古くから伝わる技術を使って日本各地で作られるさまざまな工芸品は、伝統工芸品や民芸品などと呼ばれています。
地域に密着した工芸品や民芸品の違いを知ることは、旅の楽しみを増やしてくれるでしょう。
目次
国内外から注目される、日本の工芸技術
日本では昔から、さまざまな技術を使った工芸品や民芸品が作られています。
工芸品とは
工芸品とは、日常的に使われる陶磁器や木工品、漆器などのうち、実用性に加えてデザイン性が認められるもののことです。
特に伝統的な技法を用いて作られるものは、伝統工芸品または伝統的工芸品と呼ばれることもあります。
民芸品とは
民芸品とは、人々の暮らしの中で生まれた手づくりの日用品のこと。
工芸品の中でも、より小規模に生産されるものが民芸品と呼ばれる傾向にあります。
生産地の風土や風習を色濃く反映したものが多いことも、民芸品の特徴です。
伝統工芸品と伝統的工芸品とは
伝統工芸品と伝統的工芸品は、同じような意味で使われることが少なくありません。
しかし、厳密には「伝統的技法を使用する」「主に手作業で製造されている」など、5つの条件を満たすとして、経済産業省が指定する工芸品だけを伝統的工芸品といいます。
2023年10月現在、日本には241種類の伝統的工芸品があります。
一方、伝統工芸品に明確な定義はありません。
長い年月にわたって受け継がれた技法を用いて、手作業で作られていると多くの人々が認めているものが、伝統工芸品であるとする考え方もあります。
お土産などで人気の工芸品・民芸品
伝統工芸品は、お土産としても人気です。
各地を代表する工芸品・民芸品を押さえておきましょう。
北海道・東北地方
木彫りの熊や曲げわっぱは、北海道・東北地方の代表的な工芸品・民芸品です。
木彫りの熊 (北海道)
北海道のお土産として有名な木彫りの熊は、函館近郊の八雲町が発祥といわれています。八雲町は、明治維新の後に旧尾張徳川家の藩士たちが移り住んで開かれた町。旧尾張徳川家19代藩主の徳川義親は、旅行で訪れたスイスの民芸品を参考に、副業として木工品を作ることを町民に奨励しました。
その結果、作られた品物の1つが木彫りの熊です。
木彫りの熊には、定番の鮭を加えたポーズのものから、抽象的で作家性の高いものまでさまざまな種類があります。
曲げわっぱ (秋田県)
曲げわっぱの産地としては、秋田県大館が有名です。
大館曲げわっぱは、天然の秋田杉を薄く加工して作られます。
丸みのある形状を生かし、弁当箱やおひつなどに使われることが多いことも特徴です。
寒い気候の秋田県では、真っ直ぐで強度の高い杉が育ちます。しかし、自然保護のため、2012年に天然の秋田杉の伐採は禁止されてしまいました。
在庫を使って曲げわっぱの生産が続けられているものの、天然の原料を使うものは、今後も希少価値が高まっていくでしょう。
関東地方
関東地方に今も伝わる伝統工芸品としては、高崎だるまや江戸切子があります。
高崎だるま (群馬県)
群馬県高崎市周辺で生産されているだるまを、高崎だるまと呼びます。
だるまの生産が始まったのは、江戸時代に、豊岡村で山縣友五郎が作ったのがきっかけといわれています。当時は、赤色の原料の入手が難しく生産量は限定的でした。
しかし、江戸時代後期に幕府が開国を決めると、海外から原料を輸入できるようになり生産量は増加しました。
現在では、だるまの国内シェアの8割を高崎だるまが占めるといわれています。
江戸切子 (東京都)
江戸切子とは、江戸(現在の東京)で作られている切子細工のガラス工芸品。1834年、加賀屋久兵衛がイギリスのカットグラスを真似て作ったのがはじまりといわれています。
明治時代には、イギリスから招いた技師の指導を受けたことで技術も向上しました。
江戸切子の独特の文様は、菊の花や麻の葉、籠の目などをモチーフとしています。江戸切子の製造工程の中でも、文様を刻むのは特に難しく、熟練の技が必要です。
中部地方
伊賀焼や豊橋筆は、中部地方を代表する伝統工芸品です。
伊賀焼 (三重県)
伊賀焼とは、三重県伊賀市周辺で生産される陶器です。
高音で何度も焼くことにより、独特の力強い風合いが生まれます。桃山時代には、侘び寂びを感じさせるとして、千利休などの茶人に愛好されました。
現代では、耐火性を生かして土鍋や食器などに使われます。
同じ原料を使う信楽焼とは、耳と呼ばれる取っ手の有無で区別されます。
取っ手があるのが伊賀焼です。
豊橋筆 (愛知県)
愛知県豊橋市周辺で生産される筆を豊橋筆と呼びます。
70%のシェアを占める書道用の高級筆として特に有名です。また、最近では化粧用や工業用としても使われて、熊野筆に次ぐ全国第2位の生産量を誇ります。
1804年に豊橋市周辺を治めていた吉田藩が、京都から職人を呼び寄せたことで筆の生産が始まりました。練りまぜという技法を用いて作られる豊橋筆は、なめらかな使用感や墨とのなじみのよさが評判です。
近畿地方
近畿地方では、丹波焼や紀州漆器が今も生産されています。
丹波焼 (兵庫県)
平安時代末期から鎌倉時代にかけて生産が始まった丹波焼は、六古窯の1つです。
かつては壺や甕、現代では食器や花器など一貫して日用品が中心に作られてきました。なお、鎬模様と呼ばれる、ヘラやカンナでつけられた稜線模様は、丹波焼の特徴。また、窯元によってさまざまな個性の作品が作られているため、好みや用途によって選ぶとよいでしょう。
紀州漆器 (和歌山県)
紀州漆器とは、和歌山県の海南市で作られる漆器です。
当初は生産地の名前を取り、黒江塗と呼ばれることもありました。
紀州檜を原料に、室町時代から生産が始まったといわれています。
黒塗りの上に朱塗りを重ねることで強度が高まるのに加えて、わずかに透ける黒と赤の美しいコントラストが特徴です。
水や熱に強く実用性が高いため、椀や箸、弁当箱などとして日常的に使用できます。
中国・四国地方
中国・四国地方の伝統工芸品として、三次人形や土佐打刃物が挙げられます。
三次人形 (広島県)
三次人形は、広島県北部の三次地方で江戸時代から作られている人形です。
焼成した粘土をニカワで彩色した人形は、光沢があるため「光人形」と呼ばれることもあります。
子どもの成長を願い、出産や節句のお祝い品として贈られるほか、最近は記念品やお土産としても人気。モデルとなっている人物は、天神や七福神などの神様、花魁、武者など約140種類にもおよびます。
土佐打刃物 (高知県)
土佐打刃物とは、高知県の高知市周辺で作られる各種刃物のことです。
職人が一つひとつ丁寧に作るため、注文に合わせて鎌から包丁まで多種多様な形や大きさの刃物があることが特徴です。
高知市周辺では、林業が盛んなため、昔から木を切るための刃物が必要とされてきました。
また、17世紀に土佐藩が行った元和改革により、農耕用の刃物の需要も高まったことが、土佐打刃物の起源になったといわれています。
九州地方
九州や沖縄の民芸品としては、オッのコンボやシーサーが有名です。
オッのコンボ (鹿児島県)
オッのコンボは、鹿児島県に伝わる起き上がりこぼしです。
七福神の1人である大黒天の妻をかたどっているといわれており、赤く丸みのある姿はだるまのようにも見えます。
鹿児島では、台所に大黒天の人形とともにオッのコンボを飾る風習があります。
シーサー (沖縄県)
シーサーは、ライオンをモデルとする魔除けの像で、石や陶器で作られたものを屋根の上に置くのが一般的です。最近はコンクリートや金属で作られたものもあります。
また、カラフルに彩色された小型のものは、お土産として人気です。
1689年に設置された「富盛の石彫大獅子」が記録に残っている最も古いシーサーです。当初は、琉球王国の施設や、村落の入口などに設置されていました。
一般家庭に普及したのは、明治時代からだといわれています。
地域の特色のある工芸品・民芸品は旅の楽しみの1つ
日本全国には、地域ごとにさまざまな種類の工芸品・民芸品があります。
土産物の定番になっているものもあれば、全国規模の知名度を誇り、日用品として一般的に使われているものもあります。
それぞれに由来や歴史があるため、詳しく知れば知るほど奥深いのが工芸品や民芸品です。
工芸品・民芸品をその土地を知る楽しみの1つにしてみてはいかがでしょうか。