皆さんは、草間彌生(1929年-)を知っていますか?
1957年に渡米した彼女は、自己消滅をテーマにした網目模様の絵画で注目を集めました。1960年代には水玉模様を人体に描くパフォーマンスで生命の美を反戦と絡めて表現。
1970年代に帰国後、死をテーマにした暗い作品が中心となりますが、80年代後半には輪廻転生や永劫回帰を描き始めます。
2000年代以降は、迫り来る死への意識を創作のエネルギーに変え、生きる喜びをカラフルに描き続けています。
今回は、草間彌生美術館で開催中の「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」展に足を運びました!
この展覧会では、1940~50年代の戦争の影響が反映された絵画から、近年の最新作に至るまで、多様な作品を通して草間彌生の死生観の変化を感じ取れる内容となっています。
目次
「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」展は草間彌生美術館にて開催中
新宿区弁天町に位置する草間彌生美術館。
外観は縦長で、白を基調としたシンプルかつ洗練されたデザインが特徴的です。
カラフルで独創的な草間作品とは正反対の印象を受けました。
今回の企画展「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」は、日時指定の完全予約制(各回90分)でゆっくり鑑賞できるのがうれしいポイントです。
入口でQRコードを提示すればスムーズに入館できます。
今回、訪れた際は海外からの観光客が多く、国際的な人気を感じる空間でした。
館内1階には荷物を預けるロッカーがありますが、その数が少ないため混雑時には利用できない可能性があります。
大きな荷物は避け、身軽な状態で訪れると安心です。
また、展示会場は1~5階の全5フロアに分かれています。
一つの階ごとにテーマが分かれており、スムーズに鑑賞が進められる工夫がされています。
1~3階では写真撮影が禁止されているため、作品を心でしっかり楽しむことに集中しましょう。
一方、4階の映像作品と5階屋上の「かぼちゃ」の作品は撮影OKです。
屋上のかぼちゃは、草間ワールドの象徴ともいえる作品で、多くの人が記念撮影を楽しんでいました。
生命力あふれる作品に圧倒される展示が…
草間彌生美術館で開催中の「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」展に足を踏み入れると、まず1階のエントランスから大きな作品が私たちを迎えてくれました。
生命力を感じさせる立体作品『生命(REPETITIVE VISION)』(1998)と、草間が生と死をテーマにした絵画シリーズ「わが永遠の魂」からの2点、『永遠に生きていきたい』(2017)と『自殺の儀式』(2013)が展示されています。
『生命(REPETITIVE VISION)』は、黒地に黄色の水玉模様が描かれ、植物のように上へ上へと伸びようとする姿が印象的です。
この作品は、草間が60年代に性的な強迫観念を表現したソフト・スカルプチュアの延長ともいえる作品です。
しかし、強迫観念からくる抑圧的な印象を超えて、生命が力強く伸びようとする力強さを感じさせます。
どこか生命のエネルギーを感じるこの作品に、思わず息を呑んでしまいました。
また、後方に展示された2点の絵画『永遠に生きていきたい』と『自殺の儀式』も印象的です。
この2つの作品は、生と死という相反する感情を常に持ち合わせながら創作に向かった草間の姿勢を感じさせ、彼女がどれほど内面的な葛藤を抱えながら作品を生み出してきたのかを想像させてくれるような作品です。
2階では、1950年代から80年代にかけて、さまざまな方法で死に向き合いながら生まれた草間の作品が並び、彼女の創作における真摯な探求心が感じられます。
まず、注目すべきは初期の代表作『残夢』(1949)。
赤く荒れ果てた大地に枯れたひまわりが描かれており、戦争の死の記憶が生々しく残る当時の空気を感じさせます。
この作品には、草間が生きた時代背景と、戦争がもたらした深い影響が色濃く反映されているのでしょう。
続いて、草間が1957年に渡米し、60年代に「自己消滅」というテーマのもとで創作した作品やヌード・パフォーマンスにも注目したいところです。
ベトナム戦争を背景にした反戦運動と呼応する形で生み出された草間のパフォーマンス作品は、死と向き合わせることで生まれた芸術的表現の一端を垣間見ることができます。
そして、70年代に恋人や父などの身近な人の死や心身の不調に直面して帰国した草間は、より直接的に死をテーマにした作品に取り組むように。
フロアの中央に展示された『希死』(1975-76)は、生命力に満ち溢れた1階の作品『生命(REPETITIVE VISION)』とは正反対の印象を与えるソフト・スカルプチュアです。
冷たく輝く銀色のファルスが死のイメージを強く印象付けます。
無機的な表現が、草間が直面した深い絶望と向き合う姿勢を象徴しているかのように思えました。
また、草間自身の言葉による詩も強く印象に残っています。
帰国後の彼女の作品には、死への強い意識が表れたものが多くあります。
詩とともに展示されている作品が、草間の内面的な葛藤や創作への情熱をより一層深く感じさせてくれるでしょう。
3階では、最新作のインスタレーション『再生の瞬間』(2024)が展示されています。
この作品は、天井まで伸びる樹木のような巨大な構造で、生命の力強さを感じさせてくれます。
筒状に縫い合わせた水玉模様の布に綿を詰めたその形は、まるで枝を四方に伸ばしているようで、周囲に広がる生命のエネルギーをイメージさせるものです。
インスタレーションとセットで展示されているのが、1988年の平面作品『命の炎―杜甫に捧ぐ』です。
背景の赤いキャンバスに描かれた白い無数の水玉模様にはしっぽのようなものが生えており、まるで精子のようにも見え、生命の根源的な存在を象徴しているようにも感じられます。
ほかの平面作品からも生命の動的な力が感じられ、2階の展示とは対照的に、展示室全体にあふれる生の躍動感が伝わってきました。
4階に展示されている、2010年制作のヴィデオ・インスタレーション『マンハッタン自殺未遂常習犯の歌』は、視覚的にも感覚的にも非常に強い印象を残す作品です。
こちらは草間彌生自身が出演する映像作品で、詩を歌う姿が強く印象に残っています。
映像が合わせ鏡によって無限に増殖していくという構造も特徴的でした。
詩の内容は、死というテーマに深く根ざしており、「去ってしまう」「天国への階段」「自殺(は)てる 現在は」といった言葉が散りばめられています。
これらのフレーズには、草間自身の内面の葛藤や死への衝動がにじみ出ているように感じられます。
一方で、「花の煩悶(もだえ)のなかいまは果てなく」「呼んでいるきっと孤空(そら)の碧さ透けて」といった清涼さがあり、どこか永遠を感じさせる言葉も見受けられました。
草間は死と向き合いながらも、それを単なる終わりとして捉えることなく、むしろ新たな何かを生み出す力として表現しているのだと感じられました。
この映像作品で詠われている詩の両義的な言葉は、見る者の心に強く訴えかけ、死というテーマの深さを改めて考えさせられます。
5階にある屋外ギャラリーでは、最新作の「かぼちゃ」をモチーフにした作品『大いなる巨大な南瓜』(2024)が展示されています。
草間の代名詞ともいえるアイコニックな作品で、美術や芸術に詳しくない人も見たことがあるのではないでしょうか。
展示全体を通じて、草間の死生観を感じたあとに最新作の「かぼちゃ」を鑑賞すると、生命の象徴としての力強さが伝わってきます。
屋外ギャラリーでの作品鑑賞後、観賞者はエレベーターで1階のロビーに戻る順路になっていますが、この動線自体が、生と死の輪廻を思わせるようでした。
美術館限定のグッズやあの水玉模様のグッズまで
草間彌生美術館のショップスペースでは、草間彌生の作品を象徴する水玉模様や網目模様のグッズがずらりと並んでいます。
例えば、アイコニックな水玉デザインの缶が目を引く「プティ・ゴーフル」は、上野風月堂とのコラボレーションで、サクサクの生地にバニラ風味のクリームがサンドされています。
さらに、「かぼちゃ缶」のプティ・シガールは、ヨックモックとのコラボ商品で、美術館限定アイテムとして大人気です。
どちらも美術館限定の商品なので、アート鑑賞を楽しんだ後はぜひお土産として手に入れてください。
また、企画展の図録も販売されているため、草間彌生の世界観にいつでも触れていたいという方は、購入を検討するのもよいでしょう。
死と生を見つめる『私は死を乗り越えて生きてゆきたい』展
草間彌生美術館で開催されている「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」展は、草間彌生がどのように創作によって「死を乗り越えてきたのか」というテーマに迫る展覧会です。
草間の作品は、死を意識させるものもあれば、逆に色彩豊かでエネルギッシュな作品が並び、命の力強さを感じさせます。
その両面を見つめることで、彼女がどのように内面的な葛藤を創造的なエネルギーに変えてきたのか、少しだけその答えに触れることができるかもしれません。
展示空間自体も非常に魅力的で、外観と内観、そして作品の大胆さと繊細さが見事に融合しています。
アートに包まれるような感覚を味わえるだけでなく、美術館そのものが一つのアート作品のような印象を与えてくれます。
草間の作品を観賞するだけでなく、美術館全体の雰囲気を楽しむことができるので、ぜひ一度足を運んでみてください。
開催情報
「私は死を乗り越えて生きてゆきたい」展
場所:草間彌生美術館
住所:〒162-0851 東京都新宿区弁天町107
期間:2024/10/17~2025/03/09
公式ページ:https://yayoikusamamuseum.jp/
チケット:一般 1,100円、小中高生 600円
※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください