-
デジタルとアートを融合させた新しい美術展「バンクシー展」でバンクシーの魅力を堪能してきた!<GMOデジタル美術館(東京都渋谷区)>
皆さんは、正体不明の現代グラフィティアーティストのバンクシーを知っていますか? 世界中の壁にスプレーで絵を描くゲリラ的なスタイルで作品を制作しており、メッセージ性の強い数々の作品に共感する人も多く、世界中に熱狂的なファンがいます。バンクシーが描くグラフィティの多くは、反戦や難民問題、弱者への無関心、大量消費主義などに対する批評の意味が込められているのです。 公共の壁にスプレーで絵を描く行為は、違法でありバンクシーの活動は逮捕されてもおかしくないものといえるでしょう。 一方で、世界に問題を提起し訴えかけるバンクシーの作品は魅力あるものとして、バンクシーのグラフィティを保存する動きがみられたり、オークションでは高値で取引されたりと、グラフィックアーティストとしても高く評価されるようになりました。 そんな話題のバンクシーの作品を生で鑑賞できるのが、GMOデジタル美術館で開催されているバンクシー展です! 今回は、GMOデジタル美術館で開催されているデジタルとアートを融合させた「バンクシー展」に行ってきました。 「バンクシー展」は新しいアートの楽しみ方を実現するGMOデジタル美術館にて開催中 希少なバンクシーの作品を鑑賞できるGMOデジタル美術館の「バンクシー展」。 美術館は、渋谷駅南改札西口から徒歩約1分の東急プラザ内2階にあります。最初に美術館をみたとき、「これが美術館?」と不思議な気持ちになりました! 美術館の入口はスクリーンのようなものでふさがれており入ることができません。スタッフの方に確認してみると、上映時間が決まっていて、時間になるとスクリーンが上がり、入場となるそうです。 チケットは、ネットもしくは美術館の右隣にあるグッズショップで購入できます。今回はグッズショップにてチケット(一般・学生300円)を購入しました。 グッズショップ内の壁際に腰をかけられるスペースがあり、開演時間になるまではグッズをゆっくり見ながら待つのもおすすめです。 グッズショップには大きなディスプレイが設置されており、今回開催されている「バンクシー展」の概要を紹介していますので、バンクシー展の予告のような感覚で見て、気持ちを高めるのもよいですね! デジタルとアートを融合させた新感覚の「バンクシー展」 上映時間にならないと入場ができない「バンクシー展」。 「上映ってなに?」「美術館じゃなくて映画館なの?」とさまざまな疑問が生まれるでしょう。 実は、GMOデジタル美術館で開催されているバンクシー展は、映像でバンクシーの紹介を見た後に実物の作品を鑑賞する流れになっているのです! バンクシーを詳しく知らない人でも、ストーリーや作品に込められたメッセージ性などに関する映像で理解を深めてから、実際に作品を鑑賞できるため、より作品の魅力を楽しめる仕組みになっています。 1公演20分の入れ替え制で、毎時00分・20分・40分から開演となります。時間になったらスタッフの方にチケットをみせていざ入場しましょう! 映像と音響でバンクシーのアートの世界を体験できるスペシャルムービー 開演時間になり入場すると、正面と左右に大きなスクリーンが! 「バンクシー展」では、まずこのスクリーンでバンクシーに関するスペシャルムービーを見た後に、実際の作品を鑑賞します。 時間になると入口がスクリーンで閉められ、前後左右すべてにスクリーンが設置されます。 スペシャルムービーが始まる前からどこを見ればよいのか悩んでしまいました…! また、会場内にはビーズクッションがいくつか用意されており、クッションに座って映像鑑賞を楽しんでくださいとのことでした。立ち見やイスではない点にも、新しさを感じさせられますね。 また、スペシャルムービーは、動画撮影は禁止されていますが、写真撮影はOKということで、バンクシーの世界観を楽しみながら美しい映像を写真におさめて、後から余韻に浸るのもおすすめです! 上映時間になると、スクリーン内にバンクシーが現れ、スプレーで「WELCOME」と描いて映像がスタートするおしゃれな構成になっていて、開始直後からとてもワクワクさせられました! 映像と音響が一体になった新しいアート体験が、7.1chのサウンドと5面の大型映像により表現の幅を広げられ、より私たちを引き込んでいくような感覚の映像作品です。 ドキュメント映画を見ているというよりは、ドキュメント映画の中に入り込んでしまったような感覚です。 前後左右のスクリーンだけではなく、床面にも映像を投影させており、映像がスクリーンから飛び出てくるような、アートの世界に飛び込んだかのような没入感を味わえます! 全方位に投影された映像と指向性をコントロールできるスピーカーシステムにより、アートをより近くに感じられました。 美術館鑑賞や芸術鑑賞に慣れていない方でも、まったく異なる方向性からアートを楽しめます! スペシャルムービー中に、床面の映像がスピーディに動くシーンがあり、まるで自分が移動しているような、落下していくような、不思議な浮遊感を味わえたのも印象に残っています。 これまでにない芸術の楽しみ方を教えてくれる新鮮な演出でした。 スペシャルムービー鑑賞後はバンクシーの代表作と対面! スペシャルムービーを見終わると、正面のスクリーンが上がっていき、バンクシーの代表作である『風船と少女』・『Bomb Love Over Radar』・『花束を投げる暴徒』が現れます。 壁面の真ん中に展示されている『風船と少女』は、2018年、サザビーズにて104万2000ポンドで落札された瞬間、額縁の下部に隠されていたシュレッダーによって切り刻まれ、その後『愛はごみ箱の中に』と改名されたことでも話題を集めましたね。 GMOデジタル美術館で見られる『風船と少女』は、額縁の細部までサザビーズのオークション当時のものを再現しているそうです。 作品の左下には、ハートマークとともにバンクシーのサインが書かれています。 この作品は、2004年に制作された150点のうちの一つで、ハートマーク付きのサインは、関係者への販売でのみ書かれたものであり、希少性の高い作品であるそうです! また、作品の右下には42/150の数字も書かれており、こちらは150点のうちの42番目に制作された作品であることを示しています。 『風船と少女』の右隣に飾られている『Bomb Love Over Radar』は、『Bomb Love』という作品に赤いレーダーマークが描かれているもので、バンクシーの手によってスプレーでキャンバスに描かれた世界に一つしかない貴重な作品です。 この作品は、世界初公開・初展示ということで、よく目に焼き付けておきましょう! 『花束を投げる暴徒』は、もともとイギリスのマンチェスター市立美術館で10年以上にわたって公開展示されてきた作品で、バンクシーが自ら木製の板にスプレーでペイントした、世界に一つしかない希少性の高い作品です。 『花束を投げる暴徒』ときくと、パレスチナのベツレヘムに描かれた巨大壁画を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。 しかし、この木製板に描かれた作品の方が制作年代が早いのです!花束を投げる暴徒のモチーフの起源となる最初期の作品といわれています。 作品を近くでよく見てみると、板の木目が浮かび上がっているのが分かります。 木目の溝の色が薄くなっており、独特な色合いや質感を演出しているのもぜひチェックしてみてください! 作品鑑賞後もスクリーンを使った楽しみ方がたくさん待ち受けている! 作品を楽しんだ後は、左右と後方のスクリーンに投影されている映像を使った楽しみも待っています! 『風船と少女』の少女になりきれるフォトスポットとなっており、光るパネルに映像が映し出されているため、この前に立って写真撮影すると自分の姿が黒くシルエットのようになります! こちらのフォトスポットで撮影した写真をInstagramにのせると、バンクシーオリジナルグッズが当たるキャンペーンも開催されているため、SNS映えする写真を撮影したらぜひInstagramに投稿して、Tシャツをゲットしましょう! さらに、後方スクリーンには、風船と少女に描かれている赤いハート型の風船がいくつも漂う映像が流れています。 こちらはセンシング技術により、映像上の赤い風船に触れてみると割れて中からカラフルなハートや紙吹雪が飛び出す仕組みになっていました! バンクシーのアートに触れ、一体となる体験を味わえる楽しさがあります。 友人同士でバンクシー展に訪れたら、作品鑑賞を楽しんだ後に映像を使って存分に楽しむのもよいですね!SNS映えする写真もたくさん撮れるのではないでしょうか。 公演時間が終了する直前に、オリジナルステッカーと風船がもらえる引換券をスタッフから渡されます。美術館を出た後は、隣のグッズショップで忘れずに交換しましょう。 バンクシーの映像と作品を楽しんだ後に赤いハート型の風船を受け取ったら、思わず何度も写真を撮りたくなってしまいますね。 「バンクシー展」はグッズもたくさん!お気に入りがきっと見つかる 美術館の隣にあるグッズショップの商品は撮影禁止のため、鑑賞の延長で撮影をしないよう注意しましょう。 ショップ内では、バンクシーの作品がデザインされたさまざまなグッズが販売されていました。 ・クリアファイル ・Tシャツ ・トートバッグ ・ポーチ ・ピンバッジ ・ステッカー ・ボールペン ・フェイスタオル ・ハンドタオル ・ポストカード 当日チケットをレジで提示すると、全商品100円引きになるため、気に入ったグッズがあれば利用してお得に購入しましょう! グッズショップは、白を基調として青色がところどころに使用され、GMOカラーで構成されているのが印象的でした。 視覚と聴覚に訴えかける新感覚の「バンクシー展」! GMOデジタル美術館の「バンクシー展」は、2021年9月5日から開催されており、現在終了日は設けられていません。 2021年から開催されていますが、2023年7月23日にリニューアルされているため、1度訪れたことがある人も、リニューアル後の新しいバンクシー展を体験してみるのもよいでしょう。 映像と音響によりバンクシーの世界観を肌で感じ、アートの世界に入り込むとともに、希少価値の高いバンクシー作品を間近で見られる「バンクシー展」。 バンクシーが好きな人も、あまり知らない人も、誰もがバンクシーの魅力に惹きつけられる、そんな展示になっています! 「バンクシー展」開催情報(GMOデジタル美術館) 『バンクシー展』 場所:GMOデジタル美術館 住所:東京都渋谷区道玄坂1-2-3 東急プラザ渋谷 2F(渋谷フクラス内) Google map:https://maps.app.goo.gl/iFmahHHiR3dqVNAE6 期間:2022年4月13日~ ※終了日未定 公式ページ:https://banksy.tokyo/ チケット:一般・大学生:300円、小中高校生:100円、未就学のお子様:無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.17
- すべての記事
- 美術展・イベント
- 東京
-
没入感たっぷりの「モネ&フレンズ・アライブ」を体験してきた!<日本橋三井ホール(東京)>
皆さんは、クロード・モネ(1840年-1926年)を知っていますか? 印象派の名前の由来にもなった『印象・日の出』を描いた人物でもあり、印象派の特徴である筆触分割法の生みの親でもあります。色を混ぜたり重ねたりせず、隣り合わせにおくことで、遠くからみると光による色の移ろいが表現されている画期的な方法で、印象派画家の描いた作品の光の表現には思わず見とれてしまいます。 今回は、日本橋三井ホールで開催されている没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ」に行ってきました!映像と光と音と香りで、印象派を知っている人も知らない人も印象派画家たちが作り出した世界観を楽しめる展示となっています。 モネ&フレンズ・アライブは日本橋三井ホールにて開催中 没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ」の東京展は、2024/7/12から日本橋三井ホールにて開催中です! 近年、映像や音を利用した没入型のイベントが増えてきていますが、今回紹介するのは、印象派の面々と作品に焦点をあてた展覧会です。世界的に権威のある展覧会「サロン・ド・パリ」の会場を皮切りにスタートした新しい形の展覧会が、ついに日本にも初上陸しました! 企画・プロデュース・制作を務めるのは、オーストラリアのメルボルンに本社を置く企画制作会社「GRANDE EXPERIENCES」。 「GRANDE EXPERIENCES」は、これまで言葉や国の壁を越えて、33の言語、世界6大陸180都市以上で250回の展示会を開催してきました。 今回の没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ」でも、巨大スクリーンに映し出された印象派画家の作品たちを音や光が演出し、より魅力的にみせてくれて、私たちを印象派の世界に引き込んでくれること間違いなしです! 展示について 会場内はすべて撮影OKで、SNSへの投稿もOKとのことなので、スクリーンに映し出される印象派画家の作品の撮影や、フォトスポットでのおしゃれな写真の撮影をどんどん楽しみ、SNSにアップして展覧会を盛り上げましょう。 初日、当日券の販売もありましたが、販売開始時間が午前11時からでした。その日の混雑状況によって当日券の販売時間が異なったり、中止になったりするようなので、当日券を購入しての鑑賞を予定している方は、事前に公式サイトでチェックしておきましょう。 さっそくチケットを購入して入場すると、エスカレーターで昇ってくださいとスタッフの方に案内されます。 エスカレーターへの道には、印象派画家たちの肖像画が壁一面にどーんと描かれていました! 印象派を代表する面々の肖像画を横目にさっそく会場内に入っていきましょう!エスカレーターで昇っていくと会場順路の案内板があるので、それに従って展示を見ながら進んでいきます。 なお「モネ&フレンズ・アライブ」では、印象派画家が実際に描いた作品の展示はありませんのでご注意ください!映像による演出でたくさんの作品を鑑賞できますが、実際の絵画作品は展示されていません。 印象派を代表する画家たちの紹介 展覧会のはじめには、印象派画家たちの一人ひとりの生い立ちや、作風などの背景を紹介するパネルが並んだ通路があります。 印象派を知っている人も知らない人も、この通路で知識を深めてからメインとなるスクリーン映像をみれば、より楽しめること間違いなしです! 「モネについては知っているけど、スーラのことはあまり知らないかも…」など印象派といってもさまざまな画家がおり、全員について詳しく理解している人は少ないでしょう。 映像を楽しむためにも、ゆっくりじっくり解説をみながら進むのもおすすめです! 通路の途中にも楽しい仕掛けがまっています! QRコードを読み取りアクセスすると、代表作である睡蓮の上で踊るモネのキャラクターのARが出現します!小さなお子さんも一緒に楽しめる魅力的な演出ですね。 さらに通路を進んでいくと、西洋絵画の歴史が時系列ごとに並んだ展示が登場します。 新古典主義から始まり、ロマン主義、写実主義、印象派、アールヌーボー、フォーヴィスム、表現主義と、大まかな歴史を知ることができます。 西洋絵画のスタイルがどのように変化していったのかを知り、印象派がどの時代に盛り上がっていたのかを知ることで、より作品の鑑賞が楽しめるようになります。 印象派画家や西洋絵画の知識を深めたところで、いよいよメインとなる会場に入っていきます! 映像と光と音と香りで楽しむ没入型展覧会 ドキドキとわくわくを抑えながら会場内に入ると…巨大なスクリーンがいくつも設置されていて、入った瞬間からその迫力に圧倒されました! また、会場内では映像に合わせてクラシックが流れており、作品の魅力をより引き立てるとともに、ほんのりとさわやかな香りも漂っているように感じられました。 植物や果実のような香りは、まるで自分たちも印象派画家と一緒に戸外に出て制作風景を間近でみているような感覚を味わせてくれます。 たくさんの巨大スクリーンに次々と映し出されていく印象派画家の作品たち。 一つひとつのスクリーンに別の作品が映し出されているため、どこをみればよいか迷ってしまいました…! 映像と演出は40~50分で1クールとなっていますが、場所やスクリーンを変えて何度も見たくなってしまう魅力があります。 メインとなる横長のスクリーンの前では、多くの人が座って鑑賞を楽しんでいました。 写真からもわかるように、映像が映し出されているのはスクリーンだけではありません! 床にも映像が投影される演出があり、座ってみているお客さんたちの服にも印象派の美しい筆致が映り込み、そこにいる人もあわせて一つの芸術作品をみているような感覚を覚えました!会場内に白い服を着ていけば、洋服にも映像が投影されて幻想的な世界により入り込めるかもしれませんね。 また、スクリーンに映し出される映像には、傷や汚れ、ゴミなどの映り込みがわざと取り入れられており、古い映写機で投影したような映像を楽しめる点も魅力です! また、作品たちが映し出されているスクリーンを横から見てみると厚みがあり、白い布が貼られたような作りになっています。印象派画家たちが使っていたキャンバスをそのまま大きくしたような演出にも感動しました! 作品によって、背景と人物の映像が立体的になっていたり、絵の中の水面が揺らいだりと、絵画の特徴を生かすさまざまな演出が施されていました! 床の映像もスクリーンの映像と連動しており、カイユボットの『ヨーロッパ橋』では、床一面にタイルの映像が映し出されており、まるでパリに瞬間移動したような気分でした。大迫力のスクリーンと絵画にあわせた演出は、何度繰り返しみても飽きないボリュームです。 なお、展示会場は冷房が効いていて少し肌寒く感じられたため、スクリーンの映像をじっくり楽しむなら羽織を1枚もっておくと安心です。 「モネ&フレンズ・アライブ」のみどころ フランス印象派の誕生から150年を迎える特別な年 第一回印象派展が開催されてから150周年を迎える今年、世界中で愛されてきた「フランス印象派」の世界を冒険する没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ」を開催。本展では、社会的にも政治的にも混とんとした時代に生まれた印象派の歴史を紐解きます。 19世紀半ばから20世紀初頭にかけて活躍したクロード・モネや印象派の作品の数々に、力強いクラシック音楽と最新のイマーシブ技術を組み合わせることで、芸術性とエンターテインメント性を兼ね備えた没入体験をお届けします。 光、色、音、香りのなかで、クロード・モネ、カミーユ・ピサロ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、ポール・セザンヌ、エドガード・ドガらの大胆な筆遣いを巨大なスクリーンに映し出し、次々に流れるサウンドに身を委ねることで、印象派の世界の激しさと美しさに心を奪われる体験をお楽しみください。 Snow Manの阿部亮平さんからのスペシャルメッセージ モネ&フレンズ・アライブでは、公式アンバサダーを務めるSnow Manの阿部亮平さんのスペシャルメッセージも楽しめます! 展示会場内の紹介パネルに掲載されているQRコードを読み取り、位置情報をONにすると会場内限定でメッセージを聞けます。 素敵なメッセージを聞きながら印象派の絵画を楽しみたい方は、イヤホンを持参しましょう。 クロード・モネの作品をイメージしたフォトスポット 印象派画家の紹介パネルが並ぶ通路の奥には、フランス・ジヴェルニーにある「モネの庭園」をイメージしたフォトスポットがあります。 鏡張りになっているため、鏡越しに自撮りもできる仕組みになっていました。 SNS映えも狙えるフォトスポットですが、多くの人が写真を撮ろうと並んでいたため、平日の午前など空いている時間を狙っていくと、ゆっくり撮影を楽しめるでしょう。 印象派画家の代表作を香りとともに楽しむ 上映会場を抜けてエスカレーターを下ると、最初のチケットを購入した会場に戻っていきます。 ここでは、今回開催されているモネ&フレンズ・アライブ限定グッズが販売されています。 シャツやソックス、スカーフ、トートバッグなどのファッショングッズも販売されており、さわやかで涼し気な青色をメインカラーにしたデザインが魅力的でした! グッズ販売会場では、手軽に回せるガチャガチャも用意されていました。 印象派の絵画がデザインされたアクリルプレートやミニポーチがもらえるもので、好きな画家や気に入った絵画があれば挑戦してみるのもよいかもしれませんね。 視覚・聴覚・嗅覚を刺激する没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ」 「モネ&フレンズ・アライブ」は、映像と音と光と香りで私たちの感覚を刺激し、感情を揺さぶる大迫力の展覧会でした! 本物の絵画は展示されていませんが、巨大スクリーンならではの魅力がたくさん詰まっています。 巨大スクリーンに映し出されるため、印象派画家それぞれがもつ特有の筆使いが感じられ、たくさんの絵画を紹介してくれるため、それぞれの絵画を比較できる点も魅力に感じました! 個人的には、ロートレック作品の人物の特徴を強調して描くスタイルが、巨大スクリーンによって確認でき、特徴をとらえた表情をはっきりと鑑賞できたのがうれしかったです。 「モネ&フレンズ・アライブ」が開催されているコレド室町では、各店舗でコラボメニューが発売されています。 ボリューム満点の展覧会を鑑賞したあとに一息つきたい人や、友人と感想を伝えあいたい人は、さらに「モネ&フレンズ・アライブ」の雰囲気を味わえるコラボ店で食事をしながら余韻に浸るのもよいでしょう。 「モネ&フレンズ・アライブ」開催情報 『モネ&フレンズ・アライブ』 場所:日本橋三井ホール 期間:2024/7/12~2024/9/29 公式ページ:https://monetalivejp.com/tokyo/ チケット:一般 3000円、高大生 2000円、小中生1500円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.17
- すべての記事
- 美術展・イベント
- 東京
-
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864年-1901年)画家[フランス]
19世紀後半のパリの賑わいを描いたロートレックとは アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 生没年:1864年-1901年 南フランスの歴史ある名門貴族に生まれながらも、画家の道を志したロートレック。19世紀後半にポスター画家として人気を博し、パリを一世風靡した人物でもあります。 カラフルな色彩が特徴の一つで、ポール・セザンヌやファン・ゴッホ、ゴーギャンなどと一緒に後期印象派の代表的な画家としても知られています。 少年時代に足を骨折し下半身の成長が止まる ロートレックは、南フランスの最も古い貴族家系である父アルフォンス・ド・トゥールーズ=ロートレック=モンファ伯爵と、名門タピエ・ド・セレイラン家出身の母アデルの間に生まれました。大勢のいとこたちに囲まれのびのびと育ったロートレックは、自由奔放で活発的なふるまいが周囲の人々を魅了し、「小さな宝石」と呼ばれ可愛がられていました。 人懐っこい性格は、大人になり画家を志してからも変わらず、多くの友人に恵まれた画家人生を送っています。 ロートレックの父は、元騎馬連隊の騎手をしており、乗馬や狩猟が趣味でした。 一方、母は読書が趣味で穏やかな生活を送っていました。 ロートレックと父はそりがあわず、弟の死をきっかけに父と母は別居し、ロートレックは母のもとで生活を送るようになります。 ロートレックが8歳のときに、フォンテーヌ中学に入学するためにパリに移り住み、このころからデッサンを描き始めています。 手帳やノートには、馬や犬、周囲の人々のスケッチが溢れていたそうです。 成績優秀な生徒でしたが、1875年に健康上の問題によりアルビに戻り、母は医者にロートレックの身体の成長について相談をしていました。 1878年、13歳だったロートレックは、椅子から立ち上がろうとした拍子に転び、右大腿骨骨折してしまいます。また、14歳のときにも右大腿骨上部を骨折しており、通常よりも治りが遅かったそうです。そして、もともと遺伝性の骨格の病気を患っていたこともあり、骨折以降両足が萎縮する障害を抱えることになり、15歳のときには下半身の成長が止まり、身長も152cmほどで止まってしまいました。遺伝性の病の原因としては、両親がいとこ同士の近親結婚であったことが考えられています。 この病をきっかけに、ロートレックはさらに絵画制作に没頭するようになっていきました。 パリのモンマルトルで画家を目指す 画家になることを決意したロートレックは、家族の友人である動物画家ルネ・プランストーのアトリエに通うようになり、本格的に絵画の道を歩み始めました。 1882年、ロートレックの才能を高く評価していた師のプランストーは、よりアカデミックな教育を受けさせるために、肖像画で人気を集めていたレオン・ボナにロートレックを紹介し、4月からボナの画塾に通うように。画家を目指すほかの若き才能とともに古典技法を学びデッサンを続けましたが、ボナがロートレックの才能を認めることはありませんでした。 その後、ボナが国立美術学校の教授になりアトリエは閉館、そこから1887年まではフェルナン・コルモンのアトリエで絵を学びました。コルモンもアカデミックな作品をメインに制作していましたが、新しい芸術様式を受け入れる寛容さがあり、ロートレックはコルモンのもとでエミール・ベルナールやフィンセント・ファン・ゴッホなどと切磋琢磨しながら、自身の才能を開花させていきます。 当時のロートレックは、印象派の作品に関心を寄せており、時間があれば展覧会や美術館を巡り歩く生活を送っていました。 また、コルモンのもとで絵を学ぶようになってからパリの街を歩き回るようになったロートレックは、モンマルトルの売春婦をはじめとしたその街で生きる人々をよく描くようになっていきました。 ポスター画家として頭角を現す 1880年代、パリのモンマルトルは、娯楽文化の中心地となっていました。 街のあちこちにキャバレーやバー、ダンスホールなどが建ち並び、ロートレックをはじめとした若い画家たちも、煌びやかで華々しい雰囲気に魅了されていったのです。中でも、1889年に開店したムーラン・ルージュと呼ばれるキャバレーは、華やかで大変人気があり、多くの人々が夜な夜なショーを観に集まっており、ロートレックもその観客の一人でした。 画家として絵を描いていたロートレックは、ある日ムーラン・ルージュからポスター制作の依頼を受けます。 当時、画家にとってポスター制作は商業絵画の仕事として見下されていましたが、ロートレックは快く引き受けたそうです。 このポスターをきっかけに、ロートレックの名は広く知れ渡るようになりました。 その後も、ムーラン・ルージュをはじめとしたナイトクラブのポスターをいくつも制作し人気を集め、このころのポスター作品が現在でもロートレックの代表作として多くの人々に親しまれています。 ロートレックは、キャバレーの看板娘であるラ・グールーやジャンヌ・アヴリルなどのダンサーや、キャバレーの舞台裏、客席など、パリ・モンマルトルの夜を彩っていたさまざまな人物やシーンを描き続けました。 アルコール依存や梅毒に苦しみ、若くして死去 パリ・モンマルトルの夜の街に繰り出すとき、常に酒を持ち歩くほどロートレックはアルコールに依存していました。 お酒は、足の障害による痛みや、身体的障害に対する好奇の視線・蔑みなどから逃げるためのものでもあったのではないでしょうか。 1890年代、ポスター画家として人気を博し、経済的に安定した暮らしを送っていたロートレックでしたが、モンマルトルで大量に摂取し続けたアルコールによって身体と精神はボロボロになり、画家としての制作活動は続けていましたが、アルコールが原因と思われる奇怪な行動が目立つようになっていきました。 1897年には、アルコール依存症の中毒症状が出始めたため、心配した友人たちの手によって半強制的に精神病院へ入院することに。入院生活中も、ロートレックを元気づけようと友人が依頼した画集の制作を精力的に行い、39枚のサーカスのポートレイトを描きました。 退院後は、パリに戻りフランス全土を友人とともに旅するようなりましたが、1900年にアルコール依存症や梅毒が原因で、再び体調が悪化。 1901年、パリの自宅を引き払い母のもとへ戻ると、邸宅であるマルロメ城にて両親に見守られる中、脳出血により生涯の幕を閉じました。 ロートレックが描いた作品の特徴 ポスター画家として有名なロートレックですが、初期のころには馬や犬などの動物を描いています。 また、パリ・モンマルトルに出入りするようになってからは、多くの人々で賑わう夜の街で生きる人々を描くようになっていきました。 初期は馬や犬などの動物を多く描いた 画家として絵を学び始めたころのロートレックは、馬や犬などの動物を多く描いていました。 貴族のたしなみとしてのイメージが強い馬に関連したレクリエーションは、伯爵家に生まれたロートレックにとっては身近な存在でした。 また、ロートレックの師匠であるルネ・ブランストーは、動物画家で騎馬像が有名だったため、自然とロートレック初期作品にも馬が多く描かれているのではないでしょうか。 馬と人が一体となり動き出すその瞬間を捉える術をロートレックは身につけており、この素描で表現されている「時をつかむ線」が、その後描いていくダンサーや芸人の特徴を捉えた魅力的な作品を生み出していったといえるでしょう。 パリ・モンマルトルで生きる人々を描く パリに移り住んでからのロートレックは、モンマルトルのキャバレーやカフェによく通うようになり、そこで活躍するダンサーや芸人などショーを彩る人々の舞台上から舞台裏まで、さまざまな表情を描いていきました。 また、ロートレックは、モンマルトルで働く娼婦をモチーフにした作品も多く制作しています。 ロートレックは、娼婦ならではの艶やかな表情やシーンを描くのではなく、働く娼婦たちの普段の生活の様子を描いているのが印象的です。 娼婦の生活を描くために、ロートレックは住み込みで働く娼婦たちと数か月にわたって共同生活を送りました。 この体当たりな制作方法により、娼婦たちの生きる美しい姿を描いた作品がいくつも生まれたのです。 年表:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 西暦 満年齢 できごと 1864 0 南仏アルビにトゥールーズ=ロートレック家の伯爵家に誕生。 1872 8 両親が不仲となり、母親と共にパリに移住。絵を描き始める。 1877 13 左の大腿骨を骨折。 1878 14 右の大腿骨を骨折。これにより脚の成長が停止。 1882 18 パリに出てレオン・ボナの画塾で学び始めるが、画塾が閉鎖。 1885 21 フェルナン・コルモンの画塾に移り、ファン・ゴッホやエミール・ベルナールと出会う。 1891 27 リトグラフ制作を開始し、ポスター『ムーラン・ルージュ』を発表。 1892 28 ポスター『ディヴァン・ジャポネ』を発表。 1893 29 絵画モデルのシュザンヌ・ヴァラドンを画家として支援。 1897 33 アルコール依存や梅毒の影響で健康が悪化。 1901 36 母親のもとへ戻り、ジロンド県で脳出血により死去。 1922 - 死後、アルビにトゥールーズ=ロートレック美術館が設立。
2024.08.17
- すべての記事
- 美術家・芸術家
- 世界の美術家・芸術家
-
SOMPO美術館 [東京都新宿区]へ行ってみよう
あの『ひまわり』に会える!SOMPO美術館へ行こう SOMPO美術館は、アジアで唯一フィンセント・ファン・ゴッホが描いた代表作『ひまわり』を鑑賞できる美術館です。 SOMPO美術館は、世界で最も忙しい駅としてギネス世界記録に認定された新宿駅から徒歩約5分の場所にあります。 1976年、日本初の高層階美術館として開館した当初は「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」として長きにわたり親しまれてきました。 その後、2020年に「SOMPO美術館」に館名を変更し、新宿を発信源として新たな国内外の交流を促進し、多様な価値観で溢れた魅力ある美術館を創造することをコンセプトとして、さまざまな展示を行っています。 展示 SOMPO美術館は、企画展を中心に開催しており、常設展はありません。 しかし、美術館所蔵のゴッホの『ひまわり』は、基本的にいつでも展示されているため、鑑賞が可能です。 SOMPO美術館には、洋画家である東郷青児の作品や、ルノワール、ゴーギャン、セザンヌなど印象派やポスト印象派、アメリカの素朴派画家と呼ばれるグランマ・モーゼスなどの作品も所蔵しており、美術家の支援・表彰事業による買い上げ作品なども追加され、現在は約640点もの数になりました。 コレクション 2024年7月現在、SOMPO美術館には約640点ものコレクションが所蔵されています。 東郷青児『青い眼』 ピエール=オーギュスト・ルノワール『浴女』 りんごとナプキン『ポール・セザンヌ』 など、国内外問わずさまざまな画家の作品が所蔵されています。 特徴/ここがオススメ 企画展を定期的に開催しており、過去には「北欧の神秘―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画」や「ゴッホと静物画ー伝統から革新へ」なども開催されています。 また、SOMPO美術館では「FACE展」と呼ばれる、現代絵画のコンクール展が毎年開催されています。 年齢や所属を問わない新進作家の登竜門として、全国から応募された作品の中から入選・受賞した作品を展示するイベントです。毎年開催されており、2024年の開催で第12回目を迎えました。 また、SOMPO美術館はスタイリッシュな建築デザインも魅力の一つです。 出入口は大きなガラス張りになっており、滑らかな弧を描いたガラスが、新宿の街並みと建物内を自然につなげ、開放感のある建築に感じられました。 ショップとカフェが併設されており、テーブルと椅子が用意されているため、展示会を見終わった後にゆっくり余韻に浸れる点にも魅力の1つです。 美術館情報 SOMPO美術館 住所:〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1 GoogleMap:https://maps.app.goo.gl/qfwBxkteayABM8fY8 アクセス:JR新宿駅西口から徒歩5分 ほか 開館時間:火~日曜日 10:00~18:00 ※金曜は20:00まで(入場は閉館30分前まで) 休館日: 月曜日(展示替期間・年末年始も休館) ※最新の情報は公式サイトをご覧ください 料金:展示によって異なります 公式サイト:https://www.sompo-museum.org/ 年間パスポート:5000円(販売期間は公式サイトをご確認ください ) 近隣の美術館 近隣のおでかけスポット 新宿のオフィス街周辺にあるSOMPO美術館。 徒歩圏内には、オフィス街でひといきつける公園や、新宿の街を見渡せる夜景スポットなどがあります。 東京都庁舎展望室 https://www.yokoso.metro.tokyo.lg.jp/tenbou/ 東京都新都庁の展望室は、誰でも無料で入場できる絶景スポットです。 展望室は地上から約202m・45階にあり、都会の夜景を見るのにもおすすめの場所といえます。 新宿中央公園 https://shinjukuchuo-park.jp/ 新宿の高層ビルが立ち並ぶ街中にある自然豊かな公園です。 カフェやレストラン、アウトドアフィットネスクラブなどが入った交流拠点施設「SHUKNOVA」も併設されており、緑に囲まれた場所でゆっくり美術展の余韻に浸ってみるのはいかがでしょうか。 東京都立美術館のイベント・展示 開催中 終了 開催予定
2024.08.17
- すべての記事
- 美術館
- 東京
-
パリに行きたくなる「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」レポ!<SOMPO美術館(東京)>
皆さんは、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864年-1901年)と呼ばれる画家を知っていますか? フランスの画家であり版画家のロートレックは、17歳ごろに画家になると決心し、その後はパリでポスター作家として名を広めていきました。 ロートレックは、パリのモンマルトルにアトリエを構え、その街で生きる歌手や芸人、娼婦などを多く描き、素早い描線と大胆な構図により、多くの人を魅了してきました。 また、ロートレックの作品はパリのモンマルトルで生きる人々を中心に描いているものが多いため、鑑賞しているとまるで自分が19世紀末の世界に入り込んだように感じてしまいます! 作品から当時のパリの様子が鮮明にイメージされ、あのころのパリに行ってみたいと思わせてくれます。 今回は、そんな19世紀末のパリ・モンマルトルのにぎわいを体感できる「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」に行ってきました! 新宿駅西口から徒歩5分ほどのSOMPO美術館にて開催中 「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」は、2024年06月22日(土)~09月23日(月)の期間で開催されています。 ロートレック作品の中でも、特に個人コレクションの紙作品に焦点をあてた展示会で、世界最大級のフィロス・コレクションから、約240点が展示されている大ボリュームの展示会です! SOMPO美術館近くの交差点には、ロートレック展のポスターと美術館への案内が表記された看板が。 もともとポスターとして制作されていた作品であるため、展示会の宣伝用ポスターとして利用されていても違和感なく、ぴったりマッチしていますね。 こちらの看板が見えたら美術館はすぐそこです! SOMPO美術館入口横にも同じ作品を採用したポスターが貼られています。 先ほどのポスターとは微妙に違っており、展示会に入る前からロートレック作品の汎用性の高さに驚かされました! また、入口の少し手前にはゴッホのひまわりも飾られています。 ロートレックとゴッホの関係性については後述していきます! 入口入ってすぐ左側には鍵付きのロッカーが用意されており、無料で利用できるのがこの美術館のポイントです! ロートレック展は3~5階フロアをまたいで展示が行われているため、荷物が多い人はロッカーに預けて軽装で鑑賞するのがおすすめです。 チケットを購入したら、エレベーターを使って5階まで上がるよう案内されます。ロートレック展の順路は、5階・4階・3階と下っていくパターンのため、ご注意ください。 大充実の「ロートレック展」。100年以上前の作品も新しく感じる、インパクト大な作品ばかり ロートレック展は、画家としての初期の作品から晩年の友人や家族とのやりとりの様子まで、5つの章に分かれて展示が行われていました! ロートレックが活躍した時代とテーマを順番に鑑賞でき、まるでロートレックの人生に入り込み、辿るかのように楽しめます。 なお、ロートレック展では、写真撮影OKの作品とNGの作品がそれぞれ存在します。 写真撮影がOKな作品には、飾られている場所にカメラアイコンのプレートがかかっているため、その場所のみで撮影を行いましょう! また各フロアの入口には撮影に関するルールが記載された立て看板が設置されているため、よく内容をチェックしてから撮影を行ってくださいね。 第1章:素描 ロートレックは、ポスター作品が有名ですが「線の画家」とも呼ばれています。印象派で、騎手やバレエ・ダンサーの動きを明確な線でとらえた画家エドガー・ドガに影響を受けており、2人とも生きた時代をありのままに描くスタイルを持っていました。 素描は、鉛筆、ペン、木炭などモノクロの描線でシンプルな構成が特徴。 ロートレック展では、線の画家のありのままの視線で作品を鑑賞し、ロートレックが何を見てどのように感じたかがわかるのではないでしょうか。 入り口を入ってすぐ左には、少年時代のロートレックや家族、過ごした城などの写真も展示されており、ロートレックという人物と人生を除き見ながら作品を楽しめます。 素描の展示会場では、白い壁に横長の赤いタイルを貼り付け、そこに鉛筆で描かれた作品が額縁に入れられ飾られていました。 赤い壁とモノクロの作品のコントラストにより、鉛筆で描かれた作品がより引き立って見えます。 ロートレックは、初期のころ馬や犬などの動物を多く描いており、素描でありながら躍動感のある動物や、騎手と馬の一体感などに目を奪われました。 展示の流れが動物から人物に変化していく様子も楽しめるのではないでしょうか。 第2章:ロートレックの世界 かつて、パリのモンマルトルは田園風景の広がる街でしたが、1880年以降は、カフェやコンセール、ダンスホールなどが立ち並ぶ大歓楽街に。 ロートレックもキャバレーやダンスホールに通いつめ、歓楽街とそこで生きる人を繰り返し描きました。 キャバレーのムーラン・ルージュや自由劇場、制作座など、モンマルトルを代表する劇場にて活躍していた女優や芸人の様子を描いたロートレック。彼の作品を通して、当時ロートレックを取り囲んでいた華やかな世紀末のパリに入り込んでいきましょう。 『メアリー・ハミルトン』 『メアリー・ハミルトン』 リトグラフ/44.0×32.0cm メアリー・ハミルトンは、男装で知られたイギリス出身の芸人です。 当時、表向きは女性の男装が禁じられていた時代ですが、演劇や興行の世界では女優が男性役を演じることが多々ありました。金色・黄土色のような色合いで描かれているのが特徴的で、男装であり本当の男性ではないため、体つきは女性らしく描かれているように感じられました。 作品を鑑賞しながら、この女性はどのような役を演じ、どのような作品を作り上げていたのか想像し、劇を観てみたいなと思わせてくれる作品です。 『ジュディック』 『ジュディック』(1894年) ペン・インク/紙/38.0×28.0cm この作品では、歌手で役者のジュディックが楽屋でコルセットをつけてもらっている場面が描かれています。 背景の上部が黒く塗り重ねられており、薄暗い影のような雰囲気が、普段は見られない舞台裏の様子を除き見ているような表現に感じられました。 作品そのものだけではなく、描かれた人物のストーリーにまで想像を膨らませられるのがロートレック作品の魅力といえるのではないでしょうか。また、普通だったら、このような舞台の裏側を描かれるのを嫌がる演者も多いのでは?と思いました…! しかし、そこはロートレックの人柄によって、さまざまな人々の普段は知ることができない貴重な姿を描けていたのかなと感じられますね。 『イヴェット・ギルベール』 『イヴェット・ギルベール』(1893年) 水彩/紙/23.0×12.6cm イヴェット・ギルベールは、当時一世風靡した歌手で、大胆な歌詞を語るように歌う歌唱法から「語り手(ディズーズ)」とも呼ばれました。 ロートレックは繰り返し彼女を描いており、薄い唇や隆々とした鼻を強調して描き、ときにはギルベールの不興を買うこともあったそうです。 ロートレックは、1894年に出版された版画集の挿絵を担当し、その下絵としてさまざまなポーズのギルベールを描いていますが、この作品のギルベールは、堂々とした佇まいで、自信に満ち溢れた表情が印象的でした。 顔は特徴を強調して描かれていますが、あまり違和感などはなく、その立ち姿や自信を感じさせる雰囲気に思わず見惚れてしまいました。 『キャバレのアリスティド・ブリュアン(文字のせ前)』 『キャバレのアリスティド・ブリュアン(文字のせ前)』(1894年) リトグラフ/127.3×95.0cm この作品は、ブリュアンのキャバレー「ミルリトン」の宣伝用ポスターとして制作されたもの。本来は、宣伝ポスターのため文字が載せられていますが、こちらは文字情報を入れる前の貴重な刷りです。 後ろ姿で少し振り向き加減の姿勢と、余裕のある笑みが男前なかっこよさを感じさせてくれますね。手に持っている木の棒が何か分からず調べたところ、ブリュアンがシャンソンを歌う際にリズムを取るための道具だそうです! 5階から4階へ下る際に階段を利用する方は、階段の壁面に貼られたロートレック作品のステッカーにも注目してみてください! 作品の展示だけではなく、移動中もロートレックの世界観から抜け出さないよう工夫が凝らされていました。 こちらの自動ドアの向こうには、またロートレックの作品が展示されています。 第3章:出版 ロートレックが版画を提供した出版メディアの層は幅広く、風刺週刊誌『ラ・リール』、書籍『博物誌』、版画雑誌『レスタンプ・オリジナル』、美術批評雑誌『ラ・ルヴュ・ブランシュ』など多岐にわたります。また、愛好家向けの出版では、自ら描いたオリジナル版を利用して、少ない数の部数を出版していたそうです。 第3章では、出版物に関連した作品をまとめて展示しています。 『ラ・ルヴュ・ブランシュ』誌のためのポスター 『ラ・ルヴュ・ブランシュ』誌のためのポスター (1895年) リトグラフ/125.5×91.2cm 先ほどのフロア入口ポスターに採用されていた作品です。 1889年にリエージュで創刊された『ラ・ルヴュ・ブランシュ』は、1893年以降から芸術家による描きおろしの版画が掲載されるようになり、ロートレックも参加するようになりました。宣伝ポスターであるこの作品には、編集長タデ・ナタンソンの妻ミシアがスケートをする様子が描かれています。 解説にスケートする姿と書かれていますが、肝心の足元が描かれていないのが印象的で、もともとは全身が描かれていたのですが、モデルを強調するためにトリミングされたためだそうです。 作品を近くでよく観賞してみると、顔周りにドットが見受けられ、透明なベールを被っている高貴な夫人の印象をもたせてくれているように感じられました。ダチョウの羽で飾られた帽子や、黒の水玉模様のドレス、毛皮のストールなど、夫人の豪華な装いから、当時の暮らしぶりなどもうかがえますね。 第4章:ポスター 第4章では、ロートレックの代名詞ともいえるポスターの作品をまとめて展示しています。本来、ポスターは屋外に掲示される作品のため、多くが破損したり変色したりしてしまい、オリジナルの状態を維持するのが難しいといわれています。今回のロートレック展では、フィロス・コレクションの中からより状態のよいものを厳選し、第三者が文字入れを行う前の貴重なポスターを展示。ロートレックが制作したオリジナル作品に近い状態のポスターを鑑賞できる貴重な機会ですね! 3階フロアへ下る階段にも、ロートレック作品のステッカーが貼られており、ボリュームたっぷりな展示会で歩き疲れてしまった人の心を癒してくれます。 3階フロアの入口にはロートレック展の大きなポスターが飾られています。こちらも写真撮影は可能なため、ぜひ休憩がてら撮影してみてください! 『ジャヌ・アヴリル『ポスター傑作集』』 『ジャヌ・アヴリル『ポスター傑作集』』(1895年) リトグラフ/34.5×27.0cm こちらの作品は、ジャヌ・アヴリルがシャンゼリゼの「ジャルダン・ド・パリ」に出演した際のポスターです。 足を手で大きく持ち上げた大胆なポーズが印象的で、手前に大きく描かれた演奏家の楽器がポスターを縁取っているのがおしゃれで印象に残りました! 手前の演奏家は大きく描かれていますがモノクロで、アヴリルのオレンジのドレスと黄色のヘアカラーがより際立って魅力的に見えました。 舞台上のアヴリルに惹かれたロートレックは、彼女をモチーフにした作品をいくつも手がけています。2人は親友であり、熱い信頼関係があったといわれています。 『エグランティーヌ嬢一座』 『エグランティーヌ嬢一座』(1896年) リトグラフ/61.7×80.4cm この作品は、ロンドンのパレス劇場出演にあたって、エグランティーヌ嬢一座の一人、ジャヌ・アヴリルがロートレックに依頼したポスターです。 シャユ踊りの様子を描いた作品で、左からアヴリル・クレオパトル・エグランティーヌ・ガゼルが横並びで踊っている様子が描かれています。一番奥のアヴリルだけ足の角度が異なるようにも見えるのが印象に残りました。 また、一番手前のガゼルにほかの3人が視線を向けているようにも見え、ショーの中で観客を盛り上げながらも、しっかりと踊りを合わせているようにも感じられますね! 華やかな舞台上の姿だけではなく、努力の瞬間を捉えているのも、ロートレック作品の魅力といえるのではないかと思いました。 『アルティザン・モデルヌ(文字のせ前)』 『アルティザン・モデルヌ(文字のせ前)』(1896年) リトグラフ/93.0×65.0cm パリ市内に10店舗を構えている室内装飾会社の宣伝用ポスターで、病床の婦人の往診にやってきた医師の手には道具箱とハンマーが握られています。 メイドさんが医師の手元を見て戸惑っているような表情をしており、そのメイドに対して睨みのような視線を送る医師の構成が、ユーモアがあって思わず笑みがこぼれました! 少しクスっと笑えてしまう作品も展示されており、ロートレック作品に詳しくなくとも、飽きずに展示を楽しめるのではないでしょうか。 第5章:私的生活と晩年 伝統ある貴族の家系に生まれたロートレックは、パリのモンマルトルにアトリエを構え、多くの仲間とともに画家人生を送りました。 第5章では、ロートレックがプロデュースした食事会のメニューカードや展覧会の招待状、家族や友人に宛てた手紙など、芸術家ロートレックではなく、人間ロートレックに焦点をあわせて作品を展示しています。 また、晩年は初期のころによく描いていた馬や動物を主題にした絵も再び描いています。 展示場のラストには、フィンセント・ファン・ゴッホの『ひまわり』が展示されていました。 ロートレックとゴッホは、どちらも後期印象派の画家かつ早描きという共通点を持っています。 ゴッホの方が11歳年上でしたが、2人とも浮世絵をはじめとした日本文化に関心を持ち影響を受けていることもあり、すぐに意気投合したそうです。そして、ゴッホに南フランスのアルルへ移住するよう勧めたのもロートレックであるといわれています。 「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」のみどころ 約240点の作品が展示されているボリューム満点なロートレック展をより楽しむために、展示会の見どころを紹介していきます! 世界最大級の紙作品コレクションが日本初上陸 フィロス・コレクションは、ロートレックの紙作品コレクションとしては、パリの国立美術館であるルーヴル美術館、フランス南部のアルビにあるロートレック美術館に次ぐ規模を誇る作品群です。 そのフィロス・コレクションが日本に初上陸。 ポスター制作で有名なロートレックは、生涯で約30点のポスターを制作しており、そのうちの21点が、このロートレック展に出品されています! 素描とポスター作品がメインのため、油彩画が好きな方にとっては少し物足りなさを感じるかもしれません…。 しかし、ロートレックのポスター作品を一目見ておきたいと思っている方は、ぜひ展示会に足を運んでみてください!一部のポスターは写真撮影がOKのため、自宅に帰ってからも余韻に浸りたい方は、撮影スポットを逃さないようにしましょう。 簡易的なスケッチから完成品までさまざまな作品を展示 SOMPO美術館で開催中のロートレック展では、完成した作品だけではなく、何気ない簡単なスケッチまでも展示しています。 シンプルな素描を約45点も展示しており、仕事として制作を行う一面だけではなく、ロートレックが普段から絵や芸術にどのように向き合っているかを素描から想像してみるのもよいのではないでしょうか。 素描作品からは、ロートレックの素早い描線を間近に感じられ、線の魅力をより深く味わえます!素描は、版画とは異なり1点物の作品であり、そのような肉筆作品からロートレックがどのような光景を見ていたのかが感じ取れるのではないでしょうか。 また、作品だけではなくロートレックとその家族の写真や、晩年、知人や母親に宛てた手紙も公開されており、ロートレックという人物についてより理解を深めていける展示になっています。ロートレック展では、一つひとつの作品の魅力を堪能するだけではなく、ロートレックの真の姿を追求してみてください。 19世紀パリの歓楽街の雰囲気を堪能できる 1880年以降、パリのモンマルトル周辺には、カフェやコンセール、ダンスホールなどが立ち並び、大歓楽街として賑わいを見せていました。ロートレックはモンマルトルに住み、キャバレーやダンスホールに通いつめ、歓楽街の様子やそこで生きる人々を多く描いています。 劇場で活躍する歌手や芸人、歓楽街で働く娼婦たちの姿を描いたロートレックの作品を通して、当時の華やかなパリの雰囲気を味わえるのではないでしょうか? 有名なポスターだけではなく、豊富な関連資料も展示されており、かつてパリの街を彩ってきたさまざまな人々の姿が思い浮かぶだけではなく、展示物を通して人々がどのような時代でどのように過ごしていたのかが体感できます! 日本美術に影響を受けたであろう作品も鑑賞できる 立体感を重視するこれまでの西洋画とは正反対に、日本の伝統的な絵画「浮世絵」は、平塗りで立体感がない手法であるにもかかわらず絵そのものには、大きなインパクトがありました。 ポスター制作をしていたロートレックは、作品を際立たせる浮世絵の手法に強い衝撃を受け、技法や構図を参考にしたといわれています。ロートレック展で展示されている作品からも、浮世絵の影響を垣間見れるものがいくつかあります。 『エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて』 『エルドラド、アリスティド・ブリュアン、彼のキャバレにて』(1892年) リトグラフ/138.0×96.0cm こちらの作品は、アリスティド・ブリュアンが舞台『エルドラド』に出演する際にロートレックへ制作を依頼したポスターです。 この作品のブリュアンの表情には、浮世絵師「写楽」の描く歌舞伎役者の面影が見え隠れしているように見えないでしょうか?曲がった口元や誇張された表情などが、写楽の描く浮世絵に似ているように感じられます。 浮世絵の影響を受けていると想像して改めて見てみると、右手に持っている木の棒が刀にも見えてきますね! 『ディヴァン・ジャポネ』 『ディヴァン・ジャポネ』(1893年) リトグラフ/80.8×60.8cm この作品は、日本風の装飾が施された「ディヴァン・ジャポネ」の宣伝用ポスターで、ディヴァン・ジャポネとは「日本の長椅子」を意味しています。 大胆な構図や平面的な色彩は、日本の浮世絵から影響を受けているのではと感じさせてくれますね。 ポスターからお菓子までさまざまなジャンルのグッズを販売 展示会場を出るとグッズ売り場に移動します。 なお、展示会場を出てグッズ売り場に入ると、展示会場への再入場はできませんので「あの作品をもう一度見たい!」と思っている方は、うっかりグッズ売り場に移動しないようご注意ください。 上記のポスターがある通路の、グッズ売り場に入る手前のドアにも注意書きがありますので、見逃さないようにしましょう。 グッズ売り場では、さまざまなジャンルのロートレックグッズが販売されていました。お菓子、クリアファイル、グラス、マグネット、ブックマーカータオル、ポストカード、など。 ロートレック作品がデザインされた数々のグッズはどれも魅力的で、お気に入りのデザインが採用されているものを見つけるのも楽しみの一つですね!缶バッジやキーホルダーのガチャガチャも置いてありました。 また、複製技法の一つ、ジクレーにより制作された商品も販売されています。額縁に入れられ壁面に飾られており、展示会を見終わった人なら改めて鑑賞して見たくなってしまいます! 1点数万円以上と、ほかのグッズよりも少し高めの価格設定ですが、本物のポスター作品を飾っているような感覚が味わえるため、「印象に残り頭から離れない…!」という作品に出会った方は、購入を検討するのもよいですね。 関連企画:新宿のムーラン・ルージュー大衆劇場と美術 関連企画として「新宿のムーラン・ルージュー大衆劇場と美術」も開催されており、グッズ売り場奥にて、映像を上映しています。 日本におけるレビューなどの劇場文化と近代美術の交流、また新宿での展開について紹介されていますので、興味がある方は館内を後にする前に観賞してみましょう。 19世紀末のパリの劇場をイメージさせてくれる展示会 素描からロートレックの代名詞であるポスター作品、晩年の手紙まで、作品の素晴らしさだけではなく、芸術家ロートレックがどのような人物であるのかをイメージさせてくれる展示会でした! また、パリ・モンマルトルでのできごとを中心にたくさんの作品を鑑賞し、19世紀末に存在したパリの繁華街の情景をイメージさせてくれます。 素描作品が多いため、油彩画の展示会よりは落ち着いた雰囲気ですが、ロートレックという人物を深く理解したい方にはおすすめの展示会ではないでしょうか。ロートレック展は、9月23日(月)まで開催中です。 「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」開催情報(SOMPO美術館) 「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」 場所:SOMPO美術館 期間:2024年06月22日(土)~09月23日(月) 公式ページ:https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2023/lautrec/ チケット:当日券 一般 1800円 大学生 1200円 小中高校生 無料 障がい者手帳をお持ちの方 無料 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.16
- すべての記事
- 美術展・イベント
- 東京
-
ジョルジョ・デ・キリコ(1888年-1978年)画家・彫刻家[イタリア]
形而上絵画の創立者「ジョルジョ・デ・キリコ」とは 名前:ジョルジョ・デ・キリコ 生没年:1888年-1978年 ジョルジョ・デ・キリコは、イタリアの画家であり彫刻家で、形而上絵画を創立してのちのシュルレアリスムに大きな影響を与えました。 第一次世界大戦以後は、古典的な手法に興味をもち、新古典主義や新バロック形式を取り入れた作品を多く制作しています。 そのため、シュルレアリスムとして活躍していた画家からは、非難を受けることもあったそうです。 アテネで絵を学びドイツへ移住 キリコは、ギリシアのヴォロスにて、ジェノバ生まれの母とシチリア生まれの父との間に誕生しました。 父のエヴァリスト・デ・キリコは、鉄道の線路を敷く工事を指揮する技師でもありました。 1900年、キリコはアテネにてギリシャの画家であるジョルジオ・ロイロスやジョルジオ・ジャコビッヂのもとで美術を学び、1906年には両親とともにドイツに移り住み、ミュンヘンにある美術学校に入学します。 学校では、思想家であり古典文献学者であるフリードリヒ・ニーチェや、哲学者のアルトゥル・ショーペンハウアー、オーストリアのユダヤ系哲学者であるオットー・ヴァイニンガーなど、19世紀に活躍したドイツ哲学者たちや、アーノルド・ベックリン、マックス・キリンジャーなどの象徴主義の画家が描いた絵画から大きな影響を受けました。 精神的衰弱になりイタリアへ戻る 1909年の夏、キリコはイタリアへ戻り、イタリア北部に位置するミランで6か月のときを過ごします。 精神的衰弱状態であったキリコは、ニーチェの思想や、ギリシアやイタリアへのノスタルジア、啓示の幻覚などに悩まされながらも、何の変哲もない日常生活と並行して、神秘的かつ不条理な世界観を描いていきました。 1910年には、ミランを発ちフィレンツェに移り住み、ベックリンの作品をベースに最初の形而上絵画となる『Metaphysical Town Square』シリーズを制作。 シリーズの中では、キリコがサンタ・クローチェ聖堂で啓示を受けて描いたとされる『秋の午後の謎』や『時間の謎』、『神託の謎』、『自画像』が有名です。 トリノで形而上学の建築に衝撃を受ける 1911年、パリへ行く途中キリコは、イタリア北部に位置するピエモンテ州の首都であるトリノで数日間過ごします。 キリコは、形而上学と呼ばれるトリノの広場やアーチ状の建築に、大変衝撃を受け心動かされます。 また、トリノはキリコが敬愛するニーチェの故郷でもあったため、さまざまな思いを馳せたことでしょう。 パリに移住した後は、劇作家や作曲家として活動した弟のアンドレアと合流し、弟を通じてサロン・ドートンヌの審査員を務めていたピエール・ラプラドと出会います。 そして、キリコは『午後の謎』『神託の謎』『セルフ・ポートレイト』の3作品を出品しました。 1913年には、サロン・ド・インデペンデントやサロン・ドートンヌなどにも作品を出品し、これがきっかけでピカソやアポリネールがキリコに興味をもち、初めて作品が売れたのです。 1914年、キリコはアポリネールの紹介により画商のポール・ギョームと売買契約を交わしました。 形而上絵画を確立させる 第一次世界大戦が開戦すると、キリコはイタリアへ戻り徴兵されますが、体力不足と判断されフェラーラ病院に配属されました。 配属先の病院では、絵を描く時間が取れたため、空いた時間を使って絵画制作を続けていきました。 配属先では、かつて未来派と呼ばれていたイタリアの画家カルロ・カッラと出会い、2人は自分たちの絵を「形而上的」と呼ぶように。 形而上的とは、つじつまが合わない、納得がいかない、不思議な、などの意味として用いられており、一種の幻想画ともとれるでしょう。 形而上的な絵画には、不自然なほど誇張された遠近表現、非日常的で幻覚のような強い光と影のコントラスト、古代的なモチーフと現代的なモチーフの融合などの特徴があります。 また、現実ではありえないモチーフの組み合わせとすることから、シュルレアリスムの先駆けともなりました。 古典的な手法に回帰する 第一次世界大戦が終わり、1919年ごろにキリコは、イタリアとフランスで発行されている「ヴァローリ・プラスティチ」と呼ばれる美術誌に、「職人への回帰」という記事を出し、古典的な手法と図像学への回帰を発表しました。 キリコは、ラファエルやシニョレッリなどのイタリアの巨匠から影響を受け、古典的な手法により絵画制作を行うようになり、現代美術とは相対するものとなったのです。 1920年のはじめ、フランスの詩人であるアンドレ・ブルトンは、ある日バスに乗っているときに、パリのポール・ギョーム画廊に展示されていたキリコの『子どもの脳』が視界に入り、衝撃を受けて思わずバスを降りてしまったそうです。 また、ブルトンと同じ思想をもつ画家のイヴ・タンギーも、キリコの『子どもの脳』をバスの車窓から見かけてバスを降りてしまったといいます。 タンギーはじめ、キリコの作品に関心をもった多くの若き芸術家たちは、ブルトンを中心にグループを結成し、パリのシュルレアリスムを築き上げていきました。 1924年、キリコがパリを訪れるとシュルレアリスム派の芸術家たちに歓迎されますが、シュルレアリスム派は、1918年以前の形而上絵画を高く評価しており、1919年以降の古典回帰後の作品には批判的でした。 シュルレアリスム派の芸術家たちとは、うまく関係が築けず、パリで開催したキリコの個展で展示した新しい作品たちは、非難の的となってしまったのです。 自己模倣作品を販売し批判を受ける 1939年、ルーベンスの影響を受けていたキリコの作風は、ネオバロック形式に変化していきます。 さまざまな批評に対して怒りをあらわにしていたキリコ自身は、後期作品こそ成熟した素晴らしい作品だと感じていました。 しかし、形而上絵画以降の作品は、それ以上に高い評価を得られませんでした。 キリコは、形而上絵画により得た成功や利益を再び得ようと、過去に描いた自分の作品の模倣を制作し、販売したのです。 自己模倣作品の多くは、公共や民間のコレクションに入っていたため、キリコは非難を浴びることになりました。 1948年、ヴィネツィア・ビエンナーレに贋作を展示したとしてキリコは抗議を受けます。 キリコは、1910年代に描いた形而上絵画のレプリカをたくさん制作し、レプリカには実際の制作年とはずらした過去の年号を書き入れていたそうです。 キリコは頑固で気難しい性格だった? キリコは、頑固で気難しい性格であったといわれています。 「ゴーギャンは画家として偽物」「ダリの不快な色彩には吐き気がする」「セザンヌの風景画は稚拙」「マティスの絵はカタチにすらなっていない」など、同時代に活躍していた有名な芸術家を、痛烈に批判する言葉をいくつも残しているのです。 また、キリコはトラブルメーカーとしても知られています。 昔に描いた自分の作品を自ら否定し価値を下げさせたり、自分の描いた作品を贋作だと主張し、美術館から撤去するよう命じたりと、さまざまなトラブルを起こしていたようです。 独自の世界観にあふれる作品たち キリコ独自の世界観には、不思議な感覚があふれており、理解しようとするほど深い迷宮にはまってしまうような特徴があります。 作品に小さく人間や影が描かれることもありますが、基本的には無機物で構成されており、描かれた空間の静けさが伝わるのが特徴です。 『アリアドネ』は、恋人のテセウスによりナクソス島に捨てられたアリアドネの神話をモチーフに制作されており、当時パリにいたキリコの孤独感を反映しているといわれています。 『愛の歌』では、壁に巨大な彫刻の顔と外科医が使う手袋が貼り付けられ、画面の下側に緑色のボールが描かれています。 背景には蒸気機関車が走る様子が描かれており、関連性のないモチーフが組み合わさり、夢を見ているような感覚になる作品です。 キリコが生み出した形而上絵画とは 形而上絵画とは、空間や時間を意図的にずらして作品を構成する手法です。 キリコの描く作品では、画面の左右で異なる遠近法構造をもっている作品も多く、現実の空間を無視して描かれている背景が、独特で不思議な世界観を生み出しています。 また、彫刻やマネキンなどの異質な静物をモチーフにした作品が多いのも特徴です。 ゲームのパッケージデザインに影響を与えた作品も 1911年にキリコが描いた『無限の郷愁』は、ゲームのパッケージデザインにも影響を与えました。 この作品には、古代ギリシア風の建築物とイタリアでよく見られるモダンな都市が融合した不思議な景観が描かれており、コントラストの大きい影と光により郷愁を感じられます。 作品に描かれている大きな塔は、トリノにあった世界で一番高い博物館モーレ・アントネリアーナから着想を得ています。 塔の下の広場には小さな人と影が描かれており、時間が止まってしまっているかのような静けさを感じられる作品です。 この作品の構成を参考に、ゲームクリエイターの上田文人が制作したゲームのパッケージイラストもあります。 年表:ジョルジョ・デ・キリコ 西暦 満年齢 できごと 1888 0 ギリシャのヴォロスにイタリア人の両親のもとに誕生。 1900 12 アテネの理工科学校に通い、この頃最初の静物画を描く。 1905 17 父エヴァリストが死去。 1907 19 ドイツのミュンヘン美術アカデミーに入学。ニーチェやショーペンハウエルの思想に影響を受ける。 1910 22 フィレンツェに移住し、最初の形而上絵画を手がける。 1911 23 パリに移住。 1913 25 パリのアンデパンダン展で注目を浴び、アポリネールと親交を結ぶ。 1915 27 第一次世界大戦中にイタリア軍に召集され、フェッラーラに駐屯。 1917 29 フェッラーラでカルロ・カッラと知り合う。 1919 31 ローマで個展を開くが、美術史家ロベルト・ロンギに酷評される。ジョルジョ・モランディと知り合う。 1920 32 「形而上芸術について」、「技法への帰還」を出版。 1924 36 第14回ヴェネツィア・ビエンナーレに出品。 1926 38 パリへ移住し、シュルレアリストたちとの決別を表明。 1929 41 小説『エブドメロス』を出版。 1938 50 イタリアへ帰還し、ローマに短期滞在後ミラノへ移住。 1978 90 ローマで心臓発作のため没。
2024.08.13
- すべての記事
- 美術家・芸術家
- 世界の美術家・芸術家
-
東京都美術館 [東京都台東区]へ行ってみよう
日本初の公立美術館・東京都美術館 東京都美術館は、1926年に日本初の公立美術館として開館しました。 国内外の名作を楽しめる特別展や多彩な企画展、美術団体による公募展など、さまざまな展示を年間通して開催しており、その数はおよそ280にもおよびます。 また、東京都美術館は、4つの役割をもって展示会を開催しています。 1. 世界と日本の名品に出会えること 2. 伝統を重視し、新しい息吹との融合を促すこと 3. 人々の交流の場となり、新しい価値観を生み出すこと 4. 芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深めること 展示 日本に美術館でありながら、国内外問わずさまざまな作品を楽しめる特別展や公募展、自主企画展などを短い間隔でたくさん開催しています。 取り扱う作品の質が高いと評判も集めています。 また、院展や二科展、文展など大きな公募展の展覧会場になっている美術館です。 これらの展覧会の多くが秋に開催されることから、芸術の秋という言葉の由来になったともいわれています。 コレクション 東京都美術館の所蔵品は、一度1994年度に東京都現代美術館に移管されましたが、その後、2012年のリニューアルをきっかけに、再び一部が東京都美術館に移管されました。 現在、彫刻などの立体作品が13点、書作品が36点収蔵されています。 特徴/ここがオススメ 東京都美術館は、日本モダニズム建築の巨匠と呼ばれる前川國男の設計により作られています。 奇数月の第3土曜日には、一般から集まったアート・コミュニケータの話を聞き、質問をしながら、建物内を楽しく散策できる建築ツアーを開催しています。 東京都美術館には、野外彫刻作品がいくつも展示されており、無料で鑑賞できるのも見どころの一つです。 展示会だけではなく、入場する前から芸術に触れ感性を研ぎ澄ませ、お目当ての展覧会に向かうのもよいでしょう。 美術館情報 東京都美術館 住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36 GoogleMap:https://maps.app.goo.gl/b8UMnDP9eSxBdM6E7 アクセス:JR上野駅「公園改札」より徒歩7分 ほか 開館時間:火~日曜日 9:30~17:30(入場 16:30まで) 休館日:第1・第3月曜日(祝日の場合は翌平日) ※特別展・企画展:月曜日休室(祝日・振替休日の場合は翌日) ※最新の情報は公式サイトをご覧ください 料金:展示によって異なります 公式サイト:https://www.tobikan.jp/ 年間パスポート:記載なし 近隣の美術館 近隣のおでかけスポット 上野動物園 上野動物園 https://www.tokyo-zoo.net/zoo/ueno/ 東京都美術館の近くには、日本で最初にできた動物園である上野動物園があります。 子どもから大人まで大人気のジャイアントパンダをはじめ、約300種の動物が自然の環境に近い空間で飼育されています。 スターバックスコーヒー 上野恩賜公園店 スターバックスコーヒー 上野恩賜公園店 https://store.starbucks.co.jp/detail-1087/ 上野公園内、噴水近くの場所にスターバックスコーヒーがあります。 テラス席が多く、天気のよい日はテラスから公園の様子をのんびり眺めながらコーヒーやお菓子をいただくのもよいですね。 東京都美術館からも近いため、展示会の余韻が薄まらないうちに感想をまとめるのもおすすめです。 アメ横商店街 アメ横商店街 https://www.ameyoko.net/ JR上野駅を出てすぐの場所にあるにぎやかな繁華街アメ横。 高架下に400店ものお店が密集しており、多国籍化が進み独特の雰囲気を楽しめる通りです。 東京都立美術館のイベント・展示 開催中 終了 開催予定
2024.08.09
- すべての記事
- 美術館
- 東京
-
100点以上の作品が集結した大迫力のデ・キリコ展レポ!<東京都美術館(東京)>
形而上絵画「デ・キリコ展」 皆さんは、ジョルジョ・デ・キリコという画家を知っていますか? イタリアの画家・彫刻家であるデ・キリコは、形而上絵画を創始した人物でもあります。 画家の名前は知らなくてもこのポスターの絵を見たことがある人も多いのではないでしょうか。 また、デ・キリコの絵画は、なぜか胸がざわざわと不安になるような印象を受けるのは私だけでしょうか? インパクトの強い色合いでありながらどこか薄暗く、人気のない広場、長く伸びる影、表情のない無機質なマヌカン(マネキン)などは目を離せなくなるような不安を煽ってくる気がします。 今回は、そんな“どこかありえない”“何かが違う”違和感がざわざわと押し寄せるデ・キリコの世界観を体感できる「デ・キリコ展」に行ってきました! デ・キリコ展は、1926年、日本初の公立美術館として開館した東京都美術館にて開催中です! 2024年4月27日(土)〜8月29日(木)まで東京都美術館で開催したのち、9月14日(土)〜12月8日までは神戸市立博物館で開催しているため、関西地方お住まいで、都内まで観に行けるタイミングがない…と思っている方も安心です。 神戸で開催されるタイミングで、ぜひ鑑賞しに行きましょう! 東京都美術館がある上野公園周辺は、海外観光客で賑わっていました。 公園内で 絵を書いたり、見たこともない楽器で音楽を奏でていたり、さまざまなアーティストがパフォーマンスを行っていて、これから芸術に触れる人々の気持ちを高めてくれます! チケットは入り口を入って右側のチケットカウンターで販売されています。窓口でのチケット販売は、JCBカートが使えないため注意してください。 100点以上の作品が展示されているということで、気合を入れていざ入場します! なお、入口では音声ガイド機のレンタルを行っていました。 貸出料金は1台650円で、役者・ムロツヨシさんのナレーションによりデ・キリコの世界観により没入して楽しめますので、気になる方はぜひレンタルしてみましょう! 「デ・キリコ展」は5つのSectionで様式の異なる作品を展示 デ・キリコ展では、彼が生涯で制作した作品を、5つのSectionに分けて紹介していました。 入口すぐには、作家紹介や駐日イタリア大使ジャンルイジ・ベネデッティ、ジョルジョ・イーザ・デ・キリコ財団理事長パオロ・ピコッツァからのメッセージなどが展示されています。 デ・キリコ展では、代表作から個人のコレクター、諸財団、イタリア国内や他国の美術館から貸し出された作品を複数の時代に区分して展示しており、国境も世代も越える不朽の美しさがあると紹介されており、日伊の交流を深めるものになる作品展であるとしています。 section1:自画像・肖像画 デ・キリコといえば、形而上絵画を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか? しかし、制作数は少ないですが、自画像や肖像画も描いています。 展示会では9点の自画像・肖像画が展示されていました。その中でも、印象に残ったいくつかの作品を紹介していきます! 『自画像』(1922年頃) 『自画像』(1922年頃) 油彩/キャンバス/38.4×51.1cm/トレド美術館(アメリカ) デ・キリコが古典絵画に傾倒していたころに描かれた作品で、古典彫刻風なタッチが特徴的です。 自分自身を理想化した作品で、古代彫刻を学んだ過去の巨匠たちのように、歴史と対話して制作する画家としての自分を描いています。 この作品ともう2枚の肖像画が同じ壁面に等間隔で横並びに飾られていたのですが、どの角度から見ても、3つの自画像に見つめられているような、不思議な感覚がありました。 まるで絵画の中のキリコたちが、自分の展示会を見にきた私たちを見定めているみたいですね。 『17世紀の衣装をまとった公園での自画像』(1959年) 『17世紀の衣装をまとった公園での自画像』(1959年) 油彩/キャンバス/154×100cm/ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団(ローマ) この作品では、当時の前衛芸術家が排除した、衣装をまとったバロック的な肖像画が描かれています。 いびつな遠近法で、遠くの背景を極端に小さく描き、真ん中に描かれた自身を大きく強調しており、これは、形而上絵画から古典回帰したデ・キリコを批判してきたシュルレアリストをはじめとした 芸術家や批評家への挑戦状とも受け取れました。 この作品から、デ・キリコは、流行に飲み込まれず自分自身の感性と表現を大切にしていた画家であると感じられました。 上記の作品の隣には、1968年、ローマの自宅サロンで自画像の前に座るキリコの大きな写真も展示されています。芸術家や批評家に対する挑戦的な絵画の前に座るキリコは堂々たるもので、自画像のキリコと本人のその鋭い視線が、批判に負けず自分の信じる絵を描き続けた強さを物語っているように感じられました。 Section2:形而上絵画 Section2は、デ・キリコの代名詞「形而上絵画」の作品を存分に楽しめる空間になっていました。 初期の形而上絵画は、イタリアの広場に着想を得ている作品が多く、デ・キリコがミラノでみた大きな塔がいくつもの作品に登場しています。 『大きな塔』(1915年頃) 『大きな塔』(1915年頃) 油彩/キャンバス/81.5×36cm/個人蔵 この作品は、デ・キリコがパリに行く途中に訪れたトリノのモーレ・アントネッリアーナと呼ばれる巨大な塔に着想を得ています。 まっすぐにそびえたつその塔は、迫力があるのに影の差し方により、夕方や朝方の静けさを感じさせ、どこか哀愁のようなものがありました。 キリコの多くの作品は、人類が滅びさまざまな建築物だけが世界に取り残されてしまったかのような、近未来的なイメージと寂しさが混在したような雰囲気を感じさせてくれます。 この作品に描かれている塔は、ほかの作品にもたびたび登場しているので、展示会に行く際はチェックしてみてくださいね! 『バラ色の塔のあるイタリア広場』(1934年頃) 『バラ色の塔のあるイタリア広場』(1934年頃) 油彩/キャンバス/46.5×55cm/トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館 この作品は、初めて売れた『赤い塔のあるイタリア広場』を20年経ってデ・キリコ自身が再制作した作品です。 なぜ昔の作品をもう一度描いたのか気になりますよね。 この作品は、友人に頼まれて描いた作品とされています。構成は昔の作品と同じですが、技法は1930年代の色調や軽妙な筆さばきが用いられており、昔の作品を一度鑑賞してから見てみるのも良さそうですね。 『沈黙の像(アリアドネ)』(1913年) 『沈黙の像(アリアドネ)』(1913年) 油彩/キャンバス/99.5×125.5cm/ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館(デュッセルドルフ) アリアドネは、デ・キリコが好きな哲学者ニーチェの詩から着想を得たモチーフ。 手前に描かれているアリアドネが圧倒的な大きさで描かれており、後ろの塔がとても小さく描かれています。このころから、形而上的室内構図がより目立ってきたことが分かります。 Section2-2では、形而上的室内の作品が展示されています。 これまでイタリアの広場をモチーフにした作品を多く描いてきたデ・キリコですが、1914年、第一次世界大戦勃発後からは、モチーフが広場から室内に変化していきました。 2-2のはじめの方の壁に穴があり、ふと穴の向こうを覗いてみると2-1の『バラ色の塔のあるイタリア広場』が見え、まるで室内の窓からイタリアの広場を眺めているような感覚になれます。 展示会の空間全体を楽しみつつ、ここからは形而上的室内作品で印象に残ったものを紹介していきます。 『運命の神殿』(1914年) 『運命の神殿』(1914年) 油彩/キャンバス/フィラデルフィア美術館 このころのデ・キリコ作品は、遠近法が極端に破綻しており、空間の認識が難しい作品が多く制作されています。 この作品では、古文書から着想を得た古代文字と現代の速記符号が同じ絵の中に描かれており、古代性と現代性の融合を感じさせてくれます。 さまざまなモチーフが混在して描かれている作品が多く、まるでドラえもんの四次元ポケットに入り込んでしまったような感覚になります。 『「ダヴィデ」の手がある形而上的室内』(1966年) 『「ダヴィデ」の手がある形而上的室内』(1966年) 油彩/キャンバス/ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団(ローマ) 過去のモチーフを融合させた新形而上絵画作品です。 室内画のモチーフと、窓の外にはイタリア広場の建物や塔が見えます。 ほかの作品を一通り鑑賞した後にもう一度見てみると、デ・キリコがこれまで描いてきたモチーフがたくさん盛り込まれていることに気付けてより楽しめます! この作品で印象的な引用・複製・差し込みは、当時流行ったポップアートを取り入れているのです。 そして続くSection2-3では、マヌカン(マネキン)をモチーフにした作品が展示されています。 古典的な彫像とは違い、マヌカンには何もなく戸惑いや無力感のような印象をもちます。 『予言者』(1914年) 『予言者』(1914年) 油彩/キャンバス/ニューヨーク近代美術館 この作品は、マヌカンを描いた最初期の代表作です。 これまでの形而上絵画でモチーフとなった神殿やレンガ塀、彫像の影なども描かれ、イーゼル前で熟考するマヌカンは、自身と世界の観察者・予言者を重ねているそうです。 このマヌカンモチーフの作品は、よく目に焼き付けておきましょう! この作品を覚えておくと、展示会場を出てからもキリコの世界観をより楽しめます。 『南の歌』(1930年) 『南の歌』(1930年) 1925年以降、デ・キリコはシュルレアリスムと交流を深めるようになり、再び形而上絵画を描くようになりました。 この作品は、柔らかい質感や細かい筆致からルノワールの影響が見え隠れしています。 ほかの代表的なデ・キリコ作品と見比べてみると、筆致が大きく異なっているため、人から受ける影響がこんなにも絵画作品に反映されるのかと感心してしまいました。 さらに、デ・キリコ展では、絵画作品だけではなく彫刻作品も展示されています。 デ・キリコは、美しい彫刻は常に絵画的であると語っていたそうです。 彫刻の展示スペースでは、照明が上から当たっており、影も作品の一つとして鑑賞できる楽しさがありました。デ・キリコ展を見に行く際は、ぜひ作品のシルエットも鑑賞してみてください! Section3:1920年代の展開 Section3では、1920年代に制作された作品に焦点を当てて展示が行われていました。 『神秘的な考古学者たち(マヌカンあるいは昼と夜)』(1926年) 『神秘的な考古学者たち(マヌカンあるいは昼と夜)』(1926年) マヌカンの胴に、古代建築の要素が描かれているのが印象的な作品。また、座像の上半身を大きく描き、下半身を小さく描く手法で、荘厳さや威厳を表現しているそうです。 逆三角形の筋肉質な体型ですが、描かれているマヌカンには温かみがなく無機質で、不穏な空気を感じさせてくれます。 『谷間の家具』(1927年) 『谷間の家具』(1927年) デ・キリコが幼いころ過ごしたアテネでは、地震があると家具を外に持ち出していました。 この作品は、そのときの様子から着想を得ている作品。 通常とは異なる空間にモチーフを配置し違和感を与えるデ・キリコ特有のスタイルが前面に表れており、受け取る側に不安感を抱かせ、途方に暮れさせようとしているかのようで、胸をざわつかせてくれるこの感覚に魅力的を感じました。 Section4:伝統的な絵画への回帰 ボルゲーゼ美術館でみたティツィアーノの絵に感化されたデ・キリコは、伝統的な絵画へ回帰した作品も多く制作しています。 『鎧とスイカ』(1924年) 『鎧とスイカ』(1924年) 武具と果物と、同じ空間にあることに違和感のある2つのモチーフを組み合わせた作品です。 バロック絵画を彷彿とさせるスタイルで、無時間性を見いだしています。 武具とスイカが転がっている様子は退廃的ですが、その一方で、空の色が優しく温かみのある印象も受けました。 夕焼けのような朝焼けのような雰囲気があり、戦いが終わったあとの静けさがより一層際立って感じられました。 割れて転がっているスイカは、背景に描かれた首のない彫像の頭部なのかな?とも想像させられてしまいます。 デ・キリコは、舞台美術も手がけており、この経験が絵画の舞台構成にも影響を与えました。 ロシアのバレエ団、バレエ・リュスのバレエ作品『プルチネッラ』の衣装を手がけています。 衣装の展示スペースでは、バレエの舞台をイメージした空間が組み立てられており、展示スペースに段差をつけて舞台に見立てて、壇上にはデ・キリコが手がけた衣装を着たマネキンが飾られていました。 舞台の両脇には赤色のカーテンが架けられており、バレエの舞台を彷彿させるような工夫が凝らされていて、バレエ大国ロシアの力強い動きの中に華やかさのあるバレエの舞台を想像させてくれる演出が印象的でした。 Section5:新形而上絵画 Section5では、記憶の中にあるモチーフを解体し組み立て再構成していく新形而上絵画作品が展示されています。 『城への帰還』(1969年) 『城への帰還』(1969年) 過去作品の要素を再発見し、生き生きと作り替えていった作品です。 ジグザグな騎士の黒い影が印象的で、その姿はまるで勝ち目のない戦いへ赴くようでした。黒く塗りつぶす表現方法により、まるで影絵を鑑賞しているような感覚も味わえました。騎士が黒いだけではなく、全体的に色彩を使わずモノトーンで描かれているため、木炭画のような印象も受けます。 黄色く輝く三日月の明かりがより一層、影の騎士の寂しさを強調しているように感じられました。 『闘技場の剣闘士』(1975年) ラストを飾るこの作品は、壁面がアーチ状にくり抜かれ、大きな額縁に見立てて飾られているのが印象的でした。 キリコがよく描いていたアーチ状のモチーフと剣闘士の絵をラストに持ってきたのは、生涯自分の芸術を貫き、批判をものともせず戦い、描き続けてきたキリコ自身を表現しているかのようでした。 「デ・キリコ展」のみどころ 東京都美術館で開催されているデ・キリコ展はみどころが満載です! 作品数が多く満足感があるのはもちろん、展示方法にも工夫が凝らされているため、デ・キリコの世界観に入り込んで鑑賞を楽しめます。 デ・キリコが見ていた景色を楽しめる デ・キリコ展は、美術史家のファビオ・ベンツィが監修しています。 展示会場は、デ・キリコのもつ世界観と作品をより一層引き立たせる空間になっており、まるで自分自身がデ・キリコになったかのような目線で作品を楽しめます。 入口を入ってすぐからキリコがよく描いているアーチ状に開いている空間があり、そこから奥の絵画が鑑賞できるようになっており、窓の外からデ・キリコのアトリエを覗き込んでいるような気分を味わえました! 彼が描き続けたアーチ状のアーケードから、デ・キリコが数々の作品を生み出したこの部屋を覗き見できる不思議な体験は、彼の創作意欲を垣間見ることができると同時に、私自身もデ・キリコの絵画の世界へ迷いこんでしまうような錯覚を覚えるほどです。 それぞれのSectionごとに壁紙の色や額縁のデザインが異なっていたり、壁の高さが異なっていたりと、形而上絵画を思わせるいびつな空間が展示場全体に広がっていました! 形而上絵画スペースでは、展示室の後ろにベンチがおいてあり、遠くから見るとより絵画が歪んで見え、デ・キリコが制作するときにイメージしていた世界観をより体感できるのではないでしょうか。 デ・キリコ展はボリューム満点のため、休憩がてらベンチに座り、違う角度から作品を鑑賞してみるのもおすすめです! 初期から晩年まで100点以上の作品が展示 デ・キリコ展では、初期から描き続けた自画像や肖像画、デ・キリコを有名にした形而上絵画、西洋絵画の伝統的なスタイルに回帰した作品、そして晩年再度描き始めた新形而上絵画など、デ・キリコの生涯を辿るかのように作品を楽しめるのが醍醐味です! 世界各国の美術館や博物館、財団、個人のコレクションまで、あらゆる場所から集まった100点以上の作品を鑑賞できる大迫力の大回顧展です。 デ・キリコの代名詞「形而上絵画」が充実 デ・キリコ展では、初期の形而上絵画も多く展示されています。 サルバドール・ダリやルネ・マグリットなどをはじめとした、のちに活躍をおさめた多くの画家に衝撃を与えた1910年代の形而上絵画もじっくり鑑賞できます。 作品数が多いため、時代の移り変わりによって形而上絵画がどのように変化していったのかも楽しめますね! 普段は、世界各国で所蔵されている初期作品が一堂に集結する機会はなかなかありません。初期作品をまとめて間近に鑑賞できる貴重な機会をぜひ逃さず、デ・キリコ展に訪れてみてください。 彫刻や舞台芸術など絵画以外の作品も充実 形而上絵画で名を広めたデ・キリコは、絵画以外にも彫刻や舞台芸術など、さまざまな創作活動を行っていました。 デ・キリコ展では、デ・キリコが手がけた希少な彫刻作品や挿絵、さらには舞台衣装のデザインなども展示しています。 有名な形而上絵画作品を多数鑑賞できる貴重な機会であるとともに、デ・キリコのあらゆる創作活動を通して、新たな魅力に気づける機会になるかもしれません! 豊富に取り揃えられた数々のグッズもチェック 100点以上のボリュームある作品をすべて見終わった後は、デ・キリコにちなんだグッズ販売所も楽しみましょう! 今回のデ・キリコ展で展示されていた油彩や版画、彫刻、舞台衣装など100点以上の作品をフルカラーで掲載した「デ・キリコ展公式図録」が税込3000円で販売されています。 デ・キリコ展をじっくり鑑賞し、魅力に惹きつけられた人は思わず購入したくなるでしょう。 表紙は、オレンジベースの『形而上的なミューズたち』、ブラックベースの『予言者』の2パターンがあるため、今回の展示で気に入ったほうのデザインを選ぶのも良いですね。 そのほかにも、グラスやトートバッグ、イタリア菓子専門店のラトリエ モトゾーのパティシエが作るお菓子など、展覧会オリジナルのグッズが販売されています。 展示されていた絵画のポストカードやポスターも販売されており、写真フレームや額縁にいれて飾ってあるのが印象的でした。 自宅に飾る際も、写真フレームがあると飾りやすく、いつでも作品に触れることができます。 LINE登録とアンケートへの回答でミニチュアキャンバスが当たるかも? グッズ販売所を出ると、LINE登録&アンケートへの回答で展示会オリジナルミニチュアキャンバスが抽選で当たるイベントを行っていました。 筆者も余韻が残る中、アンケートに回答して、ミニチュアキャンバスが当たらないかとワクワクしています! グッズ販売所の出口にある看板のQRコードを読み取ってLINE登録し、アンケートに回答するだけなので、デ・キリコ展を楽しんだあとはぜひ回答しましょう。 観賞の思い出に…フォトスポットで記念の1枚を 企画展を出る前、長い廊下の先にはデ・キリコ展のフォトスポットが! デ・キリコの代表作『予言者』の大きなポスターチックのフォトスポットがあり、最後まで入館者を楽しませてくれます。 このフォトスポット、正面からだと平面に見えますが、角度を変えてみてみると、実はモチーフのマヌカンが立体的に! 細部まで工夫が凝らされているデ・キリコ展。 デ・キリコの初期から晩年までの作品がこうして見られるのは、実はかなり貴重な機会なのだとか。 有名な作品はもちろん、それ以外にもさまざまなテイストの作品を順にみていくと、彼もまた何かを模索し追い求め続けていたように感じます。 宗教画など美しいものを描いてきた中世までの絵画とは一線を画す、個性的で何かを訴えかけてきているような彼の作品の数々。伝統的な手法を学びながらも、独自のスタイルや新しい可能性を模索してきたような変化と進化が、彼の絵が多くの人を惹きつけている理由の一つなのかもしれません。 アンバランスな体と足、生きているようなそうでないようなマヌカン、妙にリアルなのに現実感のない構図…。 最初に感じた胸のざわざわの原因がうっすら見えてきた気はしますが、間近で作品を見たことで、深淵にはまってしまったかのような気もしています。 目のないはずのマヌカンに、何かを見透かされているような、あるいは何かを訴えかけられているような、そんな気配を感じながら、謎や疑問を残しつつも会場をあとにしたのでした。 没入感のある展示会を楽しんだら公園内で余韻に浸ろう 東京都美術館は、上野公園内に位置しているため、展示会鑑賞後は上野公園を散歩しながら印象に残った作品を振り返ってみるのもよし、公園内のカフェで展示会を見て感じた気持ちをメモに残しておくのも良いですね! 東京都美術館の近くには、スターバックスがあります。 広々とした公園内にあるこのスターバックスは店内もスペースが広く、天気の良い日はパラソルのあるテラス席で外の空気を浴びながらくつろぐのも気持ちがよいですね。 店舗情報 スターバックス 上野恩賜公園店 https://store.starbucks.co.jp/detail-1087/ 「デ・キリコ展」開催情報(東京都美術館) 「デ・キリコ展」 場所:東京都美術館 期間:2024/04/27〜2024/08/29 公式ページ:https://dechirico.exhibit.jp/ チケット:一般 2200円 、大学生・専門学校生 1300円、65歳以上 1500円 ※詳細情報や最新情報は公式ページよりご確認ください
2024.08.09
- すべての記事
- 美術展・イベント
- 東京