皆さんは、江戸琳派の異才・鈴木其一(1795年-1858年)を知っていますか?
彼は、江戸時代後期に活躍した琳派の絵師で、独自のスタイルを確立させ近代日本画に大きな影響を与えたといわれています。
今回は、そんな鈴木其一と琳派の作品を展示する根津美術館の「夏と秋の美学展」に行ってきました!
目次
「夏と秋の美学展」は根津美術館にて開催
日本の夏から秋にかけて移ろいゆく季節の美しさを堪能できる「夏と秋の美学展」は、表参道駅から徒歩8分の都会にある根津美術館で開催されています。
根津美術館は、美術品鑑賞だけではなく、広い庭園を散策できる美術館でもあります。
庭園については、のちほどあらためて紹介します!
根津美術館は、入り口から館内に入るまでの廊下に竹がズラリと生えており、外観から日本の趣深さがあるすてきな美術館です。
開館10分前に到着しましたが、すでに入り口前には十数人の人が並んでいました!
美術品だけではなく、日本らしい外観や庭園があるためか、海外観光客と思われる人たちもたくさん待っていたのが印象的でした。
「夏と秋の美学展」のチケットは、日時指定の事前予約が可能です。
当日、予約をしている人としていない人で列が分けられ、予約している人たちが優先的に案内されるため、待つのが苦手な人は事前予約がおすすめです!
開館時間となり、さっそく館内に足を踏み入れてみると、目の前がガラス張りになった開放的な空間が広がっています。
展示室は1階と2階であわせて6つあり、「夏と秋の美学」展は、展示室1・2で行われています。
なお、展示の写真撮影は禁止されています。
写真撮影は根津美術館の庭園で楽しむのがお勧めです!
琳派作品を中心とした「夏と秋の美学」展の展示について
日本では、古くから春と秋の季節が好まれ、『古今和歌集』でもその偏愛が表れています。
しかし、江戸時代になると、夏と秋の組み合わせも目立ち始めたそうです。
暑い夏に力強く生きる生命と静けさが訪れる秋を対比する感性が、高まっていったといわれています。
「夏と秋の美学」展では、そんな季節感を表現した美術作品を通して、日本の伝統的な美意識がどのようなものだったのかに迫っていきます!
展示されている作品には、初夏から晩秋までの季節の移り変わりを描いたものが多くあります。
メインともなる鈴木其一の大胆な色使いや独特の筆致が光る作品も公開されています!
また、琳派の祖・俵屋宗達の工房の優品も合わせて展示されており、夏から秋に移り変わる季節を美術の中でどのように表現してきたかを堪能できる企画展です。
作品は、以下5つのテーマに分けられ展示されていました。
・夏のおとずれ
・真夏の情趣
・夏から秋へ
・涼秋の候
・秋の叢
また、この企画展では琳派作品だけではなく、歌川広重や冷泉為恭、上村松園、住吉広定など名だたる画家が描いた作品も展示されています。
季節の移り変わりをどのように表現しているのか、一つひとつの作品を鑑賞していくのもよいですが、琳派はとそれ以外で比較してみたり、制作された時代でどのように変わるか比較してみたりと、いろいろな楽しみ方ができますね。
冷泉為恭の『納涼図』では、親子と思われる3人が屋敷の一角で涼を取る姿が描かれており、はだけた着物が夏の暑さを象徴しているように感じられます。
また、着物のゆるさと、身をくつろがせる姿からは、現代にも通じる夏の過ごし方を思わせてくれますね。
「夏から秋へ」をテーマにした展示では、夏の花として白い百合がさまざまな作品に登場しているのが印象的でした。
暑い季節に咲く優雅で美しい白百合は、古くから多くの人々を魅了していたようですね。
白い百合が描かれている作品で、印象に残ったのが鈴木其一の『夏秋渓流図屏風』です。
くっきりとした色使いと大胆な構図で異彩を放っていました!
川の流れが鮮やかな群青で描かれ、植物は鮮やかな緑で表現されており、そのコントラストがとても強烈でした。
また、金色の線を用いて川の流れを表現しており、琳派ならではのデザイン的な要素が強く感じられる一方で、他の作品とは一線を画す独特の画風が印象に残っています。
濃い青や緑の背景に浮き上がるように描かれている真っ白な百合は、とても素敵に見えました。
また、右から左に視線を移すにつれて、枝に垂れ下がる枯れ葉が目に入ります。
枯れ葉はグラデーションで描かれ、ほかの植物や川の描写とは異なる繊細さが感じられました。
淡い黄色や橙色で表現された枯れ葉は、夏の終わりから冬の訪れまでの静かな自然の移ろいを表現しており、その繊細な色の変化は、季節の微妙な移り変わりを見事に捉えているようでした。
住吉広定の『舟遊・紅葉狩図』は、作品全体が「漢と和」「夏と秋」「男性と女性」といった対比で構成されている点が印象的です。
画面右側では、鮮やかな緑と青を背景に、日本らしい松の木と白い州浜が描かれ、女性たちが優雅に舟遊びを楽しんでいる姿が和の風情を漂わせていますね。
公家の女性たちが着物をまとい、静かに舟を漕ぐ様子は、穏やかな夏のひとときを象徴しているかのようです。
一方で、画面左側には、険しい崖を背に滝のように流れる川が描かれ、その荒々しい風景が中国の山水画を思わせます。
男性貴族たちが紅葉狩りを楽しむ様子が描かれており、秋の深まりを感じさせる紅葉と、滝の力強い水流が対照的に表現されています。
左右に配置された異なる季節と風景の対比が巧みに描かれており、色彩の鮮やかさやモチーフの違いが視覚的な楽しさを引き立てていると感じられました。
秋の叢というテーマで展示されていた2つの『武蔵野図屏風』も印象に残っています。
それぞれが秋の風景を象徴する美しさを異なる視点で描いていました。
No.27の『武蔵野図屏風』は、その独特な構図と表現がとても記憶に焼き付いています。
風景画では、よく山や川、海などが描かれるイメージがありますが、この作品ではそれらの要素が一切描かれていません。
屏風の下半分に、背の高い草が密集して生い茂っており、その中に風景の広がりを感じさせるものが一切なく、草むらが全体を覆っています。
さらに、よく目を凝らしてみると、濃密な草の間にぽっかりと浮かぶ丸い月が描かれています。
この月の描かれ方は特に不思議で、草の中に月が沈んでいくのではなく、草の上を転がっているかのように見えるのです。
月が空ではなく、草の中に「落ちている」ように見えるこの表現が、この屏風の独自性を際立たせています。
自然の中にある静けさと、奇妙な月の存在感が融合し、見る者に秋の深まりを感じさせるとともに、少し異世界に迷い込んだような感覚を味わわせてくれる作品でした!
一方、No.28の『武蔵野図屏風』は、屏風の右側には太陽、左側には月が描かれています。
の対比は、昼と夜、あるいは時の移ろいを表しており、自然のリズムを感じさせてくれますね。
太陽は叢の奥にゆっくりと沈み、月は奥からゆっくりと昇っていくような描かれ方をしており、これによって見る者は昼から夜へ、夏から秋への移り変わりを視覚的に体験できるのではないでしょうか。
根津美術館のみどころは美術作品だけではなく庭園にもある!
根津美術館の魅力は、貴重な美術作品だけではありません!
根津美術館の敷地内に広がる大きな庭園も魅力の一つです。
庭園内には順路がなく、自由に散策できるため、訪れるたびにルートを変えて異なる景色を楽しめます。
庭園内には、鎌倉時代の石仏や灯籠、中国の明時代のブロンズ像、韓国・調整時代の石塔や灯籠といった、初代根津嘉一郎が集めたコレクションが点在しており、精巧な美術品が散策中に突然目の前に現れる瞬間は、まるで異世界に迷い込んだかのような感覚を与えてくれます。
この異世界感には心を打たれるものがあり、まるで物語の一端に立っているかのような独特の景観は、ほかの日本庭園では味わえない特別な体験ではないでしょうか。
特に印象的だったのは「天神の飛梅祠」。
学問の神様である菅原道真にちなんだ「飛梅伝説」に基づいて名づけられたものだそうです。
飛梅伝説とは、左遷された道真を慕い、一夜にして太宰府まで飛んでいった梅の木の伝説です。
歴史的な背景を知ると、庭園の一つひとつのスポットにもより深い感慨を抱くことができますね。
また、根津美術館の庭園は、東京都内でも有数の紅葉の名所としても知られており、秋には美術展鑑賞とともに、色鮮やかな紅葉の庭園を楽しむために多くの人が訪れます。
庭園と美術が調和するこの場所は、まさに季節の美しさを五感で味わえる贅沢な空間です。
根津美術館の企画展に訪れた際は、ぜひ庭園散策もしてみてくださいね。
ミュージアムショップでは作品をデザインしたオリジナルグッズが販売されている
根津美術館のミュージアムショップでは、展示作品に関連した魅力的なグッズが数多く取り揃えられていました。
企画展の作品を印刷したポストカードやミニ屏風、折り畳み傘、オリジナルスカーフ、香り箱、扇子、クリアファイルなど、オリジナル商品が充実しており、ここでしか手に入らないアイテムが並んでいます。
特に注目したいのが、色鮮やかな染め布「更紗(さらさ)」をモチーフにしたグッズです。
更紗は、4000年以上前にインドで発祥し、大航海時代に世界中に広まった布で、ペルシャやエジプト、ヨーロッパ、東洋などで人気を集めました。
日本でも大名や茶人が愛した美しい更紗が、根津美術館で丁寧に再現され、スカーフやポーチなどのアイテムとして展開されています。
ミュージアムショップで販売されているグッズには、東洋古美術を中心に展示する根津美術館ならではのこだわりが詰まっており、お気に入りのグッズを購入することで展覧会の余韻を日常でも楽しめます。
「夏と秋の美学」は季節の移り変わりの美しさを思い出させてくれる企画展
「夏と秋の美学」展は、数百年も前に描かれた琳派や有名画家の作品たちが、今なお私たちに季節の移り変わりの美しさを感じさせてくれる素敵な企画展でした!
夏の爽やかな情景や秋の深まる風情が繊細に描かれた作品たちは、時を越えて夏から秋への季節の移り変わりの美しさを私たちに感じさせてくれます。
今回の企画展を通じて、絵画の中に息づく自然の美しさと季節の儚さをあらためて感じました。
また、日本の伝統美術の豊かさを再認識する貴重な機会となり、充実した美術鑑賞となりました。
根津美術館には、庭園を望めるNEZUCAFEが併設されています。
季節によって異なる表情をみせてくれる庭園の景色をガラス越しに眺めながら、おいしいフードとドリンクを楽しめます。
企画展を鑑賞した後は、庭園の景観を堪能しつつ、展示会の余韻に浸るのもおすすめです。
なお、NEZUCAFEの利用は美術館入館者のみとなっているため、美術鑑賞とあわせて楽しみましょう!
店舗情報
NEZUCAFÉ 根津美術館
https://www.nezu-muse.or.jp/sp/guide/cafe.html
開催情報
『夏と秋の美学展』
場所:〒107-0062 東京都港区南青山6-5-1
期間:2024/9/14~2024/10/20
公式ページ:https://www.nezu-muse.or.jp/
チケット:
オンライン日時指定予約:一般1,300円、学生(高校生以上)1,000円
当日券(窓口販売):一般1,400円、学生(高校生以上)1,100円
※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください