日本工芸とは
一般的に工芸とは、日常生活において利用される道具類の中で、材料や技巧、意匠によって美的効果を与えられた製品を指します。
工芸品は、生活用品としての実用性を兼ね備えており、彫刻や絵画などの芸術・美術とは異なり、建築とともに応用芸術の一種として扱われています。
また、多くの工芸品は手作業によって製作されており、伝統的な技術や技法を用いているのも特徴の一つです。
作品によっては、職人の技術や創造性が反映されたものもあり、実用性がありながらも鑑賞としての楽しみ方も持ち合わせています。
工芸の種類
工芸には、利用される材料や技法によってさまざまな種類のものがあります。
木工
木工は、木材を加工して製作された工芸品です。
木に直接彫刻する「彫物」や、薄い木材を曲げて形を作る「曲物」、木をくりぬいて製作する「刳物」、板を組み立てて製作する「指物」などがあります。
日本は、国土の7割が森林であり、木は古くから住宅や家具、日用品など、私たちの身の回りのものの材料として多く利用されてきました。
さまざまな技法により製作された木工の工芸品は、日本の暮らしを古くから支えてきたといえるでしょう。
漆器
木で木地と呼ばれる形を作り、漆の木の樹液を上から塗って製作する工芸品です。
漆は、水が染み込みにくく、酸やアルカリにも強い特徴があり、防虫や防腐性にも優れており、食器として古くから利用されてきました。
漆を塗り重ねるほど強度が増し、揮発させ飴色にしたものに顔料を混ぜると色漆となり、美しい発色が見られます。
竹工
竹を加工して製作された工芸品が竹工で、軽く弾力性があり耐水性に優れている竹を利用することで、長持ちする日用品が製作できます。
日本には約600種類の竹が生育しており、竹工はそのうちの約10種類の竹を使って製作されています。
編物や組物などの技法があり、古くから、箸、茶筅、籠などの竹細工も製作されてきました。
石工
石を加工した工芸品で、石灯籠や鉢物、五重の塔、彫刻物などの種類があります。
石灯籠は、仏教とともに日本へ伝わり、平安時代にはすでに神社仏閣の常夜灯として利用されていました。
石は、丈夫で長持ちする上に加工により美しい見た目を表現できるため、古くからさまざまな形で用いられてきました。
ヨーロッパや中国などと比べると、日本は木造建築がメインですが、石垣や庭石、墓石などにも石工が用いられています。
染物
織り上げた白い生地に、さまざまな染料で模様を描く工芸品で、糸をくくったり板にはさんだりして、一部の白い部分が染織されないようにして模様を描く「絞り」や、模様を切り抜いた型を用いて染める「型染め」や「小紋」、染めを防ぐ糊で模様の輪郭を描く「筒描」、防染した内側を染める「友禅」など、時代によってさまざまな染めの技法が生まれています。
織物
色を染めた糸を織って製作する工芸品で、色の染め方や織り方によってさまざまな模様を表現するのが特徴です。
ストライプやチェック柄などを表現する「縞」や「格子」、糸の一部を防染して白い部分を残した糸を使用して織る「絣」などがあります。
編物
糸を編んで製作した布や衣類、装飾品などを指す工芸品で、ニットやメリヤスとも呼ばれています。
手編みのニットから機械編みの靴下まで、手法や製品の種類が豊富で、伸縮性のある編物には独特の風合いがあります。
皮革
動物の皮を加工した工芸品で、カバンや財布、靴などの生地として利用されています。
なめしの技術により、皮の状態を安定させることで腐敗を防止し、柔軟性や弾性、耐熱性、耐水性などに優れた素材となります。
手入れを適切に行えば、何十年と持つ製品を作れることから、親から子へ何代にもわたって受け継がれるものが作れるのも魅力の一つです。
陶器・磁器
陶器や磁器は、土をこねて成形し、窯で焼いた焼き物を指す工芸品で、陶器であれば「陶土」が利用され、土独特の風合いが楽しめます。
磁器であれば「陶石」を細かく砕いた粉が用いられ、地の色が白く水を通しにくい特徴があります。
また、陶器は透過性がありませんが、磁器には透過性があるのも特徴です。
和紙
植物繊維を水に溶かして、簾桁と呼ばれる道具を用いてすくって薄く平らにし、水を切って乾かして紙にした工芸品です。
破れにくく丈夫なのが特徴で、伝統的な和紙は手すきで作られています。
和紙の技術の起源は諸説ありますが、日本書紀に記されている610年に朝鮮から仏教の僧が日本に伝えたとする説が有力です。
平安時代には、日本独自の文化が花開き、和紙の製造方法でも日本ならではの流し漉きが誕生しました。
金工品
金や銀、銅、鉄などの金属を加工した工芸品で、湯釜や鐘、生活用品では、鍋や包丁、カトラリーなど、さまざまな用途の製品に利用されています。
技法もさまざまで、代表的なのは、鋳型に金属を流しいれて形を作る「鋳金」や、あとから金属の表面に美しい文様を彫る「彫金」などです。
人形
こけしのように木を彫って作られる「木彫り人形」、木彫りの人形に溝を掘り布挟んで着飾る「木目込人形」、「土人形」、「衣装人形」などがあります。
国の指定を受けている伝統工芸品の人形は、8種類です。
ガラス
ホットワークと呼ばれる、原料を加熱して自由自在に加工する技法と、コールドワークと呼ばれる、すでにできあがっているガラスを常温で削り、加工する技法があります。
ホットワークによって作られるガラス製品には、肥前びーどろや佐賀ガラスなどがあり、コールドワークによるガラス製品には、江戸切子や薩摩切子などがあります。
明治工芸とは
明治工芸とは、海外輸出向けに作られた工芸品で、近代化に向けて必要となる外貨を獲得するために製作されました。
1868年、江戸幕府が崩壊し明治政府が誕生すると、日本は、西洋諸国に対抗するために近代化を目指すようになりました。
工業の機械化や鉄道網の整備などを精力的に行い、国力を高める殖産興業政策を推進するためにも、外貨が必要だったのです。
当時の日本には、まだ現代のような技術や工業製品が生まれていなかったため、外貨獲得のために伝統的な工芸品の輸出を柱にしました。
武家社会の崩壊により、街に溢れていた将軍家や大名家お抱えの刀装金工師や蒔絵師などに、輸出用工芸品の製作を依頼したのが始まりです。
1873年、日本が初めて参加した第1回ウィーン万博において、鎖国により広く知られていなかった日本の金工をはじめとした数々の工芸品は、欧米人には大変新鮮に映り、ジャポニズムという言葉が生まれるほど、日本の伝統文化が海外で大ブームを巻き起こしました。
明治工芸には、金工や彫刻、自在置物、七宝、陶磁、提物、漆器などの工芸品がありました。
明治工芸は、現代では再現が難しい作品が多く、超絶技巧と高く評価される海外輸出向けの製品であったため、日本国内にはあまり残されていない希少な工芸品です。
自在置物とは
自在置物とは、日本の金属工芸の一つで、龍や蛇、鳥、エビ、伊勢海老、蟹、蝶などの動物が表現されているものが多いのが特徴です。
体節や関節部分を本物のように自由に動かせるようになっており、内部の構造が複雑で製作するのに高い技術力が必要な工芸品です。
材料には、鉄や銅、銀、金と銅の合金、銀と銅の合金などが用いられています。
たとえば、蛇の自在置物であれば円筒形のパーツを数百個組み合わせて製作されており、置物にとぐろを巻かせたり、流線型を描かせたり、姿かたちを自由に変えられる魅力があります。
明治工芸として製作された自在置物は、日本国内よりも海外で高く評価されており、1888年にフランスで出版された『Le Japon Artistique』という日本美術の紹介雑誌でも、自在置物が紹介されていたそうです。