美術館「えき」KYOTOにて開催されている、「没後120年 エミール・ガレ展 美しきガラスの世界」。
アール・ヌーヴォーの中心人物であり、ガラス工芸を芸術の域にまで高めたフランスのガラス工芸家エミール・ガレの没後120年を記念して開催されたもので、ガレの偉業を振り返る約70点の美しいガラス作品が展示されています。
ガラスで表現された美しく繊細なガレの作品たちは、見る者をうっとりとさせずにはいられません。貴重な作品たちが間近で鑑賞できるこの「エミール・ガレ展」、堪能してきました。
目次
パリ万博で有名になった、エミール・ガレ
エミール・ガレも出品したパリ万博とは
パリ万国博覧会(パリ万博)は、19世紀から20世紀にかけてフランスの首都パリで複数回開催された国際的な大規模イベントです。
1855年に第1回が開催され、その後も定期的に開催されました。パリ万博は、世界中の国々が参加し、最新の技術や文化、芸術を展示する場となりました。
特に1889年の万博は、フランス革命100周年を記念して開催され、エッフェル塔が建設されたことでも有名です。この万博では、シャン・ド・マルス公園やトロカデロの丘などが会場となり、機械館や自由芸術館など、当時の最新技術を駆使した建築物が展示されました。
その翌年、1900年の万博は19世紀最後の国際博覧会として開催され、第2回近代オリンピックと同時開催されるなど、世界的な注目をいっそう集めました。
世界の文化や技術の発展に大きく貢献したパリ万博は、国際交流の場として機能しただけでなく、建築や芸術の分野で革新的なアイデアが生まれる契機となり、パリの都市計画や観光産業にも大きな影響を与えました。
例えば、1889年の万博で建設されたエッフェル塔。
当初は一時的な建造物として計画されましたが、その後はパリのシンボルとして、現在に至るまで世界中から多くの観光客を集めるパリ随一の名所となっています。
このように、パリ万博は、その時代の科学技術や芸術、文化の粋を集めた国際的なイベントとして、世界中から注目を集め、現代のグローバル社会の基礎を築いたと言えるでしょう。
パリ万博での受賞がガレを一躍有名に
エミール・ガレもパリ万博で有名になった芸術家の1人。
ガレは、1889年のパリ万博に、ガラス工芸品300点、陶器200点、家具17点を出品しました。
彼のガラス作品には、複雑な層状技法や酸腐食技法を用いた花や昆虫のモチーフが施された繊細な作品が多く施されており、これらの陶器作品は、日本の影響を受けた装飾技法や自然主義的なデザインが特徴的でした。
また、家具作品は、木材の自然な風合いを生かしつつ、繊細な象嵌細工や彫刻を施した芸術性の高いものでした。
その結果、ガレはガラス部門で大賞、陶器部門で金メダル、家具部門で銀メダルを受賞するという輝かしい成績を収めました。この功績により、ガレはレジオン・ド・ヌール勲章四等を受章し、国際的な名声を得ることとなりました。
その後、ガレは1900年のパリ万博にも出品し、69点の家具と73点のガラス器を展示しました。
この万博では、「ラ・マイン・オ・アルジャン(銀の手)」と呼ばれる象嵌細工を施した家具や、複雑な層状技法を用いた「風景画」ガラスなど、より洗練された作品を発表。ガラスと家具の両部門で大賞を獲得し、レジオン・ド・ヌール勲章三等に昇格しました。
1889年から1900年のパリ万博までの11年間は、ガレ工房が最も隆盛を極めた時期とされています。ガレの作品は、その芸術性と技術の高さで多くの人々を魅了し、アール・ヌーヴォーを代表する作家としての地位を確立していくこととなり、そのきっかけがパリ万博だったのです。
ガレのガラス製品と「アール・ドゥ・ヴィーヴル(Art de Vivre)」
フランスに息づく考え方「アール・ドゥ・ヴィーヴル(Art de Vivre)」は「暮らしの美学」とも訳され、日常を豊かにする工夫を大切にする考え方です。
この考えはガレの作ったガラス製品にも根付く考え。ガレは優れた芸術性を備えながらも日用品として使用することができるガラス製品を多く残しています。
例えば、美しいランプやテーブルウェア、香水瓶など。
日用品としての機能を備え、そして生活を豊かに彩る高い芸術性も同時に持ち合わせたガレの作品は、当時の人々を魅了しました。特に、アール・ヌーヴォー様式に魅了された芸術愛好家や洗練された趣味を持つ上流階級や裕福な中産階級の人々に好んで使用されていました。
今回の展示でも、「生活を彩るガラス」として数多くの作品が展示されていました。
例えば、飾っておくだけでも美しく、うっとりとした気分にさせてくれるような香水瓶や、来客を迎えた際にそこにあるだけで華やかになるテーブルウェアの数々。
眠りを誘うオレンジの光がともされたランプは、明かりが灯ることでぼんやりと浮かび上がる模様にうっとりとさせられます。
実際にこれほど間近に、ガレの作品を鑑賞できる機会もなかなかないのではないでしょうか。
美しいガラスに囲まれていると、まるで当時のフランスの宮殿に暮らす人になったような、優雅で贅沢な気分になります。
ガレとジャポニズム
さて、展示の終盤になると、これまでの作品とは少し趣の異なるテイストのガラス製品が複数展示されています。
私たち日本人にとっては、どこか懐かしくなじみある風景が描かれた作品たち。
山水風景が描かれたこれらの作品は、ガレがいわゆる「ジャポニズム」に深く感銘を受けたことの現れと言えるでしょう。
ガレは1867年のパリ万博で日本文化に触れ、日本美術に強い関心を抱いたといわれています。特に、自然の姿をそのまま描写する日本美術の特徴に魅了されたガレは、植物や昆虫などの繊細な表現を自身の作品に取り入れました。さらに、ナンシーの国立林業専門学校へ派遣されていた日本画家の高島北海との交流も、ガレの作品に日本的要素を取り入れるきっかけとなったといわれています。
山水風景だけではなく、トンボや蝶などの昆虫たちや、美しい花々、そして水墨画のようなぼかし表現も、ガレがジャポニズムから受けた影響は随所に見受けられます。
こういった作品が、ガレの作品が日本人にとっては親しみやすく、かつ新鮮さを感じさせるのでしょう。
展示作品には、トンボをモチーフにしたものも多くありました。
優雅な姿と、透き通った羽…ガレの高い技術だからこそ表現できる美しいトンボの姿は、アール・ヌーヴォーを効果的に表現したものといえるでしょう。
高い技術を駆使した美しい作品たち
エミール・ガレの作品には、さまざまな高度な技術が用いられています。
代表的なものとして、被せガラス技法、エッチング、パチネなどの技法があげられますが、特に私が感銘を受けたのが、「スフレ」という技法が取り入れられた作品でした。
スフレとは「ガラスを吹くこと」を意味しており、作品は立体的な仕上がりとなっています。
あらかじめ型の中に果実、人物、動物などのレリーフを凹刻していたものを型の中に熱いガラスを吹き込んで成形するのがこの技法で、ガラスの表面に文様や模様を浮き立たせることができます。
ガレはこの技法を巧みに使い、繊細な図柄やよりリアルな描写を実現しています。
これまでにも写真や映像で彼の作品を目にしたことはありましたが、やはり実物を近くでみると、その精巧さと美しさには、思わずため息が出てしまうほどです。
実際に展示会場でも、さまざまな角度から作品を眺める人や、近くで見たり少し離れてみたりしながら楽しんでいる人も多くいました。
よりリアル、より幻想的なガレの世界を楽しんでほしい
ガレの作品を充分に堪能できる、「没後120年 エミール・ガレ展」。
細部までリアルに描かれた描写と、ガラスだからこその幻想的な雰囲気――そして私たち日本人だからこそ感じるであろう、ガレへの親近感。
ゆったりとじっくりと眺めながら、当時、こうしたガラス製品が使用されたシーンやその室内を想像しながらタイムスリップしてみるのも、この展示の楽しみ方かなと思います。
美しきアール・ヌーヴォーの世界へ浸りたい方、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
開催情報
「没後120年 エミール・ガレ展 美しきガラスの世界」
場所:美術館「えき」KYOTO
期間:2024/11/22~2024/12/25
公式ページ:https://www.mistore.jp/store/kyoto/museum.html
チケット:一般1100円 高大生 900円 小中学生 700円
※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください