉時代から 鎌倉時代になると掛軸は仏画だけではなく、頂相や詩画軸も描かれるようになりました。頂相とは宗派の祖師の肖像画のことです。詩画軸は描かれた絵の上部に漢詩を書く画を指します。また、同時代に宋朝の表具形式が日本に伝わってきました。その後、日本独自の変化を遂げ日本掛軸の基本的な形式が確立するきっかけとされています。 鎌倉時代後期から室町時代にかけては、書斎を主室とする書院造りが流行り、書院には押板と呼ばれる奥行きの浅い横長の厚い板を敷いた部分があります。 もともと押板には礼拝用の花瓶・香炉・燭台の3点セットが置かれていました。慣習化されていった礼拝をしっかり行うために造り付けの床である押板床が発展していきます。 さらに室町時代に入ると、武家屋敷内で主君を迎える場所をほかよりも一段高くするために、押板が取り付けられました。 背景の障壁画にあわせて主君の権威や格式を表すために、掛軸を掛けるようになったのが現在の床の間の始まりとされています。 室町時代には「観賞用」「茶道具」として愉しまれるように 室町時代後期ごろからは、これまでの仏画掛軸を掛けて拝する文化から、絵画芸術としての文化が広まっていきました。 当時、中国画人が描いた書画を上中下の3段階に分類するようになり、のちにやまと表装と呼ばれる「真・行・草」と呼ばれる格式を表現する表装形態が確立されていきます。 また安土桃山時代には武人の間で茶の湯が盛んに行われました。 お茶の文化を大成させたといわれる千利休の影響もあり、茶の湯の席に掛軸を飾る文化が主流になっていきました。 掛軸には禅の心をあらわす禅語が書かれた書が一般的に用いられ、茶席は僧侶の精神性に触れて敬意を払う場として利用されるようになっていきます。また、茶道の心に通ずる禅語が書かれた掛軸は、茶道のなかで最も格式の高い大切な道具とされています。 現代では、床の間のない家も増えたが… 現代では、洋式の一軒家やマンションが増えたことで和室や床の間のない家庭も増えてきています。それと同時に掛軸を飾る文化も減少してきました。伝統工芸の一つ掛軸に接する機会が減ってきている現状があります。 しかし、掛軸は美しい自然や禅の心を感じられるかけがえのない日本の伝統です。 現代では洋装のリビングや玄関にあうような表装を施してくれる業者もあります。掛軸に関する知識や楽しみ方を知る機会が減ってしまったなか、掛軸がまた身近なものとなるためにはその選び方を大切にしたいものです。 床の間の掛軸のサイズは? 掛軸のサイズは一つではなく複数あります。 そのため自宅の床の間の大きさにあったサイズの掛軸を選ぶことが大切です。 標準的な掛軸のサイズは横幅が54.5cm、縦幅が190cmで、「尺五」と呼ばれています。この尺五を基準として、尺五より小さいサイズを「尺三」、大きいサイズを「尺八」と表します。おおよそのサイズは、尺三は横幅53cm、縦幅188cm、尺八は横幅64.5cm、縦幅190cmです。 床の間にあう掛軸のサイズは、掛軸の横幅が床の間の横幅の3分の1といわれています。掛軸を購入する際は、自宅の床の間のサイズを測ってから、横幅のサイズがあう掛軸を選ぶとよいでしょう。バランスが整い、より掛軸や空間を魅力的なものにしてくれるでしょう。 床の間の掛軸にはどんな書画がいい? 床の間に飾る掛軸はサイズをチェックすることも大切ですが、せっかく鑑賞して楽しむため、描いている絵や書にも着目したいものです。掛軸は主に年中掛けられる普段掛けと、季節の景色や情景を楽しむ季節掛けの2つに分けられます。どちらも違った楽しみ方や魅力があります。 床の間にあう普段掛け掛軸 普段掛け掛軸とは、季節問わず一年中掛けられる掛軸を指します。 年中掛けとも呼ばれています。普段掛け掛軸の定番は、山水画や四季の花が描かれた四季花などです。また魔除けの虎や吉祥の龍、幸運を表現するフクロウなども普段掛け掛軸として用いられています。そのほか、年中掛けられる掛軸としては赤富士や四神図、翁、寿老人、瓢箪などがあります。 掛軸は年中掛けっぱなしにしていると傷みが早くなってしまうため、定期的な掛け替えが必要です。そのため、普段掛け掛軸は2本以上もっておくとよいでしょう。最低でも2本もっておけば、交互に掛け替えられるためお勧めです。 普段掛け掛軸として利用しやすい定番の絵はありますが、必ず定番の絵でなければいけないわけではありません。掛軸には自分の好きな絵を飾ることも大切です。本来の掛軸は季節や用途にあわせて掛け替えるものですが、あまりハードルを上げすぎず普段からお気に入りの掛軸を掛けて鑑賞するのもよいでしょう。 床の間にあう季節掛け掛軸 季節掛け掛軸とは、季節にかかわる絵や書が書かれた掛軸を指します。 たとえば、季節を象徴する花や草木、景色、生き物などが描かれます。季節掛け掛軸は日本特有の美しい四季を楽しめる芸術品の一つです。 日本の四季は春夏秋冬の4つですが、季節掛け掛軸は、季節の移り変わりにあわせてさらに細かく分けられる場合もあります。 春の季節掛け掛軸の代表としては桜があります。 桜は誰もが知る日本を象徴する花です。春掛けの代表的な画題で、床の間に飾れば自宅でもお花見気分を味わえるでしょう。 ほかには木蓮があります。大きな紫色の花が見事に咲き誇る姿は気品を感じられる掛軸です。 夏の季節掛け掛軸の代表としては朝顔があります。 夏の花といわれて真っ先に思いつく花の一つが朝顔ではないでしょうか。夏の風物詩として知られる朝顔は、朝露が立ち込める夏の朝に次々と花開く姿が、情緒豊かで印象に残ります。古くから日本人に親しまれている花で、江戸時代には2度の朝顔ブームがあったとされています。 そのほか夏の掛軸の題材としてよく描かれているのが、カワセミです。 鮮やかな青色の羽をもち、動く宝石ともいわれています。実は季節を限定する生き物ではありませんが、青い羽根をもつカワセミが水辺にたたずむ姿は、さわやかで涼しげな印象を与えるため、夏の季節掛け掛軸として親しまれています。 秋の季節掛け掛軸としては紅葉が人気です。 夏は桜、秋は紅葉といわれるほど、日本の秋を美しく彩っている植物といえます。鮮やかな赤や黄色の葉は、掛軸に描いても映える画題です。鳥を一緒に描いて花鳥画とする場合もあれば、引きで描いて風景画とする場合もあります。さまざまな表情を見せてくれる紅葉は作家にとっても腕がなる画題といえるでしょう。 冬の季節掛け掛軸として人気が高いのは雪景が題材の画です。 雪景といってもさまざまな風景を題材にした掛軸があります。雪景色の山水画を描いた作品もあれば、日本の名所が雪に覆われている様子を描いた風景画の作品もあります。とくに神社仏閣の雪景は非常に美しく、古くから好んで描かれてきました。 仏事や慶事にも掛軸を選ぼう 仏事とは、法事や弔事、お盆、お彼岸などの仏教に関連する行事全般を指します。 また仏事で掛けられる掛軸を仏事掛けと呼びます。仏事掛けは主に字像と絵像の2種類です。字像とは文字が書かれた掛軸で、絵像は絵が描かれた掛軸を指します。字像の掛軸としてよく書かれている文字は「南無阿弥陀仏」です。絵像の場合は、「十三佛」や「観音菩薩」、「阿弥陀来」などが描かれた作品があります。 床の間の掛軸選びで、日本の心を愉しもう 古くから日本で親しまれてきた掛軸は、床の間に飾る鑑賞用としても親しまれてきましたが、茶席で茶の精神を表す大切な道具としても扱われてきました。 現代では床の間が減り、家庭で飾られることも少なくなりましたが、自宅に飾りたいと考えている方はぜひ掛軸の種類や特徴をみて自分好みの掛軸を見つけてみてください。 また、掛軸は長期間掛け続けてしまうと傷みが早くなるため2作品以上購入して、一定期間で取り替えると長く楽しめるかつ、さまざまな題材を楽しめるでしょう。
2024.09.16
- 掛軸とは
- 掛軸の種類
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掛軸の部位の名称を知っていますか?
美術館や博物館で掛軸作品を鑑賞する際、多くの人は描かれた書画や絵画そのものを見て楽しむでしょう。 しかし、掛軸は絵や書が書かれている本体部分以外の箇所もこだわりを持って作られている場合があります。 書画や絵画を掛けて飾るためには表装を施すことが必要です。 この表装はさまざまな部位があわさってできており、さらにパーツごとにこだわりがあります。 掛軸の全体的なデザインを見たことはあっても各パーツの名称は知らない人も多いでしょう。掛軸の各部位の名称や特徴を知ることでより掛軸作品を楽しめるようになります。 掛軸の各部位の名称について 掛軸はいくつもの部位があわさって形成されています。 掛軸の各部位の名称を知ることで、掛軸に対する魅力がより深まるでしょう。 表装 表装とは、書画や絵画の裏に紙や布をあてて補強し、作品にあった装飾を施す伝統技術のことです。 表装は、掛軸作品を守るだけではなく、より作品の魅力を引き立てる目的があります。 そのため、花鳥画のような華やかな絵には豪華な表装を、仏画や水墨画のような素朴な画にはシンプルな表装を行うなど、作品によって表装を変えることでさまざまな表情が楽しめるでしょう。 本紙 本紙とは、書や絵が描かれている紙や絹そのもののこと。料紙や料絹ともいいます。 本紙の素材には絹や絖があり、絹で作られた本紙を絹本、絖で作られた本紙を絖本といいます。また紙で作られた本紙は紙本です。 一文字 一文字とは、本紙の上下につける横長の裂のことです。 上側の裂を上一文字、下側を下一文字といいます。ほかの部分よりも上質な裂を用いており、本紙と中廻を結ぶ重要な役割を担っています。金襴や銀欄などの裂地がよく使われており、金襴とは生地に対して斜文組織で模様を織り、模様部分に金糸を織り込んだ裂地です。銀箔を使用しているものを銀欄といいます。 柱 柱とは、本紙の左右の部分を指します。 中廻しのうちの本紙左右部分のみ柱とも呼びます。 中廻し 中廻しとは、中縁とも呼ばれており本紙の上下の部位を指します。 一文字の次に上質な裂を用いるのが一般的です。本紙の上部を中廻しの上、下部を中廻しの下と呼びます。表具のデザインの良し悪しは中廻しで決まるともいわれています。 天地 中廻しの中でも上下に該当する部分を天地といいます。 本尊表装の場合は天地が中廻しの外側を廻るため総縁と呼ばれることも。一般的には無地のものが利用されますが、場合によって柄物を用いる場合もあります。柄物を用いる際も目立ちすぎないよう渋めの柄が使用されています。 風帯 掛軸の上から垂れ下がっている2本の細い布を風帯と呼びます。 風帯はすべての掛軸につけられているわけではありません。一文字と同じ裂を使ったものを一文字風帯、中廻しと同じ裂を使ったものを中風帯と呼びます。一般的には一文字風帯が作法です。仏画表具や二段表具の場合は中風帯が用いられます。 露 露とは、風帯の一番下の端についた扇状の小さな飾り糸のことです。 一般には浅黄(あさぎ)、萌黄(もえぎ)、紫、白の4色が利用されています。 八双 八双は別名表木とも呼ばれ、掛軸最上部に取り付ける半月上の木を指します。 軸棒と同じ素材のものが用いられるのも特徴の一つです。内側の平らなほうを巻板といい、外側の丸くなった部分は山といいます。 掛紐 鐶は八双と掛紐をつなぐ役割があります。 山の部分に取り付ける座金と掛紐をひっかけるための釘から構成されています。 鐶 鐶は八双と掛紐をつなぐ役割があります。 山の部分に取り付ける座金と掛紐をひっかけるための釘から構成されています。 軸木 軸木とは掛軸下部についており、掛軸を巻くための役割があります。 また、軸木は掛軸を壁に掛けたときに重りとしての役目も担っています。一般的には杉の木の白太から作られていることが多い傾向です。表具に包まれている部位のため表に現れることはほとんどありません。 軸先 軸先は、軸棒の左右についている飾りを指します。 掛軸を巻いていくときに持つ部分で、掛軸の軸先部分以外を持って巻いてしまうと本紙やほかの部分に負担がかかってしまうため注意が必要です。 総裏 掛軸の裏面側を総裏といいます。 上巻絹 掛軸の裏面や上部の損傷を防ぐために総裏上部に取り付けられた薄い絹を上巻絹といいます。川俣絹とも呼ばれています。 軸助け 軸助けは、掛軸を開いたり閉じたりする際に軸の下方部分の損傷を防ぐために取り付けられるもので、掛軸の裏面両端に張られた裂地を貼ったものを指します。 外題 外題とは、書画や絵画の題名や作者の名前が書かれた紙です。上巻絹の上部右方の八双に沿うよう取り付けられた細長い紙を指します。 掛軸の部位を知ると、そのこだわりが見えてくる 掛軸は日本で古くから親しまれている芸術品です。 現代では、掛軸を手に取る機会が減ってしまいましたが、それぞれの部位にこだわりが詰まっているため、掛軸を鑑賞する際は、掛軸の主役である書画や絵画だけではなく、各パーツに注目してみるとより面白く鑑賞できるでしょう。
2024.09.16
- 掛軸とは
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掛軸の表装修理は自分でできる?
掛軸の魅力を引き立てる役割がある表装。 実は何種類もの仕立て方法があり、掛軸の絵の種類や画風、題材などにより表装の雰囲気を替えて仕立てるのが一般的です。 そのため、掛軸作品を鑑賞する際は表装にも目を向けてみると良いでしょう。作品によって表装の違いがあることを確認できれば、これまでとは違った楽しみ方ができます。 掛軸の表装とは 表装は掛軸を飾るために欠かせない仕立て方法です。 掛軸を補強するために布や和紙で裏打ちして、シワが寄らないようにする役割があります。 表装を施すことで掛軸の色艶の維持が可能です。 作家が丁寧に描いた掛軸でも、時間が経てば少しずつ劣化してしまいます。墨の水分により紙が寄れてシワができてしまうのです。 表装によりシワが寄るのを防ぐことで、掛軸の美しさを保ったまま長く鑑賞を楽しめます。 日本の伝統技術である表装は、掛軸の価値を維持するための大切な役割をもった仕立てなのです。 また、表装の目的は補強だけではなく、掛軸作品をより魅力的に見せるためにも施されます。 掛軸に描かれたモチーフやテーマ、画風などにあわせて表装を変えることで、作品の魅力がより引き立ちます。表装にも種類がさまざまあり、シンプルなもので作品を引き立たせることもあれば、豪華な装飾を施すことで芸術性を高めることもあり、楽しみ方は多種多様です。 たとえば、華やかで明るいイメージのある花鳥画は、鮮やかで豪華な表装との相性が良いと考えられます。 その反対に、素朴な仏画や水墨画は、落ち着いた表装を選ぶことでより雰囲気を味わえます。 掛軸作品は書や絵そのものを鑑賞して楽しむだけではなく、表装にも目を向けてみると違った表情が見えてきて、より掛軸の世界に入り込めるでしょう。 掛軸の表装は、何度も修理することも 掛軸は大切にお手入れをしていても、経年劣化により汚れや傷が発生してしまうものです。 古い掛軸を倉庫に保管したままにしているとシミやカビなどが発生してしまうことも。 しかし、表装修復を行えば描かれた当初の本来の作品に近い状態まで戻すことが可能です。 表装修復は、経年劣化で傷んでしまった場合に行うだけではなく、掛軸の雰囲気を一新するために行われる場合もあります。 たとえば、最近ではマンションや新築の住宅などに和室や床の間を設計しないことも多く、洋風のリビングや玄関の壁などにもあうように修復が行われます。 現在は伝統的な掛軸形式に凝り固まらない創作表具も多く取り扱われており、自宅の雰囲気にあわせて表装の変更が可能です。 劣化の修復だけではなく、掛軸の雰囲気を変えるためにも表装の修理は行われるため、同じ掛軸を何度も仕立て直すこともあります。 価値のある掛軸を本来の状態のまま長く楽しむためにも、表装修理は欠かせません。 表装を自分で修理できる? 掛軸が劣化してシミやシワなどが発生してくると、修復を施して元の状態に戻したいと考えることもあるでしょう。 表装を修復する方法としては、自分で行う方法と専門業者に依頼する方法の2つがあります。また具体的な修復方法は次のとおりです。 ・シミ抜き 掛軸は湿気に弱くシミができやすい美術品です。また、経年劣化により変色しやすい特徴があります。表装のシミは水による洗浄と薬品によるシミ抜きで落としていきます。湿気や混じりけのない水分で発生したシミは、水洗浄でも落ちる可能性があるでしょう。しかし、経年劣化による変色や茶褐色のシミは薬品を使用しないと落ちない可能性があります。 ・表装の破れの修復 掛軸は和紙や絹などで作られているため、取り扱いを誤ると簡単に敗れてしまう恐れがあります。破れの修復は裏側から紙をあてて補修が必要です。破れの範囲が広い場合や損傷が激しい場合は作品を分解して修理することも。古い掛軸は素材自体が弱くなっている可能性もあるため、慎重に修復を行う必要があります。 ・表装のひび割れの修復 経年劣化によって発生したひび割れは漉きはめ修復と呼ばれる方法で修理を行います。修復方法の中でもより専門的な技術が必要な修理方法といえるでしょう。 ・掛軸の仕立て直し 掛軸は和紙や絹でできている上に何層にも重ねられているため、掛けっぱなしにしたり強くまいたりすると折れやシワが発生してしまいます。そのためシワや折れが気になる場合はゆがみを仕立て直す必要があります。仕立て直しは掛軸を解体して行われることがほとんどです。 自分で表装を修理するときの注意点 掛軸の表装を自分で修復する場合、修復内容と方法を自分で判断する必要があります。 自分で寸法や材質を調査して最適な修復方法を見極めなければいけません。修復方法を見極めるためには、専門知識や技術が必要です。 掛軸は和紙や絹などの素材が何層にも重なって制作されているため、修復作業を誤ってしまうと汚れや傷みを悪化させてしまうおそれがあります。 自分で誤った修復を行い、損傷を悪化させてしまうと、元の状態に戻せなくなる危険もあります。そのため、安易に自分で修復を行うのは避けたほうが良いでしょう。 自分で修復をした後に、結局専門業者に依頼しなければならないという状況にもなりかねません。 表装修理はやっぱりプロに任せた方がいい? 表装修理は専門的な知識と高い技術力が必要な作業です。 そのため、知識や経験のない人が行うのはリスクが高いといえます。 所有している掛軸が古くなり劣化が目立ってきたときは専門業者への修理依頼がお勧めです。それなりに費用は掛かりますが、技術や経験のあるプロが修復を行ってくれるため、自分で行うよりもクオリティの高い修復作業が期待できるでしょう。 また、自宅で飾っていたものをきれいにしてまた飾りたいという場合は、修復をお勧めします。しかし、掛軸買取に出すためにきれいな状態へ戻したいという場合は、修復をしないほうが良い場合もあります。 掛軸は繊細な美術品です。古い掛軸であればより慎重に取り扱う必要があります。 そのため、専門の修復業者へ依頼しても必ず修繕されるとは限りません。かえって損傷を広げてしまう可能性もゼロではありません。 買取を考えている場合、買取費用より修理費用のほうがかかってしまう場合もあるため、修理は行わずにそのまま査定に出したほうが良いといえるでしょう。 掛軸の寿命を延ばすためにも表装修理は欠かせない 掛軸の表装修理は、掛軸を美しい状態に保つために欠かせない作業です。 シワやシミ、破れなどを改善するために行われるだけではなく、表装の雰囲気を一新したい場合にも行われます。掛軸を解体して表装を取り替える必要があるため、高い技術力のある専門業者へ依頼することになるでしょう。 掛軸や表装の修理は自分で行う方法もありますが、リスクが高いといえます。 技術や経験がない状態で見よう見まねで修理を行っても、かえって損傷を大きくしてしまう可能性があります。 そのため、修復を行いたい場合は専門業者への依頼がお勧めです。 ただし、買取を考えている掛軸の場合は一度修理を考え直しましょう。 掛軸の価値によっては修理費のほうが高くなる恐れがあります。 また、修理によって傷を広げ価値を下げてしまうリスクもあります。掛軸の価値を調査して買取を検討したいと考えている場合は、そのままの状態でプロの査定士へ査定を依頼しましょう。
2024.09.15
- 掛軸 買取
- 掛軸とは
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掛軸に欠かせない表装とは?書画を引き立てる美しい脇役!
書画を飾るために欠かせない表装。 書画の状態を保つだけではなく、書画の魅力を活かすための役割もあります。書画の特徴に合わせて施された表装は、注目してみてみると作品によって様相が大きく異なることも。書画自体を楽しむのもよいですが、表装にも注目してみると違った魅力を発見できるかもしれません。 掛軸を彩る、表装とは 掛軸を飾るために欠かせない表装とは、掛軸を和紙や布で裏打ちして補強し、シワが寄らず色艶を維持する目的だけではなく、書画を美しく見せるための役割もあります。 丁寧に描かれた書画でもそのまま放置してしまえば、墨の水分により紙が寄り、シワができてしまうのです。そのため、シワが寄らないよう表装を施すことで、書画を長く美しい状態で楽しめます。表装は書画の価値を損なわないようにする優れた伝統産業です。 また、表装は書画の魅力を引き立てる役割があります。 描かれた書画のテーマに合わせて色彩豊かな装飾を行うことで芸術性を高める効果も期待できるでしょう。 たとえば、華やかな印象のある花鳥画には、上品で豪華な表装がマッチすると考えられます。一方で、仏画や水墨画はシンプルでありながらも迫力のある絵もあり、落ち着いた表装が好まれるでしょう。 また表装は掛軸だけに利用される言葉ではなく、額や屏風を仕立てる際にも使用されます。 表装の大きな役割は書画をきれいに保存することと、美しく装飾することの2つです。 表装は古くから専門の職人が一つひとつ丁寧に作業し、書画を引き立たせてきた伝統技術でもあります。現在では機械による表装も普及していますが、職人が施す伝統表装は精度が高いため、大切な書画を保管する際に利用するのも良いでしょう。 表装・表具の名称や種類について 作家が丹精込めて描いた書画を先の未来まで美しく保つために欠かせない表装。 また表装を施すものを表具といいます。どちらもさまざまな種類があり特徴も異なります。書画の種類やテーマ、画風などに合わせて使用する表装を替えることで、より書画を引き立たせられるでしょう。 表装の種類 表装は主に6種類あります。 丸表装 丸表装は表装の中で最も一般的な様式です。 呼び方はさまざまで、見切り表装や文人表装、袋表装等とも呼ばれています。 表装の中では比較的安い価格で施せることも特徴です。 丸表装では、書画の周りを1種類の裂地と呼ばれる布で覆います。 シンプルなデザインですが、書画そのものを引き立たせる効果があるといえるでしょう。 筋割表装 筋割表装は丸表装に細い筋が入った様式の表装です。 風帯の代わりに裂地には細い筋が貼られています。 筋割表装の中でもさらに、筋が1本のみのものを筋風帯、2本のものを筋割風帯と呼びます。 二段表装 二段表装は一文字がないタイプの表装です。 軸の上から垂れ下がる風帯を用いないため、書画をシンプルに飾りたいときにお勧めの表装といえます。裂地は外側に無地、内側に柄物を用いるのが一般的です。 三段表装 三段表装は人気の高い様式で、豪華な見た目になる表装です。 丸表装の上下を無地の裂地で分けて上から風帯を垂らすデザインをしています。 風帯の様子で名前が異なり、垂れさがっているものを垂れ風帯、貼り付けているものを貼り風帯と呼びます。本式は垂れ風帯であり、貼り風帯は略式です。 仏表装 仏表装は表装の中で最も格式高い様式です。 表装を施される書画も限られており、御朱印譜や仏画などに用いられます。 様式自体は丸表装に似た部分がありますが、金襴緞子と呼ばれる高価な織物を使用し、非常に豪華な見た目が特徴的です。書画を天地と柱、内廻の二重で覆う構造をしています。 茶掛け 茶掛けは、もともと茶席で利用することを目的にした表装。書画の両脇の柱部分は3cm未満と、ほかの表装よりも細い作りになっています。 デザインの特性上、主に寺院僧侶の一行書を表装するために用いられます。また、小さい作品や横長の作品をまとめて茶掛けと呼ぶ場合もあるようです。 表装・表具の名称 表具とは、表装を構成する部材を指します。 表具は適切な表装を施し、書画の価値を高めたり、品質を維持したりするために欠かせない部材です。 表具には、本紙・天地・柱・筋・一文字・風帯・掛け緒・巻き緒・軸木・表木などがあります。書画に施す表装の種類によって、特徴の異なる表具が用いられます。 表装の美しい掛軸 書画そのものの美しさもさることながら、表装のデザインによってより書画の魅力が増している作品も多く存在します。 また、もともとは絵巻物として描かれた作品を切断して掛軸として飾る場合に、表装にこだわっている作品も多くみられます。 『佐竹本三十六歌仙絵切』 源信明 佐竹本三十六歌仙絵切は鎌倉時代に作られた絵巻物の一部のことです。 もともとは絵巻物であった『三十六歌仙』を切断されたものの一つが『佐竹本三十六歌仙絵切 源信明』で、美しい表装で仕立てられています。 凝った表装を施すことを「おべべを着せる」と表現することもあり、表装は掛軸を愉しむために欠かせないものであったことをうかがい知ることができます。 『牛図』長沢芦雪 長沢芦雪(ながさわろせつ)は江戸時代中期に活躍した画家で、奇想の画家とも呼ばれていました。 大胆な構図で描かれた牛図は、長沢芦雪らしさが出ている作品の一つといえます。 ユーモアあふれる表情の『牛図』には、梅が描かれた表装が。これは長沢芦雪の弟子が描いたものといわれていますが、牛と梅にゆかりの深い菅原道真を彷彿とさせる興味深い仕上がりとなっています。 書画とともに愉しみたい、掛軸の表装 書画を経年劣化によるシワから守ったり、魅力を引き立たせたりするために欠かせない表装。 表装にはいくつかの種類があり、書画の種類や画風などにより異なる表装を施し、書画の魅力を最大限に引き出します。 美術品を鑑賞する際、書画そのものの歴史や背景とともに絵を楽しむのもいいですが、書画を引き立てる表装にも注目して見てみると、また違った魅力を発見できるでしょう。
2024.09.15
- 掛軸とは
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茶掛の禅語にはどんなものがある?茶の湯で大切にされてきた禅の言葉
掛軸は古くから日本人の間で楽しまれてきた芸術品の一つです。 一般的に床の間にかけて飾られている掛軸をよく目にします。 また、日本では茶席でも掛軸を飾る文化が古くからあります。掛軸作品には花鳥画や山水画、浮世絵、仏画、書画などさまざまな種類がありますが、茶の湯とともに普及した茶掛掛軸にはどのような作品が用いられるのか気になる方もいるでしょう。 茶道は禅文化とのかかわりが深く、茶掛掛軸としてよく禅語が書かれた作品が用いられています。 茶掛掛軸とは 茶掛掛軸は日本のお茶の文化を味わうために欠かせない芸術品です。 日本では古くから茶の湯の席で掛軸作品を飾る文化がありました。 茶道と聞くと、茶碗や茶筅などを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、実際に茶道に触れて親しむようになってくると、掛軸が茶室の雰囲気を作っていることに気づきます。 実は、掛軸は茶道において最も大切な道具ともいわれているのです。 茶掛掛軸には茶道の根本にある禅の文化を表す禅語が書かれています。 また、円相と呼ばれる悟りや心理など禅の心を象徴的に表現した掛軸が飾られることもあります。 また、何が書かれているかも大切ですが、誰が書いたかも重要視するのが茶掛掛軸の特徴です。そのため、文字の上手い下手や好みで掛軸の良し悪しを図ることはありません。それだけ誰が書いた作品であるかを重視しているのです。 茶道は流派を大切にする日本の伝統的行為のため、家元が自ら書いた書で制作された掛軸は、何代にもわたって大切に飾られています。 ほかにも茶掛掛軸として天皇家ゆかりの人物や歌人、武将、文化人などさまざまな人物によって描かれた作品が掛軸として用いられています。 茶掛掛軸として用いられる禅語 茶道の心と禅の心を知るための拠り所として飾られる茶掛掛軸。 茶席ではお客さまをどのようにおもてなしするかを掛軸に書かれている言葉で表現することもあります。 そのため、茶道にとって茶掛掛軸は単なるインテリアではなく、客人をおもてなしするための重要な役割を果たしているのです。 茶掛掛軸によく書かれている禅語とは、禅僧が自らの悟りの境地や宗旨を表した語句を指します。掛軸に書かれている禅の心を表す言葉を読み解くのも茶道の楽しみ方の一つといえるでしょう。 一期一会 一期とは一生を表し、一会とは唯一の出会いを意味しています。 つまり、一生において一度きりの出会いということです。 一期一会という言葉は茶道の世界で生まれました。茶席で同じ客人に何度もお茶をたてることはあっても、今日のお茶会は二度とない一度きりの茶会。そのような気持ちで客人を全身全霊おもてなしできるよう茶会に臨むという茶人の心から生まれた言葉です。 人と接するときは一生で一度きりの出会いだと思うと、その一つひとつの機会がとても貴重なものに見えてくるでしょう。 和敬静寂 和敬清寂とは、茶をたてる主人と茶をいただく客人がお互いの心を和らげて敬いあい、さらに精神だけではなく茶道具や茶室、露地を清らかな状態に保つことで澄み切ったこだわりのない境地に達することができる、という意味を持っています。 考え方や価値観の異なる人々が一緒に生きていくためには、お互いを尊敬しあう心が必要です。そのような心は清らかで静かな心境からしか生まれないとされています。 日々是好日 日々是好日とは、過去をむやみに悔いたり、未来を必要以上に期待したりせず、いま現在を精一杯生きることに努めるよう説いた禅語です。 「昨日は嫌な一日だった」「今日はいつもよりいい日だった」というのは自分で作り上げた気持ちでしかなく、本来はいつの日でもかけがえのない尊い日であるはずということを示しています。 喫茶去 喫茶去も禅語の一つで、喫は飲むこと、茶はお茶、去は去ることを示しています。 もともとは「お茶を飲んできなさい」「お茶を飲んで目を覚ましてきなさい」といった相手の怠惰を叱責するための言葉でした。 しかし、のちに「お茶を召し上がれ」という意味に解釈され、相反する意味を持った禅語となりました。 拈華微笑 拈華微笑とは、仏教を説いたブッダと弟子の摩訶迦葉との間で交わされたやり取りを表した言葉です。言葉を使わずに心から心へ教えを伝えることを意味しています。 福寿海無量 福寿海無量とは、幸せの集まった海が無限に広がっている様子を表した言葉です。 禅の教えでは、幸福というのはいま自分がいる場所に広がっていると考えます。この考え方は禅の中でも最も重要な考え方の一つです。つまり、禅の考え方では禅語の福寿の海とはどこか知らない遠くの場所にあるのではなく、いま自分がいる場所に広がっているのです。 平常心是道 平常心是道には、日常に働く心の在り方がそのまま悟りであるという意味があります。 一般的に使われている平常心は、落ち着いて普段通りかつ冷静に努めることを意味していますが、禅語における平常心とは真っさらなありのままの心を素直に受け止めるという意味です。 和顔施 和顔施とは「人と接するときはいつも笑顔でいましょう」という意味があります。 仏教では眼施、和顔施、言辞施、身施、心施、床座施、房舎施という教えがあります。見返りを求めず人によい行いをすると自分も他人も幸せな気持ちになるというものです。 本来無一物 本来無一物とは六祖慧能大師の言葉で、事物はすべて本来空であり、執着するものは何一つないという意味があります。 人は何も持たずに生まれてきますが、地位や名誉、物欲、承認欲求などいろいろな執着に悩まされます。しかし、本来は何も持っていないのだから執着を捨ててありのままに素直に生きてみましょう、という教えです。 禅語が書かれた掛軸は、茶の湯の必需品だった 茶の湯の席では、茶道の根底にある禅の心を表すために禅語が書かれた掛軸を飾る文化があります。 禅語が書かれた茶掛掛軸は、茶道を極める重要な道具として、古くから丁重に扱われてきました。また、茶道では禅語以外にも季節にあわせた掛軸を飾り茶室を彩るなど、掛軸と密接な関係を築いているといえます。 茶道で用いる掛軸に決まりはなく、茶の湯の主人が目的にあわせ飾ることが多いようです。 茶掛掛軸として用いられている一期一会などの禅語は、茶の湯の席に限らず私たちが日常的に大切にしている言葉の一つでもあります。茶道を楽しむ際は、重要な役割を果たしている茶掛掛軸にも目を向けて、禅語の意味を考えながらお茶を楽しむのもよいでしょう。
2024.09.15
- 掛軸とは
- 掛軸の種類
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掛軸の修復は自分でできる?プロに依頼すべきか迷ったら
倉庫整理で発見された掛軸の状態を確認してみると、汚れやシミが目立ったり、しわや破れが生じていたり、完璧な状態で保管できていないことも多いでしょう。 適切な保管方法を実施していても、経年劣化は避けられません。 あるいは、所有していることに気づかず、何十年も適切な処置を行わず放置していれば、なおさら掛軸への傷みは避けられないでしょう。 この記事では、掛軸を自分で修復は可能か、修理のプロへ依頼するのが安心か、汚れがあっても買取をしてもらえるかなどをご紹介していきます。 掛軸は自分で修復できる? 自宅を整理していて掛軸が発見されたとき、まずは状態を確認するのではないでしょうか。ちょっとしたしわや汚れであれば、自分で調べて修復できるのではと考える人もいます。掛軸は非常に繊細な美術品です。独自の修復によりかえってダメージを大きくしてしまわないよう、適切な修理方法を知識として持っておくことが大切です。 シミ抜き 掛軸は湿気に弱い特徴があります。そのため、湿度の高い場所に放置しておくとシミが発生しやすくなってしまいます。また素材の経年劣化により変色もしやすいため、長年置いておくと黄ばみが発生することもあるでしょう。シミを放置しているとその部分からさらに劣化が進み、ひどい場合だと作品に穴が空いてしまうことも。 掛軸に生じたシミは、水洗浄と薬品によって落としていきます。湿気や水分が原因で発生したシミは、水洗浄にて修復可能です。水洗浄では落ち切らない経年劣化による変色や茶褐色のシミは、薬品を使用して落としていきます。 薬品は正しく使用しないとかえって作品の傷みの原因になりかねません。市販のシミ抜き剤を使うとシミと一緒に書や絵画まで色落ちするリスクがあります。どのシミに対してどの薬品を使用すればよいかの判断も難しいため、薬品を使用して自分で修復するのは避けたほうが良いでしょう。適切な薬品を選ぶためには専門的な知識と経験が必要です。 破れの修復 掛軸は和紙や絹で作られているため、慎重に取り扱わなければすぐに破れてしまいます。 片づけをしている際に、掛軸に物が当たってしまったり、強く引っ張ってしまったりすると簡単に破れてしまいます。また、適切な保管方法でしまっておかなかった場合、経年劣化によって破れが生じることも。 破れた掛軸の修復は裏から紙を当てて行います。 破れた範囲が広かったりダメージが大きかったりすると、作品の分解や表装のやり直しまで必要になる可能性があるでしょう。古い掛軸は素材そのものが傷んでいるためより破れやすくなっています。修復の際に作品を傷つけないよう細心の注意が必要です。一部分の破れだからと自分で修理しようとして、穴を広げてしまう恐れもあります。繊細な技術が必要な作業となるため、専門の修理業者にお任せしたほうが作品を傷つけるリスクは少ないでしょう。 ひび割れの修復 掛軸は、経年劣化によって細かなひび割れが発生します。湿度の変化に弱いため湿気の少ない空間で長い間放置すると、乾燥で素材がパリパリになってしまうことも。巻いてある状態で乾燥した掛軸を無理やり広げようとすると画中に亀裂が何本も入ってしまうこともあります。掛軸を保管する際は湿度への気配りが大切です。 では、ひび割れが生じてしまった掛軸の修繕ですが、漉きはめ修復と呼ばれる方法で行っていきます。掛軸を構成する素材と同質の紙の原料液を流し込みひびを埋めていく方法です。本紙を漉き簾の上に置き、画がにじまないよう対処した後に紙の原料液を流し込んでいきます。余分な水分を吸収し、十分に自然乾燥させることで修復が可能です。 漉きはめ修復は専門的な技術が必要な修理技法のため、一般の方が行うことは難しいでしょう。ひび割れが生じた際はプロにお任せするのも一つの手段です。 仕立て直し 掛軸は和紙や絹が何重にも重なって形成されているため、飾りっぱなしや巻きっぱなしにしておくと折れやしわが生じてしまうことも。折れやしわが目立つ場合は、仕立て直しを行います。仕立て直しでは、まず掛軸の状態を確認したのちに、大きさを計測して解体。 シミや破れなど別のダメージは解体した際に併せて修復を行い、再度掛軸に組み立てていきます。組み立ての際は、元の表装を利用する場合もあれば新しい表装を用いる場合もあります。新しい表装で仕立て直す場合は、作品のイメージに合った物を選ぶことが大切です。 掛軸の価値が落ちるリスクも…修復はプロへ相談しよう 掛軸の修理には専門的な知識と技術が欠かせません。小さな傷みだからと自分で修理を行おうとすると、かえってダメージを広げるおそれがあります。 また、専門の道具や材料を必要とする修理方法もあるため、一般の方は自分で修理するよりも専門の修理業者に頼んだほうが良いかもしれません。掛軸を自分で修理するのは大きなリスクがあるでしょう。 掛軸はシミや汚れがあっても売却できる! 古美術品である掛軸は、作家や作品によって高価買取の対象となる場合があります。自宅や倉庫の大掃除を行っていて汚れた掛軸がでてきたときには、すぐに処分してしまわずに、まずは実績のある査定士に相談してみるのがお勧めです。 長らく倉庫や押し入れで放置された掛軸は、経年劣化により素材が傷んでいたり、シミや破れが生じたりしている場合があります。 しかし、きれいな状態で買取に出したいからと自分で修理を行おうとするのは危険。かえって掛軸を傷めてしまう可能性があるでしょう。 状態がきれいでなくとも価値のつく作品もあります。むやみに修繕を行わず、まずは美術品の買取業者に相談してみましょう。
2024.09.14
- 掛軸 買取
- 掛軸とは