皆さんは、「尾竹三兄弟」という名前を耳にしたことがありますか?
彼らは明治から昭和初期にかけて活躍した日本画家、尾竹越堂(おたけ・えつどう)、竹坡(ちくは)、国観(こっかん)の三兄弟のことです。
新潟県出身の彼らは、かつて文展(文部省美術展覧会)など数々の舞台で脚光を浴び、「展覧会芸術の申し子」とも呼ばれる存在でした。
しかし、その反骨精神と大胆な挑戦は、時に議論を巻き起こし、次第に画壇の主流から外れてしまうことに。
世間の興味が彼らの型破りな生き様ばかりに注がれたことで、肝心の画業は長い間、見過ごされてきたのです。
そんな尾竹三兄弟の「革新」と「情熱」にスポットを当てたのが、現在泉屋博古館東京で開催中の「オタケ・インパクト」展。
この展覧会では、三兄弟の作品が再評価され、彼らの真の魅力が日本画の歴史の中で再び輝きを取り戻しています。
一風変わった兄弟の絵画世界、そのインパクトを肌で感じるべく、展覧会を訪れた体験をお届けします!
目次
「オタケ・インパクト―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―」は泉屋博古館東京にて開催中
泉屋博古館東京は、六本木のビジネスエリアにありながら、緑に囲まれた静かな環境に位置しており、訪れる人々に落ち着いた雰囲気を提供しています。
都市の喧騒から離れた隠れ家的な美術館であり、アートを楽しむための静かな空間です。
そんな泉屋博古館東京で開催されている「オタケ・インパクト ―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム」は、尾竹三兄弟の個性が詰まった作品が一堂に会する、見逃せない内容となっています。
尾竹三兄弟のアナーキーな創作魂を、ぜひ会場で体感してみてはいかがでしょうか?
日本画好きなら必見!尾竹三兄弟の作品を一挙に鑑賞
泉屋博古館東京で開催中の「オタケ・インパクト ―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム」は、革新性にあふれた尾竹三兄弟の作品と生涯に迫る、日本画好き必見の企画展です。
見どころの一つは、三兄弟それぞれの代表作が一堂に集結し、彼らの独特な画風や創作の背景を深く知れること。
越堂の大胆で力強い輪郭線、竹坡の洋画風の挑戦、国観の繊細な筆致など、どれも一見の価値ありといえます。
彼らがどのように「展覧会芸術の申し子」として名を馳せたのかが、作品から感じ取れます。
特に注目なのが、明治43年に国画玉成会へ出品されながらすぐに撤去されてしまった伝説の作品『絵踏』。
今回の展示が、初公開となるそうです!
また、新たに発見された作品や東京初公開のものも多く、彼らの画業を再評価する貴重な資料がそろっています。
三兄弟は、美術界の重鎮だった岡倉覚三(天心)との対立を経て、従来の枠組みにとらわれないアナーキーな創作活動を展開しました。
今回の企画展では、そのエキセントリックな作品や活動を通じて、既存の美術史では語られなかった多様な視点を浮き彫りにしてくれます。
新旧の作品が織りなす多彩な表現を通じて、彼らが日本画に残した影響や革新性をぜひ感じてみましょう。
第1章:「タツキの為めの仕事に専念したのです」 ―はじまりは応用美術
尾竹三兄弟の画家としての歩みは、幼少期から始まりました。
彼らの父・倉松は文筆や絵画に親しみ、兄弟たちに創作の楽しさを教えた人物。
竹坡と国観は、幼少期に尾竹家に滞在していた南画家・笹田雲石から基礎を学び、雅号まで授かるという早熟ぶりを見せます。
しかし、家業の経営悪化により、兄弟は絵を「家計を助ける手段」として本格的に取り組むことに。
まず越堂が富山に移住し、続いて竹坡と国観が合流し、売薬版画の下絵や新聞挿絵の制作に携わるようになります。
この経験は、単なる生活費を稼ぐためのものにとどまらず、物語を的確に絵画化する技術や、注文主の意図を汲む力を育む貴重な経験の場となっていたことが、展示されている作品からも感じ取れます。
越堂の作品には、対角線を活用した大胆な構図が早くも見られ、竹坡・国観の作品には幼い頃からの絵画への卓越した才能が表現されており、後の活躍の礎となった確かな技術と情熱が垣間見えるでしょう。
当時の社会背景とともに、三兄弟の若き日の努力と成長を感じられる展示でした。
第2章:「文展は広告場」―展覧会という乗り物にのって
尾竹三兄弟の画業が本格的に花開いたのは、展覧会という「舞台」に立ったときからでした。
三兄弟はそれぞれ異なる流派で研鑽を積み、国観は歴史画の巨匠・小堀鞆音に、竹坡は円山派の名手・川端玉章に師事して腕を磨きます。
そして、明治30年代には展覧会で次々と入選を果たし、若くして名を馳せることになるのです。
国観が歴史画『油断』で、竹坡が『おとづれ』で二等賞を受賞し、刺激を受けた越堂も、43歳という遅咲きながら文展デビューを飾り、見事三兄弟そろっての快挙を達成しました!
展覧会という「広告場」をフルに活用し、画壇での地位を確立していった三兄弟でしたが、大正2年(1913)の第7回文展がターニングポイントとなりました。
このとき、三兄弟そろってのまさかの落選。
明確な理由は分かっていませんが、画壇における評価基準や、人間関係の複雑さが影響したのではないかといわれています。
当時、竹坡は国画玉成会の審査員をめぐって岡倉覚三と衝突しており、文展批判が結果に影響した可能性もあるようです。
展覧会に祝福される一方で呪詛される、そんな画壇の過酷な一面が浮き彫りになったできごとといえます。
第2章では、屏風や掛軸など壮麗な展示を通じて、三兄弟が展覧会という舞台で生み出した数々の名作を鑑賞できます。
国観の歴史画は、緻密な構図や人物表現の臨場感が圧巻です。
竹坡の作品には、写実と独創が見事に融合した美しさが宿ります。
また、華やかな弟たちに隠れがちですが、静かに画壇の中心に挑んだ意志が感じられる越堂の大胆な構想力にも注目です。
さらに見逃せないのが、幻の作品『絵踏』。
岡倉覚三との対立の末、わずか数日で撤去され、長らく秘蔵されていた本作が、修復を経て初公開されています。
緊張感あふれる構図と、個性豊かに描き分けられた人物像が語る物語を間近で体感できます。
第3章:「捲土重来の勢を以て爆発している」 ―三兄弟の日本画アナキズム
尾竹三兄弟が文展やその他の公式展覧会から離れ、独自の道を模索する中で活動の中心となったのが、門下生たちとの共同展覧会「八火社展」でした。
この試みは、既存の画壇の枠を超え、自らの美術理念を存分に表現する場として重要な役割を果たしたのです。
もともと1912年に竹坡が設立した「八火会」は、越堂や国観が加わり、「八華会」そして「八火社」と名前を変えながら、展覧会を開催し続けました。
1920年から始まった八火社展は、帝展(文展の後身)と開催時期や会場をぶつけるという挑発的な手法を採り、三兄弟の反骨精神が存分に現れたものとなっています。
なかでも注目すべきは竹坡の作品群です。
彼は総出品数79点のうち50点以上を一人で制作し、未来派やキュビスムといった西洋の最先端の影響を受けた挑戦的なスタイルを展開しました。
大胆な色面構成を主体とした抽象表現や、従来の日本画の枠組みから大きく逸脱した新感覚の作品は、当時の観衆に大きな衝撃を与えたそうです。
ナビ派や素朴派を思わせる装飾性豊かな描法や彩色、そして自由奔放な創造力が爆発するような迫力は、現代の目で見ても新鮮で驚きに満ちています。
実際に、西洋画風に描かれた作品が掛軸という日本の伝統的な形式に飾られている様子は、非常に新鮮で印象的でした。
西洋画のように遠近法や明るい色彩を強調する作品は、キャンバスや額縁に飾られることが一般的ですが、竹坡はあえてその西洋画的な要素を掛軸という日本の伝統的な形式に持ち込むことで、まったく異なる感覚を生み出しているようでした。
竹坡が伝統と革新をどのように融合させ、独自の美を作り上げてきたかを感じさせてくれます。
八火社展自体はわずか3回で終了してしまいますが、その短い活動期間に三兄弟が放ったインパクトは絶大なものであったと展示作品からも感じ取れました。
「数年来の忍黙不平がここに捲土重来の勢を以て爆発している」という当時の評は、彼らのエネルギーや画壇への挑戦を見事に言い表していますね。
三兄弟の描く世界は、単なる日本画の枠を超えて、画壇そのものへの挑戦状だったともいえるでしょう。
第4章:「何処までも惑星」―キリンジの光芒
尾竹三兄弟は一時期画壇の寵児として脚光を浴びたものの、その後の型破りな活動や言動によって次第に周縁へと追いやられました。
中央の舞台から姿を消し、美術史の語りからも次第に忘れ去られていった彼らの晩年。
その軌跡を振り返ると、なおも彼らの芸術家としての揺るぎない情熱と進化が浮かび上がります。
昭和時代に入ると、長兄・越堂は展覧会から距離を置くようになりましたが、竹坡と国観は再び官展への返り咲きを目指して作品制作を続けました。
竹坡は「何処までも惑星」と評されるように、その多才ぶりを最後まで示し続けました。
彫刻や洋画の分野に挑戦する一方、晩年の作品ではその奔放なエネルギーが次第に抑えられ、写実性と精緻な構成を追求した日本画へと向かいます。
華やかさの裏に垣間見える静かな深みは、竹坡の芸術家としての熟成を感じさせます。
国観は一貫して歴史画を探求し続け、生来の卓越した構図力や人物描写のスキルをさらに研ぎ澄ませていきました。
その作品には、壮麗な物語性だけでなく、歴史の中に生きる人々の息遣いまで感じられるようなリアルさがあります。
国観の歴史画は、彼の探求心と美術への情熱が結晶した成果といえるでしょう。
三兄弟の晩年の作品は、それぞれの道を歩んだ結果として結実した個性の結晶ともいえるものです。
越堂の静謐な視点、竹坡の溢れる創造性、国観の丹念な探求。
それぞれが異なる輝きを放ちながらも、どこかで互いに響き合っています。
第4章を通じて、彼らの「光芒」に再び目を向けてみると、その輝きはいまもなお美術の世界に新たなインスピレーションを与え続けているのであろうと感じさせてくれました。
特集展示:清く遊ぶ―尾竹三兄弟と住
特集展示では、明治末から大正にかけて尾竹三兄弟と深い交流を持った住友吉左衛門友純(号春翠)が収集した作品が展示されています。
三兄弟と春翠の関係は、単なる画家と注文主を超えた文雅の交わりが特徴。
彼らの絵画作品を通して、芸術と親交が織り成す世界が垣間見えます。
春翠は、岡倉天心との対立や文展落選など三兄弟にまつわる騒動に動じることなく、自らの審美眼に基づいて作品を購入し続けた人物です。
その姿勢は、どんな風潮にも左右されない強い信念を感じさせます。
今回展示されている作品群には、春翠が見抜いた三兄弟の芸術的価値が表現されており、当時の作品購入が単なる商業的行為ではなかったことがよく分かります。
展示には、雅会で三兄弟が即興で描いた作品も。
即興の場で軽やかに筆を走らせた三兄弟の腕前は、参加者にくじ引きで分けられるほど人気だったそうです。
席画における彼らの達筆ぶりは、単なる技術の披露ではなく、その場を楽しませるための芸術的サービス精神が感じられます。
春翠との交流のエピソードとして印象的なのが、1927年、春翠の死去後に越堂が贈った『白衣観音図』です。
これは仏前に届けられたもので、三兄弟と春翠の絆が、単なる購入者と画家の関係ではなく、深い文雅の友情にもとづくものであったことを物語っていますね。
インパクト大な尾竹グッズも見逃せない
泉屋博古館東京で開催中の「オタケ・インパクト―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―」展、見応えのある展示だけでなく、お土産コーナーも充実しています。
尾竹三兄弟の作品がデザインされたグッズは、どれも展覧会のテーマ「インパクト」を感じられる仕上がりです。
グッズの王道ともいえるクリアファイルは、三兄弟の代表作が細部にまで再現されており、絵画そのものを手元で楽しめる魅力があります。
デスクワークに取り入れると、なんだか作業もアーティスティックな気分になりますね。
絵はがきは、展覧会で気に入った作品を気軽に持ち帰れるアイテムとして大人気です。
今回の展示では、通常サイズに加えて、長形サイズもラインナップされています。
独特な構図や色彩を活かしたデザインは、尾竹三兄弟ならではの魅力。
大切な人への手紙にも、自分のインテリアとして飾るのにもぴったりです。
展示を楽しんだ後、もっと深く知りたいと思った方には公式図録がお勧めです。
三兄弟それぞれの個性や画業、波乱に満ちた人生をじっくり振り返れるでしょう。
図録を片手に展示を振り返れば、彼らのアナキズム精神がより一層心に響くはずです。
伝統を超えていく、尾竹三兄弟
泉屋博古館東京で開催されている「オタケ・インパクト―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―」展は、約80年の時を超えて、尾竹三兄弟による革新的な日本画の魅力を伝えてくれる貴重な企画展です。
越堂、竹坡、国観という個性豊かな画家たちがどのようにして日本画の伝統を超え、新たな表現の道を切り開いていったのか、その鬼才ぶりが感じられました。
彼らが残した作品には、日本画の枠にとらわれない自由な発想とアナキズム的なエネルギーが込められており、観る者に強い印象を与えてくれます。
この展覧会を通じて、80年の時を経ても色褪せることなく輝く独特な世界観に触れられました。
泉屋博古館東京で開催されている「オタケ・インパクト―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―」展は、約80年の時を超えて、尾竹三兄弟による革新的な日本画の魅力を伝えてくれる貴重な企画展です。
越堂、竹坡、国観という個性豊かな画家たちがどのようにして日本画の伝統を超え、新たな表現の道を切り開いていったのか、その鬼才ぶりが感じられました。
彼らが残した作品には、日本画の枠にとらわれない自由な発想とアナキズム的なエネルギーが込められており、観る者に強い印象を与えてくれます。
この展覧会を通じて、80年の時を経ても色褪せることなく輝く独特な世界観に触れられました。
また、展示をじっくり楽しんだ後には、美術館内にある「HARIO」の直営カフェで一息つくのもおすすめです。
このカフェでは、美術館の落ち着いた雰囲気の中で、こだわりのコーヒーやスイーツを楽しめます。
展覧会の感想を胸に、香り高い一杯とともにゆったりとした時間を過ごせる贅沢な空間です。
企画展とともに、泉屋博古館東京でのひとときをぜひお楽しみください。
80年の時を経ても色褪せない尾竹三兄弟の世界観と、美味しいコーヒーのひとときが心に深く響く時間を演出してくれるでしょう。
開催情報
『特別展 オタケ・インパクト 越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム展』
場所:泉屋博古館東京
住所:〒106-0032 東京都港区六本木1丁目5-1
期間:2024/10/19~2024/12/15
公式ページ:https://sen-oku.or.jp/tokyo/
チケット:一般1,200円、高大生800円、中学生以下無料
※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください