伝統工芸品または伝統的工芸品と呼ばれるものには、さまざまな種類があります。伝統工芸品と気づかずに、日常的に使っているものもあるかもしれません。
目次
伝統工芸品と伝統的工芸品
伝統工芸とは、長い年月にわたって受け継がれてきた技術や技法のこと。伝統工芸を使って作られた工芸品は、伝統工芸品や伝統的工芸品と呼ばれます。
2つの用語の定義は、やや異なります。
伝統工芸品とは
伝統工芸品と呼ばれるものには、明確な定義はありません。
一般的に伝統的な技術を使って作られており、製造工程に手作業が多いものを伝統工芸品と呼ぶ傾向にあります。
なお、各都道府県や自治体が伝統工芸品として認めたものは、全国に1200種類程度あるといわれています。
伝統的工芸品とは
「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づいて経済産業省が指定したものが、伝統的工芸品と呼ばれます。
伝統的工芸品に指定されるのは、以下の5つの条件を満たす工芸品です。
・主として日常生活の用に供されるもの
・その製造過程の主要部分が手工業的
・伝統的な技術又は技法により製造されるもの
・伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるもの
・一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているもの引用元:経済産業省HP:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/nichiyo-densan/index.html
なお、伝統的工芸品に指定されるには、産地から経済産業省に対して申請手続きが必要です。したがって、5つの条件を満たしていても、伝統的工芸品としての申請を行っていない工芸品もあります。
伝統工芸品の種類
伝統工芸品というと、陶磁器や人形、織物などを思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし実は、伝統工芸品には、非常に多くの種類があります。
例えば、香川県の丸亀うちわや兵庫県の播州そろばんも伝統工芸品の一つです。
そのほか、伝統的工芸品の種類としては、織物、染織品、その他繊維、陶磁器、漆器、木工品、竹工品、金工品、仏壇・仏具、和紙、文具、石工品、人形、その他の工芸品、工具用具・材料などがあります。
身近な日用品にも、伝統工芸品に該当するものがあるかもしれません。
代表的な伝統的工芸品
日本全国各地で、さまざまな伝統的工芸品が作られています。
中にはお土産としてもらったり、日用品として使用したりしているものがあるでしょう。
なお、2023年10月時点で経済産業省が指定する伝統的工芸品は、全部で241品目あります。
北海道・東北地方
北海道・東北地方の伝統的工芸品には、南部鉄器や宮城伝統こけし、会津塗などがあります。
南部鉄器(岩手県)
南部鉄器は、岩手県の主に盛岡市や奥州市水沢で作られている伝統的工芸品です。
江戸時代の盛岡藩主である南部重直が、茶の湯のために京都から鋳物師を呼んで作らせた湯釜が南部鉄器のルーツです。
現代では、和モダンをテーマに可愛いフォルムやスタイリッシュなデザインなど、さまざまな南部鉄器が販売されています。
おしゃれで実用的なため、現代では国内外から人気があります。
宮城伝統こけし(宮城県)
宮城県伝統こけしは、すべての工程を手作業で行い制作されたこけしを指します。
江戸時代から主に温泉地での土産物として盛んに作られるようになりました。
こけしには、伝統こけしと呼ばれる種類があります。
11系統あるうちの、鳴子系・弥治郎系・遠刈田系・作並系・肘折系の5種類が、宮城県にあるのです。
昭和前期以降、芸術品としての評価が高まり「こけしブーム」が起きたこともあります。
会津塗(福島県)
会津塗とは、福島県会津地方で作られる漆工芸です。
1590年、豊臣秀吉の命で会津領主となった蒲生氏郷が、奨励したことで大きく発展しました。
木地には、朴、栃、欅などが用いられており、沈金や蒔絵などによる優美な意匠が特徴です。
関東地方
益子焼、江戸木目込人形などは関東地方の伝統的工芸品です。
益子焼(栃木県)
益子焼は、江戸時代ごろから栃木県の南部に位置する益子で盛んに作られるようになった陶器です。
現在、益子には250以上の窯元があるといわれており、国内だけではなく海外からも多くの陶芸家が益子に移住し、陶器を制作しています。
流し掛けと呼ばれる技法によって生み出される、流れるような勢いのある絵柄が特徴です。
江戸木目込人形(埼玉県)
木目込人形とは、桐のおが屑と糊を混ぜて固めたものに溝を彫り、そこへ布地を入れ込んで作る人形のことです。
京都で発祥し、江戸で発展したものを江戸木目込人形と呼びます。
京都で作られるものよりもほっそりとした顔立ちで、目鼻立ちがくっきりしているのが特徴です。
江戸木版画(東京都)
江戸木版画とは、多色刷りの技術ならびにその技術によって作られた木版画のことです。
色ごとに複数の原版を作り、それらを重ねながら何度も摺ることで、カラフルな一枚の絵を作り上げます。
江戸時代に確立した技法であり、絵師・彫師・摺師の分業制によって制作されることも特徴です。
鎌倉彫(神奈川県)
鎌倉彫とは、繊細な彫刻を施した木製の箱などに、漆を塗り重ねた漆器です。
乾口色と呼ばれる茶褐色のものが一般的で、古くは仏具や香入れとして、最近ではお盆や皿などとして使用されることがあります。
中部地方
中部地方の伝統的工芸品には、美濃焼や常滑焼などの陶磁器や小千谷縮のような織物などがあります。
小千谷縮(新潟県)
小千谷縮とは、新潟県塩沢町の小千谷地区で作られている麻織物です。
平安後期には、現代に伝わるいざり機を使う技法が確立していたとされています。
1200年以上にもわたって技術を継承してきたことが評価され、「小千谷縮・越後上布」としてユネスコ無形文化遺産に登録されました。
美濃焼(岐阜県)
岐阜県の東濃地方で作られている美濃焼は、素焼きしたものに釉薬をかけ、もう一度焼いて仕上げられる陶器で、釉薬が生み出す美しい色合いが特徴です。
ろくろなどを使う成形の工程や、素焼きの前の絵柄つけなどに多くの手作業を必要とします。
常滑焼(愛知県)
常滑焼は、愛知県の常滑市を中心に作られている焼き物です。
平安時代後期に始まったとされ、六古窯の一つにも数えられています。
基本的に釉薬をかけないため、土に含まれる酸化鉄の働きによって焼き上がりが赤褐色になることが特徴です。
輪島塗(石川県)
輪島塗は、石川県輪島地方で作られてきた漆器です。
布で補強した器に、土を混ぜた下地を塗ることで強度の高い漆器ができることが特徴です。
漆を複数回にわたって丁寧に塗り重ねているため、堅牢かつ金銀が鮮やかに映る艶やかな漆器が魅力です。
現代のような輪島塗は、江戸時代に完成したと考えられています。
近畿地方
近畿地方の伝統工芸品には、さまざまな種類の陶磁器があります。
伊賀焼(三重県)
伊賀焼とは、三重県伊賀市と名張市で作られる陶器のことです。
8世紀の天平年間に、伊勢神宮の神瓶を制作するために興された窯が、伊賀焼のはじまりと伝えられています。
何度も高温で焼成される伊賀焼には、土に含まれるガラス質や焦げなどにより表面に模様が生まれます。
その模様が侘び寂びを感じさせるとして、茶人に愛されました。
信楽焼(滋賀県)
信楽焼は、滋賀県甲賀市を産地とする焼き物で、六古窯の一つに数えられています。
信楽焼の原料は、伊賀焼と同じく琵琶湖層土で、茶碗や花瓶、建築用のタイルまで現在でも多くの日用品が生産されています。
京焼・清水焼(京都府)
京焼・清水焼は、京都で生産される焼き物の総称です。
多種多様な技法を用いたものがそろうため、用途や好みに合わせて選べます。
特に、ご飯茶碗や抹茶碗などが多く作られています。
播州そろばん(兵庫県)
兵庫県小野市で作られているのが、播州そろばんです。
江戸時代初期から、商人や寺子屋に通う子どもたちの間で計算道具として使用されてきました。
播州そろばんは、珠が均一にそろっており使い勝手がよいことや、見た目の美しさが高く評価されています。
中国・四国地方
陶磁器のほか、筆やうちわなども中国・四国地方の伝統工芸品です。
備前焼(岡山県)
岡山県で生産されている備前焼は、六古窯の一つに数えられる炻器です。
炻器とは、陶磁器の一種で、磁器のように叩くと金属のような音がする一方、陶器の光を通さないという性質を持っています。
保温性が高く丈夫であることから、実用性が高いとして人気があります。
熊野筆(広島県)
イタチやたぬきといった動物の毛を使って伝統的な技法で作られる熊野筆は、筆記用具としてだけではなく、最近では化粧筆や画筆などとしても人気です。
なお、江戸時代末期に村人たちが農閑期に作ったのが、熊野筆のはじまりといわれています。
萩焼(山口県)
山口県萩市で生産される陶器を萩焼と呼びます。
江戸時代に当時の藩主であった毛利輝元の命により、朝鮮出身の李勺光と李敬が窯を興したのが萩焼のはじまりといわれています。
素朴な見た目ながら、使うほどに味わいが出るのが萩焼の魅力です。
砥部焼(愛媛県)
砥部焼は、愛媛県伊予郡砥部町を中心に作られている磁器です。
近くの砥石山から石を切り出した際に取れる屑石を原料に作られます。
白磁に藍色の染付が特徴です。
丸亀うちわ(香川県)
丸亀うちわは、47もの工程を経て香川県丸亀市周辺で作られるうちわです。
現代では、年間1億本以上が生産され、国内シェアの9割を占めるといわれています。
九州地方
九州・沖縄地方にも、さまざまな種類の伝統工芸品があります。
博多人形(福岡県)
江戸時代頃から福岡県博多地区で作られている、色付けされた素焼きの人形を、博多人形と呼びます。
明治時代には国際的にも評判となり、1925年にはパリ万博に出品されました。
型を使う複製品と1点ものがあります。
有田焼(佐賀県)
日本を代表する焼き物の一つである有田焼は、佐賀県有田町周辺で生産されている磁器です。
真っ白な素地に、さまざまな釉薬を使って色や絵柄をつけている特徴があります。
また、ヨーロッパなどの海外への貿易品として発展した歴史もあるため、龍や吉祥文様など中国風の柄が多いことも特徴です。
琉球漆器(沖縄県)
沖縄で生産される琉球漆器は、芸術性が高く、贈答品としても人気の漆器です。
中国から伝来した技法をベースとしているため、中国風の絵柄やハイビスカスなどの沖縄の植物をモチーフにしたものが多く見られます。
日本の文化に触れる、伝統工芸品・伝統的工芸品
伝統工芸品・伝統的工芸品は、日本の伝統的な技術を用いて作られる工芸品です。
全国各地で、その地方の風習や風土に根ざした伝統工芸品が作られています。
伝統工芸品・伝統的工芸品を使ったり所有したりすることは、日本の文化に触れることにつながるでしょう。